●マジで刺身る五秒前 猫猫猫 猫人魚猫 猫猫猫。 「みぎひだり しほうはっぽう ぬこだらけ ……オーサ・カナ、辞世の一句」 あーでもない、こーでもないと辞世の句をしたためて、とある人魚は悩みに悩んでいた。 「あ、あかん、あかんて! ちょ、ちょっと待ってもらえへん?」 ニャアニャアと空腹を主張する八匹の異なる猫たちの瞳が、一段と縦にギュンと鋭くなった。 「魚ぉとっ!?」 ゆらゆらそびえる八つの魔塔。 港町の倉庫街、建物の陰。人魚のアザーバイト、オーサ・カナは恐怖に震えてポロポロ涙する。 「ちゃ、ちゃうねん、今のはその……ちゃうねんて」 絶対に死ぬ。 ここで死ぬんだ。 ネガティブな思考に陥り、カナは涙ぐむ青い瞳にぐるぐると渦潮を巻いた。 この猫たち、豪華絢爛なことに一匹ずつ出自も何もかもが違うのだ。エリューションとアザーバイトとビーストハーフ(猫)のフィクサードが一同に会して、寄ってたかってカナの俳句待ちだ。 唯一の幸運は、ネコたちの意見の相違である。 『刺身』 『しゃぶしゃぶ』 『生』 『てり焼き』 『香草焼き』 『テンプーラ』 『ス・シ!』 『(粉末にして)ふりかけごはん』 鱗も逆立つ恐ろしさ。こいつらは悪魔だ。悪魔という名のネコだ。 お互いに立場も種族も違うネコたちは料理方法の意見がまとまらず、カナに自ら選ばせることにした。なぜか辞世の俳句つきで。 (だ、誰かたすけてぇ~な~!) リベリスタならば――。 アークのリベリスタ達ならば、きっとこの四面楚歌の猫まみれから救い出してくれる! 一寸先は闇ならぬ美味(ヤミー)。 必死にあれこれ時間を稼ぎつつ、オーサ・カナは孤立無援の窮地にて救世主を待ちわびる。 さぁカレイに舞え、剣よヒラメけ! いざアユめ! 乙女の希望タラんが為に! ●猫の手も借りたい かつおぶし、と書かれたダンボール箱を積み上げてテーブルもどきが用意してある。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は反省のポーズで静止している。 「はい、“また”なんです。作戦指令本部の各部屋は使用中でして、しかも人手不足らしくて、今回の任務は“優先度が低い”ということでまたもやこんな場所しか用意できなくって」 ここは第三会議室付属の給湯室である。せまい。以上。 貴方たちは場違いなロイヤルミルクティーを堪能しつつ、優雅に説明を聞くことにした。 「あちっ」 猫舌の誰かさんがふーふーと白磁のカップを冷ましている。 「……ですよねー」 依頼の募集要項に『ビーストハーフ:ネコの方はご遠慮ください。イヌ系歓迎』と書いておいたのだが、そこはそれ、人選というのは時に不合理なものである。どうしても入りたい依頼に限って召集されなかったり、ホ……特殊性癖の集いに限って放り込まれてしまったり、アークという組織の都合と切迫した現実による犠牲者は山ほどだ。 和泉は気を取り直して説明に入った。 「本作戦の目的は、人魚のアザーバイト「オーサ・カナ」の救出と猫型アザーバイト、エリューションの撃滅です。フィクサードは現場判断にお任せ致します。 人魚は古来、その肉が不老長寿の妙薬として言い伝えられています。彼女の肉体の可食部はある種の破界器に等しく、その希少性、またフェイトを得て古くより平和的に生活している点を鑑みて、アークはオーサ・カナを保護して参りました。 今回、カナは“海洋に潜む何か”と不意に遭遇・交戦していたようなのですが、大きく弾き飛ばされて苦手な陸上に打ち上げられてしまい、八匹の猫に包囲されてしまったようです。手負いの上に多勢に無勢、まさしくまな板の上のコイなのです。 “海洋に潜む何か”について詳しく知るためにもオーサ・カナの保護は重要です。 と、こうして語ってみると真剣でシリアスな依頼に聴こえませんか?」 ――そこで同意を求められましても。 「では皆さん、今すぐ大阪まで日帰り弾丸出張旅行いってらっしゃーい!」 え。 出発まであと一時間の日帰り航空切符を手渡されて、貴方たちは凍りついた。 ●いざ大阪へ 航空機に搭乗した貴方たち。そこへワゴンカーを押しながら客室乗務員がやってくる。 「フィッシュorチキン?」 選択の時、迫る。 ●絶望レストラン 一方、港町の倉庫街では……。 「魚、活け造りなぞどうだ?」 黒猫。Eビースト、フェーズ1“黒出刃”は猫又だ。侍風の装いで、腰丈ほどの大きさで堂々と二本足で立っている。黒い出刃包丁を突きつけ、脅しをかける。 ぶんばっぶんばっ。人魚のカナは必死に首を左右に振る。 「しゃぶしゃぶ鍋にすれば~?」 赤猫。Eビースト:フェーズ1“赤土鍋”。赤みを帯びた土鍋の中に赤毛のシャム猫が気だるげに寝そべり、ちろちろと口からちょろ火を吐いている。 熱く滾った湯の中に落とされるイメージ図に、カナは目を瞑ってガタガタ震える。 「生。このまま食べましょう。料理という行為は我々の猫らしさを損ないます」 橙猫。Eゴレーム:フェーズ1“オレンジレプリカ”は、機械仕掛けの電子ペット猫だ。“本物の猫っぽくない”と飽きられて捨てられたが為に、自分なりの猫らしさを追求する。 生きたまま鋼の牙を突きたて、万力のごとき鉄顎で噛み千切るつもりだ。 「ひーっ! ち、血も涙もない!」 「では、お譲りください。貴方の血と涙と骨肉を」 ひんやりと冷淡な橙猫の口調に比べれば、北ホオーツクの海水さえぬるま湯だ。 「てり焼きはどうですニャー?」 黄猫。Eゴレーム:フェーズ1“ゴールドコール”。金運招く黄色い招き猫だ。大事そうにしてる黄金の小判の鏡面には、筆と紙を手に俳句を考えさせれるカナの哀れな姿が映る。 口々に好き勝手なことを述べるエリューション達。 一方、風変わりな緑の猫型アザーバイトとフィクサードの三姉妹は建設的にあーだこーだと自分たちでなにか決めようとしている。 「ボクは香草焼きが良いんだけど、まぁ、絵日記のネタにさえなればなんでも」 緑猫。旅する猫人型アザーバイト“緑川 るるる”は、ひょろーんと八頭身の胴だけ長い体躯にロシア風の防寒服を着込み、スケッチブックに絶妙な筆遣いで他の面子を描きつけていく。 「テンプーラ! テンプーラ!」 「スゥシィ! スゥシィ! なーう!」 「……粉末」 青猫、藍猫、紫猫。ビーストハーフ:猫(アメショ)の外人っぽい三姉妹だ。 青猫“アオン”と藍猫“アイン”はそっくりな双子で大学生ほどの背丈、観光地で見かけるハイテンション白人じみたノリだ。片や双剣、片や双銃。ずっと小さな末女の紫猫“シエン”は身の丈にあまる大きな鉄槌を背負い、ゴシックロリータ調の服装でぼそぼそと俯きながら喋る。 「あ、あのー、お嬢さんたちは一応その人間ですやん? うちを食べるんは倫理的にどうかなーって」 アオンとアインは鏡合わせの顔を見つめ合い、不思議そうに首を傾げる。 「ニャハハ、にゃーにいまさらカワイイこと言ってんの?」 「食べたことあるに決まってるなーう」 「……人間を」 くひひひひと薄気味の悪い笑いをぼたぼたと零すシエン。 冗談に聴こえませんけど。 「さぁハイクをヨメ」 「ハラキリなーう」 八匹の猫たちはカチンカチンッと鍋や爪を鳴らして、カナの心を切り刻む――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月23日(水)22:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●フィッシュorチキン 「それよりお酒。ブランデー、ある?」 『黒猫』篠崎 エレン(BNE003269)はCAに頼み、蒸留酒を酌んでいた。 『バイト君』宮部 春人(BNE004241)は隣席でひとり、緊張と恐怖を内に閉じる。 クールで無愛想な孤高の暗殺者。そこに綺麗なお姉さんといっしょ、なんて喜びは無い。エレンの漂わせる不機嫌さに戦々恐々とするのみだ。 エレンは時どき、無意識のままポケットに手を伸ばす。煙草の箱を掴むか、あるいはオートマチックにライターに火をつける寸前まで至り、ハッとして忌々しげに禁煙マークをにらむ。 弁当だって、喉を通すのに春人は一苦労した。 (猫に鼠に……、大丈夫、なのかな……? いや! 弱気になっちゃダメだ!) そう、箱舟の新米 春人としてだけでなく、悪の秘密結社ペンギン団のナンバー2としても、だ。 (がんばれ!僕!) ●美しい 倉庫街、裏。 「猫猫猫猫猫猫猫猫……! どこ見ても猫ばっかりじゃないッスか!」 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)。ねずみ。先天的被捕食者である。食物連鎖ヒエラルキーにおいてぶっちぎりの弱者オブ弱者だ。 ハメられた! 「リルの役割、どうみてもエサじゃないッスか……」 きらり涙が頬を伝う。 可憐なる少年は哀れイケニエの運命を辿るのか。 『僕は天使じゃなかったよ』白塚・未明(BNE003533)は辞世の句を綴るリルの肩を軽く叩く。 「んなモンいらねえよ。……僕は好きでもないのに小鳥だけどさ」 白磁器の王子様は気強く笑って。 「せめて強い人間になりたいよ。餌にされても荒波に揉まれても地の底に堕ちても這い上がって、羽ばたける程度にはね」 レイピアを、太陽へかざした。 『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)は後にこう語る。 ――え、口説いてるの? と。 リルは瞳を潤ませ、涙を拭い、身長差のせいか上目遣いに未明を見上げて、微笑んだ。 それは雨上がりの虹みたいに美しくて、儚くて。 ふたりは、朝露に濡れた薔薇のつぼみに囲まれていた。 ●狼煙 『御意見無用!』 二十五t級のデコトラ『真・龍虎丸』が突進する。 『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)の愛車だ。敵前にて急激にドリフト、グリップに物を言わせて静止する。 その怒涛の勢いのまま、リベリスタ達は一斉に車上より敵前へ飛び降りた。 会戦だ。 四方八方、敵味方が入り乱れる。 御龍は運転席を降りると、ぽかーんと池の鯉みたいに口をぱくつかせる人魚のカナを見やって。 「ひとつ聞くけど」 紙巻を咥えて。 「は、はぁ」 火を点けて。 「この宴、まさか禁煙?」 狼は、戦いの狼煙をあげた。 「あたしはじーにゃすのティセ! もう大丈夫だよ!」 『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)の種族は今だけジーニャスだ。 「ほんま!?」 カナは尻尾をぴっちぴち跳ねさせ、大喜び。 「やったー! 人間ばんざい! 猫駆除やーっ!」 「え」 「人間サン! どうか猫どもをみんな切り刻んで大阪湾の魚のエサにしたってつかーさいっ!」 「……う、うん」 ●驕れる鼠 (`・ω・´)三(`・ω・´)シャッシャ。 『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)は軽快きゅーてぃくるに動いて挑発する。 常勝無敗。 対ぬこ依頼は過去すべて成功させてきた。 マリルは日頃より対猫戦を想定した訓練を欠かさない。こたつに入ってみかんを食む。ともすれば魂を喪失し生きた屍になりかねない過酷な試練を己に課すのだ。 「拙者、黒出刃と申す……覚悟!」 歴戦の相棒(みかんの皮)を握り締めて、迫る黒猫へ、マリルは必殺の一撃を解き放つ。 『破滅のオランジュミストぉ!』 オレンジの霧。β-クリプトキサンチンの色素成分が、未曾有のカタストロフィを招く。 が。 健在――! 橙猫、オレンジレプリカ。黒バイザーの下でアイカメラが凶怖の赤い月のごとく明滅する。 「ひっ」 虚を突かれて、無防備を晒す。なぜか敵がすりかわっている。理解不能だ。 ガコンッと口腔部を開閉、果汁粒子砲をフルチャージする。橙猫の本質は“模倣”だ。 『偽・破滅のオランジュミスト』 噴霧される蜜柑メガ粒子。ビタミンA、Cを中心とした極小の弾丸がフルーティな硝煙と共に殺到。マリルの円らな瞳に、直撃した。 「死(です)ぅぅぅぅぅぅぅ!?」 マリルは無様に転げ回り、橙猫はクールに勝ち誇る。。 「私の演算結果では、我々の戦闘能力は捕食対象群との相対時、平均9.129倍に飛躍します。 私は猫です。貴方は鼠。貴方を捕食することを望みます」 ――絶望。 『今日の仕事はベリーハードですぅ』 なんて冗談も言った。遺書を用意しろ、という注意事項は単なる和泉の遊び心だと解釈していた。 マリルは今、理解した。これは死闘である、と。 ●シャッフルのタネ 絶体絶命のマリルへ殺到する猫軍団。 ティセの超直観の異能と本能が“9.129倍”発言が倍率はともかくハッタリでないと確信させた。 明らかに、想定より手強い。 「けど!」 壱式迅雷ならば、橙猫の電子回路をショートできる! 電刃一貫。 クローが突き刺さったのは赤猫の土鍋の蓋だった。 「やっらせないよ~」 庇った? いや“すりかわった”のだ。 「そんな!」 佐里が叫ぶ。他の面々も同じだ。不自然なすりかわりによって攻撃が不調に終わっている。 戦闘論者たる佐里は分析を試みる。 既に二度、パーフェクトプランに基づく剣撃を敵へ浴びせようとした。結果、すりかわりで計算が狂い、不完全に終わる。が、加速した思考は情報解析を元にある結論を導きつつあった。 元来、分析に特化したエネミースキャンの異能でさえ完全な分析は確実ではない。だからこそ、佐里は移動中ずっと敵の考察を重ねていた。その“予習”が、不測の不足を補った。 「試算完了……いざ実証!」 佐里は魔力剣・閃赤敷設刻印をビリヤード・ハスラーの如く構えた。 ピンポイント。 極小の赤い気糸が一直線に標的を撃ち抜く。それはスケッチブックを貫通した。 「緑川るるる、貴方の手品はこれでおしまいです」 絵日記を失い、ロシア帽の緑猫は絶句した。 「ボ、ボクの絵日記を……どうして!」 めくれるページ、こぼれおちる色鉛筆。 黒猫の形に、橙の着色を。 橙猫の形に、赤の着色を。 形状と色彩をズラすことで、位置交換やカモフラージュなどの操作を行っていたのだ。 「単なる消去法です。確率は82.52%。破界器なしにフィクサードができる芸当ではないため、脱落三。前衛に不審な挙動はなし。除外すれば残り二つ。そして貴方は絵日記に他の猫たちを描いていた。最後は――直感です」 さらにAF越しに仲間たちへ佐里なりの分析を報告し。 「お魚じゃ満足できない猫さんは、斬り捨てますよ」 そう言い捨てた。 「よくも……ボクの大事な旅の記録を!」 激昂する緑猫。 ひょろ長い体躯をしなやかにひねって宙に舞い、二連装ライフルで佐里を狙い撃つ。 弾道演算。弾速予測。着弾点算出。 緻密な計算が、そっと剣をただ斜めに構えるだけで次々と銃弾を弾き返させた。 「刻印します!」 勝てる。そう確信し踏み込んだ刹那、藍色の気糸が佐里の右腕を撃ち抜いていた。 「なっ」 「油断大敵なーう」 藍猫アインの双銃。さらに青猫アオンの双剣が佐里を攻め立て、掠め切る。 「粋がっちゃって、カワイイにゃー」 「貴方たちはっ! 非道千万! 人肉を口にするなんて冗談でも許せません!」 ふざけた言動に佐里は怒り、狂い、翻弄されるまま藍猫アインへ気糸を放つが、見切られる。 「……くすっ」 背骨に鈍痛が走る。めきゃりっ。 紫猫シエンの鉄槌が、背後より直撃していた。佐里は派手に地を跳ね転がり、血反吐を吐く。 「……粉砕」 「にゃはっ! ねえ、もしかしてまだ人間のつっもりー? ユーもミーも等しくエリューション」 「外人、じゃなくて人外なーう」 三姉妹の憐れみの眼差しに、佐里は怒りを滾らせ、冷静さを失っていった――。 ●ルーキーと救出劇 『凡てを血祭りに処せ』(※要約) ペンギン団の首領は、春人にそう命じた。 しかし春人は癒し手、しかも新米だ。この大乱闘、杖一本で殴って解決できはしない。 「ちょ、ま、みかん汁はやめるッス!」 ぶっかけ。 「あーっ!」 びしょ濡れのリルはのたうちまわった後、生理的反射か、ぽろぽろ涙を流していた。 「うう……汚されてしまったッス」 すんすん。嗜虐心をそそる光景に、春人は心の中の猫又を必死で抑える。 助けてあげたいと魔力杖を掲げ、幾度か天使の歌などを行使すれども、雀の涙。 幸い、春人は無風状態にあった。 新人ゆえに全てがまだ心もとない春人は、敵にとっての脅威度が皆無なおかげでノーマークだ。 人魚のオーサ・カナ。 彼女もいつしか放置プレイされていた。敵の注意がネズミたちに集中している。 (チャ、チャンスかも!) 名声ゼロ。戦闘への影響力、皆無。だからこそ伏兵になりうる。 春人は意を決した。 倉庫の屋根に跳び上がり、反対側へ。慎重に跳び降りて、人魚のそばに辿り着く。 「しーっ」 春人は人魚をお姫様だっこして倉庫の陰へ移動した。 「大丈夫?」 「お、おおきに」 カナは円らなブルーサファイアの瞳を熱っぽい春人へ向けた。 潮風に混じった甘い薫りが、鼻腔をくすぐる。 「じぶん勇気あんなぁ。小学何年生?」 「その、中学一年生っすけど……」 視線を逸らす、カナ。 「……さ! 早くうちを海に運んでーな!」 ぎゅっとカナは首に手をまわしてひしと抱きついてくる。 春人は健全な青少年、彼の心は重圧と乳圧に押しつぶされそうであった。 ●狼 「少し痛いぞ」 パンッ。紅葉を刻む。 御龍の痛烈な平手打ち。佐里の眼鏡が地を滑る。 「……気分はどーだい、サリーちゃん」 我に返り、佐里は状況を理解する。怒りの精神異常を喰らい、三姉妹に翻弄されていたのだ。 御龍は全員に気を配って、声がけを徹底し連携を計っていた。ゆえに異常に気づき、対処した。 それが狼の流儀なのだ。 「……感謝します、遠野さん」 眼鏡を拾い、深呼吸する佐里。御龍は「そ」とだけ答えて、前を向く。 「なう!」 アインの双剣が左上右と巧みに攻める。御龍の回避動作を先読みしていた。なすがまま、爆砕戦気のオーラもも解除されてしまう。いや、守りは捨てていた。 「よかった、こんなところに灰皿が」 隙を縫い、咥え煙草をアインの額に押しつける。 じゅっ。 「なうっ!?」 紅白の人狼は斬馬刀、真・月龍丸を轟然と横薙ぎに払う。鬼気迫る形相に、青猫は一瞬すくんだ。ネズミに強くて犬科に弱い。単純明快な弱点だ。 それでも動作は素早く、アインは回避こそできずとも双剣を斬撃軌道上に滑り込ませていた。 「で?」 衝撃は極大。 弾き飛ばされたアインは倉庫の壁面を突き破り、そのまた先のフォークリフトに激突、半壊させて「きゅぅ」と気絶した。アオンとシエンが駆け寄るも、ぐったり伸び切って返事がない。 「駄猫共、自分が人間かどうかなんてのはな」 御龍は煙草に火を点け、一服し。 「自分で決めりゃいいことだ」 そう、背中越しに佐里へ語った。 ●天使のハイロォ エレンは煙草に火を点け、一服し。 「一丁上がり」 ギャロッププレイで緊縛、宙吊りにした緑猫・緑川るるるの鼻先に煙を吐きつけた。 「ごほごほっ」 「おとなしくしてれば送還するけど……死にたきゃ暴れてもいいよ」 観念した八頭身の猫人は新手のサンドバッグみたいに宙ぶらりんになる。 「むう、同族ゆえの恩情に感謝しよう」 エレンの瞳がぎゅんと細まる。 「私を」 気糸を、一気に絞る。 「猫扱い、するなーっ!」 「ぬわーっ!」 ボンレスネコの出来上がりである。 青と緑は戦闘不能。 しかし戦況は未だ悪戦苦闘。 「壱式迅雷!」 ティセは橙猫へ疾風怒涛の雷電クローを浴びせんとするが、赤猫が庇い、鍋蓋の盾に弾かれた。 「さっせにゃ~い」 『偽・破滅のオランジュミスト』 「目が! 目がぁ~っ! うにゃ~!」 ごろごろじたばた。犠牲者続出、死屍累々。マリルをはじめ、リル、未明、そしてティセまでもが蜜柑汁にやられてしまっていた。回復の手もなく、自然に治るのを待つしかない。 そこへ黄猫の小判ビーム乱れ撃ちと黒猫侍の残影剣もどき。死ねる。 元凶:みかんの皮。 「……煙草も吸えない飛行機に乗って!やって来てみれば!どんな状況よ!」 かくいうエレンも破滅の~にビビっていた。 猫扱いがイヤなのに、みかんの皮にやられたら正真正銘ネコまんま。 「ぶ、無様すぎてイメージしたくない……」 と、視界の端には人魚を担いだ春人の姿が。 「あ!」 と声をあげたのはエレンではない。藍猫アインだ。 「テンプラがにげるぞー!」 まずい。無防備な春人へ双銃が向けられる。エレンは我が身を呈して弾道を遮り、血を飛沫く。 「エレンさん!」 「いいから! 早く!」 「は、はい!」 戦況が急変する。 海へ向かう春人と人魚、追いすがる猫達、足止めを計る一同。 「いちもーだじんにしてやるですぅ!」 満身創痍。一番ズタボロのマリルが決死の覚悟で立ち上がる。 「カナちゃん待っててね!」 全速前進。ティセは匂いや音を頼りに疾走する。ブロックに入った紫猫シエンを、御龍がタックルで弾き飛ばしてクリアする。 未明とリルは目をこすりながらAFにアクセス。“秘密兵器”をリロードする。 「ネコはネコらしくカリカリでも食べてなよ、可愛いじゃん」 「リル、この依頼が終わったらデート誘うンスよ……」 (……未明さんを?) 一条 佐里。属性:時に暴走。 「だから! 今日のリルはひと味もふた味も違うッス!」 こたつ(ストラップ)に毛玉、猫じゃらしに猫缶、みかんの皮。 フルアーマーリル・リトル・リトルここに爆現! 「『猫』なら当然、まっしぐらッスよね」 ガタッ。 無反応だった橙猫が必死にリルへ突貫。 「当然です。そして当然、鼠に負けません。偽・破滅のオランジュミスト!」 見事なクロスカウンター。 魔氷拳が、オランジュミストごと氷結させて橙猫の黒バイザーをぶち抜いた。 「窮鼠猫を噛む――これも自然の摂理ッス!」 「わ、私も! リロード!」 焼き魚定食×2&猫缶×2&猫缶Premium! 誕生! 一条 佐里プレミアムフォーム! 「じゃあ、僕も」 マタタビ広域散布。 対猫用の秘密兵器、一斉投入。その結果――。 ティセがラリった。 「ごろなーお」 黒、赤、黄、青、そしてティセの計五匹があっさり酩酊状態でごろつき寝そべっている。 魅惑の薫りにくつろぎ空間。ぬこカフェOPEN。 「なーお」 「うにゃにゃにゃーん」 紫猫シエン、それに超反射神経をフル稼動させて緊急回避したエレンだけが無事だ。 「……ごめんなさい」 一礼したシエンは、ずりずりと酩酊&気絶した姉ふたりをひっぱって立ち去ってゆく。 「あ、またたびでよかったんだ」 戦術論者たる佐里が、宿命の戦いに決死の覚悟を決めていたリルとマリルが、愕然とヒザを折る。 霧笛の音が港町に虚しく響き渡った。 「かわいいね、こうして寝転がってると」 未明は無防備のおなかを晒す黒猫に容赦なくレイピアをぐさりと突き立て、抉る。 白の王子、屠殺場で勤労す。 「またたび一つでよかったなんて、全くひどいオチだよ」 流れ作業で赤猫、黄猫にトドメを刺す。淡々としすぎてそのままティセまで処理しそうだ。 白い肌、紅の微笑。 「大阪さんだっけ? 怖かっただろうね 安心して、もう誰も君を食べたりしないから」 カナは恐怖にわななき、春人にすがりつく。 「わっ」 「う、うちまだ死にとうないっ! たーすーけーてー!」 人魚は、サメザメと泣いた。 ●いただきます 「にゃーにゃー、にゃーにゃー♪」 マタタビ中毒で野生化したティセは猫缶Premiumをひったくり、毛玉と戯れ、マリルとリルを玩具にしてがじがじと齧っている。 「はうっ! み、耳がもげるですっ!」 ティセはさらにリルを組み伏せて、鼠耳をちろちろ舌で味見し、甘噛み。 「ちょ、くすぐったいッス! ひゃ、ひゃめてっ! あんっ」 弱肉強食、焼肉定食。 「今日の教訓……飲酒・喫煙・またたびはほどほどに」 佐里のまとめに、御龍とエレンは明後日の方を向く。 「困ったね、いやしかし」 当の未明はどこ吹く風だ。特徴:どじっこは伊達ではない。 「ひっ、寄るな! またたび臭いっ!」 「え、そう? なんだったら嗅いでみる?」 「い、嫌よっ!」 春人with人魚の背後にエレンは隠れて、怯えている。ティセと同じ痴態を晒すのが怖いのだ。 「やっ! ねこ怖いっ!」 「カナさん落ち着いて! ね!」 「と、鳥っ!」 未明の笑顔にビビってバランスを崩し、転がり落ちてティセの据え膳に。 「……ジーニアスゆーたよね?」 「のん。ジーニャス」 ぎらり。犬歯が光る。 「う、裏切りものーっ!」 「いただきまうす」 別れ際、オーサ・カナはお礼にと明朗な歌を奏で、見送ってくれた。 「……人魚の歌は、楽しい時にも聴こえるんッスね」 夕暮れのおだやかな海を見つめて、ひとり、リルはなぜか黄昏ていた。 「そういや……」 件の“何か”を尋ねるべきか迷い、やめておくことにした。 シャンパンゴールドの海は静かにさざめいている。 「今日のところは一件落着ッス」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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