●のんびり休日 『ネカフェで一日のんびり読書するだけの簡単なお仕事です』 看板に偽りアリ。 今にはじまったことではないが、アークの依頼文における甘い文言は決まって罠も同然だ。 では、なぜ貴方たちはこの依頼を受けようとしたのか。 理由は十人十色だが、大きな要因の一つはこれだろう。 『魔導書さがし』 魔導書というものは典型にして古典といえる破界器の基本形のひとつだ。 今回は、その魔導書がネットカフェにまぎれこんでいる。一般人の手に渡ることで事件に発展する未来が視えたので、先んじて回収しておこう、という流れだ。 どうせ一日を過ごすのならば、休暇代わりにネカフェで読書というのも悪くない。 ――そう、甘い考えを抱いてホイホイと依頼への参加申請を出してしまった者も居るだろう。 「皆さん、本日は依頼ご参加ありがとうございます」 作戦司令部第三会議室。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はにこにこご機嫌に微笑んでいる。 これは悪魔の微笑だ。 「……和泉ちゃん、悪いニュースは先に言ってほしいんだけど」 「帰れません」 「はい?」 「魔導書が見つかるまで、皆さんには二十四時間ネカフェで何日でも寝泊りしていただきます」 凍りつく空気。 にこっ。和泉が笑うと、しかし一斉に幾人かのリベリスタは喜びと安堵の歓声をあげた。 「いぃぃぃぃよっしゃーっ!」 「え、え?」 疑問符だらけの和泉に、ある青年は答える。 「和泉ちゃん。僕らの今まで味わってきた凄惨で理不尽で不条理な依頼のアレコレに比べたら、こんなものはぬるま湯も同然なんだよ。よかった、また薔薇色の事件かと」 「あはは、流石にちっがいますよぉ~」 和泉はほがらかに笑った。 「でもBL本のコーナーも全て調べてくださいね。魔導書、あるかもしれないので」 眼鏡が、ギラリと輝いてみえた。 ●ネットカフェ『有閑』 貴方たちは目的のネットカフェへ案内された。 風情のある木造建築で観葉植物なども飾ってあり、広々とした空間はなかなか居心地がよい。二階に個室、一階に本棚があるのだが、蔵書量はとても多い。図書館も同然だ。三高平の図書館に比べれば大したことはないものの、一日あるいは複数日で調べるのは八人でも手間だ。 ここでは個室で快適に寝ることもでき、昼寝のために訪れるサラリーマンなども居るようだ。食事は朝、昼、夜のメニューがあり、もちろん有料だが安価に食事もできる。ここで生活することだって、そう難しくはないだろう。 しかし、注意せねばならない。 貴方たちはあくまで一般客を装わねばならないため、目立つ外見の者は幻視が必須になる。 結界や人払い、陣地作成の類もご法度だ。営業妨害だし、かえって不自然な空間になってしまいかねない。破界器におもわぬ影響を与えることもありうる。 蔵書を調べるにしても、一度にごっそり本を個室へ運んで読むというのはマナー違反だ。 また、今回の破界器は「一目見ればわかる」類のいかにもな古い装いの魔導書ではなく、一般書籍が革醒した結果として魔導書になっている可能性が高い。あるいは、そうと判らない形に潜み、まぎれていても不思議でない。あからさまでバレバレの魔導書ならば、客や店員がすでに気づいている可能性が高いからだ。 しかも一冊とは限らず、ネカフェ内に数冊あることもありうる。 このネットカフェには過去、ある逃亡中のノーフェイスが潜伏先として長く潜んでいた経緯があり、その際に革醒因子が伝播していたと推測されている。 どう急いでも、最低一日はネカフェ暮らしだ。 貴方たちは長く、のんびりとした一日を過ごすことになるだろう。――そう思っていたら、だ。 ふらりと何気なく来店した二人の兄妹は、革醒者だった。 “白黒ヤギ” ヤギのビーストハーフである兄妹は、大学生と中学一、二年生といった年の差だ。兄は白七黒三、妹は黒七白三の髪色だ。普段着であることを鑑みるに、普通にヒマを潰しにきているらしい。 「さぁーて、ユキはなにが食べたいのかなー?」 「えへへ、ユキの今日の気分はね~」 とてとてとて。兄の手を引っ張って、妹のユキは目当ての本棚を探している。 ぴたりっ。立ち止まったのは、BL本コーナーの本棚だ。 「アレ食べたいっ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月31日(木)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夢オチです 「う~~~休暇休暇!」 今休暇を求めて全力牛歩している僕はごく一般的なリベリスタ、強いて違うところをあげるとすれば労働に興味がないってとこかナ――名前は遠藤ネイルこと『アルケニート』ネイル・E・E・テトラツィーニ(BNE004191)。 そんなわけで三高平にあるアーク本部に(親にダンボールで箱詰めされて)やって来たのだ。 ふと見ると依頼文に一つの新しい募集が出ていた。 『ネカフェで一日のんびり読書するだけの簡単なお仕事です』 ウホッ! いい休暇……。 そう思っていると突然メガネのフォーチュナーは僕の見ている目の前で報酬のGPをちらつかせはじめたのだ…! 「や ら な い か」 イイ仕事に弱い僕は誘われるままホイホイと依頼について行っちゃったのだ。 ――ハッ。 ネイルは寝よだれべっとりのキーボードをあわてて拭い、「ああああ」と意味のない文字の羅列で一杯のPCモニターを片付ける。 ここはネットカフェ『有閑』の個室だ。冷暖房完備で居心地がよく、ネイルはいつの間にか寝てしまったようだ。 「休暇ってーと気楽なのに、仕事ってーとかったるー」 そうは言えども働かざるもの食うべからず。自堕落な生活を送るには軍資金が必要だ。巣ごもり冬ごもりと洒落込みたくても、ネット環境と衣食住なくして快適なニート生活は送れまい。 『働きたくないでござる! 拙者、絶対に働きたくないでござる!』 と逆刃ソードを握りしめて訴えたものの労働の義務という最凶の敵には怠即斬されてしまった。 「あ~、私この漫画もう十回は読んだんだけどなー」 面白い漫画、つまらない漫画、そして面白いけど読んだことある漫画。サイレントメモリーと併用しつつ作業をこなす。没入すると気づけば三十分とか経っている。 「……最初からがんばりすぎても後でバテる。二月から本気だす」 嗚呼、甘美なるかな、怠惰のベルフェゴールのささやきよ。 ●さざみさざなみ 1/2 「なんだ、天国じゃないか」 『』蔵守 さざみ(BNE004240)は快適なネットカフェの環境をそう評した。 木目遣いが目に優しく、なかなか開放的な寛げる空間だ。各々に一般客は気ままな時間を過ごしており、落ち着いて作業にあたることができそうだ。 黒髪黒眼に幻視で見目を繕い、そう目立たぬような仕草で書架に目を通してゆく。 担当はノンジャンル。一般文芸や写真集などを淡々と処理していく。 (……衆人に埋没しているのか、今の私は) 蔵守という血。 革醒者となるべく生まれて、現に革醒者として目覚める。息苦しくて生き狂しい心地だ。もし、目覚めぬまま期待外れに終わっていたら――。その期待が、我欲を果たす道具としてのモノであったならば――。 平々凡々とした人海に沈む今、すこしだけ、さざみは気楽でいられた。 ●「猛虎」再び ピ、ピ、ピ、ピ。 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742) は幼稚園児みたくドリンクバーと戯れる。 「わぁ……なんだか面白いですね、腕鍛様」 「リ、リリ殿、ほ、程ほどにするでござるよ?」 『女好き』李 腕鍛(BNE002775)はあわてて制止するが、とうに手遅れ。 麦茶20%コーラ30%オレンジ25%コーヒー25%の究極キマイラ味の“何か”が出来上がってしまった。店員のおばちゃんの目つきが厳しい。 『おのこしはゆるしまへんで』 と。逃げ場は――無い。 「あら? なにか六道の人が好みそうなケミカルでバブリーな液体になってしまいましたね」 「……リリ殿、御免!」 ガッ。 グビグビグビッ。 喉越しは最悪だ。渋さ、甘さ、酸っぱさ、苦さが混然となって舌を蹂躙し食道を弄る。鼻腔へ逆流する匂いの四聖獣。緑茶の玄武、コーラの白虎、オレンジの朱雀、珈琲の青龍が暴れ狂う。お互いにお互いの持ち味を殺して、まずさを引き立て、血で血を洗う闘争を繰り広げる。四つ巴の千年戦争が一瞬にして腕鍛の体内を死屍累々の古戦場とする。 ミライ(未来/味蕾)が――潰えていく。 否。 愛する女のために死ねるのならば、それで本望でござろう? 「……ぷはぁっ! 危うく運命復活するところでござった!」 “何か”で一発場外になりかけた腕鍛が目覚めると、そこは個室、リリの膝枕の上だった。 「お目覚めですか?」 腕鍛視点のカメラワークを想像しよう。 白を基調としたフリルブラウスにスカート、ほんのり素肌の透けてみえる黒タイツ。リリの奥ゆかしくも艶やかな美貌を、仰向けに膝枕されたまま目にすればどうなるか。豊かな胸元、ブラウス越しの下乳が視界の上半分を占拠するのみならず、左右に視線をそらせば、むっちりとした太股が黒タイツであざとく強調されている。 鉄格子の前に肉をぶらさげられた荒ぶる虎の気分だ。 「リ、リリ殿、せせ、拙者……!」 「? あの、先ほどは私を庇ってくださったんですね」 「そ、そうでござるが……」 秘薬「猛虎」に匹敵しかねない恐るべき毒液であったと後に腕鍛は述懐する。 「貴方様はいつでも私を護ってくださるんですね」 気恥ずかしげに内心をごまかす腕鍛へ、リリは天使のように微笑んだ。 ●憩いの一時 「ふー、ふー」 ココアを冷ます仕草の愛らしさは、声に出しておらずともそう聴こえてならない程だ。 『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)は個室でのんびりココアの薫りを堪能していた。 ヴァン・ハーゲンの純ココアは、砂糖や牛乳を含まない本格志向の由緒正しいブランドだ。牛乳と砂糖を別途用意して弱火で鍋に掛けねばならない分、格別だ。まだ口もつけていないのに、極上の珈琲のように薫りのみでも心地よい。 隣室が「ござる!ござる!」とうるさい以外は快適だ。 「あちちっ」 ふぅふぅと冷まして。 ゆったりと、白磁のカップに佐里は口付ける。ぽかぽかと淡い熱がめぐる。ほうっと漏れた吐息まであったかくて甘く、香ばしかった。 何となしに嬉しくなって、佐里はくすくす笑ってしまう。ちろりと舌で唇を舐めて、もう一杯。ほのかに昇る、湯気の白さまでも甘くて愛しい。 傍らにはBL本を山積みにして。 ほっと一息、憩いの一時である。 「さて……」 いざ本題。 高鳴る胸の鼓動を抑えて、佐里は未知の領域へと手を伸ばす。 「ふ、不本意ながらこれも仕事ですので……」 ぺらっ。 戦闘論者、一条佐里。彼女の演算処理能力は、時に文字の世界すら完全に脳内シュミレートしうる。コンセントレーション。脳の伝達処理を高め、素晴らしき集中領域に至る。これにより量子コンピュータ並み(誇張表現)の演算スピードで“理解”する。 「ひゃぁ……!」 パッと本から手を離す。頬を真っ赤に染めた佐里は、気づけば十数秒で百ページ近く読み進めていた。秒間約十ページの勢いで流れ込む情報量と、その過激さにふわふわと酩酊感を覚えてしまう。なまじ頭の回転が速いだけにこの特殊な“掛け算”の法則を理解するのは楽勝すぎた。 あわててココアを呑み、むせる。 熱い。全然まだ冷めてない。ここでようやく、佐里自身が客観的に「まだ十数秒しか経過していない」と気づき、恐怖する。 「ほ、他の本もよよよみませんとwase513r1dt4yu」 ココアみたく湯気をあげて、佐里ピューターはあらぬ方向へ熱暴走をはじめた。そう――、 「よ、予測できない新世界です……! うまく表現できないのですが、 こう、世界の片隅で爆弾を密造するような、 そのような誘惑に負けるのは……。い、いやいや!」 腐の世界へ。 ●N♂H -惨劇- ぽろぽろと涙が止まらない。 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は書架の前でBL本をめくりながら本気泣きした。 事前のリリの魔眼で一般客は皆一様に個室でネットゲームを強いられているため、目撃者は仲間たちのみだ。が、それにしたってBL本で泣くさまは異常すぎる。 絶句した。 『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)は同じフロアで調査にあたっていたのだが、いったい何がどうなって泣いてしまったのか全然まったくわからない。 「う、くす…うぐぅ」 「あ、あああ旭ちゃんさん? どど、どうしたの!?」 双葉、てんてこ舞の図。 「泣ーかしたー泣ーかしたー、イズミンにいってやろー」 『』新垣・杏里(BNE004256)は唐揚げ、炒飯、焼きそばをプレートに盛ってやってくる。 お嬢さん、ここ縁日会場じゃないっすよ。 「い、イジメてないよぉっ」 「それは知ってるさー、で、どったのコレ?」 「こっちが知りたいよ!」 「あのね、それはね……」 旭はよよよとすすり泣きつつ、物語る。 ある薔薇色の惨劇を――。 ※詳細は、棒依頼……こほん、某依頼(ID:3595)をご参照あれ。 「彼氏の妹の彼氏が、彼氏とデキてる?」 「……うん」 旭は泣き疲れてしまい、その場にぺたんと座っている。杏里と双葉はすっかり相談相手だ。 「り、リアルに居るんだ、ホモなんて……」 「唐揚げくーかい? 元気だしなよ」 「うん……」 ちびちび。旭の食べる勢いは鳩より遅い。 「大事なひとをほもの手から守りたくて、その為にはまずほもの事を知らなきゃ、て調べてたら」 じわり。また涙がにじんでくる。 「敵を知れば百戦危うからずって……。 ……ロアンさん、百戦もするの…? て、そしたら、そしたら……!」 旭の悲痛な嘆き哀しみに、双葉と杏里は背を撫でて励ましの言葉を掛ける。 「やだ、ほもになっちゃやだよう…! もうなってるの…? わたし女の子だもん、男の子にはなれないもん…!」 愛する人へのひたむきな想い。 「なんくるないさー! きっと、きっと彼氏だって旭のことを選ぶよ!」 杏里は貰い泣きし。 「終わらせよう、もう、こんな悲劇は……!」 双葉は怒りに拳を握る。 「はぁー面白か……とぅぁ!?」 BL本の山を抱えて書架へのこのこ戻ってきた佐里は、修羅場にビビってひっくり返る。この時、双葉の眼光は一瞬アサシンズインサイトに匹敵した。 一条 佐里、薔薇の海にて溺死する。 かくてBL本の書架前は、悩める乙女の人生相談の場と化している。 「で、彼氏はともかく、彼氏の妹&彼氏の妹の彼氏って誰さー?」 ●夢魔の乱舞 一方その頃、リリと腕鍛は順調にリア充爆発Pを稼いでいた。 成人向け書籍コーナー。 そーゆー本だらけの場所にカップルを投入した時の会話は――お察しください。 「わ、えっちな表紙、腕鍛様のお部屋にも、こういういけない本があったような……」 ベッドの下に隠してあるのか、堂々と散らかっているのか。 「にはは、ま、まぁ、嫌いな男はいないでござるからな」 愛想笑いする腕鍛。 なぜ嬉しげ。 「腕鍛様、あの、こういうのがお好きなのですか……?」 リリは気恥ずかしげにもじもじとして、ちらりと視線を腕鍛の顔とえっちな本の間で往復させる。 「よ、喜んで頂けるのなら私、その……こ、今度お部屋で」 刹那。 白桃のような芳香が拡がって、リリの瞳がとろんと眠たげになる。夢魔の乱舞を引き当てたのだ。 「はは、や、やるとしても拙者の部屋でござるからな? は、にはは」 ふぁさり。 ブラウスの脱げ落ちる音。 「リ、リリ殿? ここではダメでござるよ? 気をしっかり! リリ殿!」 「先ほどの……お礼を」 ゆらり、ゆらり。妖艶な色を帯びて、信仰者は甘美な背徳に身を委ねんとする。 夢魔だ。 何とリリに悪魔めいた翼まで生えて、一時的に淫欲の権化たるサキュバスと化してしまった。 「ご奉仕……致します」 空間に白桃の薫りが充満している。このままではまずい。急ぎ脱出せねば。 「だ、ダメでござる! 絶対ダメでござる! それ以上は審査を通らなくなるでござる!!」 あられもなきインモラルな夢魔リリに押し倒されかけた腕鍛は、よろけつつも外へ――。 ●救世主 「ゆるすまじ! 彼氏の妹の彼氏! 男を誑かす毒婦……じゃなかった毒夫めー!」 「や、だからそれは薔薇ァッ!の魔力で一時的にですね!」 怒れる杏里、止める佐里。 「わたし! アシュレイさんに頼んで男の娘になってロアンさんをほもほもする……!」 「“を”なの!?」 涙する旭、驚く双葉。 そんな混乱の渦中へと転がり込んでくる、腕鍛と夢魔リリ。しかも騎乗スタイルで。 凍てつく空気。 「……ちょ、調子はどうでござるか皆の衆?」 夢魔リリに押し倒されたまま、腕鍛は苦笑いする。ちうっとおでこにKISS。 「あげませんよ?」 「盗りませんよ!?」 旭はパァっと笑顔になって歓喜する。 「腕鍛さん、N♂Hやめたの? もうほもほもしないの?」 「し、しないでござる! 元々拙者ノンケでござるぅっ!」 「わーい! わーい! ばんじゃーい! ばんじゃーい!」 大喜ぶの旭をよそに、初対面の筈の杏里のまなざしがアブソリュート・ゼロ級の絶対零度に達す。 「……」 「ち、違うでござる! 誤解でござる! 拙者、無実でござるぅっ!」 潔白を主張する腕鍛のほっぺに、夢魔リリのメルティーキス。 説得力はくだけちった。 カランコロンッ。 入店を告げる鈴の音――。 白黒ヤギ、ハイネとユキだ。とてとてとて。ぴたり。BL本コーナーで立ち止まる。 「アレ食べたいっ」 指差す先は、夢魔と化したリリ。に融合した魔導書「夢魔の乱舞」であった。 “救世主にござる!” 腕鍛は、捨てられた子犬のような哀愁漂う眼差しでハイネをくぅーんと見つめるのだった。 ●さざみ・さざなみ 2/2 「天に召します我らが神よ、神託の書辺の導きに拠りて――」 白ヤギのユキは解呪の儀式を執り行っている。 夢魔の乱舞に憑かれると並みの解呪では焼け石に水らしく、その儀式も一時間と長引いた。 事情を説明したのは、さざみだ。 「これはお近づきの印よ」 と、さざみは自らのグリモワールを差し出して、うまくユキを手懐けてしまった。もしゃもしゃとおやつ感覚でグリモワールをつまみつつ、ユキは儀式を続行する。 「あとコレ」 ユキの見つけた魔導書「N♂H」(仮称)とさざみが見つけた魔導書「趣味の華道」(著:七草六花)を机に置いて、黒ヤギのハイネに問う。 「渡せないけど、要る?」 「……いや、食事はアレで十分だ。俺は報酬もなしにアークと事構えるほど命知らずでもない。……この間、別件で痛い目にあったばかりだしな」 さざみは追求しない。 他人の生き方をどうこう言えるほど、まだ自分の生き方を定めきれてはいないと想った。 今はただ、蔵守の家を離れるためにアークに身を寄せたに過ぎないのだから。 ●腐導書 「ダメ! 絶対ダメ!」 「め~~!」 双葉はBL魔導書に噛みついたユキをどうにか振り落とす。 「はぁはぁ……、ユキちゃん、あのね」 双葉は涙ぐみ、真剣な眼差しでユキへ訴える。 「これを食べたらユキちゃん腐女子になっちゃうんだよ……! 私のお姉ちゃん、腐ランダルって呼ばれてるの。腐ってるんだよ。妹の私はね、初対面の人にも『え、あの腐女子の妹?』って生温い笑顔を向けられるんだよ。こんな風にね」 今まさにハイネが一歩後ずさった。 「腐ランダル……だと……!」 どんだけ悪名高いのか、羽柴姉。 「ユキちゃん、お兄ちゃん大好きだよね? 本当に腐った人たちはね、仁義なき掛け算に走るから……。 『腕鍛とのカップリングはお兄ちゃんヘタレ受けだよね』とか『呑み込むでござる、拙者の業炎撃を――』とか『虎穴に入らずんば虎子を得ずってエロゐよね』とか『知ってる? 虎の××は二日で~』なんて、嬉しげに語るんだよ? ユキちゃん、大好きなお兄ちゃんに傷ついてほしい?」 「そ、れは」 「堕ちてからじゃ遅いんだよ! おねがい! ユキちゃん!」 双葉はひしとユキを抱きしめて、涙ながらに髪を撫でつつ諭す。 ユキは静かに目を瞑り、こくりと頷いた。 「……あの、私は」 一条 佐里の戸惑いに対して、羽柴 双葉は涙を拭いつつ重々しく首を横に振ってみせる。 「奇跡も魔法も、無いんだよ…!」 「て、手遅れってことですか!?」 ●新たな依頼 白黒ヤギの説得に成功、魔導書は無事に回収、魔眼で後処理もばっちり。 回収した分の書籍も近くの書店で購入、すりかえておいた。 丸一日かけての調査を終えて、九人は無事に帰路へつく。 作戦成功だ! ――後日。 「皆さん、本日は依頼ご参加ありがとうございます」 作戦司令部第三会議室。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は八の字眉で困った様子だ。 「じつは」 「せ、拙者は急用を」 ガシャンッ。シャッタークローズド。 「嫌でござる! 拙者は二度とほもほもしないでござる!」 「ち、違います!」 ネットカフェ『有閑』にて。 「我働かぬ、ゆえに我在り」 説得対象:“フィクサード予備軍”遠藤ネイル。 作戦概要:敵は人質をとらず個室内を占拠、アーク本部へ請求書を送付。説得、送還されたし。 ネイルは唐揚げをつまみ、漫画を読んでごろごろ寝転がる。 「任務はまだ終わってない! まだネカフェ内に魔導書が隠されてる筈! これは仕事だもん!」 「遠藤さん……」 「リリさん、あーん」 「そうでふね、私も調査続もきゅ行の必要もきゅ性を――」 「買収された!?」 驚愕する面々へ、ネイルは宣戦布告する。 「私は! アーク本部へ断固として快適なニート環境を要求する!!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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