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ゆめをみる箱

●ゆめ みる
 加奈はある日、小さな箱を拾った。
 家に帰って開けてみると、その中には小さな犬が入っていた。
「出てこないの?」と問い掛けても出てこない。随分と箱がお気に入りの小さな犬。
 わんとも鳴かないその子が気に入って、両親に内緒でこっそり部屋で飼う事にした。
 散歩に連れ出そうにも箱の中に引っ込んでしまうから、加奈はある日からその犬に物語を聞かせる事にした。
 ある時は不思議の国の女の子の話。
 ある時は大海原を駆ける海賊船。ある時は大空を舞う大鳥の話。
 その度に小さな犬は耳を一杯に立てて聞いていた。とても楽しそうに見えて、加奈は嬉しくなって毎日繰り返した。

 ある日、いつものお話が終わった後、加奈は犬を撫でて言う。
「楽しいでしょ、外って。私もね、そんな世界に行ってみるのが夢なんだ」
 犬はその晩、箱を出た。箱を銜えて加奈の枕元に行って、再び箱の中に入る。
 そして、箱は閉じられた。
 ―――夢を見よう。
 ―――今迄聞いたたくさんのお話も、加奈が今見てる夢も全部。
 ――――ゆめであそぼ。

●夢へ
「ゆめを見た。現実と違う夢を思うままに視られると気付いた僕は、そこで鳥になり、犬になり、鯱になって雲の海を走り続けたんだ」
 白昼堂々何の夢を見たのか。『あにまるまいすたー』ハル・U・柳木(nBNE000230)は唐突にそんな言葉を紡いだ。そして首を傾げて笑う。
「もし夢の中で自由になれるとしたら、君達はどんなユメを視る? 今回は、そんなお話」
 モニターには掌サイズの小さな白い箱と、そんな箱の中にちょこんと収まっている小さな犬が映し出された。
 勿論こんなサイズの犬がこの世界に居る訳無い。
「うん、アザーバイドだ。結構前からこの世界に居るみたいだけど、幸いフェイトを得ているから駆逐する必要は無い」
 その言葉に胸をなで下ろすリベリスタ達。
 大丈夫、とまたハルは笑う。
「問題はこの犬と、この犬が収まっている箱。『自由な夢を視させる』……とだけ言えば人畜無害だけど、実際は夢に落ちると、夢の中で起こしてもらうまで起きられない。今回、この犬を拾った女の子が夢の中に捕らわれちゃったんだ」
 名前は加奈。
 道端に落ちていた小さな箱ごと犬を拾って、その大きさにあまり疑問を抱かず飼っている強者である。
「君達には、こっそり彼女の部屋に侵入してもらうよ。そして枕元の小さな箱を開けてくれれば良い。そうすれば、皆纏めて夢の中に呼び込まれるんだ」
 夢はゆめ。現実では無い。しかも思う通りの世界が構築されるとハルは言う。
 狼になって四肢で大地を踏みしめ、駆けるのも――
 かと思えば大鷲に姿を変えて大空を舞うのも――
 海に飛び込みそのまま鯱となるのも、思うまま。
「加奈が作ったのは、わたがし世界の遊園地。大空と、海原と、草原。その三つ」
 大空、海原、草原それぞれを探せばそのフィールドを構築している小さな犬の分身がどこかに座っているという。先ずはその三匹を見つけ出す事。
 その世界は所々不完全故に、リベリスタ達が想像力をかき立てれば更に世界は彩られて構築されていく。フィールドは広くなるが、犬が逆に興味を持って姿を現わす可能性は高い。そして三匹見つければ、その三つの世界が消える代わりに、加奈の居る遊園地への扉が開くとハルは言った。
 わたがしの遊園地の中で、加奈と小さな犬の本体は遊んでいる。
 楽しそうな声が聞こえるから、そう探さなくても彼らの事は難なく見つかるだろう。
「君達はそこまで行って、加奈と犬に『これは夢』『夢から覚めて』と言えば良い。勿論、そこに辿り着くまで時間いっぱい遊んでも良いんだ。夢に入る前にアラームをセットする事だけ注意して……うん、今回は眠るだけの仕事だから、僕も同席するよ。もし何だったら君達を起こすのも僕がする。君達は君達の想像力で夢の世界を楽しんで、加奈を起こして、箱入り犬を連れて帰ってきてくれたら、それでいいからさ」
 加奈はいつも七時に起きる。だから六時半までに声をかけてあげれば良いだろうとハルは言った。
 それまではリベリスタ達の自由時間。いつか覚める夢ならば、その時間を精一杯。
 箱入り犬と加奈を引き離すのは可哀相だけど、犬は箱から出てこない。箱がある限りまた誰かを夢に落とすかもしれないから、一旦アークが保護をするという。
 さてと、と、自分も軽く書類に目を通し始めたハルに、こんな人数が部屋に押しかけて大丈夫かと、まっとうな質問が飛んでくる。ハルは曖昧に笑って肩を竦めた。
「加奈は良い所のお嬢様みたい。十人そこら部屋に居たって全然平気だよ。部屋に忍び込んでっていった僕が言うのもなんだけど、もう少し防犯システムを強化した方が良いんじゃないかって思うけどね」
 そう言ってハルは書類を閉じて、リベリスタ達に向き直った。
 いつものように、笑って首を傾げて。
「それじゃ行こうか、リベリスタ諸君。今回は一緒に、夢の中へ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:琉木  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月08日(金)23:47
 好きな姿で好きな事ができる時間を、貴方らしく過ごしてみては如何でしょうか。自由度はかなり高いので思いっきり好きな事を詰め込んでみてください。

●成功条件
 アーティファクトとアザーバイドの保護、加奈の起床

●アーティファクト『ゆめをみる箱』、アザーバイド『小さな犬』
 掌サイズの小さな箱と、その箱の中に入っている小さな犬です。
 ポメラニアンに似た耳の大きな白い綿毛のような犬です。加奈は「マル」と呼んでいます。吠えたり喋ったりしませんが、かけられる言葉は一生懸命聞いているようです。
 D・ホールはもうありませんが、フェイトを得ているようなので倒す必要はありません。箱ごと犬も保護してください。
 夢の中に居る時は現実に居ませんが、夢から覚めさせると現実の箱の中に戻ります。

●『加奈』(かな)
 12歳の女の子で少し夢見がち。夢への順応が速く、かなり満喫しています。夢の中を現実と思い込んでいる節がありますが、「起きる言葉」をかけた時点で夢の世界は覚めるので、説得や取り押さえたりは必要ありません。
 また、現実の加奈はすぐに目覚めないので、言葉がある場合は夢の中で話してあげてください。

●場所&時間
 皆が寝静まった夜中、加奈の自宅に侵入してもらいます。高級マンションの一室で、四階角部屋です。
 ベランダ近くには木が聳えています。家族と暮らしており、端が加奈の部屋、その隣の部屋が両親の部屋なので間違えないようにしましょう。

●ゆめの中
 加奈の部屋に入り、箱を開けると夢の中に呼ばれます。箱は加奈の枕元です。
 その中にマルはいません。マルは夢の中に居ます。夢から戻ってきた後、現実の箱の中にマルが戻ります。
 ふわふわ綿菓子がちりばめられたようなやわらかい世界から始まり、フィールドは大空、海原、草原、そして遊園地の四つ。大空、海原、草原の三匹を遊園地前に連れてきた時点で三匹はぽんと消え、その三つのフィールドも消え去ります。そして残る遊園地フィールドへの扉が開きます。
 夢の中では各々「思い描く」通りになります。現実から実物を持ち込む事は出来ませんが、想像力次第で何でも創造されます。思い出の場所、相手、そんなものももしかしたら出来るかも知れません。

●NPC
 ハル・U・柳木(nBNE000230)が同行します。必要であれば皆の起床係や、遊園地前への案内係等に使ってください。
 何かあればハルへの指示と解る形での最新発言を参考にします。個別に何かあればプレイングにてどうぞ。何もなければ獣の耳尻尾を生やして一人遊びをしています。
参加NPC
ハル・U・柳木 (nBNE000230)
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
マグメイガス
支倉 ひかる(BNE001190)
覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
ソードミラージュ
静夜 紫月(BNE004386)
レイザータクト
ジェイク・オールドマン(BNE004393)
■サポート参加者 2人■
マグメイガス
シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)
ナイトクリーク
衣通姫・霧音(BNE004298)

●Twelve nights
 リベリスタ達が見上げた部屋の灯りは消えていた。
 しんと静まるそこに広がっているのは、きっと、夢の世界。
「夢の世界、か。それは、とても素敵な世界なんだろうな。……先に行くぞ」
「僕も鍵を開けてきます」
『紫紺のスターティス』静夜 紫月(BNE004386)と『星彩コンチェルト』支倉 ひかる(BNE001190)は二人、翼で夜空に舞い上がった。
「ハルさん、こっちで良かった?」
「旭、ピッキング使えるもんね。超たすかるぅ!」
 ハルに部屋を確認しながら見上げる『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)と『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)に『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)は屈託無く笑う。
「真独楽さん、声気をつけないと」
『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)がそっと言えば、真独楽はおっとと口を塞いだ。アンジェリカはその足をマンションの壁にひっつけて、ぺたりぺたりと登り始めて、一同目指すは加奈の部屋、夢の中。
「あ、そこ気をつけて。ぬいぐるみが置いてあります」
 暗闇の中でも難なく見分ける瞳で、雪白 桐(BNE000185)はその足下に注意を促した。確かに広い部屋だけど、お伽噺の中のようにものが沢山置いてある。
 その中ですやすやと眠る少女の枕元にあるのは白い小さな箱。
 その中に白い犬は居ない。
 カラッポの箱が、ゆめへ誘う出入り口。
「じゃ行くか。夢の中へ」
 潜入する事はどうも苦手と一歩下がっていたジェイク・オールドマン(BNE004393)が手を伸ばす。ゆるりと狼の尾を振って、箱に触れた。
 その瞬間。
 リベリスタ達の世界が一瞬白く反転した。

●Your world
 大空、海原、草原。
 其処に広がっていたのは、――――

 桐は空を飛んでいた。
 ぱちっと目を開ける。右を見る。黒くて短い翼が見えた。
 下を見る。遙か彼方の地上が見えた。前方を見ると、どこまでも広がる雲の世界だった。
「ペンギンです。前テレビで見たペンギンそのものです♪」
 桐は短いペンギンの翼で羽ばたいた。
 テレビで見たペンギンが海の中を泳ぐ様は、まるで空を飛ぶようだったから。
 そう願った桐の姿は愛くるしいペンギンに変わり、雲を突っ切って急上昇。嘴を開けば、『クゥーッ』なんて声が出て、思わず嘴のまま笑ってしまう。
 くるっとターンをしてもどこまでも空は続いていく。限りない空を飛びながら、ふと雲の上に小さな犬がちょこんと乗っているのを桐は見つけた。
「マルさーん、一緒に遊びましょ?」
 桐は急上昇、急降下。ずぼっと雲に突っ込んで、再び飛び上がったその背には小さな犬を乗せていた。

『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は空を見上げた。
 その翼で空に上がる。見えるのは、青空と、続いていく海の光景。
 その傍には姉が居た。
 お人好しで、馬鹿。でも、小さい頃はいつも一緒だった姉の姿。
「……昔を思い出すわね」
 ――ずっと、このままでいられたらいいのに、と。シュスタイナは小さく思う。

 真独楽も空を飛んでいた。
 しかしその風景はめまぐるしく変わっている。
「どうだぁ! 妖精さんみたいな羽根!」
 真独楽の背には妖精の羽根。ぱちんと指を鳴らせば虹が架かった。ぴょんと飛べば、雲の上に寝転んだ。
「さあ次は夜だよ、何が起こるかなっ?」
 まるで舞台が一変。夜になってもチカチカ明るいのは星と三日月。雲の代わりに三日月に座って、星に触れれば星は流れ星になって降り始める。
 まるでプラネタリウムのように広がる空の光景。
「えへへ、楽しいー!」
 思わず真独楽はぎゅっと拳を握った。ぱぁっと両手を広げると、流れ星に紛れて黒くて白い星が流れていた。
 それがペンギンと、その背に乗った白い犬だと、真独楽は気付く。
「ね、一緒に遊ぼうよ!」
 お月様が傾いて、雲と星空が混ざり合った。

 旭は海の中に居た。
 とぷんと沈んでいくその姿はあかい金魚。
 海の中を進んでいく金魚を照らすのは、幾つもの光の柱。
 導かれるように進んでいけば、珊瑚礁の海を抜ける。ぎんいろの鰯の群れにも混ざった。
 大きな渦はマンタのヒレ。その尻尾を追いかけて、あかい金魚は進んでいく。
 金魚は見つけた。
 光の柱に照らされた、一人の影。
 嗚呼、知っている。あの人は、きっと革醒した時にエリューションから守って、助けてくれた恩人。
 金魚がこぽりと泡を吐いた。
 それ以上を知らない、セピア色の後姿に“旭”は唇を開く。
「どんなに時間がかかっても、きっときっと見つけるから。そしたら、あのときのお礼を言わせてね」
 旭は瞳を閉じた。開ける。
 彼の姿は消えていた。
(お礼は現実の彼に。夢の彼に言いたい事はそれだけだから)
 旭はそのまま人の姿で、彼のように光の柱の中を歩き始めた。
 きらきら光る水面を、海底から見上げながら。

 ひかると紫月は二人で海に居た。
 二人は人魚になっていた。尾びれを生やし、魚と泳いで紫月が向かった先に居るのは人魚姫。
 ひかるにいつも被っているキャスケットは無く、腰までのストレートヘアを晒すのは幾ら夢の中といえど恥ずかしい。
 けれど今は人魚姫になりきって――女として。
「おかしい……でしょうか?」
 口籠もるひかるの手を紫月は取る。
「変じゃないよ」
 泳ぎ出した二人は海から空を眺めて、イルカと泳ぐ。
 海面から顔を出せば夜だった。空には月。
 ひかるの表情が和らいだ。月夜の海で人魚姫やセイレーンのように聖歌を口ずさんでみたかった事が、ここなら出来る。
 ひかるは岩に腰掛けた。紫月は珊瑚に腰掛ける。二人が歌う。
 聞いていて楽しくなるようなその歌声は、遙か海の彼方まで月に届いて響き渡る。
 誘われたのは船では無くて、小さな犬。
「……おいで」
 二人はその手を差し伸べた。

 シエルは海の中に居た。
「夢の中だから、服でも平気じゃない?」
「風情が無う御座いますね」
 一緒にと手を引いたハルがリアリストな言葉をかけてしまえばシエルは笑う。これは失敬と笑いながら歩いて行く海の底は、何故かとても明るいまま。
 何故だろう? その疑問は直ぐ解ける。
 鎮座していたのはとても大きな提灯アンコウ。その灯りが大きく、優しく灯りを照らしていたから。
「海底で灯台のお役目をしていらっしゃるのですか……御苦労さまです」
 シエルはこぽりと泳いで登り、アンコウをそっと撫でた。アンコウが大きく水を吸って吐き出せば、提灯の明かりがゆらゆら揺れる。
「此処の灯りは目立つから、分身マル様、来て下さるでしょうか?」
 首を傾げたシエルの耳に、海面から歌声が聞こえてきた。――とても楽しそう。
「行ってみるかい」
 ハルの声にシエルは海面を振り仰いだ。
 アンコウの提灯が照らせば、海面までも見渡せた。そこに見えたのは、二人の人魚の姿。
 アンコウが再び大きく海水を吸って、ごぷんと二人の行き先を照らし出した。

 アンジェリカは草原に居た。
 そこは夢の中――いや、現実。そう、過去の風景。
 イタリアの片田舎の小高い丘に、アンジェリカは居た。そこから小さな村が見渡せる。アンジェリカが目を閉じて、開ければ、そこに一人の人が立っていた。
「神父様……」
 アンジェリカの声が震える。微笑むその姿に抱き付いて、嬉しくて涙が一筋零れていく。
 その気持ちをアンジェリカはただ歌にした。涙が伝うまま、自分の笑顔を受け止めてくれる。
 ―――どれだけ歩いただろう その姿を求めて
 ―――どれだけ歩いただろう その笑顔が見たくて
 ―――泡沫の時 例え儚く消えるとしても
 ―――今この時だけは 貴方が側にいてくれるから
 ―――今この時だけは 貴方の為に歌いたい
 ―――有難う 可愛い子犬 あの人に会わせてくれて
 ―――有難う 可愛い子犬 ボクに幸せな時をくれて
 そんな二人を、小さな白い犬はじっと見つめていた。

『緋剣』衣通姫・霧音(BNE004298)は草原に居た。
 見渡す限りの草原の中、桜の樹が一本聳えている。とても大きな満開の桜。
 それは霧音の記憶の中で一番綺麗なもの。
 桜の花は、好ましい。
 とても綺麗で、綺麗なままに散り行くものだから。
 霧音は見続ける。傍に子犬の気配を感じたから抱き上げて、微笑んだ。
「ありがとうね、素敵なものを見せてくれて」
 子犬はぴくりと耳を動かすと、ちょんと小さな鼻を掌に触れて、再び草原へと走り出した。

 ジェイクは草原に居た。
 ジェイクの中に流れるオオカミの血。それは野生の本能か、ジェイクは走り出す。
 何処へともつかない。ただ広い大地を走り回れるのはそれだけで楽しかった。
「犬はどこか……そこか!?」
 ジェイクが飛びかかった。ぴょんと大地から跳ねる小さな子犬。
「やっぱ逃げるか。次の動きは……こうだな!」
 ジェイクが飛びかかった先に子犬が逃げて、捕まえたと思った瞬間に子犬がまた跳ねた。
「すばしっこい奴め!」
 ジェイクは逃げ回る犬が楽しんでいる事に気付いていた。そう、これは、オオカミと犬の追いかけっこならば。
「負けねぇーぞ!」
「!」
 ぴんと耳を立てて走り出した、一人と一匹。

●Cotton candy
 世界の誰かが子犬を捕まえると、世界は揺れた。
 画面が切り替わるように十一人と三匹が大きな扉の前に誘われた。
 ふんわり降りるような、瞬きの一瞬だった不思議な感覚のまま、大きくて、楽しそうなカラフルな扉が、わたがしに包まれている。
「それじゃ、開けるよ」
 ハルが三匹を抱き抱えれば、ぽんっと三匹が消え、辺り一面が真っ白になる。
 ゆめみた大空。海原。草原。代わりに開いた扉の向こうだけに、世界が広がる。
 パレードの音色に空に放つ色とりどりの風船達。
 此処が加奈のせかい。
 虹色の観覧車に、雲のジェットコースター。
 遊園地に行った事がない紫月は思わずキョロキョロと見渡してしまう。その視線がふと止まった。
 風船を持つ女の子が走っていた。
「あ……」
「加奈さん!」
 思わず口籠もった紫月の隣から、ひかるがその姿を呼び止めた。
 きょとんとするのも一瞬、翼を生やし、或いは獣の耳を持っているリベリスタ達を見るや、加奈はぱっと顔を輝かせる。
「うわぁ、お客さんだ!」
 小さな犬を抱き抱えたまま、加奈は駆けてくる。夢か現実かの区別はついていなくとも、不思議な容姿のリベリスタ達を怪訝な顔一つせず、遊びに来たのかと問い掛ける。
 あまりにも無邪気な加奈にお別れを告げるのは心苦しいけれど、真独楽はそっとしゃがみこんだ。
「あのね、まこ達、迷子のマルを探しに来たの。……マルを連れて行っても良いかな?」
「え……」
「ボク達は夢の精、この子はもう帰らないといけないんだ」
 アンジェリカが続け、俯いてしまった加奈にシエルと桐が同じように屈み込む。
「でも、またお会いできるかも? だからお別れではありません。それまで……素敵な遊園地で、一緒に遊びませんか?」
「そうですよ。折角だし皆で遊びませんか? 私もさっきまでペンギンだったんです」
 桐が言えば、加奈が目をまん丸とさせた。すごいっと言えばその瞬間、ぽんっと扉が現れる。
 おっかなびっくり開けてみると、そこは子犬そっくりの人形だらけの部屋に通じていた。
 ちょんと唇に指を当てる桐を見れば、どうやら桐が描いた部屋であるらしい。
「マルちゃん、紛れてみようよ!」
 旭が子犬を促せば、ぴょんと子犬がその部屋の中に埋もれていった。わわっと慌てる加奈と一緒に部屋に入っていけば、その人形はどれも精巧すぎて見分けが付かない。
「まこも入る!」
「私もご一緒を……マル様?」
 シエルが問い掛ければ、人形の中の本物がぴょこんと顔を出した。ジェイクが捕まえようとすれば、再び人形に隠れてしまう。
 開きっぱなしの扉からそんな光景がよく見えて、立ったまま動かないシュスタイナに霧音が首を傾げた。
「シュスタイナは行かないのかしら?」
 シュスタイナは、面倒くさいと、いつもの通りの答えを寄越した。
 姉と居た、消えてしまった世界を眺めるように空を見上げながらシュスタイナが呟くのを、霧音はくすりと微笑んで見守って、視線を扉の中に再び移す。
「みーっけ! えへへー」
「お姉ちゃんすごぉい」
 人形の犬を掻き分けながら、旭がマルを抱き締めると、加奈は目を丸くした。
 しかしふと見ると、狼の耳と尻尾を持つ青年、ジェイクは少し距離を置いている。
 自分の見た目は少し怖いかもしれないからと遠慮していたのだが、加奈はずんずん近付いて、「ねえ」と声をかける。唐突すぎて驚いたジェイクに、加奈はじっと見つめるまま。
「お兄ちゃんはマルと同じ、犬なの?」
「いや、オオカミだ」
 おずおずと答えるジェイクに加奈はぱぁっと瞳を輝かせる。
「オオカミ! すごい!」
 ぴょんと抱き付いてきた小さな女の子に気を許せば、ジェイクは肩車をしてあげた。
「オオカミのお兄ちゃんが出来たみたい!」
 加奈は何一つ動じずに、ジェイクにぎゅっと抱き付いた。
 不思議な犬を拾っても、犬が外に出たがらなくても、無理強いをせず友達で居られた少女だからこそと思わせる。
 けれど、ゆめの終わりは、もうすぐ、そこに。
 不意にぶるっとした感じを受けたのは、真独楽と紫月。夢に入る前にセットした目覚ましが、きっと夢の中の自分達に告げてくれたのだろう。
「そろそろ起きる時間じゃないか?」
 紫月が話しかけた。加奈の表情が曇る。嫌だと言う代わりに、肩車をしてくれるジェイクの頭をぎゅっと抱き締める。
(最後はやっぱり、お別れの時間が来るよね……)
 ジェイクも尾を下げるが、いつかは覚めなければならない夢だから。
「でも、ね。加奈さん」
 ひかるが顔を上げた。
「現実も夢以上に素敵な事が沢山ありますよ。……現実があるからこそ、夢は楽しいのですから」
「そうそ、外の世界もとっても楽しいよ。素敵なものも、不思議なことも、おいしいものもいっぱいで……だから今度は、夢じゃない所……外でも、一緒に遊ぼ!」
 だってもう友達だから。真独楽が言えば、加奈はおずおずとジェイクから降りた。
「……約束?」
 加奈が真独楽に指切りを差し出してくる。
「うん、約束。こんなに楽しくて特別な世界で、一緒に遊んでたんだもん。大親友だよね。まこももうお友達だよ!」
 シエルがマルの小さな前足を乗せてあげて、マルも一緒に指切りげんまん。
 最後の最後にアンジェリカも踏み出した。
「この先大人になっても、この子の事を忘れないでいてあげてね。それから、……この子を助けてくれて有難う」
「当たり前だよ、マルも……皆も、友達なんだからっ!」
 加奈がマルを抱き締める。アンジェリカの優しい掌に撫でられて、泣きそうになってしまう。
 それを見て、旭は息を吸い込んだ。吐く言葉は、静かに。
「加奈ちゃん――これは夢なの。そろそろ、覚める時間だよ」
 キィワードが弾けた瞬間、世界が再び白く染まっていった。
 まるで雲に包まれているような、海の泡を昇るような、野原の風が吹き抜けるような、その瞬間。
(マルちゃん、加奈ちゃん。たのしー夢をありがと)
 旭は、リベリスタ達はその世界の目覚めに身を委ねていった。

●Sometimes, somewhere
 加奈はまだ眠っていた。
 けれどその白い箱の中には、小さな犬が戻っている。寝返りを打つ加奈が目覚めるのも近いだろう。
 少し寂しいお別れの予感にほんの少し涙が光るけれど、カーテンの向こうから朝日が昇る。
 ひかるはキャスケットに隠れる表情に、穏やかな笑みを浮かべた。
「今日も素敵な朝陽ですから、きっと良い日になりますよ」
 眠る加奈に、紫月と並んで小さな言葉。
「アークの地図を……大丈夫でしょうか」
 シエルは地図を置く事を少し躊躇った。神秘秘匿と考えれば、おいそれと伝える事は出来ない。それがアークのリベリスタ達の責務でもあったから。
 ハルが少し悩んでから「大丈夫」と決断した。
「本来は人に秘匿すべき事だけど、この子ならきっと大丈夫だよ。……だって、こんな小さな犬も僕達も、受け入れて、友達で居られた子なんだから」
「大親友だしね!」
 真独楽が嬉しそうにふふっと笑う。マルと目が合ったから、ね、と笑いかけて、桐もそれに安堵して地図を置いた。
『いつか遊びに来てくださいね。マルと待ってます』
「それじゃ、わたし達も帰ろっか。わたし達の場所に」
 旭が背伸びして陽を見遣る。どこか海の中で見た光のようで、すがすがしい。
 アンジェリカも、その陽に瞳を細めて、それからマルを撫でた。
 リベリスタ達が帰っていけば、加奈の部屋のカーテンがふわりと揺れる。
 そしていつものように加奈は目を覚まして、見つけるだろう。
 居なくなってしまった白い箱と、白い犬。そして、皆で遊んだ夢の記憶と、窓際の小さな飴玉。枕元の夢の欠片。
『大丈夫、またきっと会えるよ、だからあの子との時間を忘れないでいてあげて』
 夢の中で出会ったオオカミの人が笑ってくれているのが思い浮かぶ。
「……忘れないよ。お兄ちゃん達の事も、……マルの事も」
 夢だけど夢じゃ無い、そんな不思議な出来事だった。
 少女が大人になれば――――いつか。
 夢の世界と、現実世界で、また逢える日がきっと来るから。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
夢の中の世界、お疲れ様でした。
はしゃいだ事も、思い出に会った事も、ほんの少しのお別れも、楽しんで頂ければ幸いです。
やさしい夢の思い出を、皆様ありがとうございました!