●緑の要塞 「……固定資産税、毎年どのくらい払っているのかなぁ」 公道の反対側に止めた黒いスポーツタイプのワゴン車の後部座席に座った配島は、荘厳とさえ言える門構えをぼんやりと眺めながら言った。 「配島さん、トラップの準備出来ました」 「こちらも完了です」 耳に慣れた声は運転席と助手席に座ったナオトとユミのものだから、配島は視線を動かさず、首に下げた無骨な銀の指輪を撫でている。 「みんなにちゃんと指示した? 始まっちゃったらこの辺、携帯もテレパシーも何もかも繋がらなくなるからね」 「わかってますって。だから5人も見張りに出してるんですよ」 「奴らは耳、目、鼻のいい専門家ですし、ちゃちなトラップぐらいは仕込んであるっすよ」 ナオトもユミも今回は綿密に計画を練るところから参画し、充分な時間と金を掛けている。 「主役は蝮原君のところだけど、ここから脱出する人の捕獲はぜーんぶナオトとユミがやるんだよ。裏門の黒武君達はあてに出来ないし……」 自分の事は言及せず配島は指輪をぶらぶらさせながら言う。今回の仕事は他のチームをアシストし、討ち漏らしを防ぐ事であった。数度会っただけの黒武石炭に過度の期待していないようだが、裏門については彼らがなんとかしてくれるだとう丸投げ気味だ。 「それが『孤独』ですか?」 ユミが遠慮がちに言った。今日の配島はなんとなく機嫌が良さそうで、作戦とは関係ない事も言える雰囲気だ。 「うん。三尋木さんが持っていけって」 ペンダントの様に鎖に通した指輪をクルクルと回しながら配島は答える。 「伝家のお宝を出すとは、オヤジ本気モードっすね。やっぱ、マムシの旦那に恩を高値で売っておこうって腹ですかね」 「そうかも。三尋木さん可愛いから、お願いって言われると断れないんだよね。今回はちょっと頑張ろうかなっ」 ナオトとユミは人生とほぼ同じ年月、後ろ暗い道を歩いてきた海千山千のクソ爺を指して可愛いなんて言うのは配島くらいのものだろうと思ったが、分別のある若者だったので無難にも沈黙でこの台詞をスルーした。それでなくても作戦開始の時間は刻々と迫ってきている。 「そ、そういえば今更ですけど、カレイド・システム対策は大丈夫なんですか?」 やや強引にユミは現実の事に話題を変える。アークには広範囲に渡って事象を察知する装置がある。自軍にあれば頼もしい事この上ないが、敵対する陣営からすれば脅威以外のなにものでもない。 「さぁ? でも三尋木さん経由の情報だと対策は用意したって。アレ、凄いから逆に油断してるんじゃない? それよりあっちの準備は整ったのかな?」 配島は蝮原達がいるだろう方角を視線で示してナオトとユミに聞く。2人がうなずくとようやく鎖を首から外し指輪をはめた。 「……じゃ、始めようか。始めたら終わりになるまで止めるつもりないからよろしくね」 配島は指輪の力を解放し、その瞬間全ての通信手段は完全に遮断された。 ●鉄壁の破壊 携帯電話の振動が伝わる。送信者はリベリスタならば当然登録されている名前であったが意外な人物だった。受信するなり時村沙織は挨拶も無しに早口に切り出す。 「ああ、お前か。出てくれて助かったぜ。ついさっきアーク本部の方に電話が入ったんだ。何者かは知らないが……話によれば時村本邸がフィクサード達に襲われるらしい」 匿名の密告者は沙織の父、当主である貴樹の暗殺を目的とした襲撃が起こると伝えてきた。常日頃ならばカレイド・システムが察知しない事件など一蹴するところだが、事実本邸との連絡は途絶えている。ようやく近くにいたリベリスタを見つけて連絡したのだと沙織は早口で続ける。 「例のフィクサードの攻勢で本部の方はかなりばたついてる。そうでなくても本部から戦力を回してたんじゃ間に合わないだろう。俺の方で付近に居るリベリスタに連絡を取って戦力を編成する。すまんが、本邸の方に急行して親父のガードに当たってくれ」 援軍が到着するまで、何とか本邸を防衛する事……それが沙織の指令であった。断られるとは思ってもいない口調だ。 「襲撃側はいくつかのチームに別れているが、先ずは本邸の連絡手段を遮断しているのは配島というフィクサードの一派だ。総勢8人だが、5人の部下は時村本邸からの脱出者を見張るために出払っていて、配島の近くには2人のフィクサードしかいない。ここを強襲し奴が手にしている『孤独』を無効化させ、本邸との連絡を回復させてくれ」 これまでの経験上、アーティファクトとその所有者は本邸のごく近い場所に潜伏している場合が多い。カレイド・システムが健在ならもっと詳しい情報がわかるのだろうが、今は密告者からリークされた情報とそれを元に構築した予測で対応するしかない。 「最も大切な事は親父を守る事、そのために情報封鎖を解除する事だ。敵を殺す事は目的ではない。危機的状況になってもとにかく持ちこたえて時間を稼げ。こちらからの増援が到着すれば敵は退くし、親父さえ生きていれば逆襲はどうとでもなるさ」 それじゃあ頼んだ……と、沙織は通信を切る。最後まで断られるとは思っていない様子だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)02:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 今、時村本邸の周囲では全ての通信手段が遮断されている。理由はひとつ……アーティファクト『孤独』の効果であった。そのアーティファクトを持つ配島が時村本邸の正門前に止めたワゴン車に乗っている事はわかっている。 「敵を発見。情報通りだ」 物陰に潜む『鋼の山猫』ジョン・リンクス(BNE002128)が同じ色の瞳に映す。 「まさに大攻勢デースが、こうしてリーク情報があると言う事は、連中も一枚岩で内のでしょうネ」 隠れている状態だが『奇人変人…でも善人』ウルフ・フォン・ハスラー(BNE001877)は身振り手振りを交えて話す。 「小難しい事はみんなに任せた。俺はナオトをぶん殴って前回の借りを返させて貰うぜ!」 清々しい程の脳筋――脳が筋肉で出来ている様な――状態を示した『Not A Hero』付喪 モノマ(BNE001658)はどこか嬉しそうだ。 「本当にあの3人しか車の中にはいないみたいだね。なんか、凄いなぁ」 感心した様子で『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)はつぶやく。自分とナオトやユミに絶対の自信でもなければ出来ない事だと智夫は思う。 「まずは、奴らの出方を見るか」 やる気がなさそうな『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)だが、先頭に立ってワゴン車へと近づいていく。やる気はないが時村沙織の要請なら断るのは得策ではない。せいぜい高く恩を売る。 「不用心な程何もないな。いっそ潔いとでも言いたくなりそうだが……」 近づきながらワゴン車の周囲をを『透視』してみた『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)だが、全く何もない。グローブボックス内に小型の発炎筒があるぐらいのものだ。 「ちゃんと法令を守ってるなんて、変なフィクサードよねぃ」 同じく『透視』の力を使っていた『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)が笑う。 「……でも……何故……時村本邸襲撃の……情報が……リークされたのか……カレイドシステムが……察知できなかったのも……不思議」 一番後方にいたエリス・トワイニング(BNE002382)は小さく首を横に振りながらボソボソと言った。その謎もいつかは解明されるのだろうか。 リベリスタ達は罠がないことを確認しつつ慎重にワゴン車へと近づいた。10メートルほど手前で後部座席右側のドアがスライドして、中から配島が身をかがめて降りてくる。続いて助手席からユミが現れたが、運転席にいるナオトは窓を下げて顔を覗かせただけで降りてはこない。 「よくわかったね? ってあれ、元気だった?」 配島は細い目を珍しく見開き、見知った顔が向かって小さく手を振る。その人差し指にはまった指輪がやけに目立つ。 「久しぶりだよぅ、そっちは……ウン、変わりないようだねぃ」 「ちょっと忙しかったけどね」 アナスタシアは親しげに声を掛けた。ユミとナオトは警戒している様子だが、配島だけは嬉しそうに笑っている。オーウェンはさりげなく仲間達の背後に回り、能力を使って脳の伝達処理速度を向上させる。 「なかなか凝った趣向だが、ルールを説明せずに始めるのは感心しないな。おかげで開始に遅れた参加者も出ているぞ」 鉅はかつて熱海で起こった事件を比喩的に使って話し、リベリスタ側の増援を匂わせた。 「ごめん。キチンと招待したかったけど、蝮原君が秘密だって」 配島は顔の前で手を合わせて鉅に詫びる様なそぶりをする。 「この作戦は失敗だ。増援もすぐに到着するし、別方面にも味方が向かっている。お前さん達に勝ちの目はないんじゃねぇの」 既に大局は決まっているとジョンは軽い口調で言う。嘘も希望的予測も真実を織り交ぜて話せば全てが真実みを帯びてくる。 「あと蝮原さんの組が黄咬に襲われてるんです。だからリークしたのは……双方が争うと利益を得られる所じゃないかな? 詳細はその『孤独』を解除して貰えれば判ると思うけど、ダメ?」 困り果てた様な表情と訴えかけるような目で智夫は配島を仰ぎ見る。 「えー『孤独』の事も知ってるの? そっか」 「配島さん、黄咬って」 「じゃ裏切り野郎はあいつ?」 ユミとナオトは顔色を変える。配島も心当たりがありそうだ。 「どうでも……いい」 エリスは配島との会話には興味がないらしく、素知らぬふりで魔力を活性化させ体内を、強力に循環させていく。 「我々は時村貴樹を守るために死力を尽しマース。でも、無理矢理殺し合いをするつもりもありまセーン」 ウルフはリベリスタ側の最低ラインを伝え、互いに落としどころがあるのではないかと交渉の余地があるかとさぐりをいれる。 「よぉ、また会ったな! 今回は思いっきりやらせてもらうぜぇ!!」 だが、モノマはギラギラした目でフィクサード達、特にナオトを凝視し言う。その目が雄弁に内心を語っている。 「戦いマスか? それとも撤退しマスか?」 どちらでも良いような口調でウルフが聞く。強く勧めないのは配島のよくわからない性格のためだ。 「撤退しちゃおうか?」 あわててユミとナオトが配島を制止する。 「戦いもせずに逃げるなんて絶対駄目! 蝮のがなんて言うか!」 「三尋木さんだって泣きますよ。きっと!」 長年側にいるだけあってユミもナオトも配島の操縦には長けていた。コロリと配島の表情が変わる。 「しょうがないな……」 配島は小さくため息をつき、次の瞬間雰囲気を一変させて笑う。 「じゃ、少しだけつきあってよ」 いきなり仕掛けてきた。 ● 「みーつけ。キミがこのチームの狙い目だね」 いつの間にか配島が手にした銃身の長い得物から早業の攻撃が1度、そして2度と放たれる。それは狙いを誤ることなく最後尾にいたエリスの左胸を直撃する。 「……あっ」 小さな悲鳴と共に真っ白なワンピースとエプロンドレスの胸に鮮血の薔薇が咲く。スローモーションの様にゆっくりとエリスが倒れ、トサッと軽い音が遅れて聞こえた。痛みに耐えながらも指先が地面を掻く……ジョンがくれた癒しの力は続いていたが、すぐには起きあがれない。 「配島! 貴方の相手はあたしだよぉ」 普段礼儀正しく敬称をつけて話すアナスタシアだが、倒れたエリスに血が逆流した。熱い血潮が凍てつく冷気を放ち、氷の拳が配島を強襲する。1撃目は当たらない。だが続けて繰り出した拳が配島の頬をかすめるが、淡い氷はすぐに溶けて凍えさせるには至らない。 「それがお前さんたちのルールか? 随分と自分勝手だぞ」 鉅の足下から影が伸び、能力を増強させる。その鉅の横を風に煽られ燃え広がる炎の様に駆け抜ける男がいた。赤茶の髪さえも炎の様になびかせ走るモノマはもはや誰にも止まらない。 「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」 ワゴン車の扉ごとその中にいるナオトを狙って灼熱の拳が繰り出された。 「うわっ。あちっ、ちょっとタンマって」 ナオトはあわてて助手席側から車の外へと逃げ出すが、車もナオトも無傷ではいられない。扉はひしゃげガラスが割れ、そしてナオトも背を真っ赤に焼かれ上着を脱いだ。助手席側に立つのナオトやユミに気取られぬよう、オーウェンはワゴン車の影に廻り身を潜めてじっと次の攻撃の機会をうかがい集中する。 「今度はこっちからだ」 攻撃を仕掛けたばかりのモノマへとナオトは拳ひとつで突進する。強烈な一撃がモノマの頬を殴りつけた。ほぼ同時にユミは倒れたままのエリスの頭部を狙って銃を構え、トリガーを引く。金色の髪がどぎつい程の鮮血の赤に染まり、もがくエリスの動きが止まった。 「配島さん。今日は甘ちゃんじゃないですか」 薄ら笑いを浮かべるユミ。 (「やっぱりフィクサードは……しょせんフィクサード……人を傷つける事……楽しんでいる」) 傷ついたエリスは瞬時に戦いを心の底から楽しんでいる敵の気持ち、そして攻撃方法に違和感を感じる。 「速い!」 智夫は唇を噛む。敵がどう動くかは最初からわかっていた筈なのに、ユミの射線を塞ぐ事も、回復の要であるエリスを守る事も出来ていない。それでも、立ち止まる事は許されない。もうここは戦場なのだから、この場にいる限り戦い忌避出来るものではない。 「ユミさんの動きは僕が止めるよ」 強固な智夫の意志の力がまばゆく輝く光となって辺りを埋め尽くす。目に痛い程の、否敵にとっては本当に痛みを伴う光の奔流に配島らの動きが一瞬鈍る。 「退き際を見失ったんだって後悔しても知らないぜ。この先、もう見逃してやるつもりはない」 ことさら強気の言葉を吐きながらジョンは短剣を手に配島へと刃を振るう。ジョンにとっては撤退勧告など戦場の儀礼に過ぎない。敵が譲歩しないのなら戦って力でねじ伏せるだけだ。だが、スキルを使わない通常攻撃は配島の身体にかすり傷さえ記せない。 「こちらの本気を見せますヨー」 後方からウルフが容赦のない連射でフィクサード達へとマシンガンの様に撃ちまくる。ナイトとユミ、そしてワゴン車が蜂の巣の様に小さな穴を穿たれていく。 「おっと」 高い音がして配島の右肩にも弾丸が貫通する。 「貴方だって不死身じゃないよぅ」 厳密な意味ではリベリスタもフィクサードも普通の人間ではないかもしれない。けれどどれ程強くても倒せない相手じゃない。アナスタシアは諦めなず、再度氷の拳を見舞う。今度こそその破壊力は右肩を庇って不自然な体勢にいた配島の腹を捕らえた。無防備に前屈みとなった間合いに鉅が飛び込む。 「名前倒れか? 隙だらけだ」 ダガーの刃が配島をかすめ、服地を切り裂き赤い血の筋が刻まれる。 「もう一発だぁあああ! いっけぇええ!」 「ひゃああ」 熱いたぎる魂のままにモノマの拳は炎をまとってナオトに迫る。ナオトは体勢を崩して逃げるが逃げ切れずに側背をしたたかに撃たれて地面にすっ転がった。 「だっせー」 「うっせぇ!」 「こら! 戦いに集中しないとアークのみんなに失礼だよ」 またしても笑うユミと怒るナオトに腹を押さえた配島の意識がそちらに向いた。その時が好機だとオーウェンが動く。 「これでどうかな?」 気糸が配島の周囲から中心へと迫り、絡め取るように包囲していく。だが、配島は強引に糸の呪縛を振り切り、手足から血を滴らせながらも突破する。それでもナオトもユミも配島を庇う様子も治療するそぶりも見せない。相変わらずナオトはモノマへ、そしてユミは智夫へと狙いを変え、それぞれ拳と銃とで攻撃を放っていく。 (「やっぱり……あの動き……アークの……リベリスタ達とは……違う……戦い方」) 真新しいガードレールの白い支柱に身体を預け、ようやく身を起こしたエリスはこんな状況下にありながらも冷静な目で戦いを見つめていた。なんとかして仲間達に伝えたいが、身体の痛みは予想以上で大きな声も発しにくい。 「どれだけ攻撃されたって僕は絶対にあなたをフリーにはさせません!」 智夫は全身の力を腕に、そして拳に集中させそれを全力でユミに叩きつける。 「きゃっ!」 そのまま智夫とユミはもつれ合って押し返されていく。 「狩るのは俺で、狩られるのはお前らさ……厄介でハードな状況は戦場ではいつもの事だ」 智夫と同じく全身の力を拳に込めて攻撃するジョンだが、攻撃はあと僅か届かず配島を捕らえられない。台詞の前半は敵への、そして後半は独語に近いつぶやきだ。 「ミー達の狙いは知っているはずデース!」 ウルフの精密なる攻撃は配島の、その手の指にはめられた指輪を寸分違わず狙い撃つ。チュンと高い音の跳弾音が響き、指輪の表面に傷がつく。 「凄いなぁ……でも」 ずっと待機していた配島はすぐ目の前にいたジョンの胸に銃口を押しつけた。 「バン!」 子供が銃声を真似るような声と本物が重なり響く。胸に大きな風穴を穿たれたジョンが後方に吹っ飛んでいく。 正門付近という狭い範囲での戦闘はいつしか敵味方入り乱れての攻防となっていた。アナスタシアと鉅が配島を、ナオトにはモノマが向かい、ユミの押さえに智夫があたるが完璧にその動きを封じるには至らない。 「拝島さん、疲れてますか?」 「さっきより活きが良かったっすよ」 倒れたジョンはユミとナオトが拳と銃で戦闘不能に陥らせていく。 「僕達の仕事は情報封鎖と貴樹君の逃亡阻止。ここ面倒だから移動しようか」 配島はナオトにワゴン車の運転を命じ自分の後部シートに乗り込もうとする。それはオーウェンにとっては千載一遇のチャンスだった。素早くワゴン車の内部に潜入したオーウェンの圧倒的な思考の奔流は物理的な圧力へと変化し、後部シートの配島を、そしてその先にいるナオト目がけて炸裂する。更に精密かつ緻密な機器の集合体であり、引火性の高い燃料を持つダークブルーのワゴン車は次々と誘爆し火柱をあげて炎上した。もちろん、その内部にナオトと配島を乗せたままだ。ただ1人助手席側の扉前にいたユミは吹き飛ばされて電柱に激突し、ずるずると崩れ落ちていく。 「……やったか」 力を使った瞬間、ワゴン車から脱出したオーウェンはすすけた全身のまま、熱と風圧に数歩後退する。ホッとしたように表情を緩めるリベリスタ達。だが、その時ワゴン車の扉が吹き飛び、火だるまになった配島が飛び出してきた。続いてナオトも最初から取れかかっていた扉を蹴破り転がり出る。 「あー、蝮の旦那の車が~」 「油断しちゃったな、フェイト使うなんて」 まだあちこち燃えていたが、配島は携帯電話を取り出し……一瞬ためらった後で指輪を外し無造作にズボンのポケットにしまった。その途端、何かが消える感覚が広がる。 「『孤独』が消えた?」 淡い閉塞感が消えている。アナスタシアは周囲を見渡し息を吸った。 「しっかりして。大丈夫?」 智夫はジョンに駆け寄り助け起こす。 「あぁ……大事、ない」 ジョンの意識がはっきりしているのを確認すると、ホッとしたのか智夫は長いため息をつく。 「ごめん。僕のミス……すぐに戻って来て。裏門が苦戦? そっちは黒武君の好きにさせればいいよ」 配島は乱暴に携帯電話を切る。 「気持ちは決まったようだな」 未だ戦意を消さずに鉅が聞く。 「まだだ! まだ俺は……!」 振り上げたモノマの拳を後方にいた筈のウルフが掴んで止めた。倒れていたエリスを背負っているが、苦にしている様子はない。 「ミー達は職務を果たしマース。よろしいデスね?」 「どうでもいい……から、降ろして……欲しい」 不本意そうにエリスがつぶやくが、配島が動くと厳しい表情を見せる。 「もう用なしみたいだから帰るね。今度はもっと殺伐と遊ぼう」 配島はやってきた黒ずくめの男達のバイクの一台に乗る。ユミを助け起こし別のバイクに乗せると、ナオトも最後尾のバイクに飛び乗った。明るい日差しの中やけにテイルランプが赤く輝き去っていく。 「終わったか」 オーウェンが倒れる。その身体は満身創痍であった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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