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<混沌組曲・破>Balletto op.22 O' pazzo<関東>


 滑り込んできた電車のブレーキ音が、普段よりも大きく耳障りだったのに顔を顰めたのは幾人か。
 だが、それ以上を気にするものはいない。
 開く扉。
 いつものように乗り込もうとした人々が一歩進み出して、止まる。
 そこから漏れ出たのは、溢れんばかりの血の臭い。

 長い髪を掴まれて暴れる少女の体を、別の腕が掴んだ。ぶちぶちべりりりり。取り合いになった体はその力に耐え切れず、髪どころか頭皮ごと引き剥がされる。だが、少女は叫ばない。別の腕に引かれた時点で、既に首があらぬ方向へと曲がっていた。ごちゅり。舌を下げた体が地に落とされ、重いものが落ちて潰れる音を立てる。明らかに死んだ少女の沈黙も、長くは続かない。眼球を反転させ、黄色い脂肪層と頭蓋骨を露出しながら立ち上がった。
 隣では背後から抱きついた死者が、皮膚を突き破り飛び出した指の骨で生者の腹を割く。溢れ零れた内臓を掬い上げようとして、後から後から続く足に踏み潰され、絶叫。
 母の手から弾き飛ばされ額を強かに打った、赤子と言っていい年頃の幼子も、四つん這いで動き出す。頭の内容物を垂れ流しながら這う小さな体を別の足が踏み、蹴り飛ばしていくが、赤子は泣き叫ぶこともない。癇癪を起こしたような叫びは上げているが、悲哀はない。もしかしたら、今彼、もしくは彼女を蹴飛ばした足こそ母親だったのかも知れないが――それは最早、意味もないことだ。
 高校生が手にしていたコンビニ袋が踏みつけられ、スナック菓子が弾ける。老年に差し掛かったサラリーマンの男性の、引き千切られたコートのポケットから鍵が落ちた。孫であろう少年の写真を入れたキーホルダーが、蹂躙され割り砕けて行く。

 ガタガタと、何事もなかったかのように殆ど空になった電車が走っていく。
 使い物にならなかった肉片を乗せて。操られる運転手の死体を、ギリギリで逃げ込んだ生存者を乗せて。何れ操り糸の範囲を超えた死体はただの死体に戻るだろう。そうなった時に、操縦者を失った高速の鉄箱がどうなるかなど、目に見えている。ほんの少しの細い糸を掴んだはずの、生存者の結末も。

 ホームに出た男は――そんなものなど開幕の合図にもならぬと、笑っていた。

 この駅から続く行き先は、死だけである。


「……ケイオス・"コンダクター"・カントーリオと、彼の率いる『楽団』が先日から事件を起こしているのはご存知の通り。その演奏が次の段階に入った様子です」
 笑みはいつものまま、顔色は若干悪く『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)がそう告げた。
 頻発した蘇り事件。高い隠密能力を誇る彼らの起こす事件を全て食い止める事は不可能だった。今や多数の死体が彼らの戦力となっている。
 全ては隠し切れない。ジャック・ザ・リッパーの時と同じ様に、世間に満ちているのは恐怖。更にケイオスは自らの『楽団』に直接都市部を襲わせる気だ。行われれば一般の生活には致命的な打撃となる上に、死者を増やした楽団が更に手を付けられない存在となる事は間違いない。
 当然これはアークだけの問題ではなく、恐山の『バランス感覚の男』千堂遼一によって齎された、『黄泉ヶ辻』と『裏野部』以外は当面敵対しない、という要請を時村沙織は了承した。彼らと争う事で死者が増えればそれだけ楽団は力を増す。互いの利害を考えた場合、これは好都合という他ない。

「……ですが。今回絡んでいるのは、その『黄泉ヶ辻』の首領、黄泉ヶ辻京介です」
 溜息と共に吐き出された名前。閉鎖主義の支配者、悪名高い黄泉の狂介。
 彼を死者の群れに加えるべく、動く楽団員がいるのだと。
「狙っているのは、バレット・"パフォーマー"・バレンティーノ。彼は死者を詰めた電車で、千葉駅へと現れ、該当駅からやや離れた場所に存在する京介を襲撃するつもりです」
 
 悲鳴を背に、改札から出てくる男と付き添う少女。
 死者の大群を背に、"パフォーマー"は先頭を歩んでくる。

 誰かの脳裏にちらと浮かんだ事を察したのだろう。ギロチンは小さく首を振った。
 潰し合ってくれるのは万々歳だが、見過ごすわけにはいかないのだと。
「京介が簡単に殺されるか。あり得ません。彼は降りかかる火の粉を払うでしょう。そんな彼を仕留める為に、バレットは更なる戦力を投下します。……結果として、どれだけの犠牲が出ると思いますか」
 暗澹とした口調。楽団にとって現地調達の可能な死体などいくら使い捨てても痛くない。
 そして京介が一般人の犠牲を厭うはずもない。

「今回の目的はこの二者を接触させない事。京介への対応は、別のチームが当たります。……皆さんに行って頂くのは、京介が付近から離脱するまでの足止めです」
 気紛れな京介の興味を惹くか、別の事で逸らすか、はたまた説得を試みるか。
 どれだけ時間が掛かるかも分からない、功を奏すかも分からない。
 だけれど、京介への対応に当たった仲間を信じ、成功を信じ、それまで食い止めなければならない。
「ここ暫くの活躍により、アーク精鋭の多くはその名を、実力を知らしめています。……ですから、楽団にとっては良い『餌』に違いない。……バレットも釣りに来ている事は悟るでしょう。けれど、彼はその上で喰い散らかしに来ると思います」
 彼の本命はあくまで京介だ。
 だが、貪欲な楽団が、わざわざ自分の前に現れた餌を逃す必要もない。
「死者の殲滅は不可能です。打ち倒すよりも増える方が早い。救出も不可能です。そんな余裕はない。皆さんの最優先事項は、どれだけ長く自らの命を持たせるか、という事です」
 最低限の数であるのは、各地で事件が頻発する以上、極端な人数は割けないから。
 半端な人数を差し向けて、多くを失う訳にはいかないから。
 本当に一握りの人数で、無数の死者に挑まねばならない。
 諸刃の剣。名が知れているという事は、実力も比例して高い。失うのは、アークにとっては多大なる損失で、楽団にとっては降ってわいた益となる。死した仲間の体を持ち帰るだけの余裕があるかも分からない。そうなれば、待っているのは――。
 処刑道具を名乗るフォーチュナは死刑宣告を前にした囚人の如く、乞う。
「お願いします。ぼくは皆さんが死者の群に加わるのを視るのは嫌です。とてもとても嫌です。……全部は嘘にできないけれど、ほんの少しでも嘘になるようにして、必ず帰ってきて下さい。……お願いします」
 他の多数の命の為に自らの命を捨てる事は、許されない。


 冷たい風に流されて、通りすがりの少女らの会話が聞こえてきた。
 そろそろ世界が終わるのではないかと。
 なるほど詩的で楽しい推測だ。だがこんな事で世界は終わりはしない。
 確かにその少女らの人生は終わったが、世界にはまだまだ楽しい音楽が溢れている。
「ウィルモフ・ペリーシュ。まー、今更何を言う事もねぇよな。あの悪辣の作るアーティファクトの癖は知ってんだろ?」
「……絶大なる力と、絶対なる破滅。主に悪趣味」
 問いを口にすれば、今まで黙っていた少女が答えた。
 今まで目的も聞かなかったのは、どうせ聞いても無駄だと思われているからか。構わない。
 粘っこい音と悲鳴、すすり泣き、怒声、筋肉の千切れる音、母を呼ぶ声、途中で途切れる誰かの名、断末魔。血が、臓物がぶちまけられる悪臭が鼻につく。どこかで機械類に引火したのだろうか、微かに焦げ臭い。
「その通り。奴さんの作るモンは強力だが、相棒にするにゃちょっと具合が悪い。『マトモに』使えるのなんて本人除いてどんだけいるよ」
 厳かな歪夜十三使徒第一位。自分は大将の知己である第五位のキース・ソロモン――我らが指揮者殿の音楽論をシアー以外で最も熱心に聴き理解を示す稀有な人物――以外とは面識はないし、その人となりなど知るよしもないが、事この『黒い太陽』に関しては神秘界隈に住まうものなら多かれ少なかれ耳にする名である。主に轟くのは、最高峰の付与魔術の腕と、それを最大限の悪意で引き伸ばした『作品』の悪名。
「ただ、この島国には『マトモに』使える例外がいる」
 悲鳴と泣き声は、散発的に起こってはすぐに収まっていく。泣く必要のなくなった者達が、ぴちゃぴちゃと血溜まりを踏み締めながら起き上がる産声が聞こえた。ああ。ああ。ようやく曲が盛り上がりを見せてくる。
「……黄泉ヶ辻京介」
 構えた愛器を時に弓で撫でつける合間に、声。
 七つに分かれているという勢力を持ったグループの一つ、『黄泉ヶ辻』の首魁。
「なあ、天才か狂人か、どっちだと思うよゾーエ!」
 金属の冷たい指をこめかみに当てて笑う。話を聞く限り、後者にしか思えないが――大将が興味を持った箱舟という対象以外にも、日本には存外面白いものが転がっているらしい。
 天才だとしても狂人だとしても、数は暴力である。この街は人口も多い。材料には事欠かない。
 楽団のスタンダード、知っていても避けられない災厄。常識を外れた奇才はこれにどうやって対処するのか。そしてそれは、どれだけの血と死を撒き散らしてくれるかと思えば笑いも止まらない。
 世界は生と死に満ちていて楽しい事だ、アレルヤ!
 


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:VERY HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月12日(火)00:12
 あの子が欲しい。黒歌鳥です。

●目標
 黄泉ヶ辻京介とバレットの接触を防ぐ&プレイヤーキャラクター死亡者が二名以下。

●状況
 千葉県千葉市、駅前。駅から出て、市内中心部へと続く道路。
 駅構内はほぼ掌握済み。道路上には車が横転、散乱していて時折火の手も上がっています。

●敵
 ・バレット・"パフォーマー"・バレンティーノ
 奇妙な飾りを多数纏った個性的な格好の楽団第一弦楽器(バイオリン)。
 他の楽団員同様、霊魂を操り複数を麻痺させる弾丸、及び自付与を扱うと思われる。
 他、詳細に関しては不明。

 ・ゾーエ・エピファーニ
 楽団員、ピッコロ奏者。枯れ木の様な手足をした白い髪に黒い礼服の少女。
 実力はバレットより数段劣る。アーク人員の情報はこちらが把握している様子。

 ■以下は死体
 ・『junkie』威岐路・死祢
 プロアデプト。『<混沌組曲・序>Balletto op.18 'O 'Sanghe』にて死亡。
 所持アーティファクト『どくどく』は彼の半径20m以内に立ち入った者に毒、猛毒、死毒付与。
 彼自身は毒無効を活性化。

 ・極苦処
 ホーリーメイガス。『<三ツ池公園大迎撃>球体演技』にて死亡。
 六道の地獄一派と呼ばれるフィクサード集団の一人、元の実力はアークトップクラス程度。

 ・裏野部フィクサード×6
 スターサジタリー、クロスイージス、デュランダル、覇界闘士、クリミナルスタア、ソードミラージュ。
 元の実力はアークトップよりやや劣る。

 ・六道フィクサード×7
 ダークナイト・レイザータクトを除く多種ジョブ混合。元の実力はアークの平均程度。

 ・一般人の死体×多数
 正確な数は不明だが、確実に三桁は存在する。
 神秘としての戦闘能力はないが恐ろしく丈夫。多少の損壊などものともしない。

●備考
 このシナリオへの参加は下記の条件を満たしているキャラクターで行なうようにして下さい。
 条件に適応しない参加が認められた場合、何らかのペナルティを架す可能性があります。

・名声値が300以上である。

 条件を満たさない予約参加の場合、参加を除外しその分の再抽選を行います。
 又、条件を満たさない通常参加の場合、参加を除外しその分の枠を開きます。

 また、このシナリオと『<混沌組曲・破>黄泉比良坂』との同時参加は不可です。
 同時参加を行った場合、上記と同様の対処を行います。

●重要な備考
『<混沌組曲・破>』は同日同時刻ではなく逃げ場なき恐怖演出の為に次々と発生している事件群です。
『<混沌組曲・破>』は結果次第で崩界度に大きな影響が出る可能性があります。
 状況次第で日本の何処かが『楽団』の勢力圏に変わる可能性があります。
 又、時村家とアークの活動にダメージが発生する可能性があります。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がございますので予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
★MVP
ホーリーメイガス
丸田 富子(BNE001946)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
覇界闘士
クルト・ノイン(BNE003299)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)


 バロックナイツ。厳かな歪夜十三使徒第十位『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ総指揮の『公演』は今ここに転調を迎えていた。
 満ち満ちた恐怖を一気に煽り立てるクレッシェンド。解き放たれたが如く低音高音が苛烈に轟く『演奏』に、アークは限りある手を懸命に伸ばしている。
 それはこの千葉県千葉市でも同様。
 バレット・"パフォーマー"・バレンティーノによる演奏は、数多の命と悲鳴で鳴り響く。

 生まれて生きて死んで生きて死んで生きて死んで生きて死んで生まれて死んで生きて死んで死んで生きて死んで生きて生きて生まれて死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで……。
 人が脈々と続ける生死の連鎖。それは時に自然な形であったり、不自然に歪んだりするけれど――今この場に満ちている死は、明らかに『歪んだ』ものであった。
 ホームで電車を待っていたサラリーマンが学生が主婦が、駅員が売店の店員がバイトの女子高生が、抱かれていた子供が手を引かれていた老人が、全て等しく『死』にながら動いていた。
 その殆どは未だ肌も暖かく、冷たい気温に触れて湯気を立てている血液さえある。
 けれど彼らは死んでいた。
 駅から出てきた彼らの後ろに続くのは赤い絨毯。
 出来損ないの刷毛。千切れた手足と零れる血潮で引かれる太い帯。
 溢れ出てきた人々に驚きハンドルを切った男が、文句を言おうと扉を開くよりも早く窓を破った腕が彼を群へと引きずり込む。それを見た別のドライバーは恐慌状態に陥り、Uターンしようとした所で後続の車と派手にぶつかった。決して交通量は少なくない道路で巻き起こったイレギュラーは、面白いほどに事故を引き起こす。アクセルとブレーキを踏み間違いでもしたのか、死体の群へと一台の乗用車が突っ込んだ。弾き飛ばされてべちゃべちゃとアスファルトに肉が叩きつけられた。だけれど、皮膚を剥がれ肉を抉られ骨を露出させながら、彼らは再び起き上がった。真っ赤に染まったフロントガラスに怯えて運転席で縮こまった彼の運命は、数秒で途絶える。

 瞬く間に生を死に塗り替えたその手口に、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)はほそく、息を吐いた。赤で彩られていく地面、一つ、また一つ、なんて悠長なリズムではなく、零れた水が広がるようにあっさりと失われていく命。ましてや自分達に課せられた仕事は、それらを救う事ではない。
 地獄を覗き込めば、こんな情景なのだろうか。ぎゅっと結んだ唇の奥で、堪えきれない不快が溜まる。
「最悪と最悪が混じり合って許容量越えた地獄の釜が引っくり返ったとかクソ喰らえっすね、ガチで」
 眼帯を抓んでぱちりと肌に戻しながら、『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)の視界に映るのは死体ばかりだ。逃げ惑う生きる人も見えるけれど、あの何割が捕まって行進に加わるのか。盆でもないのに開いた釜は、随分貪欲らしい。
 ガソリンに引火したのか、小さな爆発音と火柱。しばらくすればアスファルトが溶ける臭いが、辺りに充満する事だろう。
「黄泉ヶ辻京介とバレットの相対が現実となってしまえば……近辺はこれ以上の地獄と化すだろうな」
 目の前で欠け続けて行く救えない命に、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は一度だけ目を閉じて開いた。それにかかずらい、更なる数を失う訳にはいかない。失いながらも伸ばせない手に軋みを感じながら、首を振る。
「それは何としても、阻止せねばならん」
「だから俺らが釣りの餌になるんだ。だろ?」
 そんな友の肩を軽く叩き、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が同じ方を向いた。今回彼らに課せられた目的は、殲滅や撃退ではなく『時間稼ぎ』である。最悪の最悪を防ぐ為に、不幸中の幸いへと転ずる為に。

 ブリーフィングルームのモニターは、未来視は、今リベリスタの目前に広がる光景を正しく映し出していた。
 即ち、先頭に立って歩くバレットと、それに付き添う少女ゾーエ。後ろに控えるのは無数の死者。本来ならば内か後ろに隠れているのが最適のはずの術者が前に出るという事は、視覚的効果と同時に実力に裏打ちされた自信を表しているのか。
 宛らそれは軍楽隊の旗手にも似て、けれど彼は『パフォーマー』である。
 それは、正々堂々と挑むという事とイコールではないのだろう。
 有用であれば横から死体を掠め取り、互いの感情を突き合っては被害を増大させる手段を何とも思わぬ彼らは、無力な一般人を殺戮の海に叩き落し、血塗れの羊水から死という形で引き摺り出す。
 故にこれは、『パフォーマンス』の一つ。
 黄泉ヶ辻京介が護衛も部下も付けず一人で迎えるのを彼なりの流儀としたように、これから始まる『本番』に第一弦楽器は目立つ場所で弓を上げた。

「何、雷音とかフッさんの有名どころがいるんだ。流石に素通りはされないだろう」
「……お前もな」
 自身の活躍を棚に上げて大きく頷く竜一に、拓真がほんの少しだけ相好を和らげる。
「ま、いつもとやる事がそこまで変わる訳でもないしね」
 二人のやり取りに軽く唇を上げ、『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は指先で金髪を一度くるりと巻いて、解いた。
「……彼らの死体に集る卑しい性根は相容れないし、不快ではあるけれど」
 小さな呟きと共に細められる深海の瞳。蛆の様に蠅の様に、死体のある場所に現れては奪い自らの力を増やしていくその姿は醜悪だ。神は信じないが、なればこそ死した後の安寧すら奪う行為は唾棄すべきものである。そこに安らぎ以上の意味はないのだから。
「絶対に、皆で生きて帰りましょうね」
 面々を見回して、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が口にする。ここで死するという事は、自らもあの群の中へと加わると言う事。守るべきはずの人々に、肩を並べた戦友に牙を剥くと言う事。
 それだけは認められない。誰一人欠けず、本部へ戻るのだ。
「ウム。京介側の奴らも頑張ってくれるさ。だからオレらも気合入れて行こうぜ」
 幻想纏いの様子を確認し、ニッと笑って見せた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の姿に、佳恋は知らず肩に入っていた力を抜く。
「大丈夫、アタシがいりゃ誰も欠けさせなんかしないさっ!」
 ぱすぱすっと佳恋の背を叩き、『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)も笑う。
 彼女は凄惨な場所が得意な訳では決してないが――大事なわが子である多くのリベリスタが戦いに出ている以上、その成功を祈りながら悠長に待っている気などない。
 富子もリベリスタだ。
 世界を、何よりも大事な自分の見知る人たちの笑顔を守る為に立ち上がるのだ。
 その双肩には、回復手としての責任が圧し掛かっている。それでも彼女は、いつも通りに大きく笑って見せた。
「帰ったらたーんと美味しいものを作ってやるからねっ」
 三高平のリベリスタに愛される食堂、『丸田食堂』を経営する『母さん』は、未だ年若い雷音とフラウの背を優しく叩く。
 誰一人、自分の前で失わせなどしないと。
「さーて、じゃあ富子さん、お願いします☆」
 その目に暗い闘志を滾らせて、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が呼びかけた。キングオブイリーガル、裏の世界のプライドが、舐められてばかりでは許されないと爪を研いでいる。一度ならず二度三度、一矢も報いれぬなどという事が受け入れられるものか。
「任せときな!」
 富子が下ろしたのは翼。高いビルで、バレットを迎え撃つ為に。
 柔らかな色の翼を羽ばたかせ、九人は一斉に空へと舞い上がった。


 手が離れた事に、女子高生が悲鳴を上げた。
 違う。正確には腕が離れた。握っていた掌の温もりはそのままに、肘から後ろがなくなっている。
 先程まで、近くに控えた二次試験の事を語っていた友が、肘から先だけ残していなくなった事実が導く意味を考えないようにしながら、必死で走る。
 握った手は、離せなかった。残った最後の『彼女』だったから。


 着々と増える死者の群。
 序曲で浸透していた恐怖のせいか、蠢く死体を見た生者の反応は多少早かったけれども、それでも全てが逃れるという訳にはいかない。携帯を向けて写真を撮ろうとしている姿には、流石に溜息を吐いてしまったけれども。まあそんな愚かさも死体になってしまえば消えて失せる。
 操る数を増やしながら、道路の先で鳥よりも遥かに大きい姿が飛び上がったのは、当然ゾーエにも見えていた。
「……逃亡にしては半端な場所ね」
 降り立ったのはビルの屋上。そのまま飛んで逃げれば良いものを、威力偵察のつもりだろうか。
 だが、その視線が再び地上に降りる途中で止まる。
 地上にたった一人残った『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)を目に留めたのだ。 
 彼は風に金髪を煽られながら、間違いなく『こちら』を、いや、バレットを見詰めている。
「三度目だな、盲目地獄耳パフォーマー!」
 瞬き。隣へ僅かに視線を向けるが、バレットは変わらず口元に笑みを浮かべたままだ。
 三度目、という事は先日ゾーエが同行しなかった場所でも彼らは邂逅しているのだろう。
 ならば。
「……この間、それ取ったの?」
「いいや。でも、ま、気付くヤツは気付くし知ってるヤツは知ってるしな」
 問いに肩を竦めたバレットは、鮮やかに彩られた眼鏡ともサングラスとも付かないそれを取った。
 光を映さない、濁った瞳。
 彼が盲目である事は、楽団内であれば周知の事実だが――敢えてそれを他所に喧伝するはずもない。かといってこのパフォーマーがそれと露骨に分かるようなヘマをするとも思えないのだが。
 彼女は知らない。万華鏡による観測と行動から、クルトが推察としてそれを導いた事を。
 昏い暗色が、正しくクルトの方を向いた。
 ぱちりと瞬き、ゾーエはその姿を寸分違わずバレットの頭へと送り込む。
「ゾーエ。あれは? 日本人じゃねーんだな」
「……クルト・ノイン。欧州出身で楽団に喧嘩を売る度胸は買ってもいいんじゃない」
「へえ。列に加わるかい? 歓迎するぜ」
「Nein.そのつもりはないよ」
 歩く間に、モノクルの男は壁面へ。一人で食い止めるような愚かな真似は流石にしないのだろう、上がった先には、既に顔の判別も容易になった者達――『アーク』のリベリスタがいた。
「楽しいパレイドの最中に失礼するぞ。三度目の逢瀬だ、運命を感じるな」
 僅か強張った顔に、精一杯の虚勢であろう笑みを浮かべて少女が囀る。トキシマ・ライオン。
「御機嫌よう。パレードの場所は間違えているみたいだけれど」
 頬に手を当て嘯いてみせるのは、確かエレオノーラ・カムィシンスキー。
「アロー、アロー。黄泉のキョーちゃんと遊ぶ前にうち等と遊んでいかないっすか?」
 手元にナイフを煌かせ、指先で軽く誘っているのはフラウ・リードか。
 そして――。
「やあ、ゾーエたん。俺、俺だよ俺俺。知ってるよね? アークのBozの一人さ」
 ……後半は知らないが、顔は知っている。
 軽薄な声で誘ってはいるが、年少ながらアーク名うてのデュランダル。
「……ユウキ、リュウイチ」
「そうそう。ゾーエたんは賢いなあ。よしよし、頭撫でてあげよう、おいでおいで」
 素なのか挑発なのか、まあ恐らく後者ではあろうが、誘い文句にしては幼稚が過ぎた。
 頭痛を覚える中、隣の男が笑う気配がする。
「……。……私が撫でてあげるわ。だからこっち来なさいよ、坊や」
 死体でもいいわ。
 呟きと共に吹き鳴らすピッコロ。死者たちが、ビルの入り口に壁面に、駆けて行く。


 細い路地を視界に入れて、サラリーマンの彼は立ち止まった。
 転んだ少年を庇い、老婆が抱えて守るような姿勢になったからだ。
 すぐ後ろには、首を変な形に曲げた男が迫っている。
 愚かしいとは思いながら、それでも自分の母や子の様な年の他人を、彼は見捨てる事ができなかった。
 背に今まで味わった事のない激痛を味わいながら、彼は少年と老婆の腕を引き、路地の奥へと追い込む。早く行けと叫ぶ声が、血に濡れた。


 何時か見た映画の予告編。溢れる死者が屋上に迫る。
 けれどリベリスタは、追い詰められて屋上に登った訳ではない。
 これも作戦の内。雷音の陣地作成が完成するまでの間の時間稼ぎであり、次善の策へと導く為への布石。あっという間に迫り来る死者の前に、雷音の指が、唇が、準備に時間のかかる陣を形成する最後の呪を紡いだ。
 展開される陣地、魔女の秘術。
 ネクロマンサーと死体を切り離す為にと組み立てられたそれは、けれど目前の死体を消してはくれない。陣地作成者が弾けるのはあくまで一般人のみ。既に人から掛け離れてしまった存在である死体を除く事は叶わない。
「駄目か……!」
 軽く唇を噛むが、うまく行かなかった場合も想定には入っていた。
 身を寄せたリベリスタは、互いの居場所を確認しあい、来た時とは逆に一斉に飛び降りる。
「俺は飛べるぜー!」
 ぐっ、と拳を握って床を蹴る竜一。
 そのまま見れば単なる投身自殺に過ぎないが、富子によって下ろされた翼があればビルから地上も移動経路の一つに過ぎない。
 そして何より。
「人は空を飛べないからな」
 遠くなる濁った目を見ながらフツの呟いた通り、翼のない一般人の死体には、空中を飛ぶ事は不可能だ。着地したリベリスタが入り口を塞げば、屋上やビルの中に存在する死体を閉じ込めて幾らか相手の戦力を減じられる。
 一度に相対する数を減らすというその作戦自体は、数の多い死者と対するに当たっては的確であっただろう。

 だが、リベリスタ達の想定はあくまで死体を『人間と同一』として見た場合のものだった。
 動く死体を無意識の内に『人間と同一』として見るのは決して異常ではない。
 例えそれが意思を失い命令にただ従うだけのものだったとしても、『人と同じ行動』を取ると判断してしまうのは、無理もない事だ。
 だから死体など所詮、替えの利く『道具』に過ぎないネクロマンサーが死体にどういった命を下すのか、想像が及ばなかったのだろう。
 それは恐らく、『人』として正しい事だ。
 今自分が降りてきた場所を振り仰いだ雷音は、目を見開いた。
「あ、……!」

 そこから、多数の人が『落ちて』くる。彼女が呼ぶ雨の様に。
 ぐぢゃり。
 足から着地した死体が、衝撃に耐え切れず折れた骨と筋肉を、皮膚から弾けさせた。
 その上に落ちてくる。
 人が落ちてくる。
 先に落ちた死体をクッションにして、次々と飛び降りてくる。
 幼い子が着地した瞬間に別の死体に踏まれ、小さい腕を半分千切れさせながらよたよた歩こうとした所に落ちてくる足。足。足。時折頭と手、胴体。
 肉の潰れる音と骨の折れる音と内臓を踏み砕く音と瞬く間に赤に染まっていくアスファルト。
 ほんの数秒前まで人の形をしていた肉塊――肉片が周囲へと飛び散って、別の彩を添えていた。
 きらきらと光る硝子の破片が、肉に突き刺さる。
 潰れた肉が、他の多くの死体を受け止める。上半身だけになった死体が這いずりながら向かってくる。
 落ちている腕を足を武器とすべく、別の死体が拾い上げた。

『入口』や『出口』の概念などそもそも必要ない。階段さえも必要ない。バリケードなど意味をなさない。
 死体である彼らは落下死などを恐れない。死んでいるから恐れない。意思がないから恐れない。
 同じ形をしたものをクッションとして落ちる事を躊躇わない。自分が肉の緩衝材となる事を厭わない。
「あんたら……どれだけ命を弄んだら気が済むんだい!」
 食べる事は命を頂く事。料理人であるが故にそれを理解している富子は、ただただ『使い潰される』だけの肉に、宿っていた命に歯噛みする。
「汚ぇ花火ってやつですかね。ま、そっちにはより酷い目にあって貰うけど」
 数列の死体の後ろに控えるバレットとゾーエに、エーデルワイスは銃を構えた。
 ネクロマンサーもリベリスタが追い詰められるのをただぼんやりと見ていた訳ではない。
 準備を整えていたのは彼らも同じ。自らに霊を憑依させ、死体の群はビルを囲むように展開させていた。コンクリートの檻に閉じ込める事が叶わなかったリベリスタが、肉の檻へと閉じ込められる。
「皆、細い路地へ……!」
 拓真は仲間の活路を開くべく無数の弾丸を撃ち込もうとする。
 が、先に動いたのは――バレット。

"Per favore,siediti"
「ご着席下さい」

 バレットの声とゾーエの声が重なる。
 向けられたのは、バイオリン。そう呼ぶには巨大な楽器は、数多の改造を施された彼の愛器。本来ならば楽器にはあるはずのない銃口が、リベリスタへと向く。
 鳴り響くピッツイカート、白い弾丸が一斉に放射線状に飛び散った。
「な……」
 自身に被弾したのが青白い指の骨であるのを確認した佳恋は、今まで背にあった加護が失せるのを感じる。彼女には効きはしないが、じくじくと感じるこれは毒だ。それも凶悪な。
 上空に留まろうとしていた拓真が、加護を失い死体の頭を踏み砕きながら着地した。
 腕が、おかしい。敵に向かうはずの佳恋の刃の向き先が指し示すのは、その拓真。体に刺さった骨の弾丸が蠢くように、味方へと導いていく。僅かに困惑の表情を浮かべた仲間も、同様か。
"È il tempo dello spettacolo!"
「開演のお時間です」
 気取った調子で一礼をするバレットと、スカートの裾を抓んで首を傾けたゾーエが、笑った。
 怨念篭った骨のBulletによるBallettoを、どうぞお楽しみあれ!
 刺さった骨から伝わる呪い、苦しみ、憎悪、恐怖、混じった思念が重い。抱く槍は、フツに使われる事によって多少は癒されているのだろうか。けれどこれらの呪詛は重く重く蟠る。
 この『持ち主』を思い、その苦痛を思い――仏を信じずとも人を救うを望む青年は、傷と弾丸を掌で包んだ。それは歓喜か。暗い歓喜か。死者を増やせと、己の側の苦痛を得よと、仲間への攻撃を誘ってくる。ぐらりと傾きそうな思考を留め、呟く。
「いつか、送ってやるからな」
 命を、死を、嘲笑い使い潰す存在が、すぐ傍で笑っている。


 細い路地に逃げ込むには、まず死体の壁を突破しなければならない。陣地作成により新たなる死体の補給が絶たれたのはリベリスタにとっては良く働いたが、範囲内の死体は変わらず存在した。その数は決して少なくはない。抜けるにも、まず死体の群を越えねばならない。
 哀れか。哀れなのか。多数の死者に飲まれて、誰を哀れむべきなのか。
 骨の弾丸の憎悪に飲まれ、刃の先が味方へとずれる。生身と生身のぶつかり合いに、死者が混じる。
「皆……しっかりおし!」
 富子が遥か高位の存在に呼びかける。或いは何処かで神と呼ばれているのかも知れないその存在が齎した不浄を払う光と癒しは、だが同時に苦痛をリベリスタに強いた。最後の最期、浄化による消滅を厭う骨が悪足掻きのように体内を掻き毟る苦痛が、毒以上のダメージをリベリスタに与える。富子の回復で癒しきれない程のものではない。けれど間接的に回復量を減らすに等しいその技は、パフォーマーの持つ切り札の一つか。得た情報は、活かさねばならない。生きて活かすのだ。
 その決意が、リベリスタ達の立つ原動力となる。

「しかし何だ『コレ』? アークは面白いモン使うんだな」
 自らを薄皮一枚隔てた場所へと導いたその術に、バレットは興味深げに呟いた。
 例えその術の本質が知れずとも、自らが違う場所へと『隔離』された事は感覚で分かる。
「さあて、何でしょうね。内緒っすよ」
 駆けるはフラウ。最速の証明、瞬間の稲光。死体で溢れる戦場に、その一陣の風は鋭く吹いた。
 目指すは――『junkie』威岐路・死祢。
 薬で濁っていた目は更に濁りを増して、けれどフラウの一撃を紙一重で逸らして見せた。
 フラウは知らない事であろうが、それは生前の彼よりも早く的確。生きていた頃の努力さえも踏み躙るようなその事実は、ネクロマンサーの能力もさる事ながら自己防衛、肉体や筋肉の保護という枷を完全に捨てたからであろうか。
「許さないとか通さないとか、そんな事言うのは趣味じゃないの」
 毒に吐息を汚されながら、それでもエレオノーラは前へと立つ。
 熱血は遠い昔に置いてきた。仕事に要求されるのは、冷たいばかりの思考回路。
「でもここであたしを捕まえられないなら、貴方達のお目当てには手も足も出ないと思うわ」
 閃くナイフ。機械では叶わず、心温かい人である事も叶わない灰色の刃が、死に切れない死者の腕を抉る。それは事実。黄泉ヶ辻京介は並のリベリスタとはケタが違う。幾ら回避に優れた存在だといえ、エレオノーラを捕らえられない程度ならば黄泉平坂に飲まれて終わり。
 その黄泉の入り口に挑んだ仲間の為にも――止めねば、ならぬのだ。
 威岐路・死祢。
 裏野部のプロアデプト『だった』男。
 突出はいけない。だからこそ、前衛と後衛とは余り離れられない。死体の溢れるこの場所で、死祢のアーティファクトの効果からうまく外れるような位置取りは難しい。
 生前の薬に溺れ血に溺れた姿の片鱗もない。トリップしては狂ったように笑い罵声を吐いていた面影など一切見せない無表情で、『junkie』は己の技を振るう。
 ピンポイント・スペシャリティ。弱点を狙い貫く気糸に眉を寄せながら、クルトは拳を握った。
 この男の命を助けられなかった、それ自体を悔やみはしないけれど。生と死の意味を考え続けた男は、死して思考を止めてしまった。
「満足だったか?」
 その問いにも意味はないし、答えを必要ともしていない。好き勝手にやって死んだのだから、それ自体はどうだっていいのだ。ただ、自分達の前に立ちはだかり続けるというこの状況は宜しくない。
 筋肉の無駄なく付いた足を振るい、見えぬ刃で他の死体ごと死祢を切り裂いた。
「道を切り拓く! 刹那の弾丸、浴び切れるか!」
 《届き得ぬ理想》を逆手に構え、Broken Justiceの銃口を向けた拓真が放つハニーコムガトリング。皮肉か悪意か哀れみか、不運の魔女に気紛れに与えられた『壊れた正義』。その弾丸は違わず人であったものを打ち砕いた。赤い肉を痛々しげに晒した同年代の少年の頭を弾けさせ、奇跡的に生前とほぼ変わらぬ容姿を保ったままであった女性の足を腹を抉り取っていく。そこに笑みはない。手を伸べて助けられるものは何一つない。けれど。
「おっと、お前にばっかいい格好はさせないぜ?」
 拓真が討ち漏らした死体の一群に向かい、吹き荒れるのは竜一の戦鬼烈風陣。人を越え怪物と呼ばれるに到ったその練度は、大きく抉られていた死体の足を下半身ごと吹き飛ばした。絶望は心を殺す。だからこそ、どんな場所でも余裕を持って。思い詰めがちな拓真に不敵に笑ってみせながら、竜一は顔に飛び散った生温い血を拭った。
 迎え撃つのは死者たちの光。救いに見せた無明の弾丸。
 他の複数楽団員が操る事が確認され、資料にも書かれていた霊魂の弾丸が降り注いだ。
 肉を失って尚も利用される魂達が挙げる悲鳴が思考が、対策を持たぬ前衛の動きを止める。
「さあって、トリガーハッピーのお時間よ☆」
 前に立つのは竜一、拓真、クルト、佳恋にフラウ、エレオノーラ。後ろに控えるのは雷音、富子、フツ。その丁度間に立つように構えたエーデルワイスは、死祢を含めた広範囲に向かって銃を連射する。
 決して適当に狙っている訳ではない。裏社会の暗殺術、神速のバウンティショットスーパースペシャル。殺す為の銃弾が、死体の頭を爆ぜさせた。
「しばらくじっとしててくれよ……!」
 フツが描く陰陽・極縛陣。優れたインヤンマスターにのみ扱える結界は彼を中心に一気に展開し、その動きを鈍らせる。死者。死者。死者。戦闘中には一人ひとりを弔うような時間すらない。足止めである以上、終わった後にもできるかどうか。この多くはネクロマンサーによって連れ去られ、肉体も魂も、まだしばらくは安らかに眠る事さえできないのだ。
 溢れる死者の群れ。これは全て一人の男の為に拵えられたもの。黄泉ヶ辻京介、七派において最狂の首魁。
 マトモにぶつかり合う事は、現在のアーク精鋭を持ってしても無謀な事である。
 だが、それでも向かわざるを得なかった友を思い、雷音は息を吸う。
 自分たちがここで時間を稼げれば、食い止めれば、友の負担はそれだけ減る。ただでさえ重過ぎる負担を、少しでも減らそうと――少女は声を張り上げた。
「來來氷雨!」
 氷の雨が降る。遠くでは、陣地に閉ざされた向こうの風景では、黒い炎が上がっている。
 満ちている死。紙一重の死。けれど佳恋は、一呼吸して刃を構えた。
 突出しないよう冷静に、けれど目標である死祢を見据えて、そこに刃を届かせるまでの事を考える。
 そうだ。彼女は『戦士』だ。向かい来る敵に剣を振るい、打ち倒す者。
「越えさせません」
 白い刃を振り抜きながら放たれた戦鬼烈風陣が、死体の胴体を砕いた。
「アタシがしっかり癒すから、みんなで守り切るんだよっ」
 前に立つ仲間、子供と変わらぬばかりに愛を注ぐリベリスタに、富子が後ろから声を掛ける。
 声だけではない、撫でて行くのは麻痺をも癒す風。全てを打ち払う事は叶わずとも、それは再び拳を固める力となった。
「絶対にね――死なせやしないから!」
 死に満ちたこの場所で、一人たりとも取り零さないと、『母』は大きな両腕を広げた。


 死者に足を引かれた母親が、抱き締めた子供を遠くに投げる。
 せめて逃げよと、一人だけでも生き延びろと。
 呆気に取られた子供を、誰か別の大人が抱き上げる。
 母の意志を無駄にはすまいと、命を一つ繋ごうと。
 にこりと笑って見送る母の姿を温もりを――子は決して忘れはすまいと思うから。
 ゆえに、生きろと。


 一陣の風。フラウが描く、血液の軌跡。
 鋭く尚も美しく、けれどそれは死体の血だけではない。フラウとて四六時中動いている訳には行かず、止まった瞬間に群がる死者に腕の、肩の、足の肉を抉られる。
 ずきりと痛めど、そんな事は関係ない、とばかりに速く、速く。
「ゾンビは遅いのが定番らしいっすけど、欠伸が出ちまいますね」
 とん、と爪先が赤に濡れた地面を蹴った。
 辺りに溢れるのは、肉と血と骨が立てる生々しくもおぞましい音だ。
 ぐちゃり。死祢の体を刃先で抉って音を一つ増やしながら、エレオノーラは操り手に一瞥を送った。
「これを音楽だなんて、指揮者はセンスが悪いのね」
「凡百には所詮、頂の音を理解等出来ないのでしょう――って返答でどうだい。大将もそんな文句は死に際に飽きる程聞いてると思うけどな!」
 第一弦楽器は歌姫とは違い、指揮者に深い愛を捧げている訳でもなければ、硬い忠義を持っている訳でもない様子であった。彼の煽りも笑って流し、だが一つ首を傾げる。
「つうかお前、こないだもお姫様の事なんか言ってただろ? 俺は伝書鳩じゃねーんだけどよ」
 覚えていたのは声か気配か。先日の公園で歌姫の愛想のなさにクレームをつけた相手に、バレットは大袈裟に肩を竦めた。くすり、と笑ってエレオノーラは言葉を紡ぐ。
「じゃあ直接伝えたいからこそこそ隠れてないで出て来いって伝えてくれる? 鳩さん」
 声程に余裕がある訳でもない。幾ら警戒したとしても、攻撃範囲にいる以上死祢のアーティファクトの効果は受けるし、ネクロマンサーにより放たれる霊魂の弾の前には身軽な彼とて無傷とは行かない。
 それでも攻撃を引き付け、可能な限り受け流す事を役割と定めるならば、多少の気ぐらい惹いておかねば。そんな彼の思いを知ってか知らずか、パフォーマーは一つ笑う。
「死体ならデリバリーしてやるぜ?」
 そんな言葉を聞き流しながら、クルトは拳を振り上げた。
 死祢は確かに丈夫で優れたプロアデプトであった。
 けれどそれは、時に全力防御等を使用し『耐える』事も交えた戦略を使用しての事。
 防御を捨てて完全に攻勢に出た以上、両手の指を数えるリベリスタの集中攻撃を受けてそれでも尚長く立ち続けるというのは、ネクロマンサーに操られる死体の頑強さを得ても難しい。
「終わりだよ」
 こちらの善意……楽団の戦力を増やすまいという打算と利害が元ではあったが、それでも生き延びるチャンスは幾度も与えたはずだった。実に助けがいのない裏野部の中でも、最後まで聞き入れなかった死祢を巻き込む形で、クルトの壱式迅雷が荒れ狂う。
 動く『死』と自らの死を目前にして、この男が何を思ったかは定かではないが――クルトの雷を纏った拳は男の頭を弾けさせ、次いで放たれた蹴りが胴体を破砕した。

 厄介なアーティファクトを持つ死祢を打ち破って尚、リベリスタが追い詰められていった要因は楽団が完全に積極的な攻勢へと移っていたという事であろう。
 以前までのように様子を窺う様なしたものではなく、『殺す』のを目的として放たれる一撃は、違いなく弱い場所を、柔らかい場所を狙って食んで来る。
 ハイエナが、わざわざ硬い所に噛み付く必要はない。幼い子を狙う様に、弱った個体を狙う様に、食い易い所から牙を突き刺す。
 ましてや彼らの本命はこの先にいる黄泉ヶ辻京介。フォーチュナが『喰い散らかす』と表現したように、取れるものだけぶん獲って先へ進むつもりなのだ。
 その為に狙われる事となったのは、後衛。回復手が狙われるというのはままある事だが、今回はそれに加えて雷音やフツという目立った存在もいる。
 気を引くという点で言えば、間違いなく彼らはその役割を果たしていた。
 要である回復手の富子は頑丈だ。だが、多数の不利益への耐性がある訳ではない。
 雷音やフツを射線から庇うように立てば、霊魂の弾丸によりその動きは止められる。
 それをまずい、と判断したのは戦況を眺めていた雷音だ。
「アタシが盾になるからアンタ達は攻撃に集中しなっ」
 そう富子は笑うが、この場で麻痺を能動的に解除できるのは彼女の聖神の息吹以外にない。単純な回復量で言えば雷音の歌も負けてはいないが、富子を庇うのはそのもう一人の回復手である少女である。
 雷音が言ったように数の暴力で前衛のブロックを抜けてくる死体一体一体の攻撃力はそこまで異様に強いわけではないが、無視できる程でもなく、何より丈夫だ。千切れた誰かの腕を武器にして、誰かの頭をもいで投げ付けて来た。

 死祢の次は、奏者であるゾーエ。
 己に集中する攻撃に舌打ちをしながら、礼服を血で濡らしながら彼女は肉の壁とホーリーメイガスによる癒しを得てリベリスタに反撃する。
 肉の壁によって届かぬ竜一は、ゾーエに向けて相変わらずの挑発を続けた。
「ね、いくつ? ゾーエたん小さいもんね、抱っこしてあげようか」
 風で張り付く白い髪を払う少女――の姿をした女は、それに小さく溜息を吐く。
 竜一とて遊んでいる訳ではない。その一撃で死体が砕かれる様子は、名声が有名無実ではない事を示していた。
 だからこそゾーエも無視しきれず、注意を時折払わねばならない。
 幽鬼の少女に降り掛けられる言葉は、それだけではなかった。
「数の暴力でしか黄泉ヶ辻に勝てないとは、楽団とやらも大したことはないのだな!」
 分かり易い挑発だ。が、雷音が自らに注意を惹き付けようとする意味がゾーエには分からない。
 少女は後方支援向きのインヤンマスターのはずで、とりわけ硬いという話も聞かなかった。
 まあ、挑発しようがしまいが、恐らくゾーエたちは彼女かその付近を狙っていただろうけれども。
「……自分の力を十全に発揮する方法を使わないでどうするの?」
 枯れ枝にも似た細い手の指先を動かして、ゾーエが呼ぶのは白い光。生み出されるのは、数多の顔。
 撃ち放たれた弾丸が、後衛の動きを止める。と――。
「かはっ!?」
 伸びて来た鎖が、細い少女の首に巻きついてその身を持ち上げる。
 放ったのは、エーデルワイス。絶対絞首、裏社会で弾丸だけが処刑方法だと思ったら大間違いだ。
「うふふふ、貴女には死刑がお似合いなのよ、ふふふふふふっ!」
 憎悪に自らの体も反動を受けながら、どさりと地に落ちたゾーエにエーデルワイスは死刑宣告。
「……っの小娘が……!」
「ゾーエ、寝てんな」
「……分かってる!」
 恩寵を削り癒しを拒む呪いを弾き血を吐き捨てたゾーエを、極苦処の息吹が撫でて行く。次に取る手段は分かっている。死体を使っての肉の盾。六道と思しき死体が、ゾーエの前に立ちはだかる。
「死ぬまで殺す。極刑は免れませんよ、あはははははっ♪」
 それを行ったエーデルワイスも、声は明るくも満身創痍。遠方からの執拗な射撃にイラついたのであろうゾーエが放った骨の矢とでも言うべき術により貫かれた腹からは、未だじくじく血が染み出している。唇の端から零れた血を拭った後は、刻んだ掟でも立ち続ける事が叶わなかった際に使用した恩寵の名残。
 攻撃の合間、全力防御で後衛の前に立ちはだかる彼女を癒せる相手が、今はいない。
 彼女の頭を狙ったのは――裏野部のスターサジタリー。楽団には及ばずとも、立って立って立ち続けるエーデルワイスへと送られた必殺の弾丸。ぱあん、と酷い振動が彼女を襲い、一瞬にして意識を奪う。
 とさりと倒れ込んだエーデルワイスの前に佳恋が滑り込み、長剣「白鳥乃羽々・改」で死者の攻撃を受け止めた。
 多数の死者を斬り、赤に塗れながらもその刃はあくまで白く――彼女の本質を示すかの様に、輝いている。
「誰も……死なせません」
 刃を前に翳し、完全なる防御の構え。佳恋の眼は、死を食い止める為に前を向く。

 状況は良いとは言えない。
 それは開始前から既に分かっていた事。
『命懸け』で『止めてくれ』。討伐ではない、撃退ですらない。圧倒的に不利だと理解しながら行われた――行われなければならなかった作戦。
 拓真のハニーコムガトリングは、この状況に置いて非常に強力な助けとなった事は間違いなかった。
 けれど彼の精神力とて無限ではない。撃ち続ければ息切れもする。
 弾き飛ばされ体の一部、もしくは大部分を失った死者が、それでも地面を這っている。後ろには未だ死者がいる。雷音とフツが倒れた事で陣地が破れ、再び周辺の一般人からの補給を可能にしていたのだ。
 一人倒れれば、もう一人が庇いに。死なせぬ為に立ち塞がるリベリスタだが、望んだ退路へと死者を上手く誘導するのはそう簡単ではない。死者に頭はないが、操っているのは知恵あるものだ。
 フツを庇い、手を逃れ切れなかったフラウが、死者に飲まれる。被っていた帽子が飛んだ。
 撤退ラインは、ここで超えた。速やかに退却をしなければならない。
 だが、まずは仲間を群から引き離すのが先だ。
「退けぇっ!」
 幾度目か。拓真の弾丸が、地面に死体に穴を穿つ。理想には届かなくとも、仲間を守る為に。
 引き当てたのは5%。フツとフラウの周りの死者を退けた銃口が、今度は確実な退路を開くべく別方向に向けられた。フツが、クルトによって抱きかかえられる。
 だが、飛び出してくるであろうフラウが出てこない。死体に飲まれ、意識を失ったのか。

 それを見た富子が、雷音の前で下がってきた竜一の肩を叩いた。
「……お富さん?」
「雷音を頼んだよ」
 戦鬼烈風陣でその周りの敵を引き剥がそうとしていた竜一が訝しげに問えば、富子はそちらへと走り出す。後衛がわざわざ突っ込んでくるとは思っていなかったが故か、死体の隙間を掻き分けて――富子の手は、倒れた白い手へと伸ばされる。
「誰一人だって――渡しゃしないよっ!」
 倒れまい。決して倒れるまい。その為に、魔術師でありながら、癒し手となりながら、守られる事なく己で立てるだけの訓練を積んだのだ。手の届く場所にいる以上、死なせなどしない!
 富子の手が、フラウの手首を掴んだ。指先に感じる手首の脈に安堵しながら、その体を軽々と後ろへ放り投げる。
「アタシの目が黒いうちは、アタシより先に逝くなんて許しゃしないんだから!」
「お、富さっ……!」
 竜一に担ぎ上げられながら、雷音が薄れる意識で名を呼んだ。
 声を耳に入れながら、富子は拳を固める。フラウの手を握った温かい手。
 誰かを撫で慈しむだけではなく、時に叱って伸ばす為の拳。
 その手が作り出すのは、命。命を脈々と紡ぐ為のもの。命に感謝し命を繋ぐもの。
 日常に死は溢れていても、それは新たな命へと変わる。だから、だから――死のまま終わらない、死して終わらないこのサイクルを認められるものか。
「食堂で腕を振るって40年! 料理人の腕力をなめるんじゃないよ!!」
 拳で近くの死体の頭を殴り飛ばしながら、富子は退路を開こうと一歩踏み出す。
 だが、血に塗れたピッコロ奏者がその体へと霊の弾丸を撃ち込んだ。身動きが叶わなくなった彼女へと、バイオリン奏者が一つ弦を鳴らして死体を向かわせる。撤退の気配は見えていた。今は三ツ池公園の時のように、音を控えておくべき序曲の段階ではない。目の前に転がる獲物をみすみす見逃してやる必要性など、何処にもないのだ。
 それでも富子は、手を伸ばす。死ぬ為ではなく、生きる為に。
 まだ自分は、彼らの先を見なければならないのだ。
 生に手を伸ばし、執着するのは自分の命が惜しいからだけではない。
 運命を捻じ曲げる事さえ願って――関わった数多の命のその先を、見届けたいと願うから。
「アタシが奇跡を願うとしたってねえ、それは死んで終わる為のものじゃないんだ!」
 奇跡がなされたとして、それを行ったものが帰ってこなければどうなろうか。
 それは幸せだろうか。違う。それは違う。誰もが生きて笑うことこそが最もの幸いだ。
 誰も死なせない。誰かが涙を零さないように。
 自らも死ねない。誰かに涙を零させないように。
 死に支配されたこの地では、余りに贅沢な……けれど『当たり前』のその覚悟。
「みんなで生きて帰るんだよ!」
 ふくよかな姿、大きな手。時に無茶をするリベリスタを叱り、その成長を喜ぶ母は、そう叫ぶ。

 死に囲まれても未だ生の光が眩しいその姿に、死を操るネクロマンサーは感心したようにひゅうと口笛を鳴らす。
「はは、いいねいいねえ!」
 構えたバイオリン。既に戦う事が叶わなくなった者をマンホールへと運ぶ仲間と、富子が退却する道を開こうとしていた者が息を呑んだ。
「怯えて死ぬだけじゃつまんねぇだろ。生きてるのも死んでるのも全部混じって音ブチ撒けりゃいいんだ。大将のスコアは寒気がして嫌いじゃねーけどよ、俺の好みピッタリはもうちっと熱いやつだぜ?」
 けたけた。笑う声に孕んだ狂気と熱。以前その思考の一端を覗き込んだエーデルワイスは知っている。
 男の思考の一欠片は、生を死へと落とすその過程に注がれている事を。
 銃口の行く先は――間違いなく富子へと向けられていた。
 それを見据えた富子は、退却を躊躇うリベリスタへと叫ぶ。
「お行き!」
 その唇が結んだのは、笑み。
「帰ったら、美味しいもん食べさせてやるって言っただろ?」
 子供を安心させる母の笑み。決して揺らぐまいと、子が信じるその表情。
「Brava e Addio Mamma」
 それは、他者の生が死へ落ちるのを何の感慨もなく『音』として処理するこの死者繰りには珍しい賛辞だったのか。
 弾丸が弾け、死者が群がる。


 迫り来る恐怖に泣き叫びながら逃げていた人々が、順々に止まった。
 その背に迫っていたはずの死者の群が、いつの間にか姿を消していた事に気付く。
 息を切らしながら、嗚咽に声を詰まらせながら、もう走れないとその場にへたり込んだ。
 女子高生が泣いている。友の腕を抱いて泣いている。
 蹲る老婆の背を、必死で孫らしき少年が泣きながら擦っていた。
 見知らぬ人に抱き締められたまま、幼い子供が母を呼んで泣き喚く。
 けれど、『泣ける』彼らは死者ではない。

 更なる惨事は、未然に防がれ、彼らにはまた、朝が来る。
 明日に手が届かなかった人々の命も乗せて、数え切れぬ朝と夜を迎える為に、彼らは泣く。
 恐らくは死ぬ予定であった彼らを救ったのは、リベリスタの健闘とその命の一つ。
 多くに『明日』という未来を齎した彼女自身の安らかな眠りは未だ訪れずとも――。
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 黄泉ヶ辻京介との接触は防がれました。
 両側のリベリスタさん達が精一杯頑張ってくれたからこそ導き出せた結果だと思います。

 気になった事を幾つか。
 多数の想定をしておくのは良い事ですが、手段のみを細かく書くのではなく、何を目的として行うか、という部分が具体的であればある程度はその場に沿った形で目標を目指せるかな、と思います。
 また、アイテムに関してはスキルと異なり効果が不安定です。
 トラック等によるバリケードは『本来の用途』ではない為に有効であるか否かは更に場合によります。過信は禁物です。

 生き残る、誰も死なせない、という心情においては最も優れたプレイングでした。
 だからこそ、他に死者が出る場合にどうするか、と考えた結果です。
 全ては叶わなくとも、零れ掛けた命を掬って次に繋げたのは貴女です。

 お疲れ様でした。

=============
死亡・行方不明
丸田 富子(BNE001946)