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熊出没注意

●ゴンドラを倒すクマー
 北海道のとあるスキー場。
 スキーシーズンまっただなか、多数の客でゲレンデはにぎわっている。
 そこそこ大きなこのスキー場には、山の上に向かうゴンドラやリフトが何基か設置されていた。
 一組のカップルが、4人乗りのゴンドラに乗っていた。
 2人は向かい合わせになった座席の片側に並んでいる。
 ほんの数分間だけ2人きりになる空間で、若い女は男に体を押し付ける。
「ゴンドラの中もやっぱり寒いよね」
「風がない分、リフトよりはマシだと思うけどな」
 彼女の積極的な行動に男は少し恥ずかしげな様子だった。
 なにしろ、このゴンドラには他に誰も乗っていないとはいえ、1つ前のゴンドラからはまる見えだからだ。
 いちゃつく2人を止めたのは、突然の衝撃だった。
 悲鳴を上げた彼女を、男は思わず抱きしめる。
 ゴンドラが止まる。
 再び走る衝撃。
 今度は、彼らの耳に重い音も届いていた。
 近くにある支柱から聞こえた音の発生源を、恐る恐る確かめる。
「きゃぁっ」
「なんだあれ……クマ? なのか?」
 支柱の下に4頭のクマらしき動物がいた。
 ひときわ大きな1頭は残る3頭の親なのか。
 ゴンドラの支柱はゲレンデの中にあるわけではない。ゲレンデ外にある森を切り開いて立っている。
 森に住むクマがここまで下りてきたのだろうか。
 それにしても、異様なサイズだった。以前、動物園で見たクマの3倍近い。
「ねえ、見てよ! あれ……!」
「ゴンドラの柱が……!」
 クマが金属の支柱に爪を立てると、それが折れたのだ。まるで円筒型のケーキででもあるかのように。
 倒れていく支柱。
 落ちていくゴンドラ。
 それは、スキー場でこれから起こるパニックの始まりに過ぎなかった。

●ブリーフィング
「お主ら、ウインタースポーツは好きか?」
 リベリスタたちに問いかけたのは、『マスター・オブ・韮崎』シャーク・韮崎(nBNE000015)だった。
「好きならつきあうがよい。任務に参加する仲間を探しておったところじゃ」
 シャークに連れてこられたのはアークのブリーフィングルームだ。
 メンバーがそろったところで、シャークはフォーチュナから受け取ってきた資料を開く。
 北海道にある、とあるスキー場でエリューションが出現するらしい。
 タイプはビースト……冬眠中だったヒグマが変化したものだ。
 敵は合計4体登場する。親熊が1体と、子熊が3体。
「無論、親熊が最強の敵じゃな。だからといって子熊をあなどっていいわけではないが」
 子熊でも、正面きって1対1で戦えば負ける確率が高い。親熊はそれより数段強いのだ。
 共通する攻撃手段として、鋭い爪による攻撃がある。引き裂かれた傷は回復しにくくなる上、さらに反対の爪で連続攻撃になる可能性もある。
 それから、両腕でつかみかかる攻撃もある。受ければ、圧倒された上、身動きがとれなくなるだろう。親熊はさらにそこから投げ飛ばして、吹き飛ばしたあげくに付与効果を無効化してくる。
 親熊はそのほか、広範囲に雪を撒き散らして全体に攻撃することができる。受ければ、凍りついて動けなくなるだろう。
 また、子熊たちは、近距離の仲間の傷口を舐めて回復することができる。
「どうやらエリューションにも親子の情はあるようじゃな。子熊を倒せば、親は怒ってパワーアップするようじゃから気をつけておくがよかろう」
 敵の住み処はわからないが、どこから現れるかはわかっている。戦いの前に余計なことをしなければ、予測通りの位置から敵は現れるだろう。
 戦場は、ゴンドラの真下か、あるいは森の中か。いずれにしろ雪の積もった斜面での戦いになる。
 森の中は木々、ゴンドラの下は支柱という障害物がある。森の中のほうが利用しやすいだろうが、リベリスタ側の攻撃の妨げになる可能性も高い。
「ゴンドラを整備中ということにして人が巻き込まれるのは避ける予定じゃが、さすがに設備は移動させられんからのう」
 障害物がない状態で戦いたいなら、ゲレンデまで敵を来させなければならない。
 だが、その場合ゴンドラの設備やスキー客に被害が発生するかもしれない。もっとも、必要なら多少の被害はアークにとって許容範囲だが。
「無事に仕事が片付いたなら、帰る前にひと滑りしていく時間もあるじゃろう」
 無理に付き合えとは言わないが、たまには息抜きもよかろうとシャークは告げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:青葉桂都  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月10日(日)23:02
●マスターより
 こんばんは、青葉桂都です。
 今回はスキー場に現れるエリューションを撃破していただきます。

●エリューション・親熊
 今回のボスです。
 攻撃手段は、近距離の『爪』『ベアハッグ投げ』、遠距離の『スノースプラッシュ』です。
 爪は命中率の高い単体物理攻撃で致命が発生し、連続攻撃になる可能性があります。
 ベアハッグも単体物理攻撃で、爪よりも威力が高いです。また、麻痺、圧倒を受けるほか、ノックBやブレイクが発生します。
 スノースプラッシュは全体神秘攻撃で、氷結が発生します。

 絶対者相当のBS無効化能力を持ちます。

●子熊
 3体登場します。
『爪』『ベアハッグ』『舐める』を使用します。
 親熊と爪は同じ効果を持ちます。ベアハッグはダメージのほか、圧倒と麻痺の効果しかありません。
 舐めるは近距離単体のHPとBSを回復する効果があります。

 冷気無効、麻痺無効、呪い無効を持ちます。

●その他
 今回はシャーク・韮崎が同行します。
 プレイングに指示があればそれに合わせて行動します。
 なければ、邪魔にならない程度に行動します。
 初級・中級までのインヤンマスターのスキルは一通り取得しているとお考え下さい。

 それでは、ご参加いただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。
参加NPC
シャーク・韮崎 (nBNE000015)
 


■メイン参加者 8人■
クリミナルスタア
不動峰 杏樹(BNE000062)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
クリミナルスタア
藤倉 隆明(BNE003933)
覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
マグメイガス
イクス X クロス(BNE004265)
■サポート参加者 2人■
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
レイザータクト
文珠四郎 寿々貴(BNE003936)

●白い斜面を登れ!
 雪の積もったスキー場へ、リベリスタたちは歩を進める。
「ほっかいどー! 実はパパの実家がこっちで、冬休みとかもよく遊びに来るんだよね。まこ、スキー上手だよっ!」
『ビタースイート ビースト』五十嵐真独楽(BNE000967)は、戦う前から超遊ぶ気満々であった。
「もう遊ぶ算段か。思ったより気楽なもんだな」
 この戦いが初陣となる『XXX』イクス X クロス(BNE004265)は真独楽の様子に呟く。
 チーターの尻尾を生やした真独楽は、犬の尻尾を持つイクスよりもだいぶ年下だ。いや、それどころかメンバーのほとんどは彼女よりも年下のようだった。
(ま、こいつらに片付けられる仕事なら楽勝だろ)
 暴力沙汰で投獄された経験がある彼女は、エリューションとの戦いもまだ喧嘩の延長と捕らえていた。
 雪に埋まった坂道を登るのはけっこうな重労働だ。
 ゴンドラを運ぶロープの下を、雪を踏みしめて登る。
「まぁ、シャークさんは置いておくとして、うむ、今回の仕事は可愛い人が多くて嬉しいねぇ……よっしゃ気張っていくぜ」
 ガスマスクで顔を隠した『ヤクザの用心棒』藤倉隆明(BNE003933)は、引き締まった肉体で先頭を切って積もった雪を踏み越えていった。
「滑らないように気をつけてくださいね、隆明さん」
 安全靴をはいて滑らないようにした『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が声をかけた。
「超寒し……北海道とだけ聞いて美味い物食べようとついてきたらこのザマだよ! 早く終わらせて何か食べに行こうよ、シャークさん何か奢ってよ」
 肩を落とした『息抜きの合間に人生を』文珠四郎寿々貴(BNE003936)が『マスター・オブ・韮崎』シャーク・韮崎(nBNE000015)へもたれかかる。
「よかろう。おいしいミルクで作ったアイスとやらがロッジに売っておった」
「なんでそこで冷たいものなのさ!?」
 寿々貴は叫んだ。
 彼女の心が完全に折れるまでに、リベリスタたちは出現地点にたどり着いた。
「冬眠中に起こされたら腹も減るだろうな。でも、人の味を覚えさせるわけにもいかない。まだ、ただのクマであるうちにもう一度眠らせる」
『アリアドネの銀弾』不動峰杏樹(BNE000062)は十字架の形をしたアクセス・ファンタズムから黒兎の描かれた拳銃を取り出す。同時に、赤兎の飾り布が彼女の拳に巻きついた。
「革醒で目覚めたのかあるいは何者かに起こされたと同時に革醒したのか……いずれにせよ捨て置くわけにはいきませんね」
 銀世界に銀の髪をなびかせ、『不屈』神谷要(BNE002861)は剣を抜いた。
 積もった雪を蹴り飛ばし、リベリスタたちは森の中に入っていく。
 こちらに接近してくる4頭の熊の姿が木々の向こうに見えた。
「熊鍋が歩いてきたか殊勝だな。いや残念、冬眠中なら肉が減るか」
「クマーーー!!! シベリアの荒熊と呼ばれた事もある様な気がするこの私! その目の前で熊が暴れようなどとは笑止千万。親子のあいがけ熊カレーにしてくれるわ!」
『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)や『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)には、通常の3倍のサイズを持つ熊も3倍の食料にしか見えないようだ。
「吊り橋効果とかそーゆーお世話はいらないの! らぶに水差す熊さんは……えっと、蹴ってくれる馬が居ないから、わたしの拳が代理にぐーぱんちだよう!」
『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は拳を握り締めて前進する。
(……くまさん、ごめんね)
 心の中で呟きながらも、スレンダーな少女は足を止めなかった。

●熊さんに出会った
 ベルカの放った閃光弾が開戦の合図となった。
 寿々貴が与えた小さな翼で、雪の上を滑るように飛ぶ。
 子熊たちと親熊の間に割り込むようにリベリスタの前衛の幾人かが布陣した。
 イクスはそんな仲間たちを追う。
「暴れて捕まったってのに今度は勧められんだから割の良い仕事だぜ。行き成り親玉狙うのもいいが、まずは小さい方でこの力を試させてもらうか。覚悟しやがれ!」
 彼女は子熊の1体へ立ち塞がった。
「チッ可愛いツラしやがって」
 エリューションと化しても熊は熊だ。もっとも、サイズは普通の大人の熊ほどあったが。
(な、殴り難ぃじゃねーか……)
 意外に可愛い動物は好きなイクスだった。しかし、戦わないわけにはいかない。
 鉄扇を振り上げ……ようとした瞬間にイクスは爪で薙ぎ払われた。
 さらに左の爪が追い討ちをかけてきて、彼女の体を高々と吹き飛ばす。
「なッ?!」
 一撃で悟った。とても勝てる相手ではない。
 仲間たちに視線を向ける。
 普通の少女にしか見えないユーヌと、一行のうち最年少のミリィが、子熊の攻撃をしのいでいる。
 見上げるほど巨大な親熊には隆明と旭、真独楽が恐れげもなく対峙していた。
「気をつけろ、クロス。甘く見ていい相手ではない」
 杏樹の行動が一歩遅れて駆けつけてきてくれた。
 要が神の声に従って加護を与えてくる。シャークも結界をはって守ってくれた。
 リベリスタとなったばかりのイクスから見れば仲間たちも十分にバケモノと同じに見える。
 自分はガキ以下か。
「……上……等だゴラァア!」
 気力を脚に注ぎ込む。運命は彼女の意思に応えてくれた。
 ユーヌは子熊と対峙しながら、ちらと後衛を覗き見る。
 シャークの手から無数の式神が飛び立って敵に襲いかかるのが見えた。
(せっかくの機会だ。老練のインヤンマスターの技、見せてもらおうか)
 年の功は簡単に身につくものではない。
 轟音が響いたのはその時だ。
 イクスと杏樹が抑えていた子熊と、親熊の間を倒れた木が分断している。
 親熊が注意を向けた一瞬、カードで不運を占う。襲いかかる影の攻撃を親熊は爪で振り払った。
「鈍感め。まぁ、縛れずとも吉凶は身を苛む物だがな?」
 振り払いきれなかった凶運の影が熊の体に食い込んでいるのを、ユーヌの視線は確かに捕らえていた。
 3人で囲み、集中攻撃を加えていても親熊は簡単には倒れなかった。
 隆明はグリップがナックルダスターになった歪な2丁の拳銃を、硬く握った。
「ある日森の中ってか? 童謡だとあんなにほのぼのしてんのに実物は迫力がすげぇなオイ」
 真独楽が高速でクローを振るい、旭が鉄甲を叩き込む。
「るぉおああああ! 食らえやあああああ!!」
 そして、隆明の拳を覆う黒と銀の拳銃が、真っ向から親熊を打ち抜いた。
 凶眼に宿った気配に、隆明の勘が危険を告げる。次の瞬間、彼はすでに巨大な腕に挟みこまれていた。
 投げ飛ばされた青年の体が雪原に叩きつけられる。要が付与してくれた守りの力を突き抜けた衝撃に背骨が悲鳴を上げ、ガスマスクの下で呼気が漏れた。
「無事か、藤倉!」
「熊殺し……んー、なかなかいい響きだ……そう思わねぇかシャークさん。男ってのはそういうのに憧れるもんだろ? 不謹慎ながらワクワクしてる自分が居るのは否定できねぇな」
 シャークの声に応えて、拳を振り上げて見せる。
 無事ではない。だが、鉄火場で必要なのは覚悟と意地だ。それが隆明の意思をつなぎとめている。
 寿々貴がもたらす清浄な息吹も雪の表面を吹き渡る。雪原に手をつき、隆明は体を起こした。

●親子の情
 ベルカは神秘の力で生み出した閃光弾を放つタイミングを図る。
 シミュレーションゲームのように、お互いに棒立ちで地面に升目でも書いてある場所で戦うなら敵だけ狙って放つことも可能だろうが、残念ながら現実はそうではない。
「同士韮崎、影人で敵を誘導してくれ!」
「おう、任せておけ!」
 要望に応じて、シャークが影人を生み出した。ユーヌも式神で敵を挑発し、他の熊から距離を取らせる。
 仲間を巻き込まないタイミングを狙って、ベルカは閃光を投げ込む。
 閃光と雷鳴が子熊を捕らえて動きを鈍らせた。
「人と獣、それぞれの領分を踏み越えてしまった者の悲劇か」
 だが崩界を招くものを放置するわけには行かない。イヌのように大きな口を、ベルカは皮肉げに歪めた。
 要は親熊と戦う3人からは一歩下がった位置に布陣していた。
 不屈の二つ名を持つ彼女は、前衛の仲間たちよりもむしろ頑強だ。あえて後退しているのはダメージコントロールを担うためだった。
 戦場は一箇所に固まっているわけではない。
 熊たちは本能でかなるべく合流しようと動き、リベリスタの側はそれを妨げようと動く。
 斜線が途切れぬよう、要は注意を逸らさなかった。
 焦れてきた親熊が両腕を雪原に叩きつける。雪が弾けてリベリスタたちを襲った。
 要は手近の木を利用して雪の波をしのぐ。しかし、半数近くが直撃を受けて凍りついている。
 構えた盾が輝きを放つ。邪気を寄せ付けぬ光で、要は凍りついた仲間たちを溶かしていた。
 旭は目を伏せた。
 子熊たちに近づこうとする意思が、親熊の攻撃から感じ取れる気がしたからだ。
 ごく普通の家庭に育った少女の心は、迷わないと決めてもやはり揺らぐ。
(……でも、迷ってたら皆が危ない)
 炎をまとわせて叩きつける技は、同じ敵に近接する仲間がいてはほとんど使えない。
「ごめん、ね。どうかくまさん達の辿り着く場所が、すてきなところでありますように」
 特殊な効果がなかろうと、力に特化した覇界闘士の拳は軽くない。
 分厚い毛皮の上から、少女の拳が熊に突き刺さった。
 親熊との戦いは終わりが見えてきていた。
 真独楽は旭や隆明に合わせて攻め立て続けていた。
「……にしても、迫力バッチリで超コワいなぁ」
 傷を受けて、それでもなお……いや、むしろ余計に手負いの獣は迫力を増している。
 再び放たれた雪の飛沫から旭が隆明をかばった。氷漬けで倒れた彼女を巨体が乗り越える。
 皆の集中攻撃にもひるむことなく、親熊の爪が連続で隆明を切り裂いて木に叩き付ける。
 木を支えに立ち上がろうとした隆明だが、すでに立ち上がる力はない。
「それ以上はやらせないよっ!」
 氷を吹き飛ばして、旭が熊の表皮にヴァンパイアの牙をつきたてる。
 子熊の接近を妨げつつ、杏樹やユーヌも集中攻撃に加わっていた。
「ホント、こんなの山で遭遇したらコワすぎっ!」
 真独楽は叫んだ。それは本心だった。けれど……今なら平気だ。仲間がいるのだから。
 死に物狂いとなった親熊に死の刻印を刻む。
 赤く光る瞳が真独楽を振り向き、そしてそのまま熊は雪の中へ倒れこんだ。
 残るは子熊たちだけだ。
 寿々貴は覚えておいた仲間たちの消耗状態を確実に思い返す。
 3頭の子熊たちは、倒れた親熊に近寄ろうとしている。
「あーあ、もう死んじゃったってわかんないのかな。わかんないんだろうな」
 子熊の攻撃をひきつけるユーヌに精神を同調させて、力を送る。
「寒いんだから、さっさと片付けたげてよ、ユーヌさん」
 ベルカの閃光手榴弾で弱っている敵に、ユーヌがシャークとともに不吉を示す。
 親熊との戦いだけでだいぶ力を使ってしまっている。寿々貴は他の仲間にも順に力を分け与えていった。
 杏樹は黒兎の描かれた銃を子熊に突きつける。
 曲がりなりにもイクスと2人がかり。彼女の前の子熊も十分に弱っているようだった。支援に徹するイクスから魔法の矢が飛び、時折敵に突き刺さる。
 親熊を求めているかのように暴れまわる敵には杏樹も心を動かされるが、逃がすわけには行かない。
「魂だけでも森におかえり」
 銃撃は敵の頭を吹き飛ばし、沈黙させていた。
 ミリィは倒れた親熊にひたすら近寄ろうと爪を振るう子熊を止めていた。
「親が子を想うように、子もまた親を想う。……当然ですよね。貴方達の怒り、受け止めましょう」
 最後の1体はまだ体力を残している。けれど時間の問題だ。
「ちょっぴり気が引けるけど……オトナになったらアレになるんだもんね。心を鬼にして行くぞっ!」
 真独楽がクローを叩き込む。旭やベルカの攻撃も着実に命中する。
「――お休みなさい。私が言える事ではありませんが、せめて向こうで仲良く暮らせますように」
 指揮棒で子熊の頭部を指し示す。
 殺意と、そして同情を込めた視線が、子熊の生命を奪っていた。

●風を切る速さで
 熊たちの死骸は、杏樹によって森の奥の雪の中に埋められた。
 誰にも見つからなければ、雪が溶けた後で土に還るだろう。
「せっかくですから遊ばせていただきましょうか。役得ということで」
「まこ、ぶっちゃけスキーするために来たってゆってもイイくらいだし! あ、でも、ボードやファンスキーはやったことないから、やってみたいかも」
 要の一言に、真独楽が喜びをあらわにした。
「うむ、スキーでもボードでも犬ぞりでも好きにやるがよかろう! どうせ日帰りは無理じゃ!」
「犬ぞりなんてスキー場でできんのか?」
 かすかな期待をこめてイクスが問いかける。
「……すまん、犬ぞりは適当に言っただけじゃ。イヌのビーストハーフに引いてもらって犬ぞりという冗談も一瞬考えんでもなかったが」
「笑えんな」
 シャークの返答に、ユーヌがぼそりと告げた。
 自前の板を取ってきたり、スキー場でレンタルしたりして、リベリスタたちがスキー場に戻ったのは、ほどなくのことだった。
「気分転換は大事だな。空気が淀むとだめだ」
 杏樹が澄んだ山の空を見上げる。
 雪原は陽光を照り返し、まぶしいほどに光っていた。
「シャークさんって得意だったりするんでしょうか? 経験があまり無いので手解きをしてくれると嬉しいのですが」
「誘ったからには、当然滑れるんだろ?」
 ミリィや杏樹の質問にシャークはにやりと笑った。
「儂は山梨生まれの韮崎育ちじゃ。スキーくらいできんはずがなかろう」
 山梨といえば日本アルプスの一部である。
 とはいえ、カラフルなスキーウェアは今ひとつ様にはなっていない。おそらく髭のせいだろう。
「よかったら、私も教えて欲しいな。私、スノボって前からやってみたかったの」
「スキーでもスノボでも任せておけい。片足にスキー、片足にスノボで滑る妙技を見せてやろう」
「……それはちょっと、遠慮したいかも」
 可能か不可能かはともかく、あまり格好よくはなさそうだ。
「では、お手本にさせてもらうことにしよう」
 リフトの午後券を購入し、シャークに連れられて4人は初心者コースへ登るリフトへと向かった。
(いざとなったら、ハイバランサーを使っちゃう……のは反則かな?)
 順番待ちをしながら、楽しげに滑り降りてくるスキー客たちを旭は見る。
「えへ、上手に滑れなくてもきっとたのしーよね」
 片足だけスノボに装着してリフトに向かう。
 ……彼女がリフトの乗り方から教えてもらう羽目になったのは、それから1分もたたないうちだった。
 比較的低い場所で、旭やミリィはシャークから教わっていた。
「ふむ、だいたいこんな感じか」
「そうじゃな。ま、転びさえしなければ、後は好きに滑ればよかろう」
 シャークの手本を見た後、杏樹は颯爽と下まで滑り降りていく。
「やっほー!」
 上のほうからボードで滑り降りてきた真独楽が手を振り、通り過ぎていく。
「上手なんですね、真独楽さん」
「確か父親の実家がこちらにあると言っておったな……む」
 そんな真独楽を追い越すような勢いでユーヌが無表情にすごい勢いで滑っていった。
「ユーヌさんも上手なんだぁ」
「単にハイバランサーを使ってるだけ」
 旭の感嘆の声を聞きつけて、ユーヌが呟く。
 しかし、真独楽とユーヌをしのぐ勢いで滑る者がいた!
「見よ、この流麗な直滑降おおおおお……」
 ベルカはまっすぐにロッジのほうへと降りていく。
 問題は彼女が滑っているのではなく雪玉となって転がっていることだ。
「普通はああなる前に止まっちゃうんですけどねえ」
 ごく普通に降りてきた要は一時止まると、ゴーグルを上げてベルカの雪ダルマを見下ろした。
 ロッジでは寿々貴が食堂のテーブルの上でのびていた。
 重傷を負ってしまった隆明も、さすがに滑るのを止められて一緒にロッジにいる。
「はぁ……ぬくぬく。やっぱ中にいるのが一番だね」
 寒い外にはもう出て行きたくない。
 あったかい焼きそばを食べる彼女の顔にそう書いてあった。
 轟音が響いて、ロッジが一瞬揺れたのはその時だ。
 転がってきたベルカが外にあるスキー立てに激突した音だった。
「ちっ、みんな楽しそうだなあオイ」
「すずきさんもすごく楽しいよー。キミも一緒に焼きそばでもどうだい?」
 残念そうな隆明に、ゆるい笑顔で寿々貴は言った。
 アイスを手にシャークが食堂に入ってきたのは、何時間かしてからだ。
「おう、いたな。約束どおり、アイスをおごってやるぞ」
「いや、だからなんで冬にアイスなのさ!?」
 2人に差し出されたバニラのソフトクリームを寿々貴と隆明はいちおう受け取る。
「ここはあったかいからイイんじゃない? 次はお仕事じゃなくて完全に遊びで来たいなぁ」
 全員におごるつもりだったのか、真独楽もソフトクリームを舐めながら入ってきた。
「もし出来るなら、今度はもっと大人数で遊べたらいいですね!」
「そうだねぇ。みんなで遊んだほうが、楽しいもんねっ」
 何度か転んだのだろう。
 ウェアに雪がついていたが、ミリィや旭は楽しげに笑っていた。
 冬の日暮れは早いが、まだ日は落ちていない。
 リベリスタたちはまだまだ楽しい時間を過ごせそうだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 思い切り遅くなりまして、大変申し訳ありませんでした。
 熊さんたちは無事に土に還りました。
 スキーを楽しんでいただけていれば幸いです。