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遺された想いは美しい


「どうしたの? お姉さん、泣いてるの?」
 供えられた花束の前、路地裏で啜り泣く女の身体がびくりと震えた。振り向けば、少女がひとり。
 ながい髪にまあるい瞳、服装はゴシックロリータ、というあれだろうか。傘まで真黒である。黒ばかりに身を包んだ出で立ちの少女は、女にハンカチを差し出した。やっぱり真っ黒なハンカチだった。
「なんでも、ないのよ」
「誰か、亡くなったの?」
 たくさんの花などが供えられてるそれを見て。
 大切なひとを喪うことは辛いよね、と呟く少女の言葉に、女は堪えきれず大粒の涙を溢した。
「ねえ。ぼく、しってるよ」
「………え? な、なに、を?」
「貴女の大切な妹さんを殺したひとが誰なのか、しってるよ」
「……………え?」
「おしえてあげる。ぼくはイザベル、ベルでいいよ。仲良くしようよ、お姉さん」


「羽付かめこって、知ってる?」
 知らないなら、いいけれど。そう言うと『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は、モニターの電源を入れた。ぱっと映し出される映像。ナイフを構えた女がひとりと、赤い宝石が埋め込まれた指輪がひとつ。
「彼女の名前は羽付かずこ。手に入れたアーティファクトでアークのリベリスタを襲ってる。
 彼女には妹が居たの。妹を殺した犯人がアークのリベリスタだと知って、強く恨んでる」
 待った、とリベリスタが話を制止する。羽付かずこにアーティファクトと情報を与えた人物は?と。
 問い掛けられた言葉に、彼女にアーティファクトと情報を与えた人物のことも視えたけど、その場にはいないから、と。イヴはふるふる首を振って。
「アーティファクトの回収か破壊。それと、アーティファクトが生み出すEフォースの討伐に集中して」
 イヴがモニターを操作する。ぱっと画面が切り替わり映ったのは、燃える炎の様な赤い影。
 表情などは読みとれないが、その姿は長いおさげ髪の少女のように見える。
「アーティファクト『花嫁の薬指』から作り出されたエリューション、識別名『いもうと』。」
 『いもうと』は、かずこがリベリスタと認識した瞬間、姿を現す。
「戦闘能力や耐久力、共にそれほど優れている訳じゃないけれど、油断したら駄目だよ」
 『いもうと』は少しずつ受けたダメージを蓄積していく。そして、自身が倒された瞬間に今まで蓄積していたダメージすべてを、倒した人に返すと言う。
 また、かずこがかめこを想えば想うほど、その数を増やしていくようで、その数今や8体。
「戦闘中にも増えちゃうかもしれない、気を付けて。詳しい情報は資料を見てもらうとして……。
 かずこが持ってるアーティファクトはそれだけじゃない。こっちのほうが、ちょっと、厄介かも」
 彼女の持つナイフ。アーティファクト『羽斬り鋏』。
 所持者が望めば、一人でに戦うナイフ。非力な一般人でも、リベリスタにダメージを与えることが出来る。けれど、与えたダメージの半分が所持者に返る、というものらしい。何かを為す為には、相応のリスクを負えということか。
 だが、それは、つまり。すべてを言わなくとも、リベリスタたちには分かることだ。
「襲われたリベリスタたちは、大層な傷を追って運び込まれたけれど、幸いまだ誰も死んでない。
 ……だから。助けてあげて、救ってあげて。まだ、間に合うから」
 イヴは、胸の前で祈るように重ねた手をゆっくりと解いて。リベリスタたちを送り出した。


 血溜まりのなかに横たわっているひとたち。
 わたしが、やったのだ。いや、手を下したのはわたしではないけれど。でもかれらが、しんだのは。
 かれらをころしたのは。それは。それはそれは、それは。 ……それは?
 ああ、きもちわるい。たすけて、だれか。にげだしてしまいたい。ああ、あああああ! でも!
 血溜まりを踏んでこちらに歩み寄った、少女が楽しそうに笑んでいる。
「うんっ、上出来だね! 奴らも自分が犯した罪に気付くさ。それじゃ、復讐がんばってね、お姉さん」
 ひらひら、少女が手を振って去っていく。
 そうだ。かめこを殺した奴らをこの手で殺す、までは。逃げるわけには、いかないのだ。
 ぎゅう、と。渡されたナイフを強く握った。もうすこし、もうすこし。あんたの無念は、私が晴らすわ。
「家族愛ってうつくしいね。……あ。そう言えば大事なこと、言い忘れちゃった。けど、まあいいよね!」
 少女は演技掛かった表情で、いっけない!と舌を出して、自分の頭をこつんと小突く。
 お姉さんはきっと、自分の命を賭してでも復讐をしてくれるよね。だって、それが愛ってものでしょう?


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:あまのいろは  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月06日(水)23:16
 本作は『想い出は美しく残して』で亡くなった一般人、羽付かめこの姉の話ですが、
 シナリオを読まなくとも、かめこのことを知らなくとも全く問題ありません。
 以下、詳細となります。

●成功条件
 Eフォース『いもうと』の討伐
 アーティファクト『花嫁の薬指』と『羽斬り鋏』の回収or破壊

●Eフォース『いもうと』×8
 燃える炎のような赤い影のEフォース。少女の形をしています。
 シナリオ『想い出は美しく残して』に参加したキャラクターが居た場合、
 『いもうと』はそのキャラクターを優先的に攻撃を仕掛けます。
 HPはそれほど高くはありません。全て有する能力は同じです。攻撃方法は以下。
・我慢(P)
 ダメージが増える度、防御力が増加します
・痛くない(P/追加効果:反撃+BS:虚弱)
 自身を攻撃した相手の攻撃力を自動的に低下させます
・呪い返し(P/物遠単特大ダメージ)
 自身が倒される瞬間、蓄積したダメージすべてを自身を倒した相手に返します
・羽根付きカメラ(A/神遠範/BS:混乱)
 強い光を起こし、周囲の者を混乱させます。ダメージはありません。
アーティファクト『花嫁の薬指』が破壊されれば姿を消します。

●アーティファクト『花嫁の薬指』
 Eフォースを作りだす赤い宝石が埋め込まれた指輪です。
 所持者の想いが強いほど、強力なEフォースを作り出します。

●アーティファクト『羽斬り鋏』
 非力な一般人でも、革醒者にダメージを与えることが出来ます。
 ですが、その代償として与えたダメージの半分が、飛行中の革醒者と所持者に均等に返ります。

●一般人『羽付かずこ』
 シナリオ、『想い出は美しく残して』で死亡した、羽付かめこの姉。
 大学二年生。真っ直ぐな黒髪は肩辺りで揃えています。
 イザベルと名乗る少女にアーティファクトを受け取り、真実を知りました。
 アークのリベリスタに強い憎悪を抱き、妹の復讐しようとしています。
 上記2点のアーティファクトを所持しています。
 かずこは退きません、引きません。命を賭けてでも、という覚悟はあるようです。

●UNKNOWN『イザベル』
 ゴシックロリータ愛用、服装から何まで黒で統一している少女。
 羽付かずこにアーティファクトを与えた人物です。戦場には姿を現しません。

●補足
 時間帯は夕暮れ時、羽付かめこが死亡した裏道に羽付かずこが居ます。
 戦闘するための広さは十分あり、普段は人があまり通らない裏道ですが、
 一本向こうの通りは住宅街に繋がっていますので、お気を付け下さい。

 情報は以上となります。ご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
プロアデプト
氏名 姓(BNE002967)
インヤンマスター
式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)
レイザータクト
ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)
レイザータクト
神葬 陸駆(BNE004022)
マグメイガス
巴 とよ(BNE004221)


 茜が差す、どこかの裏道。すうと真っ直ぐに伸びるひとりの影。
 供えられた花束の前で、ぎゅうとナイフを握って立っているその人こそ、羽付かずこだった。
「ねえ、かめこ。昨日はね、ふたり。ふたり、殺したけれど。あんたを殺したやつだったのかな」
 呟くこえに、勿論返事はない。
 ひとを殺すということは。故意に傷つけるということは。ただのひとの心を狂わすには、十分すぎるのだろう。返事は無いというのに、かずこは『かめこ』に、つらつらと何かを語り続けている。
 そんなかずこが、リベリスタが近付いてきていることなど、気付くはずもなかった。

 その間にも、リベリスタたちが、かずこの居る裏道へと進んでいく。
「事の次第は聞いたわ。確かに怨みを買っても仕方ないでしょうね」
 ぽつりと、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が呟いた。
 一般人を殺す結果に至ってしまった。でも、それを責め立てることは出来ないと、誰もが理解している。
 アークのリベリスタである以上、請け負った任務を遂行するということは当り前ことなのだから。
 そのときに居合わせた『足らずの』晦 烏(BNE002858) と、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は複雑そうな表情を浮かべて。
「ま、因果な商売だよな」
 烏は煙草に火を付けながら、静かに、ひとことだけ。おおきく吸って、吐いて。ゆらゆら紫煙が昇る。
 リベリスタたちがかずこの姿を捉えた。だが、こちらに気付くこともなく、何かを語りかけている。
「復讐は否定しない、気持ちも判る。でも……、………心が壊れるような事は、駄目だと思うの」
「……私も復讐を果たさんとするかずこさんの、『復讐者』の気持ちなら解るのです」
 その姿を見た『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754) と『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438) が言葉を交わす。
 大切な友人を奪われ復讐を為したい雅と、大切な恋人のためなら復讐者となることも厭わない櫻子。抱いた感情は、似て非なるものだったけれど、ふたりともその気持ちは理解している。
 伸びた影がかずこに掛かったその時、はっと顔を上げた彼女はぐるりとリベリスタたちを見回す。
「………」
 言葉は無く。どこかにごったうつろなひとみが、不思議そうにリベリスタたちを見つめる。
「ねえ、もしかして」
「そう。私達は君が持ってるナイフと指輪を回収し」
「リベリスタ?」
 『0』氏名 姓(BNE002967) の言葉を断ち切るように。
 すべてを聞かずとも、かずこは理解した。かずこの指で指輪―――アーティファクトである『花嫁の薬指』に嵌められた宝石が光を放つ。
 その瞬間、かずことリベリスタたちの間に次々と現れたのは、燃える炎のようなエリューションフォース『いもうと』。妹を失った姉の想いが形を為し、リベリスタたちに襲いかかる。
 かずこの唇が、僅かに動いたが、そのこえはリベリスタたちに届くことなく消えていく。
 かずこが持つもうひとつのアーティファクト『羽斬り鋏』は、かたかたと彼女の手のなかで震えていた。

 リベリスタたちを阻む八人のいもうとたちに、ミュゼーヌの弾丸が雨のように降り注ぐ。
 それと同時に、ミュゼーヌにも衝撃が走った。情報通り、いもうとを攻撃すれば自分自身も傷つく。
 かずこを殺せば、受ける傷は少ないだろうけれど、そうしようとは思わなかった。
 ただの独り善がり。この世界に生きる人を守りたいからそうする。そんな感情論。
 心無いひとが笑いそうな理由だが、ミュゼーヌのひとみは揺らがず、強い光を持っている。
「皆さん、優先すべきいもうとが居たら言って下さい」
 巴 とよ(BNE004221) が自身の魔力を高めてながら、言った。
 きりりと凛々しく見せても、彼女のこころのどこかににくすぶる恐怖心。初めて戦う一般人。
 もしも、殺すことになってしまったら。ふるふると首を振って、恐怖心を振り払う。倒すのは、いもうとだけ。攻撃するのも、いもうとだけだ。とよが恐れる結果など、きっと訪れないと願って。
 戦場の指揮の一端を担うのは、『フェイトストラーダ』ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784) 。
 妹の為に復讐を為そうとする、姉の姿。ユイトは故郷の兄に想いを馳せる。
 自分が殺されたとして、自分は兄に復讐など望むだろうか。考えるまでも無く、答えは否である。
「僕は誰かに殺されたとしても、兄に復讐なんか望まないぜ」
 かめこは復讐を望んだのだろうか。きっと、ユイトと同じで、違うはずだろう。


 いもうとは、明確にふたりのリベリスタを狙っていた。そう、烏と陸駆である。
 影のようないもうとの表情は分からない。でも、その姿はあの時救えなかった、羽付かめこそのもの。
 かめこのことを思い出す。守りたかった。けれど、届かずに目の前で消えていったいのち。
「どうしてかめこを殺したの!!!」
 リベリスタたちに遠慮なく投げつけられる呪いのことば。きりりと胸が締め付けられる。
 あのときに庇っていれば。燃えていくかめこの姿が、脳裏に焼き付いたまま離れない。
 殺そうと思っていた訳では無い。でも、守れなかったのだ。言い訳はしない。そう、殺したも同然だ。

 ―――――――― 間接的にでも彼女を殺したのは僕だ。

 陸駆が口を開いた。
 告げた言葉は、すべてを知るリベリスタからすれば、事実と異なることだった。
 けれど、かずこがずっと知りたかったこと、このような行動に及んでしまった原因、そのものだった。
「……羽付かずこ。貴様の妹を殺したのは僕だ」
 その言葉に、誰もが息を飲んだ。見開かれたひとみが、陸駆を見つめる。
「あなたみたいな、子供が……?」
「ああ、それは無様な最後だったぞ」
 どこか挑発的な視線でかずこを見遣る。言葉を失ったかずこが、羽斬り鋏を握ったまま立ちすくむ。
(僕は天才だ。演じることなど、天才には容易い)
 信じるには十分すぎる言葉と、態度だった。羽斬り鋏がかずこの手を離れ、陸駆の頬を掠める。
 かずこの受けるダメージを減らすため、櫻子の翼の加護を受け、低空飛行をしていたリベリスタも居た。
 羽斬り鋏が与えたダメージはリベリスタたちにも返っていくが、かずこの頬も切れて血が滴っていく。すこし歪んだ事実を知った彼女は、自身を苛む痛みにすら気付かない。
「ただでさえ狙われるって分かってるのに、無茶するわね」
 でも、それもいもうとを雅が引き付けてくれると信じてのことだろうか。
 さらりと無茶をする陸駆の姿に溜息ひとつしてから、いもうとたちへアッパーユアハートを放つ。
 何人かのいもうとが動きを止めて、それから。表情の無い顔を、一斉に雅に向けた。
 大切ないもうとを、このように使って、傷つけて、そうして自分も傷ついていく。
 復讐とは、そういうものだ。綺麗なままでなんて、いられない。けれど。
「……本当にそんなんでいいのかよ」
 思わずぎりりと、奥歯をきつく噛んだ。
「得体の知れねえ道具を使って満足でも良いがよ。
 それで心を壊して良いのかよ! そんなんで自分が納得できるのかよ!」
 色々な感情を抑えきれず、口から飛び出した雅のこえは、まだかずこには届かない。
 ユイトが投擲した光の塊が、いもうとたちの動きを鈍らせる。だが、その間にも羽斬り鋏はくるくると自在に動きまわり、ひとつ、またひとつと、かずこの身体にも傷を増やしていった。

 攻撃が届く限界まで距離をとったとよとミュゼーヌは、しっかりとかずこを、いもうとを見据えてその時を待っていた。マスケット銃を構えるミュゼーヌの動きがくんと引き留められる。驚いたミュゼーヌが振り向けば、とよがコートの裾をきゅ、と摘まんでいた。
「………あ、すみません」
 無意識にコートを握っていたとよがぱっと手を離せば、ミュゼーヌは優しく微笑んで。
「大丈夫よ。私たちはかずこさんを傷つけないわ。守るのよ」
 その言葉にとよは力強く頷いた。並んで魔導書を開けば、ノイズの混じった音がアクセスファンタズムから聞こえてきた。戦場を見渡す。姓がひらひらと、手を振っている。
「行きましょう、とよさん。私達は……道をこじ開けるわ!」
 動く針の穴さえ撃ち抜く射撃と、魔術の力を持って呼び出された大鎌が、いもうとたちを狙い打つ。
 その攻撃にいもうとたちは耐えきれない。ひとり、ふたり。炎が燃え尽きるように、消えていく。
 それと同時に、いもうとたちの強い想いが、とよとミュゼーヌを狙って飛んでいく。だが、その攻撃はふたりに届くことは無かった。ミュゼーヌの不安は、どうやら杞憂に終わったようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
「それにしても……」
 遠目で見ても分かるほどに、かずこは疲労している。服は血に染まり、足はがくがくと震えている。
 痛々しいその姿にとよの目に涙が滲む。だが、とよは涙を必死に押し留めていた。
 まだ、何も終わってはいないのだから。
「やめて、やめてよ! かめこに何をするの!!」
 崩れ落ちるいもうとたち。ふらつく足で、かずこがいもうとに手を伸ばす。けれど、その手に救えるものは何もない。かずこは、消えていくいもうとたちを見ていることしか、出来なかった。
 まるであの時のようだ、と思いながら。烏は気糸でいもうとを縛り付ける。
 烏は時に防御をしながら、時に姓に庇われながら、少しずつでも確実にかずこへの距離を詰めていく。
(遅かれ早かれ通る道じゃぁあるがな。命を奪うのに慣れろと言って慣れるもんじゃねぇが……)
 いもうとたちの集中攻撃を受けていた烏の傷は軽いものでは無い。運命を燃やして、尚立ち向かう。
 より重い傷を負うのは、こころとからだ、はたして、どちらだろう?


 いもうとが放った光が弾ける。ユイト、とよの視界がくらくら歪む。
「この復讐を否定しませんわ、貴女はその権利を持っているのですから」
 櫻子もその光を浴びたものの、彼女は惑わされることはない。眩しそうに目を細めた彼女は、仲間たちを正常に引き戻すべく詠唱を唱えた。
 次の瞬間、癒しの息吹が広り傷を癒していく。ふたりとも、運良く正常に戻ることが出来た。
「私は貴女を助けるなどと、言う気はありませんから。かずこさん、貴女の想いは、本物かしら?」
 櫻子がかずこに向ける、どこか冷やかな視線。似ているからこそ、感じる何かがあるのだろう。
 陸駆がいもうとを吹き飛ばす。そうして出来た道を、烏と姓が駆け抜ける。
 いもうとたちの数も減ってきた。運命を燃やすほどに、傷ついたリベリスタもいる。ただのひとであるかずこの傷も、深いものだった。
「私も"仕事"で色々奪って来たよ。
 けど、どんな理由であれ大切なものを奪ってしまった罪は、許されるべきではない。そう思ってる」
 だからこそ、姓は彼女をただの人殺しには、したくないと思うのだ。
「そうね。私も、たくさん殺したわ。たくさん奪ったもの。だから、もう、私には!」
 あんたたちを殺すしか、ないのよ。固まった思考は、それ以外の可能性を考えることはしない。
 自分が罪を犯したのだと、彼女は理解していた。望まれないであろうことも、同じように理解していた。
 彼女がただのひとのままならば。アーティファクトを受け取ることが無かったのならば。
 きっと彼女は、少しずつでも心の折り合いをつけていくことが出来ただろう。
「罪が許されないのは等しく同じ。けれど、君は未だ戻ることが出来る。君が襲った人達はまだ生きてる」
 ぴくり。かずこの身体が微かに震えた。疑うような視線を姓に向ける。
「……生きてるの?」
「そう、生きてるよ。妹さんは君が命を削って手を汚す事を望む様な子だったの?」
 答えは考えずとも分かる。否。あの子は誰かを傷つけることなど、望むような子じゃない。
「この復讐は唆されたんでしょ? 君自身が今やってる事と同じ事を遺す人達に望めるの?」
「それ、は……」
 同じように、考えずとも分かることだ。望まない。望む訳がない。大切なひとが人殺しになるなんて!

 ぬっと伸びた高い影。烏がかずこの前に立ち塞がる。
 ひ、と小さな悲鳴を上げて、かずこは後ずさった。だが、逃がさないようにと彼女の手首を掴む。
「離して!!」
 リベリスタと一般人である前に、男性と女性である。その手を振り払うことは出来ない。
「なあ、かずこ君。おじさんの話、聞いてくれるかね」
 あの日、何が起きていたのか。何故、妹が死ぬことになったのか。
 誰が殺した、ということを明確に告げることはしなかったけれど。陸駆が語った言葉より、少しだけ踏み込んだ話。烏なりの精一杯の誠意の形だった。
 烏が語る間にも、羽斬り鋏はぐるりと舞っている。
 陸駆が何度も何度も攻撃をしていたが、壊すまでには至っていなかった。
 烏に向けて一直線に飛んでいく。それに気付いたとよが狙い打つが、壊れるには少し足りない。
 烏の、かずこの背中に痛みが走る。痛みに耐えきれずバランスを崩したかずこの手首を掴んだまま。
「憎んでくれても怨んでくれても構わんさ。ただ、殺されてやるわけにはいかねえんだ」
 その指先から、指輪をそっと引き抜いた。
「何時かはこの因果が反る身だ、それまで待っていてくれ」
 煙草の火を踏み消すように、烏が指輪を粉々に踏み潰せば、いもうとたちが姿を消していく。
「貴様を護るものはなくなったぞ!」
「かめこ! やだ、かめこ、消えないで!!!」
 姉の前で、死んだいもうとたちは消えて行った。けれど、もうひとつのアーティファクトが残っている。
 しかし、ミュゼーヌには見えていた。ナイフの腹には、罅が入っていることに。
「……身に余るその玩具、取り上げさせてもらうわよ!」
 寸分狂わぬ射的で狙い打つ。放たれる弾丸が、羽斬り鋏を打ち砕いた。
 空中でバラバラになった破片が、キィンと音を立てながら、落ちていった。

 戦う術をすべて失ったかずこが、かくんと膝を着く。
「……これで気が済みましたか? 私に解るのは、貴女の復讐心が『本物』では無かったと言う……」
 冷やかに言い放った櫻子の言葉を、ミュゼーヌがやめてあげて、と制止する。
「憎悪を忘れるなんて、出来ないわよね。けれど、私達は貴女が助かって良かったと思ってる」
「ほんとうによかったです、よかったですね」
 とよがその目にいっぱいに貯めているのは、安堵の涙。けれど、かずこ自身の表情は暗いまま。
「なあ、この復讐は、誰の為の復讐だったんだ?
 貴女が晴らそうとしてるのは、誰の無念だ? 妹のものか? それとも、貴女自身の無念か?」
「あたしも、復讐したい奴がいるよ。けど、復讐は結局自分の為だ。あいつの為じゃない」
 ユイトの質問に、かずこは俯いたまま答えない。雅がかずこの胸元を掴み、自分の方へと向けさせる。
「あいつはもう泣きも笑いもしない! あんたの妹だってそうだ。
 自分の心に整理を付けたいだけなんだ。だから、あたしは自分でなんとかすると決めた。あんたはどうなんだ」
「……答えてくれよ、羽付かずこ。貴女は何の迷いもなく、本当に妹の無念の為だと言えるのか?
 そうだと言うのなら、それが妹が貴女に遺したものになってしまうんだぜ。そんなんでいいのかよ!」
 彼女が、心も体も完全に壊してしまう結末を迎えたのなら。
 妹が望まぬとも、まるで彼女がそれを望んだかのようになってしまう。かめこが残したものは、きっともっと、違うもののはずだ。あたたかくてしあわせな、家族の想いのはずだ。
 けれど、大切が故に。このような手段を実行してしまった。その想いに、偽物も本物も、無いだろう。
「君にも、家族や友達がいる筈だ。君を喪えば嘆くよ。遺す方も遺される方も、大切な人が傷つけば辛い。
 ねえ。君が味わった以上の苦しみを、彼らに遺して良いの?」
 姓が彼女の傷を癒しながら言う。驚いたように瞬くかずこは、ゆっくりとリベリスタの顔を見回す。

 その復讐は誰の為なのだと、問うこえ。
 その復讐は本当に望まれているのかと、諭すこえ。
 そのこえひとつひとつは、実はとてもとても優しくて、それでいて、正しかったけれど。
 けれど。それでも。
 ゆるゆると伸びた手が、陸駆の首を絞める。ぐ、と苦しそうに呻いたものの、彼は抗うことをしない。
 何より今の彼女に、絞め殺すほどの力が残っていないことは陸駆が一番理解していた。
「……復讐が、なにも生まないなど嘘だ。憎しみという感情が生まれてるのだ」
「原因を作ったのは、あんたたちのくせに。ねえ、あんたたちが、憎いわ」
 勝手に奪って、助けて、そんなことを出来る貴方たちが。そんな力を持った貴方たちが。全部全部!!
 殺してやりたいのに、そう呟いたのを最後にかずこは意識を手放した。崩れ落ちる身体を支えてやる。
 望んだ通りの結末。エリューションは消え一般人は助かった。けれど。締められた首がひりりと痛んだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 このような結果となりましたが、如何でしたでしょうか。

 強い想いというものは、そう簡単に変化するものでは無いと思いますが、
 きっと何か変化が現れるのではないでしょうか。良い方向か悪い方向かは分かりませんが。
 それほどに熱く、想いの込められたプレイングばかりでした。
 プレイングは勿論、活発に相談を回して話し合う姿もとても素晴らしかったです。

 お疲れさまでした、またご縁がありましたら。