●湖キャンプ リベリスタ達に配られた告知、そこにはキャンプのお知らせと書かれていた。 場所は金剛稲荷神社と呼ばれる神社の近辺。とても綺麗な湖があり、そこで一泊二日のキャンプを行うということだ。 神社ではここ最近、相次いでエリューション絡みの事件が発生していた。 湖に映り込む月を愛でる、九尾の妖狐『ナインテイル』。 好物であるお金を目当てに周辺の民家を襲った、空飛ぶ賽銭箱『ゴールドシャワー』。 餅つき大会を開こうとして十年もののビンテージもち米が白兎に化けた『白玉ウサギ』たちとの戦い。 これらのエリューション事件をリベリスタ達が解決した事により、アークは神社を管理しているアザーバイド『金魂(こんこん)』と友好的な関係にある。 金魂にキャンプの開催地として神社周辺を使う話を持ちかけると、彼女は快く『お賽銭入れていくならよいゾ』と答えてくれた。 テントはアークからの無料貸出、その他道具や食材は各自持参とのこと。 参加希望の方は、キャンプ担当係りまで。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:コント | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月01日(金)23:36 |
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■メイン参加者 28人■ | |||||
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●みんなでテント作り 風はやや肌寒く、日差しはほんのり温もりを感じる。そんな晴天の朝、一同は湖へキャンプに来ていた。 「まずはテントを張るトコからだな」 「キツイな……。このままじゃ入らないぞ」 「そのままじゃ棒が入らないだろ。ちゃんと穴をほぐしてやらないと」 「しっかり張れよぉ? ムーヴムーヴムーゥヴ!」 一同はさっそくグループに分かれ、各班が寝泊まりするテントを立てている。 楠神 N♂H 風斗が所属する班は、仲良し四人組で構成された通称『馬鹿騒ぎ組』。なぜか風斗の目がギラギラしているが、あくまで寝不足のせいである。 「う~ん、私は神社に泊めてもらう予定だけど、何もしないって訳にはいかないわよね?」 「というわけでテントの用意を手伝いに来たよ」 神社に寝泊まりする理央と焔の二人は、暇を持て余してテント作りを手伝いに来ていた。 「よく来てくれた同志達よ! 我々が力を合わせれば、一夜にして野営地を用意する事も不可能ではない! ここに前線基地を作るのだ!」 「釜戸作りなら任せてください。こう見えて慣れてますから」 こちらは交流会を広げる事を目的とした面々が集まる、通称『初対面組』。 二人が彼らのテントへ来たのには理由がある。 一つは馬鹿騒ぎ組の方から、異性を寄せ付けない異様な雰囲気がにじみ出ていた事だ。彼らの発言に違和感を感じた者がいたとすれば、きっとソレが原因だろう。 一方のカップル組は、それぞれが二人きりでの共同作業。その空間に立ち入るのは野暮と考えれば、自然とここへ来る事となる。 「せっかくですし、外にテント張って寝たいですよね♪ 使った事ありませんし、楽しみですっ」 「キャンプも初めてならテントを張るのも勿論初めてなのだけど……。ええと、押さえるくらいなら出来るわよ?」 一同は普段から連携には慣れている。個々が勝手に自分のやれそうな事を見つけてくるので、誰が指図せずともテントは完成した。 寝る時は男女別という事らしく、可哀想な事に一人だけ小さなテントを立てて夜に備えさせられる者もいる。 大きなテントの隣に立てられた其れは、守護神の名に相応しく番犬小屋のようだ。 ●神社のフリータイム(昼) テントの設置はすぐに終わり、一同は一息ついて自由時間を過ごす。 「くあぁぁぁ~~~~~……。さて、そろそろあやつらも暇しだす頃よナ」 一方こちらは金剛稲荷神社。金魂はリベリスタ一同が用意に忙しいため、遊び相手がおらず暇を持て余していた。 しかしフリータイムの訪れと共に、金魂は一同に包囲される。 「こんこーん、こんにちはなのじゃ! 今日は神社提供ありがとうのう。はい、『お賽銭』じゃよ~♪」 「金魂さん、今日も稲荷寿司を作ってきましたよ」 「おぉっ」 奉納される稲荷寿司。特にレイラインの用意した小判型の稲荷寿司は、見て良し食べて良しだ。 「ぺったんされたのはもう大丈夫かえ?」 「死にかけたが今はよいぞー。少なくとも猫神家よりはマシだろうナ」 「……あ、猫神家の事は忘れて……忘れろなのじゃ」 「凍ったらまた温めてやる。そう塞ぎこむでない」 ――猫神家、それはエリューションとの戦いの中で起きた悲劇であった。 詳細については彼女の名誉を守る意味でも控え、白玉うさぎとの戦いでおこった事件であるとだけ書き記そう。とにかくレイラインにとってその事件が、今も忘れられぬトラウマという事だ。 悪夢にのたうち回る思いのレイラインを他所に、理央は食事に夢中な金魂を撫で始める。このひとときは彼女にとってかけがえの無い時間だ。 金色の尾が理央の喉元を擽る。 「はふぅ……」 金魂の毛はきめ細やかで靭やかだ。撫でれば心地よく、逆にその尾で撫でられれば心地よさに声を漏らすのも無理はない。 「……あっ」 次第に尾が首元から鎖骨へ降り、服の隙間から柔肌に触れる。 そんな時だ。 「こんこん! 何度も稲荷神社の為にがんばってやってるというのに毎回あたしを食べようとおいしそうな目で見るだけではなく、お耳までかじろうとするとわぁ! 決着をつけにきてやったですぅ!」 神社に乗り込んできたのはマリル・フロート。自称ビスハ最強(鼠限定)を名乗る彼女は、機会が巡る度に金魂と衝突を繰り返していた。 彼女は二対のオレンジピールを握りしめ、高らかに宣言する。 「いざ尋常に勝負するといいですぅ!」 金魂はマリルに気づくと頭を上げた。その瞳は飢えた獣のごとし。実際には飢えなどなく、ただ腹ごなしに遊び相手が欲しかっただけともいう。 「ほほう、来よったか。良かろう! 金剛稲荷神社が守護神の力、その身を持って思い知るがイイ!!」 神社の掃除をする焔は、ただ綺麗にしたばかりのところを汚されないことを祈るばかりだ。 ●自己紹介タイムなので 「日頃がキャンプみたいな生活をしているアラストールです。ボロは着てても心は錦、それが騎士の心意気」 初対面組の自己紹介は綺麗なアラストールから始まった。流石は美少年、あるいは美少女である。 「あれ? アラストールさんのそのマント、ファッションじゃなかったんですか?」 「記憶が曖昧なんです。なにせ気がついたらボロ布一枚でしたから」 自己紹介は順々に行われる。一人目が終わればそのとなりへ、次は快の番だ。 「俺は新田 快。ちょっと判りづらいけど、メタルフレームのクロスイージス。大学生やりながら、商店街で酒屋を開いてるんだ。『新田酒店』よろしくね」 快は初対面組にて唯一の男である。今回は寝る際に男女別という事もあって、夜はひとり小さなテントで寝る事となった。 「『新田酒店』?」 「三高平商店街の空き店舗を借りてね。各種酒類、ソフトドリンクも扱ってるから機会があれば」 「ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァである! 此度は同志一条がこのような機会を設けてくれたのだ。折角の機会、お互いの事をよく知りあうのも良いだろう」 リュックに備え付けてあるブービートラップ用の針金はご愛嬌。一同の不安を煽るのはその食材の量、少なくとも六人より多いのは間違いないだろう。 「ベルカさん、好きな食べ物は?」 「味噌汁かけご飯」 「でも今日は味噌汁の具材ないんですね」 「この量の味噌汁を飲みたいか? 作るぞ?」 「シェリー・D・モーガンだ。好きなことは食事。趣味は魔道を極めること。妾にとって魔道は、これしかないっというモノなのでな」 シェリーはこう見えてこの中で一番の大食いだ。冗談っぽく「アークに来たのは飢え死にしそうだったからだ」と説明するが、事実である。 「シェリーさん、ちなみに作る方は?」 「妾はどちらかといえば食べる側だ。い、一応作るのもやるぞ?」 「一条 佐里です。私はとある火事をきっかけにリベリスタになりました。皆様と共に鍛錬に励み、これからも精進して行きたいです」 彼女は過去に深い傷を持つ。焼かれた町、逃げ惑う人々、当時の彼女は燃え盛る炎の中で異形と出逢う。 その日、彼女は右腕を失った。しかし皮肉な事に、女性の姿をした怪異の存在が彼女を生かす。佐里はその異物の影響により革醒し、右腕も一週間で生え整った。 しかし心の傷は癒えず、今でも彼女は右腕がないものだと錯覚する事がある。 「火事……か」 アラストールは思い出す。真新しい記憶の中にある、苦い現実を。 『中華街ランタン祭り大火災。死傷者五名、行方不明者十二名、消失九十軒』 これはとあるエリューションによる火災事件の、最終的な被害だ。万華鏡では「死傷者十七名、行方不明者三十五名、消失二百七十軒」という未来が予想され、最悪の事態は間逃れた。 だが作戦に参加したリベリスタ達は苦悩した事だろう。自分達がもっと上手くやっていれば、『もしも』を考えだすとキリがない。 佐里の言葉を聞いている間、アラストールはあの時の事をふと思い返す。 「紗倉ミサよ、皆様宜しくお願いするわね。ああ、良い感じに寒いわねぇ……。こんなに寒い日はストーブでおしるこでも……。あ、いけない……キャンプしに来たんだったわね」 少し暗い雰囲気になりかけていた場を和ませた彼女は、まだ実戦経験のない新米リベリスタだ。 教会で育てられた捨て子という事もあり、それなりに宗教に精通している。細菌研究が日課であり、その点を除けばわりと普通な女性だ。 「ストーブはないが釜戸はある。釜戸があるなら暖は取れる」 「おしるこは?」 「カレーで」 ●飯の支度とテロリズム 「ちゃんとじゃがいもの芽はくり抜かねーとだぞ」 「ういー」 いよいよ夕食の用意が始まった。料理には作る楽しみと、食べる楽しみがある。 馬鹿騒ぎ組のカレーでもっとも重要な要素を担うのは夏栖斗だ。彼は市販のルーを使わず、調味料から調合してカレーを作るらしい。 「じゃー、火車はお米洗ってもらえる?風斗くんは一緒に野菜切ろうか」 「野菜刻みは任せろ! ちゃんとナイフとピーラーも用意してきた!」 「えっうっそぉ~ん、米研ぎっスかぁ? 水冷てぇじゃん! 嫌だわー!」 二人に作業を指示するのは悠里である。普段から自炊してる事もあり、そつなく作業をこなす。 「うぅ~…あぁぁ~…っ、しばれるなやー!」 逆にぎこちないのが『消せない炎』宮部乃宮 火車だ。彼の異名から察するとおり、冷たい水は苦手なのだろう。 次第にめんどくさくなってきたのか、火車の勢いが弱まる。 「よぉし刻めた! みんな好き嫌いは無いな? あっても認めんが!」 お野菜ダバァ。風斗の手によって荒く大雑把な野菜が鍋の中へと流し込まれていく。 実に男らしい野菜の切り方だ。寝かせておいたら美味しくなりそうだが、夕飯には食べることを考えるとあまり救済は望めない。 「オラオラぁ テキパキやれテキパキー」 「もうちょっとでできるから待ってよ」 米の用意を後回しにして火の用意をする火車。カレーの調合を行う夏栖斗。 彼らはまだ知らない。この時夏栖斗の手によって、着実に彼らの鍋が侵食されつつある事を。 ●甘くて美味しい 「杏樹殿、じゃがいもはコノくらいの大きさでござるか?」 「ん、そのくらいだろうな」 こちらはカップル組の一組、杏樹・幸成ペアのテントだ。 二人はお揃いのジャージ姿で作業をしている。見た目こそアレだが、若い二人の共同作業だ。 ホントは杏樹が手作り料理を振る舞う予定だったそうだが、最終的には二人でカレーを作ることに落ち着く。今ではその方がよかったとお互いにまんざらでもない様子だ。 隠し味にチョコを砕き、混ぜ、杏樹の味付けは概ね終わった。 「チョコは、隠し味くらいがちょうどいい」 「あひるの言うとおり作るつもりだけど、野菜のサイズは大きくていいんだよな?」 「ありがとうフツ! それじゃあ人参は一口大、じゃがいもは大きめで」 料理に精を出すもう一組は、フツ・あひるペアである。 二人一緒に料理を作るだけでも、リベリスタ達にとっては貴重な機会だ。毎日命を掛けて戦う彼らにとって、それこそ今日の一回が最期の一回になる事もありうる。 だからこそたかがカレーを作るだけの行為が、二人にとってはかけがえのない幸福な事に思えた。 「そういや飯盒どうする?」 「飯盒炊爨! ちょっと前に、やり方教えてもらったから……。あひるにお任せっ!」 「ごはんはやっぱりかれー! はんごうでごはんっ!」 「あんまりはしゃぐなよー、火が燃え移るぞ」 そしてなぜかカップル組と同じ班の彼女達、ミーノ・リュミエールペア。 昼はミーノがはしゃぐためイマイチのんびりできず、リュミエールは若干疲れ気味である。 彼女の見立てでは、ミーノは金魂と遊ぶであろうと予想していた。しかし当日になると、ミーノは金魂の事など忘れて大はしゃぎ。 リュミエールは面倒に思いながらも、ミーノが自分と遊びたい様子を見ると無碍にはできなかった様子だ。 「おかしはたくさんじゅんびしてるし、みんなにもわけてあげるの~」 「まっ、お菓子と交換で他の班から上手そうなモンもらってくるか」 ●楽しいお夕飯タイム 問題が発生した。 「ライス!? ライスナンデ!?」 「えっ?! ホントに誰も炊いてないの?! さっきのアレは!?」 神社組のカレーにライスがない。原因は単純明快、神社の多くが料理をする事を失念していたためだ。 輪廻と共にカレー作りをしていたリコルでさえ、油揚げ入りカレーの用意でライスがないことに気づかぬ始末。 だが最大の落とし穴は別にある。それは与市が稲荷寿司を『その場で』作っていたことだ。 稲荷寿司を作るには当然米がいる。米がいるのだから当然ご飯を用意した。其れを見ていた面々は、誰かがご飯を用意していると安心する。 そして実際に炊かれたお米は、酢飯となり稲荷寿司へ。そこに残るのは酢飯化したご飯だけである。 「すまぬ、あれは御稲荷さんのために用意した酢飯だったのじゃ……」 一同の悲鳴が響く中、理央の伊達眼鏡がぎらりと輝く。 「なんだ、そんな事か」 彼女が取り出したのは何十枚にも及ぶ大量の白い物体。彼女は薄べったい其れを一枚手に取ると、ちぎり、切れ端をカレーにつける。 「『チャパティ』。生地は醗酵させないタイプだから時間を置く必要もないし、そのまま鉄板やフライパンで何枚も何十枚も生産が可能。後はこれをナンの代わりにして食べればいいんだよ」 沈黙。一同は山積みにされたチャパティを改めて見ると、辺りを包んでいた悲壮感は瞬く間に消え失せた。 「凄いじゃんチャパティ!」 「これで稲荷寿司でカレーを食わずに済むのう!」 「チャ! パ! ティ! チャ! パ! ティ!」 「……なにやってるんだあいつら」 神社組の騒ぎはを他所に、他の班でも楽しい食事が始まっている。 ベルカの作ったとにかくやたら量の多いカレー。シェリーはそれを一人で平らげそうな勢いでお代わりを続ける。回りの仲間達は快の用意した甘酒を頂きながら、その様子を観戦中だ。 「…いてぇ!かれぇ!アホンダラぁ!」 馬鹿騒ぎ組では、夏栖斗の調合によって辛口カレーが出来上がった。概ね好評だったのだが、火車の悲鳴がこだまする。 カップル組に関して言えば、観ている側がお腹いっぱいになりそうな光景だ。カレーのはずなのに蜜のように甘い。 「……そういえば、金魂殿の姿が見えぬでござるな」 「お昼に食べ過ぎたんじゃない? あっ、幸成、口にご飯粒」 杏樹は幸成の口元についたご飯粒を取ると、そのまま口へ。 平然とそのような事をやってのける彼女であったが、やった自分が一番恥ずかしかったのは言うまでもない。 ●神社のフリータイム(夜) 「はぁ、はぁ。なかなか、やるですぅ……」 マリルは大の字で寝転がりながら、荒い呼吸を整える。戦場に散らばった数十のオレンジピールは、生々しく戦場に傷跡を残す。 二人は昼のフリータイムから戦い続けていた。激しい戦いは二人を極限まで痛めつけ、もはや指先一本動かせない。 するとそこへ通りかかったのは、金魂のためにカレーをもってきたリコルであった。 「ああ、金魂様。美しい毛並みが乱れておいでです。わたくしがお直ししましょう!」 「よ、よきにはからえ……」 リコルは金魂に駆け寄る。ブラッシングしながらその肌触りを堪能しようという魂胆だろうか。 「……獣のニオイがするのかと思っていましたが、金魂様は爽やかな柑橘類の香りがします」 「……三日三晩、柑橘風呂に漬けられて匂いが取れぬ……、こ~んこんこん……」 金魂はさめざめと泣いた。 その様子を羨ましそうに眺めていた輪廻は、思い切って金魂に話しかける。 「なぁ、金魂。私はお前と友達になりたいんだ。どうやったら友達になれる?」 突然の問に金魂は不思議そうな顔をした。少し考え、キリッとした表情で答える。 「小娘よ、友とは己と相手が同格と認められるようになった時、初めて成立するモノ。我と友になりたいと思うのであれば、金剛稲荷神社が守護獣である我に釣り合う『強者』となれ。さすれば自ずと好敵手(とも)となろう」 これから輪廻は幾多の戦場を駆け抜け、少しずつ力をつけていくことだろう。一人前と呼ばれるようになってから、一流と呼ばれるまでの間は長く、険しい。だが彼女が高みを目指す限り、その壁は決して乗り越えられないものではないだろう。 「昼にもらった稲荷寿司の味は悪くない、これからも日々精進するがよいゾ」 「私、金魂と友達になれるなら頑張るぞ」 「うわ、金魂が偉そうな事言ってるですぅ。まだそんな余力があったんですぅ?」 がぶぅ。 「あ゛ぁぁぁぁぁ!」 ●水鏡の月 油揚げ入りカレーで体力も戻り、金魂はようやく神社に戻ってきた。 チャリン。賽銭箱にお賽銭が投げ入れられた音が聴こえる。 「賽銭の音で神が呼ばれる。願い事を叶えてくれる。ああ、とっても糞みたいな嘘じゃないですか? そんな皮肉は大好きですよ、ワタシ」 金魂は賽銭箱の方を見やる。するとそこには賽銭箱に腰掛け一人、盃を手に酒を煽る者がいた。海依音だ。 「一献いかがですか? 騒がしい連中でございますね、アークの面々は。賽銭の音に呼ばれましたか?」 彼女の持つ杖からは、なにやら塗りたてのペンキの臭いがする。塗装を塗り替えたのだろうか。 「アークはつくづく変わり者ばかりよナ。信仰など無価値だといっておきながら、自分はそんな皮肉が大好きだという。我になにか用か?」 金魂はしゃなりと賽銭箱の上に飛び乗ると、差し出された酒に口をつける。金魂が口をつければ、映り込んだ月が歪む。 「ねぇ、元いた世界に戻りたいとは思うことはないですか? 過去をやり直したいということはありませんか?」 「ないナ。今でこそ守護獣だが、我の原点は妖怪、陰なる者。ただでさえ陰々滅々なのに過去など振り返っとったら、根暗過ぎて流石の我も引くゾ。……それに長く生きておるとナ、過去など思い出せんようになる。何百年と生きとっても、思い出す事など髭の数ほどもないモノよ」 金魂は酒を飲み干すと賽銭箱から飛び降りる。すると海依音は何かを思い出したのか、大きめの弁当箱を取り出した。 「もう行かれるのならこれを、与市君からこれをあずかりましてございます」 「あやつが? なんといっておった」 「『そろそろ帰らなくてはならないので金魂様にコレを』と。帰る前に湖に寄るとか」 其れを聞くと金魂は翻り、湖へと駆け出した。 「……結局、金魂様とは殆ど話せなかったのじゃ」 夜の湖に一人、与市は水鏡に映る月を眺めていた。彼女はため息を一つ吐き出すと、ここでの出来事を思い返す。 「水臭い奴よ」 「! 金魂様? どうしてここへ……」 金魂は与市の隣まで来ると、波紋に揺れる月を眺める。 「他の者に遠慮するのはわかるが、己の欲は大事にしてやらんと人生がつまらんゾ」 「……ふふっ、それならもう良い、良いのじゃ」 ●ここから先はリア充だけ見ればいいと思うよ! 夜。小テント群。 二組のカップルはそれぞれホットココアを飲みながら、互いの相手との時間を過ごす。しかし一方は空を見上げ、一方は湖を眺めていた。 「ここを守る依頼に参加してくれた人に感謝しねえとな。おかげで、あひるとカレーも作れたし、一緒に湖も見れる」 「あひる、夜更かしすると思って……お菓子、いっぱい持ってきたの」 「ははっ、ならいただくとしよう」 フツはあひるの用意したお菓子を馳走になりながら、清く正しく別々の寝袋に入って語らう。 しかし彼女はあまり夜更かしが得意な方ではない。既にうとうととし始め、眠たげだ。それを察してやれば、寄り添い、後はただ微睡むままに。 あひるは湖に映り込んだ夜空の煌めきを眺めながら、彼と過ごした一日を心に刻むのだった。 「こうしてゆっくり夜空を眺めるのも久しぶりだなぁ」 「ああ、今宵も星が綺麗で良かった」 一方、木蓮達の方は空を見上げていた。直接眺める夜空もそれはそれで鮮明で、眩い。 彼女は何気なく、飲んでいたホットココア入りのコップを龍治に手渡す。彼も手渡されたものだから何も考えず口をつけ、一息。 そこで木蓮は気づいた。 「……って、か、間接キス?」 「なんだ、今更照れる事でもあるまいに」 彼はそんな事を言いながらも視線を逸らした。 「ま……、まあ今更照れることでも……」 彼女も赤くなった顔を見られまいと、顔を背ける。 「ふむ、やはり暖かくて最適だな」 ユーヌは竜一の頭を胸に抱き、身を寄せる。こそばゆくも温かく、冷える夜にはちょうどいい。 「……なんか当たってるんですけど」 一方抱かれている竜一も静かなものだ。むしろ自分から積極的に顔を押し付けていたりする。 「まぁまぁ。まったり過ごすのも良いが折角だ、寝物語に何か聞かせてくれないか? 無いならないでも良いけれど」 二人は寄り添いながら、ユーヌは彼の語る言葉に耳を傾ける。彼が喋ると胸元がこそばゆくもあったが、今更抱きあう事以上にこそばゆい事などありはしない。 誰にも邪魔されず、誰にも止められず、彼らの夜は更けていった。 恋人たちに祝福あれ。 ●オマケ 「なぁ風♂斗。そろそろ、落ち着くべきじゃね? おまえ十数股とか敵にまで知られてるじゃん」 「十数股はまだ良いけど……いや、良くないけど……。ナイスホモって、何?」 時を同じくして、馬鹿騒ぎ組のテントでは風♂斗への追求が行われていた。 風♂斗だけ三人から離れた位置に寝袋が設置されている。というか悠里が自衛のために距離をとった。風♂斗は火車に助けを求めるような熱い視線を送る。 「オレだけはお前の味……方、だ」 『誤解されたら堪らねぇ……』、火車はただ全力で視線をそむけながらそう思うのだった 「ふんっ! そんな風評も今のうちだ。大学に入れば、オレにだって春が訪れる!」 なお、薔薇の開花時期は春である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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