● 「ハハハハハハハハハ! さぁ、さぁ、さぁ! どんどん救済してやるぞ!!」 高笑いしながら、ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ傘下の楽団員、『salvatore』クライヴ・アヴァロンは己が道を突き進んでいく。 クライヴが他者に与える救い、それは即ち『死』の1文字であり、であるが故に彼は自身を『救済者』と位置づけていた。 「……クライヴ、水を得た魚」 付き従う少女『incensatrice』パトリシア・リルバーンがそう言う程に、クライヴは意気揚々と生者を救済し続けている。 クライヴが進む道の後に残るのは、無数の死。 クライヴが進む道の先にあるのは、脆弱な壁。 そう、彼にとってはこの地を守るリベリスタの集団など、惰弱すぎる壁にすぎない。 京都三条通。 鴨川から上陸した彼等は今、この地で猛威を振るっていた。 立ちはだかる壁はダンダラ羽織に鉢金――、かの新撰組を連想させる衣装に身を包んだ京都のリベリスタ集団『剣狼』。 デュランダルがメンバーの大半を占めるこのリベリスタのチームは、そこらのフィクサード達が相手であれば、引けを取る事は無いほどの強さと集団戦法を得意としている。 「三好、そっちに行ってるぞ!」 「わかっているさ、岩成。全員、攻撃の手を緩めるな! 松永、人々の避難は手早く頼むぞ」 「はいはい、頑張ってやってますよっと。慌てずに逃げてくれよ、二条城の方だぜ!」 部隊を3つに分け、三条通を進軍するクライヴに2部隊が道の左右に陣取って防衛線を張り、一般人を逃がすために1部隊を割く。 指揮系統を円滑にするために部隊を2つに分けたり、残る部隊を逃げる人々の誘導に充てたりと、彼等の戦略行動は一般的に見れば相当に優良なものだろう。 ――しかし、こと楽団が相手では攻撃重視の構成との相性は最悪そのもの。 「そんなんで俺が止まるかよ? 押し潰してやれ!」 「くっ、数が多すぎるぞ……」 物量作戦で押すクライヴに対し、剣狼の防衛線も中々に頑強なものではあったが、圧倒的に物量の差がありすぎる。 はじめ、クライヴとパトリシアが引き連れていた死体は30体ほどだった。 それが今では進軍途中で殺害した一般人や、防衛戦の最中に命を落とした剣狼のメンバーの死体も混じり、その数は倍以上に膨れ上がってきていたのだ。 しかも街中だという事もあり、剣狼がどれほど手を尽くしても、逃げられずにいる一般人は数多い。 「は、まさか新撰組をリスペクトする俺達が、池田屋も守るとはな」 ふと、剣狼のリーダー格である三好が視線を移した先。 そこには過去、新撰組が襲撃をかけた『池田屋』の跡地があった。今も居酒屋としてその名を残す池田屋ではあるが、そこを新撰組を真似た彼等が防衛する事になろうとは、なんとも皮肉な話である。 「守るだのなんだの、そんな事は俺の救済を受ければ考えなくて済むぞ! さぁ、この先にある城までとっとと行こうか!」 「……お城?」 「あぁ、面白そうだろ? 昔は『将軍サマ』がいた城らしいしな、この際だから俺がその『将軍サマ』になるのも良いな!」 そしてパトリシアとそんな会話を交わすクライヴにとっては、そのような皮肉などは知った事ではない。 三条通を突き進み、その先にある二条城へと入り、そこからさらに死を振りまく事が彼の目的。 この三条通でクライヴを確実に撤退させる事が出来なければ、被害はさらに大きくなっていくだろう――。 ● 「最も恐れていた事件が起きました」 開口一番にそう言った『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の表情は、少し青ざめているようにも見えた。 先日から各地で事件を起こしている、ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ率いる楽団。 彼等は各地で人々を殺害し、その死体を戦力としてさらに攻勢を強めていく事はわかっていたが、今回は想定していた中でも和泉が言うように『最も恐れていた事件』と言えるだろう。 楽団にとって死体は戦力であり、己が楽器。 アークのリベリスタも奮闘はしたが、それでもその全てを防ぎ切れてはいない。現時点では先に壊滅したポーランドの『白い鎧盾』の辿った状況を、なぞっている状態だ。 1人殺せば1人。 2人殺せば2人。 沢山殺せば沢山。 元手がタダで望めば増やせる兵力を有する相手に対し、その全てを防ぐ事は不可能だ。 その結果として、指揮者のケイオスが『十分』と判断するほどに、楽団は戦力を増強したらしい。 そこで楽団は、奏でる組曲を次の楽章へと移行したのである。 高い隠密能力を誇る彼等でも、隠せない程の動き。カレイドスコープでもしっかりと垣間見る事が出来るほどの、大きな動き。 和泉は告げる。 「彼等の目的は、日本への壊滅的攻撃です」 ――と。 クライヴ・アヴァロンはその指示を忠実に遂行し、追従者であるパトリシア・リルバーンを引き連れて京都の三条通へと進軍した。 わざわざ鴨川を下って川から上陸したのは、その方が派手に『救済』出来ると考えたためであろう。 対するのは、逸早く不穏な空気を察して動いていた京都のリベリスタ集団『剣狼』だ。 「彼等はアークの話もよく耳にしているようですから、協力する事は簡単です」 三条通で必死の防衛線を展開する彼等と協力し、クライヴとパトリシアを撃退する――それが今回のミッションである。 もちろん、三条通を突破されれば被害がさらに拡大する事は言うまでもない。それは即ち、さらに大量の死者が出る事を、そして戦力を増強した楽団が手が付けられない存在となる事を意味する。 「剣狼の方達も人々を懸命に逃がそうとしていますが、それでも混乱する人々を完全に逃がす事は出来ていません。一般人の被害は、戦いの中でもさらに拡大すると考えてください」 街中での戦いなのだから、それは当然の話だ。 加えて剣狼にも現時点で被害が出ており、彼等の一部も既に『楽器』と化してしまっている。 これはこの場にいるリベリスタ達にも言えることであり、この中の誰かが命を落としても、楽団の戦力となってしまう。 現状も、そしてケイオスという相手も最悪。 だからこそ、なんとしても止めなければならない。状況が良い方向に転がりはしなくとも、少なくともこれ以上の悪化は許されない。 「皆さんに全てを託します。――御武運を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月06日(水)23:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●救済への抵抗者 三条通を突き進む死者の群れと、それを指揮するクライヴとパトリシア。 これらを迎え撃つために、アークのリベリスタ達はその行軍を阻止するための最終ライン、川原町三条交差点から三条通へと突入する。 彼等はまず三条通を守るリベリスタ集団『剣狼』の中で、後方支援を担う松永隊を確認。その先には、決死の防衛戦を展開する三好隊と岩成隊の姿も見えた。 「新撰組かぁ……かっこいいよね。ゆっくり話をしてみたい所だけどまずはリベンジ……邪魔者をどけてから、かな」 まずは松永隊に接触して協力態勢を取らなければと、『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が接触をかける。 「俺だけど、あんた等は?」 問いかける松永に、アークだと名乗った上で事情を説明する虎美。 松永隊の中にいるホーリーメイガスを1人、前線へ支援のために差し向ける事。 その代わりに虎美自身が、敵の中に存在する霊魂を殲滅するまでは、松永隊の一般人保護を担当する事。 そして、アークと剣狼で協力して楽団を押し戻して止める事。 「それは構わないが……大丈夫なのか?」 この時その条件を快諾しながらも、松永は言いようもない不安を感じていた。 「大丈夫だよ、私達が来たからにはねっ!」 等と虎美は言うが、見通しが甘すぎるのではないか――と。 「彼らは相も変わらず、好き放題やってくれているようですね」 「これからもっと大きくなりそうな同胞をここで失う訳にはいかない。さあ反撃をあいつ等に返してやりましょう」 虎美が上手く接触できた報を受け、先を進む風見 七花(BNE003013)と『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は前線へと到着すると同時に、攻撃をかけた。 天から降り注ぐ炎の矢と、迸る雷撃。 それはこの場に存在するリベリスタ達が、楽団への反撃を開始する合図だ。 「援軍か?」 傷を負った三好が、一瞬だけ後ろを振り向く。 「あぁ、そうだ」 応えた『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が、三好へと襲い掛かる死体の攻撃をすんでのところで受け止める。 絶対にやらせはしないと確固たる想いを持った彼の行動に、絶望的な防衛戦を繰り広げていた三好も「助かる」と告げ、少しは希望を抱いたようだ。 「見ろ、パット。箱舟の連中が来やがったぜ」 突然なるも予想はついていたアークの乱入に、クライヴは『待ってました』と言わんばかりに手を広げ、わざとらしくアークを迎え入れる姿勢を取る。 「お前達は救済を止めに来たんだろう? なら止めて見せろよ!」 さらに言動は慇懃に、挑発するかのようなもの。 「死の救済、ね。ネクロマンサーらしいといえばらしい思想です。……最初に己を『救済』すればよいものを」 「死は死だよ、本来後には何も残らないもんさ。全く気にくわないね、死者への冒涜ってレベルじゃないョ」 しかし『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)も、そして『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)もそのような挑発に乗りはしない。 むしろ逆にクライヴをなじる程に、戦意は高まっている。 傷の深い三好にユーディスが歌を響かせる中、果敢に斬り込んだ颯が3体の死体に鋭い切傷を残し、 「ただ殺すだけと言うならそれも救済だろうさ、この世の苦しみからと言う意味では。けどね、殺した人の死体を道具に使っておいて何が救済だ」 続けて『黒き風車を継ぎし者』 フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)の放った暗黒の瘴気が、多くの死体を暗き闇に包み込んでいく。 彼我戦力差は、アークが加勢したとしても未だに倍以上。 ならば少しでも多くの敵を纏めて倒す必要がある。そして、動きを止める必要性も――だ。 「お前のやってることは救済などではない、人の命に対する侮辱だ。止めてやる、偽りの救済なんて」 「そうだ、一般人もリベリスタの仲間も、オレたちが助けるッ!!」 吼えるフランシスカの後ろから投げ放たれた、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)の閃光弾が数体の死体を怯ませ、その動きを抑える。 「……どうするの?」 「様子見だ」 押し戻そうとするリベリスタの動き、勢い、気迫。それら全てを感じても、対するクライヴ・アヴァロンは全くうろたえない。 楽団にとって、戦力はそこらにいる逃げ惑う人間を殺せば手に入るのだ。 「後ろにゃリベリスタの連中がまだいるのか?」 彼は抵抗を続けるリベリスタ達の先――松永隊や、虎美がいる遠くを見やる。 ふっと、クライヴが軽く笑った。 「なるほど」 笑みを浮かべながら戦場を識ろうとする彼の行動は、先日に彼が寺を襲撃した際に見せた行為と同じもの。即ち、観察だ。 「ヤツは何を見ている?」 「わからない、今は霊魂を全て倒さないと!」 あまりにも戦場という場において余裕のありすぎる動きに、怪訝そうな表情を浮かべる鉅。 だが今は仲間達に小さな翼を授けたフランシスカの言うとおり、少しでも敵の数を減らす事が重要である――。 ●救済の音色 「まずはアレからですね。準備を整え次第、いきましょうか」 そう言った七海の目には、低空を飛翔する霊魂の動きすらもコマ送りのように見えていた。 完全なる狙撃のための下準備。 素早く敵を排除するためには、攻撃のチャンスを1回捨ててでも取る価値があると彼は考えたらしい。 「ハハハハ! おかわりは幾らでもあるぞ」 そんな七海を。否、必死の防衛戦を繰り広げるリベリスタをクライヴは嘲笑う。 無駄な抵抗だと言うのだろうか? 勝利は揺ぎ無いとでも感じているのだろうか? 「……落ち着け、オレ。一人で飛び出してっても、あのゲス野郎に傷一つ付けらンねェ」 人を小馬鹿にしたような物言いと嘲笑に突撃をかけたいと感じるヘキサではあったが、クライヴとリベリスタ達の前に立ちはだかる死体の壁は、1人で突破できるようなものではない。 「それでいい。何が何でも死にたくないとは思わんが、死んだ後までこき使われるのは流石に勘弁だ。お前もそうだろう?」 なだめる鉅の言葉に「あぁ」とだけ応え、ヘキサは再び閃光弾を投げる。 「今やらなきゃいけねェのは、被害を止めることだけだぜ」 ヘキサは己の役割をわかっている。霊魂が滅ぶまでの間、極力死体を動けないようにする事だ。 それを忘れない限り、彼がこの戦場において無茶を行う事は決してない。 「貴方達を地に帰してやる。偽りの救済じゃない、本当の救済をしてあげる」 再び死体達をフランシスカの放った暗黒が包む。 「ここで決着とはいかないでしょうが、彼等にも一泡吹かせてやりたい所です」 さらに七花の雷が迸る。 腕がちぎれ、あるいは足が吹き飛び――どんどんと損壊していく死体の群れ。しかし、その動きは未だに止まろうとはしない。 完全にその活動を停止させるには、相当に破壊しなければならない存在。それが楽団の操る死体である。 「これは機会だ、アークと足並みを揃えつつ、進撃!」 「三条通を通させはしない!」 ならば、そうしてしまえ。アークの助力を受けた剣狼達が、活路を開かんと斬り込んで行く。 「仲間の死体については、どうするさね?」 「心苦しいなら、俺達が引き受けるが」 動く死体の中には、先程まで仲間だった剣狼のものもある。流石に元は仲間だった者を討つのは辛いだろうと声をかける颯と鉅ではあったが、 「今はそんな事を言っていられる状況ではない。倒せる時に誰でもが倒せば良い」 今がどんな状況かを、三好はしっかりと判断しているようだった。 「その判断は流石ですね。彼等が『二条』に人を逃がしながら戦う事に、数奇な巡り合せも感じますが……」 ユーディスがそう感じたとおり、三好はリーダー格としてそれなりの判断力はある。であるが故に、この死体の群れを押し留めもした。 と同時に、彼女は剣狼の主たる3人の名に、何かを感じ取ったようだ。 それは、二条城と三好、岩成、そして松永のキーワードに纏わる過去の事件。今の彼等とはまったく関係はないものの、池田屋を守る新撰組という皮肉めいた運命に近いものはある。 「お待たせしました、指示を受けましたので、援護に回ります!」 さておき、この場にさらに馳せ参じたるは虎美の要請を受けてやってきた剣狼のホーリーメイガスだ。 彼の歌声が戦場に響けば、僅かでも戦局に影響は与える事だろう。 ――果たして本当にそうか? 「大丈夫なんだろうな?」 近くで注意深く音を拾い、逃げ損ねた一般人を的確に救い出す虎美に、松永が問う。 「邪魔な霊魂を片付ければ、後は死体を倒すだけだよ? ほら、こっちにも来た!」 仲間達が討ち漏らし、壁を突破してきた霊魂を撃ち、虎美は作戦が上手く運べば問題ないと答える。 「倒す事も重要ですがこれ以上死なないで下さい。それが一番敵に堪えます!」 「首を狙うのは厳しすぎる、少しでも被害を抑えられるようにする他無いね」 現に、死ねば楽団に死体を持っていかれるからと注意を飛ばす、七海の放った炎の矢は霊魂も死体もまとめて業火に包んでいる。颯の刃は1体の死体をズタズタに引き裂き、輪切りにした。 「続けていきますよ」 さらには七花の走らせた雷撃が続けて楽団を捉え、大打撃を与えてもいる。 「いずれ来るその時には惰眠をむさぼっていたいんでな、うっとうしい目覚しをかき鳴らす連中は今のうちに止めておこう」 「……ゴメンな、助けられなくて」 他の一般人の死体よりも強力な剣狼の死体ですらも、鉅の猛攻の前に原型を留めないほどに破壊され、加えてヘキサの閃光弾は上手く敵の足を止めていた。 ――押せているのではないか? 松永の内心の疑問に、そんな答が過ぎる。 援護に向かわせたホーリーメイガスも、 「決して無茶をしないでくださいね」 と言いながら傷の深いものに歌声を聞かせるユーディスも、戦線をしっかりと維持しているようにも見える。 「ここを突破されたら、後はないよ!」 仲間達を鼓舞しながら死体を暗黒に包み込むフランシスカの姿に至っては、頼もしささえ感じる。 ――そんな中でもアイツは笑ってるじゃないか。 「ご苦労、ご苦労。いい感じに消耗してきたんじゃないか?」 そんな中でも、クライヴは余裕の笑みを崩してはいない。 ――それは、何故だ? 湧き上がる疑問の答など、少し考えれば済む話だった。 「そろそろ行くか」 動き出したクライヴの姿を見れば、それは確信に変わる。 最初、戦線を維持していた剣狼は21人いた。今では6人が命を落とし敵の尖兵となり、残りは15人だ。 それでも、寡兵ながら彼等は楽団の進行を押し留めていた。 ――押し留めていた? 15人の防壁に対し、クライヴの率いる死体と霊魂は、あわせて76体。 その76体も、アークのリベリスタ達が加勢した事によって、幾つかの数は減っている。 「霊魂は13ほどを倒したけど……死体は数え切れたものじゃないな」 倒した霊魂の数を数えていた七海によって、霊魂が残り7体とはわかった。 だが死体は倒したそばから逃げ遅れた一般人が殺害され、その数を僅かに増やしてもいる。本来なら押し留められる数ではない。 「突破されれば、大変な事になる! 押し留めろ!」 1体でも後ろに通すなと三好は懸命の防衛を行い、 「傷が深くなったら多少下がっておくれョ、死なれたら面倒が増えるからネ」 この中の誰かが死んでも楽団の戦力に変貌するからと、颯は注意を促す。 松永が剣狼に遂行させた作戦は、戦略行動は一般的に見れば相当に優良なものだ。あくまで、『一般的には』である。 それを加勢したアークのリベリスタも引き継ぎ、壁は確かに厚くなっていた。 「霊魂はともかく、やはり死体は倒しにくいな」 「それでも、止めなきゃな!」 手近にいる死体の1つを、破滅を予告するカードを投げて完全に破壊した鉅の一撃は確かに強力であり、ヘキサの投げ続ける閃光弾は確かに死体の動きを止めもしている。 「これ以上は行かせない、燃え尽きろ!」 そして炎の矢の雨を降らせる七海が、霊魂のみならず死体も激しく燃え盛る炎に包み、 「死体も一気に減らしたいところですけどね……」 七花の迸らせる雷撃は、さらに楽団の率いる死体へと大きな損害を与えもしている。 ――しかし、足りない。 「砕け散れぇ!」 壁を突破してきた霊魂を撃ち抜いた虎美は、前線ではなく松永達のいる後方にいるため、果たしているのは後詰の役割だ。 「松永氏の指揮に期待したいところですけど……」 そう言いながら手にした魔力杖を輝かせ、邪気を祓うかのように死体を殴り飛ばすユーディスではあるが、一般人の避難も担当する松永にその余裕はない。 ここからどう押し戻すかは、アークのリベリスタ次第。ともすれば、その考えは非常に甘いという他にないだろう。 「俺達も行くべきだったか?」 加えて如何に松永隊が一般人を避難させたとしても、楽団はどこからか逃げ遅れた人間を見つけては殺し、その尖兵としている。 敢えて避難させる手を止めさせて、楽団へ攻撃する火力を増やしていたならば、どうなっていただろうか? 「後ろの連中が来ていたら、激しく遊べたんだろうがな……この程度の薄い壁では、俺達は止められんぞ」 クライヴの口振りを考えれば、双方の被害も大きくなるものの、今以上の甚大な被害を受けた楽団は撤退していたかもしれない。 が、アークはその松永隊の火力を「自分達ならば行けるはずだ」と自ら捨てていたのだ。 「さぁ、城に行くか! 突撃だァ!」 ついぞ、突撃をかけるクライヴ。それは最早、遊びは終わりという考えに近い。 「来る!?」 一気に進軍をかける楽団にフランシスカが焦りの色を見せるが、行軍はもう、始まったのだ。 クライヴ・アヴァロンは強引に相手の壁を突破しようとはせず、疲弊するのを待っていた。 リベリスタに勝機が見出せたとするならば、その余裕を逆手に取り、松永隊も含めた全員で一気に被害を与えるか――もしくは、被害覚悟で本丸であるクライヴを狙うしか、無かったのだ。 「救済されたいヤツァ、どんどん来い!」 リベリスタ達がその身をもって作り上げた防波堤を、クライヴは死体の波で飲み込み始めていく。 ひとたまりも無いとは、まさにこの事か。 「うわぁっ!?」 「おい……ぐぁっ!!」 押し寄せる死体に喰らいつかれ、そこへクライヴの怨霊の弾丸を喰らった剣狼達は、成す術も無くその命を散らす。 「もうこれ以上、やらせねェ……。救済、救済ってうるせーンだよ! みんなみんな希望を持って生きてンだ! テメェの下す死に、どんな救いがあるってンだァ!!」 死にはしないまでも、リベリスタ達の被害も甚大だ。それも先んじて颯が展開していた守護結界と、無傷な状態からの加勢で剣狼よりも万全に戦っていたからというだけの話だ。 ボロボロになりながら、それでも必死に波に飲まれまいとヘキサが叫ぶ。 「……『救済』『救済』ってそれしか言えないのですか? アナタが『救済』というなら自分は悉く荼毘に付すだけです!」 「そういうのはな、止めてから言えよ!」 ここまで来てしまえば、リベリスタ達の『止める』と言う言葉はむなしく響くだけ。 七海の言葉を一笑に付したクライヴは、もう止められない。 「戦いは、戦いをよしとする者だけで行うべきだから、こんな一般人巻き込むくそったれ相手に負けたくないのだがネ……!」 「引く道はありません、少しでも打撃を与えて波を止めなければ……!」 この時、颯は運命の力を歪めてでも勝利を掴もうと願っていたが、運命は彼等に微笑む事はなかった。 ましてや、ユーディスが言うようにリベリスタ達は引き時を全く考えてはいない。 「そうしたい所だが、な」 隣で戦っていた剣狼も、死して彼等の尖兵となった。 鉅が相手をしている死体にいたっては、先程まで会話を交わしていたはずの三好だ。 ――今、死体の波が全てを飲み込み始める。 ●救済者の上洛 ポタリ、ポタリと血の雫が大地に零れる。 松永の心臓を貫いていたヴィオラを無造作に引き抜いたクライヴは、先にある二条城と、後ろで波に飲まれても生きているリベリスタ達を交互に見やる。 「ま、待ちなさいよ!」 何とかそう言う虎美ではあるものの、無理に突っ込めば確実に死ぬ。 逆にクライヴは、パトリシアを壁にしながら進んでいたせいか、全くの無傷だ。 「お前は良い子だな。俺をよく守ったもんだ」 「……うん」 彼にとってパトリシアは単なる壁。追従者など、その程度の扱いで良い。 死んだとしても、死体としてリサイクル出来るのだから問題もない。 「こいつ等……殺すか? いや」 そして傷だらけのリベリスタ達を放置し、クライヴは二条城へと進路を向けた。 数の暴力に任せ強引に壁を突破した楽団も、多くの死体を失っている。 ここでリベリスタ達を始末しても構わないものの、それでは楽団の被害もさらに大きくなるだろう。 それよりは二条城を目指した方が、救済する人間が多くいるのも事実。 「行くか。上洛ってヤツだ、ハッハッハ!」 大きな笑い声を上げながら、クライヴは川原町三条交差点を先へと進む。 彼がトドメを刺しに来なかったこともあり、アークのリベリスタ達に死者は出ていない。 だが、剣狼は壊滅。 二条城に避難した多くの一般人の命を奪いながら、クライヴ・アヴァロンは上洛を果たす――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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