● セリエバ。それは運命を食らうアザーバイド。 それを召喚すべく七派フィクサードの『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』の一部が手を組む。 『六道』のバーナード・シュリーゲンはアザーバイド召喚技術を求め。 『黄泉ヶ辻』のW00は運命を食らう異世界の猛毒に興味をもち。 『剣林』の十文字晶はその猛毒に侵された娘のために槍を持つ。 召喚場は『万華鏡』の届かない海の上。当てもなく探すには、海は広すぎる。 しかし手がかりはある。 召喚場に向かう船。その船が持つ情報。 それを集めれば、セリエバ召喚場への道を見つけることができるだろう。 ●W01 Wシリーズ。と呼ばれる黄泉ヶ辻のフィクサード集団がある。 彼女たちは、W00(ダブルダブルオー)と呼ばれるフィクサードによって作られた存在である。革醒者の肉体を欠損させ、そこに様々な因子を埋め込むことで破滅的な力を得るというものだ。代償も大きいが、短時間の戦闘において圧倒的な戦力を誇る。 Woman(女性)、Waltz(二人一組)、Waste(廃棄物)。その頭文字をとってのシリーズ。W99までナンバリングされた『兵器』である。 さて、01から99ならその数は九十九体。二人一組なら一人余る。 そのことを指摘されてW00は笑い声と共に答えたという。 「W01は一体だが、二人一組の究極の形なのだよ」 ●『氷原狼』 甲板をバイクが駆ける。 否、バイクで移動しなくてはいけないほどその甲板は広かった。 「なんだよこの船!」 「空母ですね。長期の海上活動なら軽空母クラスを用意しても当然と思います」 バイクに乗った男とバイクそのものが会話をしていた。男の名前を『氷原狼(ツンドラウルフ)』といい、バイクの名前を『車輪屋(ラウンドバイヤー)』という。 二人はセリエバと呼ばれるアザーバイドの情報を得るため、ここにやってきたのだ。 「思い切ったなー。逆に言えばこの中にはセリエバに関する相当な情報があると見てもいいんだろうけどねぃ……」 「ええ。当然、相応の防御策が為されているはずです」 「たとえば……Wシリーズの最高傑作とか、な」 「そしてW00もいて当然でしょう」 言葉と同時、一人の少女とそれに抱えられた腕がやってくる。しわくちゃの男の右腕。何も知らなければ驚くところだが、その右腕が独立した個体であることを『氷原狼』は知っていた。そしてその名前も。 「W00だな」 「そうだね。君は……誰だい?」 「セリエバの敵、と名乗っておくぜぃ」 『氷原狼』はそれだけ言って手に氷を纏わりつかせる。『車輪屋』も戦意を見せるようにエンジンをふかす。 「君達はコレを倒すことは出来ない」 「慢心は怪我のもとだぜぃ」 「違うよ。君たちがどれだけ強くも、コレを沈黙させることはできないのだよ」 ●アーク 「この後、W01の持つ圧倒的な耐久度を削りきれず、フィクサードとEゴーレムは敗北します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 モニターに映し出されたフィクサードは、この『セリエバ』というアザーバイドと深いかかわりを持つ者だった。一度セリエバ召還に立会い、その際に多くを失った復讐者だ。 「W01と呼ばれるフィクサードに関しては『万華鏡』が予知できた秘密があります。このフィクサードは、別の場所にもう一体存在します。 その二体をほぼ同時に倒さないと、撃破することが出来ません」 和泉の言葉に驚きの表情をあげるリベリスタ。二体をほぼ同時に……? 「タイムラグは十分。微調整は必要ありませんが、片側の討伐が失敗すればもう片側も討伐できないようです」 つまり、別の場所に存在するW01にも攻撃を加える必要があるわけか。そうなれば大切なのはその『もう一方』の場所である。 「そちらにも一チーム派遣しました。あちらのほうは別命を帯びています。 こちらのチームの目的は『フィクサードが運ぶ情報の獲得』『W00の持つアーティファクトの奪取』です」 フィクサードが運ぶ情報。それはセリエバ召還場の位置情報だ。そして、 「W00の持つアーティファクト?」 「はい。Wシリーズを生み出す元となった『継ぎ接ぎ用の針(パッチーワークニードル)』と呼ばれるものです。これを奪取すれば新たなWシリーズを生み出されることはなく、またWシリーズの延命、および治療も視野に入るかもしれません」 Wシリーズ。その名を知るもの達からどよめきの声が上がる。W00によって無理やり命を削られ、力を与えられた少女達。使い捨て同然に使われる者達。それを助けることが出来るなら。 そのためにはW01を初めとしたフィクサードを殲滅する必要がある。それはW00も当然の如く含まれていて、 「『氷原狼』は今回は退く様子はないようです」 いつもなら引き際を悟ればあっさり撤退するフィクサードが、この戦いでは退く様子はない。理由は不明だが。 「襲撃時間はこちらで伝えます。皆さんは全力で戦ってください」 和泉をリベリスタたちを激励する。報告書を見る限りでは、手が抜ける相手ではない。そのサポートはありがたい限りだ。 リベリスタは顔を見合わせると、ブリーフィングルームを後にした。 ●ツンドラの獣 「結果は見えました。退いてください」 「優しいねぇ、おねーさん。Wシリーズにするのが惜しいぐらいだ。 ああ、そうだ。お名前教えてもらえませんかねぃ?」 「W01」 「なるほど、あんたがアイか。Wシリーズ最強の名は伊達じゃねぇや。 ちょいと退けない理由があるのでいつもより増し増しで戦わせてもらいますぜぃ」 『氷原狼』はにやりと笑いながら、W00の袖を見た。 (セリエバの情報も欲しいけど。 『継ぎ接ぎ用の針』……アレがあれば一時的でも菫の症状を抑えられる) かつて助けられなかった同僚の延命のため、ツンドラの獣は氷の牙を向く。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月22日(火)23:26 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●三つ巴の戦い 「どう?」 「……難しいな」 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は深いため息をつく。軽空母を透視して情報のある場所を探そうとしたのだが、空母のあまりの広さに諦めざるを得なかった。場所の目星をつけては見たものの、空母全体を透視して見るのには、圧倒的に時間が足りない。 仕方ない、と割り切ってリベリスタたちは時間を合わせて軽空母に踊りこんだ。すでに準備は万端だ。空母の甲板で戦っているものたちも、リベリスタの気配に気づく。 「流石に奇襲は無理かな」 サングラスの位置を直しながら『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)がW00を見る。『論理演算機甲χ式「オルガノン Ver2.0」』を起動させながら、言葉なく戦意を高めた。 「少女を無理矢理に改造し続けてきたW00さんですかー」 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は言って銃を構える。その所業はとても捨て置くことができない。ここで取り押さえ、そのアーティファクトを回収することでその終止符を立つ決意をする。 「……行くぞ」 拳を握って『ムエタイ獣が如く』滝沢 美虎(BNE003973)が甲板に足を踏み入れた。W00。Wシリーズの生みの親。この男がいなければ。あのアーティファクトさえ手に入れれば。悲劇を止めるために拳を握る。 「姓は晦、名は烏。稼業、昨今の役戯れ者で御座いってな」 にぃ、と唇を歪めて『足らずの』晦 烏(BNE002858)は仁義を切った。『二四式・改』を肩に背負い、紫煙を吐き出した。煙は潮風に流されて消える。長い戦いになりそうだ。タバコの残数を思い出しながら、歩を進める。 「Wシリーズ最強かー」 紅玉の埋め込んだハルバードを構えながら『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)はW01を見た。無手のまま立つその様は、確かに威風堂々としている。以前戦ったWシリーズのような『覚悟』がその瞳に見えた。 「さて、運命を食われては堪らないでござるからな」 愛刀の鞘に手をかけたままの状態で『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)はW00が召還しようとしているアザーバイドのことを思う。運命を食らうアザーバイド。そんなものを召還されて家族の運命が奪われるなど、許せない。 「父と娘……ね」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)はW00とW01の関係を思い、静かに首を振った。『娘』を生み出した父親。まるで自分のよう。関係を重ねることに意味はない。ここに来た以上、やることは決まっている。 「毎回毎回立て込んだ現場だ事ー。たまにはスカっとした現場で楽しく遊べませんかねぇー?」 幻想纏いからバイクをダウンロードして、『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)が頭をかいた。思えば『氷原狼』との付き合いも長い。アークのリベリスタとフィクサードの関係ゆえか、出会うときは大抵立て込んでいる。 「ハローハロー久しぶりぃー。お仕事熱心ね」 そんな立て込んでいる状況を吹き飛ばすように『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)は手を上げて『氷原狼』に声をかける。もちろんぐるぐも事情は十分に理解している。それでもぐるぐが変わることはない―― 「アークのリベリスタ」 「はっ! すばらしい力だね『万華鏡』。だけどW01が負けることはないんだよ」 W01とW00がやってきたアークのリベリスタに向き直る。新たな敵を認識しなおした。 「……物好きですねぃ。今日はちょいと退けない事情があるんで大怪我しても知りませんぜ」 「いつも大怪我する前に逃げるのは、私たちなのですが」 『氷原狼』と『車輪屋』が緊張を含んだ声でアークのリベリスタに応じる。 「バイやんうまい!」 「だれそれ!?」 「ラウンドバイヤーでバイやん」 ぐるぐはニコニコ微笑みながらバイクのEゴーレムを叩いた。 和んでいるように見えるが、状況は三つ巴。三者は互いをにらみ合い、隙なく構えていた。 「――いくぞ!」 開幕の言葉をかけたのは拓真。二刀を抜き放って甲板を疾駆する。その波が伝播するように軽空母の戦闘は始まった。 ●一時共闘 『毎度ー、僕ちゃんでぃーす。アークの情報提供ー』 甚内がハイテレパスで『氷原狼』に情報を伝える。W01の秘密のこと、こちらの狙いは『セリエバの情報』と『継ぎ接ぎ用の針』であること。そして、 『菫ちゃんの成り行きは、百田イズルってー奴に任せる方針だー。 信じる信じないは任せるよー。その上で要求は無し。ツンドラちゃんの行動を尊重するよー』 「……」 氷の拳士は一瞬の思考の後に、その拳の先をW01に向けた。リベリスタはその意図を悟り、W00に矛先を向ける。 「……『継ぎ接ぎ用の針』を譲る気かな?」 「彼のことだから、そう思わせておいて掠め取る気でいるわよ」 彩歌は肩をすくめて『油断しないで』と皆に告げる。根っこのところは彼とアークは敵対している。しかし手を組むのなら、最大限利用しようということだ。 「……あー、バレてますねぃ」 「いいじゃない。途中まではやる事一緒、そっから先は出し抜きあい。ぐるぐさんそう言うの大好きよ」 援軍とばかりに『氷原狼』のの横を陣取るぐるぐ。銃とナイフを手にして、その動きに合わせるように動く。『氷原狼』の氷の拳を叩き込めば、邪魔にならない位置から毒の弾丸を放つ。ぐるぐが相手の位置を予測して攻撃を仕掛ければ、『氷原狼』が避けにくいように相手を崩す。 「ナイス、ツンドラちゃん!」 「何度も戦えばリズムらい分かりますからねぃ。っていうか俺のバイクに乗ってるんじゃねー!」 「乗りたい人がいる以上、乗せるのはバイクの幸せなので」 「バイやんクール!」 W01をぐるぐと『氷原狼』と『車輪屋』で押さえている間に、リベリスタはW00の方に向かう。 「事後承諾だけれどお借りしてるわ。Merci」 氷璃はそんな『氷原狼』に一応のレベルで許可を得て、呪いをこめた氷の矢を生み出す。もともとは『氷原狼』がバッドステータスを入れやすくするために生み出した牽制用の術だ。だがそれは氷璃のような一流の魔術師が使うと―― 「……くっ!」 凍りつく右腕。まるで追尾する魔力が付与されているかのような的確な狙い。苦悶の声を上げるW00。 「W00をやっつけて、あの子の最期の言葉よ」 W88――『焼ヶ原 あさがお』という少女の願い。氷璃は日傘の奥から冷たい視線をW00に向けた。 「W00、お前の悪事もここでおしまいだっ!」 美虎は『魔獣双拳デーモンイーター』を手にW00に向かう。地面を這うように動くW00に向かって、大きく振りかぶって拳を振り下ろす。まさにハンマーのような強力な一撃。衝撃を通す覇界闘士の技に、怒りをこめて拳を振り下ろす。 W00に改造され、力尽きた少女の亡骸。力なく崩れ落ちる少女を前に誓ったのだ。 「おまえの体を作るものは全部叩き潰し、この世から消し去ってやる!」 「無駄だよ。『私』が倒れてもW00は止まらない。セリエバを召還してその毒を得るのだ!」 「そんなことにはならないでござるよ!」 虎鐵が言葉に割り込むように足を動かす。摺り足、腰の回転、抜刀、そして切り上げる刀の軌跡。『獅子護兼久』の一撃が右腕を襲う。抜かば珠散る氷の刃。獅子を守るための刀は、裂帛の気合と共にW00を吹き飛ばす。 「かすっただけのにこの威力とは。いやはや、興味深い」 アークのデュランダルの中でも破壊力に特化した虎鐵の一撃は、まさに脅威。鋭い一閃の動きを止めぬように突きの型に構えながら、虎鐵は口元をゆがめる。 「そんなことをいっている余裕はすぐになくなるでござるよ」 「そういうことー。悪いけどここで死んでって」 甚内が矛を回転させながらW00の方に向かう。低い位置にいるW00を狙うには分が悪いが、それでも使い慣れた武器はW00を刻んでいく。地面を払うように振るわれた矛が、W00の手首を裂く。W00に血液が存在していれば、そこから出血していただろう。 「恐るべきは『万華鏡』だね。だがW01には勝てないよ」 「それはどーだろーねー」 「……まさ、か」 W00の言葉にニヤリと笑う甚内。それはW01の倒し方を知っている意味と、W01の片割れが今どこで何をしているかを理解している笑み。 「リベリスタ、新城拓真。……W00と、W01か」 拓真は名乗りを上げるとW00の方に向かう。右手には魔女から与えられたガンブレード。左手には贋作の剣。幼少のころより鍛えられた二刀の動き。一撃ごとに体内のオーラを爆発させるようにして動きを加速し、連続攻撃を叩き込む。 「セリエバの件。此処で情報を落として行って貰おう」 「断る、といっても強奪していくつもりのようだね。分かりやすいよ」 「おまえのような輩と交渉をするつもりはないのでな。体の一部だけとはいえ、逃がさん!」 フィクサード相手に交渉をする気はない。語るはこの剣で。拓真は自分自身を正義と名乗る気はないが、それでも信じた道を歩むことに躊躇はなかった。 「最強とか言ってんのに負けなければ勝てるとかツッマンネーのー」 岬は自分の身長よりも大きな矛槍を構え、戦場を移動する。吹き飛んだW00とW01の間に立つような位置。いまだ目覚めぬ破界器を振りかぶり、横薙ぎに払った。生まれる風の刃がW00を裂く。 「軽空母のインヴィンシブル級とかけてんのかよー」 「ふむ、なかなかエスプリが効いているね。 それはともかくW01の不死身性はおまけでしかない。W01の真価は戦闘能力だよ。二重存在による二重の戦闘経験。とくと味わうがいい」 言葉と同時に、W01の拳が岬に飛んでくる。関節をはずし、蛇が飛び掛るようにしなやかな一撃。その衝撃に大きな隙が生まれる。 「……ッ、いったー!」 「厄介ね。あの伸びる手」 貫く槍のように放たれる拳を前に、彩歌を初めとしたリベリスタは可能な限り散開する。接近戦を挑んでいる者たちは仕方ないが、それでも回復のいないこの構成において、防御を崩す攻撃はあまり受けたくない。 「オルガノン、リンク」 破界器と彩歌の神経が接続される。前のバージョンよりも強化された神経リンクが、より鋭く研ぎ澄まされた射撃を可能とする。高等部女子制服を模したプロテクターに仕込まれた9つの補助演算機構が神秘攻撃性能を高める。 射出。 念じると同時に気の糸が生まれ、W00に放たれる。強い衝撃がW00の判断力を奪い取った。彩歌を襲う倦怠感。ごっそりとエネルギーを使った感覚。自嘲気味につぶやいた。 「長期戦には向かないわね」 「しかし出し惜しみできる相手ではなさそうですぞ」 九十九が銃を構えて、W00に向ける。雨の日にあったら驚いて逃げそうな奇抜な格好だが、九十九は立派なリベリスタ。鋭い眼光には少女を改造するフィクサードに対する強い怒りが宿っていた。 「何しに来たとかは、別に説明する必要は無いですかのう?」 「やれやれ仕事熱心だね、アークのリベリスタは。この『私』を倒してもW00は死なないのに」 「いえいえ。W00さん、貴方を追い詰め、痛みを与えること位は此処で倒せなくても実行出来ますよな。 覚悟して下さいな、この外道」 W00を正確に貫く九十九の射撃。弾丸は右腕に叩き込まれ、衝撃で大きく揺れる。 「左腕に下半身、次に失うのは右腕か。寂しくなって来たな、W00君」 烏は紫煙をふかしながら銃を構える。スリットの入ったホルスターに入れてあるショットガンに手をかけた。その格好のままW00に語りかける。スーツが潮風に吹かれ、わずかになびいた。 「失う? ならばその分を『補充』すればいいのだよ。Wシリーズの研究は何のためにあると思う?」 「理解したよ」 わずかに腰をかがめ、梃子の原理を利用してスリットから銃を出し、かがめた腰を台座にするように銃を固定して引き金を引く――コンマゼロ5秒のクイックドロウ。反応することすら許されない悪星の早業。 「どうやらそのイカれた頭をぶち抜く必要があるようだ」 「W01。敵戦力は読めた。回復なしの前のめり構成だ」 「はい。なら次の動きは――」 W01がステップを踏みながら、宙に浮く。空気を足場にする神秘との複合武技。 戦いはまだ、始まったばかりだ。 ●W01というフィクサード W01が空中を足場にして拳を飛ばしてくる。関節をはずして蛇のように伸びる腕が後衛を襲う。 「ぐっ!? まさか、W00を巻き込んでまで私を狙うとは……!」 九十九はW01の貫通攻撃を妨げるためにW00を間に挟むような位置取りで射撃攻撃を行っていた。おそらく味方は巻き込まないだろう、と。だが、 「あいたー、きついねー」 「くっそーっ!」 「……なるほどな。俺たちも巻き込んでの攻撃ということか」 W00の周りにはそれを倒そうとするリベリスタが密集している。さすがにその全てを攻撃はできないが、それでも密集しているためにW01の貫通攻撃は多くのリベリスタを巻き込める。 「さっきのお返しだよ。吹き飛びたまえ」 「うぉおお! しまったでござる!」 W00に足をつかまれ、虎鐵が投げとばされる。空母の看板を転がるように飛ばされた。W01の近くまで投げ飛ばされ、その刃で身を削られる。 「もしかしてツンドラちゃん、この展開が分かってて避けてた?」 ぐるぐの問いに『氷原狼』は肩をすくめた。 「くっくっく。まだ倒れませんよ」 この猛攻のおかげで、前衛は大打撃である。美虎と拓真と甚内、そして狙われた九十九が運命を削る羽目になった。 しかし集中砲火の作戦に出た甲斐はあったといえよう。 「とらあっぷぁー!」 美虎の跳ね上がるような拳の一撃。それがW00を吹き飛ばす。力なき骸となる前に、嗤い声のような声をだした。 「『私』が死んでも、W00はまだ死なない。W01がお前達を倒して、それで元通りだ」 「それがあなたの強みなのね」 右腕が滅んだところで死亡するわけではない。分割された生命こそがW00の強み。そしてそれをいつでも『補充』できるがゆえに、惜しくもない。 だがしかし『継ぎ接ぎ用の針』がここにある。これさえあればWシリーズの悲劇を止めることができる。岬がW01に近づき、『針』に手を伸ばす。 「渡すわけにはいかない」 「うわおー。きついなー」 W00の袖から針を回収した岬に向かってW01の拳が飛ぶ。どうやら針を持ったものを集中的に狙うつもりのようだ。 「氷原ちゃん。Wの娘、氷結してよー」 「するのはいいけど、俺も『針』狙ってるの知ってますよねぃ?」 「漁夫の利狙いをすることぐらいは予測してるわ」 「じゃあ隙あらば戦闘中でも行きますぜぃ」 甚内と氷璃が『氷原狼』に同盟継続を告げ、『氷原狼』はそれを承諾する。 「W00は死んだけど……まだやるのかっ?! 投降するなら悪いようにはしないぞっ!」 「投降などしない。理由は三つ」 美虎の問いかけに、W01は指を三つたてて拒絶した。 「一つ。W00は生きている。ここで果てたのは父の端末だ」 「かっ! 黄泉ヶ辻のフィクサードはめんどくさいな」 烏が悪態をつく。それに構わずW01は二つ目の理由を告げた。 「二つ。勝てる勝負で降参する理由がない。――私は不死身だ」 「そのトリックはすでに明かされてるけどなー」 岬がハルバードをW01に向ける。トリック付きの不死。そしてそのトリックはすでに破られているのだ。もっともそれを行使するのは楽ではないのだが。 「傷ついたお前達を廃するまで、死ななければそれでいい。 そして三つ。たとえ一部分とはいえW00――父を傷つけたお前達を許せない」 その理由にざわめくリベリスタたち。人としての生き方を壊され、薬無しでは命を維持できない肉体にしたW00を父と呼び、そしてそれに対する愛情を示唆したのだ。 「娘を改造する男を父親と呼べるの?」 氷璃はW01に向かって問いかける。その問いかけに無言で首肯するW01。 「そう」 短く氷璃は答え、この会話を断ち切った。そのまま瞑目し思案にふける。 (私にはできなかったわ) 過去、自分を生み出した研究者。W00とW01との関係は、かつての自分に似ている。それでもその研究者を父と呼び、愛することなどできなかったのだが。 思考は刹那。瞳を空ければ目の前に写るのは倒すべきフィクサード。魔力を展開し、氷璃は先を見る。 幻想纏いから連絡が入る。別のチームからの伝言。 『こっちのW01は追い詰めた』 「どうやら不死身はネタ切れのようでござるな」 「問題ない。お前達を倒してしまえばそれでいい」 虎鐵の言葉に、怜悧に言葉を返すW01。逃げるつもりはない。拳を握り、リベリスタたちを見る。 「なら一生懸命やるしかないね!」 「気合を入れねばな」 ぐるぐと拓真が声を出し、自らに活を入れる。 傷はけして浅くない。だが、ゴールは見え始めていた。 ●Wシリーズ・ファーストナンバー W01はダメージを受けるごとに身体能力が増していく。失ったものを『強さ』で埋めるように、死に近づけば近づくほど強くなっていく。 リベリスタたちの攻撃で傷ついたW01の動きは、すぐに鋭くなった。パーティ最大の火力を持つ虎鐵に比肩しうる火力が、的確に飛んでくるのだ。 「針を!」 『継ぎ接ぎ用の針』を受け取った拓真は、心を落ち着かせる。戦闘中の烈火のごとき心の動きは、水面の如く静かな心になる。握った双剣はそのままに、穏やかな心に移り変わった。そんな彼にW01からの拳が飛ぶ―― 「物質透過!?」 拳は空を切る。物質をないものとする神秘の技。それを用いて空母内に侵入したのだ。セリエバの情報を探るために。 「……げ」 この行動に一番驚いたのは『氷原狼』である。W01を倒すまでは針は戦場にあるものと思い込んでいたのだが。こうなると針を手に入れるのは困難になる。 「やられましたな。いやはや、その顔は非常に面白い」 『氷原狼』の驚く顔を含み笑いをしながら、九十九はW01に銃を打つ。針の穴すら通す精密射撃。卓越した射手にのみ可能なその射撃。正確な射撃がW01に刻まれる。 「針の穴も通す銃撃……仕事でお見せする時が来ましたのう」 「父親にために戦う娘でござるか……」 虎鐵はW01の行動原理を否定できなかった。確かにW00は許せない存在で、そうと分かって手助けしているW01も同罪だ。有体に言えば、同情の余地はない。だが家族のために戦うその意思だけは、否定できなかった。 「なら拙者は、拙者の家族を守るために戦うでござるよ!」 「行くよー、アンタレス」 岬は移動しながら『アンタレス』と呼ばれるハルバードを振るい、風の刃でW01を攻撃している。接近すればまとめて攻撃されることを恐れてだ。もちろん傷つくことが怖いわけではない。直接戦っている人間が危なくなれば、即入れ替わるつもりだ。 「倒れないなら倒れるまでやるだけさー」 「倒れろ、倒れろ、倒れろーっ!」 常に全力で。美虎は至近距離から膝と肘を中心とした打撃にでていた。ムエタイをベースとした高い威力の動き。相手に戦う意志が残っているのなら、それに応じるのみ。尽き果てそうな体力。下がりそうになるテンション。それを誤魔化すように叫びながら打撃を続ける。 「何でだよ……! なんであいつを憎まないんだ!」 思えば、W02も憎しみの言葉を吐かなかった。『今』が幸せと思っているのだろうか。美虎はそれがたまらなく、悔しい。 「やれやれ、タバコが尽きるまでに終わるかね」 烏は『二四式・改』を構える。旧式の銃を現代の技術で作り直したというその銃は、烏の手に良くなじんでいた。何度も繰り返し熟練した銃の腕。悪徳の星を背負う覚悟。飄々とした烏の態度の裏に見える努力と強い精神が、高度な射撃を生み出す。 「あらよっとっ!」 「アイ、私にあなたの気持ちは理解できない。そして暴挙を許すつもりはない」 W01に冷たく氷璃は言い放ち、魔力を練る。魔術刻印が氷璃に力を与え、四種の魔力を一点に束ねる。小さな黒の魔力弾。一瞬空中で停滞したそれは、一筋の線となってW01を貫いた。魔力が毒となり、W01の動きを封じる。 「せめて眠りなさい。父親の右腕を枕にして」 「やってくれるな。だが――!」 リベリスタの猛攻は確かにW01を追い込んだ。生死ギリギリのラインに追い込まれた彼女のギアがあがる。攻撃手段は変わらずの徒手空拳。しかしその切れ味はまさに死に物狂い。 意志の力で毒を払い、W01の拳が振るわれる。 「一度倒れたぐらいで起き上がれないとか、不倒相手に笑われんだろー」 「拙者はまだまだやれるでござる!」 「ぐるぐさんだって!」 ぐるぐと虎鐵と岬がその一撃で意識を飛ばす。それぞれの武器を杖にして、運命と一緒に戦意を燃やして戦場にとどまった。 「……くそっ!」 「くっくっく。役は果たしました。後は任せますよ」 美虎と九十九が空母の甲板の上に倒れこんだ。岬が倒れた美虎を庇うように前に出て、W01にハルバードを振るう。 「くそっ。タバコが切れたか」 「でも後もう少し。終幕は近いわ」 後衛から厄介な射撃をする氷璃と烏もまた、W01に狙われて運命を燃やす。追い詰めているのは事実。その事実がリベリスタの希望になる。 「そー言えば、前も物質透過で先越されえたんですよねぇ?」 「まーまー。どの道僕等全員倒さんと『針』手に入らなんわけだしー」 『氷原狼』の不満の声を甚内が宥める。矛を振り回しながらW01からエネルギーを吸い取っていく。軽く告げられているが甚内の言葉は事実である。この状況で『針』を渡してくれるとは思っていなかった。とはいえ、 「それってこの瞬間から仕掛けてもいいって事なんだけど、それでOK?」 「もちー。だけど知ってるぜー。 ライダーは仲間意識強いから、敵の敵がいるときは味方してくれるってー」 「さすがに楽観しすぎだけど……あなたはそういうところがある」 彩歌は甚内の意見に一部難色を示し、そして概ね同意する。『氷原狼』とは何度か交戦している。悪党だけど非道になれない氷の拳士。アークに情報を流したり、負けを認めるときは潔かったり。 (正直な話、彼の願いを叶えてもいいとは思っている部分もある) 心の中で彩歌はそれを認める。だけどそれは感情だ。リベリスタ『彩歌・D・ヴェイル』として、譲れない一線はある。 「合わせるよ、ツンドラちゃん!」 「だから俺のバイクから降りろって」 ぐるぐは『車輪屋』に乗りながらW01に攻撃を叩き込む。『氷原狼』がしゃがんで足を攻めれば頭部を。氷の拳がW01の顔を狙えばぐるぐは腹部を。変幻自在のトロンプ・ルイユは、状況に応じてその動きを変えていく。 「父……様……」 『氷原狼』とぐるぐが放つ拳の演舞。吹雪のような拳と隙のない連続攻撃。それが不死身を謡ったW01の生命を断ち切った。 ●ツンドラの獣、750ccの魂 「わーい。はいたーっち」 喜ぶぐるぐ。しかしコンビネーションを決めた相手はそれに応じなかった。 『氷原狼』と『車輪屋』。両名とも、戦意を解くことなくリベリスタに顔を向けている。 「私達を巻き込んで範囲攻撃を仕掛ける時点で、敵対する意思なのはわかってるけど」 「まー、そういうことですぜ」 W01に止めを刺すときに前にいたぐるぐと虎鐵と岬と甚内は、氷鎖の乱舞に巻き込まれている。分かってはいたが、敵対の意志は十分だ。 「針はW00の再奪取、及び悪用を避けたい為アークで回収させて貰う」 烏がこの空気を破るために口を開く。 「ただ達磨の旦那の娘さんの治療に使うなら、この後直ぐにでも病室まで同行して治療を施す」 「……アークは大儀のために小を捨てる組織ですぜぃ。 Wシリーズの少女と、剣林のフィクサード。もし天秤にかけることがあればどっちをとるかは明白ですぜぃ」 「待て。こちらもアークに交渉する。セリエバの件は抜きで、病状が改善するなら協力する。 だから今回は――」 「わりーけど、聞けねぇぜぃ。そんな正論を聞いてられる余裕はないのさぁ。 あそこまで衰弱したアイツを見ちまったら、たとえ約束を守ってくれるといわれても我先に奪いたくなるもんです」 『氷原狼』を動かすのは、セリエバへの怒り。その根幹は奪われた仲間への想い。たとえアークに信用があっても、譲れない一線はあった。 「それにまぁ、俺はフィクサードなんでねぃ。ほしいものは奪わせてもらいますぜぃ」 「どちらかを選べと言うのなら彼女『達』。無茶をして毒に犯された一人を救うより、抗う事すら許されなかった彼女達を救う」 氷璃の言葉は正論だ。救える数は多いに越したことはない。何よりも十文字菫には選択権があった。その選択の結果と、選択することすらできなかったWシリーズの娘達。どちらか、といわれれば後者だろう。 「致し方ないでござるな」 虎鐵は日本刀に手をかける。鯉口を切り、一歩踏み込んだ。戦いたくはないが、退かない理由は痛いほど理解できる。仮に自分の娘が同じ目にあえば、きっと同じような行動にでる。 「遠慮も容赦もしないよー」 ついさっきまで共闘していたぐるぐは、あっさりと掌を返すように『氷原狼』に敵対する。だけど心の中では好きな子の物語は応援したいしお手伝いしたい。ここから彼が逆転してくれる劇を期待していた。 (プレゼントで得た物語なんて味気ないじゃない? ……アークを裏切るようなタイミングでもないしね) それでもぐるぐが敵対する理由は、じつにぐるぐらしい理由だった。 「いつもみたいにさいならー、ってわけにはいかないかー」 甚内が矛を構えて立ちふさがる。『氷原狼』が逃げるとすれば今この段階だろう。逃げるための『車輪屋』も主に同意しているためか逃げる様子はない。 「……勝ち目は、ないわよ」 彩歌の指摘は正しい。そんなことは『氷原狼』だって理解している。W01との戦いで傷ついているのは『氷原狼』も同じなのだ。頭の中でどう計算しても、彼に勝ち目はない。なのに、『氷原狼』は退かない。 氷が周りの温度を下げていく。バイクのエンジンが唸りを上げた。 ●氷狼の牙、機械の心 「いくよー」 「退かないというのなら容赦なしだ」 「一人を救う為だけに『針』は渡せない」 岬の風の刃と、烏の弾丸、そして氷璃の魔力弾が『車輪屋』のボディを穿つ。 「『針』は渡さないでござるよ」 「スタンスの違いは分かっている。だから」 虎鐵の刀が鞘走り、彩歌の糸が『氷原狼』の注意をひきつける。 「悪いけどこっちもむいてほしーんよ」 「ほい、ほっ、あちょー」 甚内の矛と、ぐるぐの銃とナイフのコンビネーションが『氷原狼』を襲った。 W01との戦いで疲弊したリベリスタはもうろくに技すら出せない状態だった。ガス欠寸前の状態でどうにか戦っている状態だ。 「これが最後の……!」 もっともそれは『氷原狼』とて同然だ。最後の氷拳を放ち、自分の周りにいる者たちを凍らせていく。ぐるぐと甚内、そして虎鐵が体温を奪われて倒れる。 「これでどうだー」 倒れた者たちの代わりとばかりに岬が疾駆し、『氷原狼』に向けてハルバードの一閃する。ハルバードの『アンタレス』と岬の『二人』。その一撃が氷の拳士の体力を奪い……運命を燃やしてツンドラの獣は踏みとどまる。 「今までありがとうございました、リョウ」 「……ああ、あばよ相棒」 バイクのEゴーレムが烏の弾丸で大破した。そのエンジンが止まり、ライトが消える。 「さようなら。せめて貴方の技で幕を引いてあげるわ」 氷璃が最後の魔力を練り、氷の矢を生み出す。呪いと低温の魔力が『氷原狼』を貫く。 「……やれやれ。氷の狼が熱血だなんて。慣れないことはするもんじゃないですねぃ」 その言葉が終わると同時、糸が切れたかのように一人のフィクサードの足が止まった。 ●アークのリベリスタ 「ボクが、ボク達がハルバードマスターだ!」 勝どきの声を上げる岬。ハルバードの赤い宝玉が月光を受けて淡く光った。 「この『針』でWシリーズを助けられるかもしれませんな」 九十九は『継ぎ接ぎ用の針』を大事に仕舞い、体をいたわるように座り込んだ。 「情報は概ね回収した」 拓真が先行していたこともあり、情報収集はスムーズに行われた。 彩歌が電子的な情報を集め、虎鐵と烏が経験から隠し金庫の場所を割り出す。 幸いにして空母の中には医療器具などもあったため、怪我人はすぐに応急処置が為される。 そしてその中には『氷原狼』が含まれていた。 「……以外ですねぇ。散々邪魔してきたフィクサードまで治すなんて。言っちゃなんですけど、コネとか心情的には俺はフィクサードよりですぜぃ。その辺の絡みでアークと敵対する可能性は結構ありますよ」 彼は結局のところフリーの……元剣林のフィクサードで、行動原理はその仲間のためだ。ゆえに剣林と敵対しているアークはまた彼と相対する可能性がある。 「そうかしら。あなたは『針』の回収よりもW01を倒すことを優先した。どうしてかしら?」 彩歌が『氷原狼』の言葉を否定する。 拓真が戦線から離れたとき、『継ぎ接ぎ用の針』を得るためにW01との戦いを放置して空母の中に入る選択肢もあった。本当に『針』を得たいのなら、リベリスタを見捨てて空母に向かって走るべきだったのだ。そうなればリベリスタはW01の猛攻に押し切られていたかもしれない。 「元剣林の水原良なんて知らないわ。ここにいるのは『氷原狼』。命を賭けるなんて言葉が似合わないフィクサードよ」 仕事を通じての相手だが、その行動の中には僅かながらの優しさがあった。彼が戦場に留まったのは、そういうことなのだろう。 「十文字菫に『針』を使うようにアークに申請してみるよ」 「彼女も神秘の犠牲者だ。アークの理念として見過ごすわけにはいかない」 美虎と烏が『氷原狼』に言葉をかける。 「そいつはありがたいねぃ。ま、気長に待ちますよ」 『継ぎ接ぎ用の針』はあくまで延命の処置だ。とどのつまり、十文字菫を本格的に救うにはセリエバの召喚を待つしかない。そしてそれはアークとしては看過できないだろう。もちろん『氷原狼』とてそうなのだが。 「セリエバの情報と海図よ」 氷璃が『氷原狼』の前でそれを読み上げる。 「へぇ。教えてくれるのは嬉しいんですが……どういう風の吹き回しで?」 「唯の借り賃よ」 氷呪矢を借りた代金、と氷璃は言った。。もちろんラーニングしたのは彼女の努力の結果だ。代金を払う義務はない。だが、それを返すと氷璃は言う。 「ホント、リベリスタはお人よしばかりですねぃ」 「むしろフィクサードは私怨に固執しすぎー」 「そーそー。もっと肩の力を抜いてもOKよ」 甚内とぐるぐが『氷原狼』の周りに群がり、動けない体をがしがしと叩く。 作戦終了の方を受けて、アークのヘリが近づいてくる。セリエバの情報を持って、リベリスタたちは箱舟に帰還する。 後日、アークの会議室より。 「――『セリエバ召喚魔方陣』……場所の特定はできた」 「――誤差はあるだろうが、まず間違いない。十分な情報量のおかげだ」 「――今攻めるか?」 「――準備が整い次第攻めよう。月や星の位置を考慮すればまだ余裕はある」 「――セリエバの毒の情報があれば、十分な防護策も立てれたのだがな」 「――それは彼等の選択だ。尊重しよう。とにかく準備を始めないとな」 「大規模アザーバイド召喚阻止作戦。――作戦名は『ボトム・ガード』」 運命を食らうアザーバイドに対抗するため、箱舟が今動き出す。 決戦のときは、近い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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