●傷を孕む略奪 「……てェ感じでサ、何が楽しいって家族やら恋人が死ぬときのあの顔、絶望してんなァって顔よ。ワカル? 自分達がいついつまでも平和に暮らせるとばっかり思ってたアホ面を絶望塗りたくった顔に染めてやるあの感覚。何時もどおりのツラしてんのにやってんのは親殺し恋人殺しってんだからたまんねーよなァ!」 「何でお前ェのオナニーの手伝いしてやらねえといけねぇんだよ、刈崎。あとあんま喧しいと犯すぞ」 「っだなァクモちゃん、一人遊びなら君のが得意じゃない? ほらそこのお人形ちゃんと乳繰り合ったり殺しあったり? するんでショ?」 「それ以上言うと本気で殺るぞコラ」 「おいおい……落ち着けよお互い。クモはこの馬鹿の言う事聞くな。刈崎は無闇に煽んな。今この段階で楽しめてんのお前ェだけなの忘れんじゃねえ」 嬉々として近親者による殺傷を語る『女のようなモノ』と、苛立ちながら小型のスーツケースで指を遊ばせる『相棒』との間で、鞍望 司は溜息を吐いた。 『黄泉ヶ辻の中では』比較的マトモな彼ら二人だが、相性からして最悪なのはわかりきっていたことである。何で今更……とも言えない。 「まあ落ち着けよクモ。刈崎の『テストケース』があったから俺らがぼちぼち動けるんだろ? お前ら二人は好き放題やってんだろうが、俺だけお預けで疲れてんだよ、次やらせろよ」 「つってもよォ司、お前の役割忘れたワケじゃねーだろ? イヤ俺もだけどヨ」 「ツカサ、バカ?」 「そうそ、ツカサちゃんはオバカさんよー。良く覚えておきなさいねー?」 傍らを歩く少女――服装が学生服なのは日津女の趣味と地域特性と半々だ――を撫でながら更に暴言を吐くその有様に、司は再び頭を抱えたくなった。 「あー、畜生自由人共め……どうでもいいんだけどよ、クモ」 校門を蹴破り、銃弾を警備員に叩き込んで司は首を巡らせる。 「『アレ』、もう使えるんだろ?」 「勿論」 「刈崎、仕込みはここか?」 「そりゃァね。今頃勤勉に動いてるんじゃないかしら」 「ならいい。しかし学校丸ごとたァな……景気いいぜ」 銃弾の音ひとつ、それでも校舎内の反応はない。何故なら――既に校舎内は『仕込み』が済んでいるから、なのだろう。 ●ハッピーな嫌がらせを強要する日常風景 「茨城県つくば市。つくば学園都市なんて呼び名もある程度には、彼の地は学術的に優秀な立地と言えます。つまりは、その分学び舎も多く……要は、人が一箇所に集まりやすい上に小規模コミュニティを狙い易い。彼らの目的はそこです」 頭部を失った警備員にパニックを起こすでもなく平静を装う学園の異様さをリベリスタ達が理解しようとする前に、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は話を切り出した。 「『陰御者』刈崎 日津女。アーティファクトにより意識を保ったままの相手を自由に操ることが出来る彼の特性は、『普通を装わせる』状況においては特に強く働きます。彼が操っているのはこの学園の生徒会長その人。現在、『彼』は学園内を掌握させられ、とある教室で殺人に及ぼうとしています」 「何のために? 黄泉ヶ辻ったってフィクサードなんだ、自分で殺したほうが」 「まあそうなんですけどね。彼らの今回の目的は虐殺ではありません。小規模な儀式を行い、ノーフェイスを多量に発生させようとしています。で、彼らの儀式のトリガーは『近親者または親しい者による殺害』。クラスひとつ潰せば、そこで発生したノーフェイスが近傍のクラスの人間を殺し、更に……といった具合です。放置すれば学園全体ノーフェイスでしょうね」 「趣味の悪いゾンビムービーだな。胸糞悪ィ」 「まあ、そんなわけです。ノーフェイスの発生がひとクラスで抑えられればよし、そのクラスから溢れればアウト。生徒会長サマを止めるには日津女の撃破または撤退、アーティファクトへの一定レベルの損壊……ただ。護衛が二人とノーフェイスが一体、付いています。決して侮らない様。そして、目的を見失わぬ様。『ひとクラスなら事故で済みます』」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月27日(日)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●前述する結論 数えられないほど死んだ。 数えきれないほど殺した。 数えるに値しないほどに人のカケラが転がっている。 これが現実だと冗談めかして話すならそれもいい。それが真実だと被害者にツウぶって口にできるならそれもアリだろう。 だが、目の前のそれは理性のない化け物の群れではなかったことだけは確かだ。 その有り様はどこまでも人間臭く何よりも滑稽で、そしてただ汚らしい結末だった。 ……戯言である。そこに転がる数多の死骸を前にして、言い訳など今更過ぎたのだから。 ●狂人に性善説 森閑とした――人の死にすら動じない都市の中心部は、宛らその本質を表す鏡のようでもあった。動き続ける世界の中では異物は徹底的に排除され、声を上げても救われない。声を上げなかったのなら尚の事。 誰もそれを救う選択肢など選び取ることはしないのである。 故に。叫び声ひとつ上げず佇むその『施設』は、巨大な墓標にも似て静かだ。 「胸糞悪いな。……ったく」 暗澹とした表情を顔に貼り付け、『ダブルエッジマスター』神城・涼(BNE001343)はその施設に首を巡らせた。鳴り響くチャイムに応じるものは居るのだろうか。答えは否だ。この状況下、応じるものなど居よう筈もない。 渡り廊下も、体育館も、校庭も特殊教室も全て全て怯える人々の息遣いが潜むばかりで応じる余裕があろうはずもない。 学び舎に食指を伸ばした理由がどこまでも下衆い。彼からすれば笑えない冗談を見せられているようである、と思うのは当然だろう。 「いかにも『フィクサードでござい』と言わんばかりだな」 オーソドックスにして究極。単純にして重厚。鮮やかと言うよりはただただ汚さを感じるその行いはフィクサード『らしい』行動であると『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は分析する。 自己主張の激しさは無いが、行動原理の底から発露する品性の悪徳さは明らかにフィクサード……こと、黄泉ヶ辻らしさを感じさせもする。 リベリスタを呼び寄せる結果になるのはあちら側も百も承知ということか。それだけの自信があるということの証左でもあるのだろう……面倒な限りだ。 「……怖気が走ります」 思うことは多くとも、黄泉ヶ辻とは一生かけても分かり合えまい。『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)にはその確信がある。享楽の為の行為、理解の埒外に属する行動原理、何より首領自信の冒涜的な行動の数々。 祈りと審判をその手に携えた彼女の目に、迷いなどあろうはずもない。救いにも、祈りにも、増して等しく訪れる裁きに至ってそんなものが在るわけもなく。 彼女はただ、『祈る』だけなのだろう。 「人様を好きに操って誰かを殺させるとか、最高に気に食わないわね」 眉根を寄せ、一切の嫌悪感を隠しもしない『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)にとって、この手の人間は尤も唾棄すべき部類に相当することは語るまでもない。 フィクサードの道理を知る者であっても人の道を外すことをしない少女に、根本から外れた彼らの原理を理解しろというのは無理な話だし、理解するべきではないと言える。 理解したくはない以上――既に彼女は、その姿を見せてすら居なかった。 「あのアーティファクトに何度振り回されれば終わるのでしょう……」 『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)は……否、ごく一部のリベリスタ達は『陰御者』刈崎 日津女、ひいてはその手に在るアーティファクトに翻弄される運命にある。 そうとしか思えないくらいには、目の前の景色は暗澹としていた。 人の在り方を、動きを、運命を、そして心を蝕むそれは、存在自体が確固とした悪夢にほかならない。それに拠る悲劇が彼らの知らぬ所で起き、そして終わる。 それは両手では救えないほどの悲劇が日常的に起こりうる世界にあって、認識できるからこそより痛ましい悲劇であるはずだった。 「ヒツメ、テキ?」 「そうだね、あれは敵だ。いや、『的』かな? どっちでもいいや、どうせ面白おかしく踊ってくれるんだろうし」 「テキ、殺ス」 「はいよくできました……と。まあ雁首揃えて相も変わらず正義の味方ですって顔しちゃって恐いネ、肩凝らない?」 「黄泉ヶ辻が六道みたいな真似してますね。宗旨替えでもしましたか」 「質問を質問で返す子はオレ嫌いだなあ。あと、それは俺たちに言う事じゃないね!」 軽口をさらりと流し、那由多・エカテリーナ――もとい『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は問いかける。返事が戯言であるのは分かっていたが、一応は体裁上、という感じが拭えない問答では在る。 そもそも、彼らは黄泉ヶ辻の末端だ。その中枢たる黄泉ヶ辻京介の妹、糾未の思想など彼らには関係なかった。ただ、条件付けが彼にとってこの上なく上質だったからやっているだけの話。 振り返って珍粘とて、リベリスタだからやっているというよりは、殺されるべくして殺されるであろう少年少女に自分の嗜好に合う者が居たら大変だとばかりに参じた部分がある。 だから、彼らがそこで相容れないのは当然なのだ。欲求に素直な側面半分、所属組織の意向が半分。 或いは似たもの同士なのかもしれなかった。 「仲良く問答してんじゃねーよ日津女。アークの糞ガキが何人集ってこようとやるこた一つだ。じゃれても楽しくねえぜ」 「女旱(おんなひでり)だと心が荒むんねツカサちゃん! 愉しまなきゃやってられないよ? むしろ死ぬよ?」 「るせぇ。俺は男とか女とかどうでもいいんだよ。殺せりゃな」 日津女の挑発にも慣れたものなのか、傍らの男……『アームドビースト』鞍望 司は両手の銃を真っ直ぐ構える。 「特に正義ヅラしてどや顔してるクズなんて最高だ。なあガキ」 「うぬが理念嗜好思想主義主張、全てが私の敵だ」 傷つける者と護る者。お互いがお互いを嫌悪するのは、その根底に『自分の主義を意地でも曲げない』芯があるから、ともいえよう。その意味で、司と『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は最も近く、最も遠い二人であるといって過言ではない。 抵抗できないものを容赦なくいたぶることを史上とする司。 自らを護る力を持たぬ者の盾としてだれよりも貴くあることを自らに課す騎士たるアラストール。 彼ら二人は、どこまでも『忠実』なのだ。 互いの間合い――銃弾と銃弾が激突するに足る距離に踏み込んだ双方が準備に入るその刹那、その影は踏み込んでいた。 「刈崎ィーッ!!」 『ムエタイ獣が如く』滝沢 美虎(BNE003973)。日津女に翻弄された少年少女を或いは救い、或いは見捨てざるを得なかった葛藤を背負ったのはなにもこの戦場に於いて彼女一人ではない。 だが、美虎には認められない現実がある。許しがたい事実がある。避けては通れない世界がある。 自らが救えなかった。それは事実だ。誰よりも救いたかった。それも事実だ。 であればこれ以上その悲劇を見過ごす訳にはいかない。その根源を、こんどこそ自らの拳で叩き潰したい。叩き潰すのだ。 「あークソ、お前ら勝手に楽しみすぎだろ。こちとら胸糞悪ィ奴のお守りで苛立ってんだよ」 「どけよ、お前なんて」 「『敵じゃない』、か? 冗談キツイぜ。ウチのカワイ子ちゃんが寝てるからってちィと舐めてねェか」 両者の射手がトリガーを引くより早く、踏み込んだ美虎が気付くことのできぬ間隙を縫って、『ドラクルパペッター』夜見崎 蜘蛛波は間合いに踏み込んでいた。 確かに、素の性能で言えば彼が一番弱いようにも見える。だが、日津女に向かってきた美虎を躊躇なく止め、足で拳を蹴り飛ばしたその実力は決して侮れるものではなかった。 ――さて。何故彼はここで拳を固めなかった? 否、何故『固められなかった』? 答えは、彼が軽く指を繰った直後にあった。 『ギギギギギキキキェァァァ!!』 「愉しませろよ。でないと殺す」 祈る様に両の手に握られた銃を構えたリリが数歩、退く。 それを警戒――もしくは『ビビリ』と取った日津女の表情は愉悦に塗れて狂おしい。 「お約束に従ってとっとと退場までしてもらえると有難いところだな」 「きっちりとやってやんぜ……!」 涼と鉅が得物を携え、ハッピードールの間合いへ飛び込み……静謐な校庭は、一転して死闘を予感させるコロシアムへと姿を変えた。 ●聖人に愉悦と狂奔 「あああァァ!!」 言葉である必要はない。ただ拳があればいい。 どこまで不恰好でもくだらなくても、その力が全てならそれでいい。 雷撃そのものと化す勢いで美虎が『血吸人形』と蜘蛛波を捉え、その勢いでハッピードールをも狙いに定める。 (もうたくさんだよ。もうこんな腐れアーティファクトに操られる人を見るのも、それを嬉しそうに使うお前を見るのも……!) 「いい目してんじゃねえの。そのトシで絶望と希望と両方どん底まで覚えちまうと後が辛いぜ、嬢ちゃん? 俺はそういうバカを腐るほど見てきたし部下にしたし殺しもしたからな」 「お前には関係ない……!」 楽しそうに笑う彼と、ケタケタと顎を動かす人形はまるで未熟な自分を笑うようだ、と美虎は思う。未熟上等。そうあるように生きてきただけだ。 「頭がおかしくても狂ってても、こう言う子は大好物なんです。うふふ……」 「気持ちワルイ」 「殺ス」 珍粘が闇を纏い、刃を叩きつけにいく。応じるハッピードール二体は、確かに彼女の言う通り『綺麗』であるのかもしれなかった。だが、裡から漏れだす狂気だけは塗り替え様のない異質を生み出しているが。 「隠れるかと思ったら堂々と正面から、か……舐められているのか?」 至近から放たれたブレインバインドを皮一枚の差でかわし、鉅の気糸がハッピードールが一体を締め上げる。その言葉の先が誰に向けられたのかは明らかだが、当の司は気にした風でもない。 「まさか。一度邪魔した奴らを舐めてかかるほど俺もバカじゃねえよ。だから端から景気よく、が俺の信念なのさ」 鉅の捉えたハッピードールに追撃を加えたアラストールは、直後に降り注いだ炎に顔をしかめた。甘く見ては居ないというのは事実だろう。多少狙いが大雑把でも、トータルバランスに長けるインドラを使い戦いに来たのがその証拠だ。 だがそれでも、素直にその言葉を受け入れる気にはなれない。隠し球を持つのは互いに同じ事。ハッピードールを餌にして、彼らがどんなことを仕掛けてくるか分かったものではないからだ。 「……痛みも傷も、私が治しますわ」 心の傷は直せない。それでも、出来ることは癒すこと。自らに課せられた行為を確実に行うことが勝利への近道であることを櫻子は知っている。 少なくない敵の数をして後方に居ることしかできなくても、自らの役割をはたすことの意味を何より知っているだけに、である。 涼の拳が、唸りを上げてもう一体のハッピードールに襲いかかる。クロスガードの姿勢のまま打ち上げられたその矮躯に、追撃とばかりにもう一発の拳が襲いかかる。 「ああ、お前らみたいなの一発殴るだけで満足できるわけないだろう……!」 「イタイ、キケン、やっぱり殺ス」 二発目で更に浮いた状態から両手をつきだしたハッピードールは、近距離からブレインバインドによって涼を締め上げようとするが、その動きは遅すぎた。 既に涼は、その二手先三手先を狙っている。 「全くどうして、お前らときたらバランスがなっちゃいないねぇ。向かわせないけど止めもしない、か。楽しめないったらありゃしないよォ!」 「なら、その退屈そうな顔が吠え面かいてるのを見たいわね」 気糸を繰り、縛り上げ或いは貫いてリベリスタ達の妨害に徹していた日津女は、その基本原則を歪めなかった。 つまりは、相手の隙を衝くことを前提にした消極的戦闘行動。そこが、リベリスタ達の付け入る隙でもあった。 護衛とはいいつつ、個々の実力に相応の信頼をおくフィクサード陣営は他者を助けることをしない。常に最大効率で一網打尽にすることを主眼におく。 それが、各個撃破に終始するリベリスタとの違いだ。この場に於いて、日津女の役割は『厄介な射手』であるリリの妨害と、『堅牢な護り手』であろうアラストールの抑止にある。 無論、それは日津女の想定する限りでは上手くいった。全てが確実に徹ったわけではないにせよ、十分な時間稼ぎと戦果をもたらした……そう、考えていた。 だからこそその声は慮外だった。だからこそ、見える位置に居たリリが思わぬ形で貢献した格好と相成ったのだ。 「もう見えてんだよ、アンタの『仕掛け』は」 背後から迫った雅の声に、日津女の反応は明らかに遅れていた。気づいてすら、居なかったのだ。 「司テメ、気付いてンなら言えよコラァ!」 「ああ、何。気付いてなかったのお前。……いいんじゃね、頃合いだし。痺れ切らした嬢ちゃんと宜しくやンな」 司の声は無関心だ。神秘の限りを尽くし銃弾を撒き散らす彼の実力は並ではなかったが、時間を稼ぎ、あわよくば全滅程度の彼の思想には『戦いに入った時点で日津女は自由にさせる』ことが思考にあった。 ……つまりは。背後から強襲された状態で、そちらに意識を割いた日津女にとって、再動を果たしたリリに十分な意識を割けないことと同義だったといえるだろう。 「その隙は逃がさねえ!」 「呪わしいアーティファクトよ、神の怒りを受けなさい――Amen!」 「チッ……!」 背骨を砕かれる様なタイミングと威力で叩きこまれた数多の弾丸は、日津女の命を刈り取るにはやや弱かったが……その命の代価であるかのように、その裾から粉々に砕けた「それ」を吐き出させた。 「三分強……!」 二百秒。焦りを感じさせる声が響くのを待たずして、血吸人形が凶暴に叫ぶ。 口から吐き出した閃光弾が、辺り一帯を光に包み、その中ですら動く数名をして驚嘆させることを口にした。 「クズ人形は死んだろ? 『操り糸』は切れたろ? 時間稼ぎ……はまあいいか。司、どうよ今回?」 「日津女……は何かもうダメだなこれ」 「ダメじゃねー、よふざけんなコラ……!」 ぜえぜえと荒い息を吐く日津女は既に先程までの鬼気は無い。或いは、司は使い潰すことを想定して動いて居たフシがある。彼からすれば、こうして生きている事自体驚きなのだろう。 「……まあ、このバカ連れて帰れって言われてるしな」 「…………!!」 「ほっとけ、んな事より教室が先だ」 「急いで下さい、『また』間に合わないのが御免なのは私だって同じなんです!」 全ては、ただ掌からこぼれ落ちる命を救うための戦いだ。 掌から零れた恨みを叩きつける殲滅戦ではない。砕け散った過去を振り返るより先に、やるべきことがある。 美虎の、血を滲ませる頬から響く鈍い音を、櫻子は聞かないふりをした。純粋とは甘い毒だ、と。 ●ユメノアト リベリスタが到着した時、生徒会長は既に落命して久しかった。 ノーフェイス化した生徒たちにとって、操作が解けた……明らかに精細を欠いた彼は恨みをぶつける相手として格好の的だったのだろう。酷い有様だった。それこそ、見てられぬ程に。 そして、フェーズ1のノーフェイスは多かれ少なかれ人間として成立しているものがほとんどだ。目の前で繰り広げられる虐殺劇は、未だ運命に護られた一般人にはどう見えたものだろうか。 ――Requiem aternam dona eis, Domine, ――et lux perpetua luceat eis. リリが祈りを捧げる姿すら、血に塗れた法衣の裾のコントラストからすれば奇異ですらあった。 悲しみをにじませた表情など、命を拾った者達には欺瞞に見えたことだろう。 ……そんな苦々しい現実が、世界をひとつ救っただなんて偽善にかき消されない傷跡。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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