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麗しき幼女魔王様


 廃墟と化した劇場。
 毎日何らかのお芝居やミュージカルを演目として、人々を楽しませていたこの場所も、廃墟と化せば滅ぶ時を待つだけの場所でしかない。
 椅子も照明器具も何もかも取っ払われてしまっては、ここが劇場だと一目でわかる部分は最早ステージだけだ。
「過去の栄華もどこへやら……かしら?」
 そんな場所へ、カメラを片手に写真を撮りに来た女性が今、訪れていた。
 別に何か悪い事をしに来たわけではない。ただ単に、この廃墟と化した劇場の今を写しに来ただけである。

 外から数枚を。
 そしてエントランスで、また数枚。
 次はホールに移動し、ステージの写真を――。

『ふっふっふ、よくぞきた、勇者よー』
 と思ったら、誰もいないはずのステージから声が響く。
『われは、魔王なりー』
 どこからともなく現れた光がステージを照らし、その光が重なる場所には巨大な玉座……と、ちょこんと座る幼女。
 玉座のサイズに対して明らかに小さすぎるその幼女は、自身を『魔王』だと称している。
「ええと、お嬢ちゃん……何してるの?」
『お嬢ちゃんではない、われは、魔王なのだー!』
 演劇の練習でもしているのだろうか、問いかける女性に幼女は手をぶんぶんと駄々っ子のように振り回しながら、『魔王だ、魔王だ』と言い張りご立腹だ。
 この幼女はここで何をしているのか?
 否、それ以前に、彼女は一体誰なのか?
「……ん? ちょっと待って、どこかで見たような……」
『我は魔王なのだっ、勇者は滅ぼすのだー! いっちゃえ、私の部下達よー!』
 そういえば、どこかでこの幼女を見た事があると思い出した女性ではあったが、と同時に兵士のようにわらわらと現れた、中身のない動き回る鎧が彼女を襲う。
(そうよ、あの子は……)
 魔王を自称する幼女が誰だったかを知ったのと、彼女が命を散らしたのはほぼ同時だった――。


「可愛らしい魔王様……ですね」
 ロープレ的にはラスボスで、オープニングも冒険もすっ飛ばしていきなり魔王との戦いではありますがと前置いて、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は今回の目的を告げる。
 現れたのは魔王を自称する幼女と、3体の親衛隊らしき強そうなデーモンタイプのE・フォース、そして動き回る鎧がわらわらと30体。
 それはまさしく、ラストバトルといった感じだろうか。
「エンドロール……要するに勝利するためには、魔王を倒さなければならないのですよ」
 取り巻く兵士や親衛隊を倒し、その上で魔王を討つ――求められるのは、セオリー通りの戦いだ。
 対する幼女……もとい魔王側もセオリーを大事にしているのだろうか。魔王も親衛隊も、一定の条件で解除されるフィールドに守られて攻撃が一切通らないらしい。
 その解除条件とは、

 親衛隊のフィールドは取り巻きを殲滅した時に解除され、魔王のフィールドは親衛隊を殲滅した後に解除される。

 ――というもの。
 早い話が、取り巻き→親衛隊→魔王と順番に倒していけば良いというだけの話である。
「問題は、魔王はともかく、親衛隊はフィールドに守られた状態でも攻撃を仕掛けてくると言う点ですね」
 全ての配下が倒されるまでは魔王は動かないと和泉は言うが、親衛隊だけはそんな事を一切気にせずに攻撃してくるようだ。
 どこまで素早く、順番に倒していくかが、勝敗を分ける決め手となるだろう。
「あぁ、魔王についてですが……」
 ここで和泉は、未来視で垣間見た女性が死ぬ間際に思い出した、魔王のことを口にする。
 戦場となる劇場が廃墟と化す前。即ち全盛期を誇っていた時代に、ここで魔王の役をするはずだった少女が、事故で死んでしまったらしい。
 どうやらその少女とエリューションとして現れた『魔王』は瓜二つであるらしく、この場合はどうしても役を演じたかったという後悔の念がエリューション化した――と考えるのが妥当だろう。
「役を演じきること、それが生前の少女の願いだったならば……倒す事で、その願いは成就されるのでしょうね」
 勝てるかどうかはわからない。
 数を考えても、敵の強さを考えても苦戦する事は間違いない。
 だがその後悔の念がエリューション化してしまった以上、リベリスタ達は勇者を演じて魔王を倒さなければならないのだ――。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:雪乃静流  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月08日(金)23:38
雪乃です。
少々演劇チックな魔王様、お届けします。幼女ですけど、つおいのですよ。

成功条件:幼女魔王の撃破

戦場はエントランスにあるドアから入る事の出来るホールです。50m四方で、突入と同時に魔王の力によってスポットライトが照らされるため、ホール内は結構明るい状態となっています。
全てのエリューションはエントランスに人が入った時点で攻撃態勢を取り、魔王以外は突入が遅れれば遅れるほどに集中を重ねます。

エリューション詳細
鎧の兵士×30(フェーズ1)
槍撃(物・近・単)
弓撃(物・遠・単)
攻撃はBS付与もなくシンプルな単体攻撃ばかりですが、その分両方とも威力は高め。
ただしわらわらいる存在なので、多少脆いです。

親衛隊×3(フェーズ2)
魔法の剣(物・近・範)異:[呪い][虚弱]
雷撃の魔法(神・遠2・全)追:[ブレイク]異:[雷陣]
鎧の兵士が全滅するまでは、特殊フィールドに守られているために攻撃は一切通用しません。

幼女魔王(フェーズ2)
爆炎の魔法(神・遠2・全)追:[ブレイク]異:[獄炎]
氷結の魔法(神・遠2・全)追:[ブレイク]異:[氷像]
ぱんち(物・近・単)→駄々っ子パンチを想像して頂ければOKですが、威力がかなり高めです。
親衛隊が全滅するまでは特殊フィールドに守られて攻撃が通用しませんが、フィールドが解除されるまでは一切の行動を取りません。
魔王役を演じるはずが、演じる前に事故死してしまった少女の地縛霊的な存在です。

それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
クリミナルスタア
神城・涼(BNE001343)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
スターサジタリー
坂東・仁太(BNE002354)
デュランダル
真雁 光(BNE002532)
ソードミラージュ
桃村 雪佳(BNE004233)

●勇者様御一行到着
 風雪に晒され、ボロボロになった廃劇場。
 過去の栄華をそこかしこに感じさせる優雅な建物の造りが、逆に魔王の城という雰囲気を醸し出しているような気はしないでもない。
 椅子も照明器具も何もかも取っ払われてしまってはいるものの、当時の面影はそれでも感じる事が出来る。
 その廃劇場の入り口、エントランスホールを突っ切った先には、魔王がいる。
 ――否、魔王を『演じたかったが、演じる事が出来なかった』少女か。
「さぁって、演劇として頑張ろうか。数が数、結構厳しい感じな気がするけども」
 そして相手が『演じること』を願っているのならばと、『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)や他のリベリスタ達は、『演劇』として戦いに臨む心算だ。
 相手の数は、兵や親衛隊を合わせて34体。
 集まったリベリスタ達にとっては、4倍以上の兵力を持つ敵である。
「魔王としての役柄を演じたいか……。難しいもんだな。まあ、勇者的な感じでやらせてもらうか」
 だがそれでも、魔王を倒すのは勇者であると、『ダブルエッジマスター』神城・涼(BNE001343)は言う。
 厳密には彼は自分で「俺は勇者って言うよりはアレだ。……ええと、銃持ってるしガンスリンガー的な感じでいいよ」と言うように、彼がその勇者という役柄を演じるわけではない。
「魔王を倒すのは勇者のお仕事。叶わなかった夢をかなえるのも勇者のお仕事。まだまだ本当の勇者には程遠いボクですが、彼女にとっての勇者になれるように頑張ります」
 実際に勇者役を演じるのは、『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)だ。
「後悔の念に縛られているのなら、それを晴らすのもヒーローの役目だと思う」
 と言う『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は勇者の供をする武術家であり、翔太に至っては「勇者が旅に出る時に、何故か着いて来ていた学生」とまったく戦えると感じさせない職業設定ではあるが、とにもかくにも誰もが様々な役割を考えてきているらしい。

 さておき、勇者達は魔王の城へと辿りついた。
 ここに来るまでは、アークを出てから結構移動したりと遠い道程だったが、それもこれで最後だ。
 いきなりスタート地点から魔王の城に来てるじゃないか、なんて突っ込みはしちゃいけない。
 道中には様々な冒険があったのだとか、イメージで強引に補完してください。

「では、叶えましょう……。壮大な魔王と勇者の物語を」
 エントランスの扉に手をかけ、先陣を切って突入したのは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)だ。
 最初からついてきた騎士という設定を忠実に守り、真っ先に突入するその姿には頼もしさを感じる。
 しかし、敵は強大だ。
「俺達に出来る事は、少女の願いを叶えた上で、終わりを与えてやる事だ。舞台は、いつか必ず閉幕を迎える物なのだから」
 そんな言葉と共にアラストールに続いた『百叢薙を志す者』桃村 雪佳(BNE004233)の望む閉幕を、果たしてリベリスタ達は迎える事が出来るのだろうか。
 その答を得るために、リベリスタ達はエントランスの奥にあるホールへと進んでいく。

 彼等の突入から数秒の後、ステージを明るく照らすスポットライトの輝き。
 光が照らす先には、大きな玉座。
 それは魔王が座るのに相応しい豪華さを持ち……であるが故に、座っている幼女のあまりの小ささに凄まじいアンバランスを感じることだろう。
『ふっふっふー。よくぞきた、勇者たちー』
 その玉座に座った幼女魔王は、待ち望んだ勇者達の来訪にどこか嬉しそうだ。
「あれが魔王か……。普通そうなのに、実は魔王と呼ばれるぐらいに腹黒かったりしたのだろうかな? え、そういう魔王とは違う?」
『ちっがーーーう!』
 幼女のソレは演技だ。決して『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)の言うような腹黒い子ではない!
 ほら、本人も否定してるし!
『こっほん。この世界は、魔王であるわれが頂くのであるー。そして毎日三食、おやつ食べ放題の世界を作るのだー! あと、たまねぎとピーマン撲滅ー!』
 腹黒いっていうか、世界征服後のビジョンのスケールのちっちゃさは、お子様そのものだ!
『って、何あれ?』
 魔王様が何かに気付く。
『アドリブよろしく』
 それは『シャドウブレイダー』斜堂・影継(BNE000955)の見せたカンニングペーパーだった。
 どうせ演劇風に戦うのだから、互いの演技に合わせていこうと言う事だろう。
『しょーがないわねぇ、わかったわっ』
 頷いた魔王様は、そう言いつつも乗り気であったことは言うまでもない。
『さあ、われの部下達よー。勇者達を蹴散らしてあげなさーい!』
 パチンと指を鳴ら……そうとしたが、指の擦れる音がかすかに聞こえたのみの指パッチンを合図に、ぞろぞろと現れる魔王様の部下達。

 兵士30体、親衛隊3体。

「流石に数が多いな……だが、平和を取り戻す! 変身ッ!」
 その多さをものともしない気迫をもって、ヒーローへと疾風が変身する。
『ヒーローだ! かっこいいー!!』
 彼の姿に目を輝かせる魔王様は、生前はヒーロー番組も大好きなお子様だったようだ。

 ――今、開幕のベルが鳴る。

●勇者VS魔王軍
 敵の数は非常に多い。
 流石は魔王の配下というべきだろうか、TVゲームであればモノともしない数であろうとも、現実には兵士30体は素直に厳しいものがある。
「人呼んで!  闇を断つ影の刃……シャドウブレイダー! 勇者の心に打たれた今、俺は元主……お前を討つ!」
 それでも、やらなければならない!
 元は魔王の配下でありながら、勇者である光に心を打たれて裏切った元魔王軍『シャドウブレイダー』もとい、影継が舞う。
『あんなのいたっけ?』
『記憶にございませんなぁ』
 魔王様と親衛隊、ここはアドリブですよ。
『えーと……月給チョコレート1つで魔王軍として働いていたものの、勇者に月給フルーツパフェを提示されて寝返ったとかいう設定でどうでしょう?』
『うん、じゃあそれ採用』
 軽い相談で、アドリブの方向性が決まった!
「え!? 俺パフェで寝返ったの!?」
 しかも寝返った(らしい)本人もビックリの『魔王軍サラリーマン』設定だ!
「おいおい、魔王軍ってとんでもねぇな……! それでも薄給で頑張るお前達、拳と銃のダブルエッジマスターたる俺がきっちりかっきり決めてやんぜ!」
 月給のあまりの安さに世知辛さを感じながらも、涼は倒さなければならない相手だと兵士の1体を拳で叩き砕く。
 どうやら兵士という『クラス』に相応しく、打たれ弱さは折り紙つきであるらしい。
「数は多いが、これなら速攻も決められるか? 盛り上げていくぞ!」
 ならば先手を打って一気に倒していこうと、続く翔太。
 ここで派手に盛り上げれば、ラストバトルの前哨戦はきっと魔王――幼女も満足するに違いない。
「さて、盛りあげるって言うたけんど、わしってこういう役ってあんま詳しくないんよな……。村人……にしては戦闘力ありすぎやし……。むー……砲手でええんかな」
 一方で仁太は『どう盛り上げるか』に悩んでいたようだが、「大砲、撃てー!!」という掛け声と共に兵士を吹き飛ばす姿は、派手そのもの。
『わぁ、すごい! 兵士達がどーんでばーんで吹っ飛んでいってるよ!』
 その姿に、魔王様は目をきらきらさせて見入っている!
「お前達に用はない、速攻で行かせてもらうぞ」
「この程度の数は押し通ってこそ、ヒーローだ!」
 さらに雪佳と疾風の連携攻撃によって、さらに兵士が派手に後ろに吹っ飛び、
「この勢いなら、いけます……! 雑魚は引っ込んでてください!!」
 そして勢いを感じた光の放つ雷が、まさに勇者の放つ魔を討つ光となりて魔王軍を穿つ。
「勇者殿、道は我々が切り開きます! 今は可能な限り、力の温存を!」
 彼女を守り戦う騎士アラストールは、この勢いであるならば勇者を温存しても大丈夫だと感じるほどの快進撃だ。

 ――もしかしたら、袋叩きに遭う前に兵士を全てぶっ飛ばす事が出来るのではないだろうか?

 そう感じるほどに、リベリスタ達の勢いは凄まじい。
『どうやら我々が行かなければ、奴等の勢いは止まらないようだ』
 などと壊滅を危惧した親衛隊が慌てて前に出るくらいの、破竹の勢いと言っても過言ではない。
『わが親衛隊、勇者どもを駆逐しておいで!』
『サー! イエッサー!』
 可能ならば兵士が全滅して自身の身を守るバリアが消え去る前に、勇者達を駆逐する。それが、親衛隊に出来る最善の策だったのだろう。
 逆に勇者達からすれば、そんなバリアがある内は親衛隊はかなりの難敵である事も事実。
『親衛隊と勇者勢の近接戦』
 そこへ影継が慌ててカンペを取り出してその動きに制限をかけようとするものの、
『スマナイ、ニホンゴワカラナインダ』
『ダカラ、キンセツセントカヤラナイゾ!』
 わざとらしいカタコトで、その指示に『No』を突きつける親衛隊の面々。
「めちゃめちゃ日本語使っとるぜよ!?」
 思わず仁太が激しく突っ込むが、彼等はまったく持って聞く耳を持たない!
 そんな彼等の放つ雷撃は凄まじい威力を誇り、全身に激しい電流が流れた勇者達の勢いに僅かに見える陰り。

 魔王軍は強いのだー。
 勇者なんて、ボッコボコになっちゃうのだー。

「……ん?」
 ふと、何か妙な感覚を受けた翔太が、魔王の方を見る。
『そんな攻撃じゃ魔王軍は倒れないのだー』
 だが余裕綽々の魔王様は、ワイングラスを片手にふんぞり返っている。……気のせいか?
「勇者よ! 我が忌むべき力をもって、お前の道を切り拓こう!」
「この戦いに勝利したら、故郷で待ってる恋人と結婚するんです、ここでやられるわけにはいかない!」
 さておき、如何に親衛隊が強力なバリアに守られているとはいえ、兵士さえ殲滅すればそのバリアも消えるのだ。
 シャドウブレイダー影継が、アラストールが、勇者の進むべき道を作らんと兵士達への攻勢を強めていく。
 ――いや、待て。
「おい、それ死亡フラ……」
 言いかけた言葉を疾風が最後まで言い切る前に、
「うあっ!」
 ゴツン。
「くあっ!?」
 ガツン。
「うあああっ!!」
 兵士達の猛攻を受け、パタリと倒れるアラストール。
「アラストールさん!!」
「た、大変だ、騎士様が!」
 頼もしかった仲間の無惨な姿に光と雪佳が駆け寄るも、アラストールは動かない。

 勇者の仲間の1人が、魔王軍の前にぼこぼこにされたのだー。
 やっぱり魔王軍は強いのだー。勇者達はここから苦戦するのだー。

「……ナイス演技です」
 だがそっと呟いた光の言葉に、倒れたままぐっと親指を立てて無言のままに応えるアラストールの姿を見れば、それは演技なのだ!

 仲間の1人を失った勇者達は、とってもピーンチ!
 魔王軍はここで勝ったら、多分給料ちょっとだけアーップ!

「……おい、魔王様」
『な、なによ!?』
 そして遂に、翔太は見た!
 先ほどから地の文――ナレーションに割り込む、妙なナレーションにもなっていない言葉を。
 慌てて取り繕う魔王様ではあるが、時は既に遅し。
「……暇なんだな」
「ふんぞりかえってるだけじゃのう……」
 涼と仁太が、もう少し待てば魔王との戦いだからと苦笑いを浮かべ言う。
 それは魔王という役割柄、配下が全て倒されるまでは動けない魔王様の、ちょっとした暇つぶし――。

●VS幼女魔王様
「我が暗黒の力は振るう程に命を蝕む諸刃の刃……。だが勇者のためならば、この命、惜しくは無い!」
 3人の親衛隊を相手取り、無茶とも言える戦いを挑んだシャドウブレイダー影継がついに道を切り開く!
『きゅ、給料アップの夢がぁぁ!』
 倒れて消え行く親衛隊は最後まで給料アップを夢見ながら消滅し、
「後は任せたぜ、勇者様よ……」
 その親衛隊と相打ちになった形で倒れたシャドウブレイダー影継は、その全てを勇者に託して物質透過を併用して舞台裏へと消えていく。

『なんとふがいない。たった2人を倒しただけで、われの配下が全滅するとはー!』
 せめてもう少し倒せよ! と憤慨する魔王様ではあるものの、倒れた2人も実際には倒れてはいない。
「凛々しい騎士様、アラストールさん……。正義の心を持った元魔王軍、シャドウブレイダー……貴方達の意思を継いで、俺は勇者様と共に戦う!」
「行こう! 最後の戦いだよ!」
 傷だらけになりながらも、激戦を戦い抜いた雪佳の力強い言葉に、光は頷き、魔王を見やる。
『くるがいい、勇者達ー! 魔王みずから、相手をしてやるのだー!』
 短い子供の足で大きな玉座から飛び降り、地に立つ魔王様。
 しかしフェーズ2のエリューションである彼女は、その見た目とこれまでの行動の子供っぽさとは裏腹に、実力は確実に高い。
「さぁ、ラストバトルだぜ!」
 ホルスターに1度はしまいこんだ銃を再び抜き放ち、意気込んだ涼が構える。
「砲弾はまだいくらでもあるぜよ、最後まで撃ち尽くさんとな!」
 銃器を手に、仁太も気合は十分だ!
「ならば、行きましょう。大勢の人に支えられて、ボクはこの場にたどり着くことが出来たのだから!」
 勇者、光のその言葉が、ラストバトルの幕開け――。

 激しく燃え盛る魔王の炎が、勇者達を業火に包む。
「く、流石に強いな……」
 渾身の力を込めて放った雪佳の刃は、不可思議なフィールドを展開した魔王に阻まれ、彼女に傷1つ付ける事が出来ない。
「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」
「どうする、2人を欠いたままの俺達では、倒しきれないかもしれないぞ……」
 じわりじわりとではあるが、押されていく現状に仁太は驚き、翔太は光に問う。
「大丈夫です、きっと奇蹟は起きるって、ボクは信じてますから!」
 彼女は答える。奇蹟はこういう場面でこそ、起きるのだと!

「ここからの逆転劇、それこそが最高のフィナーレに繋がるんですよ!」
 そして、奇蹟は起きた!
 倒れたはずのアラストールがどこからともなく現われ、魔王に鋭い一撃を加えたのである!
「ア、アラストール!」
「無事だったんだな……良かったぜよ」
 頼もしい仲間の帰還に、疾風と仁太がほっと胸を撫で下ろす。
「天国のおばあちゃんから、『まだ来るのは早い!』と怒られたのですよ。それに、故郷の恋人を……悲しませるわけにはいかないんです」
 凄まじいアドリブセリフで彼等に答えながら、アラストールは手にした剣をステージへと突き立てる。
「流石は騎士……死亡フラグを叩き折ったか。そして俺も、どうやら死神にも嫌われたようだな!」
 続けて天井から飛び降り、魔王様に拳骨を叩き込んだシャドウブレイダー影継も再登場だ!

 ピンチの後にチャンスはやってくる。それを見事に体現した勇者一行。

「反撃だ、行くぞ勇者!」
 それはヒーロー番組でもよく見られるシーンであり、ヒーロースーツに身を包みマフラーをなびかせた疾風にとっては最も熱い展開に感じられた事だろう。
 魔王を倒すならば、今しかない!
「ボクもここで全力を尽くします、行きましょう、皆さん!」
 仲間達を鼓舞する一声と共に、強烈な一撃を光が叩き込む。
「勇者の一撃、きっと魔王を倒すと信じているぞ!」
 学生らしからぬ強さを持った翔太が、光の後に続く。
『ぐ、ぐわー。やるな、勇者どもめー!』
 たまらず、魔王がよろめいた。
「魔王よ、俺達は手を取り分かり合えた筈だ。それでも、これ以上戦わなければならないのか?」
 青臭いセリフと共に、雪佳が苛烈に攻め立てる。
『三食おやつの夢は、われの壮大なる計画なのだー!』
 魔王にとっては、戦いに勝利しなければその夢は叶わない。否、勝ったとしても三食おやつの世界にはならないのだが。
「打ってこい、魔王。それとも、その短い腕じゃ届かないか?」
 さらに挑発を続ける雪佳に駄々っ子パンチで応戦する魔王だが、頭を抑えられては短いおててでは届きもしない。
『むっかー!』
 しかし上手く抑える手を交わし、彼女のパンチが雪佳を派手にぶっ飛ばす!
 アドリブどころかただのお子様になっている気がしないでもないが、気にしてはいけないっ。
「俺たちを待ってる人がいる! だから……このまま押し切るぞ!」
「わかってるで、弾はまだ切れてないぜよ! ミッドナイトマッドカノン!!」
 ふらつく魔王様を追い詰めるかのように、涼と仁太の弾丸が彼女を穿つ。
「行ってください、勇者殿!」
「闇を切り裂く閃光の乱撃!! 立ちはだかる魔を断つ……必殺!! S・フィニッシャー!!」
 最後の一撃をと声をかけたアラストールに頷き、トドメの一撃を叩き込んだのは、やはり勇者である光だ。
『わ、われの夢がついえるとはー……。だが、われが倒れても、次の魔王がきっと……ぐふっ』
 満足そうな顔を浮かべ、魔王は逝く。
 次の魔王が現われるなどと、不吉な言葉を残して――。

●閉幕のベル
 少女は、最後まで自身の望んだ魔王を演じきった。
 少しズレていた気がするが、それでも最後まで魔王だった。
「良い魔王でした、最高の舞台でしたよ」
 褒め称えるアラストールの言葉は、きっと少女に届いたはずだ。
「これで未練が無くなったかい?」
 満足そうに消えた少女の顔を思い浮かべれば、疾風の問いにはそれが答となるだろう。
「来世では、生きて夢がかなえられることを祈って」
 目を閉じ、祈る光は少女の来世が幸多きものであらんと願う。

 勇者達と魔王の戦いは、こうして幕を閉じたのだ――。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
個人的には字数との戦いとなるほど、凄まじい字数で最初は完成してたとかなんとか。
いえ、関係ないお話ですが。(笑

さておき、アドリブ歓迎の方が多かったため、楽しさ重視で目一杯に書いたつもりです。
少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。

それでは、また機会がございましたら。
ご参加、ありがとうございました。