●混沌の「破」 バロックナイツ『厳かな歪夜十三使徒』第十位。 『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが指揮し、作曲した混沌組曲事件。 ケイオスの定めたルールに従い、彼の曲を演奏するように事件を起こす『楽団』。 其の『楽団』は此処暫く、自身が『演奏』する為の『楽器』を集め揃えていた。 彼等の奏でる『楽器』とは、決して一般人だけに留まるものではない。 この日本国内でリベリスタやフィクサードを狙った襲撃事件が頻発していたのである。 無論――リベリスタは言うに及ばず、フィクサード達とて只々やられる様な事はしないだろう。 勇敢に、果敢に――日本を侵す敵に立ち向かっていった筈だ。 だが、彼等にとって『楽団』という相手は余りにも相性の悪すぎる相手だったのだ。 何せ、『楽団』の奏でる『楽器』とは即ち死体を指し――敗北すればその場で敵の戦力は拡大してゆく。 ミイラ取りがミイラになる、とは良く言ったものだ。 結果的に彼等はそうして着々と『楽器』を増やしていた。 万華鏡がある未来を観測、予見したのはそんな時だ。 其れは、あのジャックですらかなわなかった日本全国への壊滅的攻撃。 全国の中規模都市へ与えられる其の攻撃は、只日本の機能をダウンさせるだけには留まらない。 攻撃が行われれば、大量の死体が生まれ――其れ等は、彼等の『楽器』と化すのだ。 この事件に対し、リベリスタ、そして主流七派のフィクサード陣営は静観の構えを見せていない。 アークは元より、主流七派のフィクサード達も事実上『楽団』とは対決姿勢にあるのだ。 『裏野部と黄泉ヶ辻を除く七派がアークと遭遇した場合でもこれを当座の敵としない』 其れは、千堂遼一がアークに対し告げた言葉であり、時村沙織は既に了承している。 同盟では無いが、共倒れを防ぐ為なのだろう。 今回に限っては二派を除く彼等はリベリスタにとって事実上友軍という事になるのだ。 ●亡者、進軍す 「――ツマラナイわね」 自身の奏でていたトロンボーンの演奏の手を止め、倒れ伏したリベリスタを見下ろしながらエリスタ・ハウゼンは呟いた。 此処――兵庫県明石市を攻撃目標に定めたのは、殆ど気紛れだ。 指揮者が指示した日本全国への壊滅的攻撃。 其の折、不意に目に留まったのが世界最長の吊り橋――明石海峡大橋だった。 全長3,911mを誇るこの巨大な吊り橋は本州と淡路島を結ぶ交通ラインの要だ。 もしも、自身がこの橋を落としてしまえば其れは大きな混乱をもたらす事になるだろう。 後は、逃げ惑う人々を襲い――自らの『楽器』とすれば良い。 嗚呼、眼前に広がる島を一つ丸々『楽団』の拠点として制圧してしまうのも良いだろう。 「さぁ、寝ている暇なんてないわよ。貴方に安らかな死なんて決して訪れはしないのだから」 今しがた止めを刺したばかりのリベリスタ達をトロンボーンの音色で自身の手駒に加えながら。 「遊びは終わり。前に言ったでしょう?」 『自身を怒らせた罪は、これから奏でられる組曲で贖って貰う』と。 エリスタと、彼女が奏でる『楽器』達は最悪の鎮魂歌を彩る為に、進軍を続ける。 ●橋の上の敵を討て 「緊急任務。『楽団』が動き出したわ。兵庫県明石市に向かって」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声色は何時になく焦りに満ちている。 イヴによれば、現在日本全国で大規模な『楽団』の攻撃が次々と起こっているのだという。 兵庫県明石市で事件を起こしている楽団メンバーは『レクイエム』エリスタ・ハウゼンというトロンボーン型アーティファクトを操る修道服を着た少女だ。 彼女は現在、明石海峡大橋へ向けて自身が使役する亡者達を率いながら進軍を続けている。 無論、其れを只々許す様な事は他でもない地元に住む者達がする筈もなく明石市やその周辺に元々存在していた小規模リベリスタ組織が応戦していたのだが……状況は最悪と言っていい。 「生半可な力じゃ、『楽団』は止められない。否、それだけじゃない」 楽団の主戦力は現地で調達した死体であり其れは、戦闘中であっても変わる事は無い。 勝ち目がない状況で、『楽団』に挑む事は即ちそのまま彼等の戦力を増やす事に繋がるのだ。 事実、現地では既に何名かのリベリスタやフィクサード達がエリスタの『楽器』と化している。 「エリスタの目的は本州と淡路島を繋ぐ明石海峡大橋の占拠と破壊」 もしも交通の要である吊り橋が破壊されれば、大混乱に陥る事になるだろう。 そして其れは、エリスタにとっては『楽器』を調達するいい機会でもある。 例えば、そのまま本州と分断された淡路島に攻め込まれたとしたら――。 「今回はエリスタも積極的に前に出てくる。気をつけて」 必ず生きて帰って来て、とイヴはリベリスタ達に告げたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月09日(土)00:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 明石海峡大橋へ続く、神戸淡路鳴門自動車道はいまや『楽団』の奏でる鎮魂歌に彩られ、地獄絵図と化そうとしていた。 瀬戸内の波に運ばれた潮風と、戦場に漂う死臭が混ざり合った様な。ツンとした不愉快な匂いが駆けつけたアークの面々の鼻をつく。 現場に到着した彼等が先ず、何よりも先に取ったのは先んじて『楽団』と戦っている明石市や神戸市のリベリスタやフィクサードによる混成部隊との接触、及び救助。 そして、彼等を安全に一時後退させ且つ亡者達に数で押し切られない為の策――トラック数台を用いた障害物……いわば、バリケードの設置である。 「聞こえるか、此方はアークだ! あんた達の加勢に来た!」 攻撃の手の止まぬ亡者達に囲まれ、思うように身動きの取れなくなっていた混成部隊のリベリスタやフィクサード達に届く様、精一杯の声と攻撃による援護を『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)が行う。 「後方で現在仲間が迎撃の準備を整えてます。貴方達も後退してボク達の仲間に合流して下さい」 彼等が後退する手助けを行う為。彼等自身を誤って巻き込まぬ様、細心の注意を払いながら四条・理央(BNE000319)は周囲に展開した魔法陣から魔力砲を敵の群れ目掛け、放つ。 「お前達もあいつらのお仲間にはなりたくはなかろう……頼む、今は俺達の指示に従ってほしい」 頷き、後退を開始した彼等と合流する様に、逆に『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は直ぐ様、彼等の援護の為に前へと出てゆく。 「聞いての通りだ。総員、本当に良く保たせてくれた」 現場に到着するまでの間通信で彼等を鼓舞し続けていた『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が彼等を労う言葉と共に、ハーケイン同様合流の為に前へ出る。 到着した増援に、混成部隊の面々の表情がほんの僅かではあるが、安らいだ様になる。 とはいえ、攻撃の手が以前緩む事の無い最前線。亡者の群れの相手をしながら、疲弊し思う様に動けない彼等が自力で後退する事は容易では無い。 アークも其れを承知していたからこそ、人数を割いて救援部隊として彼等の救援に向かっている。 もしも彼等が何もせず、只々混成部隊との合流を待ちぼうけしていたならば混成部隊の面々は全員、此処で戦死していたかも知れない。 アークの下した判断は正しく、間違ってはいなかったのだ。 しかし、其れでも全てが上手く行く訳では無かった。 彼等を上手く、脱出させるためには単純な力押しだけでは、少々ほんの僅かなものではあるが、不安もまた残るのだ。 「此方へ一度全て引きつけたいものだが――」 リベリスタやフィクサードだった者達を有する今回の亡者達は、以前零二が相対した亡者達の何倍も面倒で、油断のならない相手である。 亡者達の怒りを買い、誘う零二の言葉に混成部隊を包囲していた亡者達が次々と零二の方へ気を取られそうになるも、紛れ込み、難を逃れたホーリーメイガスが仲間の亡者の怒りを、理央や木蓮、ハーケインの与えた傷ごと癒していく。 「これが、楽団……! とても現地調達の戦力とは思えない、が!」 「今、傷を癒します! 頑張って下さい、あと少しですから!」 ジリジリと、すこしずつ後退しながらハーケインが暗黒の奔流を亡者達へ放ち、理央が混成部隊や仲間の傷を癒す。 「めんどくさいんだよお前等! 纏めて俺様の一撃を喰らえッ!」 激昂した木蓮のMuemosyune Breakが、亡者の群れ目掛け火を吹く。記憶を撃ち抜き、壊す程の威力の蜂の巣の様な銃撃が亡者達を次々と撃ちぬいていく。 撃ちぬかれ、倒れ伏す亡者達の隙間を縫うように混成部隊のメンバーが飛び出す。 後退し、態勢を整えるならば今をおいて他には無いだろう。 「此処は!」 「通さないんだよ、この死体共!」 走りだし、後退する混成部隊を追おうとする亡者達を、殿を務める為に残ったハーケインや木蓮がその身を犠牲にブロックし、食い止める。 尚も喰い下がらんとする亡者達もまた、理央のマジックブラストや零二のフラッシュバンによってその進行を阻まれる。 「皆さん、こっちです! 早く!」 設置されたトラックの前に立ちながら、傷ついた混成部隊を誘導するのはエネミースキャンによって、亡者達の中の元革醒者達を見極めんとしていた『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)だ。 光介の呼びかけに導かれる様に混成部隊や、救援に向かっていた仲間達が設置を終えたトラックの隙間から後退する。 彼等が全員、無事に障害物の裏へ入り込んだのを確認するや否や自身も的にならない為、直ぐに裏側へと避難し癒しの息吹で彼等の傷を癒していく。 「本当に、助かった……連中タフな上に、俺たちの仲間まで……」 悔しさからだろうか、歯噛みしながら混成部隊のダークナイトが嗚咽を漏らす。 本当に、心も、身体もギリギリの状態だったのだろう。先ほどの救援とて、運がほんのあと僅かでも悪ければ残った五人の内、新たな犠牲者が出ていたかも知れないのだ。 「其れが『楽団』の――彼女のやり方ですから」 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が混成部隊にインスタントチャージを行いながら、言う。 「残念だけど、悲しんでいる暇も貴方達が無事に生き残れた幸運を喜ぶ暇もないわ。この障害物だって、何時破壊されてもおかしくはないもの」 自身が設置した障害物に手をつき、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が呟く。 三台のトラックを二段に設置した障害物は、あくまで気休めだ。彼女の言うとおり、何時突破されても可笑しくは、無い。 「いけるか?」 「当然! 俺様まだまだ余力バッチリだし!」 混成部隊のフォローとして、彼等を襲う亡者の群れからの攻撃を庇い続けていた木蓮の傍らに『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は居た。 「しかし、本当にホラー映画そのものだな」 「ああ、わかる。めっちゃうようよしてたし、噛み付いてくるしあいつ等!」 「だが、此処に泣いて慌てふためく様なエキストラ、三文役者は居ないと教えてやるか」 互いの獲物を手に、木蓮と龍治の目が輝く。その目はまるで、狩猟者の其れのようだ。 障害物で陣地を構え、傷を癒し態勢を整えたアークと混成部隊達は反撃の準備に出始める――。 ● 「アークもまた、妙な事を考えるものね」 自身の行く手を阻む様に設置されたトラック達を前に『楽団』のネクロマンサーにしてトロンボーン奏者、『レクイエム』エリスタ・ハウゼンは亡者の群れの中、一つ溜息をついた。 「大方、あの隙間に誘い込もうっていう魂胆でしょ? 見え見えなのよ」 甘い、甘すぎる。 誰がそんな見え透いた誘いに等、乗るものか。 『楽団』の最大の強みの一つは、その圧倒的な物量だ。が、狭い隙間の中では其れを生かす事は難しい。が、もしも、コレを当てにしているのだとすれば其れは相当に滑稽だなとエリスタの口元が歪む。 「やりなさい」 エリスタの指示を受けたマグメイガスが、視界に捉えたエンジン付きのトラックを中心に次々に魔炎を炸裂。エンジンに引火したトラックは直ぐ様、隣の設置用トラックをも巻き込んで凄まじい轟音と共に爆発、煙を上げながら炎上する。 事実一つ。アークのリベリスタ達が築き上げた壁の一段目はさしたる脅威をエリスタや亡者達に与える事もなく、いとも容易く破壊された。 そして、二段目に設置されたトラックもまた、一段目からそう遠くはない距離にあり同様に破壊されてしまうのに時間はかからない。 「思ったよりも、結構耳に響くわね……耳って、音楽家には凄く大事なものなのよ?」 一つ、リベリスタ側に幸運があったとすれば――。 彼等にとってもまた、このバリケードはあくまで気休め、傷ついた混成部隊を一時的に匿い態勢を整える為の時間稼ぎ程度に考えていた事か。 過信は禁物。破壊される事をそもそもから懸念していたアンナや木蓮が一段目の壁が破壊された時に直ぐ様、周囲の仲間達に壁から離れるよう指示を送っていたお陰で次々と爆破され、誘爆し大爆発を起こすトラックの山に巻き込まれた者は混成部隊の五人を含め、誰ひとりとして居なかったのだ。 「次はどんな策があるのかしら? まさか、これで策は終了。後は力押しなんて言わないわね? アーク」 ニヤリ、と口元を歪める修道服の少女は壁を全て破壊され、丸裸となったアークを挑発する様に告げる。 「策なら、ある」 エリスタを強く見据えながら、零二が言う。 「へぇ?」 「『死』に抗う強い意思、其れがオレたちの最大の策だ。生者を舐めるなよ、エリスタ」 其れが亡者と対峙する今において、強い意思こそが何よりも重要なものである事をきっと、彼等は知っていた。 「だったら、そんな根性論なんて何の意味も無いって事……あたしが教えて上げる」 エリスタのトロンボーンが、物哀しい鎮魂歌を奏で始めると同時に、何処からか湧き出した霊魂の様なモノがエリスタの周囲に集まり、やがて禍々しくも美しい胸に逆十字の刻まれた紅い西洋鎧を形作っていく。 其れは、以前の教会で見せたものとは別の力。 「さぁ、演奏を再開しましょうアーク。奏者は私、楽器はこいつ等、そしてゲストは貴方達――絶望と恐怖、死を冒涜し侮辱し、神を否定する私のレクイエムの第二楽章……聴いて、逝きなさい」 アーク、そしてこの戦場を取り巻く事態は、正しく正念場を迎えていた。 ● 「この後は、木蓮との明石観光が待っているんでな」 狩らせて貰う、と火縄銃を構えた龍治の視線の先に居るのは――亡者達の群れの中、奇妙な鎧に身を包んだエリスタだ。 龍治の、火縄銃がエリスタ目掛け火を大きく吹く。 「なにそれ、牽制のつもり?」 最小限の動きで、難なく撃ちだされた弾丸を躱したエリスタ、しかし――。 「本命は、こっちだ。この騒乱の罪、その身で贖いきれるか?」 深く、深く罠を張るように。火縄銃に気を取られた一瞬の隙をついて潜り込ませた頑強な気糸がエリスタの身体を強く絡めとる。 身体を締め上げる気糸にチッ、とエリスタが軽く舌打ちをした。 「神など居ない。ならば……勝利は、オレ達自身の手で掴み取る!」 続く零二が混成部隊の援護に向かった時同様、敵の動きを撹乱する為に亡者達の怒りを一手に引き付け彼等の隙を零二が作り出す。 「その大事そうに持ってるトロンボーンに、俺様の一撃を捩じ込んでやるぜ!」 一撃で射ち落としてみせる、と木蓮が落ちる1¢硬貨さえ撃ち抜く程の精密射撃をエリスタのトロンボーン目掛け放つ。 が、その一撃はエリスタの周囲に存在していた屈強な盾を持つクロスイージスの壁に阻まれ弾かれた。 「エリスタを守る壁が居る。これ以上無理に狙うよりは纏めて叩く」 救援に向かった際に、確認済みのホーリーメイガスや此方の障害物を破壊していたマグメイガスを巻き込む様にハーケインが全てを呑み込む暗黒を放つ。 大蛇の様に暴れ狂う暗黒の濁流は、狙い通りに亡者の多くを巻き込んでいった。 更に、混成部隊達もまた其々の持つ力を以って彼等の撃ち漏らした敵を確実に仕留めるべく、動く。 「御機嫌よう『レクイエム』。――貴女を救済に参りました」 彼のみが使え得る、灼熱を伴う砂嵐によって最前線の亡者達を纏めて業炎へ放り込みながら、イスカリオテがエリスタに言う。 「皮肉なら、もっと上手く言う事ね」 「いえいえ、其の眼だけでもどうやら皮肉が聞いていた事は理解しましたから。ああ、やはり貴女は私に似ている」 自身を見る少女の其の眼に、イスカリオテが薄ら笑う。 「――話をしている暇があるのかしら? こんなもので何時までも私を縛っていられると思ったら大間違い、其れに――」 戦力など、幾らでも居るのだからと。会話を続けたそうな、イスカリオテの口を噤む様に。 確かに、幾つかの亡者達を物言わぬ只の死体へと返して来たリベリスタ達だったが、依然敵の数は多い。 反撃と言わんばかりに、亡者達が持ち前のタフさを武器にリベリスタ達へと襲いかかってゆく。 デュランダルの生死を分かつ程の威力を秘めた一撃や、ソードミラージュの残像を伴う鋭い剣技が放たれ、後方のスターサジタリーからは蜂の巣の様な銃撃も豪雨のように降り注ぐ。 歩兵でしかない亡者達もまた、肉体がもがれようとも、這いずり回りながら手足を掴み、引き摺り込み、牙を突き刺し、リベリスタ達を蹂躙する。 怒涛、空前絶後の攻撃の激流に呑み込まれ倒れそうになる仲間達の傷を理央、アンナ、光介が三人がかりで癒していく。 傷を癒す事を三人に任せ、残りの面々が全員で亡者達の猛攻を食い止める為に全力で応戦する。 龍治の火縄銃が光を吹けば、瞬く間に亡者達を光弾が命中し――続く零二が魔力のナイフを以って残像を伴う鋭い斬撃で手近な亡者を斬り裂いていく。 狙う対象を素早く切り替えた木蓮やハーケイン、イスカリオテが回復手を巻き込む様に、蜂の巣の様な銃撃や暗黒の濁流、灼熱の熱砂を流し込む。 無論、攻撃を行うのはアーク側だけではない。クロスイージスが迫る混成部隊の一人を跳ね飛ばし、押し返し。レイザータクトが自身の攻撃の最善の動作を仲間の亡者達に共有していく。 状況は決して良いとはいえなかったけれど、誰ひとりとして倒れず諦める事なく、これ以上は進ませないと必至で応戦する。 彼等の決死の攻撃は、少しずつ、少しずつだが確実に敵の数を減らしていく。 そんなリベリスタ達に、運命の女神は軽く微笑んだ、かに見えた――。 「ほら、何してるのよ。そんな前に居る連中どうだって良いから……あそこの三人を狙いなさい?」 先ほどの自身の宣言通りに龍治の気糸を漸く引き千切ったエリスタが嗤いながら生き残った亡者達に指示を送る。 そうして、彼女は強く激しくトロンボーンを奏で始める。 「十字架刑にしてあげるわ、アーク」 彼女と対峙するアークのリベリスタの内、零二、アンナ、イスカリオテの三人はその音色に聴き覚えがある。 エリスタの音色に誘われる様に、倒した筈の亡者達の肉塊が歪な生物の様に蠢き、リベリスタ達の身体に纏わり付いていく。 おおよそダメージと呼べる様なものは感じない。 だが、まるで見えない十字架に磔にされてしまったかの様に動きが、鈍くなる上に身動き自体も取りづらくなる。 只、其れだけ。 否、其れだけの事が――――この状況においては、絶望を齎すには充分すぎるのである。 「動きが鈍くなったら困るわよね? でもごめんなさい? 私、前の事根に持ってるから容赦なんてしてあげない」 償いの時よ、と。 エリスタの言葉と共に、動きが鈍くなり思うように先手を打てなくなったリベリスタ達を嘲笑うかの様に亡者達がリベリスタ側の癒しの要である三人へ押し寄せる。 「くそったれ、こっちに来いよ! まだまだやれるんだよ俺様は!」 何時までもこんな拘束にとらわれているつもりは木蓮には無い。だが、今直ぐに解ける様なものでもない事を理解していたからこそ、悔しげに叫ぶ。 「まだ、まだです! 怒っているのはお互い様ですよ……!」 亡者の群れに、殴られ、蹴られ泣きそうになる光介の心をしかし怒りが凌駕する。 「神への呪いは、死者への冒涜を正当化しない! 勝手に結びつけるな!」 自身が傷つく事など、どうでも良い。只、只、死者へ鞭打ち冒涜し嘲笑う『楽団』を絶対に許すことなんて出来ないと運命を味方につけた光介が立ち上がる。 「アンタの事情なんて知るものか! 自分ひとりの気分で。これだけの人間を犠牲にした。絶対に屈しない!」 「ボクは、此処で倒れてあんたの玩具になるのなんか、絶対に御免だ!」 アンナや理央もまた、其々の強い意思で運命を引き寄せ立ち上がる。 ● 倒れるわけには、いかない。負けるわけには、行かない。 リベリスタ達の抵抗は続く。だが其れは防戦を強いられ、少しずつ後退を強いられる様なものだ。 最初に比べれば、随分とマシになった亡者達の怒涛の様な攻撃も、疲弊した身体には辛いものがある。 尚も続く攻防。僅かに、徐々に、リベリスタ側が圧されていく。 「簡単にやられはしない、勝負はここからだ……」 が、状況が良くない事はふらふらの身体で立ち上がったハーケイン自身が何よりも知っている。 エリスタの攻撃による戒めこそ、既に何人かは解いているものの先の一手で状況は一気にひっくり返されてしまっている。 (これ以上は……) 千里眼を以って光介が戦況を判断する。今は未だ、耐えしのいでいるものの其れもいつまで持つか。 何より、自分自身後一度でも倒れてしまえば、立ち上がる力は残されていない事は明白。 「撤退しましょう。犠牲者を出す訳には、行きません」 其の言葉に、仲間達が頷く。最悪は、死者を出してしまう事だ。 幸い、混成部隊を含め死者は未だ出ていない。 だが其れも戦闘がこれ以上長引けば出ないとは限らないのだ。 そして生きてさえいれば、必ずまた機は巡ってくるのだ。故に。撤退は、決して彼らの心が屈したからではない。 生きて、今度こそ『楽団』を打ち倒す為に混成部隊の生き残りを優先して徹底させながら、アークは後退を開始する。 「また逢いましょう。それまでその命は貸しにしておいてあげる」 遠くなる好敵手達の背中を見つめエリスタが呟く。 彼女が目的を達したのは、その少し後の事――――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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