● いつもと変わらないはずの場所で。いつもと違った遊戯を一つ。 その休日とある中学校の体育館に居たのは部活動のために来ていた学生数十名と数名の大人達。いつもと変わらないように汗を流して、練習してただそれだけのハズだったのに。 ただただ不運であっただけ。たまたまその日で、その場所に居てしまった故、彼らの命は消えかける。 ぽたりぽたりとしたたる水音。鼻に香るは鉄の匂い。床を染めるは真紅の液体。 「血だまりって胸きゅんだと思わない?」 「私は狗鬼の御姉様にはいつでも胸きゅんですよ。確かに血に染まる御姉様が一番素敵だと思いますが」 「やっだぁハルってば照れるー。でもこういうのも面白いけどちょっと退屈ー。……あ、一人死んだよ」 広い体育館でまともに談笑するのは座り込んでつまらなそうにする獣碗の少女とその姿に苦笑する足無き少女。二人が眺めるのは天井から吊されたロープに脚を縛られ、5m程の高さに宙づりにされた少年。否、体のそこかしこを切りさかれ血を流しながらさっきまでもがき苦しんでいた少年だったモノ。周囲にいくつもある宙づりの一つ、 「あらあらまた失敗ですね。ささ追加を吊して続けましょうか」 「うん、じゃ、適当に引っ張ってくるね、ついでに『つまみ食い』してもいい?」 「もう、御姉様は仕方無いですね……。あんまり殺しちゃ素材が無くなっちゃいますから程々にですよ?」 「わかってるって-。じゃあお前とお前、勝った方が吊される側、負けた方は私の遊び相手ね!」 獣碗の少女はひとかたまりに纏められた少年達に駆け寄って、目に付いた少年二人を指名する。二人ともヒッと悲鳴を上げるも逃げることはできずに前に出る。だって逃げられないことを知っているから、逃げたらどうなるか知っているから。どうなったかなんて、目の前にあるものが、死体が、教えているから。 指名された二人を見る他の人間の目には同情、憐憫、そして自分がまだ選ばれなかったという少しの安堵。それもきっと二人には痛くて、必死になって、ジャンケンする。ほんの少しだけの生きる時間を掛けて。 「勝った方はハルの方に行って吊されておいで、良かったね、私が『友達で』遊んでいる間は生きられるよ、少しだけね」 勝った方にほんの少しの救いと後ろめたさを、そして敗者に絶望を。そうして鬼は手を伸ばす。泣き顔で、崩れ落ちた少年を抱きしめるように。そしてそのまま押しつぶすように。 「さぁ、解体遊びの時間だよ、素敵な悲鳴を聞かせてね?」 そうしてしばしの間悲鳴が響く。暴れる少年が生きたまま皮を裂かれ、肉を掻き分け骨を抜かれて転がされ。脚を潰され腕をもがれて、聞くに堪えない悲鳴が響く。ソレを嗤って少女は止まらない、誰かの命がつきるまで、誰かを解体し終わるまで。悲鳴も、苦痛に歪む顔も、解体する手応えも、全部味わってこそ愉しみだからと。 「ふふー愉しいね、愉しいな、愉しいよ。でもまだなの、足りないの、リベリスタ達の手応えを、味わいたいの。早く速くハヤク来て欲しいな」 「きっと急いで来てくれますよ。正義の味方ですから。以前は負けた分頑張りましょう」 「うん、悔しかったよね、だから頑張って強くなったし、次は負けないんだからね!」 二人の少女は抱き合って、来るべき相手を待ち望む。生け贄をぶら下げながら。 「さぁ、素敵に踊りましょうリベリスタ」 「さぁ、愉快に遊ぼうよリベリスタ」 少女二人のフィクサード、黄泉ヶ辻のフィクサード。どんな正義の味方が遊んで頂けるかしら? ● 「今回の仕事現場は鹿児島県指宿市のとある中学校。その体育館で行われている儀式の阻止」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集めたリベリスタ達に淡々と情報を伝える。近頃いくつも起きている一般人をノーフェイス化させようとしている事例の一つだと。 「貴方達が現場に着く段階で体育館の中央辺りに中学生20名ほどが集められ、10名ほどが天井から傷だらけで吊された状態になっている」 「ずいぶん少なくないか?」 「本来大人もいたり、もっと数はいたの。でもフィクサードが侵入した段階での脅しのため、逃げようとしたり抵抗したりしようとしたため、既に生け贄となったため、そして……遊びのために殺された人間がいるから」 もっと居ても良いんじゃないかというリベリスタの疑問にイヴは伏し目がちに答える。遊びのため、そんな理由で殺された人間のことを思って。 「フィクサードはハルと狗鬼という黄泉ヶ辻所属のフィクサード二人。以前にアークのリベリスタとも交戦経験があってアークで上位の人間と同等位は強い」 淡々と、敵の戦力の分析を告げるイヴ。相手は弱くはない、けれど信じている、リベリスタなら止められることを。そのために自分の出来ることをしていると言葉よりも姿勢が告げている。 「儀式のキーとなるアーティファクトはハルが首からペンダントにしてかけている。ノーフェイスも、アーティファクトで産み出す下僕も彼女を守るはず、きっと楽には近寄れない」 目標はあくまでも儀式の阻止、そのためのハードルは険しい。それでも信じてるから頑張ってとイヴはリベリスタ達に願って送り出す。 ● 「でもさーなんでこんな面倒な殺し方なのー普通にやっちゃ駄目なの?」 「地に埋もれる街で、天から吊され逆むけられて、そうして運命に背く。そんな呪いの籠もった儀式で、お仕事だからですよ」 「……うん、全く分からないから難しいことはハルに任せる!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:今宵楪 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月07日(木)22:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「命を弄ぶな、なんて言っても暖簾に腕押しでしょうね」 『薄明』東雲 未明(BNE000340)は嘆息する。命の重さなんて分からないであろう相手、ならばせいぜい遊んで好いてもらおうと気合いを入れる、興味をこちらだけに向けてもらうために。 「ママゴト並みに雑な儀式」 合理主義たる『普通の少女』 ユーヌ・プロメース(BNE001086)にとって一般人の生死はどうでもいいこと。それでも付き合わないわけに行かない餓鬼のお遊戯が業腹と少女は無表情のまま思考する。こんな儀式よりも狐狗狸さん辺りがお似合いだ、と。 「彼らはただいつも通りの日常を過ごしていただけなのに」 同じく無表情な『シャドーストライカー』 レイチェル・ガーネット(BNE002439)は本当に同情しますと人質たちのことを思う。同情以上の感情が湧かない自分に、ほんの少し件の少女たちと同じなのではないかと懸念を抱きながらも。 「はいはい、悪趣味なお遊びですね」 悩むよりもさばさばと。只の不運なんて言葉ですませるなんて、カミサマ気取りで胸糞悪い。だから自分が牙をむく。逆十字の『ヴァルプルギスナハト』 海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230) がみせるは背教者の矜持。ご大層なカミサマなんて、呪ってやるのだと。 「どうして黄泉ヶ辻は人を殺すんだろう」 『エンジェルナイト』 セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)にはフィクサード達が理解できない。罪もない人を傷つけるなんて苦しいはずなのに。だが理解できなくともわかることもある、世界のためとか、崩界のためじゃなく、力を持つ一人の人間として。悪を討って命を救って見せると。 「全くドコモ儀式儀式儀式って本当に嫌になるわね」 嫌になるから目に届くものは全部潰してあげる。ソレだけと断ずるのは『炎髪灼眼』 片霧 焔(BNE004174)。彼女が体現するのは赤い紅い炎の色彩、髪も瞳も怒りもきっと、燃えていた。 「またハッピードール相手だね……あんまり相手したくない」 経験があるからこそ苦い顔をするのは『ゲーマー人生』 アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)。それでも相手がいやだからなんて言ってられないから、頑張って救出するんだと自分を奮い立たたせていた。 「かわいい少女二人に会える依頼。楽しみです!」 憂うより敵対心を持つより一人少々毛色が違うのが『残念な』 山田・珍粘(BNE002078)かっこ自称那由他・エカテリーナかっことじる。決して一般人をないがしろにしているわけではないが本人の趣向なので仕方ない。撃退も救出も一緒にしなければならない、リベリスタって辛いです。そんなかんじでヨヨヨと泣いていた。 奇襲を選べどうまくいく保証もなく、彼らは正面真っ向勝負に進みゆく。フィクサード達と遊んであげるために。 ● 「ああ、いらっしゃいリベリスタ! 今度も一杯遊ぼうか」 「ああ、いらっしゃいませリベリスタ。ごゆるり見物でも良いですよ?」 真正面から来るリベリスタ達をフィクサード二人は笑顔で歓迎する。大事な大事な遊び相手、だからこそ入り口そばで控えていた魔犬もすぐには襲わずじっとリベリスタ達を見つめていた。 「御機嫌よう、フィクサード。私達、貴女達にゲームを持ってきたんだけど、どうかしら?」 負けっぱなしなんて悔しいでしょう? そういって焔は自信満々にフィクサードを指さし挑発する。 「ふんふんそれってどんな遊びかな?」 遊びの一言に猟犬少女は笑って嗤う。自信を興奮させてくれうるかと目を輝かせて食いつき踊る。 「遊んであげるフィクサード、3分制限、制圧できた方が一般人を獲得するってのはどう?」 その間、一般人への手出しはお互いなし、時間切れならそっちの勝ちでいい。未明達が提案するのは本気の遊び。命を背負って、誇りを賭けるそんな遊び。 「どう? 3分で地球を救う正義の味方もいるわけだし」 「別に普通に勝ったら持ってく訳だしそれ私達に何の得もないじゃんかー。リスクのない遊びなんて遊びじゃないんだよ!」 されど応える狗鬼の表情は不満顔である。なぜならそれはリベリスタ側に都合が良すぎる、ゲームにだってなりゃしないと。時間制限だけ何て、軽すぎると。一瞬の緊張、一般人の安全が確保されないのなら、戦い方もまた変わる。それも覚悟で一戦交えようかとその刹那。 「なにも出来ない一般人を捌くのも飽きてきたでしょう?なんなら、ワタシ達が負けたらワタシが解体されましょう」 だから遊ぶのは私達だけにしなさい、そんな海依音の一言は覚悟の言葉。自らの命という、大きなBET。だからこそ、それでこそ、遊び甲斐のあるゲームになる。 「嘘だったら、許さない。それでも、それならやってもいいよ! 後で楽しみにしててねお姉さん?」 「だったら今はあたしと遊びましょ、タイマンって胸きゅんだと思わない?」 「……ふーん、ソレも良い感じ。みんなで来る方が簡単なのに、一人限りって言うのなら、面白い楽しく素敵に遊んであげる!」 故に狼少女は承知する、ゆっくりじっくり楽しんであげると。さらなる誘いは未明の言葉。邪魔をさせずに一騎打ち。受けた狗鬼に未明は促す、介入できない隅側で、二人っきりでやり合おうと。 「あらあらまた姉様は……まるで反省していませんね」 「それであなたはどうするの? 私たちが強そうだから怖気づいてしまいました? 人質を使わなければ勝てないって」 「怖いですし使わずに勝てないかもとも思っていますよ? その上仕事としても下策も下策…‥。ですが狗鬼の姉様の望みとあれば、私はそれを止めません」 だめ押しのため、二人に視線をやりながら困り顔のハルを挑発するセラフィーナ。弱いと自負するからこそいやらしく、手段なんて本来選ばない少女、されどそれでも盲目的な彼女にはつけいる隙は多分にある。 「本気で戦うには、吊るされてない一般人邪魔ですよね。サービスで逃がしてくださいません?10人チップで十分でしょう」 「それは駄目ですリベリスタ、だって互いに手出しはしない、ソレが最低限のルールでしょう?」 それでも、決して自由にはさせないと一般人を逃がそうとした海依音には釘を刺す。己のコマは減らさせないと。 「さぁソレではいらっしゃいませリベリスタ、命を救うか足下掬うか、2つに1つといきましょう」 そしてルールは定まったと言わんばかりに宣言する。ここから先が殺し合いと。 ● 「それでは、素敵に愉快に殺しあいましょうか」 先陣を切るのは配置を確認し、完全なる戦闘論理を既に弾き出していたレイチェル。即座に距離をつめ、ハルの周囲に罠を産み出す。拘束し、その動きを封じるそのために。 「あら、怖い。何をされるか分かったものじゃないですね」 さりとて彼女にも手立てがある。自ら跨がる魔犬に庇わせて、その罠からは抜けだしたのだ。それでもレイチェルはそのこと自体からも情報を得る。ハル自身に束縛を退けるような力はないと言うことに。 「ノーフェイス、最初の目標はその人です、手出しできぬよう惑わせなさい」 「そうはいかないな。さて、踊ろうか木偶人形?」 故に警戒してレイチェルを潰そうとする、しかしそれに割り込むのはユーヌの言葉。唯の言葉では狂気のノーフェイスには効くまいが、力有る言葉はそうではない。本来それすらないであろう怒りという概念を、ユーヌの一声は周囲の魔犬とハッピードールへと伝播させる。 「そうだ、ダンスパートナーぐらいは眼へ納めろ」 その効果は絶大で、使役者の意すら無視してハッピードールの狂気はユーヌへと向けられる。その一撃も余裕を持って受け止めるも、その後の追撃にも備えてユーヌは油断しない。この場のほとんどの敵意が自分へと集められているのが分かっているから。 「守ってみせるから、そっちもしっかり頼むわよ、ユーヌ」 そんなユーヌの前に立って笑って彼女を庇うのは焔の役目。二人の役割はどんな状況でもこの形、ユーヌが引きつけ、焔が守ると決めていた。 そしてユーヌの前に立つのはもう一人。闇を切り裂く刀を構え、セラフィーナはハッピードールを切り裂いて行く。これ以上殺させないために、全てを守るために彼女の刃は振り下ろされる。 「(こういうゲームは苦手だな……って言ってもしょうがないよね。やれる事やらないとだね)」 アーリィも抱えた少しの葛藤も、戦闘に集中するために振り払い気糸でハッピードールを貫いていく。主な役割は回復の彼女、されどその一撃の威力は極めて高く、ハッピードールもわずかに姿勢を崩す。 「ああ、もう……ほんと厄介ですね」 そうやって傷つく自らの傀儡共の傷を癒すため、癒しの息吹を呼び出しながらハルは毒づく。自分の思うようにではなく、リベリスタ側の戦術に乗せられていることが分かるがために。 「ですが遊戯はまだまだ始め、私の愛を堪能あれ」 それでも最も効率が良い方法をハルはとる、怒りに飲まれているというのなら、正気の分もまた怒りの飲まれた分が狙う相手を狙えばいい。その全てをさばくのは至難なのだから、真っ向から堕とせばいいと。 「全く愛が鬱陶しいって貴女みたいなのを言うのかしら?」 ハルの言葉通り、一斉に群がる魔犬の群れを、少なくない傷を受けながらも何とか受け流し、焔はフィクサードを素っ気なく評価する。もっとも、そんなことはどうだって良くて、彼女にとっては気に入らないという事実だけで、フィクサードを殴るのには十分だったが。 ● 「いい、凄く良い」 爪を持って切り裂く者と応えて牙突き立てる者、その交錯ももう何度目か。そんな中常に言動に、様子に気を払っていた未明はそれに気付く。あからさまな興奮と、まとわりつくような殺意に。 「強くて、しぶとくてそんなすてきなぁお姉さんを……壊したくてたまらない!」 陶酔と共に振るわれるのは獣の如き純粋な暴力。付随するモノなどなにもない、ひたすらに壊すためだけの強力な一撃。 「まだまだ私は壊れてない、もっと遊びましょうよ」 それでも、警戒し続けていた未明は完全に受けに回ることでその驚異を受け止める。愛用のバスタードソードを盾にして、受けて笑って誘ってみせる。何処までも、自分だけを見るように、仲間や一般人へその狂気を向けさせないために。 「だったら、もっともっと遊ぼうか、お望み通り、壊れるまで!」 狗の遊びは終わらない、壊れてしまうまでずっとずっとの人形遊び。自分がどれだけ血を流しても、それすら甘美と思うほど、狗鬼は愉快と遊び続けていた。 狗鬼を引きつける未明は比較的良好な状態だが、ハル側の戦況はギリギリのラインを続けていた。 実際ユーヌが敵を引きつけ、そこを庇うことでその状況を長持ちさせる、という意図は達せていた。それでもハッピードールと魔犬の攻勢は激しく、フェイトを使って立ち上がった焔もすでに倒れ、ユーヌは自力でしのぎ、アーリィの手によって回復は施されているがそれでもまだ厳しく、運命の力を借りて立っている状態だった。 「大人しく拘束され、何も出来ないまま殺されませんか?」 「ご勘弁ですリベリスタ。私は狗鬼の姉様以外に縛られるのは大嫌いです」 そんな中レイチェルの気糸は幾度もハルを縛り上げようと広げられる。足下の猟犬に庇われ、取り逃すこともあるが、基本的には彼女の行動を封じる役割としては十二分。レイチェルが封じて無ければ回復の手によりさらに長期戦の状態となっていたであろうことは疑いようもなかった。 そう、回復の手は有る程度奪われていた。そして混乱やマヒによって攻撃の手が緩むことがありじわじわと時間を削られてはいたけれど、常に攻め続けていたからこそ勝機は訪れる。 「殺させない。勝って皆守り抜いて見せます!」 気合いのこもるセラフィーナの放つ二連続の斬撃が一体のハッピードールを切り捨て打ち倒す。海依音の神気と珍粘の暗黒が残ったハッピードールとついでに狙う猟犬たちの身を削る。すでにぼろぼろなそれらから、後一押しが見えていた。 「かわいい子が大好物な私としては、二人とも仲良くしたいのですけど、駄目かな?」 「神は自らの敵をも愛せよとおっしゃいました。でもそんなことできるわけナイじゃないですか? 敵は敵ですよ愛せません」 珍粘ののほほんとした言葉は海依音に割とスパッとぶった切られる、でもそれもまんざらでもなさそうである。なぜなら手に入らないことも、取り返しのつかないくらい壊れることだって大好きというのもまた珍粘の趣向である。その手で壊してしまう気持ちの二律背反。愛が深いほど心に来る、そうな。 実態としてはまだハッピードールも残っておりフィクサード二人も倒れてはいない。けれど蓄積し続けたダメージはバカにならず、このままいけばリベリスタ達が制圧するのも目前であった。 ――-だからこそ、どうしようもないから決断する。 「ここまでです、狗鬼の御姉様、お一人だけでも逃げてくださいな」 辛うじて動けたハルが選択するのは回復ではなく未明への魔力の矢。遊びに水を差してでも、彼女の脅威を排除するその一念を込めた一矢は狗鬼の攻撃を受け続けた未明に膝をつかせる。防御に回っていても、攻撃を受ければ少しずつ体力を奪われていたが故。 「……ハルが、そう言うなら」 「遊びはもう良いの?」 「ハルが私の遊びを止めるくらいなら、きっとそれが大事なことだもん。私はハルを信じてる」 大人しく逃げようとする狗鬼への未明の疑問、それも狗鬼は笑って流して壁を崩す。二人で一つのフィクサード、どっちもどっちに依存しているから。リベリスタ達にしても逃げようとするのを止めることはあるだろうがハルの言葉はソレを許さない。 「御姉様を逃がしてくれないというのなら私は一般人の全てを狙います。遊びはここまで、ここから先はお仕事です」 「一人逃がすだけでいいんですか?」 「妹君の御嬢様には悪いですが、私にとって仕事はついでですもの。何より大事なのは狗鬼の御姉様が愉しいことです」 セラフィーナの不安な声にも、楽しむために逃げて助かるのを追わない限り私も殺さない、そして安全のためにここで足止めするとハルは言う。 「さぁ構って頂きますねリベリスタ。私の狂気、その身でとくとご賞味あれ」 『溺愛狂い』の最後の矜恃。愛して病まないその人だけは、何に代えても守り抜く、たとえ自分ですらも代償にしてでも。そのために無理矢理にでも条件をのませようとするのが最後の遊び。 ● 結果とするならリベリスタ達はソレを飲む、一般人を助けることに好意的な者が多く、避けられる被害を出すのが躊躇われる故。そうして続く死の舞踏、結果は見えたそのダンス。最後の最後に残ったのはぼろぼろのハル一人。 「何で貴方達は人を傷つけて、殺して笑っているんですか。人の痛みが分からないなら……貴方自身に痛みを刻み込んであげます!」 「心外です、痛みなら知っています。姉様を傷つけられれば胸が張り裂けそうなほどです。ですがそれを他人に与えたからどうだというんですか?」 必死にセラフィーナの刃を受け止めながらハルは心底不思議そうにする。関係のない他人が痛かろうがどうしたものだと。彼女にとってはただ一人が大事。閉鎖的で盲目で変質的。だって彼女もまた黄泉ヶ辻のフィクサードだから。そんなハルの顔を穿つのはユーヌの式神。傷口を蝕み、怒りを誘う鴉の一羽。 「おや失敬顔を整えるのは苦手でな、死に化粧の一つや二つは必要だろう?」 「あは、は。全くやってくれます……。ありがたい限りですね、ひとりぼっちで死んでいくだけの私に化粧とは」 皮肉の効いたユーヌの言葉に返す余裕もなく焦燥と、憔悴が見て取れるそこにとどめを刺すのはレイチェルの気糸の一撃。最初から最後まで徹底的に、引きつけ封殺し続けた、そして最後も、彼女の命を縛って終わる。 「ああ、もう狗鬼の御姉様ともう遊んであげられないのは悲しい限りですね……」 「一人で死んでいくその恐怖と絶望を胸に、ゴミのように死んで行け」 気糸をたたき込むと同時に呟いたレイチェルの言葉へそれ以上を返すことは無く、1つの戦いはコレにて終わりと相成った。 その後リベリスタ達は翼の加護を用いて安全に一般人達を救出して応急処置を手早くすませる。アークへと連絡をつけたうえで去っていく。 結果は上々に、一般人も保護出来て、そして儀式も阻止したアークのリベリスタ。儀式を止めて一安心。 「独りぼっちって、寂しかったんだな」 終わった一人は黄泉ヶ辻残りの一人はどう想い、彼女の晦冥の道は何処へ続いていくのかは、先行き見えぬ闇の中。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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