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<相模の蝮>リベリスタとチョコレート工場

●リベリスタ
「エリューション入りのチョコレート。冗談じゃないね」
 そう言って目を閉じた『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がため息を吐く。
「おっと、ため息なんかついてると、ハッピーがランナウェイするかな」
 やれやれと肩をすくめる伸暁に、リベリスタが早く続きを話せとせかす。
「わかってるよ、そっちもわかってると思うけど、どうにも大変でいけないね。猫の手を借りたい位忙しいってのは冥利なのかも知れないが。
 キャットハンズオールフリー、何せラヴ&ピースが一番だから。
 ……沙織ちゃんも情勢を調べてるらしいけどね」
 いつか聞いたようなことを言って、にやりと笑う。
「まあ、そういうこと。
 フィクサードが大量にバイオレンスな情勢ってのは、なんとも嫌なもんだね。
 やつら、今度は本気らしい」
 最後の一言だけは真剣な表情で呟くと、書類をリベリスタたちに渡す伸暁。
「ただ、このバイオテロリズム。
 チョコだけに、それがメインディッシュってわけじゃなさそうでね――」

●チョコレート工場
「な。ほんと。言うこと聞いた方が、早いと思うよ」
 甘い香りが漂い、普段はどんどんとチョコレートが作られていく工場。
 だが、今はどの機械も動いていない。
 それどころか、明かりもない。
 大手の製菓会社ではなく、小さな泡沫会社である。
 しかし丁寧な作りや研究を重ねられた味に徐々に評価が上がってきて、今はその矢先のことである。まだまだ機械のローンも終わっていないし、借金をしては原材料を買い売ってそれを返し、所謂自転車操業状態の、本当に小さな会社なのだ。
 何がどうなって、こうなったのか。現場主任には、わけがわからない。
 若い社員やバイト連中5名は、主任の後ろで困惑し、まごついている。
 今主任にできることは、目の前で嘲笑を浮かべ、人質になれなどという妙なことを言い出した見知らぬ男を問い詰めるのみだ。
「とにかく、このままと言うわけにはいかないんだ!」
 ブレーカーを壊した、と。
 主任の前に立つ男はそう言った。若い男だ。チャラチャラした服装にワックスで散らした茶髪。手にはナイフと、懐中電灯。
 懐中電灯で時折主任の顔を照らして目を眩ませては下品な笑い声を上げる。
「じゃあどうする? ここで死ぬ?
 ――あー、いいや返事いらね。他にもいるし。おまえ死ね」
 主任は、目の前の男が消えたと思った。
 そのまま暗い視界の中で、首に冷たいような、熱いような感触が走り――

「殺しましたね」
 咎めた声は、女のものだ。
 男がのんびりと懐中電灯を向けた先で、若い女が呆れたような、疲れたような顔で立っている。明かりもないのに、何が起きたのかわかったらしい。
 慣れた甘い匂いの中に混ざり始めた血の匂いと、どさりと何かが倒れる重い音。懐中電灯がさっと照らしたそれを見て、若い衆は女の言葉が嘘ではないことを知った。
 女は金髪を掻きあげて、男へ歩み寄る。
「蝮の言葉、聞いていなかったとは言わせませんよ」
 言い募る声はまるで子供を叱る母の様な落ち着きで、どうにも場にそぐわない。
「うるせ。殺させろ。蝮がどうとか俺にはどうでもいいんだよ」
 そのまま言い争う二人に、仲間割れを始めた今が機会と、後ずさる一人の社員。
「やめた方がいいですよー?」
 その男の背後から、突然聞こえた声。
 振り返った社員の目を灯りが照らした後、それじゃ見えないって、と言うツッコミの声が聞こえる。目が慣れてくると、そこにいたのは懐中電灯で自分の顔を照らした茶髪の女だった。その左右にも黒髪と、青い髪の女が左右にいる。
「今すぐ死にたいのなら止めないが、逃げるのなら殺さなければならなくなる」
「あなたたちを逃がすことはできないんです。
 おとなしく人質になってください。――こうなりたくないでしょ?」
 青い髪の女が冷たい声で死の警告をし、黒髪(ツッコミを入れた声の主だった)が自分の懐中電灯を主任に向けた。
 一番若いバイトが、気を失った。
 その頬をぺちぺちと叩きながら、茶髪がのんびりした声を上げる。
「あら……大丈夫ですか?」
「3人とも。八千代が一人、殺してしまった」
「ええ、もう? なるべく殺すなって言われてたのに!」
 口論はいつの間にか止んでいた。
 金髪の女が告げた言葉に、黒髪が困った表情で文句を言う。
「どこかに引き離した方がよさそうだな。……おい、そこの。
 どこかこの男を隔離できるような場所はないか。
 その男とおまえたちを一緒にしていたら、そいつはみんな殺してしまう」
 逃げようとしていた社員を捕まえ、青い髪が問いただす。殺されてしまっては人質の意味がないからな、と付け足したのは、他の3人の女に確認をとるためのようだ。
「……それなら……」
 自分だって、命が惜しい。
 できることならこんな怪しい奴らを、商品には近づけたくなかったのだが。

 カカオのにおいが相当きつい。
 ここから出てもしばらくチョコ食いたくねーな、とか思いながら八千代はわざと激しい貧乏ゆすりを続ける。
 チョコの材料を入れて溶かすための巨大な鍋がある部屋。
 そこに八千代は閉じ込められていた。
 あの女たちは、自分の立場を理解していない。
「俺は蝮の部下じゃねえんだから。なあ?」
 そう言って、ズボンのポケットからスキットルを取りだす。
 スキットルの中では、何かがちゃぷり、と動いている。
 八千代がいる部屋の入り口は一つだけ。
 部屋の外では、女たちが人質を監視して、アークのやつらが来るのを待っている。
「……万華鏡にできることなんざ、タカが知れてんだよ」
 電源を切られたせいで、鍋の中で少しずつ固まりつつあるチョコレート。
 八千代はゆっくりと立ち上がり、その鍋に近づいた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月30日(木)02:13
チョコ好きですか? ももんがです。
今回は<相模の蝮>でお届けします。

●勝利条件
・人質の救出(最低3人)
・バイオテロを未然に妨害する。

どちらか一つでも達成できない場合、失敗です。

●八千代
種族はビーストハーフですが、ジョブは未解明です。
「何事も派手であるべき」という考えを持っています。
少なくとも業炎撃と斬風脚を使うようです。

●何か
水のE・エレメントです。
アーティファクトのスキットルに入れられています。
このままだとチョコレートに混ぜられます。

●スーツの女たち
エージェント・ジェーン・ドゥ(JD)

ジーニアスのスターサジタリー(A)
金髪ロングストレートの、包容力あるお姉さん風。

ヴァンパイアのホーリーメイガス(B)
長い茶髪をゆるく結んだゆるふわどじっこお姉さん風。巨乳。

メタルフレームのクロスイージス(C)
青いサイドポニーで、厳しくも温かいお姉さん風。ひんぬう。

フライエンジェのソードミラージュ(D)
黒髪ショートカットの明るい隣のお姉さん風。

いずれも若く美しいですが、カタギではない雰囲気を放っています。
彼女たちは蝮原咬兵から、六月の暴走を抑えるよう見張れと指示されています。
彼女たちもまた、アークが解明できていないスキルを使うようですが、
この4人が使う未解明スキルは1人ずつ違うことがわかっています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
クロスイージス
深町・由利子(BNE000103)
覇界闘士
十 刈穂(BNE001727)
覇界闘士
恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
デュランダル
ジース・ホワイト(BNE002417)
ソードミラージュ
新堂 愁平(BNE002430)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)


 工場が見える距離で、彼らは準備を整える。
 ランプを腰に結び付けた『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)は普段の柔和な表情を引き締める。
 全員ではないにしろ、何人かが照明を持ち寄っていた。灯りの心配はないだろう。
「人質全員の救出とスキットル奪取が最優先よね」
 工場をにらみながら屈伸する『存在しない月』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)の、ゴスロリ風味のボンテージな服が細身の体に沿って流れている。
「これからの季節、アイス工場を狙ったほうが効果的な気がするんだけどね?」
 そう呟きながら『三高平の韋駄天娘』十 刈穂(BNE001727)が、指空きのグローブを身に付ける。
「こんなのもあるよ」
 チョコを使ったアイスケーキを刈穂に差し出したのは『パティシエ修行中』新堂 愁平(BNE002430)だ。
「チョコレートでバイオテロだなんて、ケーキ屋のオレに喧嘩売ってるって事だよね~?
 絶対食いとめる! あと……人の命の重み、教えなきゃだね」
 実家の仕事を手伝う愁平の怒りは、チョコのことだけではない。
 気負うその背をぽんと叩き、『雪花の守護剣』ジース・ホワイト(BNE002417)が口の端を上げる。
「任せろ、相棒。戦場に残る仲間が居るのなら俺はそいつを最後まで護り抜く」
「おう!」
 愁平とジース。互いに相棒と呼び合う二人はがっちりと腕を組む。
「ここのチョコは美味しんだよねー。チョコのためにも人質はみんな助けないとねー」
「ルカ、チョコは好き。ここの会社経営不振。そんな状況でこんなことに巻き込まれるなんて理不尽。
 人質とかよくわかんないけど、チョコが巻き込まれるのはよくないし――」
『キーボードクラッシャー』小崎・岬(BNE002119)の言葉を聞いて、やはり貰ったアイスケーキを手にした『原罪の羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)が頷いて続ける。
「そのチョコ作ってる人なら助けるのも別にわるくない」
 その様子を少し遠巻きに見て、『伯爵家の桜姫』恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)は考え込む。
(精神論では敵は倒せぬ……頑張れば必ず勝てる、は願望に過ぎん)
 彼女の胸には、苦い思いが去来する。まるであの戦争に雪崩込む前の自分たちの様だ、と。


 入口には特別なカギなどなく。自己強化などを済ませたリベリスタたちは一気になだれ込む。
 数人のリベリスタたちはJDに。残りは八千代のいる部屋に向かって走る。

 ごぅん!

「ごめんね」
 重い音が鳴り響く。食品工場ならではの頑丈な鉄扉を、ルカルカが謝りながらも蹴り壊したのだ。
 だが、流石の反動の重さに褐色の少女の動きが一瞬止まり、そこにナイフを握った右拳が突き刺さった。
「ウェルカム! 待ってたぜ、アーク御一行!」
 不意打ちが通用しない八千代の、待ちかまえていたその一撃には己のみを信じる無頼の強さが篭っており、ルカルカはその身をくの字に折る。
「離れろー!」
 嘲笑を浮かべる八千代を、ルカルカと、そしてチョコ鍋から遠ざけようと打ち込まれたのは岬のハルバード。その一撃は直撃した体を弾き飛ばし、壁に叩きつける。さらにその首をウーニャの気糸が幾重にも囲むが、八千代のナイフが切り払った。
「カレイド・システムか……本当、面倒ね」
 金髪の女がため息交じりに言う。JD達が八千代の援護に行く様子はなく、手足を簡単にひもで縛られた人質達を囲むようなかたちで円陣を組む。状況のわからない人質達が、戸惑いの声を漏らす。
「今から助けるよ!」
 JD達の注意が人質から逸れる事を期待していた愁平が歯噛みしながらもそう声をかける。
「そうはさせない。人質がいないと、おまえたちは帰ってしまいそうだからな」
 青髪の女の返答は端的だった。それは、彼女らの目的がリベリスタ達にあると言う宣言。
 人質達はその目的を逃がさぬための切り札であり、彼女らには八千代よりずっと重要な存在なのだ。
 円陣の突破は困難と判断した愁平は、ずっと気絶したままだったためか近くに放置されていた若者を担ぎ上げる。

 戦闘態勢を整えるJD達に、リベリスタは対峙する。
 意識を集中するJDの金髪を、鬼子の斬風脚が薙ぐ。魔力を活性化させる茶髪の、のんびりして見えた目つきが険しくなったのは由利子の放つ殺戮のない十字の光を受けた怒りか、それとも自分よりもう一つ大きな由利子の胸を見たせいか。なにそれすいか?
 蝮の為にと大見得を切る青髪のJDを中心にジースが踊るようなステップを踏みだそうとし、
「くそっ」
 だが、その足は彼自身の意志で止まる。JD達が人質を己らの間に挟む動きを見せたからだ。一度に数人を相手にしようとしたジースだが、悪意を持って敵と密着させられた一般人を避けて標的だけを切り裂くのは難しい。
 それを見た黒髪のJDが刈穂の業炎撃を受けながらも、速度のギアを上げて少し不敵に、だが明るく笑う。

 八千代にタックルをかけたルカルカの、狙いはスキットルだ。
 それをかわした男に、ドアを背にした岬のハルバードが向かう。
「……狭すぎんだよ」
 そう吐き捨て、八千代は焔を纏った拳を壁にたたきつける。易々と溶け貫かれた壁の穴を抜け、現れたその姿に人質達が悲鳴を上げた。理解を超えた目の前の戦いより、知人を殺した男の方が彼らには恐ろしい。
 その悲鳴に笑みを浮かべた八千代を、ウーニャの放った気糸が今度こそ幾重にも縛り上げた。
 ごぷん。
 スキットルがその手から落ちる。中身の揺れる重い音に、数人のリベリスタの意識がそちらに向いた。
 その隙を狙ったものか、それとも偶然か。
 茶髪の放った、怒り、もしくは対抗意識の篭った閃光がリベリスタ達を焼き、金髪が不可視の殺意を帯びた弾丸で鬼子の頭部を撃つ。鬼子は即座に傷癒の符で己の傷を癒し、由利子もまた、怯まず再度の十字の光を撃ち放った。
「アイツはなぁ! バイオテロっていうみみっちぃ事してるんだよ!」
 青髪にグレートソードを叩き入れて距離を取らせたジースの叫びに、黒髪が少し眉を寄せてはぁ? と聞き返しつつも拳を刈穂に叩き付ける。それを炎をまとった刈穂の拳が迎え打ち、ジースの言葉をかく乱目的と見た青髪のJDが目を閉じて神々しい光を放つ。光は八千代を戒める気糸を溶かし、茶髪の怒りを慰撫する。
 人質より回復を優先したJDの隙を、逃す理由は無い。
「オレについてきて!」
 愁平は一人を担いだまま青髪が見ていた人質に走り寄り、拘束を引きちぎって手を引く。

 順調とも言える人質の救出と引き換えに、しかし戦況は圧倒的にリベリスタの不利だった。
「お姉さん達、カタギに手を出すのは仁義にもとるんじゃないの?」
 ウーニャのかける揶揄の言葉に、JD達は表情を変えない。
 ルカルカはスキットルを青いビキニの胸元に差し込み走り出す。八千代は凄まじい速度でルカルカの背に肉薄してその首筋へとナイフをのばすが、刃は彼らがそういった技を使うとみて警戒していたルカルカの髪を僅かに刈っただけだ。八千代を完全に引き離すべく、岬のハルバードが襲う。彼はそれをぎりぎり避けてみせたが、凶刃はもうルカルカの背に届かない。
 JD達は一瞬、顔を見合わせる。
 もとより彼女らは八千代のことを信用していない。 
 そこに先ほどのジースやウーニャの言葉、奪い合われるスキットル――疑念は膨れ上がる。
 だが確証はなく、人質を二人逃がしてしまった事もあり、女達は戦いの姿勢を崩せない。
 猛攻や癒しの飛び交う中、ジースのグレートソードが茶髪に叩きこまれる。
「ありゃ!?」
 少々気の抜けた悲鳴を上げ、茶髪の彼女が吹き飛ばされる。
 手が離れた人質が、細い悲鳴を上げながらも、体をにじるように少しずつ出口を目指す。
 先ほど脱出を叶えた二人の存在が、彼にも希望を与えていたのだ。

「条件を成し遂げたなら退け。いつか再戦の機会もある!」
 後一歩で勝利条件が成る、そう判断した鬼子の言葉は、他ならぬリベリスタ達に向けた言葉。
「まともにやり合って勝てる相手ではあるまい。首を刎ねられたら、生き返る道理もないぞよ」
 勝利条件を優先した作戦を望む彼女は撤退を示唆しているのだ。
「待ってくれよ! 俺達を見捨てるのか?」
 人質が悲鳴を上げる。2人の脱出に希望を持たせられたからこそ、彼らの絶望は深い。
 救うべき者達の動揺に気を囚われたリベリスタは、状況を俯瞰した男の、汚泥の様な笑みに気づけなかった。
「なるほどねえ、飼い主からの命令は人質……半分くらいの救出ってとこ?」
 スキットルを受け取った由利子が、その言葉に篭められた悪意と愉悦に息を詰めた。
 八千代は、先ほどにじりながら逃げようとしていた男の首を踏み付け、ごきりという鈍い音を響かせる。

「そういう、目的至上の合理主義、俺は好きだぜ? さあ、命の選別をしろよ。誰を殺して、誰を守る?
 ほら、選べ。選んだのから殺してやるからさ!」

 げらげらと、下品な笑い声を上げる八千代。それを見たJD達の顔が、初めて大きくゆがんだ。
 それは戻って来た目の前で人質を殺された愁平の表情と同じ、激怒。
「ねえ! 今回の目的がアークの戦力を分散させる事なら、もう十分に果たせている筈よ」
 その表情を見た由利子が説得に踏み込み、JD達の表情が揺れる。
 手応えを感じた団地妻が、駄目押しだとばかりにスキットルを握りなおし、ふたを開けたそれを一息に煽る。
「!」
 リベリスタ達が驚愕し、JDたちは初めて八千代の意図を知る。
 己の身に何を及ぼすか分らぬE・エレメントを飲みほした由利子は激しくむせ、血を吐きながらも言葉を続ける。
「都合のいい話、だけれど……退かせて貰えるなら、これ以上貴女達と、戦いたくはない。
 でも、人質を殺し『堅気の人の』工場を駄目にしようとした、その子を……放置、できないわ!」

「わたしたちの仕事は、アークの戦力をそぐこと。今、見逃すことはできません」
 少しの沈黙の後、相手の認識に修正を加える金髪のフィクサードの声は、穏やかなものだった。
 だが、その声には確かに敬意が。何としてでも凶行を止めようとした由利子の漢気を認める響きがあった。
「……だけど、それ以上にいまは。こいつを、どうにかしなきゃね」
 言葉を引き継いだ茶髪の言葉は、間延びしておらず。その視線は初めて、由利子の目を見ていた。
「とかく大量の無辜を巻き込むのが貴様らのやり方だと言うなら――ここまでだ、八千代」
「あたしたちの主は、蝮よ。あんたじゃない。……あんたに従う義理なんて、ないんだから!」
 青髪が、黒髪が。八千代に反旗を翻す。
「けっ」
 八千代の声に篭っていたのは、怒りと苛立ち、それ以上の喜悦。
 連携こそとらないが目的は同じ。一人の外道を敵とし、リベリスタとフィクサードの共闘と言う稀有な形が整った。


「逃がすかよっ」
 共闘の中、リベリスタを撤退させては本末転倒と、JD達は人質達の包囲を止める事こそ無かったが、隙は大きい。愁平がさらに一人を連れ出そうと拘束を解く。
 すでに目的を人質の殺害に変えた八千代がそれを見逃すはずもなく、かまいたちを放とうと片足を後方に引く。それをかばおうと愁平が人質と八千代の間に立ちはだかる。

 だが。

「うわあああ! 死にたくない、死にたくないよ!」
 狂気に近い悲鳴を上げたのは、八千代でもJDでもなく――拘束を解かれていない、最後の人質。
 リベリスタ達が撤退する可能性を知ってしまった彼にとって、愁平は何時千切れるか分からない蜘蛛の糸だった。知人が次々と殺されたこの状況下で、最後に回されては堪えられる道理もない。
「落ち着いてくれ!」
「んーんー!」
 手足の拘束は、彼がもがいたところではずれはしない。だが、愁平の服に文字通り齧りつく人質の力は命がけゆえに強く、傷付けずに引き離すにはどうしても時間を要した。それはわずかな時間。
 ――八千代にはそれで充分だった。
「あ……!」
 解放されたばかりの、出口を目指し走っていた人質の背から、赤い色がまき散らされる。どさり、と。鈍い音を立てて臥した彼は、まだ僅かに指を動かすが――救えないのは、誰の目にも明らかだった。
「さあさあ、どうする? 残るは一人だねえ」
 いやらしい笑顔を浮かべて周囲を見回す八千代。その前に立ち塞がったのは、ボロボロの身体を持ち直そうと己に自己回復を施す由利子だ。
「んっ……くうっ……八千代……さん、弱った女を嬲り殺しにするのは……ふふ、お好き……かしら?」
 あからさまな挑発。
「罪のない人を殺したお前だけは絶対に許さない!」
 子供っぽい事はどこかで自覚していても、言わずにはいられないウーニャ。
「ウーニャ、最後まで守るから存分に暴れてこい」
「オレは残る。八千代を動けなくするまでは戦うよ、命の重さをわからせるために」
 彼女に対し、そう請け負うジース。今にも涙をこぼしそうな愁平。
 にぃと笑う、八千代。

 リベリスタとフィクサード双方からの攻撃が立て続けに叩き込まれ、大きく体勢を崩した彼を襲ったのは、茶髪のJDが突然見せた鋭い眼光から放った凶悪な魔力。直撃を受け、さしもの外道もその身をグラリと揺らがせ、倒れる。
「やったのぉ!?」
 普段通りの目つきに戻った茶髪が、その生死を確認しようと人質を置いて一歩近づく。
 リベリスタも、フィクサードも。立つ者は皆息を詰める。
 その時、跳ね上がるように大きく体を翻した八千代が中腰からの蹴り上げを放った。
「しまった……!」
「ひ、ひっひっひゃ! 運命の愛、サマサマだねえ!?」
 最後の人質がいた筈のそこにあるのは、斬風脚の余波と、赤い染み――そして、肉塊。
 顔色を失うリベリスタ達を嘲笑う八千代。
「ほらほら、どうした? ……ああ、そういやさっき逃げたのもいたっけ?
 そっちも殺してきてやろうか。ひゃひゃひゃひゃ!!」
 狂ったように笑い続ける八千代に、怒りに駆られた黒髪が踊りかかる。
 再開された凄絶な戦いの中で、JDのうち3人が八千代に切り裂かれ、焼かれた。
 リベリスタたちにも、被害は少なくない。
「理不尽なことしたら理不尽でかえされる、せかいの理って、すてきだよね?」
「せめて一矢、いや二矢は……!」
 運命を燃やし、それでも倒れる者がいる中で、冷たく淡々と告げるルカルカのクローは鋭く八千代を引き裂き、怯んだその首筋に、因果応報とばかりにウーニャの気糸が絡みつく。
「派手好きとか言う割に、やることが小せぇんだよ」
 意識が闇に消える直前、八千代が最期に聞いたのは、刃を振るうジースの辛らつな言葉だった。


 救出する人質は、もういない。
 撤退を始めたリベリスタ達を、ただ一人残ったJDは追わなかった。
 満身創痍なのは、誰も同じ。彼女一人でリベリスタ達の撤退を留める事は不可能と判断したのだろう。
 ただ、最後に一度だけ振り返った由利子は、確かに、深々と下げられた茶色のつむじを見た。

<了>

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
他の方がどう扱っているかは別の話として、私の場合、成功条件というのを出している時は「最低これだけはクリアしてくださいね」という意味で使っています。
それが一つでも削れたらアウトという、ぎりぎりのラインの提示です。

結果はこのようなものとなりました。
――判定理由は、出来る限り提示しているつもりです。