● 『直刃』――日本刀の波紋の一つだ。直線の其れは歪む事も凪ぐ事もしない。 ただ、真っ直ぐにその切っ先を向けるのみだ。 「何が為、と申されましてもネッ」 へらり。小さく笑みを浮かべて誰花トオコは笑った。ネイルで彩られた指先は機械化した自身の胸部をなぞるのみだ。 「凪のプリンス、だなんて皮肉にも程がありますよねェ」 冗談めかして言う物の彼女の瞳は笑ってはいなかった。己の主として認めた男は『犯罪界のナポレオン』に相手にもされず、『黒き王』の視界にすら入らない。 ――望む摩天楼は未だ遠く―― 嗚呼、なんと滑稽な男なのだろうとこのトウコとて思うのだ。 されど己が主なれば。その身を差し出し『直刃』が存在を周知するしかないだろう。 「イナミちゃまは別のお仕事? くろむんと組むのやなんですけどネ」 へらへら。女は笑ってから、薄暗い路地へと足を踏み出した。 その切っ先は未だ目標に向けられぬ。まだ曇った刃の波紋は薄ぼんやりとしている。己が『主』になれぬなら、『己』その物を使えば良いのだ。 自身が従える事の出来る自身の兵を。 『凪聖四郎』という名を認めさせられるまでの実力を。 「さて、お騒がせましょうか! あ、あたしが嫌なんでカップル抹殺ですよ、くろむん!」 「………うん、お前がイヤだよ」 ● 「さて、お願いしたい事があるわ。『直刃』と名乗る逆凪のフィクサードのお遊戯を止めてきてほしいの」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタを見回して『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は一度は皆に情報収集をお願いしたけれど、と資料を捲くる。 「ええと、『直刃』。その組織全貌は明らかではないけれど『凪聖四郎』――主流七派のひとつ『逆凪』の現当主、逆凪黒覇の義弟ね――彼が絡んでいる事だけ解っているわ。 彼らは『新組織』として、その構成員に逆凪のフィクサードは勿論、フリーのフィクサードを勧誘している……此処までが先に皆に掴んで貰った情報ね」 逆凪が含まれている。逆凪分家の男である凪聖四郎が『逆凪』を動かせない訳が無い。仮にも黒覇とは半分血が繋がっているのだから、幾ら若輩者であろうともその地位も確かなものなのだろう。 「……皆にお願いしたいのは凪が率いるであろう『直刃』が此方を誘う様に大々的にワルイコトをしているようなのね。其れを止めて頂くこと」 「ワルイコト?」 首を傾げるリベリスタに複雑そうな表情で世恋は、ええと、と小さく呟く。 「カップル行きつけの公園があるの。その公園でカップル殺すです、って訳なのね。 トオコさんの趣味の様にしか思えないけど、なんだか『悪さ』をして此方に存在を見せ付けている様だわ」 『逆凪』だから、裏野部みたいな事をしていても頷けるのだけれど、と困った様に予見者は笑う。 誰花トオコ。直刃の勧誘を行っていた女である。はた迷惑な女は『直刃』の存在を知らしめる様に在り来たりな悪さを行っているのだろう。 逆凪のフィクサードを倒してください、と言えば其れで済む話しなのだが、『直刃の誰花さんですヨ!』なんて名乗ってしまっているのだから、他の思惑も考えない訳には行かない。 「勧誘の次は『在り来たりな悪いこと』。主流七派に存在を認めさせたいのかしら……? 其れは分からないけれど、公園に取り残されてるカップルさんを助けてくれないかしら。 誰花さんは強い相手には友好的で、お話しもしてくれる。情報収集も簡単に行える筈よ。今回の『在り来たりな悪いこと』は聖四郎の存在を知らしめるもの――だとは思うのだけど……ね」 リア充爆発だとかそういう感情は誰花トオコにでもぶつけてらっしゃいな、とひらひらと手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月19日(土)00:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 陽が傾いて、静けさを取り戻す筈の公園に未だに静けさは訪れない。 ルージュを引いた赤い唇はゆっくりと歪められる。逆凪の女フィクサードはトンファーを握りしめた手を止めて、振り向く。 ぐしゃり、人の頭が潰れる。それはまるで『裏野部』の様な行為だ。 「在り来たりな悪いは恋の引き裂きとは小さいのね」 赤い瞳を瞬かせ、いひひと笑みを零した『骸』黄桜 魅零(BNE003845)は赤いリボンを揺らして女へと魔力剣を向ける。 リア充爆発。そんな言葉良く口にするけれど。 「今日だけは言えないわ」 「勧誘、その次に在り来たりな悪事。その為に一般人の犠牲を強いるやり方は、認められません」 指揮の開始を告げる様に、アンサングを掲げた『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)にトオコは瞳を歪めて「戦奏者」と呼ぶ。アークでの活躍が目覚ましいミリィは知られる存在なのだろう。 「御機嫌よう、誰花トオコ。アークを呼ぶにはこれ以上ないやり方ですね。 ――私達を誘った以上、勿論貴女は相手をしてくれるのでしょう?」 「ええ、ええ、勿論!」 楽しませて下さいな、と振るうトンファー、一般人の腹へと喰いこむ其れに『花縡の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は眉を顰める。 「……君達が命をもてあそぶなら、俺は護り育むだけだ」 ハイ・グリモアールを手に、体内に廻る魔力。一歩踏み出した魅零は溢れだす黒い瘴気をトオコとその仲間へとぶつける様にして、長い髪を揺らした。 「ほら、しゃべくりましょうよ。『直刃の誰花さん』」 ぴくり、女の方が揺れる。目深に被ったキャスケットが一度ミリィの目を隠す。瞬いて、真っ直ぐに敵意をむき出しにする様に細められた瞳はゆっくりと笑った。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう?」 直刃。 例え、断ち切る為の刃であろうとも、これ以上は何も切らせやしない。 「凪聖四郎が率いるフィクサードの集団。それでいて彼の持つ理想を叶える為の私兵」 果たして其れがどれ程の力を蓄えているのか『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は未だ知らない。 組織とは多様な人材が存在するのだ。其れは尤も彼ら『直刃』が理解してるとも言えよう。直刃は元は逆凪だ。その逆凪とて頂点の黒覇、その弟である邪鬼、義弟であり『直刃』の頂点である聖四郎。これだけでも纏まりを持たない。 「トオコとの意見の相違。これだけのちっぽけな場所でさえも纏まりきらない貴方達が理想へ邁進できるのかしら」 「さあ、『告死の蝶』はその行く末を見守るだけでどうだい?」 久慈クロムだ、と名乗る男はゆるりと唇を歪めるのみだ。レイザータクト。この戦場の指揮官でありながらも、己の意思で動かぬ男に『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)は頭を掻く。 「直刃。何を裏で考えてんのかしらねーけどよ」 創太は己の力を誇示する事こそが本質なのだろう。バスタードソードを手にクロムへと真っ直ぐに踏み込んだ。幻想纏いで事前にその背の翼を広げ、確認した情報を伝えて行く。逆凪では無く『直刃』のフィクサードだからか、周囲の警戒は手薄だ。 「一般人を、抵抗も少ない奴等をゲームみてぇに殺んのはよ。……意地でも止めんぜ」 一般人の誘導場所を口早に伝えながら彼は踏み出す。その背を見つめながらもリオン・リーベン(BNE003779)は一般人へと視線を向ける。敵陣は一般人を殺す事を楽しむでもなく任務の様に行っている。 「お前ら、命が惜しければこの場からすぐに逃げろ。ここは俺達が何とかする」 ――果たして、その言葉のみで一般人は逃げるのであろうか。翼を持った者、驚くべき白い髪の少女。色違いの瞳の青年。五人のリベリスタの存在に目を丸くするのみではなかろうか。 結界を張り巡らせ震える手で英霊聖遺物を手繰り寄せる『Fool believer』名護・玲(BNE004229)は頑張ろう、と敵を目に改めて心を決める。 「僕だって先輩たちの力になれるです。先輩たちの戦い方、見せてくださいね!」 「任せろ。リア充が憎いらしいからな。そんなに、そんなにリア充が憎いか!! 直刃!」 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)の言葉に守らねばとやる気を入れ直す玲。リア充が憎いのか、という言葉に拍子抜けしたようにクロムは喜平を見つめくすくすと笑う。 「誰花さんに言って貰えるかい。君は憎い?」 「俺も憎かった……かつてはな!! 今はそうでもない!!」 ――紛れもないドヤ顔であった。周囲の緊張感――初陣であろう玲の緊張が一番強いだろう――は瞬間に溶けてしまう。 戦場であるというのに訪れた穏やかさを切る様に創太の剣は後衛へと抜かせまいと踏ん張るフィクサードの剣とぶつかった。 ● 踏み出したその小さな背中は自身を的へと転嫁する。アッパーユアハート。ミリィの言葉は的確にフィクサード達の心を掴むのだろう。無論、その言葉が上手く効果を与えない時だってある。 「私は貴女とお話しがしたいのですよ。誰花さん」 金の髪が揺れる。彼女の周囲へと集まるフィクサードを包み込む黒い瘴気。広がる其れはミリィの体へと刃をつきたてるフィクサードの脚を止めてしまう。 幸か不幸か、トオコにつき従うフィクサードの数の方が多い。無論、クロム側を簡単に撤退させる事を目的としているリベリスタにとってはそれは幸運なのだろうが、問題点は『一般人』の保護であろう。 今回の悪事の下手人は紛れもなくトオコその人だ。乗り気でないクロム側ではなく、トオコがわりに多くの配分が居る事だってリベリスタは予想の撃ちだ。 「……あっち、あっちに逃げて!」 遥紀はの指差す方向は確かにフィクサードが居ない。超直観を使用したソレは的確な指示になろう。回復役である遥紀にはできる限りの余裕があった。挟撃状況となると丁度横がぽっかりと空いている。空洞だ。 真っ直ぐ見た一般人の先には仲間が居るのだと程良い安心感を遥紀は覚えている。あちらにも回復役(こうはい)の玲がいるのだ。 「……早く、護り切らなくっちゃ」 思いを固めて撃ちだした魔力の矢はフィクサードへと突き刺さる。だが、余りに大きな威力にならぬそれにトオコはへらりと笑うのみだ。 全力で逃がそうとするのは魅零とて同じだ。一般人に逃げろと視線を送りながらも魔力剣を手にした彼女は緩やかに笑むのみだ。トオコはカップルの片割れを殺していた。其れならば動けない場合も多い。上手くサポートに立ちまわる事は難しいが、時間を稼ぐことは可能だろう。 「ねえ、誰花さん。直刃は何処を目指してるの? 主流『八派』? それとも日本一の強戦士派閥?」 「おっと! 主流八派だなんて」 そんな『一つ増やす』だなんて致しません、と手をひらひらと振るトオコに前線で攻撃を受け続けるミリィは唇を噛む。情報が少なすぎるのだ。 情報が少ない敵と言うのは敵とするには不利になる。特に、アークは大きな組織だ。魅零の言う『主流八派』。別の言い方をすれば逆凪黒覇が漏らした様にアークこそが国内の八柱目ではなかろうか。 「……それでは、私からもいくつか。宜しいですね? 彼の者は六道の兇姫確保の為に動いているご様子。『イナミ』もその内に動いているのでしょう」 「そうそう、イナミちゃまは主の為に動いてますから」 繰り出されるは飛翔する武技だ。鮮血の花を咲かせる其れがミリィの体を貫いて、遥紀を目指そうとする。翼が千切れる感覚がしたって遥紀は諦めない。頬から流れる血など気に留めずミリィはアンサングを天へと翳す。 「貴方達は動かなくてもよろしいのですか? それよりも尚重要なお仕事だというのですか?」 「要するにお留守番ってヤツですよ。嫌だな、イナミちゃまと佐伯さんが居たら誰花さんは営業マンってこと」 ――お分かり頂けましたか、と言わんばかりの彼女の唇よりも赤い鮮血の花。閃光と投擲しながらミリィの視線が一般人の向こう側へと向けられた。 ● 凪聖四郎の部下がリア充爆発だという短絡的な理由で動き回っている。何と呆れる様な所業なのか。フィクサードであるという事を考えれば彼らだってフィクサード(悪)なのだ。行動自体は訝しむ物でもないな、とリオンは瞬く。 「……目的はなんだ」 聖四郎とてそのような指示を出す訳にも無いだろう。ミリィがトオコに告げた『私達を呼びだす』という事に関してはぴったりだろうが、其れを当人らの口から聞く機会は何れ訪れる筈だとバイブルを開く。 そう、何れ訪れるだろう。片目を隠し、鮮やかな赤紫の瞳が瞬きの後に一般人へと向けられる。 「速やかにこの場から立ち去れ!」 「サポートします、リオン先輩!」 魔眼とて万能ではない。その効果を得た一般人を周囲に気を配りながらも玲は誘導を行っていく。そうしている間にも乗り気では無い物の『リベリスタの登場』により少々の戦闘意欲が湧いた『直刃』のフィクサード達の殺人は続く、蝶々が舞う。投擲されるナイフは糾華の繰り出す無数の弾丸だ。 「よくある悪事で収まる組織なの? 貴方達は!」 執拗に一般人に狙いを定めるフィクサードに糾華は肉薄する。唇に薄ら浮かべた笑みはその齢よりもずっと大人びて見えた。 「在り来たりな悪事を行えば来てくれると思っていたよ、リベリスタ」 「――どういう意味だよ」 後衛位置に居るクロムの隣まで踏み込んだ創太の目は真っ直ぐにフィクサードへと向けられる。 「目的は何だテメェら。売名? にしては、インパクトねーぞ?」 名前を売るにしては花火は小さすぎる。新組織だと嘯くなれば更に目立つ大きな花火を上げるべきではなかろうか。創太の記憶の中に在る『凪』。逆凪邪鬼という男の打ち上げようとした花火のでかさはこれの比では無かったのだ。 「私達を釣りたかった――そういう所? 尻尾を掴ませていただくわ」 逃げて、と声を荒げながらも打ち出すハニーコムガトリングは的確にフィクサード達の数を減らしていっている。クロムの表情に焦りが見え始めた所に、喜平は黒き病を惑わせる。疫病はクロム達の体を蝕み続けるのだ。 「こんな遊戯で存在を誇示するつもりかよ? 呆れちまう」 圧力をかけ続ける。彼の言葉にクロムの脚が、後ろを向く。 「さあ、もう此処までですよ? 狼藉者! 先輩たちのオシオキは痛いでしょう!」 胸を張り、少年はびしりと指を刺す。一般人の避難に手を裂きながらも創太からの情報でしっかりと行く先を見据えた一般人たちの避難はリオンの力も相まって半数程度の避難は成し得ている。 「なあ、久慈。貴様はこの戦いに何を見いだす? 忠義か、誇りか、それとも……」 「――其処に在るのは何であろうが、ただ、『忠義』ともとれぬ歪みと誇りとも言えぬ『願い』だ」 同じ指揮官としての興味をあっさりと返すクロムの言葉にリオンは頷くしかできない。 壁役として戦場を同期する彼は立っているのだ。庇うべきは後輩である玲だろう。先輩、と不安げな瞳を向ける彼に大丈夫だと小さく返し、攻撃を受け流す。 敵対するフィクサードへと死を刻む糾華の姿は正に死を告げる蝶々だ。 「ほら、そろそろ指揮官として周囲を見ては如何かしら」 糾華の声は冷え切っている。まだ年端の行かぬ少女であるというのに、戦場慣れしているからだろうか、見据える瞳に小さく舌打ちし、クロムが背を向ける。間に挟まれた一般人の保護をしながらも玲の瞳が真っ直ぐに捕えたのは魅零やミリィ、遥紀だろう。 「先輩! 今、癒すです。こんなもんじゃないですよね? ドーンといっちゃいましょう!」 「ああ、ドーンとな。行っちゃうに限るッ!」 だん、と地面を蹴り喜平が打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」を振り被る。黒に包まれながらも、彼が放つ黒き瘴気が魅零のものと混ざり込む。 人殺すことだって躊躇いはなかった。手が滑ったとその額を撃ち抜いても良かった。未だ惑う一般人を補佐しながらリオンは戦場の維持に努める。二人の指揮官が其々の戦場に居た――それが合流完了したのだ。 「よお、全力の戦いのが楽しいってその身に刻んでやるよ!」 生or死。全力の一撃をトオコに浴びせる様に、その肉体を限界まで高めた力を創太はぶつけこむ。トオコの瞳が煌めいた。前線で、己の力全てを振り絞る創太。嗚呼、なんて楽しいのだろうか。 「テメェらがどう抗おうが纏めてアークが十全で凪いでやるよ!」 「凪ぐ――嗚呼、いいですね。けれど、逆凪で有る方が十全、そうは思いませんか!」 ルージュの引かれた唇が創太を射る。残るフィクサードに、死んでいく一般人を護ろうとミリィは声を張り上げた。 誰だって失いたくない。早く、愛する人の為に一歩踏み出して。貴女は生きなくちゃいけないから。 「油断すると大穴が開くわよ。アークは余所見して勝てる相手ではないの」 それをその身に刻む様に。蝶々の羽が切り刻む、糾華はちらりと一般人へと視線を送る。痛々しいまでに傷ついた人々。まだ助けられる。だからこそ此処は早くトオコを撤退させなければならないのだ。 (犠牲が出る事を容認したのに、犠牲者は少なくある様にと願ってしまう) ――なんて、身勝手なのかしら。 ● 「お前らが潰した幸福、死を以って償えよ!」 「嗚呼、トオコ。忌々しい箱舟を退けたという方が名は売れるんじゃないかな? こんな独り身八つ当たりより、さ」 回復を施しながら、玲とタイミングを合わせリベリスタ達の戦線を復帰させる遥紀にトオコはくすくすと笑う。 トンファーが振るわれる。ミリィの体を劈く其れは彼女の体力をも消耗させ、運命を削り取るのだろう。数のいるフィクサード達がその攻撃の手を辞める事が無い事に玲は先輩、と声を掛ける。 「僕はここで止めるです。それが、それがアークですよね!」 「アーク、いいですねえ。其方のオニイサンが仰ったように正解です」 くつくつと女らしくもない笑みを浮かべる。魅零の鮮やかな赤い瞳が真っ直ぐにトオコへと向けられる。分かっている、彼女の望みがそれである事くらいは。 「ねえ、いつでもアークは直刃の前に立ちはだかるわ。だからもういっそアークに刃を向けなさいよ! この場で直刃はアークと殺り合ったって情報が流れた方が良い筈でしょう? こんな……『直刃は一般人のリア充潰してました』って言われるのを望まないでしょう、直刃の首領、もね」 わざとらしく、直刃の首領、と口にした。 其れが誰であるかなど分かっているけれど、敢えて口にするのだ。創太は十全に凪ぐ。だからこそ彼の理想に逆凪は反する。その逆凪に同じく反しながらも逆凪でしかない男が居るのだ。 「――凪聖四郎」 一言、零した名前にトオコは瞬いた。彼女の放ちだす仇花が咲く。赤い、赤い血の花だ。其れにも気を止めず創太の刃は抉りこむ。 何度だって何度だって、切り刻む。止まりはしない。何度だって十全に凪ぐに限る。 「真っ向勝負だ! 掛かってきやがれ『直刃』ッ!」 「ええ、何時だって相手に為る。アークとしては敵は少ないに限るけどね」 魅零の魔力剣が振るわれる。黒き瘴気が全てを飲み干す様に広がっていく。 冷徹な瞳を向けるミリィはお留守番、と口にしてから踏み出す。一般人の避難指示を完了したリオンも彼女を補佐する様に立っていた。 アークを呼びだして、アークと敵対する。其れこそが『直刃』が存在するという事を尤も簡単な方法で『アーク』に知らしめるという事だ。 「これ位にしといたらどう? 一般人が大量の警察でも呼んできたら面倒なの。神秘の暴露は控えたいわ。何時だって宣戦布告は受けるから」 面倒そうで有りながらも、楽しげなトークの最中に倒れる事は無く、全力を出しきっている魅零も傷だらけだ。彼女の肌に咲いた鮮血の花を見つめ、己の身一つで敵を引きつける指揮官である少女を見つめる。 嗚呼、アーク。何て面白い場所。 彼女は『逆凪』でありながら、何処か『剣林』の様な思想をもった女だった。強き者には友好的である。目の前で十全に凪ぐ少年も、己の傷全てを掛けて攻撃を繰り出す女も、指揮棒を振るう指揮官だってどれをとっても面白いのだ。 「直刃が目指すは聖四郎サマの我儘の果てですよ、骨のお嬢さん」 「――ワガママの果て? どんなもんかしら」 例えば主流八派、例えば強戦士。己の存在を誇示するためであれば其れだけで十分ではないか。攻撃の手を休めたトオコにリベリスタ達も深追いはしない。未だ残った彼女の取り巻きとて一般人の攻撃は辞めてしまっている。 走り寄る玲と遥紀は直ぐ様に一般人の解放を行い、糾華は息があるかを確かめる。誰だって良い、助けられるならば、それだけでいいから。 「主流七派の統一。其れを行うべき私兵が直刃。日本刀に真っ直ぐ一本通った模様。 逆凪ぐ――蛇の輪廻さえも立ち切り、己の存在を表す為に作られた哀れな玩具が誰花サンたちということ!」 「――玩具……?」 ぴたりと糾華の手が止まる。頷いて、瞬いたトオコはリベリスタを見回した。 何時でも相手にとるとそう宣言した彼らに彼女は好感を抱かずには居られない。勿論自身の主だとその実力を認めた男以上の人間が居れば彼女だって簡単に願えるだろう。 『直刃』は歪な組織だ。全てが首領を尊敬し、彼が全てだとは思っていない。寄せ集めの醜い集団なのだ。 「また、お会いしましょう。アークの皆々様」 ぐ、と走り出したくなる衝動を堪え喜平は武器を下ろす。 ――ああ、理想は遠い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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