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<混沌組曲・破>地獄で愉快なシエスタを――奈良盆地より愛をこめて<近畿>

●あおによし
「嗚呼、奈良! 愛しの奈良! 大仏興福寺阿修羅像南大門! 鹿の糞だらけな奈良公園!」
「嗚呼、奈良! 我らが奈良! 昔旅行したときから何一つ変わってない!」
「春日大社へ続くあの鳥居も! あの博物館も! 大仏の静かな顔も!」
「あの旅館も! 鹿せんべいの味も! 猿沢池も水面すらも!」
「観光客だらけで何故か土産屋に新撰組グッズが売られているところも!」
「何かと京都に比べられ大阪から『遠い』と田舎扱いされているところも!」
「嗚呼、奈良! 奈良! 奈良! お前は何千年もそうやって変わらない!」
「変わらない! まるで若草山の緑の如く!」
「だったら我らが変えてみせよう!」
「血と!」
「死体と!」
「恐怖と!」
「絶叫と!」
「混沌と!」
「死と!」
「死と!」
「死で!!」
「変えてみせよう!」
「変えてあげよう!」

「「――嗚呼、奈良、奈良、愛しの奈良! 我らが奈良!!」」

 tre、due、unoで始めよう。
 死臭で噎せ返る程に最高な演奏を。

●対、死
「さて――『楽団』との戦いですぞ、皆々様」
 事務椅子に座し、集った一同を見遣った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が静かに言い放つ。
 楽団――バロックナイツが一員、『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが率いる死操集団。彼等がここ最近、不気味な動きを見せていた事は誰しもの記憶に残っていた。
「彼等は隠密行動力が高く、中々ハッキリと補足する事が出来なかったのですが……今回は、えぇ、嫌という程ガッチリ捕捉しましたよ。
 つまりこういう事です。『楽団がその隠密力を以てしても隠し切れないほど大きな動きを見せた』という事ですぞ」
 映し出されたフォーチュナの背後モニター。そこにあるのは死に支配された街。最早生者の姿は無く、ただただ『演奏』されるままに死者達だけがあらゆるものを蹂躙していた。
「恐らく、今までの活動は今回の為の『エチュード』だったのでしょう。……何せ、原料(死体)は無料(タダ)。時間さえあれば、彼等はナンボでも戦力を蓄える事が出来るのですから。
 結果として彼等は膨大な戦力を得――日本中に恐怖と社会不安をばらまき――下拵えを終えて――」
 ゴツン。メルクリィが機械の人差し指を卓上に落とす。
「あのジャック・ザ・リッパーですら行わなかった『日本強襲』を敢行致しました。
 日本彼方此方津津浦浦、ケイオス様は楽団を動かし中規模都市に致命的な打撃を与えんとしとります。
 ――もうお分かりでしょう。『放っておいたらどうなるか』。そして、『誰がそれを止めるのか』。
 えぇ、全く、ナゾナゾと呼ぶのも呆れる程の問題です」
 止めるのは、止める事が出来るのは、貴方。
 リベリスタ(貴方達)。
「ケイオス様はジャック様や温羅様とは別ベクトルで『最悪』な相手となるでしょう。
 彼等は『死体を操る』。つまり……致命的な敗北が、戻らぬ仲間が、敵となってしまう可能性も、あるんですから」
 メルクリィの目には心底からの不安と心配が滲んでいた。
 されどをそれをひた隠し、鼓舞する為に予言師は笑顔を浮かべる。
「……皆々様なら、きっと大丈夫! ここにいる皆々様が、作戦に当たられる全ての皆々様が、きっと帰って来て下さると――私は信じております。
 御武運を。……どうかどうか、ご無事で!」
 明日の平和は、彼等の手に委ねられている。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月07日(木)00:00
●目標
 楽団勢力の撃退

●登場
『ボイスブラザー』コンスタンティーノ・アガッツァーリ
 楽団フィクサード。歌とボイスパーカッション。
 ビビアーナの兄。見た目は紳士然とした男。
 ジーニアス×ネクロマンサー
 カスタネット型のアーティファクトを所持
 EX超絶技巧・アドリア海の大嵐:遠範、感電、ブレイク、混乱
 EX超絶技巧・アレグロハイパーオーケストラ:この技の所持者二人が互いに近くにいる事で発動。全、無力、ショック、ブレイク

『ボイスシスター』ビビアーナ・アガッツァーリ
 楽団フィクサード。歌とボイスパーカッション。
 コンスタンティーノの妹。見た目はパンクファッションのロリ。
 ジーニアス×ネクロマンサー
 マラカス型のアーティファクトを所持
 EX超絶技巧・フィレンツェの赤い雨:近範、業炎、失血
 EX超絶技巧・アレグロハイパーオーケストラ:説明略

ドクロナイト×3
 白骨死体が寄り集まって形成された巨大な白骨。
 骨の盾、槍、装甲。騎士の様な外見。堅く、しぶといです。
 ダメージを死体を取りこむ事で回復します。
 ブロックに二人必要。
・骨強化:自付与。反、防御アップ。
・一突:近単、物防無
・槍回し:近範、死毒、隙、連
・骨発射:遠2単、ブレイク、弱点

死者×70程度
 ゾンビ状、白骨状、亡霊状、死にたてホヤホヤ様々。恐ろしくしぶとく、しつこい。部位欠損しても平気で活動する。
 その代わり知性は理性は残っていない。

●場所
 奈良県奈良市。『三条通』と呼ばれる大通りです。
 車が二台なんとかすれ違える程度の車道、それを挟む様に狭い歩行者用道路。
 緩やかな坂道。

●STより
 こんにちはガンマです。
 みんな大好き奈良県。
 宜しくお願い致します。

●重要な備考
『<混沌組曲・破>』は同日同時刻ではなく逃げ場なき恐怖演出の為に次々と発生している事件群です。
『<混沌組曲・破>』は結果次第で崩界度に大きな影響が出る可能性があります。
 状況次第で日本の何処かが『楽団』の勢力圏に変わる可能性があります。
 又、時村家とアークの活動にダメージが発生する可能性があります。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がございますので予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
ナイトクリーク
瀬伊庭 玲(BNE000094)
覇界闘士
ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
ダークナイト
フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)
ナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)

●もし夏だったらそれはもう酷い腐臭と蝿と蛆との大氾濫だったろう
 良く冷やされた死臭が鼻腔の奥の脳髄を無遠慮に突き刺していた。
 悉くが死に満たされたそこに生者の影は無い。逃げたのか、隠れているのか、死者となったか。
「ここにいたら死ぬからとっとと逃げてください」と、『リコール』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)は相手が居ない言葉を飲み込んだ。
「困ったものじゃ……」
 変わり果てた街に『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)が息を吐いた。死者の仲間になる気はない。生きる為の努力をしよう。
「生きているなら体験入団程度で許してやろう! さぁ、張り切っていこうぞ!」
 然り、と応えたのは『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)。その後を、仲間から遅れぬようにと駆けるのは七布施・三千(BNE000346)だ。
 徐々に濃くなる死臭。『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)の肩がふるりと震える。
 でも、不安になった時でも――両手に握り締めるは恋人から贈られた可憐な刃。Nettare LuccicanteとOtto Verita。ぎゅ、と握り締めれば優しい温もりを感じる。
(大丈夫、頑張ってくるね)
 心で念じる彼への想い。
(最近……会えてないね。会いたいな)
 帰ってきたらぎゅってしてね、と。次いで前を見据える蒼眸には、恐怖に抗う凛とした勇気が宿っていた。

 そして――聞こえてきたのは死者の呻き。陽気な音楽。見えたのは死者の群。演奏者。

「あー、うるさいうるさい」
 不協和音を聞かされる身にもなって欲しいね。『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は顔を顰める。嫌な演奏。同感だ。『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)も呆れた様な物言いで。
「気持ちよく寝てる人間を起こすとか、おいたが過ぎるんじゃないの?」
「日本から叩き出してあげる。それともこの世から叩き出されたい?」
 次いだ言葉は『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)。その目が刃の如く見据える先には――苛つく程に音を奏でる二人組。楽団。コンスタンティーノとビビアーナ。
「にーたんにーたん、奴等が来たにょ!」
「おぉボナセーラ、諸君も奈良観光かね?」
 
 冗句(プレリュード)を一つ置いたのなら。さぁ、『混沌組曲』を奏でよう!

●蓋し、この後に肉料理を振る舞われても吐瀉物をブチ撒ける
「往きましょう!」
 Alea jacta est――賽は投げられた。三千の手の中にあるダイスが煌めき、十字の加護が皆を包む。
 極限にまで高められるは戦いに赴くその意志力。ヘルマンは深呼吸を一つ。リベリスタ達の陣形は上から見ると『A』の様な形で――彼はその先頭であった。
「じぶんとこの国に帰れーーーー!!!」
 腹の底から張り上げ吶喊、振り被って鋭く振るう脚。巻き起こる真空刃がビビアーナを狙うが、それは彼女らの回りにごまんと蠢く――ざっと70体――死体の肉を切り裂いた。
 それは宛ら死肉の要塞。そして要塞を護る騎士が3体。演奏者へまともに攻撃を浴びせるには、彼等の元へ辿り着くには、騎士を屠り城塞を突き破らねばならない。
 そして要塞はただ守るだけではなく、言葉通りの『数の暴力』を以て津波が如くリベリスタ達へと押し寄せてきた。
 伸ばされる手、手、手、先頭に居るヘルマンを掴み、握り、抑え、殴り、掻き、毟り、死んだ歯もまた喰らい付く。
 食われる、食われている、そんな錯覚――否、痛みを伴う現実――ひっと恐怖に咽が鳴る。振り払わんとした腕に突き立てられる牙。そして目の前にもぐいと彼の髪を引っ張って頬が破けた大きな口が……
「ちょっと」
 刹那に凛と少女の声。直後に空を迸った闇が死者共の胴を打ち据え、その威力のままに押し退ける。
「あんたら口臭いわよ。わたし達に向かって口開けるの止めて貰える?」
 黒髪を靡かせ、黒き大鉈アヴァラブレイカーを振るい終えたフランシスカ。威圧する様に黒翼を広げて再度刃に闇を込める。
「闇で覆い尽くして地に帰してやる。木っ端微塵に砕かれて永遠に眠れ!」
 麗しい見た目に反して勇猛果敢、振り上げるのは細腕には余りにも似つかわしくない武骨な巨刃。
 一方で煌めくのは銀色の光だった。
「死体と踊る死のダンスね……」
 本隊ではなく遊撃班、面接着の能力で建物の壁に立つロアン。
「踊ろうか。君等がミンチになるまで」
 月光の鋼糸クレッセントが舞い踊る。細い細い糸は死んだ肉に食い込み、切り裂き、澱んだ血液を撒き散らす。

 されど演奏は始まったばかり。
 フィナーレを飾るのは生か、死か。

「皆さん、ドクロナイトが行動を開始しました!」
 護られてるだけではない、自分だって仲間を護るのだ――戦場に意識を巡らせていた三千が声を張り上げる。
 その視線の先では、白骨死体で造り上げられた巨大な騎士が。開く口。刹那の出来事。
 発射された骨の槍が、一直線にリベリスタへと降り注ぐ。
「――っ!」
 ドレッドノート、.223BNE デザートホークカスタム、二丁の拳銃を十字に構える。白と黒、巨大な銃に僅かに軌道が逸れた槍は、三千を庇った玲の胸ではなく肩口に深く深く突き刺さった。
 脳を焼く痛み。だが、緋月の幻影はこれ如きで倒れる者ではない。不敵に笑う。刺さったそれを銃で撃ち抜き砕き抜く。ボタボタ、血を滴らせながらも我此処に在りと胸を張り。
「日本を勢力下に起きたいようじゃがあまいのぅ! 妾達がいる事を忘れてないかぇ?」
 放つ言葉は楽団へと。赫の衣装を翻し、クックックッと含み笑いつつ渾身のドヤ顔&恰好良いポーズで。
「京都! 奈良! キョナラ! ク御主らは知らぬようじゃのぅ……貴様らはあの恐ろしきグンマーには勝てぬじゃろ?」
「グンマー……あの伝説の?」
「きっとバレット様ならなんとかなるにょ!」
「バレット様Amore!」
「あもーれ!」
 何処までも陽気なイタリアン共はこの死に満ちた凄惨な戦場には余りにも似つかわしくなく、それ故に不気味だった。嗤って、そして。
「「tre、due、uno!!」」
 二人で奏でる超絶技巧。
 暴風雨の様なビートが吹き荒れてリベリスタ達全員へ叩きつけられる。アレグロハイパーオーケストラ。その旋律は強化術を破り、身体を意識を破壊する音の暴力。
 殺しにきている、と誰も彼もが直観する。
 死を玩び、穢す存在。
 だが。
「皆を操り人形になんかさせない!」
 ギアを最高値に高め、加速する世界。彼女もまたドクロナイトの槍に切り裂かれ、音の壁に殴られ血を流しているが怯む事はなく。
 誰よりも速く地を蹴った。ドクロナイトを倒す為には城壁を削る必要がある。ならば往こう、刃を以て切り開こう、仲間の道を。
 その速度は雷光が如く。生み出される残像が、彼女『達』が持つ花風の刃が、周囲の死者を鋭く強く切り裂いた。
 霞草の様にふわり、雪の様にさらり。後方宙返りでルアが隊列に舞い戻った。その動作を、仲間の様子を、電線に逆様に立つウーニャは熱感知の能力によって認識に留め。
 視線の先にはフィクサード。ウーニャにとっては熱を持たぬ死体より彼等の方がよく見える。
 あれが道化(わたし)の目標(ターゲット)。
 挑もう、肉の壁を退け、骨の騎士を封じ、かの奏者に。
 集中をしながら掲げたのは指先に挟むFOOL the Joker、逆重力でピンクの髪が垂れている。ここは足場に困らない。
 さて。
 眼下一杯に死者の群。手を伸ばすも届く筈がない。理性の無い目。濁った眼差し。人としての尊厳も誇りも奪われて。
 嗚呼――今は哀れみを忘れよう。目の前にいるのは、ただの物体(モノ)だ。
「私の邪魔しないで、邪魔されるのは大嫌いなの」

 赤と黒の霧よ、紅蓮の月光で燃え上がれ。

 刹那にカードの道化が笑い、崩界の月と同じ色をした光が戦場に満ちた。血飛沫と暗黒の瘴気。伸ばされた手を、死者の咆哮を、悲しみも苦しみも、全部飲み込んで。焼き潰す。塵は塵へ、死者は死者へ。
 赤い月に照らされて、躍る影二つ。
 変幻自在の影を纏った幸成は死者の波を凶鳥で斬り払い、ロアンはクレッセントで押し返す。
 狙うはフィクサードとドクロナイトだが――やはり、阻む死者の多い事。そして楽団は『そうする事』が有利である事を知っていた。つまり、前に出ない。死者に守らせる。そして敵が死者達にじりじりと疲弊させられていくのを待てばいい。

 単純明快、故に厄介。

「うわあああこないでどいてどかないならかたっぱしから蹴り倒します!」
 上半身だけになっても這ってくる死者の頭を、絶叫するヘルマンは脚甲で武装した脚に全身のエネルギーを込めて蹴り飛ばす。
 飛び散った血肉の先には、まだまだ数多の死体達。そして容赦なく降り注ぐのは骨の槍、兄妹が放つ音の衝撃波。
「退けぇええッ!」
 アヴァラブレイカーが轟と振るわればらまく闇が死を蝕む。フランシスカが纏う服が白ならば、きっと真っ赤に染まりきっている事だろう。
 彼女だけでない、ここにいる者は誰も彼も血だらけで。
「御主の首を取ってやるから、そこで歯でも磨いて待っておれ!」
 踏ん張ってやる。死者に噛み付きその力を啜り、玲は激戦にボロボロになっていたリボンをいっその事と投げ捨てる。本気の証。凛と眼差し。
「……さぁ、本番の始まりだ」
 踏み出す彼等の一歩――それを強力に支えるのは三千が紡ぐ癒しの祝詞。彼が殆ど傷を負っていないのは、その分まで玲が引き受けているからだ。
 それにしても拉致が明かない。まだ邪魔な死者を取り除くには時間がかかるし、フィクサードが自ら死者の要塞から出てくる気配もない。
 ならば。
「それって音楽なの? 単に耳障りで騒がしいだけだよ。ゾンビに囲まれて、生きていながら脳味噌まで腐ったの?」
 可哀想な感性だね、とロアンがありったけの悪意を吐く。死者の群を切り払いながら挑発。「そんなんで音楽とか到底無理じゃない?」と。
「同感。耳障りな音は消してしまうに限るんだ。だからお前たちもさっさと消えろ。わたしの目の前、からじゃなくてこの世界からね」
「悪趣味だけどダンスミュージックとしては傑作ね。壁の花なんてらしくないんじゃない?」
 フランシスカに続いて、「踊りましょ」。ウーニャが放つ赤い月光が舞台を彩る。スポットライトにミュージック。後は踊り手が居れば良し。
 ヘルマンも息を吸い込み声を張る。
「迷惑な……このカスタネット野郎!!
 街っていうのはね、いろんな人がいていろんな物があって、ぜつみょーなバランスで成り立ってるものなんですよ!
 その一つ一つに立派な物語があって、その物語の記憶の積み重ねが今のこの奈良をつくってるんですよ!
 そんなねえ、変革だの蹂躙だの、くっだらねえ理由で! このきれいな街を! 悪趣味に汚さないでくださいませんか!」
 思ったままの言葉。「吾輩ピンポイント爆撃だ」と目を丸くするコンスタンティーノ。
「中ボスも倒さずワープなんてチートだにょ!」
「ゆっくり死んでってくれたまえ!」
 楽団は易々と挑発に乗る様な馬鹿ではない。寧ろ慎重。あのケイオスの部下なのだから。
 さぁ。楽団員が指差せば。響く足音。ドクロナイトが後方射撃から近接戦闘に切り替え、本隊への間合いを詰める。
 巨躯にして凶悪。斬り進むリベリスタ達を塞ぐ様に。振り上げられた槍。
「下らぬ演奏はもう聞き飽きた……幕を下ろせ。アンコールは無しで御座る」
 真正面からやり合うは愚策。電線から飛んだ幸成の位置は一体のドクロナイトの背後、落下しながら全身から繰り出した気糸で縛り上げる。反射に肌が裂けるも、白骨騎士の動きを縫い止める。
 他のドクロナイトへも飛び込んだルアが音速の刃を振るいその動きを留めんとした。だが、振り下ろされる槍の勢いは止まらない。
「ッ!」
 二振りの槍が振り回されてリベリスタ達を切り裂き毒を刻んだ。薙ぎ払われて倒れる者、或いは運命を消費する者。
 ルアもその一人。華奢な身体が無惨なまでに地面へ叩きつけられる。
 怖い。怖い。死神はすぐそこに居る。倒れたまま目元にジワリと浮かぶ涙。
 怖い。怖い。だからこそ、負けられない。手にした刃を離さない。
「私には会いたい人が居るの! 這いつくばってでも帰らないとダメだから――」
 先を燃やして立ち上がり、前へ。掴み取るは二回行動の好機。振るう二刀に愛情を、白い花に親愛を。

「ここで食い止めてみせる!」

 大切な仲間の為。
「目には目を、歯には歯を。死には死を。地獄で懺悔しなよ!」
 帰りを待つ人の為。ロアンは壁を蹴って、徐々に死者の壁が薄くなってきた楽団員へ強襲をかけた。
 が。
「ケラケラ! いらっしゃいだにょ!」
 振り返ったビビアーナがにまりと笑う。そして火を纏うマラカスが余りにも暴力的に振るわれ、ロアンの身体にめりこんだ。骨が砕けて内臓が破ける音。口から漏れる血交じりの反吐。その身体は炎に包まれ、その血が雨の様に降り注ぐ。
 強い、と直感した。ただのフィクサードではない。バロックナイツの部下なのだ。
 雑魚だから死者に身を護らせているのでは、ないのだ。
 だが尻尾を巻いて逃げる訳にもいかぬ。運命を焼き捨て、火傷でずる剥けの手でロアンは手近な死者を掴んだ。その首筋に牙を突き立て、力を貪り喰らう。
 粘ってやろう、文字通り喰らい付いてでも。死体でも骨でも何だろうと。生きて戻る。その為ならば何だって。
「僕はそう簡単に死なないし、他の誰も死なせる心算はない。命は君達の玩具じゃないよ。勘違いしない事だね」
 血糊が付いた髪を掻き上げ嗤う。
「そうそう」
 その後ろにはウーニャ、ロアンに傷癒術を施しながら。
「死の舞踊は道化にこそ相応しい。……でも残念、やっぱりあなたの音って最悪」
「うけけけけ。纏めてかかって来るにょ。バレット様への土産にするにょ」
 ビビアーナはマラカスで首を掻っ切る仕草をした。

 一方で、集中し研ぎ澄ませたヘルマンの蹴撃がドクロナイトを捉える。堅い骨に破壊の衝撃が伝わり、ぐらついた。
 どうだ。しかし。直後。
 ヘルマンの脚元から吹き上がった音の大渦が彼を、周囲のリベリスタを巻き込んだ。意識を掻き乱し、電撃で焼く。カスタネットをカチカチ鳴らすコンスタンティーノが死者の向こう側で笑っていた。様な気がした。
 ふらついたそこへ容赦ないのはドクロナイトが振り下ろした槍だった。ずぶっと嫌な音がして、何でかお腹が熱いと思って、ヘルマンが見下ろしてみると腹部のこっちからあっち側へ。貫通していた。死の槍が。
「 っ、」
 傷口に触れた手が真っ赤で怖すぎて悲鳴すら出なくって、赤く染まった白い槍が引き抜かれると引きずられる様に中身が……零れるのが怖くって手で押さえた。運命を焼き捨てた。痛かった。怖かった。死ぬかと思った。
 それでも震える歯の根を噛み合わせる。恐怖なんて噛み潰さないと、誰もこの手で守れない。
 立ち塞がる騎士へ一撃を浴びせるべく集中――同刻に放たれたフランシスカの暗黒が騎士を穿つ。蹌踉めいたそこへルアが渾身の一撃を決め、更に重ねられたウーニャのバッドムーンフォークロアが一体の騎士を打ち砕いた。
 その頃にはもう周りの死者はかなり少なくなっていた。ドクロナイトが回復に使ったのもある。
 コンスタンティーノはその状況を、見。
「ビビアーナよ我が妹よ!」
「どったのにーたん」
「ぼちぼち突破されそうだ! トンズラだ!」
「うー! 仕方ないのらー!」
 カスタネットを叩いて一番無事なドクロナイトを呼んで。それに颯爽と乗り護らせるや、二人組は脱兎の如く逃げ出した。Arrivederci、と言い残し。
 逃げられたか。
 だが、こちらも疲弊がかなり大きくなっていた頃合いだ。三千の詠唱に支えられ、あと一仕事。
 身構えるリベリスタ達の視界には、傷付いたドクロナイトと、すっかり数を減らした死者。

 ――吶喊の音。

●それでは次回をお楽しみに
 戦いは、長引いたとも最低の予想よりは早く済んだとも言えた。
 はぁ。はぁ。肩を弾ませ、フランシスカは振り落としたアヴァラブレイカーを、その下敷きになって砕け散った白骨を見ていた。
「これで、終わり……」
 言葉通り、既に周囲には死者の気配はなく――死屍累々。
 振り返ったそこには仲間がいる。倒れた者は3人、撤退のギリギリライン。間一髪だった。
 しかし、命を失った者は一人もいない。倒れた者を後ろに下げる、回復手を堅固に守る等、互いに気遣いあったからこそだろう。
 その事に、嗚呼、誰も彼もが安堵の息を吐いた。良かった。それから、「お疲れ様」と労い合う言葉。傷付いた仲間には肩を貸し。

 さぁ、帰ろう。

 戦果を報告する為に、傷を癒す為に、帰りを待つ人の為に。


『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ
「お疲れ様です皆々様、ご無事で何よりですぞ! 今はゆっくりと休んで、傷と疲れを癒して下さいね」

 だそうです。
 遅くまでの相談、本当にお疲れ様でした!
 混沌組曲は混沌だから混沌組曲。どんな展開が待っているのか、それもまた混沌。

 ご参加ありがとうございました!