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<混沌組曲・破>濃霧ノービルメンテ<九州>

●死者の行進
 ビオレの音がいつ聞こえてきたか。それを把握している人はいない。
 気がつけば街を霧が包み、死者が町を行進していた。最初は小さな騒動だったものが、燎原の火の如く悲劇は広がっていく。
「やぁ!」
 胸元で捻じるように力をこめ、それを解放するように拳を突き出す。そのまま一歩踏み込んで相手の懐に入り、相手を投げ飛ばした。
 地面に叩きつけられて動かなくなる死者。死者単体の戦闘力はたいしたことはない。革醒したものであれば、対応可能な実力だ。しかし、
「数が……多い!」
 二宮和美は霧の奥から迫る死者の群れに拳を握る。とても一人で相手できる数ではない。
「ぐっ!」
「ガマさん!?」
 和美を庇っていたリベリスタの一人が膝を突く。他の仲間も似たような状況だ。
 革醒者だから理解できるこの霧の異常。視界や通信網すら遮断するこの霧は『観得ず』の呪いのかかった霧。少なくとも自然のものではない。この霧が晴れれば、他の仲間にも連絡が取れるのだが……。
 和美は睨むように霧の奥を見る。薄く見えるのは『楽団』のメンバーと思われる男。後少し、その少しが果てしなく遠い。
 ビオレの音は止まらない。それを奏でる一人の老人。
 その傍らに、角を生やした幽鬼が漂っていた。

●アーク
「ミュージックスタートだ、お前達。『楽団』が日本各所でライブを行っているぜ」
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。
 モニターに映し出される日本地図。九州南部の都市にに矢印が入る。
「場所は熊本県のこの都市だ。敵の数は不明。だが確認できただけでも五十を超える数のようだ」
 ざわめくリベリスタ。あまりといえばあまりの数に解決の糸口をつかみ損ねていた。自然、質問は曖昧なものになる。
「何とかならないのか?」
「ネクロマンサーを押さえればどうかなるだろうが、そのあたりは『楽団』も理解しているだろう。自分を守るために霧を発生させている。
 この霧は 神秘の影響を含んでいて通信や交通網を遮断している。おかげで逃げ遅れる人も増えている。この霧を晴らすことができれば、被害を抑えられるだろう」
「神秘の霧?」
「去年の『鬼』騒動を覚えているか? そのアザーバイドを幽霊にして操っているようだ」
 モニターには頭に角の生えた女性の幽霊が、ビオレを奏でる男性に従うようにしていた。『鬼』たちに見られた凶暴性はなく、ただ術によって操られる存在となっていた。
「ここには小規模ながらリベリスタのコミュニティがある。霧さえ晴れれば彼等の協力を得て、街の死者の駆逐も可能になるだろう。ネクロマンサーの近くにそのリベリスタのチームがいる。早くしないと『楽団』の仲間になりそうだがな」
「とにかく、その霧を生み出している幽霊をどうにかすればいいんだな」
「YES。ついでにネクロマンサーも倒せればパーフェクトだ。もちろん、楽なバトルじゃないぜ。
 戦場は文字通り五里霧中だ。できるなら一丸となって戦った方がいい。そして逃げ遅れればリベリスタオブザデッドだ。引き際を見誤るなよ、お前達」
 伸暁の言葉は変わらないが、その重みは今までのものとは違っていた。死者を繰るもの達。ジャックとは違う悪意。それが今、日本壊滅のために牙を剥いたのだ。
 リベリスタたちは覚悟を決めて、ブリーフィングルームを出た。

●マリオ・ジュリアーニ
「あなた、かつては高貴なお方だったのでしょう。その気質は滅んだ今となっても感じ取れます。
『濃霧ノービルメンテ(上品に。気高く)』……この曲を、そう名づけましょう」
 老人はビオレを奏でる。その響きが、死者を次々と生み出していた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月07日(木)22:37
 どくどくです。
『楽団』再び。ビオレの音色をあなたに。

◆成功条件
 幽鬼『霧姫』の撃破。
『楽団』マリオ・ジュリアーニの生死、およびリベリスタ二宮和美の生死は成功条件に含みません。
 
◆敵情報
・『霧姫』
 かつて『鬼』と呼ばれたアザーバイドの幽霊です。頭に角が生えている巫女服の女性の姿をしています。ネクロマンシーによりこの世界に魂だけ呼び寄せられ、『楽団』に使役されています。
 生前の記憶やパーソナリティは薄く、呼びかけに応じる可能性は皆無です。生者への怨恨、ネクロマンシーによる命令などに従い、敵を討ちます。
 拙作『<鬼道驀進>五里霧中』『<鬼道喰らわば>霧の防壁』に登場しています。これらの作品を読んでいる必要はありません。重要な事項は『楽団に操られる幽霊』『霧の発生源』ということです。

 攻撃手段
 冷たき掌 神近単 その手で触れて、体を震わせます。不吉、不運
 死の叫び 神遠全 魂に響く叫び声で心を砕きます。Mアタック50
 三途の霧 神遠単 死出の川原の霧を呼び出します。神攻+(自ダメ値)攻撃補正最大値500

・『楽団』マリオ・ジュリアーニ
 ジーニアス。ジョブは不明。
 見た目は60才の老人です。仕立てたスーツを着てビオラを持っています。
 その場を動くことなくビオレを奏でていますが、近づけば攻撃をしてきます。霊魂を弾丸にして複数の敵を撃ち麻痺させたり、一人を指差し霊的な守護を乱すことで心を砕き加護を打ち払ったりします。拙作『<混沌組曲・序>復讐ラメンタービレ』に出ています。
『霧姫』が負けるのを察すれば、撤退します。

・『死者』(数多数)
 死者です。霧に包まれた都市で少しずつ数が増えていきます。
 性格は獰猛で、タフです。基本的に、動いているものを優先的に狙うようです。
 三ターン毎にマリオの周りに五体追加されます。

・『水蛇の心』二宮和美
 ジーニアス×覇界闘士。殴り巫女。
 この都市を守るリベリスタの一人です。拙作『たった五文字に全てをこめて』に登場していますが、読まずとも問題ありません。重要なのは『この場で戦うリベリスタ』ということです。
 仲間と共に『楽団』に挑みますが、死者の群れに囲まれて全滅間際です。四人いた仲間は彼女を残して戦闘不能になっています。最後まで戦うつもりですが、結果は明白です。
 プレイング中に指示すれば、無茶でない限り従います。指示がなければ仲間を守ることを中心に動きます。

「魔氷拳」「大雪崩落」「五行想」「格闘習熟L3」「ダブルアクションLV3」を活性化しています。

◆場所情報
 戦場は二つ存在します。
 一つが『鬼姫』『マリオ・ジュリアーニ』『死者(五体)』がいる戦場。
 もう一つが『二宮和美』『和美の仲間(四人・戦闘不能)』と『死者(六体)』が交戦している戦場。
 二つの戦場間は二十メートル離れています。霧により視界が遮られており、遠距離スキル(通常の遠距離攻撃も含む)は届かないものとします。互いの戦場の様子は、うっすらと理解できます。
 戦闘開始時、どちらの戦場にいるかを決定できます。事前付与は不可能です。
 
 皆様のプレイングをお待ちしています。

●重要な備考
『<混沌組曲・破>』は同日同時刻ではなく逃げ場なき恐怖演出の為に次々と発生している事件群です。
『<混沌組曲・破>』は結果次第で崩界度に大きな影響が出る可能性があります。
 状況次第で日本の何処かが『楽団』の勢力圏に変わる可能性があります。
 又、時村家とアークの活動にダメージが発生する可能性があります。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がございますので予め御了承下さい。 
 

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
★MVP
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
クリミナルスタア
腕押 暖簾(BNE003400)
クリミナルスタア
式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)


 霧の中、死者が迫る。
「アークです。助けに参りました……」
『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)がその霧を払うように剣を振るう。眼前には六人の死者。そして巫女服を着た覇界闘士。
 剣を握り、帰るべき場所をイメージする。『日常』にいるように緊張が抜ける。そのまま心穏やかに体内のギアを上げていく。
「……残念ですが、一人だけだと焼け石に水です」
「大丈夫です。……仲間はこの死者の指揮者と、霧の原因の突破に向っています。
 ……少しの間です。私と頑張りましょう」
 リンシードの言うとおり、そこから少し離れた場所にアークのリベリスタがいた。
「霧の街を死者が歩く、か」
 誰よりも早く動いたのは『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)だ。言葉と同時に閃光が走り、死者達を稲妻の檻で縛って戦闘力を削る。その光を合図にリベリスタは破界器を抜いて死者たちに迫った。
「面妖にも程があるな。一息に払ってくれる!」
「ああ。全力で行くぜ」
広がる霧を鬱陶しそうに見ながら『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)が死者を押さえ込む。死者を蹴るようにして跳躍し、霧を発生させている幽鬼に切りかかった。移動と落下エネルギーを力に変えて、鬼の体に刀傷を入れた。
「何をするにしろ、この霧を晴らさなければさらに被害が広がる」
「大雪崩『霧姫』鈴宮慧架参ります」
 かつてその鬼と相対した格好そのままで『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が歩を進める。ネクロマンサーに操られるその魂には、かつての記憶などない。個性などない。術に操られ、使役されるだけの存在だ。
「私は霧姫さんの魂を救う為にここに居る」
「まったく、気に食わないねぇ」
 言葉と共に銃を抜き、幽鬼に弾丸を叩き込む『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)。力のない者の命を奪い、使役するネクロマンサー。雅はそのやり方が気に入らない。この弾丸もあの老人にぶつけたくなる。だが、今は。
「この霧を晴らすのが先だ! おとなしくしてな、ジーサン!」
「そうだな。おとなしくしてもらおうか。死霊使い」
 緋色を基調とした長槍を手に『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が前に出る。霧で阻まれた仲間のことを思いながら、印を切り結界を展開する。動きを封じる結界に死者達を捕らえ、死を操る老人を見据えた。死を肯定する自分とは真逆の価値観を持つ老人に。
「悪いがこれ以上死者を増やさせない」
「ああ、犠牲も捨て駒もいらねェ。全員で帰るンだ」
 中折れ帽子をかぶりなおして『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)が回復の加護を自分にかける。気休めかもしれないが、この一手が命を救うことになるかもしれない。皆で生きて帰る。そのためにやれることは何でもやると決めたのだ。
「無頼術士の機械鹿、推して参る!」
「マリオ・ジュリアーニ、あなたは許しておけません」
 二刀を手に『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)が眼光で死霊術士を射抜く。人に害をなす死霊術士。彼女の正義はそれを許せない。今、この刃をもって斬りかかることもできる。だがその衝動を刀の柄を握って押さえ込んだ。今優先すべきは、この霧を晴らして街を救うことだ。
「いつかアークの刃が『楽団』に届くでしょう」
 突きつけられる七つの意思。物言わぬ鬼の亡霊の変わりに、ビオレを奏でる老人が彼等に答えた。奏でる音色はそのままに、落ち着き払った声で。
「来なさい勇敢なる戦士達。その血肉、そして魂すらすべて『楽団』のために」
 死者を取り込む軍団。ネクロマンサー。
 霧の舞台の中、文字通り生死を賭けた戦いが幕開く。


「こっち、です……」
 リンシードが持っていた剣を振るう。剣の軌跡を追う様に冷気が生まれ、小さな鏡のような粒子が死者達を惑わす。鏡を繰る少女は幻影を生み、死者の脳内に攻撃する目標を刻んだ。ほぼすべての死者がその矛先をリンシードに向ける。
「二宮さんは……彼等を……」
 リンシードの意図を察した水蛇の巫女は幻惑されなかった死者達を氷の拳で足止めする。
(霧姫……懐かしいですね……結局貴女とは、負けたままお別れでしたっけ、ね……)
 濃霧を発生させている『鬼』のことを思い出すリンシード。
(あれから私も成長しました……霧の幻影と鏡の幻影……今一度、勝負です)
 霧の向こうを見る余裕はない。どれだけここで避けれるかが、生き残れるかどうかの要なのだ。
「戦闘開始だ! 我らの目的はこの霧を発生させるモノの排除である!」
 ベルカの号令が響き渡る。リベリスタに攻勢の命令をくだし、最適の攻撃をできるような布陣を敷く。できるなら初手にはなった光をもう一度放ちたいが、リベリスタの戦い方は死者を後ろに行かさないように押さえながら霧姫への集中砲火だ。今はどう動いても味方を巻き込むことになる。
「仕方ない。時間もないしな」
 ベルカの視線が霧姫を射抜く。鋭い暗殺者の瞳が霧姫を萎縮させる。
「ええ、今回は時間が勝負です。一気呵成に攻めたてます!」
『鬼丸』と『葬刀魔喰』。二本の刀を手に冴が霧姫の側に迫る。刀の間合に踏み込んで、体をひねる。守勢に回れば援軍が来て押し切られる。ならば己の持つ最大の一撃を叩き込むのみ。脈拍の八千分の一の速度で刃を振るう。
「チェストォォオオオ!」
 冴の渾身の一撃。二本の刀が深々と幽鬼を裂いた。
「霧姫を庇わないのか?」
「彼女がそれを望みませんでした。ならば私がそれを強いるのは道理が違うかと」
 冴の刃が霧姫に届いたのを、怪訝に思うフツ。それにジュリアーニが言葉を返した。
「望まなかった?」
「元、とはいえ人にかばわれるのは矜持に反するようです」
 氷雨を降らせながら投げかけた疑問は、なるほど『鬼』を知るものなら当然の答えだった。死者の声を聞き、それに応える。フツは死霊術士に奇妙な共通点を見出していた。だが、彼等と自分とは決定的な部分で違う。
(死者を兵力として利用するお前達と、オレは違う)
 死者を弔う者と、繰る者。両者の違いは決定的だった。
「せっかく眠れた命を弄び、革醒者じゃない一般人までも巻き込みやがって」
 翔太が声に怒りをこめて、戦場を駆ける。ソードミラージュのすばやい動きが霧姫の標準を狂わせる。遠くの仲間の様子が気にかかるが、鋭く遠くを見通しても霧でぼやけて見えない。
「無茶をするなよ。リンシード」
 いらだつように呟きながら翔太は剣を振るう。見えないという状況がこれほど辛いとは。最善手は霧姫の打破だ。そのために地面を蹴って刃を振るう。素早く戦場を駆けぬけ、鋭く切り裂く。霧を吹き飛ばす風の如く。
「ノービルメンテ……ねえ。テメエこそ『上品に』すべきでしょ」
 銃を構えて雅が前に出る。本来は後衛なのだが、そうもいってられない状況なのだ。死者の爪の痛みに耐えながら銃を抜く。混戦の中、人と死者のわずかな隙間を見つける。当たる。持ち前の強気な性格が引き金を引くことを躊躇しなかった。
「死人を叩き起こすなんて上等な行為じゃあないわ」
 弾丸は霧姫の頭部に当たる。肉体のない霧姫は衝撃で揺れることはなかったが、それでも神秘の技で放った弾丸は幽鬼に苦しみを与える。
「手厳しいですな。ですがご容赦を。これでも無理強いはしていないつもり――」
「ふざけんな。あんたのやってる事は気高い魂への冒涜や」
 怒気がジュリアーニの言葉にかぶさる。慧架はかつて戦った鬼を間合に入れながら、それを操る死霊術士に意識を向ける。このまま殴りかかりたくなる衝動をどうにか抑え、霧姫のほうに手を伸ばす。
「霧姫さん。幽霊だとうと操られてるだろうと、私の友達である事に何ら変わりない」
 まるで彼女が側にいるように語りかけ、彼女を掴むように手を握る。そのまま空気ごと投げ飛ばすように慧架は舞う。慧架の動きに合わせるように、霧姫は地面に叩きつけられる。
「友の眠りを妨げ、利用する貴方をうちは絶対に許しませんえ」
「友、ですか。ならばあなたもこちらにきますか? 
 お望みでしたら共に歩むことも可能ですよ。『鬼』の顛末は聞いています」
「何を……!」
「生も死も変わりません。死が別れなど誰が決めました? 死霊術は生死をつなぐ術です」
「相変わらずの生死概念だな」
 黒蛇を模した破界器で霧姫を撃ちながら、暖簾がジュリアーニに語りかける。弾丸は霧姫を冷やし、その動きを一時留める。
「元気そうだなジュリアーニ。まァ俺なンざ覚えてねェか」
「ノ(いいえ)。覚えていますよ。あの村で会った無頼で術士の機械鹿、ですね」
「へェ、以外だな。ここには村の奴らも居ンのか?」
「彼女は我が子と一緒に霊体になりました。会いますか?」
 ジュリアーニの掌には絡み合うような霊エネルギー。それを弾丸にしてリベリスタたちに解き放った。怨念が絡みつき、動きを拘束していく。
「テメェ……!」
「生を謡いなさいリベリスタ。その心も肉体も骸にして私が奏でましょう。この混沌組曲を彩る音色として」
 試すようなジュリアーニの言葉。死者の足音が少しずつ近づいてくる。
 しかしそれに恐れて戦意を失うリベリスタは、ここにはいなかった。
 

 霧の中、リンシードが走る。死者の攻撃を剣の腹で受け止め、別方向から迫る攻撃を身をかがめてそのまま後ろに跳ぶ。白と水色のドレスがふわりと舞った。回転しながら死者の攻撃を避け、その勢いのまま刃を振るう。斬撃が死者を斬り飛ばす。
 足を地面につけ、足がふらつく。避け切れなかった傷の痛みが足を止め、そこに死者が迫った、
「……っは……!」
 死者の爪がリンシードの胸を裂く。一つ一つは小さな傷でも、それが重なればいつかは倒れる。ましてや彼女は四体の死者の標的になっているのだ。むしろここまで耐えたのは彼女の敏捷性の賜物であろう。
「まだ、倒れません……。帰るべき場所を護る為にも、あの人の……日常を護る為にも……!」
 運命を削り、意識を保つ。そんな彼女に容赦なく迫る死者の爪。退くべきタイミングだが、引きつけた数が多すぎたせいか、逃げるよりも先に死者の悪意が襲い掛かる。
「あ……」
 自らに迫る死者の顔が妙にゆっくりに見える。避けられない、と理解しながら体は動いてくれなかった。

「リンシード、二宮。絶対無理すんなよ」
 フツは霧の中から現れた死者の攻撃を受け流している。自分が抑えている死者。そしてベルカに迫る死者。他の人より多い数の攻撃を受け止めているのだ。
「同志焦燥院よ。無茶はするなよ!」
「無茶する作戦なんだがな、今回は」
 戦場に氷雨を降らせるフツを、死者は集中的に狙い始める。持ち前の高い体力をもってしても死者のに押され、フツは運命を燃やすことになった。
「まぁ、その分こちらは安心して支援に回れるわけだがな!」
 ベルカはジュリアーニが崩していく付与を次々と上書きしていた。単純な速度で言えばベルカのほうが早い。わずかな隙を縫って、閃光を走らせて死者たちの一群を足止めもしていた。
「舐めンなよ、力付けたのは楽団だけじゃねェぜ!」
 死者に受けた傷を弾丸に載せて、暖簾がトリガーを引く。罪を問いかける弾丸は霧姫に、そして死生観を問いかける言葉をジュリアーニに。
「ジュリアーニ、生きてる奴が我が子を抱き締め殺すかい? お前さんの戦士は大事な奴に笑いかけンのかい?」
「残念ですが、そういう親はいます。そして戦士たちは私に微笑んでくれますよ。
 無頼術士、あなたも死ねば死を理解できます」
「だろうな。だが死んでやる気はねェな!」
「ならば生きなさい。その意志こそが気高い音色となる」
 死霊術士が霊魂を放ちリベリスタの動きを拘束する。ほぼ同時のタイミングで霧姫が叫び、リベリスタから気力を奪っていく。
「……! こっちのエネルギーを奪ってきたか!」
「厳しいですね……!」
 エネルギーを削り、火力を枯渇させる。短期決戦で挑むリベリスタに対してジュリアーニがとった作戦はそれだった。
「蜂須賀弐現流、蜂須賀 冴。参ります」
「霧姫は今度こそ安らかに眠ってもらうしかねぇだろう、くそが!」
 その被害をまともに被ったのは冴と翔太である。もとより二人は『エネルギーが少なく消費が激しい』タイプである。霧姫の叫び声で最大火力での攻撃回数が大きく削られていた。
 霧姫の懐に踏み込んでいる冴は流れるように二刀を振るい、その隙を縫うように飛び掛る翔太の一撃が霧姫を刺す。
 しかし、まだ倒れない。霧姫の手が冴の体温を奪い、三途の川の霧が翔太を包み、体力を奪っていく。二人は運命を燃やし、破界器を握り締めて叫ぶ。
「まだ、私の正義は折れてません!」
「ここで倒れてるわけにはいかねぇんだよ」
 技を使うための気力もなく、体力も心もとない。しかし戦意だけは十分だった。
「そろそろやばいか、こいつは!」
 支社に噛み付かれて運命を燃やした雅が舌打ちをする。霧姫やジュリアーニから与えられる悪影響を払ったり、死者に受けた痛みを弾丸に乗せて撃つ。いざとなれば仲間の盾になる気骨で、霧姫に狙いを定める。心臓の鼓動が耳に響く。ギルティ? オア ノットギルティ? 裁決は――
「ギルティ! そろそろくたばっちまいな!」
「……ええ、そろそろ眠ってください。霧姫さん」
 慧架は霧姫の挙動を見ながら声をかける。ネクロマンシーに操られた幽鬼に声をかけることが無駄と知っていても、声をかけることをやめなかった。死者の攻撃に運命を削りながら、手を伸ばす。
 ジュリアーニは言った。『鬼と人が共に歩むことが可能です』と。
 不倶戴天の敵が手を取り合い歩く。死はすべてに平等だ。
 そんな言葉を慧架は、
「あなたと私は友達です」
 不要と切って捨てた。共に歩まずとも、生死が二人を分かつとも。
 それでも確かな絆はここにあるのだ。
 慧架はあの日握った掌を、硬く握る。その手に灼熱が宿った。霧姫を投げ飛ばすだけの気力はもうないが、それでも止まるわけには行かない。炎の拳をまっすぐに叩きつける。
「……ふむ、幕引きのようですな」
 霧姫の限界が近いのか、姿が少しずつ薄らいでいく。それを見てジュリアーニはビオレの曲調を変化させる。死霊術士の姿は音色と共に霧に溶けるように消えていく。
「悔しいですが、追う余裕はありませんね」
 冴は冷静に戦局を見て判断する。追えば一太刀入れることは可能だろう。だが、ほぼ無傷のジュリアーニと戦って勝てる保障はない。それは他の者も同じだった。
「あんたはうちを怒らせた」
 慧架はジュリアーニを指差す。今すぐ走って殴りたいが、最優先でやるべきことは霧姫を倒すことだ。
「収穫はありました。身を挺して他人を守る乙女の魂。すばらしいです」
「まずいぞ、リンシードからの連絡がない……!」
「ッ! ヤバイか」
 ジュリアーニの言葉に反応して、フツと翔太は幻想纏いでの通信を試みる。しかし返答はない。聞きなれない雑音が響くだけである。
「SHIT!」
 死者に噛み付かれ、膝を突く暖簾。そのままの姿勢で運命を燃やし、銃を構えた。
「コイツで終わりだ。Sweet Dreams(いい夢みな)! 鬼の姫様!」
 暖簾の弾丸が吸い込まれるように霧姫の額を穿った。陽光が霧を貫くように、音もなく姿が崩れていく。
 その一撃で幽鬼の姿は、霧散して消えていった。


「急げ!」
 霧姫の消滅後、リベリスタたちは一斉に動いた。霧をはさんだ戦場にいる仲間を迎えに行くために。
(霧姫さん……)
 慧架は心の中で黙祷を捧げ、仲間を追う。
「敵戦力が増えるのも洒落になってねぇ。何よりあたしの眼の前で誰かを殺させてたまるかよ!」
 霧の向こうに近づくに連れて鼻腔に届く刺激臭。雅はそれを知っていた。血臭。それも大量の血だ。
「南無三!」
 フツが霧を抜けて最初に見た光景は、地面に広がる血。そして死者がこの街のリベリスタを攻撃している所だった。確認するまでもなく、彼等の命は尽きている。
「リンシードは……?」
 死者を破界器を使って退け、翔太がここを押さえると言った少女を探す。その姿は……見えない。
『身を挺して他人を守る乙女の魂。すばらしいです』
 ジュリアーニの言葉が頭を過ぎる。誰しもが最悪の結果を頭に浮かべ――
「いたぞ!」
 ベルカが指差すのは、事切れた二宮の死体。その下に水色の髪の少女がいた。自分の血と二宮の血が混じり、リンシードのドレスと剣は真っ赤になっている。呼吸は浅いが確かにリンシードは生きていた。
「……どういうことだ?」
「推測ですが……二宮さんは力尽きたリンシードさんを庇ったのではないでしょうか?」
 冴がうつ伏せになってリンシードに覆いかぶさるようにして力尽きていた二宮を見て、そう推測する。
 誰も言葉を発することはなかった。ただ黙って、気を失っているリンシードとリベリスタの死体を抱え上げ、撤収の準備をする。
 霧は晴れた。反撃の機会は訪れるだろう。多くの犠牲の出た戦いだが、被害はこれ以上増えないだろう。
「……いいや、これ以上増やさせねェよ」
 暖簾が静かに決意を言葉にする。
 その言葉に反論するものは、誰もいなかった。

「……そうですか。あなたは少女を守ったのですね。その気高き心に祝福を」
 死霊術士はビオレを奏でる。気高い魂のために。
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 ええい、なんだこのバッドステータスの数は!([ショック][雷陣][虚脱][無力][鈍化][虚弱][圧倒][不吉][凍結]。時々[混乱])
 
 などという逆ギレはともかく、ごらんのような結果になりました。
 皆様の作戦勝ちです。ですがステータスによっては悲劇も起こりえたでしょう。
 MVPは一人で戦ったフラックス様に。この結果はあなたの勇気と意気込み、そして能力があったからこそです。

 死者の行進はまだ続くでしょう。
 いずれその刃が死霊術士にろ毒日が来るかもしれません。その日を待ちながら、今は傷を癒してください。
 
 それではまた、三高平で。