●人を呪わば……。 どんよりとした空気。じっとりと、肌に貼りつく湿気。腐敗臭に満ちた部屋の中、布団に横たわる老人が1人。血混じりの咳を繰り返すその老人の目は、紅く血走っていた。 何に使うかも分からない奇妙な道具に溢れた老人の家は、街の外れの林の奥にある。地元の者は誰も近寄らないこの林は、老人の私有地だ。家族もなく、友人もない。そんな老人の最後を看取る者は誰もいない。震える老人の手が、枕元の小槌を手に取る。骨ばって、乾いた木の枝のような老人の手。小槌の傍には、数本の釘と、藁人形。 老人の仕事は、呪い屋と呼ばれるものだった。人を呪わば穴二つ。ここ数カ月、毎日のように悪夢を見て、体調不良に悩まされていた老人の脳裏に、その言葉が過ぎる。きっと自分は、何者かに呪われて死んでいくのだろう。この生き方に後悔はない。 だが……。 「……嫌だ」 誰にも看取られることなく、こんな場所で無様な死を迎える。その事だけが、老人は許せなかった。 苦しんで死んでいくのは仕方ない。 しかし、彼は思う。 「……呪ってやる。何処の誰かは知らないが、呪ってやるぞ」 しわがれた声で、そう呟いた。 彼が覚性したのは、この瞬間だっただろうか……。 「呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う……」 ぶつぶつとそう呟く老人。彼の目は既に正気ではなかった。 それどころか、彼の目は真っ黒に染まっていたのだ。白目も黒眼もなく、ただただ真っ黒に。 それはまるで、深い闇のようで。 「呪う……」 この言葉と思い以外を、彼は失ってしまった。 ●悲しい話 「ノーフェイス(呪い屋)と、同時に発生したE・ゴーレム(藁人形)が2体。そこに居るだけで周囲の人間を(不吉)にする」 何処へ行こうとしているかは分からないけど、とそう呟いて『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がモニターを映す。 そこには、白い着物を着た老人の姿が映っている。肌は黒く、まるで枯れ木のようだ。真っ黒い目には、何も映っていない。老人の前を歩くのは、慎重2メートルはあろうかというほどの巨大な藁人形が2体。巨大な釘を手に、藁人形は歩く。 「老人の能力のせいで、こちらは常にBS(不吉)状態。また、藁人形には受けたダメージの2割を相手に反射する性能が備わっている」 老人と藁人形は、現在林を街に向けて進行中のようだ。呪う、という想いに取りつかれた呪い屋は、どこへ行こうというのだろうか。 「神秘系の攻撃を得意とするみたい。また、藁人形は呪い屋が消滅しない限り、倒しても数ターンで蘇生する」 林を出るまでにかかる時間は、1~2時間程度だろうか? 周囲の人間を不吉にする彼が、人の多い場所に辿り着いてしまうと何が起きるか分からない。 「急いで……。呪いは、ここで立ち切って」 そう告げて、イヴは床に目を伏せた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月10日(日)23:03 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●怨嗟の声は、黄昏時に木霊して……。 赤い。血のように赤い夕陽。時刻は黄昏時。黄昏……。或いは、誰ぞ彼。夜と昼の境では、そこにいる誰かの姿すら影になってハッキリしない。 人なのか、或いはそうでない何かなのか……。真っ赤に染まって、分からない。 林を進む、この老人もそうだ。それから、老人に付いて歩く藁人形も……。 人から、それ以外の何かへ変貌した姿。ノーフェイスと呼ばれる存在へと成り果ててしまったのである。「呪う呪う」と呟き続け、真っ黒い瞳は何も映さない。 ●死にゆく男は、呪いを撒いて 「何事も用心するにこしたことは無いでしょう……」 翼を隠し、周囲に人避けの結界を展開する『紫苑』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)。この場に一般人を通さない為の配慮であろう。万が一にも関係のない者を巻き込むわけにはいかない。 『最後の最後まで呪い逝くのね。良いんじゃない?』 懐中電灯に明りを灯し『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)は、首を傾げた。ハイテレパスにより、彼女の声は直接脳裏に響く。懐中電灯の明りも、強すぎる夕陽の前ではさしたる役には立たないようだ。 「人を呪わば、といいますが……呪いそのものになるとは思わなかったでしょうに」 静かな声が響く。瞬間、『カゲキに、イタい』街多米・生佐目(BNE004013)の気配が急にその場に現れた。気配遮断。自らの気配をほぼ完全に消してしまう技能によるものだ。 「人を呪わばなんとやら。神を呪うワタシは一体どうなるんでございましょう」 なんて、楽しげに呟く『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)。スキルを使って、仲間達の背に一時的ながらも翼を付与していく。 黄昏時。真っ赤に染まった林を進むこと数十分。周囲に立ちこめる空気がどんよりと淀んできた。そんな中『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)が、ピタリと足を止めた。 「見つけた」 千里眼で木々の先を見通し、見つけたのはゆっくりと林を進む、黒い老人と巨大な藁人形。 「全部殺しちゃっていいんだよね!」 パキ、と小枝の折れる音。地面を蹴って『死刑人』双樹 沙羅(BNE004205)が飛び出した。他の仲間たちもそれに続く。巨大な鎌を肩に担いで木を避け、駆け抜ける沙羅。 「おぉ!!」 力一杯、大鎌を振り下ろす。気合い一閃。全力で持って振るわれた鎌は、空気を切り裂き老人へと襲い掛かる。老人の傍を進んでいた藁人形が1体、刃の前に躍り出る。片手に大きな釘を持ち、沙羅の鎌を受け止めた。衝撃。木の枝が揺れる。 一拍の間を挟み、藁人形の体が大きく後ろに吹き飛んだ。 「よう、親父さん。牛の刻参りにゃ早かないかい?」 老人の真横をすり抜けながら『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)が、そう囁いた。しかし老人の瞳はまっすぐ遠くを見たまま、ちらりとも小烏を見ようとしない。ちっ、と小さく舌を打って小烏は藁人形を抑えに向かう。 吹き飛んだ藁人形なぞ無視して、老人は進む。「呪う呪う」と何度も呟くだけでこちらの存在など気にも止めていないのだろう。 「やっほー、どちらへ行かれるのかしご老人? 悪いけどここで止まって貰うよ」 骨でできた鉈のような大剣を手に『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が、老人の前に立ちはだかる。 「これ以上は先に進ませない。ここで終わらせる、変身っ!」 ポーズと共に、装備を身に纏う疾風。フランシスカの隣に立ち、老人達の進路を塞ぐ。老人の背後には、生佐目の姿。 シエルと沙希、海依音が戦場から多少離れた位置に陣取る。 老人を庇うように動いた藁人形へ向かって、沙羅が大鎌を叩きつけた。 「この人形風情が、ボクの手を煩わせてくれるな」 釘と刃がぶつかって、火花が散った。藁人形がよろけ、後ろに下がる。それを追って、沙羅は大きく踏み込んだ。突き出された釘が、沙羅の頬を掠めて血を散らす。 「……っつ!?」 鎌の刃が藁人形に突き刺さった瞬間、沙羅の胸に痛みが走る。藁人形による反射ダメージだ。 「呪い屋を倒すのが最優先か」 短刀と鏡で、藁人形を抑えにかかる小烏。チラ、と背後を振りかえるとそこには、囲まれて尚、前へと進もうとしている老人の姿があった。真っ黒に染まった枯れ木のような体。呪う、という意思以外を失い、無意味に呪いを撒き散らす存在。 藁人形を蹴って、距離を取る小烏。式符を取り出し、老人へと放つ。無数の札が、烏へと姿を変える。鳥葬さながらの烏の群が老人を襲う。 「人を呪わば穴二つ。同じ穴の狢同士、これでお揃いだよ」 そう呟く小烏の背後に、藁人形が迫る。振り下ろされる釘を鏡で受け止め、小烏はギリ、と歯を食いしばった。 「呪う呪う……呪う」 烏の群には目もくれず、老人はそう呟いた。瞬間、彼の周囲に無数の腕が展開。腕は疾風とフランシスカを掴み、地面に引き倒す。 と、同時に老人の姿が烏に包まれ見えなくなった。今の内に、と腕を回避した生佐目が老人に迫る。生佐目の周囲から発生した霧が、烏ごと老人を包みこんだ。 「呪い屋相手に、これほど相応しい一撃はありますまい」 スケフィントンの娘、と呼ばれる技である。霧が集まり、箱の形を形成する。 黒い箱だ。老人を閉じ込め、ありとあらゆる苦痛を与える……。 『弱点でも、あればいいのだけど』 エネミースキャンで敵を見据えながら、沙希はそう呟いた。呟いた、とは言っても彼女の声は空気を震わせ伝わるものではない。その為、その声を脳裏に聞いていたのは、隣に立つシエルのみだ。 「さっちゃ……こほん。沙希様、あまり出ると、危ないです」 木の裏側へと、沙希を引きもどしながらシエルは呟く。そうは言うものの、しかし彼女の視線も自然と戦場へと向いていく。 そんな2人を尻目に、海依音が一歩、前へ出た。杖を掲げ、目を閉じる。放たれるは聖なる閃光。藁人形や老人を白い光が包み込む。 「さて、神の目の裁きを下しましょう。なんて皮肉。なんて二律背反」 目を細め、冷たく笑う。反射ダメージによるものか、全身に焼けつくような痛みを感じながらも、皮肉を込めた笑みを止めようとはしない。 「……っぐ!?」 ドロ、っと赤い血が地面に滴る。目を見開き、自身の腹部を見降ろす生佐目。血の滴が伝う巨大な釘が、腹に突き刺さっている。釘を中心に、身体の自由が効かなくなっていくのを感じた。ジワリと額に汗が滲む。 視線の先で、霧が晴れる。そこには、腕を大きく突き出した老人の姿。遅ればせながら、腹に刺さったこの釘が、老人の放った呪詛であると悟る。 動きの止まった生佐目と入れ替わるように、疾風とフランシスカが無数の腕を切り裂いて、前に出た。左右から挟みこむように老人に迫る。 「無様な死だとしても、それが今まで呪ってきた代償なんだよ! それを覚悟出来ないのなら生業にするべきではなかったな!」 縦横無尽にナイフを振り回し、淀みない動きで老人を切りつける疾風。ナイフの刀身が蒼く光、軌跡を描く。痛みもなにも、感じていないのだろう。老人はただ、無表情に疾風を見つめている。 ズン、と鈍い音が響いた。それは、疾風の体に無数の釘が突き刺さった音だ。疾風の背から、翼の加護で得ていた虚構の翼が砕け散った。釘を放ったのは小烏の抑えていた藁人形だ。 「……しまった」 小烏が呻く。藁人形を蹴り飛ばし、木に押しつける。藁人形を引き離し、仲間の援護に戻ろうとした矢先の出来事である。式符で作った鴉が、藁人形の頭部を粉砕した。 「呪う呪う呪う呪う……」 老人の眼前に、蒼く燃える釘が現れた。釘の先端は、フランシスカに向いている。釘が放たれた瞬間、フランシスカを庇うように疾風が飛び出した。しかし、釘は疾風の肩を貫いて、背後のフランシスカへと突き刺さる。 「あ、っぐ!!」 腹を貫かれ、地面を転がるフランシスカ。釘の勢いは尚、止まらない。そのまま最後列の海依音に襲いかかる。 「え!?」 戸惑いの声をあげる海依音。そんな海依音を、横から押す者がいた。海依音の代わりに釘に貫かれたのは、薄く微笑む沙希だった。 『くす……』 海依音の脳裏に、沙希の微笑む声が響く。3人纏めて貫いて、釘は消え去った。蒼い炎に混じって、鮮血が飛び散る。腹と口から、血を零しながら、それでも沙希は笑っていた。蒼い着物が、紅く濡れていく。 『向こうを』 血の滴る腹部を抑え、沙希が指さしたのは疾風だった。意識はある、倒れてもいない。とはいえ、毒に侵され顔色が悪い。蒼く焼ける肩の傷を抑え、ナイフを握っていた。 「来たれ、癒しの微風……!」 燐光が、風に舞い踊る。疾風を包み、その傷を癒す。毒までは消えないらしく、未だに顔色は悪いままだが。そちらは、小烏が対処するようですでにブレイクフィアーの発動に取りかかっていた。 一方、邪魔するものの無くなった老人は、再び前へ前へと歩み始める。 「心苦しいものですが、進ませるわけにはいきません」 刀を構えた生佐目が老人の背後から斬り掛かる。血の如く赤く染まった刀身。夕陽を反射する紅い一閃が、老人を切り裂いた。 「呪う」 グルリ、と老人の頭が背後を振りかえる。捉えられた、と生佐目が悟った頃にはすでに遅い。無数の腕が、生佐目の体を掴んだ。 「呪う呪う呪う」 老人は言う。歌うように、何度も何度も、同じ言葉を繰り返す。周囲に展開した無数の腕。それらを体に纏わりつかせたまま、フランシスカが老人に跳びかかった。 「呪いに憑かれた哀れな魂、その呪縛から解き放ってあげる……ってね」 なんて、悪戯っぽく呟いて。振り下ろす剣には、漆黒の闇が纏わりついていた。闇を叩きつけるように、老人を切り裂く。反動に唇を噛みしめながら、フランシスカが地面に着地。 半身を闇に包まれた老人は、それでもなお、先へ進もうとしていた。 しかし……。 「………呪う」 ピタリ、と足を止め、老人は背後を振りかえる。老人の眼前に現れる蒼い炎を纏った釘。着地したばかりのフランシスカと、その後ろの生佐目にその先端が突きつけられる。 ボ、っと一瞬、炎の弾ける音がした。 「……あぁ!?」 「っぐ、ぉ!」 釘に貫かれ、2人の体が地面に転がった。ピクリとも動かないのを確認し、老人はそっとその場を後にする。 「やっぱり神の加護なんてないんですよ、偶像、虚栄……。それでも看取って差し上げますよ。運命に愛されなかったあなたにも平等の愛を」 魔弾を展開させた海依音が、老人の進路を阻む。その視線の向く先は、老人の背後。ゆっくりと、だが確実に、生佐目とフランシスカが立ちあがった。血を流し、身体のあちこちに蒼い炎をこびり付かせている。 「まだ、終わっていませんので」 そう言って、海依音は魔弾を解き放つ。光の弾は、老人を撃ち抜き、その場に食い止める。 『呪えば呪い返されるけれども回復の祈りを捧げる分には恨みは買わない』 生佐目とフランシスカの脳裏に、沙希の声が響く。同時に、彼らの身を淡い燐光が包み込み、傷を癒していく。どことなく、2人を見る沙希の表情は喜悦に歪んでいるようにも見えた。 癒し手が、人の苦しむ顔を見て喜ぶなぞ、ゾっとしない。そう思い2人は沙希から視線を外した。 沙希と背中合わせになるように、シエルが立っている。その向こうでは小烏、沙羅、疾風が2体の藁人形を抑えていた。 喜々として大鎌を振るいながら、沙羅は言う。 「君は超寂しがり屋だね。良かったじゃないか。最後の瞬間にこんな沢山の人に見られながら死ねるんだよ。君は幸せ者だ……。おやすみね、おじーちゃん」 酷薄な、それでいて無邪気な笑みだ。振るわれる大鎌が、藁人形を切り裂いていく。起き上がっては、老人の元へと向かおうとする藁人形を、何度も何度も抑え込み、弾き飛ばす。 「ここが貴方の行き付く場所でございます、エイメン」 そっと、海依音は胸の前で十字を切った。逆十字、ではあるが。 「こうしている間にも、私もまた業を重ねるのでしょうね」 生佐目が言う。黒い霧が溢れだし、老人の体を包み込む。黒い腕を、足を、胴を飲み込み、最後に残った頭部目がけて、フランシスカが斬り掛かった。闇を纏った剣を振り下ろす彼女の姿を、しかし、真っ黒な老人の瞳は映さない。 「さようなら、呪い師さん」 彼女のことなど、眼中にないのだろう。或いは、自分の存在さえも。黒い瞳、濁った瞳だ。全て忘れて、呪いしか見えない。そんな眼。 「呪う……呪、う。のろ」 闇に飲まれて消え去るその直前まで、老人は呪いを口にし続けたのだった……。 『これでもう、藁人形は復活しません』 皆の脳裏に、沙希の声が響く。それを受け、真っ先に動いたのは沙羅だった。全身から発せられるオーラが、大鎌を包み込む。 沙羅の振り下ろすオーラを纏った斬撃。藁人形の腕を切り裂き、まだ止まらない。脚、胴、胸部、もう1本の腕と続き、最後に残った頭部を真っ二つに両断した。風に舞い、飛び散る藁の中、沙羅は言う。 「殺すの楽しい。壊すの超楽しい」 晴れやかな笑顔で、笑っていた。 「終わらせる!」 疾風が叫ぶ。蒼い閃光が瞬いた。否、それは高速で繰り出される斬撃の嵐だ。押されながらも、藁人形は無数の釘を展開した。射出された無数の釘は、式符をばら撒く小烏へ。 「さぁ、全力でぶつけてみろ。その散り様、しかと見届けてやる」 式符は、無数の烏に姿を変えた。無数の式符と、無数の釘が空中で衝突する。火花を散らし、次々と消える烏と釘。 1本……。 烏を突破した釘が、小烏の胸に突き刺さる。 1羽……。 釘を突破した烏が、藁人形の脳天を貫いた。 一瞬の静寂の後、藁人形は力を失い地面に倒れ込む。それを見降ろし、疾風はそっとナイフを仕舞った。 それは、戦闘の終わりを意味する。 ●呪い屋が消えた、その後に 「他人を呪う事は、自分をも呪うってことかもしれないな」 老人の遺体を見つめ、疾風はそっとそう呟いた。 漆黒の霧が晴れ、藁人形も消え去った後、残っていたのは老人の遺体だけだった。真っ黒だった全身は、元通り、死体特優の土気色。閉じられた瞳は、光こそないものの真っ黒ではない。多少損傷が激しいものの、そこにあるのは、至って普通の老人の遺体だった。 遺体の腕を取り、胸の上で組ませるシエル。 片手には数珠を握りしめ、そっとその場に膝を降ろす。 「彼岸は怖いものではありません。仏様の慈悲深さは測り知れないものです。大丈夫……だから……もう、ゆっくりとお休みくださいませ」 目を閉じ、囁くようにシエルは告げる。 願わくば。 彼の魂に救いが差し伸べられますように……。 そう祈らずには、いられなかった。 紅い夕陽が、山の向こうに沈んでいく。 直にこの場も、闇に包まれていくだろう。せめてそれまでは、と、そう思い、リベリスタ達はそっと、老人の遺体に黙祷を捧げるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|