●白姫の娘たち 冬の凍空から、ちらちらと雪が降りつもる。 見渡すかぎり、一面の銀世界。その一角、山の中腹にある鄙びた神社から、3人の少女が舞うような足どりで現れた。 氷重の着物に透けるような淡水色の薄絹を羽織り、銀の髪には蒼氷の花簪。柔らかい新雪に足を取られることもなく、ふわりと歩むその姿は、さながら雪の精。 半ば雪に埋もれたバスの待合所の前に差しかかり、雪の精たちは歩みを止める。朽ちかけた木のベンチに手縫いの座布団、壁には少し色褪せた『火の用心』のポスター。3人の視線が集中するその貼り紙には……アイドルグループの青年たちが、爽やかに微笑んでいた。 ――ぐっ。雛菊の花簪の小柄な少女がおもむろに、ポスターを留める鋲へ手をかける。牡丹の花簪の少女がそれをたしなめようとするも、木蓮の花簪をした少女が雛菊の少女の手をつねり、自分も鋲を外しにかかる。つねり返す雛菊の少女……子供じみた揉み合いと小突き合いのあげく、――びりりり。ポスターは無残にも3つに裂けた。 「「「…………」」」 憮然とした表情で待合所を後にする3人。辺りを見回すも彼女たちの他に生き物の気配はなく、ただ、静かに雪が降るのみ。バス停の前から延びる除雪された県道を、足下を不思議そうに見やりながら歩いていた木蓮の少女が、ふと目線を上げ、慌てて他の2人を手招いた。 少女たちは蒼い瞳を好奇心に輝かせる。遠く、道の向こうに見えたのは、麓の小さな集落であった。 ●美少女を口説き落とすだけの簡単なお仕事です 「雪山に、アザーバイドが迷い込む。――それも3体だ」 アーク本部、ブリーフィングルームに集まった面々を見回して、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が告げる。モニターにぼんやりと映し出されるのは、彼が視た未来の光景。 「見ての通りの可愛らしいお嬢さんたちでな。好戦的なタイプじゃないが、一旦戦闘になれば、冷気や氷を使った非常に強力な攻撃をしてくる。昔話に出てくる雪女のようなものと思って貰えればいい」 厳しくなりそうな戦況を予感し、硬い表情で頷くリベリスタたち。 「だが、彼女たちには弱点が2つある。炎と――」 びっ、と親指でおのれを指すNOBU。 「???」 「そう、IKE-MENだ」 「…………」 なんとなく疲労感を覚えるリベリスタたちを無視して、伸暁は続ける。 「この三人娘はイケメンに弱い。好みのイケメンと遭遇すると、凍てつく吐息で氷像にし、お持ち帰りしようとするようだが……それを上手いことかわしながら甘い言葉で説得、元の世界にお帰り願ってくれ」 その後に破壊すべきリンクチャンネル状態のD・ホールは、神社の境内、楠の巨木の洞にあるという。 「アザーバイドが麓の村にたどり着いてしまえば、村の男どもが氷像にされて異世界にお持ち帰りコースだ。なんとしても、阻止してくれ。頼んだぜ!」 やや脱力しつつ部屋を出て行くリベリスタたちを、伸暁は輝かんばかりのイケメンスマイルで見送るのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:鳥栖 京子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月29日(火)22:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●楽園へようこそ 雪に閉ざされた神社の境内。 木々は雪化粧をほどこされ、辺りは静謐な空気にみちている。その白い世界に溶け込むかのように、異世界から迷い込んだ3人の少女は立っていた。 静けさを破り、軽快に雪を踏む足音がさくさくと近付くと――周囲を見回していた雪の精たちは、そちらへと目線を向ける。 「氷のお姫様! ね、きぃたちとお友達になろうよ!」 元気に手をぶんぶん振りながら歩いてきたのは、『愛に生きる乙女』御厨・忌避(BNE003590)。 突然現れた見慣れぬ格好の少女に対し、牡丹はやや怯えながらも妹たちを背に庇い、木蓮と雛菊は敵意を込めた瞳で睨めつけた。そんなこともお構いなしに、忌避は人なつっこい笑みを向けて話し続ける。 「イケメンって良いよね、イケメンって世界遺産だよね! わかるよ!! ってことで友好の証に、はい、これあげる」 忌避が3人に渡したのは “婚姻届”。 「これぞ愛の最終兵器! 好い人見つけたら逃さないための……そうね、こちらの世界のしきたり、だよ!」 顔に疑問符を浮かべながら紙片を矯めつ眇めつする異世界の少女たちを、この世界の少女は手招きする。 「来て、こっちこっち!」 忌避の示す先。拝殿のほうへと下っていく石段の、そのむこう。 雪の白と梢の黒が織りなす冬景色の中に、8人の男たちがいた。 白皙の美少年、色黒細マッチョ、眼鏡男子に王子様、けもみみ、にくきう…… 三姉妹を見上げる、年齢も身長も萌え属性も、多種多様よりどりみどりのイケメンたち。もはやこの時点でアザーバイドの認識領域からは、女子(きぃ)のことなど消えてしまっている。 「こちらの世界へようこそ、お嬢さん方。いきなりだったので茶の用意もなくて申し訳ないが……歓迎しよう」 そう告げるのは、ロングコートを着た長身の男――『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)。 「俺らみたいなのを、探してたんだろ?」 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が不敵に笑み、 「ご機嫌よう、お姫様。君たちが訪れるのを待っていたよ」 旋律のような囁きと共に、『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)が手を差し伸べた。 「――さあ、おいで」 蜜に誘われた蝶のように、猫缶にまっしぐらする猫のように、ふらふらとイケメンに引き寄せられる三人娘。 D・ホールを抜けると そこはイケメンパラダイスだった―――― ●REC カメラが神社の風景からパンして、イケメンたちが三姉妹を一人ずつ引き離し、境内の各所へと誘い出す様子を捉える。 雪山に現れたイケメン――アザーバイドを送還するという依頼を受けたリベリスタが、説得にかかりだしたのだ。 さらにカメラは、ぐぐっとズームインし……白い髪の青年の、首元から覗く鎖骨へと迫る。 「(きゃー! エルヴィンしゃん、わいるど! その両手で抱きしめてー!)」 続いてファインダーに映し出されたのは、眼帯をした少年の、高貴な猫を思わせる横顔。 「(ゆーにあきゅん、なんていいショタ……いや超クール! どうしよう、みんな格好良くて、三姉妹にとられたくない気がしてきた!!)」 はぁ。はぁ。 息が荒いのは、ソードミラージュもびっくりのスピードで、雪の中を猛ダッシュしたからである。 * 「?」 『銀の盾』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)は、不意に強烈な視線を感じた気がして、後ろを振り返った。 彼の超直観が危険を告げているような気もしたが……特に不審なものも見つからず、前方にいる異世界からの迷い子に向き直る。 妹たちと引き離された雪女の長女は、リベリスタたちから距離を置き、こちらの様子を窺っている。その蒼い瞳には、怯えが滲む。 「よう、お嬢さん。どうした、そんな隅で縮こまって」 エルヴィンが明るく声をかけながら、やや強引に近付いた。 浅黒い肌にあごひげ。鋭い牙もつ野生の獣を思わせる容貌のエルヴィンだが、見た目に反して職業ホーリーメイガス、正真正銘の癒やし系。異界共感とマイナスイオンを使いながら、牡丹の警戒を解こうと試みるも――エルヴィンが一歩近付くと、牡丹は一歩、遠ざかる。 少女は顔を真っ赤にしてうつむいたまま、決してエルヴィンと目を合わせない。ルーズに着こなした服から覗く均整の取れた彼の身体を、とても直視できないといった様子で、わたわたと後退していく……相当重傷のうぶらしい。 「べつに何もしねーから、俺たちの話聞けって」 ユーニアもまた、牡丹に歩み寄ろうとすると――好みのタイプにストライクな男子二人に囲まれた雪女は、さらにがっちがちに緊張し、後退する足をもつれさせて雪の上に倒れ込んだ。 突如。牡丹は来ないでと言わんばかりにぎゅっと目を瞑り、自分自身をも巻きこむ吹雪を起こす。舞うようだった雪が強い風に煽られて勢いを増し、周囲のあらゆるものに襲いかかるが――しかし。 「俺らには、んなもん効かねーぜ」 ユーニアもエルヴィンも、全く凍りつく気配はない。 「だが他の人間は、君らが凍らせれば、簡単に死ぬ。俺たちと仲良くしてくれる気があるんなら、悪ィが雪や氷でのおもてなしは勘弁してもらいたいな」 “死”という言葉に、異世界の少女ははっとしたように、うつむいた顔を上げた。もはや降る雪も、さきほどまでと同じく穏やかさを取り戻している。 もともと害意のあるアザーバイドではなかったのだろう。牡丹は乱れた着物の裾を直し、雪の上に座ると、いきなり攻撃したことを謝るように深々頭を下げた。 「……いーって。あんたみたいな迷子の面倒みんのも、俺らの仕事のうちだ」 白金色の髪の少年が無愛想に紡いだ言葉に、少女はようやく緊張を解いた様子で微笑む。 「まあ食え」 ユーニアが差し出したアイスを、牡丹は雪の上に正座したまま受けとった。 「この世界には、あんたみたいな綺麗な人を狙う悪い奴がいるんだ。何が来ても、俺が守ってやるけどさ。何より……あんたがここにいると、この世界が壊れてしまう」 向かい合うように立ったユーニアは、アザーバイドがこの世界へもたらす影響について語る。異世界の住人は、この世界に存在しているだけで、崩壊へと加担してしまうことを。 「俺はあんたと戦いたくないし、大人しく帰ってほしい。……わかってくれるよな?」 こく。神妙な顔をして頷くと、牡丹は静かに立ち上がった。 「よし、イイ子だ。……帰るまでは俺らが、気の済むまで相手してやるからさ」 エルヴィンが少女のあごに指をかけ、くいと自分のほうを向かせる。息がかかるほどの至近距離で見つめられ――ぼひゅーーー。牡丹は立ちのぼる湯気がみえるかと思うほど真っ赤になり、 「うおっ!?」 ――くてんと倒れた。エルヴィンが咄嗟に少女の身体とアイスを支える。 「……失神してんな」 この雪女、こんなんで氷漬けにしてお持ち帰りとか、できるのか?余計なことながら思わず心配になってしまうユーニアだった。 ●REC 境内を見下ろす石段の隅、茂みの中から、小さな赤い光が覗く。 謎の人物が、ビデオカメラを回していた。今レンズが追っているのは、氷の張った池のほとりに佇む4人の男女。 「(フラウたん、おうじしゃまぁあ! つい土下座したくなる!)」 「(李くんもきゃわわ! ないすほもだよ!)」 「(かいねしゃんクールビューティー! その毒舌でどM心いぬけ!)」 繰り返しになるが――あくまでも謎の人物である。 * 「??」 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は、不穏な空気を感じた気がして、後ろを振り返った。 女の勘でなんとなく察しはついたけれど、実害はないので(たぶん)放っておくことにする。 大きめの男性用コートとオールバックにした髪。今の彼女はいわゆる“男装の麗人”というやつなのだが、同じく雪女の次女を口説き落としにかかった『女好き』李 N♂H 腕鍛(BNE002775)とフラウが中性的な外見だったため、並んでいても美少年三人組にしか見えない。 眼鏡の位置をくいっと片手で直し――海依音は、こちらを見ている勝ち気そうな雪女に話しかける。 「迷子の姫君、少しの時間を僕たちにくださいませんか? ひとときの出会い、それもロマンチックでしょう?」 カンフー服姿の腕鍛も、アザーバイドの少女に少年のような邪気のない笑顔を向けて敵意のないことを示す。 「よかったら、拙者たちの話を聞いてもらいたいのでござるよ」 木蓮は、値踏みするようにリベリスタたちを見ると、妖艶な微笑みを浮かべて3人にゆっくり歩み寄ってくる。誰にしようか迷うように指を添えた薄紅色の唇から、吐息が零れてきらきらと輝く。空気中の水蒸気が凍っているのだろう。……氷漬けにしてお持ち帰りする気、満々のようだ。 「(冷凍保存されるのは、さすがに御免こうむりたいっすね)」 雪女がフラウの顔へと白い手を伸ばし、凍てつく吐息を吹きつけようとしたとき――フラウはその伸ばされた右手を取り、自分の方へ引き寄せて、甘く語りかけた。 「――どうか私たちを氷の檻に閉じ込めないでおくれ。そうなってしまえば君に触れる事も、愛を囁く事も出来ないのだから」 緩く波打つ柔らかな金の髪。白いファー付きマントを羽織り、手袋とブーツを身につけたフラウは、まるで童話の世界から抜け出してきたかのよう。長い睫毛に縁取られた緑の瞳に見つめられ、その場に釘付けになる木蓮。 その隙を逃さず、木蓮の左手を海依音が取った。 「君の冷たい手……そして迷子になった寂しい心も、僕が暖めたい」 右手にフラウ、左手に海依音。二人は木蓮の手の甲に、そっと口づけを落とす。 ツンデレにツンする隙を与えないリベリスタたちの波状攻撃に、思わず異世界の少女は頬を染めてうつむいてしまう。 「こちらで拙者たちとお話しないでござるか」 ベンチの汚れを払った腕鍛が、木蓮を促した。 腕鍛の説得は、ここにいると危険であり、彼女たちが対話で帰らなかった場合は暴力的な手段が取られてしまう、というもの。 木蓮はベンチに腰掛け、興味なさそうに、つん、とそっぽを向いている。 彼女は腕鍛と同じ武道家タイプらしく、腕にも自信があるのだろう。戦闘になっても負けたりしない、と考えているようだった。フラウと海依音がなだめすかしても、なかなか帰ることに首肯しようとしない。 「……可愛いあなたが傷つくなど、拙者にはとても耐えられないのでござる。どうか、元の世界に戻って欲しいのでござるよ」 木蓮の手を握ろうとし――腕鍛は、突如、自分の拳を魔氷拳で打ちつけた。冷気を纏った拳と拳がぶつかり、腕鍛は鋭い痛みに、少しだけ眉をしかめる。 熱いのが苦手な少女のためなら、自分が傷つくことも厭わない。女性を殴らない主義の腕鍛は、何としても雪女たちを無傷で元の世界へ送還したかった。その想いを伝えるための、男気溢れる行動だった……のだが。 腕鍛の拳は、凍りつかなかった。 彼は、絶対者。彼に効くバッドステータスは、ほぼ、ない。 「の゛ーーっ!! 拙者は……拙者はどうして、絶対者だったんでござるかああーーー!!!」 うなだれて体全体でorzの文字を形作っている腕鍛の、ズキズキけっこう痛む手を、ひんやりと冷たい手が包む。 腕鍛が目線を上げると、木蓮が少し呆れたような、でもとても嬉しそうな顔で、彼の側に屈みこんでいた。誠意は、異世界から来た少女にも、ちゃんと伝わった。 ●REC 「(はがねしゃん、かっこいい! いつものぼさぼさ頭もぐっとくるけど、今日のもイイ!)」 「(うさみみ×眼鏡×ツンデレ……あやときゅんは、まるで萌えの宝石箱やーー!)」 謎の人物は雪にも負けず、冬の寒さにも負けず、元気にビデオ撮影続行中である。 「(っふ、ばかめーー! こんなときめくもの撮り逃すなんてありえんわ!! 帰ってからビデオ見てきゅんきゅんするんだから!!)」 電池も残り少なくなってきた。電池が無くなったら、ビデオカメラを破壊されないため速やかに逃げるつもりの謎の人物であった。 「(まさに、敵は身内にあり!!!)」 * 「???」 『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)は急に悪寒を感じ、後ろを振り返った。 何かちらりと見えたような気がしなくもないが……気のせいだろう。気のせいだと、思いたい。 細身のスーツを身に纏い、眼鏡をかけた綾兎は、ふるふる頭を振って任務に意識を切り替える。 「どうやら迷子のようですね。帰り道まで送りましょうか?」 雪の上を片足跳びしていた幼い雪女は、綾兎のことが気になって仕方のない様子でちらちらと彼を見ていたのだが――帰ることが話題に上ると、また前を向いて、ぴょんぴょんと進み出す。 「やっぱり、そう簡単にはいかないよね……」 綾兎は兎耳を困ったようにへにょりと垂らし、少女の後についていく。 「……まさか俺まで説得に回されるとは」 普段どおりではまずかろうとインテリヤクザ風?に髪を撫でつけた鉅も、綾兎の後を歩きながら、半ば途方に暮れていた。与えられた任務はナンパ、しかも相手は自分の半分くらいの年齢のお子様。やりにくいことこの上ない。 どうしたものかと手をこまねく二人の服を、ふいに立ち止まった雛菊がくいくい、と引っ張った。 「ん?」 憧れで目をきらきらさせながらリベリスタたちを見上げる小さな雪女は、二人に誘いかけるように微笑むと、はしゃぎながら走り出す。 「えっと……どうやら追いかけてこいってことみたい?」 「……放っておくわけにもいかんな、このまま麓の村に行かれでもしたら事だ」 雪の上をふわりと逃げていく少女を追って、走り出す大の男二人。 「……これは、子守の依頼だったのか……?」 まだ誰も足を踏み入れていない真っ白な雪に足を取られながら、何分間、走り回っただろうか。 「――つかまえた!」 綾兎が雛菊を捕らえると、少女はすっかりご満悦の表情で綾兎に抱きついた。 「ね、可愛いお嬢さん。貴女が帰らなかったら心配する人、いるでしょう? 長い間こちらにいると、帰れなくなってしまうかもしれないよ?」 すりすりすり。猫のように顔をこすりつけて、綾兎の腹筋を堪能中の雛菊。 「何より今回は準備不足、一度戻って頂けないか?」 鉅が屈んで目線を合わせ、少女に問いかける。雛菊は彼の低くとおる声に聞き惚れるように、はにゃーっと顔を向けると、こくこくと頷いた。 「話の中身もちゃんとわかってる……よね?」 こくこく♪ 「説得……これでいいんだろうか」 「頷いてるし、いいんじゃないかな……うん」 戦闘以上に、なんか疲れた。それは二人の共通認識だっただろう。 ●4人の乙女は去りぬ 冬でも葉を茂らせた楠の巨木の下、他の仲間を待つユーニアとエルヴィン、牡丹。 そこへ、死神の称号を持つ男が、アザーバイドの少女を腰にぷらーんとぶら下げながら歩いてくる。 「おい、これをなんとかしてくれ……しがみついて離れん……」 「すっかり懐かれちゃったみたいだね」 くすくす笑いを零しながら、綾兎も姿を現した。 離れたくないと駄々をこねる雛菊の側に牡丹が屈みこみ、何か伝えるようなそぶりを見せると、鉅はようやく解放される。 別れの寂しさに泣き出す幼い少女の涙を、綾兎は指でそっと拭った。 「素敵な大人のレディになるのを楽しみにしていますよ……お嬢さん」 「翼を動かしてみてごらん、まるで天使みたいですね」 海依音とフラウのW王子様にエスコートされ、授けられた魔法の翼で舞い降りたのは木蓮。 「許しておくれ、君を送り返すことしか出来ない私のことを。私の世界は――君に優しくないんだ」 「元の世界でも達者に暮らすでござるよ」 腕鍛に子供のように頭を撫でられて、木蓮は恥ずかしそうに目を伏せながらも、むーっとふくれ面をする。 エルヴィンが提案し、彼らはポラロイドカメラで記念写真を撮った。写真を手に、名残惜しそうに何度も振り返りながら、D・ホールへと歩みを進める雪女たち。 「――おっと、ちょっと待った」 とぼとぼと歩く牡丹を呼び止め、エルヴィンは、振り返った彼女のおでこにキスをする。 「サンキュ、楽しい時間だったぜ。またな」 くらっ。再びぱたりと失神しそうになった牡丹は、今度はぐっと堪え……耳まで真っ赤にして、エルヴィンになにかを押しつけた。そしてそのまま踵を返し、小走りで妹たちの待つ楠の洞へと向かう。 そして、涙を浮かべながらも、笑顔で、手を振って。3人の異世界の少女たちは、D・ホールに消えた。 「……これで任務完了、だね」 急に静かになったように感じられる、神社の境内。D・ホールは海依音・腕鍛・ユーニアの手によって速やかに破壊された。 「さっきの、なんだったんだ? 刺されたのか?」 ユーニアに問われてエルヴィンが手元を見ると、 「…………へ?」 それは小さく折り畳まれた、白紙の婚姻届。なぜアザーバイドがこんなものを持っていたのか、イケメンたちには、知る由もなかったが。 手元に残った集合写真を見て、思い出したようにフラウが呟く。 「そういえば……きっひーはどこっすか?」 「ああ、御厨君なら撮ってたビデオカメラ抱えて、走り去っていきましたですよ」 「「「びで……お?」」」 雪女は去ったのに、一部のリベリスタが氷像と化したとかなんとか。 空から舞い降りる雪は、まだやむ気配がない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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