●土砂に埋もれて、潰されて……。 山の多いこの国には、当然のように坂も多い。同様に、トンネルも数多く存在している。しかし、高速道路などの普及に伴い使用されなくなった道路やトンネルも多数存在する。 これは、そんな廃棄されて使われなくなったトンネルでの出来事である。 大雨、洪水、土砂崩れ。そんな自然災害により片側が潰れ封鎖された筈のトンネルに、近づく影が6つ。懐中電灯片手に纏まって歩く、大学生の男女のようだ。 なるほど確かに、廃トンネルなんて場所は絶好の肝試しスポット。暇と好奇心を持て余した大学生たちにとって、ちょっと遊びに行くにはうってつけの場所と言えるだろう。季節が冬ということで、いささか時期外れではあるが、冬の寂れた雰囲気の方がこういうホラーテイストなイベントには向いているのかもしれない。 だが……。 「なんか、おかしくないか?」 先頭を歩いていた青年が、震える声を無理やり抑え込みそんなことを呟いた。他の面々も無言でそれを肯定する。 「おかしいよな? 誰かに、見られているよな?」 そう訊ねるが、返事はない。返事はないが、しかし皆の気持ちは同じだった。 見られている。 そんな感覚が、ずっと彼らに付き纏い続けている。 「引き返そうよ……」 そんな声もあがる。それがいいか、と頷き先頭の青年は踵を返す。 「まて……? 足りなくないか?」 振り返った彼が見たのは、4人の仲間達の後姿だった。当初は6人居たはずなのに、いつのまにか1人居なくなっている。 「た、足りない? ホントだ! いない、なんでなんでなんでなんで? だからいやだっていっ……」 半狂乱でそう叫ぶのは、髪を金色に染めた女性だ。次の瞬間、女性の姿が一瞬で消える。 まるで、影に飲み込まれてしまったように見えた。それを見て、驚愕に目を見開く青年。そんな青年の視界も、一瞬で影に飲み込まれた。意識が途切れる直前、彼は確かに犬の鳴き声を聞いたのだ……。 ●トンネルに残った何か……。 「疫病で住人が全滅した村へと続くこのトンネルには、今もなお、自分達の死を受け入れられない村人たちの魂が犬のような姿をとって彷徨っている。元々はそんな噂の囁かれるホラースポットでしかなかった」 単なる噂話だったんだけど、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は困り顔。モニターには、片側が土砂で埋もれて潰れてしまった廃トンネルが映っている。 トンネルの中は真っ暗で、明りがなければ何も見えないだろう。そんなトンネルから少し離れた道端に、一台のワゴン車が止められていた。恐らく、大学生たちが乗って来たものだろう。だが、それに乗って帰るべき大学生たちの姿は見当たらない。 「彼らは、トンネル内を徘徊するE・フォース(ヘルハウンド)に囚われている。影に潜み、隙を付いて襲い掛かるヘルハウンドは、非常に臆病。また、影に潜った状態ではこちらからのダメージは与えられない……」 トンネルの内部は、相変わらず真っ暗闇が広がっている。闇以外の何もないトンネル。だが、そこには確かにヘルハウンドや、大学生達が居るのだろう。 「毒や混乱などの攻撃には気を付けて。また、ヘルハウンド達は強い光に当てられると一瞬動きが止まるという特徴があるみたい……。使い過ぎると、警戒されて出てこなくなるかもだから、注意してね」 そう言ってイヴがモニターを切り替えた。モニターの映像は、トンネルの入口付近を映す。 一瞬、闇の中を何かが動いた……そんな気がした。 「大学生たちの命は、恐らくあと3~4時間程で失われる。そうなる前にヘルハウンドを殲滅して、大学生たちを救助してきて」 よろしくね。 そう言って、イヴは小さく頭を下げる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月31日(木)23:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●闇に紛れて忍び寄る 黒だ。真っ黒だ。闇に包まれている。真っ暗で何も見えない。震える手を伸ばすと、そこにいた誰かの体に触れた。恐らく、一緒にこのトンネルに入った仲間の、誰かだろう。 何があったのか、思い出せない。季節外れの肝試しに来て、自分達は何かに襲われたのだ。 暗くて、寒い。意識が朦朧としてくる。 あぁ……。 もう一度、気を失ったほうが楽かもしれない。そう思い、彼は意識を手放した。 彼が目を閉じる、その直前。 すぐ近くで、獣の唸り声を聞いた気がする。 ●廃トンネルはどこへ続く 「本当に真っ暗ね、足元に注意しなさいよ?」 足元に転がった瓦礫を蹴飛ばし『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)はやれやれと首を振る。もっとも、真っ暗闇に包まれて、その動作に気付いたものはごく僅かだ。 「寂れた雰囲気は存外悪くないが……。さながら黄泉への入口だな」 自分達が来た道も、そしてこれから行く道も、ただただ濃い闇に包まれ、明りはない。その様を『百叢薙を志す者』桃村 雪佳(BNE004233)は黄泉路に例える。 「昔、暗い森の歌があったねー。なんか不思議な所だ、みたいな感じの歌詞だったやつ」 新垣・杏里(BNE004256)がそう言って笑う。魔力銃を手に構え、身体を反転。円陣を組んだ隊列の最後尾へと向ける。破裂音と同時に、魔力の弾が撃ち出された。 「……っ!?」 驚きの声を飲み込む榊・純鈴(BNE004272)の顔の横を、弾丸は掠めていく。彼女の背後で、獣の悲鳴があがる。弾丸に貫かれ地面を転がる黒い犬が1匹。 「文字通り闇討ちって感じだねー。いやな犬さー」 に、っと笑う杏里と、全力の防御の姿勢を取る純鈴。地面を転がる狂犬目がけ、『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)が飛び出した。 「野良犬退治をするとしましょう」 棘に覆われた手甲が振り下ろされる。犬の腹に掌打を叩き込んだ。パン、と風船の割れるような音と共に犬の体が弾け飛んだ。影に溶け、犬は消える。 「怪我……してない?」 護るよ、と『ネクストを呼ぶもの』ライサ ラメス(BNE004238)は呟いた。暗視ゴーグル越しに周囲を見渡し、安全を確認。辺りに敵の姿は見えない。 「影より来る地獄の使者様には、早々に地獄へお帰りいただきましょう!」 鉄扇を広げ『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)はそう告げた。彼女の傍らを歩む『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)が平手で自らの頬を叩く。 「初任務だ、意地でも助けるぞ!」 気合いを入れ直し、8人はトンネルを奥へと進んでいく。 ヘルハウンド、残り9体……。 瓦礫の転がるトンネルの中を進む8人。どこからか、水の滴る音が反響する。苔やカビの臭いが混ざる淀んだ空気。その中を進む彼らは、どう考えても異質な存在なのだろう。 暫く進むと、視界の隅に弱久しい光が見えてくる。近づいてみると、それはどうやら切れかけの懐中電灯のようである。 先にトンネルに入った大学生たちの所有していたものだろうか? だとしたら、彼らは少なくともここまでは進んだということになる。トンネルに入って120メートルほどの地点だろうか? 果たして、大学生たちは無事なのか。皆の脳裏に、疑問が過ぎる。 「暗いトンネルとか、明るい歌を歌いたくならない?」 その場を明るくすべく、ソラは言う。 歌いだそうと、口を開いたその瞬間……。 「……っ!!」 突然、五月が自身の足元に拳を叩きつけた。瓦礫の砕ける音が響く。火花が弾けるその中に、飛び散るコンクリート片と黒い犬の姿が映る。何体居るのか分からないが、五月の足首からは血液が流れ出していた。 「余計な手間を……」 影犬は、その場から何処かへ飛び去っていく。素早い動きで牙を剥き、闇に紛れて人を襲う。どうやら、仲間が1匹やられたのを見て、影犬はリベリスタ達を速効排除することに決めたらしい。 「なんとなく居るのは見える。暗視ゴーグル様々、という感じだね―」 視線を頭上に向け、襲撃を警戒する杏里。 「皆様、ご注意を!」 鉄扇を、大上段から振り下ろすリコル。地面が砕け、コンクリートが飛び散った。短い犬の悲鳴。と、同時にリコルの動きが止まる。 「ツァーネ?」 異変を感じ、琥珀がリコルの名を呼んだ。返事はない。代わりに、振り抜かれた鉄扇が琥珀を襲う。咄嗟に盾を掲げ、それを防ぐ琥珀。 「庇い損ねた!」 悔しげに琥珀は、唇を噛みしめる。鉄扇を掴みリコルの動きを止めた。その隙に、杏里がリコルの混乱を解除する。淡い光が、リコルを包んだ。 「当たらなくても、脅かすつもりで」 ライサの掲げた剣から、強い閃光が放たれる。炎のように地面を張って、周囲の闇を切り裂いた。明りの中に、4体ほどの犬の影。 「一発じゃ物足りないでしょ? もう一発くらっときなさい」 ソラが放った雷が、縦横無尽に周囲を駆ける。光に怯み、動きの止まった影犬達を雷が襲う。轟音と共に、天井からパラパラと埃が落ちた。 「目がチカチカしますが……」 犬達と違って、咄嗟に目を閉じたおかげでまだ動ける。動きの止まった犬へと真っ先に飛びかかっていったのは五月だった。炎に包まれた腕を、上段から叩き落す。3体の犬が炎に包まれる。 「捉えた……そこだ!」 焔腕の範囲外にいた影犬へ、雪佳が駆け寄る。杖から引き抜いた刀を縦横無尽に翻す。一閃二閃と、刃が舞って影犬を切り刻む。決して止まらぬ流れるような動き。犬は刻まれ、弾けて消える。動きの止まった雪佳の足元の影が、じわりと盛り上がるのが見えた。 影に潜み、閃光を逃れた影犬だ。背後から、雪佳の肩に喰らい付いた。 「っぐ……!?」 飛び散る血の中を、純鈴が駆け抜ける。地面を蹴って飛び上がる純鈴。振り抜いた脚から放たれる、真空の刃が影犬を襲う。 「抑えきれる数じゃないけど、1匹なら……」 軽い音をたて、着地する純鈴。影犬の首が切断される。 しかし、まだ息があるのだろう。首と胴から伸びた影が繋がり、元の形に戻ろうとする。 それを阻んだのは、琥珀の放ったオーラの爪だ。影犬の頭部を、振り下ろされた爪が切り裂く。影犬が消えるのを確認し、琥珀は深い溜め息を吐いた。 「駆け出しだからって甘く見るなよ」 更に100メートルほど、トンネルを奥へと進行しただろうか。その間に、1匹の影犬を撃破したものの、それ以外に襲撃は無かった。半数以上の仲間がやられたのを知って、警戒されているらしい。 「残り3体……か?」 これまでの戦闘を振りかえって、琥珀は言う。入口付近で1体。中間地点で5体。そしてつい今し方、襲撃されたのを返り撃ちにした1体。残り3体の中には、フェーズ2のヘルハウンドも居るはずだ。 「遊び半分でこんな所に来るから、変なことに巻き込まれちゃうのよ」 やれやれ、と言った風に首を振るソラ。その隣では杏里がタオルを巻いて光量を抑えた懐中電灯のスイッチを入れる。ぼんやりとした明りが周囲を照らし出した。どうやらこの辺りまで土砂が流れ込んでいるようで、目に見えて道幅が狭くなっている。瓦礫や土砂などが道を塞ぎ、さながら迷路の様でもある。もっとも、道は真っすぐ奥へと続くだけだが。 「あら……?」 純鈴が、地面にしゃがみこんで何かを拾い上げる。手にしたそれは、靴だった。まだ新しいもののようだ。恐らく、大学生たちの誰かのものだろう。 「近いようだな」 雪佳が、刀に手をかけそう呟いた。焦る気持ちを抑え、先へと進む。瓦礫を押しのけ、道を作りながら奥へ。少し進むと、数名の男女が倒れているのが目に入った。 それと同時に、その周囲を旋回するヘルハウンドの姿も……。 「これじゃぁ、撃て、ない」 剣を構えはしたものの、大学生達を巻き込む可能性があるとなっては神気閃光などは使えない。ライサは、剣を構えたまま動きを止める。 「懐中電灯……は、遠いですね」 作業灯のスイッチに指を置き、リコルは言う。ジリジリと影犬たちへと歩を進めるリコル。地面から、湧きあがるようにして2匹のヘルハウンドが姿を現した。 牙を剥き出し、低く唸る。 そのうち1匹が、影から影へ飛ぶようにしてリコルへと跳びかかった。リコルは、スイッチを入れた作業灯を犬の顔面に投げつける。至近距離で強い光を浴び、犬の動きが止まる。それと同時に、純鈴と琥珀が飛び出す。 残る1匹の影犬が、大学生たちの方向へと下がる。人質のつもりだろうか。純鈴が、懐中電灯を取り出し、スイッチを入れた。影犬は、光に驚き影の中へ。 「一般人は、巻き込めない」 犬が怯んだ隙に、琥珀は大学生達を庇う様に移動。盾とナイフを掲げ、背に大学生達を庇う。 「執念は人一倍だ。助ける命、失わせねぇ」 影から飛び出した影犬の攻撃を、盾で受け止める。鋭い爪が、琥珀の頬を切り裂いた。鮮血が飛び散る。純鈴が、ガントレットに包まれた拳で影犬を殴りつける。地面を転がる影犬目がけ、真空の刃を放った。影犬の首が飛ぶ。 宙を舞う首を、琥珀の放ったオーラの爪が引き裂いた。 大学生達の安全は、琥珀と純鈴が守るだろう。そう判断し、安堵の溜め息を吐く一同。いざ戦闘に、と懐中電灯の明りを落とす。周囲の光源は、遠くに転がった作業灯と、地面に落ちている純鈴の懐中電灯の明りだけ。 薄ぼんやりとした明りの中、眼前の敵は2体。あと1匹、敵が居る筈、とそう判断したその瞬間、五月、雪佳、ライサの足元から影が伸びあがり3人の身を包み込む。 混乱状態に陥ったのか、めちゃくちゃに武器を振り回す3人。最後に残った1匹の影犬による襲撃だ。 「うわっ!?」 雪佳の刀が、ソラの肩を切り裂いた。地面に倒れたソラに、ライサが飛びかかる。それを受け止めたのは、リコルの鉄扇だった。 「バッドステータスの解除が最優先!」 杏里が叫ぶ。広げた掌から、眩い光が迸った。3人を包み、混乱を解除する。互いに傷つけあい、ダメージを受けた3人に向けてソラが手を伸ばす。 「大丈夫、私が癒す。誰も倒れさせはしないわ」 淡い光が、身体を包み傷を癒していく。状態異常と、傷が癒え、残る敵は2体。大学生たちは琥珀たちが守っている。 「彼らは、死なせない」 ライサの剣から、閃光が迸る。眩い光が、周囲を白に染めた。闇を払い、影犬の動きを封じ込める。だが、動きが止まったのは1体だ。残る1体は素早く影に飛び込んで、光を回避する。止まった影犬へ、五月が飛びかかる。掌を犬の頭部に叩きつけた。上から下へ、叩きつぶすように腕を振り下ろす。影犬の頭部が弾け、消えた。 そんな五月に、残る1匹の影犬が飛びかかる。背後から姿を現し、五月の首筋に喰らい付く。 「い、……っつ!?」 どくどくと流れる赤い滝。五月のメイド服を濡らす。 「隙は見逃さん」 壁を蹴って、五月を襲う影犬目がけ切りかかる雪佳。影犬を押しのけ、そのまま流れるような動きで嵐のような斬撃を繰り出す。影犬もまた、牙を剥き雪佳に喰らいつこうとするが、遅い。牙と刃がぶつかって火花を散らす。 降り注ぐ刃の嵐に押され、影犬の体が宙に浮く。最後に一閃、振り抜かれた刀が影犬の首を切り飛ばす。影犬の赤い目が、雪佳の姿を捉えた。 しかし、それもすぐに光を失う。 影犬は切り刻まれ、消え去った。 最後に残った1匹は、断末魔の悲鳴をあげることは無かった。最後まで牙を剥き、雪佳の首を狙い続けたのだ。 雪佳の頬を、一筋の血が滴り落ちる……。 ●廃トンネルから外へ 「ホラースポットってのは、人気はないし空気は重いし事件が起こりやすい場所なんだ。これからは近づくなよ~」 トンネルを出て、背負っていた青年を地面に降ろす琥珀。青年は相変わらず意識を失ったままだ。恐らく、琥珀の言葉は耳に届いていないだろう。 「救急車とか、呼ぶべき?」 大学生達の容体を確認しながら、純鈴が言う。今のところ、目を覚ました者は居ないが、かといって重体の者もいない。 「大丈夫でございますか?」 泥に汚れた頬を拭いながら、リコルが問いかける。返事は無い。代わりに、小さな呻き声が返って来た。目を覚ますのも時間の問題だろうか。 「転んで頭を打ったか、夢でも見たとかじゃない? って、誤魔化せばいかなー」 目を覚ました後のことを考え、そんなことを言う杏里。幻視を使って、狼の耳を隠す。 「余計な手間を増やしてくれるものです」 気を失った大学生たちを見つめながら、五月は小さく溜め息を吐いた。 その時、大学生の1人が呻き声と共に目を覚ます。 「う……。ここは?」 しゃがれた声で、そう呟く彼の顔を、ライサがそっと覗きこんだ。 「どうしたの、アナタたち。肝試し? こんなところで、寝ちゃうと。怖い、夢を、見るんだよ?」 なんて、諭すようにそう告げる。青年は、夢? と、小さく呟いた。ライサを押しのけソラが前へ出る。 「まったく、夜中の廃棄トンネルとか危ないんだからね?」 なんて言って、お説教を始めるソラ。そういえば、彼女は教師だったな、と一同思い出す。とてもそうは見えない外見だが、ソラは高校の教師だ。 大学生たちへの説教は、彼女に任せておけばいい。 そう判断し、残ったメンバーはそっとその場を後にした……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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