●小さな反逆 煌々と照らされた月下の闇を少女が走る。 薄紅に煙る髪は乱れ、途切れる吐息に心臓は早鐘を打ち続けて久しい。 苦しげに細められた翠玉の眼差しが目指す先は甲斐の大地――甲府市である。 神奈川県からの大移動は、十二を数えたばかりの少女には酷な試みだった。 まだ横浜市内さえ抜け出せていないのだから。 とはいえ、突然の事態が彼女を取り囲むオトナ達を手こずらせたことは確かだった。 肩で息をしながら立ち止まった少女を、ほどなく自動車のヘッドライトが照らしあげる。 助手席から滲み出る人型の影に続いて、運転席と後部座席から三名の黒服が姿を現す。 人型の澱む闇『影主』にとって、桃色の髪の娘の行動は小さな誤算だった。 「エスターテ、戻りなさい」 断固たるバリトンに彩られた蝋のような白い手がエスターテと呼ばれた少女の肩を掴む。 「……様……ごめ……さい」 消え入りそうなイタリア訛りで、俯く少女の腕が黒服の男に引き渡される。 こうなった理由の推察は出来ていた。 元々、この日のために彼等は一つの計画を立てていた。 明日の昼に甲府市内のショッピングモールで、白昼堂々と大規模な虐殺事件を起こそうと目論んだのである。 理由は明快にも、箱舟のリベリスタ達を誘き寄せるためだ。 そして――未来を予知したエスターテが、それを阻止しようと行動したのだった。 ならば、なぜ? 「……なないで」 消え入りそうな声を振り絞るエスターテが車内に押し込まれる。 エメラルドの瞳は、どんな光景を何を見たというのだろう。 だが、それに関しては影主は理解出来ている。 「影主様、計画に支障は?」 「変更ありません。盟友『相模の蝮』きっての頼みを我々が断れますか?」 支障があろうと是非もない。胸ポケットから煙草を取り出しながら黒服が唸った。 「ともかく、エスターテお嬢様はすぐにでも相模へと向かって頂きます」 あたりに紫煙が漂う。 「ええ、よろしくお願いします」 月を見上げる影主の季節外れのコートが、生ぬるい風にはためいた。 影主が言葉を続ける。 「それに今回は――命を賭すのですから」 黒服の一人が問い、バリトンが答える。 「というよりも」 闇が哂う。 「変えることは出来ないのです」 ●少女の祈りは誰が為? 「見えた二つの未来のうちの、一つがソレ」 ブリーフィングルームのデスクに頬杖をついた『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、逆手で前髪をかきあげる。 「あれだよ、あれ。どうにも大変でいけないね。猫の手を借りたい位忙しいってのは冥利なのかも知れないが、 キャットハンズオールフリー、何せラヴ&ピースが一番だから。沙織ちゃんも情勢を調べてるらしいけどね」 なるほど、あの事件というわけだ。 「それで、一つって言った?」 他にもあるのかとリベリスタが問う。 「もう一つは、山梨県は甲府市内の小さなショッピングモールで、大量のお客が殺される事件さ」 この事件で、伸暁が見た未来は二つだということだ。 「整理しよう」 解説が難解といえば聞こえが良すぎる、トンチキとすら思える発言が多い伸暁にしては珍しい提案かもしれない。 影主と呼ばれるフィクサードは、甲府市のとあるショッピングモールで、アークが看過出来ぬ規模の事件を起こす計画を立てた。 おそらく件の『相模の蝮』に強く関連した事件で、何らかの目的のためにリベリスタを誘き寄せるための策略と想われる。 しかしこれまた何らかの思惑でそれを阻止しようと、フィクサードのお嬢様が家出を敢行した。 儚い少女の夢は破れて、間もなく遅れた行動は取り戻されることとなる。翌日になって甲府のショッピングモールで計画通りの虐殺事件が起こるのだ。 それで紆余曲折の為か、多くの情報を万華鏡が察知するに至ったというわけだ。 「つまりね、エスターテちゃんが未来を変える行動をとったわけだ」 なるほど。リベリスタ達は頷き、次の質問を投げかけようと口を開く。 「そうだね、あとは彼等についてだろ?」 その通りだ。出来る限りのプロファイルが知りたい。 難敵なのだから尚更だ。 「彼等のプロフィールはこれさ」 詳細とは言いがたいものの、前回と比較すればかなりの情報が揃っていた。 その一部はリベリスタ達の大きな成果でもある。 「フィクサード組織ダムナティオ・メモリアエ、ね」 御大層な名前だと、リベリスタ達が資料に目を落とす。 「不思議なことだけどね、調べた結果、元来彼等はこういった事件を起こす類の組織じゃないみたいなんだよ」 日本の裏社会の中で、資金の調達と洗浄が主なる仕事ということだった。 そんな仕事では、フォーチュナの少女はさぞや役立っているに違いない。 ともかく通常のフィクサード組織と比較すれば、所謂武力行使は全くといっていいほど行っていないというのだ。 風変わりな組織である。 「ネックは影主って奴の凶悪と言えるまでの強さだね」 黒服構成員達の能力こそ、リベリスタ達を僅かに上回る程度とは言え、彼個人の戦闘力は桁が違っている。 「今回、唯一のイイトコは、ボールがこっちにあることだ。そこでキメるのが、リベリスタの役目なのさ」 軽く言ってくれるものだ。 「フィールドにファンキーなドラマを吹かせてきなよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)02:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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