●廃墟 外 逃げまわっていた最後の一体を射程に捉えて、今まさにリベスタが攻撃を仕掛けようとしたとき、遠くで地鳴りがした。 靴底にかすかな震えを感じつつ、その場にいるだれもが顔を山へ振り向けた。目に入ったのはあかね色に背を焼いた雪の流れ。それがもうもうと煙を逆巻きながらものすごいスピードで山を駆けくだってくる。 とつぜん、廃墟となって久しいホテルの壁がこなごなに砕けて、雪煙とともにリベスタとその場にいたノーフェイスに襲いかかってきた。 あ、も、う、もない。 気がつけば雪崩に飲み込まれており、灰色の視界の中を敵も味方もなくもみくちゃになって、上下左右ぐるぐると回されながら流れていく。 生存本能のたまものだろうか。 雪に流されながらも、だれかが古い貯水槽のフタを開くレバーを引いていた。 おそらく流されまいとして、手にあたったものをとっさに強くつかんだのだろう。 雪の圧倒的なパワーに、普通ならさびついて動かないはずのレバーが動き、やはりさびついて開かなくなっていた貯水槽のフタが開いた。 ちょうど貯水槽の真上にさしかかっていたリベスタたちとノーフェイスは、かび臭いにおいのするたて穴へ雪とともに落ちていった。 直後、あとから巨大な何かが滑ってきて貯水槽は完全にふさがれてしまった。 ●穴の底 どのぐらい時間が過ぎたのか。 暗闇の中で目を覚ましたリベスタたちは、ここがどこで何が起こったのかを考える前に寒さに身を震わせるはめになった。じっとりとした寒い場所にあるものは座り込み、あるものは倒れ、シャーベット状になった雪に胸から下を覆われている。 ふと、凍死の二文字がリベスタたちの脳裏をよぎる。 弾かれたように全員が一斉に立ち上がった。 ばしゃりばしゃり、と手足を雪の中でばたつかせる音が壁に反響する。雪の中から体を引き上げようとしては失敗し、だれかの体にぶつかっては倒れた。そのたび闇のあちらこちらでうめき声や悪態をつく声があがった。 上のほうでみしりと重くきしむ音がして、小さな粒になった雪がぱらぱらと落ちてきた。フタになったものが壊れれば、その上に積もっている雪が穴の中に落ちてくるのは間違いない。そうなれば生き埋めになってしまうだろう。 全員が身動きを止めて、息を吸い込んだ。 荒く吐き出される息づかいだけが闇の中でこだまする。 パチッ 小さな乾いた音が複数の吐息に混じった。 この闇の中、手を伸ばせばすぐに届く距離のどこかで、ノーフェイスが開いた折りたたみナイフを手にして攻撃のタイミングを図っている。 ――9人中ひとりは敵。 じっと救助を待っていることはできない。 吸い込むたびに肺に痛みを感じさせる冷たい空気と衣服を濡らす雪が、刻々と体力と気力を奪い去っていく。 直ちにノーフェイスを排除してこの穴から脱出しなくてはならなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月24日(木)23:43 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●9人いる!? 「嫌な予感がするお」 雪の中から真っ先に立ち上がったのは『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)だった。肩の雪を払い落とすと、ぱちぱちと目をしばたかせた。が、視界は暗いまま。目をこすっても一向にものが見えてこない。 「やれやれ、とんだことです」 ガッツリの横で心底うんざりとした声で呟くものがいた。『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035) だ。 「幸いにも指一本欠けていないようですね。まだ少し指がかじかんでいる様ですが、大事な商売道具は無事、と……」 やはり光がないことに気づいたロウが驚きの声をあげた。 「なんですか、ここは。真っ暗じゃないですか!?」 「お? その声は細目のロウちだお?」 「な、なんですか。細目はよけいです、細目は」 ふたりのやり取りに悪態が割り込んだ。 「くそッ……!」 「その声は福松んだお? 無事でなによりだお」 「無事じゃねえ、あーあ、びしょびしょだ。大事な一張羅が台無しだぜ。とそれより皆、無事か?」 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517) は真っ暗な空間に向かって問いかけた。あちらこちらから無事を告げる声があがる。最後に返事をしたのは『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059) だった。 「ド、どこなのダ、ここハー!? さ、寒いのダー! 暗いのダー!!」 寒さに震えて目覚めてみれば闇の中。 パニックに陥ったインコは、ばっしゃんばっしゃんと半解した雪のシャーベットを叩いた。 跳ね上がった雪の粒が穴に落ちた全員に等しく降りかかる。 「きゃ! やめるでございます、カイ殿。冷たいのでございます!」 「そうでございます、カイ殿。愛華殿のいうとおりでございますよ。ちょっと落ちつくでございます」といってから、『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)は首を捻った。 ん? 愛華殿? 妙な雰囲気になったところで、『薄明』東雲 未明(BNE000340)は耳の感覚を研ぎ澄まして周囲を確認した。 「……ん、やっぱり1人多い?」 「そういえば、ノーフェイスまだ1体倒してなかったはずだお」 「ああ、たしか雪崩に巻き込まれて戦闘が中断されたんだな。それじゃあ、何か、ノーフェイスのやつはいま一万吉に化けているのか?」 「なんですと!? もしかしてフェーズが進んだということでございますか?」 「ノーフェイス殿に変身能力があるとは、イヴ殿から聞いていないでございますよ?」 ダブル愛華が同時に叫ぶ。 一連のやり取りを聞いていた『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は、素早く状況を判断して雪の中から飛び上がった。雪濡れによる体力消耗を抑えて、ノーフェイスが自分に化けられないようにするため。なによりも恐ろしい同士討ちをさけるためだ。 『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805) もまた、早々とガード体制をとっていた。 (このあと温泉でゆっくり出来ると思ったのになんてこったい。あー、めんどくさい) ぶつぶつと口の中で小言をもらすと、全身に気を張り巡らせて不意打ちにそなえた。 「おじさん、とりあえズ発光するのダ。そうすればこの中モ明るくなのダ」 そのときパチンと乾いた音がして、どちらかの愛華が悲鳴を上げた。 「やろう、一万吉を切りやがったな!?」 「大丈夫ですか、一万吉さん!」 ばしゃばしゃと音がして誰かが誰かに殴りかかる音がした。すかさず殴りかえす音。何かが壁に激しくうちつけせられる音。それら怒りをぶちまけたかのような破壊音に悲鳴と怒号が入り混じり、貯水槽の底でわんわんと響く。 「皆様! やめてくださいまし!!」 シエルの叫びにみなぴたりと動きを止めた。誰もがしんと、肺を刺すような冷たい空気を呑んで立ちつくす。 闇の中でカイがおずおずと切り出した。 「……じゃあ、あらためテ光るとするのダ」 「僕は壁の中に潜りますよ」と、ロウ。 「人数が減ったほうが敵を見分けやすいでしょうからね」 ガッツリは闇の中に腕を伸ばし、壁を探った。カイが光をもたらすまで壁に背中をあずけておく作戦だ。こうしておけば、すくなくとも後ろからばっさり切られる心配はない。 「皆、カイちゃんの頭がピッカリ光るまで動いちゃだめだおー。誰も攻撃しちゃだめだお、攻撃したら敵だって判断すっからね」 「光るのハ頭だけじゃないのダ!!」 言うが早いかカイの体が内面より光を放ち始めた。見る間に光度をあげて貯水槽の中を照らし出していく。 カイのトレードマークとも言うべき黄色のパンツがグレードアップ! 黄金パンツに変化した。福松がペロペロキャンディーを口から吹き飛ばす。 「ぶっ! ヘンなところ光らせるんじゃねぇ! それに……」 『まぶしすぎるわ!』 寒さで紫色になった唇を震わせて叫んだのはダブル未明である。 かたや壁に張りついて上におり、かたや腕をおさえてうずくまる愛華の横に立っている。 「分かりやすすぎー!」 叫ぶと同時に小梢が特攻。カレー皿を振りかぶって偽未明、たぶん偽未明をめった打ちし始めた。 「おーし、おじさんも殴るのダー!」 「ぎぇぇぇぇぇぇっ!!」 叫んだのは偽未明、もといノーフェイスではない。 青白い顔で細い目を全開にして、壁からロウが飛び出してきた。 「なんですか、ここは! お掃除屋さんの僕に対する挑戦ですかぁ? 汚い、汚い、汚い、すっごく汚い!」 一同、ぐるりと辺りを見渡す。 貯水槽の壁一面が、なにやら得体の知れないうえにひどく臭いドロドロでびっしりと覆われていた。 ひっ、と息を呑んで、壁からガッツリとたぶん本物の未明が離れた。 ばしゃん、と派手な音をたててたぶん本物の未明が雪の中に落ちる。 未明が引き起こした雪津波をもろに被ったカイは、驚いた拍子に素に戻ってしまった。 真っ暗。 再び大混乱。 「おちつけ! そのままじっとしてろ」 福松は髪をかきあげると、隠れていた左目を光らせた。 にやりと笑うと、「ふん、このオレにイカサマが通用すると思ったか。ノーフェイスはてめーだ!」 びしりと指差した。 「カレー皿まできちんと作ったところは褒めてやる」 が、暗闇の中では福松の指が誰にも見えていない。 「え、私に化けているの? どこ、偽の私はどこ?」 「駄目。ぜんぜんわからない。カイ、光って……あ、まって! あたし懐中電灯もってた」 すぐにはスイッチが分からず、未明はもぞもぞと顔の下で懐中電灯をいじった。 ぱっと光が灯る。 「ぎゃーっ!」 「出たー!」 「幽霊だお!」 「ええええ!? どこ、どこに幽霊がいるのよ!」 未明はぱっと懐中電灯を放り出した。 電球側を下にしてずぶずぶと雪の中に沈みこんでいく。 またしても闇。 「……つ!」 こんど腕を押さえたのはロウである。 「い、いい加減にするお。もうバカやってる余裕はないお?」 「とりあえず皆様を癒してさしあげますわ」 シエルが祈りを捧げると同時に、上から柔らかな風がリベリスタたちに吹き降ろされた。たちまちのうちに傷と疲れが癒されていく。しかし、寒さによる震えは収まらなかった。 「オレが偽者を見破る。モウケール、読み取ってくれ」 『オッケーだお。準備できてるお』 ガッツリの声が微妙にずれて重なりあった。 「……って、あんたか!」 カイが体を光らせた。 闇が失せるとすぐにダブルガッツリが殴り合い始めた。殴りあいながら貯水槽の中央へ倒れこむ。雪の中でもみ合う姿からは、どっちが本物か分からない。 「エート、エート、幹事さん、きょうのメイン料理ハなんなのダ?」 「飛騨牛だお!」 雪の中に倒れているガッツリに馬乗りになって殴っていたガッツリが叫んだ。 カイを除く全員が一斉に偽ガッツリに殴りかかった。 「ち……ちょっと待つのダ。どうしてみんな偽者が分かったのダ!?」 ●脱出 「さ、寒いのでございます。はやく温泉に入りたいのでございます」 愛華はかちかちと歯を鳴らした。 ほかのものも似たり寄ったり。少しでも暖を取ろうと、リベリスタたちは一箇所に身を寄せ合っていた。消耗激しい体力を、シエルがつどつど聖神の息吹を唱えて癒してはいるが、それもまもなく限界に達しようとしていた。カイの体が発する光も心なしか弱くなってきている。 「温泉宿はどんなところでございますか、ガッツリ殿?」 「引退した元リベリスタの、さる夫婦が新しくオープンさせたお宿だお」 女将と主人が連れ立ってアーク本部に営業に来ていたところに丁度居合わせたのだという。 「あちきたちが最初のお客さまだお。だから特別割引してもらったお」 さすがガッツリ。 と、そこへロウが壁から出てきて報告した。 「排水溝は危険です。人ひとりがなんとか這い進めるほどの大きさありません。途中で何かあっても引き返せなくなる」 「じゃあ、上から出るしかないわね」 全員の頭の中で生き埋めの文字がちらついた。 「やるしかないんじゃない? このままジッとしてても死んじゃうんだし」 カレー皿を防災頭巾よろしく頭の上に乗せながら小梢が言った。 そうと決まればあとはどうやって蓋をしているものを壊すかである。シエルが誰かを抱いて飛び、その誰かが壊す。壁を登れるものが登って壊す。いずれにせよその誰かは落下した破片でケガをする可能性がある。すでにギリギリで命をつないでいる身であれば、それが致命傷になりかねなかった。 「ノーフェイスから取り上げたダイナマイトがあるぜ。これに火をつけて爆発直線に投げるってのはどうだ?」 「それなら愛華が鬼人を召還するでございます。鬼人たちにどんどん肩ぐるまをさせれば、上まで届くのでは?」 「いいアイデアなのダ。それでいくのダ」 愛華は鬼人を作りだした。ダイナマイトを壁際ぎりぎりの雪の上に立て、福松が導線を狙い打った。首尾よく火がついたところでアンカーの鬼人にダイナマイトを手渡し、登らせる。 数秒後、ドンという爆発音とともに天が抜けた。 上に被さっていた堆積物の大部分がダイナマイトの爆発で吹き飛び、穴の中に落ちてきたのはほんの僅かだった。 ●さる夫婦の温泉宿 明け方。 トラックの荷台で身を寄せ合い、吹きつける風にガチガチガタガタ震えながら、ガッツリたちはようやく予約していた宿にたどり着いた。 「ついたお。ここが本日のお宿だお」 朝靄に立つ旅館をみて、ほっとした表情でシエルが言った。 「何とか無事に温泉に辿りつけましたね」 宿の中に駆け込みたいところをぐっと堪え、何も事情を聞かずにここまで送ってくれた親切な老人に一同礼をする。 トラックが去って行くと玄関から女将が出迎えにきた。 「ようこそ、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」 やや猫背に粋な着物姿。真っ白な頭髪に赤ら顔、小さく尖った耳――。 『おさるさん!?』 小梢と未明、それにシエルが声をそろえて言った。 「どうして驚く。穴の中でちゃんと説明したお?」 「さる夫婦の宿……ってまんまですか」 ロウが肩を落とす。 ということは宿の亭主も猿、いや猿のビーストハーフなのであろう。 女将は後輩たちの勘違いをニコニコと受け流した。 「アークから連絡を受けております。ええ、一泊分無料で延長いたしますよ。ゆっくりと疲れを癒してくださいな」 女将の合図でどこからともなくわらわらとハッピ姿の猿たちが現れた。ガッツリたちの手から荷物を受け取ると、宿へ運んでいく。 寒さに頭の羽を逆立たせたカイが首を捻って、「いまのハ本物のおサルさんなのかナ?」と尋ねると、女将は赤い顔をほころばせた。 「あら、ガッツリさま。こちら、もしや今夜のしょ……」 「あー、あー! 女将さん、あちきもみんなも寒くて風邪ひきそう。案内を頼むお」 女将の腕を取るとガッツリは宿に向かって歩き出した。 「なんなのダ、いまなにヲ言いかけたのダ!?」 まあまあと宥めつつ、ひとり騒ぐカイの背を愛華が押す。 それでも騒ぎ続けるカイの尻を、今度は咥えキャンディーの福松が蹴った。 「男がガタガタ小さなことで騒ぐんじゃねぇ」 ぼそりと、 「諦めて鍋になれ」 「ち、ちょー、いまサラッととんでもないこと言わなかったカ?」 「気のせい、気のせい」 ロウが細い目をさらに細めて言った。 ●いい湯だな、ha、han! 「あ、しまった。宿にカメラを忘れてきました。福松くん、先に行ってください」 「あん? まさか女湯を撮るつもりじゃねーだろうな」 まさか、と笑ってロウは福松に背を向けた。しばらく坂をくだってから、そろりと後ろを振り返る。遠ざかる福松を見て細く笑んだ。 それから標識を元の位置に戻し、鼻歌をうたいながら男湯へ向かった。 「独り占めじゃねーか。贅沢だな」 脱衣所で浴衣を脱いででると、広い風呂場には誰もいなかった。 この宿は開業したばかりのうえに、経営者が元リベスタとあって一般人は泊めない方針なのだから、ほかに人が入っていないのも当然である。 福松は洗い場で軽く体を洗うと、開放感あふれる露天風呂につかった。 朝の光を受け、目を閉じて適温の温にのんびり入っていると、先の戦いでガチガチに冷えきっていた筋肉がほぐれていくのを感じた。 露天風呂のすぐ近くを流れる川のせせらぎと、鳥のさえずりが何とも言えず幸福感を煽る。 「ふぅ……」 くいっと、お猪口で冷えたオレンジジュースを一杯やりてぇな、とおっさんくさいことを考えていると、何やら脱衣所に人の気配を感じた。 ロウが来たかと思ったが、それにしては賑やかしい。カイと一緒か、いや……もっといる。3、いや、5人。 いやな予感に目を開けると、水面の光が眩しかった。 「あれ? 愛華たちよりも先に着ていた人がいるようでございますよ?」 愛華が脱衣ザルのひとつを指差した。 シエルが帯を解く手を止めて、ザルの中を覗きこむ。 「あらあら。この浴衣の柄は……福松様が着ていらしたのと同じですね。まさか?」 「いいんじゃない。先客が福松さんでも。わたしは気にしなーい」 メガネに曇り止めを塗り終わると、小梢は軽い足取りで脱衣所を出て行った。 そのあとをニヤリン、とした顔でガッツリと未明が追いかける。 無論、ここは温泉。 一糸まとわぬ、生まれたままの姿で、である。 シエルは、「あ、お待ちください。皆様、手ぬぐいを……」、と言いかけてやめた。残っていた愛華とふたり、顔を見合す。 「ま、10歳でございますし」 「ええ、10歳ですしね」 浴衣を手早く脱いで畳み、ザルにいれるとふたりそろって脱衣所を出た。 「いい湯なのダ~」 ご機嫌でひとり釜風呂に浸かるはカイだ。 もちろん、ここも露天だ。白銀の雪と枝に雪を載せた木々に囲まれた釜風呂は、柔らかな冬の日差しと温かな湯で満たされている。 突発事故の発生でノーフェイスとともに暗くて寒くてくさい貯水槽に閉じ込められたときはどうなることかと思ったが、終わってみればそれも些細な出来事だった。 目を閉じて釜のふちに腕をかけてくつろいでいると、ドボン、と何かが投げ込まれた。 ドボン、ドボン、ドボン! 目を開けると丸くて白いものが湯に浮かんでいた。続いて赤いものと茶色いものが投げ込まれた。跳ね上がる湯から目をかばいつつ、カイが赤いものを手にとって見ると、それは丸ごと一本のニンジンで……。 「なんなのダ、これハ?」 気がついたときには周りをハッピ猿軍団に囲まれていた。唖然としているカイの前に、1匹の猿が手にプラカードをもって進み出てきた。プラカードにはこう書かれていた。 “春津見・小梢さまリクエスト。カレーとり鍋” 「インコ食べちゃ駄目なのダー!!」 猿に囲まれ、釜の中で仁王立ちになって絶叫するカレールーまみれのインコを、立ち木の陰で激写する浴衣姿の男がいた。 ロウである。 「かわいい娘さんたちにお留守番させて、ひとり露天風呂とはいけないパパですよね~」 撮った写真は大きく引き伸ばし、パネルにして後日リース家の三人娘にプレゼントする予定である。 出来がよければアーク本部の入り口にも飾ってもらおうという算段だ。 アングルを変えてもう1枚。移動しようとした矢先にポツリとうなじを打つものがあった。 雨? 空は晴れているというのにおかしいな、とロウは上を見上げた。 「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」 ロウの上に降ってきたのは雨ではなく、湯に濡れてほかほか湯気を立てる福松だった。 福松は女湯から脱出、決死のすっぽんぽんダイブであった。 猿と格闘するカレーなるインコと、絡まりながら雪の中を転がり落ちていく野郎二人。 一連の出来事は女湯からばっちり見えていた。 ほんのり硫黄の香りが漂う白濁の湯に浸かりながら、女5人が声をそろえて笑う。 「もろもろ大変でしたが、皆様と共に任務達成出来た事……良き思い出です」 「ええ、いい土産話ができたわねぇ」 名湯効果でお肌すべすべになったガッツリが立ち上がった。 「さ、ガッツリ食うお! 存分に歌うお!」 幹事の面目躍如。 リクエストされた料理は勿論、飛騨牛に朴葉味噌、地酒も用意してもらっているという。 その言葉に未明が目を輝かせた。 「さっすが! でも、もちろんメインは……」 ガッツリがこくりとうなずく。 愛華が指でハートを形作り、「みなさま、ようございますか? 一緒に言うでございますよ。今夜のメイン料理は、いち、に、さん、はい!」 LOVE とり鍋!! |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|