●とある地方放送の録画である 会議室に入ると、なぜか『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がテレビを見ていた。 一同もなんとなくテレビ画面に注目する。画面の中では三匹の猫が楽器を演奏しており、彼らの演奏するJAZZに観客は注目を集めていた。 イヴの瞳に輝きが溢れる。彼女はリベリスタ達に気づいていないのだろう、一同も席に座ってテレビを眺める事にした。 サックス、ピアノ、ドラム。各自が担当する楽器を器用に使いこなし、奏でる音楽は芸術に昇華される。 一同に襲い来る躍動感と迫り来る興奮。ついつい演奏が終わるまで見入り、聴き入ってしまった。三匹の猫達の一礼と共に幕が降りる。 「……彼らは期待の新星『サニーヒル』。偶然地方テレビで取り上げられたことから注目が集まり、ゆくゆくは全国放送のテレビにも出演するそうよ」 イヴは振り返ることもなく喋った。まるで自分が一同に気づいていなかったことを、なかった事にするかのように。 「凄いもんだな、最近のCGは。まるで生きてるみたいだ」 「生きてるわよ。彼らはアザーバイド、しかもフェイトなしの不法入国者ってトコね」 「ちょっと待て、其れはマズイだろ。というか本物かよさっきの猫!」 ――アザーバイド。この世界に元々存在しない異端な者達。フェイトを持たないアザーバイドは、エリューション同様に世界を乱す存在である。 こういった場合『処理』するか、強制送還するのが妥当だろう。イヴに呼び出された理由も、彼らへの対応と見て間違いない。 「幸い、彼らは言葉の通じるアザーバイド。説得して帰ってもらう事も不可能ではないでしょう。ただ、少し問題もある……」 するとイヴは資料を一同に手渡す。そこには数名のフィクサードの事が記されていた。 記された名はテラーダーク将軍。サーベルウルフ。トリケロスの三名だ。 「……。えっ、これエリューションの名前じゃないの?」 「彼らは悪の組織『テラ』に所属するフィクサード。親玉と考えられるテラーダーク将軍。テラーダーク将軍から絶大な信頼を受ける、テラ随一のファイターサーベルウルフ。そして怪人トリケロス」 「怪人ってどういう事なの……。今フィクサードだっていったじゃないか!」 「テラに属するフィクサードの階級に『怪人』という階級があるのよ。幹部、怪人、戦闘員と階級が定められていて、怪人クラス以上のフィクサードは、手強いわ」 資料に映る姿はどう見ても人間には見えないが、リベリスタにも顔が獣化したビーストハーフは存在する。顔が完全に狼のサーベルウルフや、顔がバッチリ鳥類になっているトリケロスのような者がいても不思議ではない。 「よくわからないが、あくまで人間なんだな?」 「エリューション化した人間を、人間として扱うのなら、ね。テラはサニーヒルのメンバーを売り飛ばしたり見世物にして組織の資金調達をするつもりみたい。これを阻止し、アザーバイドを元の世界に返す事が今回の任務よ」 ●悪の組織『テラ』 この世に正義がある限り、必ず悪はそこに有る。正義の影に悪は蔓延り、両者の戦いは決して終わることがない。ここにもそんな悪の道を行く者達がいた。 『クックックッ、ようこそ悪の秘密結社『テラ』へ。トリケロス君、我々は君を歓迎しよう』 「トリケロスです! 好きな食べ物はうどん! 嫌いなものはトリモチです!」 簡素な一戸建て。コタツを中心に広がる茶の間の風景。四方に座るのはテラーダーク将軍その人と、テラの新たなる怪人『トリケロス』だ。 将軍は如何にも悪の首領っぽく振る舞うが、周りの環境が其れを許してはくれない。 「よろしくおねがいしますトリケロスさん。あっこれどうぞ」 ちょうど戦闘員の階級に位置する、通称『戦闘員一号』がお茶を持ってきた。彼もまたフィクサードなのだろうが、その実力は戦闘員の名に相応しい物だという。 一号はお茶をコタツの上に置くと、コタツに足を入れてテレビを見始めた。この分だと部屋に入れるのは後一人くらいだろうか。 『さっそくだがトリケロス君。今我々は大きな問題に直面している』 「大きな問題……ですか?」 『見給え、回りの景色を』 トリケロスは辺りを見回した。狭くも居心地の良い畳部屋、中央のコタツ、壁際のテレビ、窮屈なりに使いやすい台所。庭には洗濯物が見える。 「……壁の色もう少し落ち着いた色にした方がよかったかもしれませんね!」 『そういう事をいってるんじゃないの。――見ての通り、我々テラには活動資金が不足している。早急にこの状態を打破しなくてはならない……、君はなにか良い手段を思いつくかね?』 ふとトリケロスがテレビに視線を向けると、そこにはサニーヒルの三匹が映っていた。 「……あの猫捕まえて売ったらいいんじゃないですか?」 彼らはまだ知らない。この発言が、これから始まるリベリスタ達との戦いの火種になろうとは――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:コント | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月27日(日)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●決行 某テレビ局前。リベリスタ一同は最終確認を終え、現場に到着した。 今回の任務はアザーバイドの説得と防衛。敵の戦力が少ない事もあり、今回はチームの半数が実戦経験の浅いメンバーで構成されている。 「さて……、まずは警備員に怪しまれずに中へ潜入する事からか」 ネクタイを整え、『』天宮 総一郎(BNE004263)はテレビ局を見上げた。四十代で革醒を果たした彼は、デキる男の着こなしに反して今回が初任務となる。 そのため用意は周到。施設案内を電子データに保存し、潜入のために搬入業者を装う。 幻視で誤魔化せる度合いには限度がある。幻視で装える姿は革醒前の自分、異形の証であるフライエンジュの羽を隠す程度の効力しかない。警備員を騙せたのは、顔を覚えられず頻繁に出入りする業者を装ったおかげだ。 総一郎はダンボールを乗せたキャリーカートを押し、一同と共に施設内に入る。 「……もういいぞ」 彼が合図をすると、ダンボールが開き。 「ふぅ、窮屈だったわ……」 『』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が中から顔を出した。彼女は幻視を活性化させていないため、荷物に隠れ運び入れてもらう。 「まずはサニーヒルがどこにいるか……だな。居るとすればスタジオか楽屋か……、なにしてるんだ?」 「え? 物陰とかに隠れてないかなぁ~と思って」 シュスタイナは通路の行き止まりや物陰を覗き込んでいる。流石にいないだろうと一同は笑ってみせたが、彼女は思わぬ相手と鉢合わせする。 「あっ」 『あっ』 不気味なマスクに赤黒いマントで身を包む男。テラの幹部にして恐怖を携え全てを闇で支配する力をもつ、テラーダーク将軍その人であった。 全身からにじみ出る禍々しいオーラ。彼はそれを精一杯抑えこみながら、まるではじめてのおつかいをする子供を見守る親のように身を潜めていた。 悪の組織テラの幹部クラス、その実力は手練れと評される怪人クラスの上を行くとされる。それが本当ならかなりの強敵の『はず』だ。 『――クックックッ、気づかなければ死なずに済んだものを』 「えっ、ここでゲームオーバーなんて聞いてない」 『……おっと、そうであった。今回はあくまで様子を観に来たまでの事。私が手を下しては、テラが誇る怪人部隊を投入した意味がない』 将軍が立ち上がる。威圧感から錯覚を起こし、見るものによっては巨人のようにも見えた事だろう。しかし将軍はそのまま背を向け、立ち去ろうとする。 『……リベリスタの諸君、私を見たことは忘れ、任務に集中するといい』 「そ、そうする」 後に『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)はこう語る。「圧倒的な威圧感からくる脚の震えとかそんなんではなく、とにかく腹筋の震えを抑えるので精一杯だった」と。 ●接敵 将軍との接触からわずか数分後、一同はテラの怪人達と接敵を果たす。 フツと相対するのは怪人サーベルウルフ。そのスピードから近接戦闘では無類の強さを誇る、ソードミラージュだ。 対するフツは四神使役を修得するほどのインヤンマスター。通路での攻防が続く。 「お前さんの相手はこの、アークの焦燥院フツがさせてもらう」 『お前の名前なら知っている。猫を連れ去るだけの簡単な仕事だと思っていたが……、なかなか楽しめそうじゃないか』 鋭い牙をチラつかせながら、剣狼は嬉しそうに口元を歪ませる。名の知れたリベリスタと対峙して動じていないというだけで、すでに敵の力量を計るには十分だ。 だがそんな事よりも、フツは敵の武器が気になって仕方がなかった。なにせ敵の武器はフライパンとおたま。 無視できない。アークには巨大なキャンディーで戦う変わり者もいたりするが、そういう事例はレアケースだ。後方に控える総一朗も不思議で仕方ない様子。 剣狼は軽くその場で飛び跳ね、消える。フツはとっさに身構えた。 「くるっ!」 斬撃。縮地の如く行われた先制攻撃、瞬撃殺の一撃をフツは耐え凌ぐ。攻撃を受け止めた魔槍深緋から伝わる衝撃、一撃の重さもかなりの物だ。 今の踏み込みで足元が抉れている。相当な力で踏み込まない限り、こうはならない。 『サーベルベルベルベルベル! 耐え切るか! 坊主!!』 「よりによって笑い方はそっち(サーベル)にかかってるのかよ!?」 剣狼は再びフツにおたまを振りかざす。総一郎は弓を引き絞り、狙いを定めた。 立射。剣狼はとっさにフライパンを盾にし、弓矢を受け止める。 「チッ」 総一郎は魔弓に再び矢を番えた。フツも体勢を立て直し、身構える。 「構えて、狙って、射る。大袈裟に考える事はないさ」 「あぁ。オレ達の役目は、お前を倒すことじゃない。足止めだ」 『いいだろう! 二人まとめて蹴散らしてくれる!』 一方こちらでは『心に秘めた想い』日野原 M 祥子(BNE003389)が怪人トリケロスと対峙する。 戦場は巨大なセットが置かれた撮影スタジオ。時代劇用のセットがそのままになっている。 「あたしたちが来ちゃったからには、もう作戦失敗よ」 覇界闘士であり高い攻撃力を持つトリケロス。対する祥子は鉄壁の守りを持つクロスイージス。 彼女は月読乃盾によって敵の攻撃をいなしつつ、腕力に物を言わせて盾を構えて殴りかかる。 『いや……、まだです!』 相殺された。盾を受け止める紅蓮の拳。炎は闘志に呼応するように燃え盛る。 『こちらは三人、敵は八人、どう見てもコチラが不利なのはわかっています』 「それがわかってるならお家にかえって、こたつみかんでもしてなさいよ」 『だからこそ!』 彼は叫ぶ。深く息を吐き、気を高めて。 『どんなに強敵が立ちふさがろうとも、僕は逃げない! 己が信じる道を、世界征服の夢を! 決して諦めない!』 彼は拳を握りしめ、『言ってやったり』と言わんばかりの表情でうち震えた。 『悪の怪人が漫画の主人公みたいな事を言うな!』。 祥子はそんな気持ちを一撃に込め、トリケロスにヘビースマッシュを叩きこむのだった。 ●説得 仲間達が敵を足止めする中、サニーヒルを探していた一同は彼らを発見することが出来た。 彼らはとても小さく、物陰に隠れていたのだが、ここで『』雪待 辜月(BNE003382)の熱感知が役に立つ。しかし控え室で見つかったのは二匹だけ、ボンの姿は見当たらない。 警戒する二匹であったが、辜月は自らの装備を解除して敵意がない事を示す。二匹の警戒は薄れ、彼女は彼らの置かれている現状を説明した。 『――そうか、俺たちはこの世界に居るだけで、他所様に迷惑をかけちまうんだなぁ……』 「えぇ、ですから元の世界に戻っていただきたいのです」 ジュニーはマタタビ入りの専用葉巻に火を付け、一服。首に巻いたネクタイとも相まって実に大人びて見える。 彼が葉巻を咥えるのは考え事をする時だ。肺が煙でいっぱいになるくらいまで吸い込んで、重たい空気と一緒に吐き出す。 その様子を見て口を開いたのはセンだった。 『オイは二人と一緒にジャズができればそれでよかけん。二人がいくならそれでもええ』 『ッ……! よかねぇから悩んでんだよ……!』 ジュニーは気を落ち着かせようと再び煙を吸い込む。その様子を見て心配しているセンの表情から、一同もジュニーの不安を察する。 どうしてもジュニーを説得する必要がある。『TwoHand』黒朱鷺 輪廻(BNE004262)は彼の説得を試みる事にした。 「私達の世界は君達を受け入れていない。この世界に居る限り、君達には危険な火の粉が降りかかるだろう。かく言う私達もその一つだ。君達が元の世界に帰らない場合、君達を処分する役目を負っている」 『なるほどな。帰るも地獄残るも地獄、八方塞がりってわけか』 「……私はソレを望まないんだ」 『なに?』 輪廻はしゃがみ込む。まだ幼い少女は思いを伝えようとジュニーの瞳を覗きこみ、語りはじめた。 「…テレビで初めて演奏を聴いた時、聞き惚れた。ファンになったんだ。そんな君達サニーヒルを私達の世界で終らせるなんて望まない。だが、元の世界でなら続ける事が出来る」 ジュニーは葉巻の火を消すと、その視線に耐え切れなくなったのか視線をそらす。 『いや……、そういうわけにもいかねぇんだ』 「なぜ、そういうわけにもいかぬと決めつける」 出入り口の方を見やると、そこには『黒太子』カイン・ブラッドストーン(BNE003445)が立っていた。彼の足元には伸びきった戦闘員一号。既に決着を付けてきたらしい。 「自分の世界で気に入らぬルールがあるのならば、なぜ自らの手で変えようとしない」 『アンタ……、見た目からすると軍人っぽいな。なら敵前逃亡がどれほど重い罪に問われるかはわかるな』 「ふむ……。聞く所だと、貴殿は軍歌を歌うのが嫌でこの世界にやってきたそうだな。……貴殿は軍人だったのか?」 『ジュニー、そうなのか?』 センが問い質すもジュニーは顔を背ける。彼は重たるしく猫用の小さな椅子に腰掛けると、頭を抱えた。 『軍人だったのは俺じゃねぇ。お前なんだよ……セン』 ●勝利 仲間達によるサニーヒルの説得が続く中、祥子は激しい攻撃に晒されていた。 一同がサニーヒルを確保したことは、AFで祥子にも伝わっている。しかしトリケロスは攻撃の手を緩めない。 『仲間達がきっと上手くやってくれる』、彼はそう信じて疑わなかった。 まっすぐで曇りのない拳は力強く、祥子はじわじわと体力は削られ劣勢に立たされる。そんな時だ。 「癒しよ!」 詠唱。発せられた言葉と共に祥子の身体を暖かな風が包み込み、天使の息が彼女の傷を癒していく。 「悪の秘密結社ペンギン団のナンバー2! 宮部 春人、参上!」 『ペンギン団……だと?』 『バイト君』宮部 春人(BNE004241)は祥子の後方に降り立つ。彼はつい先日に初陣を終えたばかりの新米、癒しの力もまだまだ微々たるものだ。しかしたった一度の実戦とはいえ、そこで彼が得た物は何よりも大きい。 それは自信だ。どんなに非力な自分でも、自分にしかできない事が必ずある。大阪での戦いは彼も自覚していない無意識の中に根付き、彼の力は前回よりも確実に高まっていた。 「大丈夫ですか? 微力ながら援護します!」 「助かったわ春人さん。……これで二対一、もう貴方に勝ち目はないわ」 『くっ』 『下がれ! トリケロスよ!』 トリケロスは二人から距離を離す。二人が数による優位をとったその時、なんとそこに現れたのはテラーダーク将軍であった。 『将軍?! なぜここに?』 『そのような事を気にしている場合ではない。トリケロス君、きみも悪の秘密組織に所属する身、ペンギン団の名に心当たりくらいあろう』 『はっ、はい。名前を聞いたことがある程度ですが……』 (ペンギン団……、もしかして有名なのか?) 二人のやり取りを見て春人は不思議に思う。彼の所属するペンギン団が有名などという話を、彼は聞いたことがない。 『ブリティッシュ・カンパッツィア・サバンティーノ、『首領ブリテッシュ』の異名を持つペンギン団の首領……。奴が持つスキル『アンビリカブルボディ』は、たとえ己が微粒子レベルまで分解されても、わずか三秒で蘇る事ができるという。それだけではない、奴は合わせて九九九のスキルを持つとも言われている。その情報に偽りがなければ、かなりの強敵であろう』 『まっ、まさか!? そんな事が?!』 『そのペンギン団首領が認めたナンバー2ともなれば、その実力はかなりの物だろう。今は完全に気を押し殺しているようだが……な』 『なるほど、普段の将軍みたいなものですね! まるで強者のオーラを感じない』 春人にその場にいる全員の視線が集中する。とんだ誤解だ、そんなことあるはずがない。 だがそこで祥子は頭を働かせた。くすりと余裕の表情を浮かべ、構えを解く。 「……それがわかっているなら、部下を連れて帰るべきだと思うけど。それともたかだか猫を3匹手に入れるために、続ける?」 『――クックックッ、引きたまえトリケロス君。悪の組織同士、わざわざここで潰し合う必要もない』 『は、はいっ!』 テラーダーク将軍はトリケロスを覆うように赤マントを翻す。すると次の瞬間二人の姿は消え、戦場に沈黙が訪れた。 「……で、ペンギン団って、なに?」 「バ、バイト先です」 ●収拾 『こちらカイン、サニーヒルの二名を確保した。残りの一名はどうか』 「こちらシュスタイナ、今一緒に居る」 AFから聞こえてきた声にシュスタイナはそう答える。場所は階段の裏に設けられた簡易倉庫の中。彼女の隣には眼鏡を着けた三毛猫が一匹、彼がサニーヒル最後の一匹『ボン』だ。 『……今のは君の仲間かい?』 「うん。二人は無事だって」 『そうか、よかった……』 二人は戦闘が始まってまもなく出会い、彼女はボンを守るために物陰に隠れていた。敵から彼を守ることが最大の目的なのだから、見つからずに済むならそれに越したことはない。 彼女がボンを見つけてから今まで、彼女は考えうるあらゆる言葉を駆使して彼を説得した。しかしボンは思っていた以上に気難しく、仲間の無事を気にするばかり。しかし二人が無事であるとわかると、今度は彼の方から口を開く。 『……ボクはさ、センとジャズをやれればそれでいいんだ。だから君達がいうように、二人の故郷へいくのも構わない。後は二人を説得してくれ』 ボンはそういうと眼鏡の位置を直す。どこかその姿は背伸びをしているように見えて、彼女には照れ隠しをしているように思えた。 沈黙。シュスタイナは何か話すことはないかと思考を巡らせ、ふいに猫用ブラシをもってきた事を思い出した。ブラシを取り出し、ボンに見せる。 「ねぇ、隠れてる間暇だし、いい?」 『まぁ……、いいけど』 フツ、総一朗の二人にアザーバイド確保の知らせが届く。勝敗は決した、もはやこちらの勝ちが揺らぐことはない。 「仲間はもうサニーヒルを確保したぜ。オレ達も、お前さん達を追うつもりはない。今回はな」 『チッ、手間取りすぎたか。坊主! 次にあった時は覚えておくといい。それに新人、貴様もだ! サーベルベルベルベルベルッ!』 剣狼は十分に間合いを取り、退却する。二人はようやくといった様子で緊張の糸を緩めた。 「ふぅ、流石に外資系で働いてた時よりはハードだな」 「だが、これでオレ達の勝ちだ。みんなと合流しよう、サニーヒルをうまく説得できるといいが……」 ●終着 ついにジュニーはセンの過去と、元の世界に帰りたくない理由を打ち明けてくれた。 センは以前、軍人だったという。ある時彼は戦場で行方不明となり、実質的な死亡扱いとなる。ジュニーはコチラの世界にやってきて、そこで偶然にも彼と再会を果たす。だが彼は体中に無数の銃弾を受けており、記憶を失っていた。 センを二度と戦争に行かせたくない。それに元の世界に戻れば、彼は敵前逃亡の罪を問われる可能性がある。それがジュニーが送還を拒む理由だ。 「そんな……、それじゃあセンは元の世界に戻っても……」 『あぁそうだ。俺やボンならともかく、コイツにゃあもう帰れる場所すらねぇんだ』 ジュニーの言葉に輪廻は俯く。すると先ほど一同と合流したばかりのフツ、総一朗が口を開く。 「ジャズがあるんなら、元の世界にもラジオくらいはあるんだろ。この世界でも70年ほど前はジャズ排斥していた歴史があるんだが、彼らは諦めず、ラジオや地下の酒場で演奏を続けたらしいぜ」 「それにこちらの世界でも、反戦活動をしているミュージシャンは多い。お前たちの思いをジャズに乗せて伝えてみたらどうだ?」 葛藤。ジュニーは目を瞑り、深く考える。するとセンはジュニーの肩を叩き、笑ってみせた。 『オイの事は心配せんでもよか。それよりジュニーはあっちに行ってもオイ達と一緒にジャスばやってくれるんか? オイはそっちの方が心配ぞ』 『……ったく。お前ら二人だけじゃ危なっかしくて放っておけないんだよ』 ジュニーが笑った。頭を掻き毟りながらそういう彼の姿を見て、一同はようやく安堵の表情を浮かべる。 そこへボンを抱いてシュスタイナが戻ってきた。全員一致。サニーヒルは元の世界へ帰る事を受け入れる。 「あの、よろしければ最後に、あなた達の生演奏を聞いてみたいです」 辜月は三匹にそう切り出した。一同も同じ気持ちだったのか、彼らの演奏を希望する者は多い。 『しょうがねぇ。セン! ボン! こっちの世界でのラストライブだ!』 『おうよ!』 『任せて!』 サニーヒルの熱いハートを受け取った一同は、彼らの新たなる旅立ちに立ち会う事になった。 異界の戦争が生んだジャズバンドは、再び元の世界へと帰っていく。彼らの戦いはここから始まる。 一同はそんな三匹の未来が明るくなる事を祈りながら、イヴに報告を済ませるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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