● 「おにはーそとー!」 「ふくはーそとー!」 「ちがうよー、ふくはうちじゃないとだめでしょー!」 「うるせーかってだろー!」 「ちょっとー、まじめにやりなさいよー!」 ──わいわい、がやがやと。賑やかだ。 公園の一角に集まり豆を巻いている園児達を眺め、引率の先生は頬をほころばせる。 普段ならもっと無秩序と混沌とを具現化したらこんなかんじになるんじゃないだろうかという様相を見せているはずの園児達の興味と意識は、今は豆を投げて撒き散らす行為と、意味もわからず唱えるおまじないに集中しているらしい。ちょっとした言い合いにはなっても喧嘩までにならず、集団から離れてはぐれてしまいそうな子もいない。 園長が節分の豆まきを幼稚園の外でやると言い出した時は少し不安だったが、問題はなさそうだ。 ――先生がそう考え、夕食を何にしようかと冷蔵庫の中を思い浮かべた矢先のことだ。 「ぽぽ」 「トリさんだー」 「あれはハトっていうんだよー」 「なにいってんの? トリはトリだろ」 「ハトだもんー!」 「くるっぽー」 「ぐぐ」 「ぽっぽー」 「トリがまめたべてるー」 「おいしい? おいしい?」 「どんどんきた! トリさんいっぱいきたー」 「くるっぽー」 「くっぽー」 「ぽっぽー」 「ぐーぐぽっぽぽー」 「ぐぐ、ぐぐ」 「ぽっぽー」 「ぽっぽー」 「ぐーぐぽっぽぽー」 「ぽーぽー」 「ぽっぽぽー」 「ぽっぽー」 「ぽっぽー」「ぽっぽー」 「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」 「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」 「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」 「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」 「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」「ぽっぽー」 「ぽっぽー」 ● 「――と、言うこと」 「待って意味わからない。」 思わずツッコミを入れたリベリスタに、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が首を傾げ、ああ、と納得したような声を上げて首の角度を戻した。 「豆まきをしていた子どもたちが、凶暴な鳩の群に襲われて酷い目に合う。止めて来て」 「酷い目?」 「柔らかいところから順に食べられる。結構酷い目にあうことになるんだけど、見る?」 いらない、と首を振ったリベリスタに、そう、と呟いてイヴは手にしたリモコンを机においた。 やはりエリューション・ビースト。革醒した存在の危険性は甘く見れないのだ。 しかもこれだけの数。激戦が予想される―― 「あ、この鳩達はE・ビーストじゃなくてただの鳩だから。殺さないであげてね」 がたたっ。 数人のリベリスタが机に突っ伏したり、すっ転んだりした。 「正確には、殆どの鳩は普通の鳩。ただ5羽だけ、E・ビーストが混ざってるの」 イヴの言葉に納得し、こけたリベリスタたちが体を起こして座り直す。 「つまりその5羽が鳩達を凶暴化させてるのか」 「ううん、この鳩達が凶暴なのは前から」 がたたがたっっ。 ノリの良いリベリスタが再びすっころんだ。 「もちろん、もとより凶暴化はされてるけど。 5羽のE・ビーストがした事は。凶暴なこの鳩達を指揮して、本来の縄張りじゃないこの公園に連れて来た事。と言うか、より正確には各地を点々として、その土地ごとの鳩を少しずつ群に取り込んでいる」 「勢力を拡大してるのか……」 ようやく飲み込めた一人が呟いた言葉に、イヴは静かに頷く。 「そう。この5羽は鳩にしては高い知能を得ている。どうやら強い野望を抱いてる様子」 「野望?」 鸚鵡返しの質問に、イヴの返事は端的だった。 「そう、世界制服」 うわあ。 ブリーフィングルームをちょっと微妙な沈黙が支配した。 「ともかく。 小さいけれど目印もあるから、群の中からなんとかこの5羽を探し出して、目立たないように倒して。 倒したら、集められた鳩達は……その場に残っちゃうけど。その内自然に散ると思う」 「地味に難しく無いか、それ」 「うん。でも、お願い」 あっさり肯定した上に正面から目を合わせてお願いしてきやがった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月19日(火)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ぐっぐるぽぽー、ぽっぽるんがー、ぐるぽっぽるっぽー」 (昼の公園に、エリューションとリベリスタ……勝負でしょう) 「ぽぽぽ、ぐーぐぽぽ、ぐー」 (鳩か。奴らは首が180度後ろに回る生物……その眼はガラス玉のよう) 公園で『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)がどこかのナメクジ星人っぽく格闘家のようなことを呟いたかと思えば、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)も瞑目し、『鳩』について思いを馳せる。 ――偽鳩語で。つまり適当にぐぐぽぽ。 「ぐるぐる……ぽっぽー!」 (通じずとも魂だけは傍にあるという意思表示だ。 エリューションを殲滅するまでは、鳩語で会話する――それが仲間や他人間であったとしてもだ!) マジですか優希さん。あ、この眼は本気だ。本気と書いてマジだ。 「ぐっぽぽー!」 力強く同意を返した生佐目と優希は、頷き合うと上げた右手をがっしりと握り合った。待って今あなたたちどうやって意思疎通したの。 今日集まったリベリスタの中でひとり、鳩達と意思疎通できるよう準備してきた『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)だが――今日の彼女はいつもとちょっと気合が違う。 「ふっふっふ、新入りのとよちゃんがいるからね、無様な所見せられないの。 先輩らしく、鮮やかーにこなしてみせるの」 「ぽっぽー、です。悪い鳩さんを退治しにいきます」 結界のためにさっきまで広げていた分厚い魔術書をランドセルのように背負った巴 とよ(BNE004221)が、その上から雨合羽を羽織ると――なぜか走り出した。 「あっ、とよちゃん?」 ルーメリアの視線の先で、ばたたたた! と豪快な音が鳴る。 鳩、300羽くらい。一斉に飛んだ。 空を埋めて舞う鳩、鳩、鳩。ぐるりと公園上を一周回ると、三々五々と地に降り立ち始める。 「あ、そうだ」 一瞬、呆然とそれを見上げ――体内魔力の活性、増幅。鳩が相手とはいえ、手を抜かないとよちゃん(11才)なのである。 結界を二重展開する必要はないだろうと『ゼノンパラドックス』新谷 優衣(BNE004274)が幻想纏いを確認する。今回は基本的に使うつもりのない武具を収めたそれを見ながら、少し残念そうに首を振った。 「柔らかいところから順に食べられるところ、ちょっと見て見たかったきもしますけど……」 えっ。 「いけませんよね、何の罪もない子供たちをそんな目に合わせるわけにはいきませんもんね、がんばって退治しちゃいましょう!」 そ、そうですね、がんばっちゃいましょう。 「……この鳩さん達のなかからエリューション化してる鳩さんを探すんですよね、なんていうか改めて見るとすごい数ですね300羽って、こんなに沢山の鳩さんに柔らかいところから順に突かれるのってやっぱり痛いんですよね……私のことも突いてくれないですかね。 そんな経験はないですからどんな快か……いえ、痛さなのかちょっと気になります」 両手で少し上気した頬を抑えてどこかうっとりした表情を浮かべ、加虐から被虐へと思考を移らせる優衣。うん、あれだ。サド公爵とかマゾッホ伯爵とかよく名前が上がるがお二方とも代表的なのと反対のあれもあれしてあれなさったというからまあそんなもんなのかもしれない。 ――BNEは全年齢です。 ● 一度咳払いをして、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は考えこむ。 こっちに向かって走っていたランニング姿の男性が、無意識にか別の道に進路を取る。結界の作用で「今日はなんとなくあっちを走ろう」という気分にでもなってくれたのだろうが――ベンチの老婆はゆっくり立ち上がり、歩き始めたが立ち去るには時間がかかりそうだ。 (この公園には一般市民が多数存在している。しかも10分後には園児の集団が到着してしまう……) 「彼らの安全が最優先かつ、速攻が至上命題だな」 頷きながら口にしたそれは、結論ではなく確認。 ベルカはコンビニのビニール袋を手に、未だ半数近くが空を舞う鳩を見た。 「ふっ、鳩か。世界を己が好みの制服に染め上げんとするその志は、すでに猛禽と言っても良いだろう」 なるほど。世界征服だけに世界の制服を統一するんですね、っておい。とか思ったら実はイヴの発言の時点から制服だった。なんてこった。 「おっおー。あちき今回まったく何もできんかもだお?」 こちらも雨合羽スタイルの『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)が、依代を手にして念を込める。それは式神となり、ガッツリに似た姿をとった。1m足らずといえば、4歳児になるかならないかくらいだろうか。人の姿が一つ増えたことに、例のおばあちゃんが一瞬不思議そうな顔を浮かべたが――ガッツリと見比べ、お子さんだろうと納得したようだった。 「ぷちがっちゅりんゴー! これであちきの視界は単純計算で2倍!」 幻想殺しも持っているのだ。これで見つからないはずがない。事実、有象無象の鳩の中から、式神はあっという間に、魔王鳩の証たる冠を見つけた。 奴に近づくまでに邪魔な鳩をうちのめすべく、新調したウィップを両手で構える。これを使えば麻痺を与えつつダメージは与えないからスプラッタにもならない! ……そんなふうに考えていた時期があちきにもあったんだお。 「ぽぽぽ、ぐぐー」 (クックック……! 鳩は石垣と言うではないか、人よ。――配下共! その身を持って我を守れい!) 後から訳した限り、そんなことを魔王鳩は言ったらしい。 ぴしりとウィップが鳴るたびに、一羽の普通鳩が倒れる。 鳩、あばうと300羽。 「きりがねぇお!」 全ての鳩が、ガッツリに目を向ける。 そして手近な輩から、ガッツリの足をつっつきはじめた! 「ぽぽぽ」「ぽおぽお」「いだ」「ぽっぽー」「ぽー」「ぐーぐー」「痛!?」「ぽ」「ぐぐ」「ぽっぽ」「ぽぽぽっ」 「ぐーぽ」「ぐぽぽ」「ちょっ、これ結構痛いんだお!?」「ぽっ」「ぽーぽ」「ぐー」「ぽぐー」「ぐぽぽっぽっ」 痛いようで痛くない少し痛いくちばし。 リベリスタからすれば足の小指をドアにぶつけた痛み程度のものだが、それが間断ない。 さっきのおばあちゃんがアラアラ大変そうねえ、なんてのんきな顔で見ている。軽微な被害状況のために、おばあちゃんからすれば豆を足元にばらまいてしまった程度に見えているのかもしれない。 「む、同志ガッツリが危険だ! ええい、貴様らに教えてやる! 真の肉食系と言う物をな!」 吠えたベルカが、ビニール袋から取り出した物を鳩の群れに投げつけた。 放物線を描きばらばらと飛び散る――豆。 「私の得手は後方支援だが、動物に群がられる事にも自信があるぞ!」 投げつけられた豆をあっという間に食い荒らした凶暴な鳩共は、一斉にその興味をベルカに向ける。 「豆を持たせれば鳩が寄り、せんべいを振れば鹿が寄る! しまいには何かを投げる動作を見せるだけで突っ走って来る始末! 奈良の鹿はお辞儀してくれたけど……つまり、その時の体験を思い出すのだ!」 ベルカの記憶に蘇る、煎餅ほしさに張り子の虎そっくりな様子で首を振る奈良公園の鹿。 「動物を上手く引き寄せ、思う所へ誘導する……! そう、『豆まきが好き過ぎる人』を装って、迅速に豆をまくぞ! うおおっ、鬼はそとー! 福もそとー!」 ビニール袋から掴んでは投げ、掴んでは投げと、豆を投げまくるベルカ。恥と外聞は置いてきた、ハッキリ言ってこの戦いにはついてこれそうもない。 「ぽっぽっぽーはとぽっぽー? まーめがほしぃーんかそれくらええええー!」 状況を理解すれば、ルーメリアの行動も早かった。こちらも用意してきた豆を投げ散らす。 「ふはは、正にマメ鉄砲くらったような顔をしておるわ! このルメ様が一息に蹴散らしてくれるわー!」 見事に食いつく鳩達に笑いが止まらないルーメリア。 しかし次の瞬間! 「うわああああー!? い、いたたたたいたいいたい! なにこれ、すごくいたい! この鳩達は嘴を砥石か何かで研いでるの!? 予想以上に突き刺さるほど痛い!」 「あぁ痛い、痛いです、もっと激しくしてくださいっ!」 何故かその横で優衣もつつかれていたりする。これにはルーメリアも苦笑い――とはいかず。 「ル、ルメがひきつけてる間にエリューション鳩さん探してー!」 「……はっ、すみません、はしたないところをお見せしてしまいました」 「――ちがう、あの子もちがう……なんか間違いさがしみたい」 ルーメリアとベルカが別方向へと動いたことで、鳩達の一羽一羽が少し判別しやすくなった。しょうきにもどった優衣と、とよが急いで鳩達にマントや冠を探す。 「ぐぐー、ぽっぽー、ぽぽぽぽ、ぽっぽぽー」 (餌に群がるその姿は可愛いと思う者、恐怖を覚える者人其々……。 ただ一つ言えることは、鳩であろうと人間を喰うのは許されん) きりりと引き締めた表情で、鳩達を踏みつぶさぬように気をつけながら探しまわる優希も、ぐぐぽぽ言うのはともかく真剣である。 その横で。なんだか急にゴソゴソと設営を始めた生佐目がいる。 【BGM:おもちゃの兵隊の観兵式】 ・用意するもの 豆(大量)、胡麻油、パン粉、玉子、塩コショウ アルミのバット(広め)、業務用の寸胴鍋、業務用ガスコンロ 「ぐっぽるぐっぽぽー、ぐっぽぽー、ぐぽぐぽ」 (まずはとき卵をつくり、アルミのバットに、塩コショウ、とき卵、パン粉をひきます。 寸胴の八分目まで胡麻油を注ぎ、加熱。バットと寸胴を並べます。 そっちの端から順に、塩コショウ、とき卵、パン粉、最後に寸胴) 生佐目はきょろきょろと周囲を見回し、ルーメリアに合図を送る。それに気がついたルーメリアは、事前に渡されていた紙を広げて、鳩達に通じるように読み上げた。 「えーっと……『我こそはと思う者は、我が用意した試練を受けるがよい、拒む事は認めるが、臆病者の誹りを認めたと我が認識に刻印すると同義と知れ』。え、これ、続けるの?」 おもわず足を止めて確認を取ろうとしたルーメリアだが、その前に生佐目の幻想纏いが通信を受けたことを知らせてきた。発信者:真白イヴ。 『――そこまで。それ続けると、普通の鳩がいっぱい飛び込んじゃうって予知が出てる』 「ぐぽ!?」 その様子に、何か色々と察したルーメリアがちょっとほっとした表情を浮かべた。 紙には『この粉や液体を、並べられた順にその身に浴びよ、耐えられたのならばこの鍋に身を投げいれるがよい』と、記されている――注文は多くないが、直球である。 ● 「見つけた、あれです!」 とよの指さした先にいたのは、確かにマントを身につけた鳩だった。 その色を見て、ベルカが気炎を上げて走り寄った。 「私の狙いは茶色のマントがまぶしいアイツ……そう、地将鳩! 貴様だ!」 「ぐぐ」 (きさんのような犬、おいどんの、土の加護を受けた鉄壁の護りの前には無力たい!) にやりと鳩胸をそらしてみせる鳩にベルカは怯むことなく続ける。 「敵チームの防御の要とお見受けした。 つまり、おはんを落とせば必然的に全体の攻略が早まるって事ですたい!」 ベルカの推論は、今回まったく当て推量である。 実際、地将鳩の言う土の加護とか、正直言ってあるのかどうかも怪しい。多分ノリと勢いだ。 「うおおおっ、地将鳩と耐久力比べをしてくれるわー!」 涎を垂らしながら飛びかかろうとしたベルカの、真横を術式がすり抜けた。四条ほど。 「へ?」 「当たった?」 目を丸くしたベルカの後ろから、グリモアールの魔曲・四重奏を確認しながらとよが声をかける。 「――うむ。当たったぞ、同志巴」 気を取り直したベルカがとよの頭に、ぽふと手を(雨合羽越しに)置いた。 「ぐぽぽぽ……」 (ふふふ……地将など、私(わたくし)たち四天王鳩の中で一番の小者……!) 「あちきのことを忘れてもらっちゃ困るんだお」 鳩語で高笑いをあげた青のマントの氷帝鳩が、ぴしーん! という派手な音と同時に転がった。驚きすぎて、麻痺するどころか気を失ってしまったのだ。繊細担当だったらしい。 目を覚ます前にと、ぷちがっちゅりんが氷帝鳩をワイヤーで縛り上げていく。 「うぅ……ルメの柔肌が美味しく頂かれる所だったの……」 「そっちに行ったお!」 その声に、ようやく鳩から開放されたルーメリアが慌てて顔を上げれば。 首を振って走る緑のマントの鳩と、おもいっきり目があった。 「風妃鳩……! さぁー、我こそ四天王の中で最強と思うなら、かかってくるがいいの!」 『妾を地将、氷帝と同じと思わぬことじゃな、娘。妾の鎌鼬で、その首泣き別れにしてくれようぞ!』 言うなり、鳩がばさりと飛びたって一直線にルーメリアの首を目指して突っ込んだ! ――しかして、それはルーメリアの挑発に乗せられたものと、風妃は気付かなかった。 バッティングの要領でフルスイングされたクロスは、鳩を真芯で捉えた。 「いったー! これはホームランなのー!」 はしゃぐルーメリアの声は、凍りついた鳩にはもう聞こえない。 優希は、赤いマントの鳩に、掌に浮かび上がらせた炎――業炎撃を見せつける。 「ぽっぽ……くるーぽっぽ。ぽぽぽぽぽ?」 (これが俺のバーニングファイアーである。貴様の熱き炎を見せてみよ) 「ぽぽぽぽ! ぽぽーっ!」 (ええい貴様、何を言っているかわからん! だが、俺様の敵だということは、よくわかった!) 激情に駆られた鳩が、優希の顔の側を猛スピードで飛び、その頬を翼で打ち据えた。 「……ぽっぽ! ぐるぽっぽー!」 (良い羽捌きだ。だが! 負けるわけには行かんのだ!) 優希の拳が真っ赤に燃えた。 「ぽぽぽ……ぐー」 (地獄で待つ……戦士よ!) 炎王鳩の体がぼとりと地に落ちる。 「ぽぽっ……ぽっぽーぽぽっぽー」 (貴様の熱き魂の輝きは見せて貰った。生まれ変われど炎属性を捨てるでないぞ) ● 「あとは、魔王鳩……!」 優衣が時計を確認する。あと3分。 時間にこそ余裕はあるが――鳩達は四天王の敗北を知り、今や一箇所に固まっていた。 この鳩玉を一気になぎ払ってしまえば、と思ったリベリスタがいないでもなかったが――それでは魔王鳩は己を配下に庇わせるだけだろう。 いったいどうすれば、と。リベリスタたちが悩み始めた、その時だった。 「おいこら平和の使者とか呼ばれたり神の化身だったり絶望と銀河を超えたりしやがって手羽先もぐぞこら」 ――真打である。 『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が、じーっと鳩玉を見据えていた。 ものすごく、すわった目で。 「ハトども! 貴様らは何をしてきた! 何をされてきた! 公園や駅前で人間に媚を売って糧を得る日々……辛かったやもしれぬ……しかし、ぽっぽぽーって鳴いてれば気ままに生きられるお前たちにどこまで想像がつくかはわからぬが、我々鶏たちの過ごす日々は楽なものではないぞ……」 比翼子の演説に、何かわからないままに気圧される鳩達。 丸い目を更に丸くしているようにも見えるのはどういうことか。 「殻を破り生まれた時には機械の中……周りには同じように生まれたばかりのひよこばかり……」 あたしのことではない、と小さく付け足して、比翼子は言葉を続ける。 「親鳥になど生涯会うことはない。 間もおかず自分より遥かに大きな生き物に捕まれ無理矢理性別を見られ……ぐすっ」 何故か涙ぐみ、声を震わせる比翼子に何があったのか――感受性が豊かなのだ、ということにしておいたほうがきっとみんながしあわせになれる気がするんだ。 「その後は育つまで檻の中……。 育った後に産む機械になるかからあげになるかは品種次第だが……自由などない」 黄色い羽根に覆われた手――むしろ羽そのもののそれ。無造作に、追い払うようにその手を振れば、幾らかの鳩はついに尾羽を巻いて逃げ出し始めたではないか。 「人間が悪いとは言わん……人間がいなければ鶏は一年とかからず猫に絶滅させられるだろう……あたしは人を超える力を得てもなお、憎いであろう人に紛れ今も生きている元鶏を1羽知っている……」 それでもまだ足りぬと、比翼子は言葉を重ねる。 「わかるか! 人に養われている分際で世界征服などと囀る貴様らは! ちょっと見た目よくて飛べる程度のくせに! 一年10億羽食べられている全ての鶏に頭が高いんだよ!」 むんず! と。 比翼子が足を鳩玉に突き入れ、無造作に掴みあげたそれは――王冠に、オッドアイ。魔王鳩だ! 「ひよこ!」 魔王鳩を掴んだまま、その脚力を最大限に生かし、高く、高く跳ぶ。 「デイ……!」 思わず見上げたほかのリベリスタたちにも、太陽を背負った比翼子の顔はよく見えず――ただ輝きが、羽を透かした陽光が黄金色に輝くばかり。 「ブレーーーーーーイク!!!!」 その声も高らかに、空中で離した魔王鳩を、踏み潰すかのように地に叩きつける――! 強 制 土 下 寝 !! ● 『よくきた勇者よ。余が王の中の王、魔王だ。もし余の味方になれば、世界の半ぶっ』 「口上、一応最後まで聞いてあげなくても、いいんですか?」 「この世界には、最後までやらせちゃいけないってお約束も、あるものなの……」 不思議そうな顔をした優衣に、そう低く呟くとルーメリアは現実逃避気味な表情で空を見上げる。 鳩がたくさん、たくさん飛んでいた。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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