●嘆く鳥 ――此処は何て、不幸なセカイ。 ――感じる。『死』が満ちている。 ――哀しい。悲しいね。だから私達は此処に来たんだね。さあ、謳ってあげる。 ―――これまでの辛い事も、これからの辛い事も、全て無くして、おやすみなさい。 はためく鳥の羽音がした。羽根が空から降ってきた。空を見上げれば大きな鳥が羽ばたいていた。 白く、美しく、空を舞っている。 住民達の意識はそこで途切れた――。 ●闘う翼 「貴方がたが今大変な状況だと言う事は解っています。でも、それでもいつもの仕事も休んではくれません。一つ、お仕事です」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)は皆を労るようにしながら、手に持ったレポートを捲り上げた。 「アザーバイドが来ました。友好的……とはいかないようです。そして、時間も、ありません」 モニターに映し出されたのは一つの街の風景。 その空中に白い翼の鳥――ハーピーのような個体が数匹飛び回っている。 不思議と住宅街に騒ぎは無かった。リベリスタ達が首を傾げて見てみると、誰もが昏睡している。誰も起きてこない。 「この世界に落ちてきたのは偶然ですが、彼等は今、この世界を嘆いているようです。どうも『命が数多減る悲しい世界』と捉えたようで、持ちうる能力でこの世界の者を眠らせてあげよう、苦しみを味わう事無く命を消すと――そう思い至ったようです」 全国で死人が襲われる、彼等は其れを察知しているらしい。 けれど彼等はそれを食い止めようとするリベリスタ達の意思は知り得ずに、――いや、知っていたとしても恐らく同じ決断をくだしてしまった。 「まったく迷惑な来訪者ですが」 和泉からは思わず本音が零れ落ちた。こほんと咳払いして消し去ると、 「勿論数匹で出来ると彼等も思っていません。D・ホールは此処、教会の屋根の上にあります。時間が経つと仲間が増えてしまうので、皆さんには先ず、早急にこの穴の破壊を薦めます」 相手はアザーバイド。追い返すという対処方法もあるが、今回の相手はまるで「個」の無い集団のようで、決断した思考から動かない。固まっている。だから説得が通用する事は無いという。 「街に出てしまった五匹は散り散りなので、かき集めて戦うか、見つけ次第戦うか、始めに分散するか――方法はお任せします。けれど、気をつけてください」 和泉はリベリスタ達を見据える。 あまり悠長に構えていると、眠ってしまった一般市民がそのまま目を覚まさなくなってしまう――つまり、永眠してしまうという。特に教会の人達は始めに眠らされた為、長引くと死者が出てしまう。 「教会に居座る鳥を先ず倒せば、暫くは安全だと思いますが……」 見れば、眠る人の表情は皆穏やかだった。 優しい夢を見ているのだろう。鳥は包み込むような歌声を響かせている。 「リベリスタの皆さん、勿論貴方がたにもこの効果は襲い掛かります。一般の方とは違い、最悪眠ってしまっても起きる事は出来ると思いますが、――偽りの安寧に負けないで。 忙しい時期だとは思いますが、この件も、宜しくお願いします」 和泉はそう言うと、小さな会釈をリベリスタ達に送った。 ――鳥達は偽りの夢を魅せる。 ――おやすみなさい、疲れたでしょう。休んで良いのよ、と、囁き謳う。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:琉木 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月09日(土)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● トリが嘆く。鳥がウタう。 羽根が降り積もった街の中には殷々と歌声が響き渡っていた。 どこか――寂しく。 人が駆ける。異形と理不尽を砕くべく、意思が走る。 その心、烈火の如く。 「っかー、どうしてこうもアザーバイドってのは有難迷惑をやらかすんかね」 真っ先に悪態をついたのは『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)。苛々とする声色のまま、使い古されたメスを手の内で弄ぶ。 ばさりと翼を振るったのは『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)。鎧に身を包んだ小さな姿からは隠しようもない怒りが立ち上る。 たしかに死ねば楽だろう。しかし、傷つき、地を這いずり回り、それでもなお生きることを、否定するのは? それが心には許せない。 「散会デス、作戦通りに!」 「ええ、先ずは皆さんに翼の加護でございます。上から目線でワタシ達の幸せを決められるのは些か業腹にございますからね。教会の方は任せましたよ!」 兎に角惜しいのは時間。 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は言うが早いが白翼天杖――白と言いながら黒く塗りつぶされた杖を振るい、皆のその背に翼の加護を授け給った。 『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)と梶原 セレナ(BNE004215)は擦れ違い様、お互い苦い顔をする。 「こんなものでも足しになればいいのですが……」 「そうですね。後は、意地でも寝ないと心に決めて臨むのみ、です。――お互い、ご武運を」 紗理とセレナ、その口の放り込まれていたのは激辛ガム。せめて少しでも、理不尽な眠りに惑わされないように。 見れば教会からは絶え間ない歌声と、そして屋根に蠢く異界の穴。 「この世界の状況を憂うのはいいですけど~、やる事はありがた迷惑ですね~。そんな親切はノ~サンキュ~です~」 ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)は純白の翼を広げ、チャクラムを握った。 ● 発生した穴が小さかったのは幸いだったのだろう。ユーフォリアのチャクラムが、一回、二回。 ユーフォリアははっと見た。破壊された穴から白い羽根が落ちていた。そこまで来ていたのだろうか。しかし、首を振って屋根の上から合図を送れば、すっとその気配を消してしまう。 次は教会内の鳥を引き摺り出す事。 ギ、ギギと古めかしい音を立てて教会の扉が開かれる。 「初めましてね、異世界の来訪者。アンタに用事があって来たの、此処じゃ何だし外に行きましょ?」 教会には人が居た。老人も、子供も、皆鳥の歌声で眠っている。『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)は堂々たる声で宣告した。鳥は、しぃっと声を潜める。 まるで子供を諫めるよう。この人達が起きてしまうからと言うように。 「来ないなら無理矢理外に殴り飛ば――」 「きゃあぁっ!」 焔が乙女の拳を手に構えたその時、耳をつんざく悲鳴が響いた。芝原・花梨(BNE003998)の悲鳴。 「やだ、怖い!」 教会に偶然訪れてしまい、その異様な光景に思わず逃げてしまった一般人を装い開いた扉へと180度方向転換して逃げていく。 はっと焔が見上げれば鳥が翼を広げていた。 「嗚呼、可哀相に。そんなに怖い思いをしなくても、大丈夫」 「行ったわ!」 頭上を飛び越えて行く鳥を焔は追いかける。殴り飛ばす事は叶わなかったけど、掛かった。これからだ。 「――!」 鳥がホバリングして行く翼を止めた。 怯えて逃げていた花梨が振り返って睨んでいる。驚く間もなく紗理が「混沌」の名を冠するアナーキック・カトラスを、「秩序」の名を冠するアクシオマティック・カトラスを手に渦巻く風を纏い身体速度を向上させた。 続く『死刑人』双樹 沙羅(BNE004205)も『百叢薙を志す者』桃村 雪佳(BNE004233)も、片や不敵な笑みを、片や確固たる決意を。 「君達の悲しみの原因が来たよ。っていうかさぁ、早く帰らないと死んじゃうよ?」 ヴァンパイアたる沙羅の牙が鳥に掠め、雪佳の百叢薙剣がそれに続く。 「確かに人は死ぬ。だからこそ、人が死なずに済む為に俺は鍛錬を続けているんだ。そんなお前達を受け入れる事など……決して出来ない!」 ――嗚呼、何て嘆かわしい! 鳥は羽根を振りまき、仰々しく顔を覆う。 「そのまま眠れば何の遺憾も無いというのに!」 「悲しくて、辛い事だって忘れる事なんて出来ない。忘れたら、いけないの。だってソレも私の大切な一部だから!」 名も、髪も、その意気も燃えるように烈火。焔の拳は鳥を殴り抜けた。 同時刻、残りの鳥を集めるべくした者達も辿り着く。上空に白い背が見える。あれが、鳥。 心は羽ばたいた。息を吸い込んだ。 「あなた方に飛ぶ資格などありません! 地を這うフライエンジェ、姫宮心! あなた方の理想、潰させていただきます!」 その大声が鳥を呼んだ。振り返り、翼を向けてくる。 「ああ、うぜえ。鳥モドキが! テメェ勝手な同情で、善意の押し付けなんて要らないんですよ」 うざいったらありゃしない。詩人はその眼鏡を押し上げて計算する。近付いてこい、鳥モドキがと。 心はただ構える。目立つために今日は飛んだ。後、二匹も。――早くつられて飛んでくるが良い。 「すべてを受け止めるつもりで、壁になります!」 回復手が居ないなら居ないでやりようがある。海依音は集中する。癒さなくとも、戦う手があるのなら。業腹の気持ち、それをぶつけて殴って殲滅するだけ。 「たとえ苦しまずに死ぬとしても、死んでしまっては何も残りませんから。そんな消極的な幸福、誰も望んでいないと思いますよ」 セレナはその身を心の隣に羽ばたかせ、呟いた。 気付いた二匹、残り二匹も早く気付けと翼を広げ、広げる防御効率の輪。付与する時間が無かったのなら、今此処で。合流するまでは少しでも、仲間も、自分も、耐える戦いを。 「――まだ居たの、ね」 鳥が、一匹。二匹。心とセレナに肉薄した。 ● 鳥が歌った鎮魂歌。 そこに眠った人が居るのに。何故眠らせてあげないのと言うように響かせたものの、リベリスタ達はそんな歌を撥ね除ける。聞き入れない。 「さっさと倒れなさいよ! あっちこっち飛んで、あたし達の正義を踏み躙って!」 花梨が電撃を纏って鳥を撃ち抜いた。此処に居るのは一匹だけ、早く合流しなければと、我が身を削る事も厭わない。 ばさ、ばさと翼を振るって鳥は嘆く。 「何故、それが幸せだと――」 翻って飛び立とうとしたその上空に居たのはユーフォリア。飛び回る領域での不利は承知の上。幾度もその鳥を見切り続けたその腕で、一閃。 「逃げるのは禁止ですよ~って、消えちゃいましたね~」 散ったのは羽根。振りまかれた羽根の効力はまだ、無い。確かに蓄積するその誘いを受けながら、一同、走る。 「見た目ハーピーの癖に、歌じゃなくて羽根で眠らせるのかよ畜生。期待を裏切りやがって!」 一匹が振りまく羽根。 リベリスタ達が合流する前に、鳥は揃っていた。その中で翼を振りまくのが一匹なのは幸いか、しかし詩人はその期待外れに悪態を吐いていた。吐くだけでは無い、集まってきた鳥達へと閃光弾を投げつける。 カッと光るその光も、遠く上空に居れば当たりが悪い。掠めながらも狙い上々には一歩足りず、晴れた光の中から鳥が翼を広げた。 「歌ってあげるわ。だから眠りを受け入れなさい」 羽根に埋もれて眠った先で、漸く子守歌を貴方に――まるでそういうような鳥の口調は優しい。 「いらねーでございますよ」 真っ赤な修道服を翻し、真っ黒な杖を振りかざし、にんまり笑った海依音が溜めに溜めた鬱憤を光で放つ。 鳥は全てまだ上空。それでも溜まり溜まった意思は聖なる光を持って鳥を焼く。 「ワタシはあなた方みたいな押し付ける善意にみえる悪意っていうのが嫌いでございます!」 ――拒絶。 浄化されるが如く動きを鈍らせながら、高みから見下ろす鳥は見た。地を這い、抗う、哀れな生き物達を。 空を飛び、一心に鈎爪を受け続けては血を流す、沈まぬ盾を。 「―――哀れ、ね」 「あっ!」 合流してきた鳥の二匹がふわりと地に降り立った。より深く、より確実に鎮魂歌を響かせる為。 或いは、――眠らせる為。 「嫌になりますね……」 言ってセレナは歌を響かせる。セレナが歌うのは仲間を癒す優しさの微風。鈎爪に引っ掻かれ、声で囁かれ、ぼたぼたと血を流す心を包み込む。 すうっと息を吸い込んだ鳥の視線、その先に新たな影と足音。 「穴は閉じました! 残りはここに居るだけです!」 紗理が叫ぶ。 「何て事……封じてしまったの。そして一人、消してしまったのね」 鳥は憂う。 「えい~」 息を潜めたユーフォリアが投げるチャクラム、それが翼を削る。羽根が舞う。振り返られるままユーフォリアは空を舞った。鳥の更に頭上を取って鳥を囲う。 「可哀相な――人達」 鳥が再び翼を振るった。 羽根が舞う。偽りの優しさが舞う。 「眠るんじゃねーですよ! 杖でぶん殴ってさしあげますから……ね!」 海依音が声を張り上げる。そうでもしないと眠ってしまいそうで溜まらない。それに抗うのは意志の強さ、其れ。若しくは、 「眠気に負けてんじゃないよ。程度の弱者ならリベリスタやめちゃいな」 言いながら、沙羅に生まれた新たな傷。ぽた、ぽたりと赤い血を流す、自ら痛みを加える者は少なくない。 それでも、沙羅とてそう言い切らなければ落ちそうになる、これが異界の眠り。その力。 「姫宮さん!」 傷付いて、傷付いて、尚、怒りに燃える心にも染み入る睡魔はいっそその痛みすら消してしまう。負ければ、眠る。ぐらりと傾き駆けたそこを眼前の鳥が顔を寄せた。囁いた。 「は、あ!?」 防御がおろそかになるそこに耳朶を打つ甘い囁き声は呪い、そして永眠の誘い。神経を揺さぶるような衝撃が心を襲い、落ちそうになる。セレナは慌てて支えに回る。防御を――この翼はまだ持つだろうか、その前に傷を癒さなくては―― 「!!」 もう一匹がセレナと心を見ていた。不味い。 「―――!」 歌われた鎮魂歌はそれでも睡魔に抗って見据える心ごと自分に響き渡った。いや、リベリスタ達全員に。ただし、自分達には直撃を。 「心さん!!」 「―――かッ……!」 がくんと力の抜ける心をかろうじて支えてセレナは羽ばたき続ける。 嗚呼、負けない。心はぽつぽつとうわごとのように呟いた。 「倒すことは他の皆さんにまかせます、何度もご一緒した方々です。何とかしてくれるでしょう――でも! 私はまだ、倒れません……!!」 「哀れな子……」 鳥は悲しそうに心を見る。 「貴方達は如何して、抗うの」 トン、と一匹がまた地に降りた。そこを、紗理が見逃さない。カトラスの煌めきは華麗にして瀟洒。 同じような顔の鳥が如何したの、と声をかける。けれど。 「――!」 ガガッとその鈎爪は味方の鳥に襲い掛かった。 「しょせん智のないけだもの。踊るがいいでしょう!」 味方に蹴られキィと鳴く鳥に、続けざま投げられたメス。 「この羽根も貴様らも分析し、バラして晒して魅せませう! あっは、楽しくなって来たぁ!」 歌すら届かない位置から詩人は嗤う。散々作った切り傷は自ら覚醒させるもの。 「愚かね……哀れ、ね……」 「ええ、その通りかもしれませんね。ですが、運命は自分で切り開くものでございます!」 海依音の光がまた全てを包んで生み出される。晴れた光、鳥の一匹が存在を消していた。 「あああああ!」 焔が吠えた。思考を乱された鳥ごと業火は二匹を包む。 「世界が悲しいことだけって誰が決めたの? 私達にだって楽しいこと、コレから叶えたい夢が幾つもあるのよ。ソレを――誰かの手で邪魔させたりしない!」 ――なんて頼もしい、仲間。 だからもう一度、何度でも盾になる。 セレナの回復を受け、心は羽ばたき続ける。幸か不幸か、目の前に居るのは一匹のみ。きっと、耐えられる。 「もう一度! まだまだ、これから。参りましょう!」 炎に包まれた鳥を紗理は逃がさない。踊れ、踊れとカトラスが舞う。 「――! そう、惑わされは、しないよ」 ふうっと鳥が囁いた。低空を飛び、狙いは逸れない。降りた鳥を好機と殴りかかる紗理、花梨、焔、沙羅を巻き込んではその威力を知らしめる。 「大丈夫か? いざとなれば俺も前に出る!」 傷を受けても、今のリベリスタ達には攻撃あるのみ。 雪佳の信念を百叢薙剣に宿し、その後ろから重ねる斬撃の一撃。 かつんと海依音は杖で地面を叩く。 「目の前で傷つかれても癒しません。それはワタシ自身も同じ。あの糞鳥を倒せるなら倒れるのだって承知の上、ホリメだって戦えるんです!」 「オラ、モチっときばらんかァい! 呪いくらいは消してやりますよぉ!」 光を放つのは詩人も同じ。遙か遠くから鳥の狙い撃ちを中断し駆け寄ってくればその光は鳥では無くリベリスタを包み込む。邪気を祓うこの光は、鳥が放った呪いを浄化する。それは――鳥の範囲に入る事を意味するが。 「――!」 翼を広げた鳥を頭上から穿つ、ユーフォリアのチャクラム。不利を打ち消すべく集中したその高速に、鳥はたたらを踏む。狙いが定まっていない。苦し紛れの鈎爪が撃ったのは味方の鳥。 「その姿がお似合いです!」 その鈎爪をリベリスタに向けさせないよう、穿たれた一匹に紗理は再び光の刺突を繰り返す。 「あんた達がドンだけ努力したってね! 守るべき人がいる限りあたしの正義の炎はけせやしないのよ!」 鳥は乱れる。二匹無様に傷つけ合う。仲間に、リベリスタに穿たれ翼を地につける一匹の眼前へ迫る、花梨の鉄槌。全身のエネルギーを怒りのままに振りかざす正義の一閃。 「嗚呼―――」 鳥を消す。残りの地の一匹も、誰が味方か解っていない。――いや、地上に居る鳥は自分一人だという事を解っていない。 それでも仲間の鳥に穿たれた傷もまた深く、紗理の幻惑の一撃に消えていく。 「仲間が、消えていく……」 セレナは肩で息をしながら羽ばたき続ける心を微風で包みながら、少しでも眠気を逸らせたらと上着を着てこなかった薄着でぶるりと震える。 「こんな寒い日は、ベッドでずっと寝ていたいと思うこともありますが。そのまま死んでしまう、というのではナンセンスです」 「………。!」 上空に羽ばたく最後の鳥も意を決したように心をかわし、地上へと向かった。ならば最後まで己の使命を全うすべく、翼をもう一度。―――とても独りよがりな、異界の“善意”を。 「今更悔やんでもしかたねーんですよ。そのまま倒されちゃってくださいませ!」 「後一撃撃たせるんじゃないですよぉ、そのズタボロな様でぇ! 刻んでバラして磨り潰されんのは鳥モドキだけで十分なんだからな!」 海依音の魔術の矢、詩人のメス。鳥が歌い出す前に撃ち貫けばがくがくと震えながら前に立ちはだかる仲間達にその凶弾を許さない。光と消す。 「もう、眠……」 「あたし達は! 一人でも多くの人を守れるように頑張ってんのよ!」 「偽りの夢なんて糞食らえ。あんた達の勝手を押し付けるんじゃないわよ!」 鉄槌と拳。花梨の一閃と焔の蹴撃。―――鳥の最後は、歌うように。 ● 「は、ぁ……!」 鳥は撃退した。羽根も、歌声も、もう街には響かない。やがて人々は目を覚ますだろう。 その安全を確認すべきだろうかと思うも、リベリスタ達も後一つ、鳥に手があれば。思考が乱せなければ危うかったかも知れない。けれど、それは“もし”の話。 個の無い善意など確固たる意思の前には何も為さず、偽りの安寧は燃える拳に灰となる。 「言いたいこと言ったらスッキリしたわ。アリガト、私達の世界の為に謳ってくれて。押し付けは嫌いだけど、感謝しているのよ?」 焔は振り返って小さく言った。 傲慢な鳥達に、―――バイバイ、と。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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