●深遠 息の白ささえ見えない闇の中、コンクリートで四方を囲まれた中で、何かはそこにいる。待つように、普通ならばあかりの一つもつけるであろうこの闇の中、それを意にも介していないように見える。 闇の中、何かのところへ走る足音が聞こえる。それはしばらくして、部屋の中央で足を止める。 金属音、火のつく音。ジッポライターの炎が辺りを照らし、そこに居る男達の姿を照らし出す。彼らの服装は各々別ではあるが、共通した印象としてはいわゆるチャラい服装をしていた。だぶついた服装をしている者。チェーンを複数ぶら下げているもの、首まで刺青が入っている者など、一般人であればご一緒するのは遠慮したいような外見の者ばかりだ。 そんな中、一人だけくたびれたスーツを着たオールバックの男が、自分のつけたジッポでタバコに火をつける。吐き出す煙と同時に、火を見つめている口元に笑みが浮かぶ。 「首尾は上々のようだな」 「ああ、やべぇよ。やっぱ俺達、人間どころじゃないっすよ」 部屋の真ん中に居た男が興奮気味に笑う。男はこの廃ビルを、全くの暗闇の状態で静かに待機していたほかの男達のところまで駆け抜けてきたのだ。当然ながら、彼には元からこんな力は備わっていない。 「それでボス、調べてみましたがこの辺りに俺達同様の力を持つ人間ってのは見つかりませんでした。つまり」 「この辺りで俺達を邪魔する奴はいない」 スーツの男が二度目の煙を吐く、周りに待機していた男達が歓喜のざわめきを見せる。これから起きるであろう、起こせるであろう自分達の欲望と結果に。 「では行こうか紳士諸君、まずはお礼参りといこう」 男達が各々うなずくと、スーツの男がジッポをしまう。今一度訪れた闇の中で、肩をぶつけることもよろけることもなく歩き出したのだった。 ●look 「これが私の見た『物』よ。井の中の蛙大海を知らず、とはまさにこのことね」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が肩をすくめて言った。乳酸菌飲料の入ったカップにゆっくりと口をつけ、息を吐くとリベリスタ達を見つめる。 「目標はノーフェイス八人。これを全員、一人残らず倒すこと。どれもなりたての、お世辞にも強いとは言えない。けど気をつけて、彼らはいわゆるギャングの連中だけど修羅場をくぐってきているから戦闘センスはある。少なくとも相手の実力を見て、その上で勝つにはどうするかと考えられるくらいには」 自分の髪を二度三度と指でなぞり、ゆっくりと言葉を続ける。 「構成員は手下七人とリーダー一人。全員の共通点として暗視能力を持っている。手下のほうはナイフを使った近接攻撃と、それを投げつける遠距離攻撃を使ってくるけれどどちらも個人狙い。ただ、どちらも毒を塗っているから気をつけて。さっきも言ったけれど敵は戦闘センスがあるから、弱い相手、弱った相手と判断されれば一斉に狙い撃ってくる。それをさせないように上手くフォローしあって」 敵の武器がチームワークなら、状況の劣勢を塗り替えることくらいはしてくるだろうから、と続けたイヴがまた一口、カップの中身を飲む。 「リーダーは戦闘を指揮して敵全員の能力の底上げをしている。攻撃はこのリーダーだけ、拳銃を使って遠距離の相手複数に重圧を与えるようになっている。これを倒せば敵は士気を失って散り散りになるけど、逆に言えば一斉に逃げ出す以上誰かを逃がしてしまう可能性が出てしまうから、倒すタイミングは十分気をつけて」 それからまだある、とイヴは続ける。 「敵は郊外ベッドタウンの裏路地をベースに活動している。敵は基本的に夜に全員集合するから、普通に接触しようとした場合、拠点のひとつである廃ビルから出るところで接触することになる。路地は複雑に入り組んでいるし、下手にビルの外で戦おうとするとあっという間に逃げられる可能性もある、だから。可能ならビルの中に追い込むようにして戦う方がいいと思う。そこにも逃げ道を用意しているだろうけれど、わかっていれば対処は出来るはずよ」 ふう、と喋りつかれたと言いたげに椅子に深く腰掛けたイヴは、リベリスタ達を見つめて軽く笑ってみせる。 「幸いまだ犠牲者は出ていない、貴方達なら未然に防ぐことは出来るはず。だから朗報を期待している」 そう言って、彼女はリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:春野為哉 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月27日(日)00:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●呼び声 都会の夜は寒い。 放射冷却で冷え切ったコンクリートは、夏は目玉焼きが焼けるほどに熱ければ、冬はアイスクリームが作られるほどに冷たい。これにダンボール一枚で眠る人間のどれほど辛いことか。 その冷気を浴びているかのように、欠けた月は青く輝いている。ビルの隙間からも見えるオリオン座は、いつぞやの科学者がそろそろ超新星爆発を起こして見えなくなってしまうと語っていたことを、リベリスタの誰かが思い出した。 時刻は深夜。複雑に入り組んだ裏路地に道路を走る車の音すら遠く聞こえ、膝から下まで染まっている闇がいずれ自分達の胸元にまで迫るのではないかと思うほどに、暗い。 「あの、疾風さん。何か見えましたか? ボクは少し、気になる場所が……」 特徴的な羊の角をした少年、『贖いの仔羊』綿谷・光介(BNE003658)が千里眼で目標の建築物の周囲を観察しながら、隣に立つ青年に視線を送る。 「窓に目張りしているベニヤ板が、見た目より頑丈で破るのに苦労しそうです。が、それとは別に一箇所だけ薄く作っている場所があります。おそらくそこから逃げるつもりなのでしょう」 他に脱出可能な場所は屋上以外見当たらない、これなら封鎖するのも可能でしょうと続けた『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)が好青年らしい笑みをにこりと浮かべる。その笑顔にやや不安げだった光介がほっと一息をつく。二人で同じ見解を出せば、ほぼ間違いはないだろう。 「どうする、今のうちに出口を塞ぐか?」 『闘争アップリカート』須賀・義衛郎(BNE000465)が柔和な笑みを浮かべながらも油断なく周囲の確認をしている。予定であればこのままリベリスタ達は中に相手を押し込み、そこを主戦場にする形で戦う。それを磐石にするためにも不確定要素は避けておきたい。 「その必要はない、私の影人をその場所に向かわせておけば十分だろう。精々驚いて貰うとしよう」 身の程知らずにはちょうどいい、と肩をすくめた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が同意を得ると影人を用意、逃走路であろうベニヤ板のある場所へ誘導する。それはちょうど二階のほかのビルの窓に隣接するエリアで、突き破ればそのまま隣のビルへ逃げ込めるようになっている。 「でも実戦経験は豊富だそうですから。油断は禁物ですね~」 そう言いながら見えていない演技はどうすればうまくできるのでしょうか。とつぶやきながら考えるのはユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)である。逃がさないようにビルの中にも自然に誘導して、と考える様は間延びした口調とは裏腹に策士である。 「へへっ、わかりやすい奴らが相手なら遠慮なくブン殴られるな」 「つまり全員死刑にしてもいいんだよね! やったぁ!」 拳を鳴らして不敵な笑みを浮かべる『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)とナチュラルに物騒なことを言う『死刑人』双樹・沙羅(BNE004205)二人ともやる気満々で、路地裏に満ちる空気をよい意味で吹き飛ばしていた。 「では、無知蒙昧な連中に大海の一片を教えに行くとするか」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が和やかにそう言うと、リベリスタ達は事前の打ち合わせ通りにビルへの接近を開始する。時刻は丁度日をまたぐ頃、ビルの隙間風がおさまり、いやに静かになった頃だった。 ●異聞 「なんだぁ手前らあぁああ!?」 意気揚々と出てきた紫モヒカンの男が滑稽なほどの大声で、ビルの入り口を半円状に取り囲んでいたリベリスタ達を威嚇した。義衛郎がそれを見るとわざと軽薄な笑みを浮かべてみせる。 「いや、ここらでやんちゃしてる連中ってのを調べていて。それ、お前達か?」 「あぁん!? お前らカチコミかコラァ! どこの組のモンだおぉおん!?」 「待て」 威嚇する男を制し、スーツにオールバックのリーダー格である男が前に出てくる。 「あんたら、普通じゃないな。ガキばっか連れて、しかも女もいる。時期も考えると……良くて俺らと同業者がスカウトに来た、でなければ」 「君たち人間やめちゃった紳士諸君の処分だね! 突然だけど、死ね!」 男の声をさえぎり、我慢できないといった様子で沙羅が飛び掛る。大鎌と同時に吸血の牙がリーダーに向けられるが、それをリーダーは前に出ていた紫モヒカンの襟首を掴み、盾にした。 「いってぇえええ!?」 「あ、やっぱり盾にするんだ」 わかりきっていた、という様子で沙羅がバックステップを踏む。モヒカンの傷は思ったよりも浅く、肉体の頑丈さが伺える。 「なるほどな、刺客というわけか」 「いてぇっすよアニキぃ、盾にするなんて」 冷静に分析する男と、へらへらと盾にされたことも気にしないというようにモヒカンが服を直し、ナイフを構える。それを皮切りに他の男達も一斉にナイフを、それもバタフライナイフなどではなく頑丈なサバイバルナイフやドスを取り出す。 「小物どもが、保健所が来たからとキャンキャン騒ぐな」 ああめんどくさい、と言わんばかりにユーヌが式符・鴉を飛ばす。無造作に投げられたようにも見えるその術はうなりを上げ、モヒカンの傷口をえぐる。同時に多くの呪いが噴出し、困惑する。 「で、結局やんちゃしているのはお前達かな?」 モヒカンが罵倒をし返すよりも早く、大きく一歩踏み込んだ義衛郎の一閃。深夜の路地裏に華のように散るラ・ミラージュは反撃を許さない。 「魔法使いに剣士か、いよいよ化け物じみてきてるな。お前ら中に入るぞ! 丁重におもてなししろ!」 リーダーが声を上げると男達は戸惑いを振り払い、リベリスタ達に向いたまま素早くビルの中に入っていく。ほぼ完全な暗闇になっている根城のビル、攻防どちらにしても有利なのは彼らにとってそのビルの中だからだ。ただ一つ、逃亡の容易さを除いて。 「てめぇらぁ!」 盾にされたモヒカン一人が後退が遅れ、半ば悲鳴のような声を上げてナイフを振り回そうとする、が。 「待て待て待て~」 間延びしたユーフォリアの声とは正反対に鋭く舞うソードエアリアルが突き立てられ。 「邪魔だ」 シビリズのギガントスマッシュで派手な音を立てて打ち据えられ。 「オラぁ寝てろ!」 とどめのヘキサの回し蹴りが後頭部に炸裂し、モヒカンはピクリとも動かなくなった。 ビルの内部は真っ暗であるが、リベリスタ達のほとんどは暗視ゴーグルや自前の暗視能力、ライトを持っているためにさして問題にはならなかった。中央に大きな柱があり、そこに階段が設置されている以外は何もなく、四方にがっちりとベニヤ板などで補強された大きな窓がある程度だ。廃ビル特有のなんともいえないカビ臭さと、男達が散々利用していたためか、酒や煙草のすえた匂いが充満している。 「いつも通りだ、一人ずつ確実に仕留めろ。相手は俺達と同じ化け物だ、殺る相手は確実に把握しろ」 暗闇の中で男の声が響くや否や、先陣を切った疾風に男達が、わずかな傷で焼け付くような痛みのはしる刃。二つほど直撃に近いダメージであるが、その程度で疾風を止めることは出来ない。 「悪いがお前達の目論見通りにはいかないし、一人も逃がすわけにはいかない」 攻撃までのわずかな一瞬で先ほどまでの私服とは違い、ヒーローらしい全身鎧に身を包んだ彼は男達の一人の前に陣取り、金剛のように不動の構えを向ける。その気迫に、思わず後ずさる男。 「無理は禁物ですよ疾風さん」 「ああ、わかっている。すまないね」 後から追いかけてきた光介の天使の息が疾風の傷を早々に埋めていく。暗視ゴーグル越しに優しく微笑む光介、しかしそれは一瞬で身をすくめることになる。暗闇の中からスーツの男の突き刺さるような視線が向けられたからだ。 「決まりだ、あの傷を治すガキから殺せ」 暗視ゴーグルをつけているからこそわかる、爛々と猫の目のように光る男達の視線が一気に光介へと向けられる。そしてスーツの男から凶弾が一直線に乱射される。光介だけでなく、疾風、その後ろに続いていたヘキサまで巻き込む弾丸。派手なマズルフラッシュにも関わらず狙いは正確で、確実にリベリスタ達の防御をえぐる。 銃声を皮切りに先ほどまでのおちゃらけた男達の雰囲気は変わり、ビルに満ちる本気で殺しあう人間の空気が満ち、領域と相まってより強くぶつけられる。 「阿呆めが、そんなに男のガキが好きか」 引き絞られる殺気が放たれるより速く、躍り出たユーヌのアッパーユアハートが響く。ただ一言、それだけの言葉が七人の男達のうち三人の注意がユーヌに向いた。予定通り、何もいわずにただ口元ににやりと笑みを浮かべ、悠然と立ってみせる。それが癪にさわるのか男の一人が絶叫しながらナイフを突きたてようとユーヌへ向けられる。 「男色で短絡的で暴力的な蛙か、救いようが無いな」 これも予定通り、シビリズが男の力任せに乱舞するナイフとユーヌの間に入り、庇う。二度三度と火花が暗闇の中で散り、シビリズの持つ電灯が辺りをかき混ぜるように照らす。敵の足並みを乱すためのこの立ち回りは、今回のリベリスタ達の作戦でも要となるものだ。 攻撃を妨害された男の前には、不敵に笑うユーヌとシビリズの姿。その表情が更に怒りを掻き立てた。冷静なスーツの男も、わずかばかりに戸惑う。 「オレに蹴っ飛ばされたい奴はどいつだ!」 連携が乱れた六人の手下、その内怒り狂わなかった一人にヘキサが飛び掛る。大きく、短絡的とも思えるほどの言葉とは裏腹に高められた集中力は華麗に男の一人の鳩尾につま先を叩き込む。もんどりうって倒れ、すぐに立ち上がるも麻痺したように動きの鈍る。 「惨めだね、滑稽だね、運命にも愛されず、いきなりこうして蹴っ飛ばされて、噛み付かれて!」 そこに沙羅が好機と飛び掛り、牙を突きたてる。深々と食い込む牙に男は悲鳴すら上げられず、半狂乱で沙羅の頭にナイフの柄を叩きつける。鈍い音、ぬるりとした出血の感触。それでも沙羅は肉まで食いちぎる勢いで突きたてた牙を抜き。宣言する。 「だから負けない。ボクは弱いけど、お前らみたいに惨めな奴には絶対に」 幼さに似合わない不敵な笑顔に、男は絶句した。 「いい心がけだな。そのタフさはオレも見習いたいよ」 沙羅の宣言に軽く笑いながら、高速状態の義衛郎がまた一人、別の男を刃にかける。一息で無数に生まれる刃に臆せず義衛郎に男は踏み込んでくる。横なぎの一撃が義衛郎を捉え、感心させる。なりたてでこれほどならば、この世界で場数を踏めば大きな脅威になったであろう。惜しむらくは、と言葉を呑み義衛郎は対峙する。運命は皮肉だと。 「おいお前! 何が真っ暗で見えないだよ! 絶対見えてるだろ!」 「ええ~? そんなことありませんよ~?」 見えてない見えてない、と声をかける男に真っ暗闇の中で向かい合い、手を横に振るユーフォリア。男がフェイントまでかけたナイフをすんでのところで回避し、お返しとばかりに幻影を展開した斬撃がチャクラムから生み出され、辺りに飛び散る男の血まで避けてみせる。 「見えてるだろうがよぉ!」 「見えてなーいですよー」 そうやって挑発しながらもユーフォリアは前に出すぎず、対象の移動を妨害し、上手く擬似的な一対一へと持ち込んでいる。これで見えていない、など誰が信じるだろうか。実際見えているのだが。 こうして自分達の領域を生かす前に敵は瓦解させられ、スーツの男の表情が険しくなる。戦局は初動で決まる。このことは、スーツの男が一番良く知っていた。 ●無名 当初の予定通り、リベリスタ達は入り口を全員で塞ぎ、男達を追い詰めていった。スーツの男としてはヒット&アウェイを様子見をかねて狙ったのだが、怒り状態で複数人の統率を持っていかれたことにより必然的に釘付けとなってしまった。その状態で手下を切り捨てようものなら数での圧倒的不利を抱えさせられる。逃亡せずに力を手に入れた部下の消耗を避けた結果である。 せめて一人、とこの中では総合力の低い沙羅を狙うものの、そこは織り込み済みのリベリスタ達。スーツの男以外は接近戦のみとなればブロックがそれぞれに入り、致命には届かない。結果として、毒や攻撃、銃撃でじわじわとリベリスタ達の耐久力は削られているものの危険域にはとどかない、とおおよそ最悪の結果に持ち込まれてしまった。 「さあ、どうします。もう貴方もわかっているんじゃないんですか」 今回の作戦で戦線を支え続けた光介が肩で息をしながら、しっかりとしたまなざしで男を見つめる。スーツの男は自分の部下を残り三人まで倒され、息絶えた者たちを見やりながら面倒だ、というように答える。男も少なからず手傷を負い、スーツがじっとりと血で張り付いていた。 「あんたらやるな……この様子なら降参しても意味が無いようだ。まったくツイてないよ。どことは知らんがあんたらみたいな有能なのをよこされるとはな」 「ならせめて、せめて……」 「断る、この業界で長く生きてると、そういうのは一番信用できないんでね」 目を伏せながら紡ごうとした光介の言葉にスーツの男は肩をすくめて吐き捨てると、一気に階段の上へと駆けだした。妨害されるとわかっていれば対応もたやすい、と言わんばかりにリベリスタ達の脇をすり抜け、二階へと駆け上がる。目的地は、光介と疾風が最初に見つけた一箇所だけ壊れやすく作られた窓へ。 「兄貴ぃ!」 何もいわず逃げ出したスーツの男に、懸命に戦っていた手下が悲鳴をあげる。 「怒りに身を任せた時点でお前達の負けだ。素直に噛み砕かれておけ」 リーダーの撤退を確認し、残された男の一人にシビリズが度重なる攻撃で血濡れになりながらも、それゆえに鋭さを増す一撃で切り伏せる。 「ご苦労、おかげで私も大した手傷も負わずに済んだ」 「もとよりそういう作戦だ。逆境にすらならなかったのが残念なくらいだが」 ユーヌの褒め言葉に軽口を言ってみせるシビリズ。後詰めは、と視線を送ると階段を駆け上がっていくヘキサと疾風が見えた。 「チクショウ、何で俺達なんだよ。何で……!」 「毒づいてももう遅いよ、あんたのリーダーだって逃げられはしないんだからね!」 呪詛を吐きながらも最後まで構えていた男に踏み込み、大きく切り裂いた沙羅。男が辺り一帯に血の花を咲かせ、動かなくなる。徹頭徹尾、噛み付いてみせた沙羅の肉体は限界一杯で、思わず膝をつく。勝った、そう思った瞬間、男が倒れたまま筋力任せに飛び掛った。最後に一撃、その衝動が男を動かし、沙羅には反応が間に合わない。 「ほら~、油断は禁物って言いましたよ~?」 刹那、その顔面を横殴りのチャクラムが吹き飛ばす。男の体は直角に吹き飛び、今度こそ二度と動かなくなる。術者のユーフォリアがにこりと笑う横で、義衛郎が最後の一人を切り伏せながら。恐い恐い、と小さくつぶやいた。 「待てコラ! 逃げるな!」 ヘキサが飛び跳ねるように移動し、二階のベニヤの窓際にスーツの男を追い詰める。少し遅れて疾風もついていくが、男は思ったよりも足が速く接近しきれない。 「悪いな、こんなところで死ねないんだ」 男はそう言い、一箇所だけ脆弱に作られたベニヤの窓を突き破ろうとする。この隣のビルに逃げ込めば、あとは複雑な構造の道と建築物、それを生かせば逃走は容易。生きてさえいればなんとでもなる、と男は確信していた、が。 わずかな間をあけて、ベニヤの外側から拳が叩き込まれる。それは一番最初に仕込まれていたユーヌの影人で、男の全く意識の外からの一撃だった。綺麗な右ストレートが頬をえぐり、男は縦に半回転して床に叩きつけられる。 「言い忘れてたから一つ豆知識。悪は栄えた試しが無いから覚えておくといい!」 「あとはついでにド素人みたいだし教えてやる! オレたちはリベリスタ! 悪を蹴っ飛ばす正義の味方だ!」 男が立ち上がるより早く、疾風とヘキサが絶妙なタイミングで飛び上がる。二人の動きは完璧に合わせられ、破壊的な勢いで加速し、蹴りが同時に叩き込まれる。正義の味方必殺の二重蹴りである。 反論の隙さえ無く、男はまた窓側へ、しかし今度はその近くのコンクリートの壁に吹き飛ぶ。きりもみ回転があたりにコンクリート片を撒き散らし、派手な音を立てて男は二階から外へと吹き飛んだ。 ビルの壁に開いた大穴から強く風が吹き、一気によどんでいたビルの中の空気を吐き出していく。それはこの戦いの終わりを示していることを、一階にいたリベリスタ達にも知らせた。冬の冷たい空気が戦いで火照った肌を撫で、ゆっくりと本来あるべき静けさで辺りを満たしていく。 「さて、あとは処理班に任せて帰るか!」 「ああ、犠牲が出なくて何よりだ」 満足げに胸を張るヘキサと疾風がこつんと拳をぶつけて外を眺めると、冷たい月が相変わらずこちらを覗きこんでいた。あと何日かすれば、この月も満月になるだろう。少なくともそれまでの間は、ここを歩く人間達は異形の者共に襲われたりはしないだろう。 それは今日、リベリスタ達が間違いなく手に入れたものだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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