● 「萍水(へいすい)さん、準備が終わりました……」 マンションの屋上で、尾畑遼(おばた・りょう)はフードを被った異相の人物――萍水を呼ぶ。目を合わせないように逸らし、陰気な声。しかし、どこか顔には濁ったような微笑みが浮かんでいる。 一方、萍水の顔はフードの陰に隠れて見えない。全身をゆったりした服装で包んでいるため、体型も判別不可能だ。外見から分かるのは、彼の背中から生えた巨大な黒い翼。そう、『黄泉ヶ辻』と呼ばれる組織に属するフィクサードと呼ばれる存在なのだ。 「そうか。それでは、儀式を始める」 ボイスチェンジャーでも通しているかのような不気味な声で萍水は答えると、懐から妖しく輝く宝石を取り出した。その異相が向けられる先には、20人近い男女が倒れている。いずれも薬で眠っているのだ。 「これで俺も人間を超えることが出来るんですよね、約束通りに……」 「あぁ、偽りは無い。私のようになれる可能性は極めて低いが、それでも説明した通り、化け物と呼ばれるような存在に変わる」 「そっか……うん、どっちでも良いんだ。これで、糞みたいな俺の人生から脱出できるんだからさ……」 遼は世渡り下手な青年だった。 何をやっても長続きせず、職を転々としている。結果、常に生活に窮し、自分が幸せになれない社会に対して恨みを抱えて生きていた。それが偶然にも、『黄泉ヶ辻』の人間がエリューションと交戦する所に出くわした。神秘界隈の人間であれば、『黄泉ヶ辻』に進んで関わろうとするものはいない。しかし、知識を持たない彼は、仲間に入れてくれと懇願したのだった。 そんな青年を見て、萍水はフードの下でほくそ笑む。 尾畑遼にしろ、自分の主である黄泉ヶ辻糾未にしろ、『面白い』。 「隣の芝生は青い」とはよく言ったものだ。他人のものは得てしてよく見えるもの。彼らにとっては、他人が羨ましくてたまらないのだろう。そして、自分に無いものを手に入れるために無茶をする彼らの姿を眺めるのは、萍水にとってたまらない娯楽だった。 「この宝石を持って、結界の中に入れ。邪魔者が来ない内にな」 「はい……」 遼は宝石を受け取ると歩を進め、結界の中に足を踏み入れる。 彼は知らない。自分が踏み越えた線が何を意味するのかを。 それ故に萍水は嗤う。 無知なるものが無知ゆえに犯す過ち程、見ていて楽しいものは無い。 ● 正月らしさもすっかり抜けて、忙しくなってきた1月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、『黄泉ヶ辻』のフィクサードが行っている儀式の阻止だ」 守生が端末を操作すると、地図が表示される。とあるマンションの屋上だ。 「『黄泉ヶ辻』のフィクサードは長崎県佐世保市にある、とあるマンションの屋上で儀式を行っている。一般人をノーフェイスに変えるための儀式だ。あんた達が到着するタイミングでは、既に数人がノーフェイス化している。だが、これ以上の被害を出す訳には行かない。絶対に止めてくれ」 真剣な瞳の守生。既に被害が出ることは確定している。それでも、進まない訳には行かないのだ。 儀式のトリガーは「設定された結界の中で眠りにつくこと」。時間に関しては個人差があるようだが、眠りについてある程度の時間が経過するとノーフェイスに変わるらしい。そして、結界の中にいるもの達は、いずれも薬で眠らされている。 「儀式のキーになるのは、儀式用ノーフェイス『ハッピードール』と黄泉ヶ辻保有アーティファクト『カオマニー』だ。これをどうにかすれば、儀式は阻止可能だ。『ハッピードール』はそれなりに戦闘力を持つ相手だな。だけど、『カオマニー』は何故か意識のある一般人に預けてあるみたいだ」 黄泉ヶ辻の奴が考えることはよく分からない、と零す守生。 しかし、『カオマニー』が結界の中から出ると、儀式は中断状態になるようだ。もちろん、戻せば再開される訳だが、何かしらのアプローチを仕掛けることも可能だろう。 「儀式を指揮しているフィクサードは『萍水』と名乗っている。それなりに実力のあるダークナイトみたいだな。十分気を付けてくれ」 当然の話だが、儀式用ノーフェイスを護るためにも複数のフィクサードが配置されている。加えて、ノーフェイス化した者達も狂暴化して襲い掛かってくる可能性が高いのだという。危険な任務だが、やり遂げなくてはいけない。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月01日(金)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 冷たい風がビュービューと音を立てている。 それはまるで、世界そのものが泣き声を上げているかのようで。 だとしたら、何を泣いているのだろうか? 哀しみ? それとも……? ばんっ 勢い良くマンションの扉が蹴破られる。 「黄泉ヶ辻、カオマニー、ハッピードール! はっ、毎度毎度ふざけた事してくれんな、ああん!?」 現れたのは口元をガスマスクで隠した青年、『ヤクザの用心棒』藤倉・隆明(BNE003933)だ。 盛大に啖呵を切ると、歪な形の拳銃から弾丸をばら撒いていく。 「てめぇら纏めて床の染みにしてやんぜ! ぶっ散れやああああ!!」 「このクソヤロー共が……! お前らの思い通りになんかさせっかよ! 全員纏めて助け出す、ノーフェイスになんて絶対させねェ!」 弾丸よりも速く、戦場を駆ける『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)。 その名の通り、戦場を飛んで、跳ねる。 前に立ち塞がるのは黄泉ヶ辻のデュランダル。しかし、それがどうした。 ヘキサの姿が瞬間ぶれる。実体は1つ。そして、相手がそれに気付くよりも速く、顎を蹴っ飛ばす。 「つくづく物好きだな、リベリスタ。六道に楽団、連中の大暴れを考えれば、私達など大人しいものだろうに」 「お前達こそ、つくづく趣味の悪い儀式を行う」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が槍を構えると、その全身をうっすらと輝くオーラが包んでいく。彼も世間の感覚からすると「狂人」と言われるレベルでは逸脱している。それでも、放置できないものがある。 「妨害させてもらおう。是が非でも、やらせる訳にはいかん。人を生贄にする儀式に碌な事などありはしないと、昔から相場が決まっているのだよ」 「たしかに事実だな。だが、上の人間も碌なものでなくてね。止められないから困っている」 「だーからなんで一般人を巻き込むんだよ」 止められないと言いながらどこか楽しそうな萍水。 紛れも無く、典型的な黄泉ヶ辻のフィクサード。人の不幸だけを自分の幸せに出来る人種だ。 そんなフィクサードに向かって『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が言い放つ。 「『強いフィクサード個体』になろうとする方がずっと有用だと思うのですが、『適当な強さの兵隊が多数必要』な状況が予定されてるってことか?」 「ごもっともはごもっともですが、根本が間違っているな」 「どういうことだ?」 フィクサードの言葉にあばたの動きが止まる。 フードの下でフィクサードの口が嘲笑うように歪む。 「それは『他の敵対者と戦闘を行うゲーム』の話だろう。我々が行っているのはまぁ、別のゲームだ」 なればこその『黄泉ヶ辻』といった所か。 これが『剣林』や『裏野部』ならば、一理あった。 『恐山』ならば、何かの陽動を疑うべきであっただろう。 しかし、彼らは『黄泉ヶ辻』なのだ。 常識とは異なる理屈に拠りて、常識ではあり得ない悲劇を好む。 普通のものなら、理解しようと深淵の狂気に、『黄泉ヶ辻』の迷路へ引きずり込まれてしまう。しかし、『炎髪灼眼』片霧・焔(BNE004174)は一味違った。 「あー、もう! うるさい!」 萍水の口を封じるかのように、フィクサードの中に突っ込んでいくと、炎を纏った腕を振り回して手近な敵を薙ぎ倒していく。相手が何を考えていようが関係無い。やることはいつもと同じ。近づいて敵を倒すだけ。殴り飛ばすか蹴り飛ばすかは状況次第だ。 「最初から全力で行くわよ? あんた達と遊んでる暇は私達に無いの」 「そういうことだ。大人しくしてもらうぞ」 絹のようにしなやかな髪が風に揺れる。 『ピンポイント』廬原・碧衣(BNE002820)の言葉と共に戦場を包むのは神の光。 強烈な光に当てられて、フィクサード達の目が眩む。 (今の内に、じゃな) 攻撃の手を緩めるフィクサード達。 それこそが、『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)に与えられた時間だ。手に入れた魔道の限りを尽くして、目の前で行われている儀式の正体を掴むのが彼女の使命。 (やはりキーは『カオマニー』と『ハッピードール』のようじゃの。陣自体を破壊する手もあるが、連中がそれをやらせてくれるかどうか……) 年不相応の知識が目の前の術式を紐解いていく。 ドミノが倒れて行くかのように、淀みなく解き明かされていく神秘。閉鎖主義『黄泉ヶ辻』が作り上げた秘された術も、魔女の前では答えの分かったパズルに過ぎない。 『ならば、やるべきことは1つ。当てにするぞ』 「あぁ、当てにしちゃってくれ」 「!?」 突然、乱戦が繰り広げられる戦場の中から聞き覚えのない声が聞こえてきた。 その声と共に、影の中から現れたのは『合縁奇縁』結城・竜一(BNE000210)だった。 初めて平静を保っていた萍水の声に驚きの色が浮かぶ。 「そうか、結城竜一……。先の読めない男だと噂は聞いていたがこれ程とは……」 「お褒めに預かり恐悦至極。それじゃあ、この勢いで儀式とかをぶち壊させてもらうぜ!」 ● 本当に大丈夫なのか? なんかやって来た連中、ひょっとして押してるんじゃないのか? 邪魔者って言う位なんだから、当然あいつらも強いんだろうな。 でも、もうすぐだ。 俺ももうしばらくすれば、あいつらみたいな凄い力を手に入れられるんだ……! 尾畑遼に戦闘の心得は無い。 それでも、入って来た連中が若干押しているのはよく分かる。 自分よりも先に化け物に変わった連中が吹っ飛ばされていることからも、多分強いということに察しはつく。その姿を見て、真っ先に浮かんだのは恐怖だった。殺されることよりも、自分が変わるチャンスを奪われることへの恐怖だ。 その姿を見て、碧衣は整った眉を顰める。 「現実から逃げ出した先にあるものなんて大抵はロクでもないものだろうに。やれやれ、だな」 しかし、そんな相手でも、そんな相手だからこそ止めなくてはいけない。 それがリベリスタ達の選んだ生き方。 「君はその儀式の意味を知っているのか。ソレは化け物を生み出す為だけの儀式だぞ」 「分かってるよ……。俺は、その化け物になろうとしてるんだから」 淀んだ沼のように暗い瞳でシビリズに応える遼。その瞳に映る光は、邪悪に光る『カオマニー』だけだ。彼にとっては未来を切り開く希望の光に見えているのだろう。 「……無様ね」 その姿をを焔は言葉で一刀両断し、憤る遼に言葉を続ける。 「何も知らないで突っ立って、破滅の道に突き進む? そのまま突っ立ってても無駄よ。アンタは化け物にもなれず殺されるだけだもの」 「うるさい……! 俺はようやく変われるんだ。こんなくだらない世界を傷付けて、俺は……!」 「それはこっちの台詞だ!」 遼の言葉に誰よりも怒ったのはヘキサだった。 今まで彼がノーフェイスと戦ってきたことは少なくない。 悲劇の果てに革醒してしまった人魚姫。 好きな女の子を救うために革醒を果たしてしまった少年。 「テメェは知らねェだろーが教えてやる」 彼らにもそれぞれ人生があって、そこに悪意に満ちた運命の悪戯が迷い込んで、人と化け物の境界線を越えてしまったのだ。 「テメェがクソだなんだ言ってる人生でも、代わりに生きてェと思ってるヤツがいる!」 それを見てきたから、確かに言えることがある。 「憎まれても、汚れきっても、それでも人間でいたかったヤツなんざいくらでも居ンだよ!」 だからこそ、言ってやる。 「人間辞めてもいいとかほざいてるテメェなんざ、化物になる資格すらねェ!! テメェのワガママに他人巻き込んでンじゃねーぞッ!!」 「俺のちっぽけな我が儘も通らない世界なんて……!」 ヘキサのスピードがみるみる上がって行く。 その小さな体に思いっきり帆を広げ、怒りの風を受けて蹴り込んでいく。 素早い連続攻撃を受けてフィクサードが倒れる。 その時だった。 BUUUUUM リベリスタ達の頭を奇妙な衝撃が打つ。 衝撃に耐えきれず、膝を屈するものが出る。 敵味方の見分けがつかなくなり、思わず仲間を攻撃してしまう者も出る。 何事かと戦場を見渡すと、そこには虚ろな瞳で戦場を眺めるノーフェイスの姿があった。儀式遂行のために用意されたエリューション達だ。しかし、魔導式で強化されたそれらの戦闘力は意外に高い。 加えて、動けなくなったものに、容赦なく「人間だった者達」が攻撃を仕掛けてくる。人間でなくなってしまった恐怖に支配された彼らにとって、目につくものは全て敵だ。 「あは、あははははは。なんだよ、エラそうなこと言って……。そうだよ、どんだけ怒ったって、どんだけ悔しくたって、どうしようもならないものはどうしようもならないんだよ……! だから、勝てなくたって、何か見返してやれるなら、やりたいと思って何がいけないんだよ……!」 リベリスタ達の姿を見て、遼は嘲笑い、呪いの言葉を吐く。 しかし、どこかその瞳は辛そうで。 「怖いだろ……逃げろよ! 俺が逃げてきたみたいにさぁ……!」 しかし、遼の言葉はそう長くは続かなかった。 「悪いけど立場上、退けないんですよ」 小柄な体を覆う防具「オッペンハイマー」の調子を確かめながら、あばたは立ち上がる。 あばた曰く、代々「掃除屋」を生業にしている。これ程、「ゴミ」が散らかっている環境で逃げるとかあり得ない。「一般人を巻き込もうとした有害なフィクサード」を目の前にして、「不利だから逃げる」は選択することなど出来はしない。 犯罪者から逃げる警察などいないのだ。 「あのノーフェイスはこっちが足止めしておくわけですが……」 そこまで言ってあばたは魔銃マクスウェルを構えると、口元を歪める。 「とは言え、倒してしまっても構わんのだろう?」 「あぁ……本番はここからだ!」 シビリズの全身から気迫が炎となって立ち上る。 常識では考えられないリベリスタ達の闘志に遼は気圧される。 そこへ、竜一が辿り着く。 (こいつだけ眠らされていないことから、萍水とやらの底意地の悪さが見え透いてるってもんだ) 儀式の中で遼だけ眠らされていないということは、本気で彼をノーフェイスにするつもりも無いのだろう。周りがノーフェイス化する中で、自分だけ変わらない。その姿を見て嘲笑うためにやっているのだ。元はと言えば、遼自身が原因と言えば原因。 それでも。 「変わりたいと望むなら、変わるチャンスをやるさ」 軽く竜一が手を動かすと、あっさりと『カオマニー』は転がって行った。 「俺の希望が……!」 『このまま続けておれば人を超えるのではなく、人でなくなる。おぬしは今度こそ世界から爪弾きにされる。変われないまま終わる、それで良いのか? 自分を変えたくて、今ここに居るのではなかったのか!?』 「社会に恨みを抱くは構わんが、君は、恨みを暴力で果たしたかったのか。それとも“幸せ”になりたかったのか。どちらかね」 茫然と膝を付く遼にシェリーとシビリズが声を掛ける。 「人間を捨てた果てに“君の幸せ”はあるのか?」 その言葉に、遼の動きは止まってしまう。 しかし、フィクサード達の戦意は衰えない。 「盾代わりになるのを期待していたが……無理か。まぁ、良い。取り戻せば済む話だ」 「黄泉ヶ辻……本当に懲りませんね……」 漆黒のオーラでリベリスタを攻撃する萍水の指示の元、『カオマニー』を取り戻すべく、フィクサードがリベリスタに襲い掛かる。そして、ノーフェイスの増援が無くなったことで、リベリスタ達に余裕が生まれる。『プリムヴェール』二階堂・櫻子(BNE000438)の魔力の前では、ハッピードールのかく乱も物の数ではない。 敵陣の真っ只中に残る形になった竜一は、全力で剣を振り回す。彼自身、完全な一般人だったのが革醒した口である。そして、今日まで戦い抜いてきたからこそ、言える言葉がある。言葉で言っても届かないなら、自ら示して見せるのみだ。 「選択する事が大事なのさ、生きる上ではね」 勢いづいた状態で隆明はひたすらに拳を振るう。 相手が何だろうとお構いなしだ。 「人じゃ無くなったなら殺すしか無い、放っておく事はできねぇ」 心を殺し、目の前で暴れる「人だったもの」を殺す。 「だが、そうだとしても気に食わねぇ、気に食わねぇな」 仕方ないのは分かっている。どうしようもないのも知っている。 だけど、必死に足掻く。 この想いが世界を変えられないのを知りながら。 「はいはい、糞みたいなカミサマの元に召されてくださいな」 軽い口調に神への呪いを込めて、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は光の矢でノーフェイスの心臓を撃ち貫く。 フィクサード達も倒れて行き、ハッピードールの守りががら空きになった。 そこへ攻撃を集中させるリベリスタ達。 『妾の炎は暴食でな』 シェリーの周囲に魔法陣が浮かび、そこから炎が現れる。 「我が全力を見せてやる……朽ちるが良い!」 シビリズの槍が輝きを放つ。命の危機にあってこそ、彼の力は本領を発揮する。 「喰い千切れ! ウサギの牙ァッ!! 来世で星になりやがれッ!!」 怒りが兎を獰猛にする。ヘキサの蹴りは牙のように獰猛にハッピードールの喉を切り裂いた。 「さすがに……厳しいか」 戦局を見ていた萍水が翼をはためかせる。 『カオマニー』は奪取が出来ず、『ハッピードール』も破壊された。 この状況で儀式の遂行が困難だと言わざるを得ない。しかし、だからと言って逃がしてやる程、焔はお人好しではない。 「アンタもアンタね、嫌な趣味してるわ。気に入らない。人が過ちを犯す姿がそんなに楽しい?」 「楽しいな。正直、儀式は失敗したが、満足して帰れる位には楽しませてもらった」 「だったら! これ以上アンタがふざけたマネをしない様に叩き潰す!」 逃げる萍水に真っ直ぐな蹴りを放つ。 フィクサードの放つ暗黒の瘴気すら切り裂いて。 その時、目と目があった。焔が見たのは、世界そのものに憎悪を向けるような瞳。地獄の住人ならそのような目になるのだろうか。 その瞳は語っていた。 「人の不幸を楽しむ」という嗜好は、まだ満足していない。 これからももっと、存分に、目一杯楽しんでやるぞ、と。 ● 「よく見ただろう。これがお前のやった事だよ」 うな垂れる遼の背中に碧衣が声を掛ける。 「他者に害を及ぼしてなお、エゴを押し進めようとするのであれば、もはやそいつは一般人の枠には収まらないだろうよ」 遼から返事は無い。 碧衣が嘆息をついて後ろを振り返ると、ヘキサが倒れている一般人の保護に当たっていた。しかし、その顔は辛さを隠そうともしていない。儀式の完遂こそ阻止できたものの、フィクサードの突破には時間がかかり、目の前でノーフェイス化してしまった人がいるからだ。 そこへシェリーがつかつかとやって来る。瞳に浮かぶのは怒り。 『結城が居なければ、失われゆく多くの命の為、おぬしごと宝石を破壊しておったよ』 しかし、彼を救うことを望んだものがいる。 だから、革醒し命を奪われたものと違い、遼は「線の向こう側」へ行かなかった。それでも、まだ「線の向こう側」への未練を断ち切れない男へ、少女は言葉を叩きつける。 『おぬしを物の様にしか思わぬ者達に、自分の未来を委ねるな!』 それが生き残った者の責務だから。 人は生き続ける。 その中で苦しみに身を苛まれることも、珍しくは無いだろう。それでも、歩みを止めることは出来ない。 不幸も幸福も、選べるのは自分だけなのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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