● 「どうしたの? お姉さん、泣いてるの?」 供えられた花束の前、路地裏で啜り泣く女の身体がびくりと震えた。振り向けば、少女がひとり。 ながい髪にまあるい瞳、服装はゴシックロリータ、というあれだろうか。傘まで真黒である。黒ばかりに身を包んだ出で立ちの少女は、女にハンカチを差し出した。やっぱり真っ黒なハンカチだった。 「なんでも、ないのよ」 「誰か、亡くなったの?」 たくさんの花などが供えられてるそれを見て。 大切なひとを喪うことは辛いよね、と呟く少女の言葉に、女は堪えきれず大粒の涙を溢した。 「ねえ。ぼく、しってるよ」 「………え? な、なに、を?」 「貴女の大切な妹さんを殺したひとが誰なのか、しってるよ」 「……………え?」 「おしえてあげる。ぼくはイザベル、ベルでいいよ。仲良くしようよ、お姉さん」 ● 「羽付かめこって、知ってる?」 知らないなら、いいけれど。そう言うと『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は、モニターの電源を入れた。ぱっと映し出される映像。ナイフを構えた女がひとりと、赤い宝石が埋め込まれた指輪がひとつ。 「彼女の名前は羽付かずこ。手に入れたアーティファクトでアークのリベリスタを襲ってる。 彼女には妹が居たの。妹を殺した犯人がアークのリベリスタだと知って、強く恨んでる」 待った、とリベリスタが話を制止する。羽付かずこにアーティファクトと情報を与えた人物は?と。 問い掛けられた言葉に、彼女にアーティファクトと情報を与えた人物のことも視えたけど、その場にはいないから、と。イヴはふるふる首を振って。 「アーティファクトの回収か破壊。それと、アーティファクトが生み出すEフォースの討伐に集中して」 イヴがモニターを操作する。ぱっと画面が切り替わり映ったのは、燃える炎の様な赤い影。 表情などは読みとれないが、その姿は長いおさげ髪の少女のように見える。 「アーティファクト『花嫁の薬指』から作り出されたエリューション、識別名『いもうと』。」 『いもうと』は、かずこがリベリスタと認識した瞬間、姿を現す。 「戦闘能力や耐久力、共にそれほど優れている訳じゃないけれど、油断したら駄目だよ」 『いもうと』は少しずつ受けたダメージを蓄積していく。そして、自身が倒された瞬間に今まで蓄積していたダメージすべてを、倒した人に返すと言う。 また、かずこがかめこを想えば想うほど、その数を増やしていくようで、その数今や8体。 「戦闘中にも増えちゃうかもしれない、気を付けて。詳しい情報は資料を見てもらうとして……。 かずこが持ってるアーティファクトはそれだけじゃない。こっちのほうが、ちょっと、厄介かも」 彼女の持つナイフ。アーティファクト『羽斬り鋏』。 所持者が望めば、一人でに戦うナイフ。非力な一般人でも、リベリスタにダメージを与えることが出来る。けれど、与えたダメージの半分が所持者に返る、というものらしい。何かを為す為には、相応のリスクを負えということか。 だが、それは、つまり。すべてを言わなくとも、リベリスタたちには分かることだ。 「襲われたリベリスタたちは、大層な傷を追って運び込まれたけれど、幸いまだ誰も死んでない。 ……だから。助けてあげて、救ってあげて。まだ、間に合うから」 イヴは、胸の前で祈るように重ねた手をゆっくりと解いて。リベリスタたちを送り出した。 ● 血溜まりのなかに横たわっているひとたち。 わたしが、やったのだ。いや、手を下したのはわたしではないけれど。でもかれらが、しんだのは。 かれらをころしたのは。それは。それはそれは、それは。 ……それは? ああ、きもちわるい。たすけて、だれか。にげだしてしまいたい。ああ、あああああ! でも! 血溜まりを踏んでこちらに歩み寄った、少女が楽しそうに笑んでいる。 「うんっ、上出来だね! 奴らも自分が犯した罪に気付くさ。それじゃ、復讐がんばってね、お姉さん」 ひらひら、少女が手を振って去っていく。 そうだ。かめこを殺した奴らをこの手で殺す、までは。逃げるわけには、いかないのだ。 ぎゅう、と。渡されたナイフを強く握った。もうすこし、もうすこし。あんたの無念は、私が晴らすわ。 「家族愛ってうつくしいね。……あ。そう言えば大事なこと、言い忘れちゃった。けど、まあいいよね!」 少女は演技掛かった表情で、いっけない!と舌を出して、自分の頭をこつんと小突く。 お姉さんはきっと、自分の命を賭してでも復讐をしてくれるよね。だって、それが愛ってものでしょう? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あまのいろは | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月06日(水)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 茜が差す、どこかの裏道。すうと真っ直ぐに伸びるひとりの影。 供えられた花束の前で、ぎゅうとナイフを握って立っているその人こそ、羽付かずこだった。 「ねえ、かめこ。昨日はね、ふたり。ふたり、殺したけれど。あんたを殺したやつだったのかな」 呟くこえに、勿論返事はない。 ひとを殺すということは。故意に傷つけるということは。ただのひとの心を狂わすには、十分すぎるのだろう。返事は無いというのに、かずこは『かめこ』に、つらつらと何かを語り続けている。 そんなかずこが、リベリスタが近付いてきていることなど、気付くはずもなかった。 その間にも、リベリスタたちが、かずこの居る裏道へと進んでいく。 「事の次第は聞いたわ。確かに怨みを買っても仕方ないでしょうね」 ぽつりと、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が呟いた。 一般人を殺す結果に至ってしまった。でも、それを責め立てることは出来ないと、誰もが理解している。 アークのリベリスタである以上、請け負った任務を遂行するということは当り前ことなのだから。 そのときに居合わせた『足らずの』晦 烏(BNE002858) と、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は複雑そうな表情を浮かべて。 「ま、因果な商売だよな」 烏は煙草に火を付けながら、静かに、ひとことだけ。おおきく吸って、吐いて。ゆらゆら紫煙が昇る。 リベリスタたちがかずこの姿を捉えた。だが、こちらに気付くこともなく、何かを語りかけている。 「復讐は否定しない、気持ちも判る。でも……、………心が壊れるような事は、駄目だと思うの」 「……私も復讐を果たさんとするかずこさんの、『復讐者』の気持ちなら解るのです」 その姿を見た『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754) と『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438) が言葉を交わす。 大切な友人を奪われ復讐を為したい雅と、大切な恋人のためなら復讐者となることも厭わない櫻子。抱いた感情は、似て非なるものだったけれど、ふたりともその気持ちは理解している。 伸びた影がかずこに掛かったその時、はっと顔を上げた彼女はぐるりとリベリスタたちを見回す。 「………」 言葉は無く。どこかにごったうつろなひとみが、不思議そうにリベリスタたちを見つめる。 「ねえ、もしかして」 「そう。私達は君が持ってるナイフと指輪を回収し」 「リベリスタ?」 『0』氏名 姓(BNE002967) の言葉を断ち切るように。 すべてを聞かずとも、かずこは理解した。かずこの指で指輪―――アーティファクトである『花嫁の薬指』に嵌められた宝石が光を放つ。 その瞬間、かずことリベリスタたちの間に次々と現れたのは、燃える炎のようなエリューションフォース『いもうと』。妹を失った姉の想いが形を為し、リベリスタたちに襲いかかる。 かずこの唇が、僅かに動いたが、そのこえはリベリスタたちに届くことなく消えていく。 かずこが持つもうひとつのアーティファクト『羽斬り鋏』は、かたかたと彼女の手のなかで震えていた。 リベリスタたちを阻む八人のいもうとたちに、ミュゼーヌの弾丸が雨のように降り注ぐ。 それと同時に、ミュゼーヌにも衝撃が走った。情報通り、いもうとを攻撃すれば自分自身も傷つく。 かずこを殺せば、受ける傷は少ないだろうけれど、そうしようとは思わなかった。 ただの独り善がり。この世界に生きる人を守りたいからそうする。そんな感情論。 心無いひとが笑いそうな理由だが、ミュゼーヌのひとみは揺らがず、強い光を持っている。 「皆さん、優先すべきいもうとが居たら言って下さい」 巴 とよ(BNE004221) が自身の魔力を高めてながら、言った。 きりりと凛々しく見せても、彼女のこころのどこかににくすぶる恐怖心。初めて戦う一般人。 もしも、殺すことになってしまったら。ふるふると首を振って、恐怖心を振り払う。倒すのは、いもうとだけ。攻撃するのも、いもうとだけだ。とよが恐れる結果など、きっと訪れないと願って。 戦場の指揮の一端を担うのは、『フェイトストラーダ』ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784) 。 妹の為に復讐を為そうとする、姉の姿。ユイトは故郷の兄に想いを馳せる。 自分が殺されたとして、自分は兄に復讐など望むだろうか。考えるまでも無く、答えは否である。 「僕は誰かに殺されたとしても、兄に復讐なんか望まないぜ」 かめこは復讐を望んだのだろうか。きっと、ユイトと同じで、違うはずだろう。 ● いもうとは、明確にふたりのリベリスタを狙っていた。そう、烏と陸駆である。 影のようないもうとの表情は分からない。でも、その姿はあの時救えなかった、羽付かめこそのもの。 かめこのことを思い出す。守りたかった。けれど、届かずに目の前で消えていったいのち。 「どうしてかめこを殺したの!!!」 リベリスタたちに遠慮なく投げつけられる呪いのことば。きりりと胸が締め付けられる。 あのときに庇っていれば。燃えていくかめこの姿が、脳裏に焼き付いたまま離れない。 殺そうと思っていた訳では無い。でも、守れなかったのだ。言い訳はしない。そう、殺したも同然だ。 ―――――――― 間接的にでも彼女を殺したのは僕だ。 陸駆が口を開いた。 告げた言葉は、すべてを知るリベリスタからすれば、事実と異なることだった。 けれど、かずこがずっと知りたかったこと、このような行動に及んでしまった原因、そのものだった。 「……羽付かずこ。貴様の妹を殺したのは僕だ」 その言葉に、誰もが息を飲んだ。見開かれたひとみが、陸駆を見つめる。 「あなたみたいな、子供が……?」 「ああ、それは無様な最後だったぞ」 どこか挑発的な視線でかずこを見遣る。言葉を失ったかずこが、羽斬り鋏を握ったまま立ちすくむ。 (僕は天才だ。演じることなど、天才には容易い) 信じるには十分すぎる言葉と、態度だった。羽斬り鋏がかずこの手を離れ、陸駆の頬を掠める。 かずこの受けるダメージを減らすため、櫻子の翼の加護を受け、低空飛行をしていたリベリスタも居た。 羽斬り鋏が与えたダメージはリベリスタたちにも返っていくが、かずこの頬も切れて血が滴っていく。すこし歪んだ事実を知った彼女は、自身を苛む痛みにすら気付かない。 「ただでさえ狙われるって分かってるのに、無茶するわね」 でも、それもいもうとを雅が引き付けてくれると信じてのことだろうか。 さらりと無茶をする陸駆の姿に溜息ひとつしてから、いもうとたちへアッパーユアハートを放つ。 何人かのいもうとが動きを止めて、それから。表情の無い顔を、一斉に雅に向けた。 大切ないもうとを、このように使って、傷つけて、そうして自分も傷ついていく。 復讐とは、そういうものだ。綺麗なままでなんて、いられない。けれど。 「……本当にそんなんでいいのかよ」 思わずぎりりと、奥歯をきつく噛んだ。 「得体の知れねえ道具を使って満足でも良いがよ。 それで心を壊して良いのかよ! そんなんで自分が納得できるのかよ!」 色々な感情を抑えきれず、口から飛び出した雅のこえは、まだかずこには届かない。 ユイトが投擲した光の塊が、いもうとたちの動きを鈍らせる。だが、その間にも羽斬り鋏はくるくると自在に動きまわり、ひとつ、またひとつと、かずこの身体にも傷を増やしていった。 攻撃が届く限界まで距離をとったとよとミュゼーヌは、しっかりとかずこを、いもうとを見据えてその時を待っていた。マスケット銃を構えるミュゼーヌの動きがくんと引き留められる。驚いたミュゼーヌが振り向けば、とよがコートの裾をきゅ、と摘まんでいた。 「………あ、すみません」 無意識にコートを握っていたとよがぱっと手を離せば、ミュゼーヌは優しく微笑んで。 「大丈夫よ。私たちはかずこさんを傷つけないわ。守るのよ」 その言葉にとよは力強く頷いた。並んで魔導書を開けば、ノイズの混じった音がアクセスファンタズムから聞こえてきた。戦場を見渡す。姓がひらひらと、手を振っている。 「行きましょう、とよさん。私達は……道をこじ開けるわ!」 動く針の穴さえ撃ち抜く射撃と、魔術の力を持って呼び出された大鎌が、いもうとたちを狙い打つ。 その攻撃にいもうとたちは耐えきれない。ひとり、ふたり。炎が燃え尽きるように、消えていく。 それと同時に、いもうとたちの強い想いが、とよとミュゼーヌを狙って飛んでいく。だが、その攻撃はふたりに届くことは無かった。ミュゼーヌの不安は、どうやら杞憂に終わったようだ。ほっと胸を撫で下ろす。 「それにしても……」 遠目で見ても分かるほどに、かずこは疲労している。服は血に染まり、足はがくがくと震えている。 痛々しいその姿にとよの目に涙が滲む。だが、とよは涙を必死に押し留めていた。 まだ、何も終わってはいないのだから。 「やめて、やめてよ! かめこに何をするの!!」 崩れ落ちるいもうとたち。ふらつく足で、かずこがいもうとに手を伸ばす。けれど、その手に救えるものは何もない。かずこは、消えていくいもうとたちを見ていることしか、出来なかった。 まるであの時のようだ、と思いながら。烏は気糸でいもうとを縛り付ける。 烏は時に防御をしながら、時に姓に庇われながら、少しずつでも確実にかずこへの距離を詰めていく。 (遅かれ早かれ通る道じゃぁあるがな。命を奪うのに慣れろと言って慣れるもんじゃねぇが……) いもうとたちの集中攻撃を受けていた烏の傷は軽いものでは無い。運命を燃やして、尚立ち向かう。 より重い傷を負うのは、こころとからだ、はたして、どちらだろう? ● いもうとが放った光が弾ける。ユイト、とよの視界がくらくら歪む。 「この復讐を否定しませんわ、貴女はその権利を持っているのですから」 櫻子もその光を浴びたものの、彼女は惑わされることはない。眩しそうに目を細めた彼女は、仲間たちを正常に引き戻すべく詠唱を唱えた。 次の瞬間、癒しの息吹が広り傷を癒していく。ふたりとも、運良く正常に戻ることが出来た。 「私は貴女を助けるなどと、言う気はありませんから。かずこさん、貴女の想いは、本物かしら?」 櫻子がかずこに向ける、どこか冷やかな視線。似ているからこそ、感じる何かがあるのだろう。 陸駆がいもうとを吹き飛ばす。そうして出来た道を、烏と姓が駆け抜ける。 いもうとたちの数も減ってきた。運命を燃やすほどに、傷ついたリベリスタもいる。ただのひとであるかずこの傷も、深いものだった。 「私も"仕事"で色々奪って来たよ。 けど、どんな理由であれ大切なものを奪ってしまった罪は、許されるべきではない。そう思ってる」 だからこそ、姓は彼女をただの人殺しには、したくないと思うのだ。 「そうね。私も、たくさん殺したわ。たくさん奪ったもの。だから、もう、私には!」 あんたたちを殺すしか、ないのよ。固まった思考は、それ以外の可能性を考えることはしない。 自分が罪を犯したのだと、彼女は理解していた。望まれないであろうことも、同じように理解していた。 彼女がただのひとのままならば。アーティファクトを受け取ることが無かったのならば。 きっと彼女は、少しずつでも心の折り合いをつけていくことが出来ただろう。 「罪が許されないのは等しく同じ。けれど、君は未だ戻ることが出来る。君が襲った人達はまだ生きてる」 ぴくり。かずこの身体が微かに震えた。疑うような視線を姓に向ける。 「……生きてるの?」 「そう、生きてるよ。妹さんは君が命を削って手を汚す事を望む様な子だったの?」 答えは考えずとも分かる。否。あの子は誰かを傷つけることなど、望むような子じゃない。 「この復讐は唆されたんでしょ? 君自身が今やってる事と同じ事を遺す人達に望めるの?」 「それ、は……」 同じように、考えずとも分かることだ。望まない。望む訳がない。大切なひとが人殺しになるなんて! ぬっと伸びた高い影。烏がかずこの前に立ち塞がる。 ひ、と小さな悲鳴を上げて、かずこは後ずさった。だが、逃がさないようにと彼女の手首を掴む。 「離して!!」 リベリスタと一般人である前に、男性と女性である。その手を振り払うことは出来ない。 「なあ、かずこ君。おじさんの話、聞いてくれるかね」 あの日、何が起きていたのか。何故、妹が死ぬことになったのか。 誰が殺した、ということを明確に告げることはしなかったけれど。陸駆が語った言葉より、少しだけ踏み込んだ話。烏なりの精一杯の誠意の形だった。 烏が語る間にも、羽斬り鋏はぐるりと舞っている。 陸駆が何度も何度も攻撃をしていたが、壊すまでには至っていなかった。 烏に向けて一直線に飛んでいく。それに気付いたとよが狙い打つが、壊れるには少し足りない。 烏の、かずこの背中に痛みが走る。痛みに耐えきれずバランスを崩したかずこの手首を掴んだまま。 「憎んでくれても怨んでくれても構わんさ。ただ、殺されてやるわけにはいかねえんだ」 その指先から、指輪をそっと引き抜いた。 「何時かはこの因果が反る身だ、それまで待っていてくれ」 煙草の火を踏み消すように、烏が指輪を粉々に踏み潰せば、いもうとたちが姿を消していく。 「貴様を護るものはなくなったぞ!」 「かめこ! やだ、かめこ、消えないで!!!」 姉の前で、死んだいもうとたちは消えて行った。けれど、もうひとつのアーティファクトが残っている。 しかし、ミュゼーヌには見えていた。ナイフの腹には、罅が入っていることに。 「……身に余るその玩具、取り上げさせてもらうわよ!」 寸分狂わぬ射的で狙い打つ。放たれる弾丸が、羽斬り鋏を打ち砕いた。 空中でバラバラになった破片が、キィンと音を立てながら、落ちていった。 戦う術をすべて失ったかずこが、かくんと膝を着く。 「……これで気が済みましたか? 私に解るのは、貴女の復讐心が『本物』では無かったと言う……」 冷やかに言い放った櫻子の言葉を、ミュゼーヌがやめてあげて、と制止する。 「憎悪を忘れるなんて、出来ないわよね。けれど、私達は貴女が助かって良かったと思ってる」 「ほんとうによかったです、よかったですね」 とよがその目にいっぱいに貯めているのは、安堵の涙。けれど、かずこ自身の表情は暗いまま。 「なあ、この復讐は、誰の為の復讐だったんだ? 貴女が晴らそうとしてるのは、誰の無念だ? 妹のものか? それとも、貴女自身の無念か?」 「あたしも、復讐したい奴がいるよ。けど、復讐は結局自分の為だ。あいつの為じゃない」 ユイトの質問に、かずこは俯いたまま答えない。雅がかずこの胸元を掴み、自分の方へと向けさせる。 「あいつはもう泣きも笑いもしない! あんたの妹だってそうだ。 自分の心に整理を付けたいだけなんだ。だから、あたしは自分でなんとかすると決めた。あんたはどうなんだ」 「……答えてくれよ、羽付かずこ。貴女は何の迷いもなく、本当に妹の無念の為だと言えるのか? そうだと言うのなら、それが妹が貴女に遺したものになってしまうんだぜ。そんなんでいいのかよ!」 彼女が、心も体も完全に壊してしまう結末を迎えたのなら。 妹が望まぬとも、まるで彼女がそれを望んだかのようになってしまう。かめこが残したものは、きっともっと、違うもののはずだ。あたたかくてしあわせな、家族の想いのはずだ。 けれど、大切が故に。このような手段を実行してしまった。その想いに、偽物も本物も、無いだろう。 「君にも、家族や友達がいる筈だ。君を喪えば嘆くよ。遺す方も遺される方も、大切な人が傷つけば辛い。 ねえ。君が味わった以上の苦しみを、彼らに遺して良いの?」 姓が彼女の傷を癒しながら言う。驚いたように瞬くかずこは、ゆっくりとリベリスタの顔を見回す。 その復讐は誰の為なのだと、問うこえ。 その復讐は本当に望まれているのかと、諭すこえ。 そのこえひとつひとつは、実はとてもとても優しくて、それでいて、正しかったけれど。 けれど。それでも。 ゆるゆると伸びた手が、陸駆の首を絞める。ぐ、と苦しそうに呻いたものの、彼は抗うことをしない。 何より今の彼女に、絞め殺すほどの力が残っていないことは陸駆が一番理解していた。 「……復讐が、なにも生まないなど嘘だ。憎しみという感情が生まれてるのだ」 「原因を作ったのは、あんたたちのくせに。ねえ、あんたたちが、憎いわ」 勝手に奪って、助けて、そんなことを出来る貴方たちが。そんな力を持った貴方たちが。全部全部!! 殺してやりたいのに、そう呟いたのを最後にかずこは意識を手放した。崩れ落ちる身体を支えてやる。 望んだ通りの結末。エリューションは消え一般人は助かった。けれど。締められた首がひりりと痛んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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