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小さなアークの長い一日

●小さなアーク
 閑静な住宅街を抜けた先には小さな田舎の風景が残されていた。農閑期の畑は足場の悪いグラウンドのようだった。その奥の校舎に当たるところに雑木林があった。枯れ木が林立する寂しい状態で人の姿は滅多に見られない。
 そこに半透明の三人の子供が颯爽と現れた。全員がパジャマ姿で落ち葉を蹴散らす。腕の振りはとても良い。先頭は二人の女の子で跳ねるように歩いていた。
 短めのツインテールの女の子が不意に顔を後ろに向けた。
「市川隊員、遅れてますよ。しっかり歩きなさい」
「イックンは、なんでも遅すぎるんだよぉ」
 おかっぱ頭の女の子は舌足らずな喋り方で毒を吐いた。
「そっちが速いんだろ。それに急ぐ必要もないし」
「急ぐわよ。隊員になりたい人が来てるかもしれないでしょ」
 そうだそうだぁ、とおかっぱ頭がにこやかな顔で言った。
「わかったから、ちゃんと前を向いて歩こうよ」
「わかればよろしい」
 三人は雑木林の中央に向かった。木々の合間から目指す先は見えている。
「今日も無事に帰ってきました」
「お家に帰ってきたよぉ」
「お家じゃないから。ここは支部だからね。そこのところ、間違えないように」
 三人の前には一本の太い木が生えている。根元には段ボール箱を壁とした犬小屋風の支部があった。正面の右隅には薄汚れたベニヤ板が立て掛けられていた。『アークうえはらしぶ』とクレヨンの文字で辛うじて読める。
 青いビニールシートの屋根はドアの機能も兼ねていた。ツインテールが暖簾を捲る。待っていられない二人は壁をすり抜けて入った。
 全員が揃ったところでツインテールは力強く頷いた。
「今日は隊員になりたい人はいないみたいね」
「いつものことじゃないか」
「健彦のくせに生意気いうんじゃないわよ!」
「そうだそうだぁ、健彦のくせにぃ?」
 自分の言葉におかっぱ頭が首を傾げる。
 男の子は背中を丸めて息を吐いた。少し考えを纏めるかのように目を閉じる。
「まあ、父さんがアークの関係者で、それでボクがみんなに教えたんだけど。隊員が来たとして、何がやりたいの?」
 ツインテールは腕を組んだ。そして自信に満ち溢れた笑顔を浮かべる。
「まずは力を見せてもらうわ。アークの活動には必要だからね」
「たとえば、それってどんなことで」
「雑木林の中をみんなで走って競う! 市川隊員に負けるようだとダメよね」
「それとそれとぉ、おままごともぉ」
 おかっぱ頭が元気に手を上げた。それに対して二人は、ないない、と手を左右に振った。
「……アークはチーム活動だよね。おままごとは協調性を見る上で絶対に必要なものだと思う。一人がみんなの足を引っ張って危険に晒されるなんてことが現場で許されると――」
 別人と化した早口に、わかりました、と二人は深々と頭を下げた。
「おままごとでぇ、決定だよねぇ」
 たまに憑りつかれた状態になる、おかっぱ頭であった。

●微笑みの中で
 三人の遣り取りはモニター上で続いた。微笑ましい光景に一同の頬が緩む。
 和やかな雰囲気の中、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が説明に入った。
「わかっていると思うけど、三人は亡くなっているの。三高平市に近い病院に心臓で入院していたみたい。あの子たちは人を進んで傷つけるような存在ではないのだよ。でも、E・フォースなの」
 少し残念そうにイヴは視線を下げた。
「リベリスタは世界を脅かす存在を許さない。わかっているの。わかっているけど、お願いするよ。あの子たちの望みを叶えて、安らかな眠りを与えて欲しいの」
 イヴの言葉には真摯な想いが込められているように感じられた。そう、友達を助けて欲しい、と訴えるかのようだった。
 一同は力強く頷いて、それ以上の笑みで返した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒羽カラス  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月11日(月)22:12
ほのぼの路線に舞い戻ってきました。はい、黒羽カラスです。
少し癖のある三人の子ども達と一緒になって遊んでください。
あ、間違えました。アーク活動をしてください。では、内訳をどうぞ。

●場所
 最長で二百メートル、幅は三十メートル程度の長方形の雑木林。中央に『アークうえはらしぶ』がある。三人の子供が入れるくらいの小ぢんまりとした作りになっている。

●アークうえはらしぶの構成員(E・フォース)

柿崎茜(支部長)
 ツインテールの女の子で気は強い。かなりの行動派である。ただし、言動がいつも正しいとは限らない。言葉に威厳を持たせようとするものの、短気な性格が災いしてすぐに素に戻る。心根は優しい頼れるリーダーでもある。

春日部晴美(隊員)
 おかっぱ頭の女の子。舌足らずな言葉の通り、物事を深く考えない性格はストレス知らず。何かの拍子に論客になると手が付けられない。マシンガンのような正論で相手を遣り込める。意外と頭は良いのかもしれない。

市川健彦(隊員)
 二人の女の子に手を焼く苦労人。病院に長期入院していた時に二人にアークの話をして今に至る。状況を全て受け入れている訳ではないが、二人の女の子は大切に思っている。自主性はあまりなく、付き合いで行動を共にしている。

●アークうえはらしぶの活動
・隊員の希望者が一定数集まったところで支部長、並びに隊員が言葉を述べる。
・次に採用試験でもある、雑木林の二百メートル走が行われる。
・なぜか、おままごとまで組み込まれていた。貧乏な大家族の慎ましい朝食の光景、が主題らしい。
 母親役は春日部隊員。父親役は市川隊員。二人の子供の長女役が柿崎支部長となっている。あとは家族であれば、どのような配役でも可能。途中で考えるのが面倒になった、とのこと。
・最後に三人と戦闘が行われる。物を投げたりする程度の攻撃なので多少の演技力は必要かもしれない。

色々とアレでしょうが、採用試験がんばってください。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ナイトクリーク
草臥 紅葉(BNE001702)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
ナイトクリーク
荒苦那・まお(BNE003202)
クロスイージス
犬吠埼 守(BNE003268)
クリミナルスタア
敷島 つな(BNE003853)
クロスイージス
ミルト・レーヴェ(BNE004277)
デュランダル
有栖川 氷花(BNE004287)

●顔合わせ
 空は南国の海を連想させるくらいに青い。降り注ぐ陽光は雑木林を輝かせた。一同は目を細めるようにして枯れ葉の中をゆく。前方に青いビニールシートの屋根が見えてきた。今回の目指す先、『アークうえはらしぶ』である。
 白い髪をなびかせて『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が躍動感に溢れる動きで先頭に立った。
「アークの噂を聞いてやってきたんだが」
 外からのエルヴィンの問い掛けに、来たじゃない、と支部の中から声が上がった。なんで来るんだろう。疑うような物言いには、失礼でしょ、と強めに返した。おままごとぉ、おままごとぉ、と舌足らずな声が聞こえてくる。興奮するのはここまでよ。まずは支部の代表のわたしが挨拶をするから……えっと手を上げているので春日部隊員も一緒に来て。
 筒抜けの会話に緩んだ表情を一同は引き締める。青いシートが捲れて短めのツインテールとおかっぱ頭が現れた。
 端正な顔立ちのエルヴィンは驚いた表情で口笛を吹いた。
「こんな可愛らしいお嬢さん達にお出迎えされるとは思ってなかったよ」
「そ、そんなこと、ないですけど」
 ツインテールの柿崎茜は俯いて小声で言った。
「可愛らしいお嬢さんはぁ、おままごとがしたいんだよぉ」
 おかっぱ頭の春日部晴美は陽気に手を上げた。そこにジャージ姿の『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)が進み出た。顔の半分近くを占めるマスクは躊躇いなく外された。
「おはようございます。隊員になりたいまおです」
「なんでぇなんでぇ、口がパカッてなってるぅ。なんかすごくてぇ、カッコイイかもぉ」
 興奮した声に触発されたのか。ようやく茜は顔を上げた。短く息を吸い込んで目を丸くする。周囲に遠慮のない指を向けて支部に駆け込んだ。
「クモっぽいのよ。二本足のブタがいてフクロウなんて着物なのよ!」
「ちょ、ちょっと待って。落ち着いてくれないと、意味がわからないよ」
「健彦のくせに生意気よ。早く来て。見ればわかるんだから」
 茜に片腕を抱えられた少年、市川健彦は半ば引きずり出される形で姿を見せた。
「ほらね、わかったでしょ」
「そう、だね。目にしたのは初めてだから少し驚いたよ」
 健彦の流れるような視線が一人の偉丈夫で止まった。急に畏まった顔になる。
「あ、拙者は虎鐵と申すものでござる。この尻尾はアクセサリーでござるよ」
 『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は激しい闘争の日々が刻まれた顔で笑って見せた。屈託ない笑顔に健彦の表情も幾分和らぐ。
「やあ、こんにちは! 俺たちは入隊を希望する者です。よろしく!」
 警察官を思わせる制服に帽子を着用。『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)は言葉の最後に揃えた指をこめかみに当てた。敬礼を目の当たりにした三人は取り敢えず頭を下げる。
「次は私の番かしら? アークうえはらしぶに隊員として立候補ですの。宜しくお願いしますわ」
 流氷のような水色の髪に同色のフォーマルウェアが白い肌に栄える。『粉砕者』有栖川 氷花(BNE004287)は微笑を浮かべた。見惚れた様子の健彦にバカと茜は少し唇を尖らせた。
「僕は大人だけど、入隊希望者だよ。入れてくれるかな?」
 光の粒を弾くような金髪に白を基調にした服は天使と見紛う。ミルト・レーヴェ(BNE004277)は胸元に手を組んで言った。
「大歓迎だよぉ。それにボクっ娘を初めて見たよぉ」
 晴美はミルトの手を握って嬉しそうに笑った。記念の握手のつもりなのだろうか。
 穏やかな流れを待っていたかのように和装の『もみ婆』草臥 紅葉(BNE001702)が静々と歩み出た。
「初めまして、あたしゃ草臥紅葉。この通り、ミミズクなんよ」
「……フクロウじゃなかったんだ」
 茜の呆然とした声に紅葉は頭の尖った部分を片翼で示す。羽角という名称の羽毛の有無でフクロウと見分けられることを説明した。すると、それって耳じゃないんだ、と返されて紅葉はホゥホゥと楽しげに笑うのだった。

●採用試験
 その場の全員が茜に注目した。ツインテールが心の中を語るかのように小刻みに震える。両隣の二人の心配そうな視線に気づくと、急に胸を張った。
「アークうえはらしぶにようこそ。わたしが支部長を務める柿崎茜です。右が春日部晴美隊員で左は市川健彦隊員になります」
「晴美ですぅ。おままごと担当なのでぇ、よろしくぅ」
 茜の片方の眉が瞬時に上がった。見て取った健彦は早口で紹介を済ませて、話の続きをやんわりと促す。わかってるわよ、と茜は囁いて姿勢を正した。
「これから入隊試験を行います。まずは走る力を試します。わたし達が案内するので雑木林の端に移動してください」
「隊員になれたら支部長を目指して頑張りますわ」
 氷花の歩きながらの発言に先頭の茜が顔を向けて、がんばってください、と目を剥いて笑った。穏便に済まそうとする健彦には再度のバカの一言で切り捨てた。
 農閑期に入った畑の向こうに家並みが見える。そちらに全員が背中を向けて横一列に並んだ。ほぼ真ん中に勝気な顔の茜が陣取る。右には微笑みの晴美。左に困ったような顔の健彦が控えた。更に隣りにはふくよかな体型の『砂のダイヤ』敷島 つな(BNE003853)がいた。意気込みのせいなのか。走る前から少し息が荒い。
「支部長のわたしを含めて全員が走ります。位置に付いて」
 茜の声が強まる。やや上体を前傾にして、自らの号令で跳び出した。ほぼ同時に晴美は笑い声を上げながら正面の木に突っ込む。二人は矢のような軌道で木々をすり抜けていった。
「どんな試験だよ、まったく」
 他の者と同様に健彦は木を避けながら走る。少し前にはエルヴィンがいて余裕のある表情を垣間見せた。
 先頭の二人に匹敵する位置に、まおが付けていた。動き易いジャージの恩恵よりも際立つのは機敏な動きであった。速度を落とさず、木々の合間を鋭角で抜けていく。
「ああ~、もう駄目だわ……走れない……」
 つなは汗まみれになって健彦の背中を追いかけた。荒い息遣いの中、頻繁にブヒという鳴き声が混じる。
「虎の速度……なめるなでござる!」
 虎鐵が勇ましく吠えた。残念ながら順位は下から数えた方が早い。大きな身体は木に当たって減速を余儀なくされた。安定した走りの氷花は横目で様子を窺う。
「元お巡りさんの脚力を舐めちゃいけませんよ!」
 守は大きく腕を振った。連動して足は動いている。ただし歩幅が圧倒的に足りなかった。昔ながらの日本人の体型を引き継いでいたのだった。
「雑木林の風景を眺めながら進むんもええね」
 日向ぼっこを楽しむような声で紅葉は言った。すぐ近くなので守は、そうですね、と相槌を打った。
 最下位はミルトであった。予定とかなり違うのか。独り言に近い愚痴が零れる。
「僕は中間を希望していたのに」
 その時、茜のゴールの声が辺りに響き渡った。二番手の晴美は雑木林を突っ切った。両手を広げて畑に着地。直後にまおが入り、エルヴィンと続く。
「五着か」
 健彦の呟きは叶わず、転倒したつなが僅差で勝った。巨大な肉団子と化して転がり、畑にまで飛び出して、ようやく止まることができた。
「け、結果オーライ、ね……フゴッ!」
「まあ、六着でもいいけど」
「なかなかの順位じゃねぇの。息切れも無いようだし、半透明の身体のおかげか?」
 エルヴィンは健彦にさらりと言った。指摘されたことを確認するかのように手を空に翳して、そうですね、と気軽に返した。
 全員が雑木林を駆け抜けたので健彦は茜に判定を聞いた。え、と軽く声を出して少し考えるように頭を傾げる。
「その、みんな頑張って走ったみたいだから、まずは合格点よね」
 一着に浮かれて周囲を見ていなかった。茜の怪しい言動が雄弁に語っていた。
「そういうことで、みなさんもよろしくお願いします」
 微妙な笑顔の健彦に一同も、それなりの笑顔で答えた。
「次はメインのおままごとぉ」
 晴美は枯れ木を使って地面に線を引く。支部を四角く取り囲むようにして舞台は完成した。
「さあ、あんた達。こんなところに立っていないで早く家に入りなさい。朝食にするわよ」母親然とした物言いで晴美は囲いの一部に立った。腰の辺りの空間に手を伸ばし、丸めた指先で横に動かした。
「うちは引き戸だからドアのように開けるんじゃないよ」
 晴美は睨むように振り返って、きびきびと入っていった。おままごとが最難関かもしれない。全員の表情が少し強張って見えた。

 支部の屋根に向かって母親役の晴美が鍋を振るような動作をした。コンロに見立てているようだった。
「皿を卓袱台に運ぶんだよ。ほら長女と次女で協力して」
 次女役の氷花が皿を持参した。長女役の茜と争うようにして運ぶ。負けませんわ、と片方が言えば、こっちだって、と姉妹役を熱演した。父親役の健彦は少し肩身が狭いのか。新聞を読むような姿で固まっている。
 そこに兄貴役のエルヴィンが颯爽と現れた。
「おはよー、母さんメシできてる?」
「出汁用のイリコを竹輪の薄切りと一緒にフライパンで炒めているところだよ」
「泣けるおかずだな」
 大袈裟に仰け反ったあと、気を取り直して近くにいた茜の頭を撫で回す。
「な、ちょっとやめなさいよ」
「やめねーよ、だって俺シスコンだもん」
 突然、エルヴィンは体勢を崩された。茜は頭の手をすり抜けて前屈みになり、小さく舌を突き出した。
「なんだよ、可愛いじゃねぇか」
 エルヴィンとは別に屋外の虎鐵が食い入るように茜を見詰めていた。
「三女はそろそろ電子ジャーのごはんをよそって」
「まおは、ごはんをよそうのです」
「あんまりごはんを盛るんじゃないよ。三合しか炊いてないんだからね」
 まおは頷いて、丸めた手にごはんをよそう手つきをした。早々と卓袱台の一角に座っていた長男役の守が声を張り上げた。
「よーし、兄ちゃん朝から丼飯お代わりしちゃうぞ、って考えてたのですが、とんでもない貧乏設定なので、ひ、ひもじい、みたいな?」
「まおが少し多く入れておきました」
「仕方ない子だねぇ」
 そんな晴美の足元ではペット役のつなが鳴いていた。四つん這いで頻りに鼻を動かす。
「わかってるよ。ちゃんとトンカツのごはんもあるから」
 初めて明かされたペットの名前に健彦が噴き出した。つなは怯えたように頭を振った。晴美は上機嫌な様子で話を進める。
「今日のトンカツのごはんはパンの耳に余ったごはん粒を塗して、少し薄めた牛乳で和えた極上の一品さ」
 ブタの餌としては極上なのかもしれない。想像できる味なので相当の演技力を要求された。つなは喜びを体全体で表現した。
「おはよー」
 少し遅れて末っ子役のミルトがやってきた。金髪の女性ではあるが設定は男になっていた。本人の希望でもある。湯呑の茶を啜る仕草の紅葉の横に座った。
「おはようやねぇ」
 紅葉は慈愛に満ちた目でミルトを迎え入れた。
 最後を飾るのは大柄な虎鐵であった。
「お久しぶりでござる。母親の不倫相手ではござらんよ。それだと家族じゃないでござるよな! 親戚の叔父さんでござる。お土産のサンドイッチは本物でござるよ」
「おかーさん、この怖い人誰?」
 ミルトが心配そうな声を出した。
「あらあら、大胆な登場ね。みんながいるのに、がまんできなくなったの?」
 晴美は舌で、ゆっくりと下唇を舐めた。虎鐵は相手の行為に目を奪われたかのように持っていたお土産を落とす。こちらに来て、と晴美に先導されるまま、木の裏へと連れ込まれた。そこから艶めかしい声が聞こえてくる。
「……こんなに長くして。虎鐵さんったら。ほら、握るとビクンってなる。太くて立派で、そして温かいわ」
 まおは立ち上がった。皆に呼び掛けて木の裏に速やかに移動する。そこで目にしたのは直立不動の虎鐵の尻尾を握る晴美の姿であった。
「いきなりの不倫騒動勃発かよ」
 エルヴィンの声に、まおが紅葉に目を向けた。湯呑を持った格好で一口啜る。
「あたしゃ、こんな叔父さんは知らんなぁ」
「ま、待つでござるよ。拙者は残念なロリコンであっても不倫相手ではござらんよ!」
 全員が笑顔で修羅場に相応しい殴る真似に励んだ。その中には、このぉこのぉ、と嬉々として晴美も加わり、すっかり素に戻っていた。結果として二次試験は、おままごとぉ、とても満足したよぉ、という判定に終わった。

 各自が持ち寄った物で簡単な昼食を済ませた。茜は周囲に目をやって、すっくと立ち上がる。
「それでは最後に戦闘です。わたし達、三人が相手をします」
「あ、あのさ、もう十分じゃないかな」
「なにを弱気になってるのよ、健彦は」
「イックンさぁ、やろうよぉ」
 二人の勢いは止まりそうにない。わかったよ、と健彦は諦め顔で言った。すぐに周囲に視線を向けて微かに頭を下げた。
「大丈夫だ」
 近くにいたエルヴィンは親指を立てて見せた。
「それじゃあ、戦闘開始!」
 茜は高々と跳躍した。プールに飛び込むかのように頭部から地面に吸い込まれていった。地中を自在に泳げるのか。突然に浮上して石や木の枝を投げ付けた。
「ええ、なんで当たらないのよ」
 茜はまおの様子に驚いた。避ける動作を見せないで頭上の全てを切り刻んだのだ。鋼糸は細くて速い。根元に付けたヤモリの飾りを手で弄っているようにしか見えなかった。
 同じように晴美は地面を潜った。木の幹を垂直に泳いだのか。それぇ、と真上から石をばら撒いた。
 意表を突かれたミルトに石が当たった。
「む、当たっちゃったか。僕に当てるなんてなかなかやるね」
「やったぁ、褒められちゃったぁ」
 木の上で晴美は小躍りした。
「よぉーし、いいとこ見せなきゃね!」
 つなは健彦に突進した。拳を後方に引いて威力を高めたものの、放つ瞬間に足がもつれて難なく躱された。片足で踏ん張って器用に跳ねる。
「プギーッ、やるわね!」
 背後に回られないように急いで元に戻る。両足を左右に開いて踏ん張り、どっしりと構えた。
 三人は次に備えて集まった。虎鐵は右目で捉えて腰を落とす。一振りの刀の柄に手を掛けた。
「潜在能力を解放するでござる」
 全身から放出される力が刀に集中する。鞘の部分が球状に輝き始めた刹那、一足飛びで距離を縮めた。繰り出される凄まじい一閃は三人の背後の木に命中した。轟音と共に虎鐵は力尽きたと言わんばかりに倒れ込んだ。
 三人は呆けた顔で背後を目にして、その場にへたり込んでしまった。一本の木は幹から砕かれていた。

●入隊式
 腰が抜けた状態から逸早く脱出した茜は、少し恥ずかしそうにして周囲に目をやる。
「まあ、あなた達の力は認めてあげるわよ。ちょっとそこで待ってなさい」
 茜は支部の中に入って間もなく出てきた。両手には五百円玉くらいの大きさの茶色い厚紙を持っていた。
「あなた達、全員をアークうえはらしぶの隊員と認めます」
 晴美は笑顔で拍手を送る。健彦も大いに手を叩いた。
 茜は順番に呼び出して、おめでとう、という言葉で丸い厚紙を手渡した。中央には力強い文字でアークと書かれていた。全員に行き渡ると茜は守を目にした。二人に何かを囁いてタイミングを見計らう。
「アークとしての活躍を期待します」
 茜は揃えた指をこめかみに当てた。他の二人も同じ姿勢を取る。
「君たちは俺たちの中で生き続けます。決して忘れない」
 守は同様の敬礼で返した。茜と晴美は笑顔のまま、大気に溶け込んだ。
「みなさん、ありがとうございました」
 最後の一人になった健彦は泣きそうな顔で深々と頭を下げた。そして数秒で笑顔を取り戻す。
「憧れのアークとして、二人はちゃんと生きることができました。ボクも無事に見届けられました。アークのみなさん、本当にありがとう」
 頬には一筋の涙が伝う。健彦は大きく手を振り、満面の笑顔で陽光の中に消えていった。
「うん、三人共さすがアークや。志は継いでくよ」
 紅葉は受け取ったアークの証を懐にしまう。

 各々がアークを胸に支部を後にした。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
三人の子供たちにお付き合いいただき、ありがとうございました。
シナリオに色々と盛り込み、削ったり付け足したりの末に一つの答えに辿り着きました。

アークを胸に秘めて今後もご活躍ください。
心優しいアークのみなさん、ありがとうございました。