● 音もなく、それは開いた。 世界を繋ぐ崩壊を招く小さな隙間。 そこから素早く飛び立ち大地に降り立ったのは、コンクリ散らばる廃ビルにはやや不似合いな巨大な蟷螂と人を混ぜ合わせたような二足歩行の異形。 その肌の色合いは、透き通るような青。顔はかまきりと全く同じで薄緑の複眼はただ周囲を見回すのみ。人間と同じ胴ではあるが、その所々からは植物ようなものが生い茂っている。そして、手の先に供えられた翠の刃は彼を照らす灯りを受けて背後に美しい色を咲かせる。 「ひゅー、超カッコイー!」 そう、彼は照らされていた。懐中電灯によって。 「たまにはウチのフォーチュナもあてんじゃん。博打にしか能力使わないかと思ってたっつーの」 「きっひっひ、こりゃあ上物やねぇ」 手に灯りを手にしているのは三人の男女。 その内の一人、トレンチコートを羽織った男が手にした斧を構え、葉巻をくわえた口元を愉悦に歪ませる。 「そんじゃ、一番乗りは俺がもらうぜー。一騎打ちの邪魔すんなよ」 それを見て、蟷螂もまたその腕を構える。 直後、刃と刃が交差する。 「アンタらの戦いの合間に割って入るのも面白そうだがねぇ、きひひっ」 「入ってきたら殺すぜー」 軽口を言いながらも、その振るう斧の一撃は重い。されど、アザーバイドの刃はそれよりも鋭く、わずか数瞬で男のコートを幾度も裂き、それを赤く染めていく。 「やっべー、コイツ超強いな! つよし、お前超死んだんじゃね?」 「へっ」 目を輝かせる少年。その挑発とも取れる言葉に、男は吐きすてる。 「だとしても、コイツ相手で死ねるなら、本望だっつーの」 「あ、そこは超同意! あー、俺も手を超出したい!」 「違いないねぇ。まったくだねぇ」 ケラケラと、フィクサード達は笑う。そこに、緊張も不安もない。 あるのはただ、歓びだけ。 ● 「というわけで、数分後には死体三人出来上がり。皆にはこのアザーバイドを倒してほしい」 モニターの中で繰り広げられる激しい攻防から目をそらすと、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそうリベリスタへと告げる。 フィクサードにはバトルジャンキーともいうべき奴らが多い事を知ってはいたが、わざわざ死ににいくような馬鹿な奴は珍しい。ブリーフィングルームのリベリスタは微妙な表情を浮かべる。 厄介そうなアザーバイドだがフィクサード達がその体力を削った後に戦えばそこまで苦労しないだろうな、とリベリスタの一人が言えば、多くの者がそれに賛同する。 だが、続けてのイヴの言葉にブリーフィングルームの空気は一変する。 「この『革醒者を殺すたびに能力が大幅に増加する』非常に厄介なアザーバイドを、ね」 攻撃方法は鎌による攻撃と、鎌鼬を巻き起こしての貫通攻撃。それだけ。 非常に単純な技と思考しか持たないが、その能力は非常に高いという。 おまけに、フィクサードを二人も殺されれば太刀打ち不可能なほどにそのアザーバイドは強化されるのだという。 「だから、フィクサードが死なないように立ち回らないとダメ」 最近は『楽団』の影もあり、革醒者の死者が出る事を防ぎたいのもあるとイヴは告げる。 だが、フィクサード達はアザーバイドが現れる数分前からバグホール出現予定位置に居座っている。 「事前に接触するか、アザーバイドと戦っている時に横槍を入れるかは自由。でも、どっちにしても面倒なことになるよ」 相手は『剣林』所属の生粋のバトルジャンキー。 強敵との一騎打ちを愛し、一騎打ちを邪魔する奴は問答無用で潰そうとするリーダー格の剛。 危険な空間に飛び込んで死線を潜り抜けるのを愛する老婆、妙子。 そして、強い敵と戦えるのならそのチャンスを見逃さない栄治。 彼らは高い確率でリベリスタに対して敵対的な態度を取るであろう。 「彼らに説得を試みるなら、常人への説得は意味はないよ。死ぬかもしれないって言っても、彼らにとってはそれはある意味本望。彼らは自分にとって何らかの利益が無いと交渉に応じないだろうし、約束だって簡単に破っちゃうだろうから……」 説得や交渉次第では、彼らと共にアザーバイドと戦えるかもしれないが、的確に動かなければ己の首を絞めるだけになるかもしれない。気を付けるようにイヴは忠告する。 「なんにせよ、厄介な依頼には違いないよ。バグホールの破壊も忘れずに」 頑張ってね。そう言って、少女はリベリスタ達を送り出すのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:商館獣 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月07日(木)22:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 深夜のビル。既に廃墟と化して時間のたっているそこには当然の如く暖房等ない。 「……寒い」 冬真っ只中のこの時期、その寒さは想像を絶する。スーツに身を纏う『親不知』秋月・仁身(BNE004092)は思わず体を震わせる。 「まあ、これも任務ですからね、仕方ありませ……へくしっ」 くしゃみを漏らしたのは、同じくスーツ姿の『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)である。スーツの似合わぬ年頃の少女は年相応に顔を赤らめ……そこにカイロが差し出される。 「若くても、恰好重視で健康をおろそかにしない事。じゃないと、めっ、ですよ?」 優しい言葉と共に、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は年下の少年少女に穏やかな笑みを浮かべ……そして、ため息を一つつく。 「本当、無理はいけないんですけれど……」 頭痛の種は、間もなくここに現れるフィクサード達の事。 「武闘派だから仕方ないだろうね。オレにはよくわからないけれど」 その心情にも生死にも興味はない。が、崩壊を防ぐ為には守らなければならない。『闘争アップリカート』須賀義衛郎(BNE000465)はそう返すのみ。 (少し前は、俺も同じだったよな……) 座ってただのんびりと待ち続けるツァイン・ウォーレス(BNE001520)の心の中に渦巻くのは、何度も死にかけて、それでもがむしゃらに前に出ようとしていた過去の自分の記憶。 (否定なんて、出来ねぇよ……) その思いは『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)もまた、同じ。 「おいでなすったみたいだわ!」 その時、声を上げたのは『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)だ。少女は快活な笑みを浮かべて拳を掌に叩きつけ、宣言するのであった。 「それじゃ、交渉と洒落こむのだわ……馬鹿を止めるためにもねっ」 ● 「ヒュー、俺達超VIP待遇? まさかアークからの超いっぱい人来るなんてさ」 栄治の言葉を気にすることなく、フィクサードのリーダーたる男は一歩前に進み出る。 「んで、アークの奴らが雁首揃えて何の用だっつーの?」 志藤剛はそう言って斧を方へと担ぎ上げる。リベリスタ達を見回す彼に隙はない。 「アタシらの狙ってる獲物を横取りする気じゃ……」 フン、と鼻を鳴らす最後のフィクサード、妙子。その言葉を遮るように前に進み出るのは一人の少年。 「アークのデュランダル、楠神風斗だ!」 朗々と名乗りをあげる『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 N♂H L☆S 風斗(BNE001434)、その名を知っているのか、フィクサードはほう、と呟く。 「剣林のデュランダル、志藤剛! お前に決闘を申し込む!」 「……は?」 ぽかん、とした様子で目をパチクリさせる妙子。当然の反応だ。アザーバイドを倒しに来た心算が、決闘を申し込まれればそうもなる。 「今ここでか?」 「今ここで、だ」 剛はその答えに満足したかのように片手で葉巻に火をつける。 「わかった。んじゃ、やろうぜー」 「……やけにあっさり乗るんだな?」 場合によっては問答無用で切りかかるつもりだった風斗は思わず問う。 「何か理由はあるんだろうがー……知ったこっちゃねえな。こんな上物と今すぐ戦えるのなら文句は無いさ。もっとも、そこの医者に邪魔されちゃーかなわねえ。外でやろうぜ」 「分かった」 元より、剛の存在を戦場より離したかった風斗はそれにあっさりと賛同し、外へと出ていく。 後に残されたのは、どこか所在なさげなフィクサード二人。 「で、つよしが超羨ましいのはおいといて、お前達結局超なんなの? 俺達とも超やる気?」 「アザーバイドを倒したら、お前達と戦ってやる。手を貸すか、そこで少し待っていてほしい」 ツァインの言葉に、残された二人は顔を顰める。 「なんじゃそれ。アンタら馬鹿にしてるのかい?」 フン、と鼻を鳴らす妙子。そこに創太は言葉を繋げる。 「変な敵を終わらせたら俺様達と闘ろうぜってんだ。有名な奴だっているだろう、十分なほどに楽しませてや……」 「超信用できないよ、そーいうの」 その言葉を遮ったのは、栄治。なぜ剛のように今闘わないのか、戦った後なら疲弊してまともに戦えるわけないじゃないか、口先だけの約束を果たす気があるのか。その言葉は全て当然の疑問である。 だが、リベリスタ達はその疑問に答えない。一方的な通達後の交渉の完全放棄。それが、彼らの決めた方針であったから。 不愉快そうに眉をしかめるフィクサード達。剣呑な雰囲気がその場に満ちる。 「不満そうね……それじゃ、こっちもやりましょ?」 その均衡を破ったのは、ミリー。彼女はスッと攻撃の構えを取る。 「おい、ミリー。それは戦いが終わってから……」 「きっひっひ、良い御嬢さんだ。それじゃ、こっちもこっちで楽しませてもらおうかねぇ」 止める暇もない。餌をちらつかせれば、当然相手はこれに喰らいつく。ニヤリと笑った栄治が集中力を高めれば、妙子が即座に凶刃を放つ。 それに呼応して、ミリーの拳のあげる焔がビルの中を明るく染め上げる。 唐突に、戦いは幕を開ける。 (ん、まぁ、蟷螂出てくるまで待とうかね、とりあえず) 静観を決め込む義衛郎をはじめ、スーツの少女以外、ほぼ全員が見守るのみ。 戦況は二対二、実質の一騎打ちが二つである。 「アンタ、馬鹿じゃないの! 勝てないような敵に挑んでそのまま殺されちゃってもいいやなんて……命、軽く見過ぎよ!」 ミリーの拳が棒立ちの栄治を打ち据える。その一方で、紗理の『混沌』を意味する刃は空を切る。 「きっひっひ、似た技を使うのなら、年の功がある方が強いようだねぇ?」 「……見切るだけで精いっぱい、でしょうか」 逆に妙子の刃は少女のスーツに次々に傷をつける。同じような能力傾向の格上の相手を前にして、紗理はわずかづつ押し込まれていく。 「でも、7人いれば貴方達相手なら圧勝できるでしょう」 攻撃を受け止めるには技量が足りない。それでも少女は短剣の表面で凶刃の軌道を僅かに逸らし、決定打を生ませない。 「そして今から現れるアザーバイドは我々にとっても強敵、貴女方には絶対に敵わないでしょう。戦えば死にそうな目にあいますよ」 それは、イヴがやめた方がいいといった言葉。そんな言葉をいった所で、フィクサード達は戦いをやめるつもりなど毛頭ないだろう、と。 その言葉をあえて紗理は口にする。逆に、『アザーバイドを攻撃させるための餌』として。 「……へぇ?」 「さっきも言った通り、我々は『アザーバイドしか攻撃しません』、どうです?」 戦場という混沌の中で交渉という秩序を作り出す。それは両方を愛する少女にとって手慣れた行為。 それに呼応して、ミリーもまた、その拳を一度緩める。 「一旦ここで休戦、あとはアザーバイドを倒してから続きをやるなんてど……っ!?」 その時、ミリーの上空から圧倒的な力が叩きつけられる。よけきれず、大地へと叩きつけられる少女の体。 「超面白い提案だと超思うけれど……」 それは一歩引いて放たれた栄治の思考の奔流。溜め込みに溜め込んだその力は半分以上残っていたミリーの体力をたった一撃で削り切る。 「休戦、は必要ないんじゃねぇの?」 ニヤリ、と笑う栄治。 「ミリーさ……」 「来ますっ」 咄嗟に回復の詠唱を始めようとする凜子。その刹那、不意打ちへの抵抗力を持つ紗理が声を上げる。 直後、黒い穴が唐突に表れた。 最低のタイミングで開いたその穴から……翠色の刃が、二度閃く。 ● ビルの外、そこでは二つの刃が平行線を描くかのように幾度もすれ違っていた。 「へっ、おもしれーっつーか、お前の戦い方、酷くねえか?」 鍔迫り合いなどない。『防御を考えずに相手に攻撃する』二人の戦いは完全なノーガード殴り合いだ。 剛のコートは既に大きく破れて血が滲み、風斗の纏うコートもまた自らのオーラによるものか血によるものかもわからぬほどに紅に染まっている。 「言っただろう。俺の全身全霊を持ってお前の全てを否定して叩ききる、って……けほっ」 咳き込み、血で濁った唾を吐く。だが、それを厭うことなく、風斗は再びその刃を振り下ろす。 「面白いなあ、こういうのはよ。強けりゃ生き残り、弱けりゃ死ぬ。単純だが、最高だ」 それを己の胸で受け止め、男は笑う。その笑いに、男は叫び返す。 「いいや……死なせるものか!」 「っ……あぶねっ」 ギン、と鋭い音がビルの中へと響く。唐突に虚空より現れた刃、それを創太は己の刃でギリギリで受け止める。 さらに圧倒的な速度に任せて振りぬかれた二度目の刃は鎌鼬となって戦場を駆け抜け、真っ先に戦闘態勢を取ろうとしていた仁身とツァインの身体を引き裂く。 「っ、やっぱり速ぇな!」 「よくもやったな、虫野郎」 仲間達へと加護の光を与えるツァインと、仁義を切る仁身。 二人の脳裏によぎるのは、想定の中にあったフィクサード達が死ぬ寸前まで戦って闘った後に乱入していた場合の事である。アザーバイドが二連続で行動する確率は十分に高いだろう。自分達が助ける間もなく死者が出ていた可能性もありうる。 事前に接触するという選択を取っておいたのは、正解であったと言えよう。 「好きにすればいいのだわ……行くわよっ!」 先ほどまでフィクサードの相手をしていたミリーと紗理はアザーバイドへと攻撃の矛先を変え、攻撃を放つ。 「ミリーさん、無理をしないでっ」 既に先の戦闘で運命のカードを切っているミリーの体の傷を取り除いていく凜子。 「それなら、もっと強い打撃でぶっ飛ばすだけだ!」 そこで一歩踏み込むのは創太。圧倒的な重さを持つ一撃に、わずかに蟷螂の動きが鈍る。 その鈍った動きに合わせて幻惑を生む独特なステップで義衛郎は不規則に刃を振るう。 「さて、はやめに終わらせたいところですが」 咄嗟に前方へ向けて鎌を突き出すデスマンティスだが、オルクス仕込みの業は伊達ではない。男の刃は相手の最も苦手とする外骨格の隙間へと既にねじ込まれていた。 (果たして、どう出るのでしょうね?) 活きの良い獲物なら解体して皿に盛りつけてやる、と言わんばかりの名を付けられた二つの刃が引き抜かれれば、戦場に青い血の花が咲く。 その視界の隅で……フィクサード達が、動き出す。 それは、いうなれば相性の勝負であった。 状態異常を一切合財無視し、相手に圧倒的な力を伴う攻撃を叩き込むというスタイル。 それは確かに、状態異常に頼る敵を相手にすれば無類の強さを発揮し、一騎打ちでは非常に強い方の一つだ。 だが……状態異常への対策も放り出して火力のみに特化した人間を相手にすればどうなるか。 「くっ……そっ」 答えは明白。 風斗の猛攻の前に、フィクサードは崩れ落ちる。既に斧を握る力さえも残っていない。 相対する風斗もまた満身創痍。だが、それでも男は剣を杖に使う事すらなく立ち続けている。 「俺の負け、かあ。満足だな。殺すといいぜー」 何処か清々しい表情で、フィクサードは呟く。それに対して、風斗はただ、断る、と告げて背を向ける。 「オレは、死は決して軽くなんかないと思う。だから、殺さない……もしまた挑んできた時は、その時も返り討ちにしてやるから覚悟しておくがいい!」 既に満身創痍の身で、青年はビルの中へと歩み出す。仲間を救うために、死地へと。 「……二度と挑むかっつーの、相性が悪すぎるぜー」 その能力も、その生死感も。不満げな表情を浮かべ、男は目を閉じる。 「動かん木偶を切って満足か?」 そう呟くツァインの周囲に漂うのは氷の霧。妙子の生み出した氷の渦の中で、幾人ものリベリスタとアザーバイドの動きが封じられていた。 咄嗟に放つ破邪の光によって、仲間が再びその動きを取り戻す。 フィクサード達の動き、それはアザーバイドとリベリスタ達を纏めて攻撃する、というものであった。 それ自体はリベリスタにとって想定の範囲内。それどころか、狙われたがる妙子は無視された事で、前線に出て蟷螂の攻撃を一部引き受けてくれてさえいた。彼らの交渉方針自体は決して誤ってはいなかった。 だが、それでも考えが甘かった事に彼らは気づかされることとなる。 「これ以上、させませんよ。私にだって」 譲れない物は、あるのだから。 人命救助に命を賭ける凜子は、己の決意を胸に大いなる存在への祈りを途切れることなく唱え続ける。 一度として途切れることなく回復は続いていた。それでも……間に合わない。 元より、一人仲間を欠いていたリベリスタ、そこへ動きを止める範囲攻撃持ちの妙子と圧倒的火力の範囲攻撃持ちの栄治が戦いに加わればどうなるか。 一人欠けた事で自然と闘いが厳しくなるのは自明の理。なのに、自分達がフィクサードとアザーバイドの攻撃を耐えきれると信じ込み、フィクサードを庇うつもりですらいた。それが、リベリスタ達の過失。 「後で決着……つけたかったのに」 後方で倒れ込む紗理に続いて、ミリーもまた倒れる。 特に痛手であったのは、栄治の思考の奔流。後方より、蟷螂と共にリベリスタも妙子も巻き込んで放たれたそれへの対策があれば、あるいは回復も間に合っていたかもしれない。 「この状況、まったく、難易度詐称もいい所ですね」 それでも、彼らは未だ諦めてはいない。庇う気力もない程のギリギリの状況で、手にした槍に籠るのは傷ついた事への怒り。 「あぁ、全くだな。死線ギリギリ、命がけ。……楽しくて仕方ねぇよなぁ、そういう戦いってよ!」 手にした刃に籠るのは、熱く激しい生の滾り。 「僕にはそれは理解できませんけどね……お前からもらった痛み、存分に味わえ!」 「理解なんていらねえさ。感じればいいんだ……ただひたすら殴りあおうぜ、カマキリ野郎!」 仁身の槍と創太の刃、二つが前後からアザーバイドへと突き刺さる。揺らぐ体。 リベリスタ達の陣形が追い込まれつつあるのは事実。されど、両陣営からの攻撃にさらされ続けたアザーバイドの体力も、残り僅かまで減りつつある。 (あと少しだ……一騎打ちじゃねえけれど、最上の結果にしてやんよっ) 成功も失敗も、己の肩にかかっている。そう感じて創太はいきり立つ。 二度唱えるのは戦神の名前。ルーン文字の描かれたブレスレットは光りこそしなかったが、彼は心を湧き立たせ、二度目の刃を振りぬく。 だが、それでもまだアザーバイドは倒れない。纏わりついた氷を払いのけ、その鎌が倒れていたマリーへと振り下ろされる。 「させるかっ!」 咄嗟に庇うツァイン。彼は既に傷だらけのその体で鎌を受け止める。 (俺は怖い、闘うのが怖い、それに死ぬのが怖い……自分も、味方もっ、誰かが死ぬのは嫌だ!) それでも、男は戦場に立ち、今こうしてその身で攻撃を受け止める。 矛盾している、と自分でも思う。だが。 「それでも今、こうやって護りたいと思った覚悟だけは……借り物だろうと、本物だ!」 倒れた人を救うため、今はそれが理由でいい。その覚悟が、限界ギリギリで青年の死を遠ざける。 次の瞬間。目の前のカマキリの背から、爆音が響き渡る。 「待たせたな!」 それは、遅れて到着した風斗の一撃によって背の外骨格が破壊された音。 もしも、一騎打ちが足を止めての殴り合いで無ければ、間に合わなかったであろう援軍の一撃。 思わず振り向くアザーバイド。 「おい、蟷螂野郎。お前の相手はこっちだろうが。よそ見してんじゃ」 それが、最高の隙を生んだ。振り向いたアザーバイドの背、その砕けた骨格の間隙へと義衛郎は緋色の刀を躊躇なく差し入れ、力を込める。 弱点を的確につくその技量故の一撃は、一切止まる事無く最後まで振りぬかれ。 「ねぇよっ!」 ついに、アザーバイドは崩れ落ちる。 凜子の癒しの風を受け、リベリスタ達は大きく息をつく。それはまさに限界ギリギリの戦いであったと言えよう。 「こういう仕事柄、生きていればまた出会うでしょう。その時に、運が良ければ再戦を」 「さすがに期待はしてないけど、次はまともに戦ってほしいねぇ、きひひっ」 あっさりとフィクサード達はそれ以上の戦いを諦めて引いていった。 興が冷めていた、というのもあるであろう。もう一つの理由は。 「ここで殺しておけばよかったものを」 呟くのは一騎打ち中であろうとフィクサードを倒す心算であった仁身。肩を竦めて返すのは、彼らの意思を気にせず回復を用いるつもりだった凜子。 彼らがいる限り、まともに楽しめる戦いを望めないだろう、と栄治が直感した事が大きかった。 「同じ土俵に立ってるつもりで、勝ったつもりになってたのかもなぁ」 「恥ずかしくない戦いには、程遠い……か」 己の技量に驕らずに進むは難しい。 冷たい風が既にバグホールの消えたビルの中を駆け抜けていく。 その中で、ツァインと創太、二人はは大きく息を吐きだすのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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