● 和やかな音楽が流れるスーパー内。 カラフルな色彩の溢れる食玩売り場に、家族に手を引かれはしゃぐ子供達の声が混ざり合う。 「パパー。莉香ね、お人形欲しい!」 「またかい? 既に三体も貰っているだろう」 ありふれた言葉を口にしつつ、小学校低学年と思われる少女が軽やかに手前へ飛び出した。それを追う様に、トレンチコートを着込んだ男がゆっくりと歩みを進める。 休日の喧騒でごった返るこの場所へ溶け込むには相応しい、二人の存在はごく普通の家族そのものだ。男の方は小学生程度の娘を持つにはいささか若く見える印象だが、彼の落ち着きのある言動が単なる若作りという雰囲気に留めている。 「そうなんだけど、もっともっと欲しいの! ……それに、お人形は”沢山あった方が"良いんでしょう?」 地団駄を踏む要領でぴょんぴょん跳ねながら今どれだけ欲しいかをアピールをしたかと思うと、子供らしからぬ含みを持った笑みを浮かべた少女の手を男は確りと握り直し。何かを思いついた様に立ち止まる。 「莉香子。そんなにお人形が沢山欲しいのかい?」 「うん! 沢山集めたらね、みーんなでお人形遊びをするのよ!」 小さな右手を精一杯広げ、どれだけ大きな数かを説明する少女へと優しげに微笑み返し。男は想像を巡らせる。 もしも娘がこんな広い遊び場で、沢山の人形を侍らせ楽しく遊べたなら。 「……ああ、それは。とてもとても、楽しそうだ」 片手は少女と繋がったまま。 男が口端を軽く吊り上げた瞬間、辺り一面をジグザグと亀裂が走り回る。 平穏を象徴するファンシーな音楽は、破壊音や悲鳴に紛れ影を潜めていった。 ● 「最近、黄泉ヶ辻が日本中の至る所で事件を引き起こしてるよね。これもその一つ」 がらがらと崩れ落ちる設備、地面に縫い付けられた様に倒れ起き上がらない人、人、人。 モニターに浮かぶ惨状を、言葉無く眺めるリベリスタ達を『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)は静かに見据え。しばらく間を置いた後、ぽつりぽつりと話し始めた。 「場所は長野県松本市、市街地にあるスーパーマーケットで起こる未来だよ。黄泉ヶ辻所属のフィクサード二人が、無差別に人を襲ってるの。……でも、よく見て。完全には殺していないみたい」 あまり気乗りはしないが、リベリスタ達は言葉通りにモニターへ目を向ける。確かに倒れ伏した人々は苦痛に顔を歪め身じろぎをしている様子で、少なくとも息がある事は確実だった。「辛うじて」の話だが。 「どうも、ノーフェイスを作ろうとしてるみたい。それも沢山」 決して殺さず、出来る限り苦痛を与えながら革醒を促す。 あまりにも悪趣味なその行為に、眉を顰めるリベリスタ達も少なくない。 「アーティファクト"カオマニー"と、特殊なノーフェイスの"ハッピードール"が今回の事件に大きく関わっているみたい。……詳しい事は今調べ中」 明らかに常軌を逸脱している動作の人間が3人、スーパー内を駆け巡る姿がモニターに映し出される。おそらくイヴの言っているハッピードールだろう。普通の感覚からするとそれが意味する言葉とはとても関連付けられないその姿を見て、リベリスタの一人は何処が幸せなのかと呟いた。 「残念だけど、みんなが辿り着く頃には既に五体がノーフェイス化している。……全員救う事は出来ないけれど」 どうか、最悪が訪れぬ様。 イヴはリベリスタを見据え、ぺこりとお辞儀をして懇願する。 「お願い。出来る限りを、助けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:裃うさ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月08日(金)23:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 無音。 つい先程まで明るい音楽と人々の声で満たされていた空間。 今はもう、何も発さない。 無事の人間は既に逃げ果せた。スピーカーが壊れた所為か、辺り一面を不気味な程の沈黙が支配する。 「ねえ、はやく起き上がって! 莉香のお人形さんたち!」 と、其処に場違いな程明るい声が響き渡った。 目の前の情景が全く見えていないか、或いは全く気にも留めず。繋いだ手を離さずに、父娘はのんびりと歩みを進める。 そんな二人の死角。傾きかかった商品棚の陰で、がさりこそりと音がする。 見れば幸運にも無傷の人間が、地面に這いつくばる負傷者の腕を引き上げ懸命に救助活動を励んでいる姿だ。 「パパ、向こうに”まだ元気な人”が一人いるよ」 「おっと。それはいけないな」 この場所を壊した亀裂が再び地面を走り「がっ」と短い悲鳴を上げ、男は床へとへしゃげた。 その姿が滑稽で、可哀想で、やっぱり面白くて。 少女は無邪気に微笑みながら、父と二人でその瞬間を待ち構えた。 ●Hello,Goodboys! 「……ふざけんな」 開口一発。絞り出す様に放たれた『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)によるその感想は、極めてシンプルなものだった。 ごろごろと人間やそうでない物体が転がる中。 訳もわからず立ち上がる先程まで人間だったモノを、少女はお人形さんと呼びはしゃいでいる。 スーパーマーケットへ訪れたリベリスタ達が先ず見たのは、そんな光景だった。 「人間相手に人形遊び、か。如何にも黄泉ヶ辻らしい趣味の悪さ」 あどけない容貌を目深帽子に隠し、出来るだけ目立たぬ様に。既に顔が周りに知られている『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は呟く声を潜めた。帽子に隠れる双眸から見える光景は正直気持ちの良いものではなかったが、尚更放って置く訳にはいかない。 「ああ、そう言えば。……おもちゃ、私は買ってもらえませんでしたね」 『カゲキに、イタい』街多米・生佐目(BNE004013)は幼き頃を思い返し、呟く。手に入れたばかりの玩具で遊ぶ光景は羨ましくもあるけれど。遊びと称するには幾ばくか規模の大き過ぎる行動の先に、17歳の少女は破綻を感じた。 憐れむ様に、蔑む様に。『白月抱き微睡む白猫』二階堂・杏子(BNE000447)は何時もの如く穏やかに微笑むが、その瞳には冷ややかな影が寄り添っている。 「ああ、なんてくだらない」 その言葉は少女の幸せな稚戯を踏み躙る事と等しいが。だからなんだって言うのか。 あまりにも規模の大きすぎる遊びは叱ってでも止めさせないといけない。 「はーい、そこの小娘さん。おイタはそこまでにしときましょうねぃ」 突然の侵入者に訝しがる少女の前に、『奔放さてぃすふぁくしょん』千賀・サイケデリ子(BNE004150)が立ちはだかる。両手に確りと握られた螺旋杖は、彼女達が何者なのか知らしめるには充分過ぎる代物で。 少女はきょとんと目を丸くするが、直ぐに状況を理解した様子で 「パパ、どうしよっか?」 「丁度お人形遊びをしていた所だろう、一緒に付き合って貰いなさい」 それはリベリスタへの遊びの誘いであり、宣戦布告でもあり。許しを貰った少女は、リベリスタ達を満面の笑みで向かい入れた。まるで遊び盛りの子供の様に、獲物を前にした肉食獣の様に、悪魔の様に。 「ようこそ! 莉香ね、丁度遊び相手がいなくて退屈だったの!」 ●Hello,Happyworld! ぐら、ぐらぐらり。 リベリスタ達の前におぼつかない足取りの”お人形(ハッピードール)”がお出迎え。 元の姿を想像できない程に歪みきった表情に顔を顰める事は隠せないが、だからと言って怯んではいられない。 「それじゃ、始めるよ」 狂ったこの場に水を一滴落とすかの様に。静かに綺沙羅が呟くと、リベリスタ達は頷き合い各々の行動に移し始めた。 「ほう。何か考えがある様だね」 綺沙羅の詠唱に合わせて、じわりじわりと世界が変わっていく。それは普通の人間には目視出来ない変化であったが、彼等にはわかる。蒲生灯礼にとってそれは何なのか理解出来なかったが、リベリスタ達に策があるのだろうという事は理解出来た。 そして畳み掛けるは夏栖斗によるヘイトコントロール。分散していた”人形(ノーフェイス)”が、餌に群がる捕食動物の如くぶわりと彼の元に集まって来た。これ以上がない程に怒りに満ちた表情で恨みの言葉を吐きつけられる、だが夏栖斗は怯まない。綺沙羅の作戦が完了するまで、耐え続けないといけないのだ。 詠唱を続ける綺沙羅の声に、サイケデリ子の奏でる調べが重なる。清浄なるその響きは、転がる人々を抱き起そうと辺り全体を包み込んだ。 ……だがしかし。 「んー、……マズいですねぇ」 サイケデリ子は口元に笑みを作ってみるが、顎元には脂汗が伝う。一般人は倒れたまま、一向に起き上がる気配を見せないのだ。 癒しの術は一般人にも通用するが、可能なのは自立歩行が可能な人間のみである。戦闘不能のリベリスタが癒しの加護を得ても戦闘復帰が不可能な様に、既にダメージを受けて倒れる一般人を癒し起き上げる事は叶わなかった。 「――でも、まだ諦めるには早いですよね?」 俯きかけた顔を真っ直ぐ向け、力強く生米目が笑う。外壁が作り上げられつつある現在、彼等を外へ助け出す事は不可能となったが。だからと言って一般人を助けられる可能性がゼロになった訳ではない。 「ならば、早々にケリをつけましょう。……これ以上を、出来る限りを喰い止める為に」 アームキャノンをハッピードールの方へと向け直し。『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハ(BNE000948)は更に意思を固めるのだ。 外壁が完成するのを見届けると、『Trompe-l'œil』歪・ぐるぐ(BNE000001)はお人形遊びを一時中断、外の方角へと向かう。人形が一体追いかけて来たが、固く閉ざされた空間をすり抜ける事は今この場では彼女以外には成し得なかったのだ。 本来は外へ逃げ出した一般人がノーフェイス化しないか確認する為だったのだが、その必要が無くなったとしても彼女と”遊ぶ”為にも外壁は使用出来るだろう。 でもその前に、出来る事は全部やっちゃおう。軽快な動作でぐるぐはスーパーマーケットの外へ飛び出ると、直ぐに携帯電話を取り出し救急車へと番号を繋げた。 「今○○スーパーで謎の爆発が起きて怪我人多数で超大変なんです! すぐ来てくださいー」 後は救急車が駆け付ける前に全てを片付けるのみ。携帯を懐に仕舞い直し待ってて莉香子ちゃんーと、ぐるぐは再びスーパーの敷地内へと飛び込んで行く。 ぐるぐが入っていくのを確認すると辺り一帯に機械音が響き渡る。『人狼』武蔵・吾郎(BNE002461)によってシャッターが閉じられようとするのだ。敵が逃げ出すのを防ぐため。二重の壁を張り巡らせようというリベリスタの得策だ。 ……これで安心して闘える。狼は牙を研ぎ澄まし、その瞬間を待ち続けていたのだ。吾郎は仕舞っていた剣を取り出すと、遊び場へと合流すべく姿を現した。 「こんにちは、お嬢ちゃん。狼が食べに来たぜ」 牙を研ぎ澄ますかの如く、吾郎の刃はきらりと光る。 狙いはいけ好かない、あの下卑た遊びを繰り広げる女の子。 ●Hello,Dolly! 「お父さん娘さんを僕にください! 物理的な意味で!」 ふわり。夏栖斗の鉄扇が宙を舞い、獣と成りて人形を喰らう。 その牙は莉香子をも射程に捉えていたが、寸での所で躱された。 「……月並みな言葉だが。10年後に出直してくれと言っておこうか」 反対に莉香子の顔には僅かに焦りと不安が覗く。彼女はお人形遊びを楽しもうと思っていたのであって、自身がお人形の様に扱われる事へ戸惑っている様だ。少なくともこんなに早く、他の沢山のお人形が健在の時には。 「莉ー香子ちゃん、あーそーぼっ!」 しかし狙い手は一つとは限らない。魔女の結界の、丁度莉香子の真後ろとなる位置からぐるぐが突入して来たのだ。彼女は可愛らしく拳銃の中からぽん、お花を出現させてご挨拶。普段ならばそれは莉香子を喜ばせるには充分だったのだが、もう片手に持ったナイフの一撃が莉香子の顔を苦痛で歪ませる。そしてその穿たれし斬撃によって付与していた"眠らない為のおまじない"は、音もなく割れた。 「……や、嫌っ!」 莉香子は焦燥の表情で魔光を放ち、ぐるぐの動きを止めるも。振り返りぐるぐの相手をしてしまった事で、リベリスタ達に背後を晒してしまった事になる。 お腹を空かせた狼は、それを見逃さない。 「お嬢ちゃん、俺とも遊んでくれよ」 吾郎の尖鋭なる刃が獲物を捉える為に疾走する。その柔肌に牙が喰い込まんと近づく時―――― 「少し、娘にばかり構い過ぎでは無いかね?」 灯礼によるナイフの応対が一足早かった。獣の牙に負けず貪欲に獲物を欲するソレは、跡が残る程深く狼の肉に食い込んでいく。 「莉香子。パパも一緒に遊んで構わないかい?」 頬に飛び散った返り血を拭いつつ、己が娘に語り掛ける。 「……うん! パパなら大歓迎なのよ!」 未だ傷跡は痛むが。苦痛と恐怖に歪んだ少女の表情が、花咲く様に明るさが戻った。 「あー、やだやだ」 敵に囲まれてまで親子団欒を繰り広げる様子に、サイケデリ子は一種の嫌悪感を感じ吐き棄てる。我儘ばかり許されていたら子供は真っ当に育てない。親が自ら進んでその我儘に便乗しているのなら、そもそもが論外だ。 「この子あってこの親あり、かしらね」 溜息を着き、武器を握ったまま杏子は灯礼へ言葉を投げかける。 「どうも甘やかしが過ぎるんじゃないかしら。我儘を許してばかりじゃ、為になりませんよ?」 「すまないね。どうも娘可愛さのあまり、何でも叶えてやりたくて」 ぴくり。 穏やかな表情を崩さぬまま、杏子の眉がほんの僅かに動く。嗚呼、こんな養父なら歪み切るのも当然だ。 「……躾直す必要がありますわね」 己の血液を黒き瘴気に変え。彼女の言うお人形ごと少女を縛る為、杏子は静かに呟くと己の杖を差し向けた。 親子と対峙する一方で。そのやや前方、お人形と交戦するリベリスタは苦戦していた。 莉香子にハッピードールに一般人のノーフェイス。攻撃を優先する順番に多少ばらつきがあった為ノーフェイスは健在、硬いハッピードールの体力も余り削られてはいなかったのだ。 挑発によって一般人ノーフェイス達がまた夏栖斗へと一気に詰め掛かる。 人殺し、お前なんか人間じゃない。 ノーフェイス一体一体は然程強くはないが、積み重なった分だけの数は暴力となり彼の体力を削ぐ。 「……良いよ。どんな風に言われても、構わない」 それは決して彼の心を全く揺さぶらなかったという訳でもないけれど。攻撃の手を止めるには至らない。 「悪魔でも、鬼でも。僕はそうなる覚悟はできているよ。……一人でも多く救えるのなら!」 次々に来る肉体面と精神面のダメージにぐっと耐え鉄扇で薙ぎ払い、周囲に赤い花を咲かせる。その攻撃で夏栖斗に詰め寄っていた一人と、罵詈雑言を放ったもう一人が物言わぬ屍へと変わった。 しかし、こうしている間にも倒れていた一人の幼い少年が立ち上がる。 本当ならば助けてあげたかったが。この場で起き上がる事の出来たソレは、もう倒すべき対象だ。 「……ごめんなさい」 彼はまだ自分の状況が理解できないのだろう。言葉もなく立ち尽くす”ノーフェイス”の少年に、ベルベットの気糸が降り掛かる。 「こんな子供まで襲うのか」 「この人でなし!」 周りのノーフェイスの罵声が尚更悲痛なもので帯びるが、リベリスタは折れない。折れてはならない。 彼等を生かして、外へと漏らす訳にはいかないのだから。 ――ガタガタガタ! 常軌を逸した動きで、一般人ノーフェイスと一緒にハッピードールが押し掛ける。 そしてそのまま言葉にならない言葉を放ち、防御面を無視した強力な一撃はリベリスタの前衛勢の体力を徐々に打ち減らしていき。 特に前衛側で一番体力の少ない吾郎のダメージは深刻なものだった。 「まだだ、まだ倒れねえぞ」 だが狼の意思は強固なもので。ぐっと踏み堪えると、強い殺意を籠めた瞳で莉香子を睨む。 「その無邪気な面を切り刻んでやるまでは。……ズタズタに、ぐちゃぐちゃに引き裂いてやる」 少女は狼の凄絶な笑みに逃げられず、黒の鎖は未だ絡みついたままが故。その体にに一撃を見舞わせる事を許してしまう。 しかし、娘の代わりにお返しをするかの如く。トレンチコートの長身痩躯が狼に死の刻印を刻み付ける。 「駄目だよ。狼は狩られる側の生き物だろう」 その一撃が決定打となり、吾郎は戦闘不能を余儀なくされる。 だが、しかし。最後まで少女への殺意を孕んだ瞳の光は失われなかった。 狼の牙から一先ずは逃げられた莉香子は内心で恐怖に苛まれる。 文字通り死と隣り合わせで在る事を、否応なくその身に刻まれてしまったからだ。 初めて、それを怖いと思った。 しかし痺れた体では反撃も叶わず。ただ養父が護ってくれる事が、彼女にとっての救いだった。 だからこそ、次いで放たれた綺沙羅の言葉は追い打ちとなる。 「ねぇ、どっちがカオマニー持ってるの? キサに教えてよ」 攻撃の手を休まず。問い掛けたのは今回の事件の心臓部分となるアーティファクトの在処。 それは綺沙羅だけでなく、他のリベリスタ達も知っておきたい事だ。 彼女の問い掛けに灯礼は笑みを崩さぬまま全く動じなかったのだが、莉香子はびくりと動いてしまう。 その行動でおそらく、大体の目星はついた。持ち主は、彼女だ。 「……っっ! がっ……あ!」 ノーフェイスと後方のハッピードール、そして更に後方に重なる莉香子を夏栖斗の鉄扇が貫く。 アーティファクトの目星がついてしまった以上、彼女が標的である事は揺らぎないものになってしまった。 「そんな物、子供が遊ぶには早すぎるんですよ。……言うなれば、大人の玩具!」 カッ! 目を見開いて大人の玩具を強調する所はご愛嬌だが。生米目によって同時に放たれた黒き瘴気はハッピードールを巻き込み莉香子を襲う。 更にその上から綺沙羅による氷の雨がきらきらと降り注ぐ。まるで救いの様に静かに落ちる氷の粒子は、一般人ノーフェイス達の残力を根こそぎ奪っていき。莉香子の体力もまた、残り僅かになっていく。 「……もう、あんた達なんか知らないんだから!」 後ろにはぐるぐがいるがそんな事は知ったことではない。痺れが解けると直ぐに半ばヤケになりながら放たれた最終手段は、忌々しい攻撃を繰り広げた中後衛へ。 おもちゃ箱をひっくり返したかの如く混乱へ。そんな意味を付けられた攻撃はサイケデリ子と綺沙羅と杏子を襲うが、少なくとも彼女にとっては遅すぎた。 「もー、ぐるぐさんも遊びたいんですってば!」 背後を見せる事は攻撃してくださいとも同意義で。ぐるぐの連撃が逃す事もなく背中を叩く。 そして更に、生米目による暗黒の瘴気が再び莉香子を襲う。 その攻撃は彼女の残力を、生命を、全て持っていくのだった。 「力を以て力を滅ぼそうとする者は力を以て滅ぼされる。つまりはまー、そーゆーコトですよ」 ぐらり体が傾く中、我を取り戻したサイケデリ子の声が響く。 わかってる。そんな事、嫌でも全身で覚えさせられた。それでも彼女は言い返す事が出来ず。 「……パパ、たす、け」 ただ、優しかった養父へに縋りたい。最後の願いはただそれだけだった。 「すまないね、莉香子。お別れの時間だ」 「……えっ?」 だが、伸ばした手は空を切り。重点を失った肉体は地面へとそのまま倒れ込む。 「アーク、か。面白い物を見れたよ。……機会があれば、また会おう」 莉香子から視線を外すと何食わぬ顔で、受けた傷も何事もないかの様に振る舞って。灯礼はリベリスタ達に微笑み掛けた後、ぐるりと背を向ける。 いつの間にか、辺りを遮る壁は薄らぎ効力を失くしていた。 「……しまっ……!」 リベリスタが莉香子へと集中砲火を繰り広げる中、人知れず灯礼は後方へと距離を取って行っていたのだ。 ベルベットが叫ぶも早く。 トレンチコートの男は業務用出口へと抜けて消えた。 ● きらきらと輝く宝石は女の子の憧れ。 だから、肌身離さず持っていたかった。 ぼろぼろぼろと、服の下から足元に柘榴色の破片が零れる。 それはお人形遊びの終焉を意味していた。 一般人ノーフェイスも消え、黄泉ヶ辻フィクサードの猛攻も途絶え。既に体力を擦り減らしていたハッピードールをリベリスタ達が掃討するのは時間の問題で。 ハッピードールと莉香子を除いて転がる死体は13人。せめて三分の一以下に収められた事は、リベリスタ達にとって僥倖だろう。 暫くすればぐるぐの呼んだ救急車が来る筈だ。それまでに帰らなくてはならない。リベリスタ達は武器を仕舞い直し、店内の外へ出る準備をする。 「少し歯切れが悪いですが、因果応報でしょう」 元々殺しにかかったつもりだったのだ。何も問題はない。頬には乾いた涙の跡が残ったままの骸を一見し、ベルベットは呟く。 お人形で遊ぶつもりが、最初からお人形状態だったのは彼女。 少女は、その事に最期まで気付けなかった。 ――――Hello,Dolly! 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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