●破綻させた関係 ある高校の屋上。 落下防止のフェンスを背にして俯く雪絵に真絹が詰め寄る。 「お願い、話を聞いて!」 そう言って差し出しだされた真絹の手を雪絵は容赦無く弾くと、吐き捨てるように告げた。 「悪いけどあなたの言葉は何一つ信じられそうに無いの」 「だからそれは……!」 雪絵は真絹を汚らしいモノを見るかのように一瞥すると、言葉の続きも待たずに走り去って行った。 呆然と立ち尽くすしかない真絹だけをその場に残して。 そしてその様子を貯水槽のある屋上の出入り口の陰から見詰める眼があった。 彼女達と同じ高校の制服に身を包んでいるが、腰まで長くのびた黒髪のせいで風貌は良く分からない。だが髪の隙間から覗くパーツを見る限り整った印象を受ける。 彼女は二人のやりとりを見届けて薄く笑みを浮かべた。 ある夕闇迫る街角では高校男子生徒二人が取っ組み合いの喧嘩をしていた。 「俺の彼女だって知っていて春子をそそのかしやがって!」 「何言ってるんだ! 春子の気持ちを無視して彼女扱いしていたのはお前の方だろう!!」 そんな二人を一人のギャルメイクの少女が怯えた様子で見ていたが、じきに耐えきれなくなって走って逃げて行った。 喧嘩している二人には見えないが、走って逃げているはずの少女の表情は、怯えから厭らしい笑みへと変わっていた。 街のどこかしらでいさかいは起こっている。 それは一見普通の事のように。 種を撒いている存在がある事も知らずに……。 ●居るはずの無い者 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は不機嫌そうに言った。 「最近ちまたで学生が仲互いしてしまう事件が頻発しているんだけど、これはフィクサードの仕業だ。この資料を呼んで欲しい」 そう言って伸暁は資料を配り言葉を続ける。 「アークの調査ではそのフィクサードは覚醒前に友達が出来なかった事を妬んで動いている。人の意識に働きかけて自分を昔から知っている仲間だと思わせる能力を持っていて、仲の良さそうな人間を見付けてはその能力で気がつかない内にグループに潜り込んでは内部からじわじわと関係を破壊していく。そして完全に関係が破滅するところを見終えると学校を去って行く。ばらばらになった仲間達は再び顔を見るのも嫌になるくらい嫌い合うので犯行も発覚しにくい……面倒くさい事だ」 そう言ってため息を吐く。 「今は資料にある高校に潜伏しているが、相手は変装が恐ろしく上手い。見た目は簡単に変わってしまうから注意して対応に当たってくれ。一度逃すとまた探すのは厄介だから気を付けて欲しい」 伸暁は画面を消すと、リベリスタ達にさっさと行動に移るように促した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:五葉楓 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月06日(水)22:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●謎を呼ぶ転校生 「今日から新しく皆さんのクラスメイトになる生徒を紹介します」 そう言ってクラスの担任である男教師は壇上にアイシア・レヴィナス(BNE002307)と八尋・阿古(BNE002478)とマリー・ゴールド(BNE002518)と石 瑛(BNE002528)を立たせた。 一度に四人もの転校生を目の当たりにし、生徒達はざわめく。教師はそれをフォローするように一言。 「えー。当校としてもこう言った事は滅多にないのですが、折角増えた新しい仲間ですので仲良くするように。では君たち、紹介を……」 教師に促されて一人ひとり自己紹介すると、各自空いてる席へと散って行った。 休み時間に入り、“転校生”達の周りには入れ替わり立ち替わり興味本位の生徒達が集い質問攻めにしている。 先ずはアイシアとマリー。同じ欧米系外国人同士という事で学校側に机を並べられてしまったのだ。 「確かアイシアとマリーさんは外国から来たのよね。日本語凄い上手!」 「わたしは昔からこっちとあっちを行ったり来たりしていたので日本語は問題なく話せるのですわ~。皆さんと仲良く学園生活を送れると良いですわ~」 女生徒に親しげに話しかけられ、上機嫌のアイシア。 しかしその横でマリーは慣れない笑顔でぎこちなく受け答えをしている。 「私は、ニホンの学校に通うのは初めてだ。でもアイシアよりJapanese……日本語苦手だけどよろしく頼むよ。ええと、Aishia.It is hard for me to be surrounded by many people.I entrusted you afterward!(アイシア、私は人に囲まれるのは苦手なんだ。後は任せたからな!)」 「I understood it(わかりましたわ)」 マリーは慣れない多人数との会話に耐えきれなかったのか、ムッとした表情で黙り込んでしまった。 「あれ、マリーさん? アイシアさん。マリーさんどうしたの?」 「ええと、初めての日本の学校に緊張してるんですって。彼女と知り合ったのはここに来てからですけど、彼女恥ずかしがり屋さんみたいですね」 無愛想なマリーの代わりにアイシアが笑顔で答えると、生徒達は返って「マリーさん可愛い」と更に騒ぎ始めてしまったのだった。 一方、阿古と瑛。こっちは東洋人同士、片方が日本人という事で机を並べさせられていた。 「八尋さんの髪の毛と眼ってそれ自然なの?」 「そうですよ」 阿古の美しい白い髪と桜色の瞳に生徒達は物珍しげに見ている。 「石さん、これっていわゆる猫耳だよな? すっげ、本物みてぇ。触っても良いすか?」 「ええ、構いません。日本ではこういうものが流行っていると聞いて付けて来たのですが、合ってます?」 物は言いようである。 「流行っていると言えば流行ってる、わね……」 女生徒の一人が遠巻きに瑛を眺めているオタクっぽい男子生徒数人を横目に見つつ苦笑する。 「何か違ってるんですかね? ねえ阿古さん。日本では猫耳って何系ファッションになるんですか?」 「確かコスプレとかそう言うのに入るんじゃないでしょうか。あまり一般的では無いかもしれませんが……」 瑛に訊ねられ、阿古は少し考え気味に答える。 「でも、似合ってるし良いんじゃないんですか?」 「俺もそう思う! 可愛かったら何でも良いと思う!」 このクラスの生徒は思ったよりも寛容なようだ。 「そうですか? ありがとう……」 柔らかい瑛の微笑みに頬を染める男子生徒。 そして一連のやりとりを見守っていたオタク男子達がうんうんと頷いた。 ●待ちぼうけ その頃、校舎から少し離れたビルの屋上から日下禰・真名(BNE000050)が照りつける夏の日差しの下、仲間が潜入したクラスをうつろな眼差しで観察していた。 「見えない……」 窓際には阿古と瑛の姿は見えるが、件の6人組は隠れた位置に居るのか真名の視界には視認できなかった。 もしかしたら放課後まで待たないといけないかもしれなかったが、正気の危うい真名にとって時間などは大した障害では無いので、そのままターゲットが姿を現すのを待機する事にしたのだった。 ●女は変わるもの? (さて、聞きこみ調査と行っても誰から声をかけるかのぅ) 廊下を歩きつつ一任 想重(BNE002516)は考える。 (先ずはあそこ辺りから行ってみるか) 「な、なあ」 使い慣れない現代口調で男子生徒に声をかける。 「なんすか?」 見知らぬ想重に怪訝そうな男子生徒。 「ワ……"俺"のダチがさーあの子、亜希子のこと気になるって言ってんだけどさー、あいつらいっつも6人で固まってるじゃん? 実際のトコどうなのよ?」 「は? お前誰?」 「ああ、俺1組の想重つーんだ。彼氏とか性格とか、解る範囲で良いんじゃ……だけどおしえてくれ、ないか?」 「そう、まあ良いけど。亜希子の性格? 最近は性格は結構キツめじゃないか? ちょっと前まではまでは大人しいっていうか目立たないイメージだったんだけど。俺が分るのはそこぐらいまでだから。じゃあ」 「待った待った。その、イメージが変わったきっかけとか時期とか、知ってたら教えてくれんかね?」 「何でお前にそこまで教えてやらなきゃいけないんだよ」 「おなご……女子を攻略するには情報が少しでも多い方が良いからな。頼むよ」 「んー……あの時期くらいかな」 「ほう」 「なんかあのメンバーの仲が険悪になった時に取りなしたんだってさ。詳しい事は知らないけど」 「分った。いやはや、すまなかった」 男子生徒はしつこい想重からさっさと離れたかったのか、溜息を吐いて去って行った。 (ふむ、雰囲気が変わった……) 男子生徒から聞いた情報を反芻し、想重は考え込んだ。 ●近代的な盲点 さて、教員として職員室に潜り込んだ真咲・菫(BNE002278)とだったが、予想外の障害に見舞われていた。 この学校では生徒の情報は全て電子情報化されてパソコンの中だったのだ。 原本はあるようだが、別室にある専用金庫の中にあるらしく手出しできなかった。 しょうがないので魔眼を使って件のクラスの担当教諭からパソコンを借りて情報を見ようとしたものの、更なる問題にぶち当たってしまった。 転校や家庭状況に関する個人情報が記されている階層には更に厳重に管理用パスワードがかかっていたのだ。 (しまった。確かに個人情報にうるさいこの時代、そんな情報が簡単に見れるはずがなかったな。そこら辺も詳しく聞いておくべきだった……!) 再び情報を聞き出そうにも、今は授業中で職員室はもぬけの殻。 しょうがないので机を探って関係のありそうな記号をパス項目に入れて試してみたが、どれも弾かれてしまい使い物にならなかった。 確かにパスワードも人の目につく場所に置いておくはずが無いだろう。 生徒名簿自体はもう改ざんされてしまっているらしく、不自然な部分は特に見当たらない。 こう言う時現代科学に不便さを感じる。 しかし、不自然な部分はきっとどこかにあるはずだと思い、手掛かりを探してパソコンのデータや机を探る。 すると男性教諭の日誌がパソコンのデータから出て来た。 どうやらこの教諭は生徒の事を良く見ている男だったらしい。 もちろんあの6人組の事も書いてあった。一個一個は小さい、メンバーの誰かが関わっていながらも誰のせいとも思えないトラブルが絶えない事も気にしているようだった。 その中でも気になる案件が一つ。これはグループを揺るがす大きな事件が記載されていた。 (これは……) 日誌を読み進めながら菫は考える。 その時、想重から連絡が入った。 ●トラップはどっち? 放課後、リベリスタ4人は仲良く下校の準備をしていた。 そこに亜希子率いる6人組が声をかける。 「こんにちは。私、木野亜希子って言うんだけど、今日は一緒に帰らない?」 「昼間は君等皆に囲まれ通しだったからさ、下校あたりなら落ち着くと思って待ってたんだ」 そう言って勇人が微笑む。 四人は顔を見合わせると、瑛が進み出て受け答える。 「ええ、構いませんよ。私達も丁度転校生同士親交を深めようと思っていたところなんです」 「そう、それは良かった。どこ行く? 街の事全然知らないでしょ。案内するわ」 「どんな場所があります?」 「やっぱゲーセンとカラオケが定番でしょ!」 航がはしゃぎ気味に提案する。 「カラオケ……英語の曲はあるの?」 「こだわらなければ結構あるわよ」 アイシアの問いに夏樹が答える。マリーは黙って皆の様子を観察している。 「マリーさんもそれで良い?」 「構わない」 仁美が恐る恐る訊ねると、マリーは短い返事で答えた。 「じゃあ決まりね! じゃ、行きましょ」 「全部で10人なら駅前の店じゃないか?」 「そうね~」 一同は亜希子の先導の元、日の傾きかけた街へと繰り出して行った。 ●照らし出される炉端の石 「それじゃぁバイバーイ」 「おう、またな!」 カラオケやゲームセンターでめいっぱい遊び、すっかり暗くなった頃に散会となった。 「私、帰る方向が違うから先に帰る」 そう言ってマリーは瑛達にアイコンタクトを送ると去って行った。 「じゃ、俺らも」 三々五々に散り、最後に残った仁美を阿古が手を取って引き止める。 「ちょっと良いかしら?」 「……何?」 「ちょっと話があるんだけど」 「あ、ごめぇん。私門限あるからもう帰らないといけないのよぉ。また今度で良い?」 仁美は申し訳なさそうに阿古の手を振り払って立ち去ろうとするも、飲食店の横路地から真名がゆらりと現れて立ち塞がる。 「良いじゃないの少しくらい。お話、しましょうよ……ねえ、フィクサードのお嬢さん?」 そう言って虚ろな笑みを浮かべる。 「ちょっとおイタが過ぎたみたいだね」 菫と想重も出てきて真名の隣に並ぶ。 「………」 仁美は笑顔を顔に張りつかせたまま自分を取り囲む面々を見回すと、高く跳躍して逃げ出した。 「あっこら、待て!」 逃げ出した仁美を追って全員慌てて追って行く。 ●転がる石は何を思う マリーはグループから離れると、ある場所に向かった。 遮蔽物の少ない広場のある運動公園だ。 運動公園で先に待機していたウルザ・イース(BNE002218)と合流する。 「今、アイシア達がターゲットを誘い出すところ。誰がフィクサードかは直ぐ分った」 そんな事を話し合っている内に激しくぶつかり合う音が聞こえ始めた。 暗がりに激しいぶつかり合いをしながら近づいて来る影がある。 「来た!」 マリーとウルザは戦闘態勢に入る。 そして公園の外灯がもつれ合う人影を浮かび上がらせた。 菫と仁美だ。 「スミレ!」 「駄目だ、今はこっちに来るな……!」 一瞬マリーとの会話に気を取られた隙にしなる仁美の腕が菫を弾き飛ばし、ウルザが菫の身体を受け止める。 「菫君、大丈夫かい? 他のみんなは?!」 「今来る。あいつ、話しかけたら急に逃げたんだ。でも、うまい具合にこっちの方に来れて良かった」 そんな菫とウルザのやりとりを見ながら仁美は不気味な笑みを浮かべてマリーに話しかける。 「改めましてこんばんわ。さっきは楽しかったわね。あのままお別れ出来ればよかったのに」 皆と居る時は甘ったるいしゃべり方をしていた彼女だったが、今の口調にその面影は全くない。 「Shit! 人の絆を傷つけ弄ぶ存在を放置できるわけがない!」 マリーが怒りに肩を震わせながら怒鳴る。しかし仁美は特に動じる様子はなく、冷たい眼差しのままだ。 「絆? あんな少しつついただけで揺らぐモノの何が大切なのか私にはさっぱり解らないわ。仲良しごっこの何が楽しいのか、私には理解不能ね」 「貴様ーーーー!」 「押さえてマリー。皆が来るのを待つんだ」 悪びれも無く肩を竦める仁美に飛びかかろうとするマリーをウルザが制する。 「あんた、亜希子さんの立場、いじっただろ?」 菫が立ち上がって仁美に訊ねる。 「何の事かしら?」 「亜希子さん。本当はあのグル―プでは酷く弱い立場だった。寧ろイジメられてるととられかねないような。担任の先生の日誌には、二人の事の他に亜希子さんを心配する書き込みがあった。本当に仲が良いグループとは思われていたらそんな事書かれないよね」 「それで?」 「あんたは何を思ったのか知らないけど、亜希子さんの立場を逆転させるためにわざと夏樹さんと航君を喧嘩をさせた。違う?」 喋りながら菫は再び戦闘態勢に入る。 「……それがたまたま面白かっただけよ。遊びに意味なんて無い。ところでまだやる気なの?」 「ああ。今あんたを見失ったらまた繰り返すだろ?」 「当たり前でしょ。こんな楽しい事、止められないわ」 「下衆だね……でもあんた、亜希子さんは本当に好きだったんじゃないか? 自分の惨めな時代と似てたから」 立ち去ろうとした仁美だったが、その言葉にふと足を止める。 「今何て言った?」 仁美は超スピードで菫に迫ると、鼻先を突き合わせて睨みつける。 「言葉のままだよ。あんたは亜希子さんと自分を重ねて同情したんだ。だから……うぁっ!」 次の瞬間、菫の身体が吹っ飛んだ。腹に一発入れられたらしい。 「ふざけるな! 私が惨め? とんだ侮辱だわ! あんな子、後でおもちゃにするつもりだったに決まってるじゃない!」 猛然と菫に襲い来る仁美。ウルザは慌ててトラップネストを張り巡らせて仁美を遮る。 その間に菫は移動し、他のメンバーも到着する。 「菫さーん!」 アイシアを始めとした実働班がやって来るが、戦闘中なのを目の当たりにして自分達も戦闘態勢に入る。 仁美はトラップネストを引きちぎると後方に下がって舌打ちをする。 単独でもかなり高い戦闘能力を有する彼女だが、8人ものリベリスタに囲まれては分が悪い。このままでは逃げる事すらままならないのは明白だ。 「もう、戦いとかって本当趣味じゃないのよ!」 彼女は咄嗟に一番手薄なウルザめがけて残像剣を発動させるが、想重が守護結界を張ったので仁美の攻撃はウルザに届かなかった。同時に真名とマリーがメガクラッシュを放ち、仁美の残像剣を弾き飛ばす。 「きゃっ!」 攻撃を挫かれた拍子に彼女が体勢を崩したのを見逃さず、マリーのギャロッププレイの麻痺が動きを鈍らせる。 そこにウルザが再びトラップネストで仁美を囲んで完全に動きを封じ込めた。 今度は上手く逃げ切れなかったのか、仁美も諦めたのか糸に絡まったままガクリと項垂れた。 仁美は力はあっても多人数相手の戦闘には慣れてなかったようだ。 「観念したようだね」 ウルザがしゃがんで拘束された仁美の顔を覗きこむ。 「私をどうするつもり?」 「それはこれからアークが決める事じゃのう。折角力を持っているのじゃ。改心して、良い事に使うと良いと思うがな。さて、これに手一件落着!」 想重はそう言って満足げに笑った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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