●守るべき地、守るべき歴史 その地は、「彼女」にとっては最初の居場所であり、最後の地であった。 古びた洋館に佇むのは自分一人。そう、そこが既に嘗ての主が無い、形骸化しただけの地であることなど分かっていた。 だが、だからといって。下婢た顔を貼りつけて侵略に現れる者たちに明け渡していいものか。 違う。断じて違う。この地は「彼女」本人と主のものだ。あんなモノは主に値しない。 だから、守り続けなければならない。幸いにして、私にはその力がある。友も居る。 がしゃり、と金属音を立て。 さらり、と絹の音を立て。 「彼女」は館の侵略者へ、進撃する。 ●いい話なのになあ 「E・ゴーレムが洋館を守っている。このままなら、決して柄の良くない人たちが……柄の良し悪しは兎も角として、神秘と関係ない人たちが、命を落とす」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達へ向けて、凛々しい表情で『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は告げた。 「エリューションのフェーズは2。配下にフェーズ1を二体従えて、館の前で絶対防衛線を設定して、それ以上近づくと攻撃を開始する。動きは決して早くないけど、タフネスが異常に高いし、状態異常にもなかなかかからない。配下の動きも、メインであるエリューションを護ることが中心だから、攻め落とすにはかなりの威力が必要。でも、前の主に従順だっただけに、『主』と認められれば戦闘が簡略化される可能性も、少しだけある」 ごくりと、誰かの喉が鳴る。長期戦の予感を感じながら、リベリスタの一人が問う。 「それで……そいつの外見は?」 「メイド服を着た甲冑。配下エリューションは、盾二枚が接合したものと、剣と槍が接合したもの。メインのエリューションは、館で一番大きい盾を――」 まてまてまてまて。 確かに主に忠実だけど。従順だけど、それってまさか。 「重盾(従順)で強盾(恭順)。なかなか難しい相手だけど、気をつけて」 地口落ちだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月18日(土)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●わかったから家主出てこい 「死にたくなければ、これ以上は踏み込まないで下さい」 「あァ? 何じゃキサマらァ!? 命(タマ)ぁ奪ろうってかァ?」 洋館に駆けつけたリベリスタ達が先ず対峙しなければならなかったのは、如何にも過ぎる「そういう人たち」だった。執事然とした容姿の源 カイ(BNE000446)が歩み出ると、当然のように罵倒が飛んでくる。彼は一言かけて終わらせて踵を返そうとしているが、何故か『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)がその罵倒に敏感に反応していた。「はひっ!?」とかそんなノリで。 だが、そんな彼らですら怯えさせる人物が、リベリスタ側には存在した。 「フフ……主は只今公務に多忙で御座いますので……フフ……お引き取り願えますか……?」 『スイートチョコの女子ジェイソン』番町・J・ゑる夢(ID:BNE001923)である。メイド服を身に纏い、ホッケーマスクを被ったその容姿は何というか、実にシュールだ。……西洋甲冑にメイド服よりはマシかもしれないが。相手の返答を待たずして、ゑる夢はバールのようなものを構え、一歩踏み出す。悲鳴を上げなかったのは大したものだが、彼女が動いた理由とかあらゆる理由に気付いてあっさりと敗走してしまう辺り、やはり小物だったのかもしれない。 「あ……、ゑる夢さんは……かわいいと思うよ?」 国子のフォローが後ろから入るが、実際のところメイド服を着れた満足感と追い返す際の演技が楽しくてゑる夢ってば凄く嬉しそうだったから、無用な心配だったのかもしれない。 そんなわけで、一般人の退避が済んだところでリベリスタ達は改めて館とその周囲を検分する。事前情報にあった「絶対防衛線」というのは、どうやら噴水のある位置と同一であるらしく、門の前に立ち尽くす甲冑はまだ動く様子がない。 「番町さんとメイド鎧のどっちがより強烈だろ?」 そんな疑問を持った四条・理央(BNE000319)だったが、視界に入ったその姿を見て一瞬で結論が出た。あっちのほうがすごい。悪い意味で。 「まあ、なんて言うか。……よくあの甲冑に合うサイズのメイド服があったもんだな」 『獅士』英 正宗(BNE000423)も、半ば呆れたようにその影を視界に捉える。内心で思っているとおり重要なのはそこではないが、あんなものを見せられて突っ込むなというのも無理な話である。 ときに、そんな感慨と全く違う方向で相当な好奇心を示しているのは、『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)その人だ。事前情報により、ガーディアンが「奥の手」を持つことが発覚している以上、それを引き出し、より深く観察したい……と考える事は分からなくはない。探究心が強いことが思わぬ結果を出すこともあるだろう。 一方、館に対して感慨深い表情を向けているのは『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)と『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)。ミュゼーヌにとっては、その屋敷の重ねてきた歴史と自身の来歴とを重ねる節もあってか、殊更に興味が尽きないのかも知れない。噴水の造形や花壇に目をやり、しきりに感嘆しているのが見て取れる。 (護りたいという想いを踏み躙る行為をせざる得ない事には少なからずの抵抗はあります。それでも、やるしかないのでしょうね) カルナは、それらを見て尚戦わなければならない状況に対して、僅かな戸惑いとその上での決意とを共存させていた。主を失ってまでその地を守ろうとするその忠義、その意識は尊重されるべきではないか、彼女はそう考え…… 「──でも、甲冑がメイド服というのは、ちょっと、ほんのちょっと無いと思います、ええ」 結局突っ込まざるを得なかった。 「忠義に厚いのは結構ですがその館は主人のモノでしょう。私物化も程々に、主人の許へ還して差し上げたらどうですか」 だが、彼女らより顕著に呆れているのは『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)である。何せ彼女は本職のメイドである。最近の風潮である萌えだの何だのを前面に出したメイドにすら唾棄すべき感情を抱く彼女が、こんなものを見て何を思うかなど言うまでもない。怒りとは違うだろう。皮肉屋とは、そのような感情を強く持たないが故に皮肉めいて見えるものだし。 「だいたい甲冑にメイド服着せてメイドです、なんて濫造萌えメイドより酷いやっつけですし……主人の許へ送って差し上げますから、教育され直してくると良いでしょう」 そう言ってずんずんと踏み込んでいくと、甲冑が動き出すのを確認し、九七式自動砲を構える。有り余る殲滅意欲とかそんなものが垣間見える気も、した。 ●欠陥メイドの悪い底意地 巨大な盾を地面に突き立て、圧倒的な威圧感を叩きつけてくるガーディアン。だが、国子の速度の前にはそんな威圧感など無いも等しかった。宙に浮き、一行へと迫るアームズに対し、幻影を纏った鉄槌が突き進む。鉄同士が撃ち合う轟音と火花を散らし、両者の間合いを僅かに広げる。割って入る様に後に続いたゑる夢が、バールのようなもので更に一合。二発共、手堅い感触を残して抜けた為、初撃としては悪くないと見える。 「このまま、早めに終わらせたいところですが……」 二人の後方から、カイの一撃が放たれる。黒いオーラを凝集させたそれは、剣の切っ先を打ち据え、不自然な回転を強いる。 とは言え、アームズとて攻め手である以上、黙って破壊される道理はない。自らを高速回転させることで三名へと襲いかかる。剣の斬撃、反して放たれる槍の刺突。本来なら、容易に回避できる代物ではないが……三名が三名とも、その回避能力に賭けて避けきった。 「やれやれ、今は亡き主人はこのことを知ったらどう思うかね」 戦局を見守り、後方からショットガンを構えていた『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は、そんな感慨を乗せて引き金を引く。高い命中率を保ったまま散弾が一直線に放たれ、アームズを吹き飛ばす。 「望むか望まれざるかはともかく、お客さんだ。ドレスコードは勘弁してくれよ」 臨戦態勢に入り、アームズと交戦する面々を視界に収めたガーディアンは、重々しく前進を開始する。しかし、その前には正宗が立ちはだかる。振り下ろした切っ先はシールズに阻まれるが、その重武装をしてガーディアンは彼をより強い敵と認識した。受け止めた刃をそのままに、ガーディアンは彼へ盾を振り上げ、振り下ろす。重厚なその破壊力は確かに驚異的なものだが、しかし正宗にとっては痛打と呼ぶに至らない。ガーディアンを引き受ける。その意思が生む防御は、重盾たる破壊を向こうに回して一歩も退かず、その役割を確実にこなしている。 「我慢比べだ。……とは言え、あまり長引かせないでくれよ、皆」 「問題ありません。欠陥ものの防衛機構など、怖くもありませんからね」 正宗の言葉を継いで自動砲を構えたモニカは、全面制圧を狙って次々と弾幕を張っていく。シールズがガーディアンをかばっているため、本体ダメージは皆無に近いが……それでもやはり、火力であるアームズが丸裸なのは大きい。彼女の示唆する通り、攻め手を顧みない徹底した防衛態勢は欠陥と罵られてしかるべきだろう。 「本当なら踏み荒らさずそっとしておきたいけど、そういう訳にもいかないの」 ミュゼーヌもまた、マスケット型の長大なリボルバーを構え、次々と打ち抜いていく。――げに恐ろしきは、大御堂重工の広域制圧能力とでもいうべきか。 周囲に刀の幻影を侍らせ、又は集中力を極限まで高めながら、理央とヴァルテッラがアームズへと向かう。完全な包囲態勢を敷かれたアームズは、これ幸いと範囲攻撃を連続で放つものの、やはり数の暴力という要素は大きい。大凡四十秒ほどをかけて、剣と槍の融合体は砕け散った。 ●それを誇りと呼ぶのなら 「やれやれ…鎧だけあって、実質鉄の塊だな」 何度目かの攻防を経て、正宗が呆れたように呟いた。適時、カルナや理央が回復に回っているお陰で深手を負わず済んでいるとは言え、ガーディアンの猛攻は凌ぎきるにはかなり厳しい。アームズ破壊後ともなれば、必然的にシールズへの攻撃に移行していることもあり、その脅威をより強く感じたガーディアンが正宗ひとりに手をかける謂れもない。 巨大な盾が、地面を叩く。一拍置いて放たれた強大な揺れは、地に足を付けている者全員へとその影響を及ぼした。それでも、石畳に破損が無いのは、神秘の所業とでも揶揄するべきなのか。 「防御しかできないシールズが怒りを覚えて……それをどう処理するのか、というのもまた、興味深いのだね」 ヴァルテッラはそううそぶくと、集中していた分を込め、気糸を放つ。貫かれたシールズは、数秒ほど身じろぎするように振動させたかと思えば、一切の反応を示さなくなり、その行動を一時的に止めているようだった。本来の推測よりも早い段階での全力防御状態――これもまた、ガーディアン達の欠陥ともとれる特性の弊害か。 「案山子は放っておいて本命を片付けましょう」 盾を構え直したガーディアンへ向け、モニカの一撃が放たれる。本来なら確実に撃ちぬいていたはずのそれは、巧妙な盾捌きによってその表面を傷つけるのみで、有効打足り得ない。 「なら、これで……っ!」 国子が、踏み込んで鉄槌を振り上げ、幻影を纏わせる。盾をすりぬけて本体へ打撃を通したそれに彼女が快哉を叫ぶより早く、振り上げた盾が彼女を打ち上げる。スピードもタイミングも申し分ない一撃をして、ガーディアンはカウンターを放ってみせた。つまり、それが意図するところは、先の一挙動。 「どうやら、盾を操って回避重視にシフトしつつ、反撃まで狙っているようだね……こうなっては、手強いかもしれないのだよ」 「だからって、手を止めるわけにも行かないからな……我慢した分、返させて貰うぞ!」 ヴァルテッラがガーディアンの状態を分析し、警句を発する。だが、正宗の言葉通りでもある。カウンターに二の足を踏んだところでヴァルテッラのピンポイントの合間を縫ってシールズが庇い始めれば、それこそジリ貧に追い込まれかねない。全力を以て押し切ると決断して動く限り、彼らに敗北は有りえない。その為のカルナ、そして理央の回復能力でもあるのだ。 「その堅い守り、撃ち砕いてあげるわ」 「そうだな、終わらせてやったほうが身のためだろう」 リボルバーを構え、ミュゼーヌが鋭い一撃をガーディアンへ打ち込む。星龍もまた、ショットガンを撃ち放つ。盾でそれらを受け止めたガーディアンだったが、その瞬間、僅かに動きが鈍くなったのをリベリスタ達は見逃さなかった。二人が打ち込んだピアッシングシュート――強化破壊の一撃はその身に賭けた防衛能力の一部を奪い、圧倒的な防御力に隙を作った。恐らくは、それで十分だったのだ。 「どんな鉄壁の防御でも、必ず隙を突いてみせます」 カイが、気糸を顕現させてガーディアンを縛り上げる。動きを止めることに注力したその一撃は正しくその役割を全うし、カウンターを許さない。 ヴァルテッラ、加えて理央がシールズに怒りを与え、行動を制限している限り、それは庇う行動に移ることは出来ない。圧倒的、とまではいかないものの、確実にガーディアン達を追い詰める。追い込む。戦場の後退を余儀なくされる状況下は、つまり館への侵入を許しかねない状況へと移行しており――ガーディアンに、最期の選択を迫ったのだ。 「突撃が来るぞ、散開だ!」 カイの気糸を引きちぎり、深く腰を落とすガーディアン。その予備動作は正宗の超直観を刺激するには十分すぎる情報量があり、彼にそう叫ぶことを選択させた。深く構えたその挙動、全身を覆う青いオーラが、前進することのみを意識した一撃であることを強く理解させる。 だが、その状況下にあってヴァルテッラは動かない。エネミースキャンの結果から、前進する距離や最終到達目標を理解し、それを守ろうとすれば立ちはだかるしかない、と理解している故だ。尤も、その攻撃を待ち続け、その機が来たから逃したくない、という意思もあるのだろうが。 「目前の敵を排除して、突貫、突貫。主の為に只々忠義を尽くす、何とも彼女らしい技ではないかね?」 そう言って笑う彼は、気糸を顕現させつつガーディアンへ向けて前進し――直線数メートルにも及ぶ閃光と轟音が、一同の耳を叩いた。 「……奇特というか何と言うか」 「研究対象の前では倒れん。これは、私個人の意地だがね……しかし、何度も受け止める程の余裕は無いね」 カルナへ接触する一歩手前でガーディアンを受け止めたヴァルテッラに呆れるような言葉を漏らし、モニカの砲筒が火を噴いた。 ●従者朽ちて館在り 「もう休みなさい……貴方は十分働いたわよ」 砕け散ったガーディアン達を見下ろして、ミュゼーヌは静かに口にする。既にメイド服もボロボロになり、何かと訳の分からない状況になっているが、それがどれほどの努力に裏打ちされたものかは、彼らが一番良く知っていた。 「ところで、件の主はどうして甲冑にメイド服を着せたのでしょう?」 カイが、率直な疑問を口にする。確かに謎ではあるが、どこか突っ込んじゃいけない疑問かもしれない。ほら、盾くっついたり剣と槍がかってにくっついたりしたし。趣味かどうかはともかく。 「彼女達の主さんってどんな人なんだろうね……すっごい気になるから、館に似顔絵とか日記とか無いか探してみない?」 国子の言葉に、数名が同意しようとし、首を傾げる。確かに気になるが、入っていいものか、と。だが、彼女は知りたいだけである、とも言う。誰にも知られず朽ちていくだけであるのは余りに忍びないのでは、と。 「処理班の方を介して、この館の保存などが出来ないか伺って来ました。先程の人達も権利などを持っているわけではなかったようですので、時間はかかるものの問題は無い、とか」 そんなやり取りに、カルナが背後から言葉を挟む。どうやら、ガーディアン達の意思を汲んで交渉を行っていたようだ。 保存されるのであれば、何れ彼らが訪れる事も可能になるかもしれない。この館の主について、知る日がくるかも知れない。そんな希望を仄かに抱きつつ、彼らはその場を後にする。 その背には、来たとき同様の威容を示し、洋館はあり続けていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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