●キャラメリゼ・メロウ 慣れない靴を履いて、ステップを踏んで遠くに駆けて行くの。 煉瓦の壁を見つめてから、何時もの曲がり角を曲がって、待ち合わせの公園についたら―― 夢が醒めた音がした。 同じ夢ばっかりみる。何時まで経っても辿りつけない夢なのだ。 終わりがないのに、それなのに何時までも甘ったるい余韻を、期待を残して液状化する様にこの両手から零れ落ちて行く夢がなんと憎らしい事か。 きっと彼の答えを聞くことが終着点だから、見たくないの。叶わないかもしれないから。 だから、その『しあわせ』の中に閉じ込めていて。 ――ホントになんでも叶うの? なら、先を望んでしまっても、仕方がない、よね? ●『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は恋愛小説を嗜む 集まったリベリスタに気付き、読み掛けの恋愛小説を閉じた予見者はお願いしたい事が、と紡ぐ。 「恋が叶うとしたら、あなたは『魔女』に声を売る? 王子様に会いに行こうと思う?」 叶わなかったら泡になるんだけれどね、と皮肉そうに世恋は笑う。 其れは誰もが知ってる童話だ。人魚姫。ある日、王子様に恋した彼女は彼に会いたいと願った。けれど、彼女は『人魚』だから、それは叶わない出来ごとであったのに―― 「悪い魔女って何処にでもいるのね。少女に恋が叶う魔法のアイテムを授けた悪い魔女が居るわ。 ――魔法なんかじゃなくて、アーティファクトなんだけどね」 困った様に紡いで、お願いしたい事があるのと常の通りにリベリスタを見回した。 「皆にお相手して欲しいのは『三尋木』のフィクサード。口当たりは余り宜しくない感じかしらね」 フィクサード主流七派のひとつである『三尋木』は極力戦闘を避けて行動している。アーティファクト関連事件として最も名のあがる『六道』ではなく『三尋木』が相手と言う事は大方金銭取引が絡むに違いない。 「三尋木は占い師に化けて恋路に惑う少女達を獲物にしているの。占い師は少女達に囁くのよ。此れを持てば、夢が叶いますよ、って。嗚呼、なんて――なんて甘い誘惑かしら。叶うなら叶えたいと思うでしょう?」 それがきっと恋情であるのだから。歌う様に予見者は紡ぐ。だが、代償なしに願いが叶うアイテムなど存在していないのだ。猿の手が願いをかなえるのに代償を必要とするのと同義。アーティファクトは代償があるからこそ特殊な力を発揮しているのだから。 「三尋木の狙いは只一つよ、このアーティファクトの効果の確認。代償の大きさとその願いが何処まで叶えられるかの確認作業ね。其れによってこの『商品』のレートが決められるの。一般人をカモにすれば彼等だって闘わずに済むものね」 お手軽な実験だということ、と溜め息交じりに予見者は資料を捲る。添えられた写真は可愛らしい少女が微笑んでいるものだ。 「被害者――じゃなくて、被験者となったのは一般人の少女。市村笑麻さんよ。 彼女の耳についているイヤリング。これが願いをかなえると言われるアーティファクト『願懸け雫』。 皆にはこのアーティファクトの確保と彼女の保護をお願いしたいの」 ただそこに居る一般人を保護するだけならば簡単じゃないのか、とリベリスタは首を傾げる。桃色の瞳を伏せて、予見者は「効果を確かめるには見張りが居るでしょう」と告げる。 「アーティファクト自体の確保は簡単かもしれない。けれど必ず妨害が入るわ。三尋木のフィクサードよ。 ――願いが叶う代物だもの、きっと高値で売れる、ってね?」 瞬いて、何処まで本当なのかはわからないけれど、と紡ぐ。 「そうそう、笑麻ちゃん、今日ね、告白するんですって。 上手くいくか分からないけれど、応援、してあげてはどうかしら?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月08日(金)23:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 公園に到着したリベリスタ達は息を潜める。物影に隠れた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が唱える念仏を耳に聞きながら『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は周囲を探っていた。 周辺の熱の温度を探るその感知能力は周辺を探るが、仲間達の熱や、周辺に存在する動物の熱を感じとってしまい若干の煩わしさを感じずには居られない。少し離れた茂みの中で息を潜める『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)は気配を隠し、大和と同じく熱を探る。ソレにしても、念仏を唱えるとは徳が高い。茂みの中で念仏を唱えるフツの姿を捉えながらも、視線はやや前方――左へと映される。ぼんやりと周辺を見回す少女の姿がそこにはあった。『願懸け雫』という名にふさわしい雫の形をした可愛らしい薄水色のイヤリング。緊張した面差しの彼女がそのアーティファクトを譲り受けた市村笑麻という少女であろう。 『――そっちは如何かな?』 フツの幻想纏いから聞こえる声は離れた位置で息を潜めていた『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)のものだ。塔の魔女の秘術たる陣地を作成する法に巻き込まれない位置から千里眼を通し周辺を――笑麻を――見つめている彼女は作戦の進捗具合を確かめてきたのだろう。 陣地を作る為に何やら徳が高そうな呪文を唱えているフツではなく、その隣で彼を補佐する様に姿を隠していたリオン・リーベン(BNE003779)が「大丈夫だ」と声のトーンを抑えて答える。 そもそも、息を潜める事で笑麻から姿を隠すという事を同じ様にフィクサードが行っている今、正直言ってしまえば変質者に囲まれている状況である様な気もするが。町内の小さな公園でリベリスタと三尋木フィクサードが共に隠れている等、恋に恋する少女は気付く事もない。 いやはや、悪い大人はこんな感じに子供を狙っていると思うと街も危ないものだと再認識させられるものだ。 少女には少女を。餅は餅屋に任せるべきだ。目の前の恋する乙女を見つめながら『忍務』を行う幸成は遠く離れた場所で説得に向かう為に待機しているアンジェリカと『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)に任せたで御座るぞ、と祈る様に呟く。 ――三尋木フィクサードとアークのリベリスタに囲まれて視線を感じ始めた笑麻が不安げに周囲を見回す。 (……なんだろう、ここ、怖いなあ) それもそのはずだろう、別の場所で息を潜めていた『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)も流石に住所不定で経験豊富であってもこんな風に見つめられて居たら薄気味悪くて住居を変えてしまうのではなかろうか。 そんな不思議な状況であれど、手にした改造銃を見つめ、仕事をするかと小さくため息をつく。人は誰だって大なり小なり何かに縋って生きるものだが、それがどの様なものであるかなんて人によって其々だ。無論、和人だって何らかに縋って生きてきた。それが『経験論』からの言葉であるなら、だ。 「悪い事じゃねぇんだよなあ……」 少女が恋を叶えるために、マジックアイテムに縋るだなんて良くある人間の心理でしかないだろう。何が悪かったかって、ただ、それが『アーティファクト』という神秘界隈の物体であったことだけだった。 ● ぷう、と頬を膨らませていた『ムエタイ獣が如く』滝沢 美虎(BNE003973)は魔獣双拳デーモンイーターをつけた拳をぎゅ、と固めて茂みに潜んでいた。いやはや少女まで潜むとはこの町の公園の風紀が疑われる所であるが、瞬いた彼女の瞳は真っ直ぐに向かいの茂みを見つめている。 美虎だって女の子だ。好きだという気持ちを利用して陥れる三尋木のフィクサードは許せない。全部全部やっつけてやる、と気合十分な彼女の隣で念仏を唱えるフツ。異色の光景に堅い笑みを零した大和の瞳がそっと移動する。 人間と思われる熱が移動したのだ。流石に茂みに5人以上隠れて居たら普通は気付くだろう。今まで気付かなかった三尋木がお惚けであるのか、何なのか。周辺を警戒する様に見回す笑麻の方へと歩み寄ろうとする。ジャングルジムを背にした少女の後ろから、一歩、二歩。フードを被った男が近寄ろうとして―― 「チェックメイトね」 千里眼で笑麻を見ていたアンジェリカから周辺状況を実況されていた糾華が零した言葉。しっかりと幻想纏いにも拾われたソレにフツの笑みが濃くなる。 手を伸ばすフィクサードの姿がアンジェリカと糾華の前から掻き消される。 「――え?」 何らかの異変を感じて振り返った笑麻の後ろには、何時もと変わりがない公園が広がっていた。 走り出す、50m離れた位置で待機していた二人は真っ直ぐに笑麻の元へと向かう。説得係として、『外』を任された二人の少女は懸命に走った。告白という重大なイベントを心待ちにしている少女の元に――この時点で何処か不思議な光景ではあるのだが――二人のゴスロリ少女は急行していたのであった。 例えば、恋に落ちたとしよう。何でも叶うアイテムを渡されたとしよう。それで、それで――? 魔法道具を使って想いを伝えていいのか。魔法道具を使って願いを叶えて良いのか。想いが本気であるならばそんな物を使って叶える意味などない。 糾華にとってのハッピーエンドは常にボーダーラインの一歩先にあった。踏み込めない、踏み出す事を躊躇う様な其処に、一歩だけ踏み出そうとする。その先。 「……こんにちは、市村さん? 私、アンジェリカ。よろしくね」 この場で笑麻に話しかける事がアンジェリカや糾華にとっての『一歩先』だったであろう。説得とは中々に難しい。緊張を胸に抱きながら、声を掛ければ振り向いた笑麻が驚いた様に瞬いた。長い黒髪に、大きな赤い瞳。八重歯よりも尖って見える牙を持った少女と、長く光の加減で銀にも見える白髪の少女が立っているのだ。 「え、ええと……」 「貴女が付けているそのイヤリングね、願いと等価の代償が伴う危険なものなんだ」 突然零された言葉に混乱を隠せない少女はアンジェリカと糾華をまじまじと見つめる。占い師から渡された物が『危険な物』と告げられても納得出来るわけがない。少女の訝しげな視線に大きな赤い瞳を瞬かせ、アンジェリカはきゅ、と指先に力を入れる。 「あの、さ、少しお話ししない? ボクにも好きな人が居るから、振り向いてもらいたいその気持ちは解るよ」 「あ、あの、なんで私が好きな人がいるって」 「そうね、私達が占い師みたいなものって言えば――どうかしら?」 アンジェリカの補佐をするように立っていた糾華が小さく笑みを零す。不思議な外見の少女達。恋に恋して、告白イベントに緊張した少女はその年齢が幼く子供で会ったことから『不思議な出逢い』もあって良いかとブランコを指差した。じゃあ、あそこでお話ししましょう、と掛けられた声に頷いて、笑麻の背中に二人はついていった。 ● シン、と静まり返った中で茂みががさがさと動く。非常にシュールな光景となっていた。茂みから顔を出した美虎が流れる水の如き構えを繰り出す。公園で太極拳を極めるご老人達の中に彼女が居たって何ら可笑しくないであろう光景だが、其れを目にし『違和感』に気付いた三尋木フィクサード達が彼女に向かって襲い掛かる。 「わ、わわっ、お前らか! 悪だくみしてるっていう三尋木フィクサードは!」 「いやいや、なんかシュールな光景だな、これ」 がさり、と茂みから出てきた和人が走り寄ってきたフィクサードの目の前、射程距離ゼロで弾丸を打ちだした。光り輝く其れは鈍器としての実用性もある改造銃。じり、と下がった三尋木の前で和人はにやりと唇を歪める。 「まっさか『お守り』に凄い力があるって思った訳じゃねーだろうしなあ。大舞台までにきっちり助けてあげるとしますかね」 ぴくり、と三尋木のフィクサードの肩が揺れる。フードを被った『占い師』の降らす雨に苛まれながら茂みの中から現れたフツがフィクサードの往く手を遮るように現れる。手にした槍の束で地面をとん、と叩き、フィクサードの体を縛り付ける。 「――お、お前ら何者だ!」 「なに、通りすがりの坊主ですよ。ここは私が食い止めましょう!」 なんてな、イヒヒと笑った坊主。――念仏唱えてましたものね! 徳が非常に高い彼の顔を見て占い師がぎょっとする。流石にアークの精鋭として数えられる『てるてる坊主』だ。通りすがりの坊主にしては徳が高すぎる。 「其方に目を奪われている暇はないで御座るよ」 ひゅん、と死を招く影がフィクサードの腹を掠める。投擲された凶鳥の影、黒い装束に身を包んだ幸成がその姿を現した。茂みから飛び出すとは非常に忍者らしい忍者である。光景がカオスなものであっても、その行いは天晴れ、慌てて武器を構えるフィクサードの往く手を遮っている。 「ふむ……アーティファクト実験をしているフィクサードと言うからどんな悪趣味な輩かと思えば」 じゃり、と土を踏みしめて、仲間達に効率動作を回していくリオンは色違いの瞳を細めて小馬鹿にしたように笑う。ここまでとぼけたフィクサード。軍師たるリオンも呆れられずには居られないのだろう。 「人体実験は効率的で或る事は認めよう。 だが、人の想いがどれだけ尊いものかは知らないのだろう。そのような『下らない実験』に付き合う謂われはないな」 支援動作を行うリオンに対して振るわれる刃を止水が受け止めた。流れる黒は何処か流れる水の様に『蒼』を含む。蛇の髪飾りがりん、と揺れた。 「――させませんよ?」 受け止めた止水を其の侭に、布に包まれた指先はぐるり、と束を持ち直す。昇る赤い月がフィクサードの体を苛む様に嗤う。くすり、と形の良い唇を歪め、リオンから与えられた支援をその身を持って体感する。 「代償だけ人に支払わせて美味しいとこどりなんて、させませんからね?」 「アーク……」 じり、と後退する様に三尋木の脚が下がる。勿論その筈だろう。彼等は主流七派でも比較的穏健派である三尋木だ。戦闘を避ける様に動く彼等にとってアークの直接介入は解せぬものなのであろう。 フツがこの作戦のうちの要であると気付いたフィクサードが彼を狙う。だが、それを遮るように美虎が幼いかんばせに笑みを浮かべて、地面から伸びあがる様に真っ直ぐに拳を振るう。 「とらあっぷぁぁああっ!」 やっつけちゃる、としゅっしゅ、と拳を振りまわす美虎の目に留まるのは回復役のフィクサードだ。やれやれと、和人が踏み込んでその銃で殴りつけようとする。だが、その銃を受け止めたのは前衛位置で展開していたフィクサードだ。 「いかせねぇってやつ? やれやれ、困ったちゃんだねぇ」 くつくつと喉を鳴らして和人が身体を逸らす。ダン、と踏み込んで、美虎が八重歯を輝かせ楽しげに笑った。小柄な少女は茶色の瞳を輝かせ、拳を振るう。地面に掌をついて、身体を回転させるように蹴りを入れる。すう、と息を吸い込んで「とら、」と溜めたそのあとに拳が真っ直ぐに飛ばされる。 「でぃすとらくちょんっ!!」 ぶっ、とフィクサードが可哀想だと言いたくなる様な声をあげる。其れを援護する様に黒きオーラが苑頭部へと落とされる。幸成の目が捉えるフィクサードの数も減っている。無論、リベリスタとの数がイコールである以上、回復手のないリベリスタ側の傷も大きいに違いない。 的確な支援を与えながらも、攻撃を受けるリオンはその場で指揮官として立っていた。彼の色違いの瞳は周辺を逃さない。 ふ、と占い師の目の前から大和の姿が消える。ハイ・グリモアールを抱きしめたままの占い師がその姿を探したと同時、拳が、占い師の横面へと喰い込んだ。可憐な少女の白い指先が丸められ真っ直ぐに入る様子。 「え」 ――周囲の時も止まった気がした。 大和は決めていたのだ。スキルでも止水でもなく、その拳で必ず一発叩き込んでやる、と。恋に恋するその感覚に覚えがある以上、それが食い物にされる様子を大和は黙ってはいられない。怒りを覚えない筈がないのだ。 「恋路を己が欲望の食い物とするその所業、許されざると知りなさいッ!」 黒い瞳に湛えたのは紛れもない『怒り』であった。柔和な大和に珍しいそれは拳を振り上げたままに、再度、占い師の頬を叩いた。 ● きい、と音を立てるブランコにアンジェリカは想い人を想いながら笑麻さん、と笑う。 「ボクもあの人に振り向いて欲しい、愛して欲しい。ずっとそれだけを願ってきたんだ。難しいね」 「そう、だね」 「叶わないかもしれないから、叶えてくれるアイテムに頼りたいのも解る。でも、さ、彼の気持ちは?」 笑麻がつけたイヤリングは確かに彼女の願いを叶えるだろう。それは、同時に彼の想いを殺す事になるのだ。心を、想いを殺して、傍に居る事を望む。それはずっとこの先本当の彼の心に向き合う事が出来ないという事だ。 一頻り語り終って、それでも、と涙が滲みそうになる笑麻を見つめながらブランコに腰かけた糾華は立ち上がる。 「ねぇ、一つの恋が長続きする方法って知ってる?」 ――それは、自分の力で全力を尽くす事。 ブランコに立って乗っていた笑麻の顔を下から覗きこむ様に、糾華は紡ぐ。潤む瞳とその目を合わせ、首を傾げて小さく笑う。 「それはね、自分の力でここまでやれたと胸を張って言える位頑張る事よ。何かに、自分の願いを託したり、任せたりしない事。――わかる?」 「でも、それでも、叶わなかったら」 「もし、『願いを叶える』アイテムに頼ってしまったら例え上手くいってもそれが『本当の気持ち』か疑わなければいけなくなるわ」 糾華の言葉に瞬いて、ソレって、とっても悲しいよね。きぃ、とアンジェリカの動きに合わせてブランコが揺れる。 「貴女が好きな人への想いを誇りにしたいなら、貴女自身で彼と向き合って欲しい。そうじゃないと、貴女は彼の心も、自分の心だって傷つけてしまうんだよ?」 誇りと言われたって解らない。けれど、笑麻は大好きな人の心を傷つけるという言葉には俯く事しか出来なかった。少女達の言葉は或る意味ではキレイゴトであったのだろう。同時に漫画でみられるような恋愛の可愛らしさに憧れた少女の胸にはすとん、と落ちて行く。 「ねぇ、折角甘い想いを溶けそうになるまで焦がれてきたのなら『そんな物』に頼らず、貴女の力で成し遂げましょう? 等身大でちょっぴりほろ苦な恋をしましょう? 大丈夫よ、大丈夫、きっと、きっと上手くいくわ」 甘くなんてないのだろう。彼女の心を例えるならばそれはビターチョコレイト。溶けてしまうほどの甘いキャラメリゼ。瞬いた糾華の指先がそっと『願懸け雫』に伸ばされて、彼女の耳朶から糾華の掌へと滑り落ちる。 「大丈夫だよ、笑麻さん、ボクも応援するから」 「ええ、私だって応援するわ。ハッピーエンドって自分で掴むものだから」 頑張って、と声を掛ける不思議な少女に笑麻は困った様に笑う。掴めるか、解らないけれど、と言う彼女に上手く行きます様に、とアンジェリカは小さく祈った。 ● 解けた陣地作成に、傷を負いながらも逃亡するフィクサードを見つめている大和の瞳は何処か晴れ晴れとしている。思う存分その拳で殴ったのだろうか。 いやはや、徳の高い通りすがりのお坊さんも驚きの大和さんであった。こそこそと笑麻にばれない様に物影へと潜んだリベリスタ達に糾華の周辺を飛んでいた蝶々が彼女の耳元で何かを告げる。 「……アンジェリカさん、そろそろ」 「うん、それじゃ笑麻さん。ボクら、いくね。頑張って?」 そそくさと公園の出入り口に向かう二人の少女に手をひらひらと振って笑麻は緊張の面差しで思い人の到着を待った。 ――実際は、彼女ら二人もぐるりと回って物影からその告白の様子を見つめている仲間達と合流しただけなのだが、そわそわとしている大和と美虎を見つめ、若いねえと笑う和人の隣で何処か気にした様なフツが思い人が来たぞ、と仲間へと声を掛けた。 この町の公園もこんなにも潜まれる等驚きである。いやはや、不審者はこんな感じに少女を見守るのであろうか。しかしながら、気になってしまうのだからしょうがない。 その恋の行き先を心配そうに見つめている大和が緊張した様に「どうなるのでしょう」と呟いた声にアンジェリカが「叶います様に」と祈る様に返す。 何処か自分の事の様に前へと乗り出してはらはらしている美虎など、走り出したい衝動を押さえている様にも見えた。 「告白する前に一回落ち着いて深呼吸して! がんばれ、がんばれー!」 聞こえなくても応援は十分だ。そわそわと美虎は真っ直ぐに見つめている。傷ついた体であれど、気になるものは気になってしまう――それに、叶えばいいな、と思うのだ。もうすぐバレンタインだ、こういう季節なのだろう。美虎ちゃん、ドキドキの様子で遠巻きに告白現場をここまでかと言うほどに見つめている。 「あ、何か言ってるわ」 「あー……男の方も何か返してるで御座る」 状況を口にする糾華と幸成の声に、何とかなるよ、人生だしな、と軽く笑うフツ。緊張した様な少女達の表情が、段々とどうなるの、と強張っていく。 「あ」 「やったーっ!!」 がさり、と茂みの中から飛び出した美虎。慌ててそれを押さえこんで胸を撫で下ろしたアンジェリカは手を繋ぎ公園から去っていく少女の背中を見つめて良かったと小さく笑った。 願わくば、これからも、ずっと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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