● 『六道』のフィクサード、軽木雄太(かるき・ゆうた)は研究に身命を捧げた男である。その姿勢はいっそ狂気と呼べるほどで、己の論理でAと決めつけたらそれを枉げることは決してない。 そして、『六道の兇姫』六道紫杏を主と定めた軽木は、その指示に逆らうことも無い。何故なら、それは不合理なことであるからだ。結果として、彼は主から与えられた指示を、機械のように淡々とこなす研究員となっていた。 自分のこうした性質を、軽木はサイバーサイコ――SF小説でサイボーグ化した人間に見られる精神疾患――のようなものだろうと自己診断していた。メタルフレーム化した自分の身体と、精神が折り合いを付けようとした結果、機械のような心になってしまったのだ、と。 もっとも、診断結果すら軽木に言わせれば「意味は無い」ということになるのだろう。 組織の歯車として、兇姫の計算機として生きる男が、感情を働かせたとしても何にもならないのだから。 「ソ……うだ、これこそガ……『キマイラ』の究極形……ダ」 鴉のようなフォルムの獣人は、かすれるような声で鏡に映った自分の身体を見る。 これこそが、直にやってくるだろうリベリスタ達を撃退する切り札だ。 三ッ池公園から退いた後、軽木は自分の敗因の考察を行い、『六道』に従わないリベリスタを素材に使ったことだと結論した。そして、それに従い自身の『キマイラ』を至高のものにするためには、元々、『六道』に忠誠を誓うフィクサードを素材にするのが一番である。 ところが、それを実行しようとした所、全ての部下は軽木の元を逃げ出してしまった。 普通の人間であれば、根本の間違いに気付いただろうが、狂った論理に支配された彼は気付かない。そして、他の『六道』のためなら命も捨てられるという人材を探すには時間が無かった。 だから、『六道』のためなら命を惜しむことなく、 『キマイラ』になることに抵抗を抱かない人間が、 つまり、軽木自身が、 軽木の作る「最高のキマイラ」の素体に選ばれたのだ。 「すヴぁらしい……まさしク、完成形ニふさワしい姿。この力なラ、りべリスたなど、物の数でモナイ」 軽木、いや、『キマイラ』の姿は醜悪な、プロトキマイラと大差無い姿だ。しかし、狂った彼の瞳には美しい完全なキマイラが映っているのだろう。 そして、『キマイラ』は最後に自我が消失する直前、警備用のアーティファクトを起動させる。これから始まる「迎撃戦」に備えるために。 「おくびょうものガどれたケ逃げよウト、意味は無い。スベテはわたしひとりで、きゅうきょくのきまいらがあれあ……コトアタリルノダカラ……」 ● 正月らしさもすっかり抜けて、忙しくなってきた1月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。守生の表情から、これから告げられる内容が、大規模な作戦であることは間違いない。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。とうとう、六道紫杏の研究所の位置が明らかになった。あんたらにお願いしたいのは、研究所を護る『キマイラ』及びその他戦力の撃破だ」 『六道の兇姫』こと六道紫杏、がキマイラを率いて三ッ池公園の『閉じ無い穴』を狙い攻め込んで来た事は、そして彼女等を撃退した事は、リベリスタの記憶にも生々しいだろう。 アークでは紫杏の研究所の位置や内情が特定出来ていない状況であった。しかし、紫杏の側近にして腹心『兇姫の懐刀』スタンリー・マツダの保護に成功し、彼の精神を治療した事で、紫杏の研究所の位置を特定する。 様々な情報を伝え切った上で彼はアークに懇願する。「必ず奴等を潰してくれ」と。一族を『キマイラ』にされ、自身も狂気的な方法で『キマイラ』にされかけた事から彼の復讐心と憎悪は並々ではない。彼の言葉に嘘はない事は明白だった。 一方で、三ッ池公園を攻め入るのに総火力を用いた所為で紫杏派の戦力はほぼ枯渇状態だった。 今こそ、『六道』が起こした狂気の産物、『キマイラ』計画を終わらせる時が来たのだ。 守生が端末を操作すると、地図と写真が表示される。これこそが紫杏の研究所である。 「あんた達に向かってもらいたいのはここ。無論、六道紫杏の戦力は大いに減少している。だが、向こうも必死だ。残った戦力をかき集めて必死の抵抗に出てきている。油断しないで必ず倒してくれ」 向かう先にいるのは鴉型の『キマイラ』と戦闘能力を有するアーティファクト。人員がそこまで少なくなっているのだろう。しかし、『キマイラ』はフィクサードが自分自身を改造したものである。これが『六道』の抱えていた闇と言うことか。 「そう言えば、初期のキマイラと思しきエリューションが確認されたのもこんな時期だったな」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達が終わらせてきてくれ、そして、無事に帰って来てくれよな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月29日(火)23:14 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● それは陰鬱な雰囲気を漂わせた建物群だった。 この中で、どれ程のおぞましい実験が繰り返されてきたのか。 住人達は律儀に記録しているのだろう。 余人にとってはおぞましい実験であったとしても、それは己の道を行く地獄の住人にとっては真理への一里塚。真実の探求者が、その道程を忘れるはずがない。 されど、六道は永遠に彷徨う終わりの無い旅路。 見つけた道が、必ずしも望む道であるとは限らないのだ。 「……来ます」 最初に気が付いたのは『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)だった。過去に受けた英才教育の賜物で、彼女の感覚は常人よりも遥かに鋭い。それが捉えた。 夕闇に紛れて鴉が空を飛ぶのは自然な光景だ。 しかし、この鴉が「自然な」鴉でないことは皆が分かっていた。 体は妙にアンバランスで、素体となった男の影響か一部がメタルフレーム化している。 アレが研究所を守るキマイラである。 「キマイラもずいぶん立派になったもんね」 ひゅうっと口笛を鳴らすと、『重金属姫』雲野・杏(BNE000582)は愛用の楽器を取り出す。一見するとただのギターだが、それは神秘の力を得た特殊なギター。杏にとっての強力な武器である。 「自らをキマイラに改造か。恐ろしい、て言うか何考えてんだろうな」 『ダブルエッジマスター』神城・涼(BNE001343)は呆れたように呟く。 来る前にフォーチュナから聞かされた話だ。あのキマイラはE・ビーストとフィクサードを融合させたもの。そして、こともあろうに改造したのは自分自身の手によるものだという。まさしく、正気の沙汰ではない。 「ま、とりあえずきっちりとぶん殴ってやるさ……! 放っておくわけにもいかんしな」 そう言って、拳をバシっとぶつけると、ゆっくりと前に進み出る。すると、キマイラの命令に従って追尾してきたのだろう。防衛機能を持った磁界器が数体、ふわふわと近寄ってくるのが見えた。 そちらへの警戒を怠る事無く、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は空を見やる。キマイラ・磁界器、共に有効射程にはまだ若干の距離がある。その間にわずかでも情報を掴んでおきたい。知性は獣程度にまで低下したのか、磁界器の攻撃パターンは如何なるものか、戦いの前に知っておきたいことはいくらでもある。 しかし、影継の口から出たのは、意外な言葉だった。 「散々人を犠牲にして来た研究者が自らを素材に生み出した最高のキマイラか。イケすかない奴だが、自分が信じたものに殉じる姿勢だけは大したもんだ」 素体となってしまったフィクサードに対して、影継は妙に感心してしまう。 自分をキマイラに改造するという行動の善し悪しはさておいて、その愚かしいまでの信念はいっそ清々しくすらある。逆に尊敬に値する。しかし、尊敬の念を抱くことと、これから戦う相手であることは別問題だ。それゆえに、 「だがアンタの計算、俺達が打ち砕くぜ!」 気合の言葉と共に、打倒の誓いを放つ。 それに対する返事は、攻撃だ。 「ギガァァァァァァァ!!」 狂った外見とは裏腹にその攻撃は精確にリベリスタ達の四肢を狙っている。 杏はそれに対して素直に称賛の言葉を漏らした。 「最初はしょっぱいカラスとかそんな小動物だったのが、人間を使うようになって謎の奇形になっていって。今ではすっかり人間の形を留めちゃって……」 そこで、杏は言葉を切って一拍置く。 「ちょっとカッコいいじゃない!」 ニヤッと笑い、ギターをかき鳴らす。 杏流の詠唱がスタートした。 「すごいにはすごいんだけどねー」 ハルバード『アンタレス』で飛んできた羽根を叩き落として、『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は上空に向かって叫ぶ。 「疑団、って言葉知ってるー? 道は間違えてもいいけどそれを認めないならそこで行き止まり」 疑団とは心の中にある疑い。そして、仏教においてはそれがあるから悟りに至れるというのだという。それは素体のフィクサードと最も縁遠かった言葉。 岬の兄も言っていた。 まず世の常識を、次に研究の意義を、最後に得た結果を疑ってやっと研究とは出来上がるのだ。 それを怠った彼らが行きつく果ては、滅びしかあり得ない。 岬は知っている。過去に一度会い見えた時、奴はそういう男だったのだ。 ならば、そこに引導を渡すのは、大火の名を冠する槍斧。 「ここでおさらばと行かせようかー、アンタレス!」 「全く、行き詰まった合理主義と狂気は見分け付きませんねえ」 クスリと笑う『スウィートデス』鳳・黎子(BNE003921)。 黒いコートを着て巨大な大鎌を振るう姿はまさに死神。 兇姫の生んだ狂気の陰謀に死を与えるべく彼女はやって来た。 「いや、同じものなのでしょうか。どんな目的であろうと『死んだら何の意味もない』ですのに」 フィクサードが存命だった頃の口調を真似ると、黎子は天に手を掲げる。 すると、夕闇の中で薄れていた影がみるみる濃くなっていく。 そして、影は彼女の身体を護るかのように伸び上がる。 「かーるーきーちゃーん? 例の仕事で公園から逃げた後でどうしたんだろって思ってたら、何その格好。 ダッセえなあ、おい」 いつも通りの緩い口調。しかし、『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)の瞳に宿る感情は、憐憫か、哀惜か。彼も素体のフィクサードと一度交戦したリベリスタだ。 断じて平和的な出会いでは無かったし、同情できるような相手でもなかった。 だけど、 「まーいいや、どっちにしろもう潰すしかねーし」 「えぇ、なんにせよ、六道の紫杏派とは決着が付きそうです」 風見・七花(BNE003013)は静かに意志を魔導書''Rousalka''に込める。 目の前のキマイラ、いや、フィクサードが秘める狂気に恐れが無いわけではない。 しかし、リベリスタ達が立ち向かわなくてはいけない相手も、紫杏派だけではないのだ。一刻も早く戦いを終わらせて、次の戦いの備えをしなくてはいけない。あの『楽団』は今日もどこかで、殺戮の序曲を奏でているのだ。 「始めましょう。そして、終わらせましょう」 七花の言葉と共に、雷が戦場を駆け抜けた。 ● 「なかなかいい動きだったね、これ。これも軽木ちゃんが作ったやつ?」 返事が無いのを承知でキマイラに語りかける和人。足元には防衛用の磁界器が転がっていた。 回復スキルの少ないリベリスタ達にとって、磁界器との戦いが長引いていれば、かなりの苦戦を強いられることになっていただろう。実際、彼らの負傷は決して小さいものではない。しかし、足りないものがあれば工夫で補うのがリベリスタ流。 影継の弾丸。 杏と七花の魔術。 黎子の刃。 敵の攻撃力を制圧力で打ち負かしたのである。 しかし、キマイラ本体はいまだに健在だった。 「ギガァァァァァ!」 キマイラは一声上げると、リベリスタ達に向かって羽根を撃ち出す。 一撃一撃の威力は低いが、正確に急所を狙ってくる。それが積み重なると、リベリスタ達の負傷もバカにはならない。加えて、空中という安全圏から攻撃を繰り返してきているのだ。磁界器との戦闘でキーになったリベリスタの攻撃力はどうしたって落ちる。 「元が何者であったとしても……急ごしらえのキメラに負けられません」 肩から流れ出る血を抑えながら、七花は杏に対して癒しの術の詠唱を行う。 運命の力が戦場に意識を繋ぎ止めてくれる。 まだ自分は倒れる訳には行かない。 「相変わらず、その戦法なのなー」 いつの間にかキマイラの下を取って、大地を踏み締める岬。極めて高い機動能力を利用しての遠距離戦を得意としているのは先刻承知。フォーチュナから聞いた範囲では、このキマイラが接近戦を挑まれた場合の戦闘力は、以前交戦したものと比べると圧倒的に低い。だったら、そこを突いてやれば良い。 「既に見せた戦法すら対処できてない、落ちすぎだろー」 アンタレスから放たれた真空の刃がキマイラを襲う。手応えはあった。その証拠に攻撃用ではない羽根がひらひらと舞い降りてきている。 「なるほどな。だったら、もう一発か」 羽根が舞い散る中、集中を高めて行く影継。 狙うべきは奴が攻撃のために翼を広げる瞬間、そしてその翼の付け根だ。 「そろそろ地に足を付ける時間だ! 斜堂流、飛雲落鳥弾!」 放たれた弾丸は真っ直ぐキマイラに向かって突き進んでいく。 そして、弾丸が突き刺さると、キマイラは大きくバランスを崩して、地面にゆっくり落ちてくる。そこに向かって四色の魔力が包み込む。 「自我を失わないならアタシがお願いしたい位だったけど、自我まで失っちゃうんじゃあ意味が無いわね」 杏の織り成す四重奏がキマイラを捕える。高い機動力を誇るキマイラだが、さすがにこの状況で動ける程の機動性を持つわけではない。 「さっさと片付けて帰りましょ」 「あぁ、任せておけよ!」 気合と共に落下してきたキマイラとの距離を詰めて行くのは涼だ。先ほどから距離を持って一方的に攻撃されていたためにフラストレーションが溜まっている。思う存分に発散させてもらえる時が来たのだ。 「悪いね。こう見えて俺も負けず嫌いでね」 近づいて挨拶代わりに拳を見舞う。 「足手まといみたいな状況にされて、ムカついたからその礼だぜ!」 繰り出されるのはこの上なく分かり易く断固として真っ直ぐな拳。 全身の傷も顧みずに、ひたすら拳を叩きつける。 「ああ、遠慮はいらないぜ。両拳とも持っていけよ!」 「軽木ちゃーん、今度は俺が相手ね! あのキマイラ結構強かったけど、軽木ちゃんはどうかなー?」 軽い口調でキマイラの逃げ道を塞ぐ和人。 手に握られた拳銃が清冽な輝きを放つ。 そして、込めた破邪の魔力と共に、グリップで殴りつけた。 (って、あん時の事も覚えてねーかな) 和人の頭をよぎるのは、ほんの一月前に行われた戦い。 激闘の末に勝利したのはリベリスタ達だった。しかし、何かの歯車が狂えば、敗北していたのはリベリスタ達の側だっただろう。その自身こそが、素体のフィクサード――軽木が敗北を認められない理由なのかも知れない。 (バッカだねー、あの負けで諦めて大人しくしてりゃ、これからも大好きな研究とやらが出来たかも知んねーのに。よりによって自分自身をこーするとかさ) 自分の間違いを認め切れず、貫き通した結果、フィクサードは自分自身すら失ってしまった。間違いを認め切れなかった結果がこれである。「貫かない勇気」を選んだ和人からすると、理解出来ない話であり……悲しむべき話だ。 「あー、研究より大好きなお姫様の命令なんだっけ? ……ホント馬鹿だねぇ、軽木ちゃん」 襲い掛かって来たキマイラの爪が、和人を現実に引き戻す。自身を縛っていた魔力を断ち切って最後の反撃に出てきたのだ。相変わらず場の状況を計算しているかのような動き。 いや、実際に計算している可能性も高い。 機械的に無人の部屋に警戒を促す警報機のように。 壊れたテープレコーダーが同じ言葉を繰り返すように。 意義が無くても、意味が無くても、このキマイラは「ただそれだけ」を、「計算して戦うだけ」を繰り返す。 ひょっとしたら、リベリスタ達が退いたとしても、自身がバグホールと化して消失するその日まで、この場を守り続けるのかも知れない。 「たとえ、動きが止まらないとしても!」 止まらない歯車に、「混沌」という名の無秩序が紛れ込む。 「ここは通しません!」 舞うような動きで激しい刺突を繰り出す紗理。 「一人では止められなくとも、私には仲間がいますから!」 少女が秩序と混沌、2振りの刃から繰り出す連撃がキマイラを退かせる。 しかし、キマイラの目が光る。 狡猾な本能が目の前で剣を振るう少女の傷を見抜いたのだ。 刺突のリズムを見抜き、わずかに剣を引く瞬間を本能が捉える。そして、爪が少女の肩甲骨から寛骨までを断ち切ろうと振るわれる。 「ギガァァァァァ!」 勝利の快哉を叫ぶキマイラ。 しかし、彼が夢想した景色は現実のものとならなかった。 「惜しかったですねー」 神秘のカードを手に死神が、いや、黎子が笑う。 カードには死神を表すかのようにジョーカーが笑っている。 彼女の足元では影に紛れるように気糸が蠢いている。そう、キマイラの身体は既に気糸で絡め取られていたのだった。 「ジョーカーを引くのはもう貴方だけです。まだ続けますか?」 挑発気味の黎子に対して吠え声で応えるキマイラ。この状況にあってすら、戦意は衰えていないらしい。いや、命令に背く心と言っても良いのかも知れない。 それを察して黎子はやれやれと肩を竦める。 キマイラの前では決着を着けるべく、リベリスタ達が手ぐすね引いて待っていた。 「最後にもう一発、ぶん殴らせてもらうぜ」 「行くよー、アンタレス!」 「フィクサード、アンタの計算は根本が間違ってんだよ!」 この瞬間、もし軽木の自我が残っていたら、こう計算していただろう。 彼らの攻撃を躱して、自分が勝利する可能性はゼロ。躱す行為に意味は無い、と。 ● 「猛き者もついには滅びぬ、というところでしょうか……」 七花が悲しげに声を漏らす。 キマイラの末路は決まっている。 この世界に灰すら残さず、消滅していくのみだ。あるいは、踏み込み過ぎた人間へ、「カミサマと呼ばれるナニカ」が行う警鐘なのだろうか。 「まあ、それほどまでに尽くせる主に出会えて彼は幸せだったのかしらね?」 灰と散って行くキマイラを眺めて杏は呟く。 (あたしにはただの我侭で泣き虫な小娘のようにしか思えないのだけれどね) その我が儘で泣き虫な小娘が全ての発端なのだ。それを思えば、わずかに憐憫の情がわかないでもない。もっとも、杏が知り合ったとあるフィクサード集団が、同じ姿で散っていた可能性もあった訳だが。 「ま、早い所乗り込もうぜ。中にいる連中に逃げられるのもなんだしな」 諜報活動を得意とする影継の言葉にリベリスタ達が頷く。データ収集に、残党の処理。彼にとってやらなくてはいけないことは多い。 七花にしたって、感傷に浸るよりもキマイラによる事件にケリを付けたい気持ちの方が強い。 そんな中、和人は最後までキマイラの消滅を眺めていた。 「文字通り自分の身を犠牲にした結果がこれかー。やっぱ俺にゃよく分かんねーや」 軽木の生き方は最後まで理解することが叶わなかった。仮に彼が生き残って、じっくり話す機会があったとしても、それは変わらなかっただろう。 「せめて軽木ちゃんが満足に死ねたならいいんだけど」 六道を彷徨う果てに、フィクサードが何を見たのかは分からない。 しかし、その果てに得るものがあったことを祈り、皆の後ろから和人は研究所の中へと進んでいった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|