●それはまるでチープな紙芝居のようにコッケイな遊び 「あら、隣の奥さん、ごきげんよう~」 「まぁ、隣の奥様、ごきげんよう。ちょっと聞いてくださいませんこと?」 「あらあら、何かしら? どうしたのかしら?」 「それが、うちの主人の話なんですけどね……」 セレブリティな奥様達の井戸端会議は小さな少女の一人芝居。 ミニ・クランベリーの様な唇が紡ぎだすのは京の都、独特の庭園での『舞台』だった。 白い雪がちらちらと舞う洗練された庭で、場違いな甘ロリの衣装を纏った女の子が座っている。 彼女の視線の先には巨大な虫ピンで地面へと縫い付けられたセレブリティな奥様2人。 黒地に白鷺の模様が入った着物の袖は上品に口元に当てた状態で貫かれ固定されていた。 それだけではない。少女の直ぐ側には子供が追いかけっこをした状態で止められ、別の方向には仲睦まじそうに寄り添う若い恋人達が虫ピンによって行動を制限されている。 まるで、博物館で見るジオラマに憧れた少年が作った、不恰好な箱庭の様だった。 「うぅ……助けて」 その箱庭の人形達はまだ『生きて』いた。苦しそうに藻掻いている。 身体は言うことをきいてくれない状態なのに懸命に『生きよう』としていた。 「あは。苦しいですよね、痛いですよね。大丈夫、ノーフェイスになれば痛みを忘れる事ができますよ」 仲睦まじそうな恋人たちの元へ寄り、ねっとりと絡みつくような所作で女性へと指を絡めて行く少女。 ミルキー・ピンクの衣装がふわりと風に揺れた。 「だから、早くノーフェイスになって下さいよ。じゃないと、あの人達みたいになってしまいますよ?」 甘ロリ少女の細い指が庭の隅に向けられる。 そこには、積み上げられた『ニンゲン』だったものが存在していた。 ケチャップを引っ掛けたように真っ赤にそまった一角は庭園に異彩を放っている。 「や、だ……」 虫ピンで縫い付けられた女性はその光景に絶望した。恐怖すらも通り越して、夢であることを願って。 意識を手放したのだ。 「あれ? ちょっと! あー、もう、貴方もダメなんですか? 根性なしですね。」 意識を失った女性の頬を叩きながら乱暴に虫ピンから引き抜き、庭園の隅……死体置き場に怒りを込めて投げ込む。 「はー、全く。また『仲睦まじそうな恋人』の『女性』を配置しなければならないじゃないですか。こんな欠け許せないです」 ミルキーピンクの少女は綺麗な調和が好きだった。虫ピンで串刺しにして好きな場所に配置する。 そして、それを好きなように動かして遊ぶ。 「糾未さんがくれたこの玩具……本当に素敵ですね。ピンで刺しただけで私だけの人形が出来るんですから」 うふふふ、と澄み渡るホリゾン・ブルーの空に自身のアーティファクトをかざしてみせた。 楽しげに嬉しげに、ミニ・クランベリーの唇を可愛く釣り上げてケタケタ笑う。 遊びを覚えたての子供のように、目をキラキラと輝かせて自分だけの庭園を少女は作り上げていた。 無邪気に残酷に人をノーフェイスに変えて少女は遊戯する。 そこは、道と道が交じり合う辻の都。 黄泉路へと続く道の先にある『少女庭園』は美しく、朱に染まっていた。 ● 「京都に向かってほしい」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は行き先を告げる。 手前にある操作パネルの光を紅緑の瞳が追っていた。 白い姫の指先が触れると、瞬時に背面、巨大モニターへとその映像が流れだす。 京都らしい白い砂利が敷かれた庭園に人を串刺しに出来るほど大きな虫ピンが多数刺さっていた。 遠くから見れば綺麗に調和の取れたジオラマの風景に見えたのかもしれない。 けれど、そこにはそんな洒落た清廉さ等微塵もありはしなかった。 「アーティファクトを使って人をノーフェイスに変えて遊んでる」 「人をノーフェイスにだって……!?」 ここ数日の間に同じような予知がなされているのだとイヴは言ったのだ。 『ハッピードール』と『カオマニー』。 突如として多くの場所に現れた二つの災い。 それが何であるかは資料に書いてある以上の事はわからないのだとアークの姫は視線を落とす。 ならば、取る手段は一つしか無いのであろう。 現地に赴き何が起こっているのかをこの目で確かめればいいだけの事。 「ノーフェイスにまだなってない一般人も居るけど……全員救出は無理だと思う」 既に息絶えた者達が積み上げられ、今にも死にそうな一般人さえ居る。 今生きている全てを救うには厳しいとイヴは告げた。しかし、裏を返せば救える可能性も有るということだった。 時間が惜しいとブリーフィングルームから飛び出すリベリスタ達をイヴは一人見送るのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:もみじ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月20日(日)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 澄み渡るホリゾン・ブルーの空高く、鳥が数羽連なって飛んでいた。 あそこに飛んでいる鳥もこの風景の一部に出来たらいいのにと少女は思っているのだろうか。 お姫様の様な衣装で身を包み、無邪気に微笑んで人形遊びをしている女の子。 そこには躊躇いも、迷いも生まれないのだと『red fang』レン・カークランド(BNE002194)はパロット・グリーンの瞳をそっと伏せる。 「ただのジオラマ作りならフツーの趣味なんだけどさ」 眠そうな瞳をこすりながら、タバコを咥えているのは『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)だった。 そんな苦しそうな人間使うより、マネキンとか使った方がもっとキレイなんじゃね? 今のマネキンってスゲー出来良いしさ。 火を付けたタバコがクローム・オレンジに染まっていく。 ディープ・ロイヤル・ヴァイオレットを冠した『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は思った。 「少女の人形遊びと言うと微笑ましいが」 その実体は個人の意思を無視した生死を問わぬ無差別強制労働なのだと。 ―――人は己の意思で生きる事が幸い。その結果であれば幸福も不運も悲劇も喜劇問題ない。 人の意思を支配したなら、その報いは当然受けるべきだろう。 人を無理矢理に縫い止め、人形に仕立てあげたフィクサードを許すことは出来ないと。 『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)も心を同じくしていた。 「ああ、全く笑えない」 他人と遊ぶのはまだいい、だが自由を奪うだとかあまつさえ命を奪うだなんてものを許容は出来ないね。 かつて使い手の希望に応じて因果に干渉すると言われるアーティファクトがあった。 それを模して作られた彩音が持つ希望の輝きは、彼女の心に呼応する様にペール・ホワイトを帯びている。 「自分だけの箱庭……」 一時前にソーシャルネットワークを介して広まったサンドボックス型のものづくりゲームを指して『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)は「それでもやってろよ」と呟いた。 あの手のゲームってさ、作るのも楽しいんだけど…… 「群体筆頭アノニマス、いざ推して参る」 儚き白を纏った群体筆頭は血に汚れた断頭台の喝采を握り締める。そして、口元を歪めながら ……壊す方が、もぉっと楽しいんだよねぇ? そう、楽しげに『少女庭園』へと足を踏み入れた。 「あら、リベリスタさん。やーっと来てくれたんですね。ご機嫌いかが?」 少女は笑う。まるで、リベリスタが来ることを予測して居たような口ぶりで口の端を上げる。 縁側からトンッと砂利の上に降り立ち、リベリスタを迎え入れた舞子の影が分身を作り上げた。 一番最初に動けたのは舞子、そして『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)。 「黄泉ヶ辻、異常異常と言いますが、何処にも分類できないなら普通と大差ない、そうは思いませんか」 「くすくす。さあ、どうでしょう。もし、そうだったとしたら、貴女も私も普通なのでしょう?」 舞子と会話することによって注意を逸らし、自身はハッピードールの前に立ちはだかる。 モリオンの黒蛇が生佐目の大業物から解き放たれた。 黒蛇は地を這い『人型』の足元から躙り上がり、数体のノーフェイスを締め上げる。 生佐目の後ろからギロチンを振りかざす弐升が迫っていた。 普段の気の抜けた彼からは想像出来ない程の狂気が、その伊達眼鏡の奥に隠されたコールドロンの瞳に宿っている。 「もう助からねぇよ。大人しく、刻まれろ」 生佐目を掠めるように吹き荒れた断頭台の喝采。戦鬼の爆風がヘイズ・グレイの空間を作り出す。 ノーフェイスがその暴風に飲み込まれていった。 「いやぁー雅だな京都ー♪ ゆっくりのんびりレジャりたかったなー!」 緊迫した庭園の空気をぶち壊すように間延びした声を響かせたのは『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)だった。 最悪の事態から身を守ると言われたウェッジウッド・ブルーの繋を着込んで戦場に現れる。 この繋、何の因果か予想外の事故を引き寄せ、災厄を惹きつけるらしい。 「素直ーにお人形で遊んでる分には可愛らしいだろうに。無念だねー★」 人を思い通り人形にするなら、楽をするより徹底教育だよー。そっちのが楽しいって絶対ー その繋に惹きつけられてか、ハッピードールが乳白色の瞳を携えて蠢き出す。 脳に魔導式を書き込まれたノーフェイスが狂気の狭間で踊り狂う。 ブレインキラーが目の前の甚内を襲った。痛手では無いものの、アガットの赤を散らしダメージを負う甚内。 「面白そうな遊びをしてますねえ、混ぜてくださいよう」 くすくすと笑いながらランプ・ブラックの死神がやって来る。消えない火が齎した記憶と軌跡が大きければ大きい程、光が強ければ強い程、闇も濃く鮮明になっていく。 『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)は不運と悪運赤と黒の直死の大鎌を携えて現界した。 そこにハッピードールの拘束が仕掛けられる。確かに痛手は受けたのだ、しかし。 「私を拘束する事はできませんよ」 その身に受け継いだ記憶は止まることを知らない『絶対者』の生きた証。何人足りとも彼女を止めることは出来ないのだ。 ハッピードールの目の前に居た生佐目への攻撃は華麗に回避されている。 見事である。心なしかニヒルな口元も様になっている。 生佐目は早くこの戦闘を終わらせたかった。この後すぐに大阪に向かわなければならないのだ。 なぜなら、今日は大阪でコスプレのイベントがあるからである。 昨日はATC、今日は造船所跡地で開催されるのだ。それらに参加するのも腐女子の嗜みというものである。素晴らしい出会いがあるやもしれない。 カッコイイポーズがビシッと決まっていた。 「俺たちはお前の遊びの付き合いに来たわけではない。箱庭の人形ごっこは終わりだ、舞子」 西洋茜のアリザリンで染め上げたグリモアールを両の手に携えて、レンが敵を見渡せる位置へと足を踏み出す。 その足元からにじみ出るのは、レンの押し込められた闇の感情。 自身を護ることだけに特化した自己防衛の黒い脅威。それは刻々と姿を変えていき、今は黒い梟の様にレンの肩に止まっている。 甚内は目の前に来たハッピードールの行く手を遮りながら、自身の思考を集中領域を高めていった。 ……一般人の保護の為には敵の撃破に傾注する方が結果的に良いと思われる アラストールは天高く祈りの鞘を掲げた。 自己を分解拡散し力の場の盾となる剣の鞘の神秘霊装。それから得られる力、己自身の内に秘めた祈りを完璧なる装甲へと変幻させていく。 それは、まるで祈りを汲み取った金の杯の如く神々しくアラストールを包み込んだ。 光の粒子が吹き飛んだ後、現れるのはフィヨルド・グリュンとシンフォニー・ブルーの双眼。 彩音は演算能力を極限にまで高めた思考回路を集中領域を拡大していく。 そして同時に考えるのだ。今、自分たちが置かれている状況を正確無比に捉える。 ノーフェイスとフィクサードにリベリスタ。そして、壁や地面に縫い止められた一般人。 このままでは巨大な虫ピンが内蔵を圧迫し続け、じきに大きな血管を破ってしまうだろう。 即死すらありえる、非情に危険な状況だ。 ―――ならば、抜いた場合のリスクはどうだろうか。 四肢を貫くピンを下手に弾き飛ばせば内臓はズタズタに引き裂かれるだろう。 正確無比に抜いたとしても流血は避けられない。 手当が出来るまでの時間、つまり戦闘終了までの時間は長くて数分といった所か。 それまで命はもつはずだ。 ――――ならば、賭けてみよう。 彩音には出来るはずだ。 傷口を広げること無く、虫ピンを抜き去ることが。 「彩も音もない世界に誘わせて貰おうか。悪趣味な人形遊びはこれで終わりだ―――ッ!」 彼女の精神に呼応する希望の輝き。解き放たれるペール・シルヴァの矢は解けて繊細な気糸へと変じていく。 箱庭に広がる無数の銀糸は完全無欠な正確さで虫ピンに絡み付き、抜き去っていった。 瞬間に崩れ落ちる一般人達。その身からは大量の血が流れ出している。 死のカウントダウンが始まった。 「命のタイムリミットまでに、貴女を倒す!」 その言葉に反応して嬉しげに、楽しげに舞子は笑って見せる。 「あは。楽しいですね貴女。こういう演出もだぁーいすきですよ」 舞子は綺麗で整頓された箱庭が大好きだった。そして、それを好きな様に動かすのも。 綺麗に並べては壊されて。美しく彩っては汚されて。 幾度と無く自分が作り上げたモノを壊され続けた少女はいつしか、その破壊行動ですら好きなものの中に入れるようになったのだ。 自分の作品を壊していく人達ですら彼女にとっては出演者であり、人形であった。 少女自身が認識する全ての事象は、彼女の作品であり世界になっていた。 なぜなら、彼女の舞台の主人公は彼女自身なのだから。 舞子の精神性はどこか狂っていたのであろう。自身を貶める存在ですら許容しえるのだから。 ● ノーフェイスの攻撃がリベリスタを襲う。一人ずつは多くないダメージだ。 しかし、それが5体ともなれば蓄積されていく、じわじわと蝕まれていく。 蒼穹の大空にミルキー・ピンクの『人形』が舞う。舞子という名を与えられて自分をも舞台の中に押し込んだ精神が血の結界を乱舞したのだ。 フィクサードの目に写った全てのリベリスタの胸に虫ピンが神速で突き刺さっていく。 アガット、スカーレット、クリムゾン、マゼンタ、レッド。 ―――『少女庭園』が惨劇のブラッドフィールドに染まった。 アラストール、和人、生佐目がダメージを負う。痛手を負った弐升は血を止めることができない。 砂利の隙間にドロドロと染みだして行くリベリスタの血液は酸化し黒へと変わっていく。 生佐目の黒蛇が、弐升の断頭台がノーフェイスを2体消滅に追いやる。 それでも戦場には未だ出血し続ける一般人が倒れていたし、一歩間違えればその威力によって命を落とす危険性まであった。 それでも、リベリスタは突き進むのだ。ノーフェイスを倒し舞子を退ける事こそが一般人を救う最良の手段なのだと。ならば、取る手段は攻撃あるのみ。 そこへハッピードールの叫びが響き渡る。恐怖と狂気に満ち溢れた悲鳴が木霊した。 立て続けに行われる弐升への連打が群体筆頭の体力を如実に削っていく。 灰を赤に変え弐升の身体が崩れ落ちた。 「あは。もう倒れちゃうのですか?」 嬉しげに、楽しげに笑う舞子の顔が許せない。 「あは、もうちょっと愉しませてくださいよ。壊し足りないんですよねぇ」 有象無象の中の筆頭である存在が倒れることを許さない群体が弐升の身体を持ち上げる。 コールドロンのフェイトが燃え上がった。 黎子と甚内の攻撃により『人型』が消し飛んで行く。残っているのはハッピードールと舞子。 使えなくなったノーフェイスを見てフィクサードは仰々しく手で顔を伏せて泣いてみせる。 「えーん!私のお人形が壊れてしまいました!えーん!」 隙だらけの身体を晒して芝居の様にその場に泣き崩れた。これも彼女の演出か。 その口元は三日月の様に笑っていたのだから。 「こーいう事するとさ、『正義の味方』が来るって知らなかった?」 和人が仲間にブレイクフィアーを施しながら舞子に話しかける。 知っててやったなら大したタマだけど。知らずにやってたんなら…… 「嬢ちゃんにはまだ早いオモチャだったってこった」 「あら、でしたら貴方が私のオモチャになってくれますか?」 少女とは思えない妖艶な笑みを浮かべて、和人の頬を細い指が撫でていく。 そして、激痛と共に首筋に突き刺さるのは一般人を縫い止めていた虫ピン。 「ぐ、ぁ―――ッ!」 「くすくす、イイ眺めですよ?」 「……はは、嬢ちゃん。俺はね束縛されるのが嫌いなんだよ」 自らの力でピンを引きぬいて行く和人。ボタボタと血を垂れ流しながら舞子の腕を掴んだ。 「可愛らしいお嬢さん。後ろの片付けが終わるまで、俺と一緒に踊らねぇ?」 伸ばされる和人の手は舞子の平らな胸へ。 「やん、嫌です。そんな所に触らないでください」 一瞬の隙を突いて敵の胸から指先を引っ掛けたのは、宝石型のアーティファクト。 舞子に一番近づいた和人だけに解った『カオマニー』の在り処。 手に取る前に彼の手からするりと抜けていく舞子。 まるで、風に踊る妖精の様にふわりとその身を後ろへ逸らしていく。 ● その庭園は有名な場所で見学客もよく出入りする。 だから戦闘が終るまでの時間に一人も来ないという確証は無かったのだ。 突如として現れた一般人を敵は見逃さなかった。 「言われもなく殺される一般人も箱庭には必要ですよね?」 全てが出演者なのだから、その一般人も串刺しにする必要があるのだと。 アーティファクトによって肥大化された針が浮かび上がる。 血濡れの惨状を目の当たりにし、まだ声を上げることすら出来ない一般人。 その気配を感じ取ったのは戦場を後方から見ていたレンだった。 ―――救える命を見捨てない。 かつて、兄に拾われた命ならばこそ。その想いは強く固く。 大きな背中が死にものぐるいで手を延ばすなら、彼も自分に出来る事をするのだと。 青石のブレスを巻いた左手を―――――前へ、前へ、前へ!! 境界最終防衛機構-Borderline-の白い制服がブラッディ・レッドに染まった。 致命傷を受けたレンはその場に倒れこむ。シャトルーズ・イエローの髪からは大量の血が流れ出ていた。 けれど、意識を落とすより先にパロット・グリーンの瞳が燃え上がる。フェイトが迸る! この小さな背には護るべき人が居るのだから。倒れるわけにはいかなかった。 アラストールは舞子を挑発していく。 未だ戦場に横たわる一般人へとフィクサードの気が向かないように。 「あなたは、綺麗な物が好きなのですか」 「ええ、貴方みたいな綺麗な人が大好きよ。人形にして飾りたいです」 「こんなに血に汚れていてもいいのですか」 「あは。それも全て私の箱庭の中で起きる事ですもの。全部、綺麗でしょう?」 会話がなされている間に、周りで繰り広げられるのは正に攻撃の嵐であり。 生佐目とレン、和人の痛打でハッピードールがボロボロと崩れ落ちる。 アラストールとの会話に耽っていたフィクサードは、左右から迫り来る二つの刃に気づく事ができなかった。 一つは、軽快な口調で矛を繰り出す甚内だ。 「HAPPY-かーい? お気にの人形でーきたー?」 敵を挑発する様に動く口は、舞子の神経を逆撫でしていく。 甚内の矛は正確に敵の急所を貫き、そこに伝う血を舐めとっていった。 もう一つは闇の大鎌携えて、ばら撒かれる死のカードを繰る黎子。 「次のジョーカーは…おや、もう貴女しかいないようですね」 ミルキー・ピンクの衣装が赤に染まっていく。 黒と赤の彩りを纏って靡いて行くカード達。不運と悪運を引き連れて選び取るのは、死の宣告。 引き裂かれる舞子の身体は中空を舞い、辺に赤をまき散らしながら砂利の上を転がっていく。 それだけでは終わらない。 まだ、黎子のカードは回り続けていた。 フィクサードの身体は中空を舞い、地面に横たわる一般人にぶち当たる。 「いったぁい! もう! 痛みを与えるにも、もう少し丁寧にしてください。じゃないと、勿体無いです」 自身の痛みに笑い、喜びを感じる舞子。 隣に居た血塗れの一般人を拾い上げて自分の盾にする。 「コレとコレどっちが大切ですか?」 一般人と『カオマニー』を指して黎子に問いかける舞子。 黎子のカードがアーティファクトを至近距離から貫いた。 「あは。貴方の意志は分かりましたよ。では、こちらは『要らないもの』ですね」 ピンを抜いた事によってノーフェイス化と内臓破裂による死亡リスクを軽減できていた人達。 手当が出来れば死亡することは無いだろう。 しかし、その余裕は無く戦闘に傾注する事が救い出す最善なのだ。 ならばフィクサードに対して猛烈な攻撃を浴びせ余裕を奪うことが近道であると。 「あなた達も私と同じですね。目的の為に故意に命を見捨てるのだから」 「―――っ! 来ます!」 アラストールの啓発は注意を促すものだった。しかし、動く暇さえ無く。 高らかに笑い声を上げながら、全てを巻き込む針の嵐が『少女庭園』に降り注ぐ。 自分の箱庭を潰すように投げ捨てるように、叩きつけるように降る針。 リベリスタに。 積み上がった『壊れた人形』達に。 戦場に倒れたままの、懸命に生きようとしている一般人に。 「い、ぎゃああああああああああああああああ――――――ッ!!!!」 突き刺さる大量の針。 アガットの赤に染め上がる針千本の地獄絵図が戦場に広がった。 唯一、それを免れたのは黎子が庇ったアラストールと、レンが庇った一般人のみ。 「い、た……ぃ。助け………」 側に居た生佐目に血塗れの手を伸ばし命の終りを迎えた一般人達。 全てが真っ赤に染まった庭園で身体を貫かれて殆どの『人形』が生命活動を停止した。 「くそ……ッ!!!」 敵が去って行く姿を追う事も出来ず、地面に拳を打ったのはレンだった。 ―――被害は『必要最小限』であった。 リベリスタに重傷者は無く、目標を達成できたのだから。 ホリゾン・ブルーの寒空に鳥が高く高く登って行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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