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マインドシェイカー

●闇から這いずる者
 某県湾岸部、倉庫街
 深夜、そこで三人の男が波打つ音をBGMに人を待っていた。
 彼らはこの辺りを縄張りとするヤクザの組員であり、待ち人というのもその関係者である。
 今日この場で、麻薬取引を行うのだ。
「チッ、約束の時間になったってのにまだ来ねぇのかよ」
 組員の一人、やせぎすの男が短くなった煙草を吐き捨て悪態をつく。
「サツにしょっ引かれるほどアホな奴らじゃないと思うんですがねぇ」
 隣に立つ太った男が、即座に新しい煙草とライターの火を用意しながら言った。
「……フゥー。まぁ、これを理由に色々ふっかけてやるさ。信頼関係って奴だからな」
「そっすね」
 一息ついて落ち着いたのか再び待つ姿勢を見せるやせぎすに、太っちょはホッと胸をなでおろした。
「来たみたいですぜ」
 一人、離れた場所に立って見張っていた男が声を上げ、暗がりを指す。
 見れば、要所に点在する明かりに照らされ三つの人影が浮かび上がっていた。
 やせぎすの男が待っていたとばかりに歩み寄り、声を掛ける。
「ようやく来たか。……おう、しっかり遅れた分の落とし前をだな」
「待った。何か様子がおかしい」
「あん?」
 不意に止められたやせぎすは不審な目を送る。
 その時、ずじゅると聞き慣れない音を聞いた気がした。
「あ、兄貴!」
 太っちょが何かに気づいたのか、震えた声でやせぎすを呼んだ。
「こりゃ……どう言う事だ!?」
「……ッ!」
 次いでやせぎすも見張りもその異様な姿を目の当たりにする。
「こ、こんな……化け物!」
 やって来たそれらは、確かに彼らが待っていた人物だった。一部を除いて。
「頭がくらげみてぇにやってやがる!」
 ずじゅると、それらが歩みを進める。
 よく見れば人間の頭も確認できた。そして、それが余計に恐ろしかった。
「あれは寄生してやがるのか!?」
「ひえええ」
 そう、待ち人だった者達の頭に取りついたくらげの様な物は、触手を伸ばして彼らの脳を侵食していたのだ。
「う、う、撃てっ! 撃て!」
 やせぎすの男が叫び、三人はそれぞれに銃を構え発砲する。内二体の怪物はそれで軽く怯んだ様子を見せた。が、
「なっ!? あの一際でかい奴。効いてねぇのか!?」
 一体、現代兵器の雄である拳銃の弾を無傷に弾き飛ばす者がいた。そして、
「ひ、ひゃああ!!」
「ぐあっ!」
「……!!」
 直後怪物達から伸ばされた触手にヤクザ達は捕らわれる。
 男達は必死の抵抗を見せるも、それは一向に剥がす事が出来ない。それどころか、
「は、はへ?」
 太っちょの表情から力が抜け、気の抜けた、恍惚にも似た色に染まる。
 それは他の男達にも同じく、弛緩し、もはや抵抗らしい抵抗すらできなくされてしまっていた。
「あ、あ、あ……」
 くらげ頭の怪物が、じわりじわりと男達に寄ってくる。
 目の前、息の掛かる程の距離になっても、男達にはもうどうする事も出来なかった。
「あっ」
 プスリと、細い管の様な物がやせぎすの額に刺さる。
 何度かの痙攣の後、やせぎすは地面に打ち捨てられた。同じように、残りの二人も。
 そして数十分の時を経て……
 そこには新たに、三体の怪物が生まれていた。

●懇願
「……今回皆さんにお願いしたいのは、これ以上の被害が発生しないように敵を全滅させる事です」
 未だ視たショックが大きいのか、フォーチュナ――天原和泉は胸元を抑えながらそう言った。
 人体に寄生し仲間を増やすエリューション。聞くだに恐ろしい存在の所業を目の当たりにしたのだから無理もない。
「当該神秘、クラゲ型のエリューションビースト。フェーズ3、将軍級です」
 将軍級、通常の現代兵器を無効化する界位障壁を備えた凶悪なエリューションである。
 この段階まで来るとリベリスタ達といえども強固な連携が必要となってくる。
「対象は例の倉庫街の一角を縄張りとして、深夜に活動し仲間を増やすという行為を繰り返す物と思います」
 コンソールを操作し、和泉がさらに詳しい情報を開示する。
「将軍級の他は全てフェーズ1、兵士級です。それらの行動パターンは将軍級に従い動くようです」
「つまり頭を何とかすれば楽になるって事でいいのか?」
「そうなります。指揮官を失えば後は本能のままに暴れ回るだけになるかと。……敵の攻撃手段についでですが、ん」
 和泉がコホンと一つ咳払いをする。
「武器は多数の触手です。それにより中距離以内の対象を絡め取り、抵抗できなくして、その後……捕獲し脳を侵します」
 ざわと、リベリスタ達にもざわめきが奔る。
「それにより、一時的に将軍級、あるいは攻撃した兵士級の支配下に置かれてしまいます」
 リベリスタであれば、難しいながらも自らその支配を破る事や、スキルによって他のバッドステータスと同じく解除は可能であると、和泉は付け加えた。
 が、それでも味方が敵になりうるというのは恐ろしい能力である事に違いなかった。
「かなりの強敵である事は間違いありません。それが及ぼす災厄を考えれば、見過ごす事が出来ないのも確かです」
 今回の依頼の厳しさを伝えた上で、和泉は深く頭を下げて懇願する。
「それでもどうか、私達に力を貸して下さい」
 お願いしますとそう言って、和泉は言葉を締めくくった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:みちびきいなり  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月19日(土)00:16
●任務達成条件
・エリューションビーストの殲滅

●戦場
 倉庫街の一角、海に面した場所が主な舞台になります。
 深夜でも多少なりとも人が活動している場所ですので、明かりはある程度保障されます。
 殲滅が目的です。討ち漏らす事の無いよう。少なくとも将軍級は頭いいです。

●敵について
 フェーズ3、将軍級のクラゲ型エリューションビースト、個体名『マインドシェイカー』と、その配下である同型のフェーズ1、兵士級5体です。
 彼らは戦場周辺に潜伏し、自らの手勢を着実に増やしていこうとしています。
 彼らの主な攻撃手段は以下の通りです。
・触手を伸ばして絡め取る
 単体を対象に遠近問わず触手を伸ばし、対象に中度の物理的なダメージを与えると共に絡め取り、麻痺相当の状態にします。
・触手針による無力化
 絡め取られている対象に遠近問わず触手針を打ち込み、ショックと虚脱相当の状態を更に付与します。
・侵蝕の管
 触手針によって無力化された対象に至近距離から管を刺し、麻痺、ショック、虚脱状態を解除し支配状態にします。
 この状態になった者は、敵の命令に従って動く事になります。
 この状態で数十分放っておくとエリューションビーストの仲間入りです。

上記の各BS相当の状態や支配状態は、WP判定やBS解除ののスキルによって解除する事が可能です。但し、支配状態は少し解除しにくいです。

●海
 夜の海は真っ暗です。

戦闘シナリオです。
HARDだけに敵も知恵を絞ってきます。戦い方とか逃げ方とか。
如何にして勝つか。リベリスタの皆様。どうかよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
マグメイガス
ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)
プロアデプト
天城・櫻霞(BNE000469)
マグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
デュランダル
義桜 葛葉(BNE003637)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
マグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
■サポート参加者 2人■
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)

●徘徊する怪異
 コンクリートに打ち付ける波の音に紛れる様に、それらが歩みを進める音がする。
 人の体を奪い、寄生し、己が器とした者の、闇夜を彷徨う不快な音が。
「これ、触手が這いずる音だよね……」
 『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)は、その聞こえの良い耳に届けられた異音に顔をくしゃりと歪めた。
「暗視で見える範囲込みで六体。全員いる」
「櫻霞さんとシェリーさんとで敵を発見してから今まで、頭に叩き込んだ地図が役に立って何よりです」
 貨物に身を隠して相手を目視し続ける『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)の後ろ、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が力強く頷く。
 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の千里眼と『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)のハイテレパスを駆使しての密な連携による早期発見と、佳恋が憶えた周辺地図によるコース取りによって、現時点まで一般人に被害を与える事もなく安全に事は運ばれていた。
 今回彼ら『アーク』のリベリスタに与えられた任務は、人体に寄生し仲間を増やすエリューションビースト、マインドシェイカーとその配下の殲滅である。
 放っておけば被害はねずみ算式に増え、世界に与える悪影響も計り知れない今回の敵は、何としてもここで食い止め、倒さねばならない相手であった。
「フェーズ3、か。……厄介なものね」
「ああ、ついに出てきたな。フェーズ3が」
 緊張した趣で、来栖・小夜香(BNE000038)と櫻霞がそれを口にした。
 段階的にその強さを増すエリューションの3段階目、フェーズ3。通称『将軍級』。
 この段階となると通常兵器は意味を失い、彼らに対抗出来うる力はいよいよリベリスタ達が持つ超常の能力だけとなる。
 段階が進む事による強化もありその強さたるや正しく称号で示される通りとなれば、彼女らの緊張も当然の事であった。
「脳足りんだか脳無しだか知らんが、ゴミを増やされる前に駆除しなければな」
 そう言いナイフを手に目を細める『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の隣、『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)が不快感を顔に隠さないまま、
「クラゲの怪物ってだけでもアレなのに、支配されるなんて堪ったもんじゃないわ。さっさと片づけて、帰りましょ」
 魔楽器を構え言い放ったのを、
「そうだな」
 ユーヌは静かに頷き同意した。
「結界の方は十全か?」
「ああ」
 投げかけたシェリーの問いに『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は頷き目で訴える。
 これでいつでも仕掛けられる、と。
「敵は波打ち際周辺から離れませんね。あれがテリトリーなのか、退路を常に確保しているのか」
「一体たりとて逃がせません。退路を多少強引にでも断つ事も想定して立ち回りましょう」
 観察を続けていた『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の懸念に佳恋が確かめるようにそう言って。
「相手は知恵も回るらしい、各員気を引き締めて行くぞ」
「りょーかい。それじゃあ……頑張っていこっか!」
 葛葉に続いたウェスティアのその言葉を切っ掛けに、リベリスタ達は戦場に、徘徊する怪異に向かい飛び出して行った。

●布陣
 戦場にいち早く駆け込んだのは、エルヴィンとユーヌの二人だった。
 事前に打ち合わせた通りに配下である兵士級の一体に肉薄し、エルヴィンは敵の足を抑える。
 兵士級達は指示されたか己の意志か、大将である将軍級を護るためリベリスタ達の接近を抑えようと展開し逆に動きを止めに掛かる。
 そこを、ユーヌが行く。
「肩を借りるぞ!」
 エルヴィンの精悍な肉体を足場に、彼女は跳んだ。
 人の頭に寄生している彼らの全長はさほど大きくはない。人一人を足場にすれば飛び越えるのは容易だった。
 初手で敵の足を縛る。それがリベリスタ達の取った作戦であり、彼女に与えられた役目は、その総大将、将軍級の足止めだった。
 普段隠している翼を広げ、滑空しながらボス、マインドシェイカーと接敵する。
 他の同族に比べ一回り大きなそれは、目の前に舞い降りた存在を見定めるかの如く、その軟体部を蠢かせていた。
「海側は私達が!」
 佳恋がリリを連れ、波打つ湾部を脇に退路を断つべく走り込む。
 移動を阻害するべく伸びてきた触手を佳恋は掻い潜り、海へのルートを確保していた一体を、海を背にして割り込む事に成功した。
 機械化した両足で大地を強く踏みしめる。何が何でも、ここは死守しなければならない。
「そう易々と、逃がしはしません」
 佳恋の構えた剣が彼女の放つ戦気と共に白く煌めいた。
 タイミングを同じくして、兵士級達はリベリスタ達に攻撃を仕掛けてもきていた。
 ブロックされた場所を崩すべく伸ばされる触手が、始めに駆け込んだエルヴィンを絡め取り締め付ければ、相手に前衛後衛の役割があると見るや、それに気づいた一体が後衛に向けて触手を伸ばす。
 が、初手で打ったその手はあるいは心得によって振り解かれ、また次の瞬間には真っ二つに切り裂かれていた。
「迅速に、そして的確に、だ」
 真空の刃を作り触手を裂いた葛葉が、その敵の正面に立ち塞がる。そうしている間に、後衛であるシェリー、ウェスティア、杏、小夜香は適度の距離を確保し、それぞれに陣を敷き、敵を牽制し、仲間を癒した。
 残る兵士級一体にも櫻霞が踏み込みその足を封じ込める。
(俺が何処までやれるのか、貴様達で存分に試させて貰うぞ)
 ホルスターから抜き去った二挺の拳銃を構え、彼の異色の双眸が眼前の敵を睨む。
「さて、殺し合いを始めるとしよう」
 前衛六人。その全てが一体ずつ敵の足を封じる。
 リベリスタ達が敵を殲滅する為に敷いた陣が、ここに完成した。
 そこまでは、順調だった。

●将軍級という敵
 ユーヌがその攻撃に気づけたのは、その卓越した聴力のおかげであったろう。
(岩を砕く音? まさか!)
 咄嗟に翼を羽ばたかせ、跳びあがる。直後、彼女の体を強烈な衝撃が走った。
「ぐっあ!?」
 地面に叩きつけられ、意図せずして肺の中の空気を吐き出す。
 直撃は避けた。それでも彼女の体力では二度目を耐えられない程のダメージを受けていた。
 体勢を立て直しながら彼女は見る。自らを叩いた攻撃は、コンクリートを砕いて伸ばした触手による地面からの奇襲であった。
(絡め取られずには済んだ、が。今のは……お前の攻撃なのか?)
 睨みつける先、マインドシェイカーはただ宿主に苦悶の表情を浮かばせたまま、そこに立っている。
 その背中から数本、触手を地面の中へと潜り込ませたまま。
「!?」
 低空飛行。地面との接触を避けユーヌが飛ぶ。追い縋る様に飛び出した触手を何とか躱すも、その表情は険しい。
(これを……一人で、か)
 兵士級を一体でも倒せば、仲間が更に戦列に加わってくれる手はずになっている。
 だが今の一合、たったそれだけの事で、彼女はそれが如何に無謀な挑戦であったのかを身を以て思い知っていた。

「祝福よ、あれ!」
 自らが目立つというリスクを負いながらも、小夜香は自らを発光させ、後方から戦場を照らし仲間を癒す事に専念していた。
 戦場を多少の俯瞰で眺める事が出来る彼女は、最前線。ユーヌの危機に気がつくと、回復を集中させる。
(どこか一点だけでも、打ち果たせれば!)
 そう祈っても、敵の攻撃により行動不能に陥る者がいる中、仲間達も事を簡単に進める事が出来ずにいる。
 じりじりとした焦りが、小夜香の心に影を落とした。
 雷音が鳴る。
 シェリーから、杏から放たれた一条の雷光が、戦場に拡散し駆け抜けた。
「……効きが良かったのはどこだ?」
「白髪イケメンと脱ぐと凄そうな子の前が感電してる」
「皆の者! 櫻霞とリリの前の敵に攻撃を集中させよ!」
 兎にも角にも、敵の数を減らさなければならない。少しでもダメージに差異があるなら優先するべき相手を絞っていく。
 その為に前衛に立つ者ですら、遠距離に攻撃する手段を揃えてきているのだから。
「――糸よ、微塵に引き裂け」
 櫻霞が射撃の合間に編み上げた気糸で、兵士級達の寄生先、人体の部分を絡め取り引き裂く。
 肉が爆ぜ本来なら血が飛び出す所を、替わりに吐き出したのはやや茶味のある液体。既に人体はその中身を変えられていた。
 直後、重圧を負ったはずのその体から変わらぬ速度で伸びた触手に、避ける間も無く絡め取られる。
 骨が軋み、引き千切られんばかりの力が込められ体の自由を奪われ、次の瞬間。

 あ、と。彼の口から微かに漏れる様な声が出た。

 絡め取られるまま、その身が引き寄せられるのをただぼやけた視界で見つめ、何もする事が出来ない。
「間に、合え!」
 事態に気づき相手取る敵の攻勢から直撃を避けつつ、葛葉が真空の刃を抜き打つ。
 放たれた空刃は気糸で傷を負った場所を深く切り裂き、更に多量の体液をぶちまけさせる。
 バランスを崩し、がくがくと体が揺れて、それでもまだ敵は倒れない。
 そこにもう一刃。同質の刃が届く。
「……ッ」
 放たれた二度目の、佳恋による空刃。それは今度こそ櫻霞の前の兵士級を撃破するに足るダメージを与え、それを討ち果たす。
 醜悪なクラゲの怪物はその身を破裂させ、遺された人だった物は世界との繋がりを失いそのまま消滅した。
 最悪の事態は乗り切った。そう二人が思った時、それは視界に現れた。

 ――『将軍級』マインドシェイカー。
 それは悠々と、身に負った傷を気にした風もなく、そこに立っていた。

●閃
 結果から言えば、ユーヌは支配はされなかった。しかし、守りきる事も出来なかった。
 回避に優れ、機動力に長け、更に敵を縛る術を心得ている彼女は確かに敵の足止めには有用だったかもしれない。
 しかし相手は長い触手を器用に操る怪物である。避け続けるのは困難を極めた。
 あと一人、事前に二人でブロックに当たっていれば。でなければ例えば葛葉や佳恋の様に、体力面に優れた者がブロックしていれば。
 足を止めての防衛、それも格上を長時間一人で相手にするのであれば、彼女には圧倒的にフィジカルが足りなかったのだ。
「………」
 地に叩きつけられ意識を失っているユーヌを背に、マインドシェイカーは櫻霞を前にする。
 頭部にある本体が蠢き、細長い管を露わにする。人体を侵し、支配し、いずれは自分達の仲間とする種を埋め込む管を。
 朦朧とし、抵抗する力を失った櫻霞には、そして、未だ眼前の敵を撃破出来ず動けないでいる前衛には、どうする事も出来ない。
 櫻霞に管を伸ばした、その時。
 白い翼が、咄嗟に割り込んだ。
 小夜香が前衛へと飛び込み、彼を庇ったのだ。
 誰かを護る。その意思を貫くべく、戦局を見つめ、敵の総大将を観察し続けた彼女だからこそ、この瞬間勝ち得た切り札の一手。
 だがそれは、同時に体力回復の要をリベリスタ達が失う事でもあった。
 彼女が庇う限り、それ以外の行動は許されない。事態はますます急を要する状況となる。
「皆! どうにか持ちこたえて!」
 一度だけ、そう決めてウェスティアが本業を外れ癒しの神秘を行使する。
 回復は依然必要とされる状況だが、それよりも敵を早急に倒す必要がある事を、彼女は強く理解していた。
 リベリスタ達は再び、今度はリリが対立している兵士級に狙いを集中させる。
 だが、始めから最大火力を駆使していた彼らには分かっていた。
 ここから更に一体敵を倒すには、少なくとも二度、攻撃を集中させる必要がある事を。
 そしてその間、敵は待ってはくれないのだと。

 リベリスタ達が攻撃を集中させる様に、敵もまた攻撃を集中させた。
 最も防御が脆く、そして彼らの弱点足り得る場所を。
「放し、な、さいっ!」
 小夜香の体に周囲の兵士級達が伸ばした触手が絡み付く。それは全身を這い回り、彼女の動きを拘束した。
 護りを得手としない彼女にとって、それを解く事はもはや不可能に近い。締め付けられ激痛が走った。
 辛うじて一度、意識を混濁させられる針は躱した。いや、外れてくれた。しかし二度目は無い。
「あっ……?」
 がくり、と。その四肢から力が抜ける。体に奔る痺れが彼女を支配し、視界がぼやけた。
 宿敵を前に、無防備を晒す。
 眼下に無力化された二つの体を見下ろし、クラゲの怪異は逡巡した。そして同時に気づいた。
「!?」
 自らに狙いを定めた、重ねられた二挺の拳銃の存在に。
「!?!?!?」
 弾き出された弾丸を身を捩って避け、マインドシェイカーは距離を取る。
 即座にその場に割って立つ様に、口元に張り付いた小石を拭い、櫻霞が起き上がった。
 エルヴィンの、回復が間に合ったのだ。
 直後、シェリーの雷撃にリリの前に立っていた兵士級が倒れ、自由を得た彼女は状況を見て、即座に櫻霞の隣に並ぶべく駆け出す。
 指揮官へのこれ以上の接敵を阻害しようと、海側に立つ兵士級が動く。が、そこに隙が生まれた。
「よそ見を許す程、甘くはありません!」
 佳恋が全力で踏み込み、腕を振るう。白刃が閃き、断つというよりも叩き潰すといった力で敵を討つ。
 振り抜かれるまま、兵士級はふらりとその体を自分の意志とは関係なく揺らす。それが合図となり、次に倒される者が決まった。
「この音は痺れるわよ?」
 けたたましく鳴り響く杏の魔音が一筋の雷光を呼び、拡散して戦場を疾走する。それは逃げ遅れた者を容赦なく貫き、言葉通りに痺れさせた。
「畳み掛けるよ!」
 ウェスティアが宣誓と共に指を噛み、血を滴らせる。それを強く振れば、跳ねる血液は長大な黒鎖となり稲妻の後を追い戦場に舞い踊り、怪異達を打ち払う。
 それがトドメとなり、今度は佳恋が自由の身となった。
 残るは半分。
 もはや悠長に支配をしている時間は無いと判断したのか、怪物達は全ての触手を解き放ち、物理的な攻勢へとその戦略を変える。
 まず狙われたのはもう一人の回復役であるエルヴィンだったが、苛烈な敵の攻勢にあって、彼のタフネスは後一歩で踏み止まる事に成功した。
 更に二度の攻撃に耐え、将軍級の一撃を受け倒されるまで、彼は敵の攻撃を一手に請け負ってみせる。その間に、仲間が動いた。
「随分と時間が掛かったが、次はお前だ」
 葛葉の氷を纏った二爪が容赦なく眼前の軟体を切り裂く。グジュリと軟体が潰れる時特有の異音が鳴った。
「逃がしはせんぞ?」
 続けざまに鳴る爆音。シェリーの狙い通りの地点で弾けた魔炎が、じりじりと移動していたマインドシェイカーの足を止めたのだ。
 爆炎の先には海を背にした佳恋が立ち、更に距離を詰める様にリリが前進していた。
「!?」
 退路はない。そう理解したのだろう。その瞬間マインドシェイカーは初めて、エリューションビーストたる己の獣性を曝け出した。

●決着
 手当たり次第に触手を伸ばし、暴れさせ、マインドシェイカーはリベリスタ達に襲い掛かる。
 回復役である小夜香やエルヴィンを欠いた状態での戦闘を強いられた彼らには、もはやそれと真っ向から当たる他手立てはない。
 迫り来る触手は隙あらば狙った獲物を絡め取り、締め潰そうとする。
「あれが、奴の本性か!」
 最後の兵士級にとどめを刺し、葛葉が叫ぶ。
 暴走する怪異は力任せに数多の腕を振るい、その力は倉庫の壁を大きく破壊し、崩れさせた。
「あんまり派手にやられると、いくら強い結界を張ってたとしてもいつまで持つか分かったもんじゃないわ!」
 注意を引き過ぎない様物陰を利用しつつ、杏が声を張る。
「これはプレゼントよ! 触手野郎!」
 彼女のかき鳴らした弦から現れる四色の光彩が、弾かれるままに敵を穿った。
 光線に身を焦がしながらも、己を突き動かす生存本能のまま、敵は猛然と海へと駆ける。それを真っ向から佳恋とリリが受け止め、全力で押し返す。
 蒼の軌跡が、死力を尽くして放った闘気の一撃が、マインドシェイカーを再び海から遠ざける。
 弾かれたその先では、追撃とばかりにシェリーの魔力弾が襲い掛かった。
「支配者気取りの獣よ。そろそろ観念して朽ち果てたらどうだ?」
「―――!!」
 シェリーの言葉が理解出来たかどうかは定かではない。だがその直後、触手は彼女を襲撃し、その体を絡め取り締め付けた。
 加えらえた力に吐血する。しかし、それでも彼女の闘志は消せなかった。
「人を支配したくば、己の魅力と器量でするものと心得よ」
 勝ち誇り、シェリーが嗤う。直後、彼女の意識は消し飛んだ。
 だが、敵の攻勢はそこまでだった。
「もう、怒ったんだからー!!」
 叫びと共に、ウェスティアが最大火力の黒鎖を解き放つ。魔力の鎖は主の敵を絡め取り、意趣を返すかの如くその身を縛った。
 そこに飛び込む、二爪と二挺。
「随分と、打撃が通り難そうな身体だが……ならばお前も凍らせ、その上から殴りつける!」
「……避けられなければ、死ぬのは貴様の方だ」
 閃拳が疾り、猛禽の双眸が正確に急所を射抜いた。
 それで敵は動かなくなった。

●勝利者達
 無事な者は誰一人として居なかった。
 あるいは倒れ、意識を失い、重傷を負った者も居た。
 だが、それでも。
「……目標は遠いな、まだまだ力不足だ」
「暫く、クラゲは要らんな」
「もう疲れた!」
「喉カラカラ、誰か奢って」
「「ええー」」
 彼らは戦いに勝利し、そこに立っていた。
 遠くで、貨物船の汽笛が鳴っていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
結果としては一人として支配される事なく、敵の殲滅も為し得ました。
しかしそこはフェーズ3、将軍級です。普通に戦っても強い。
パーティー構成の関係上プレイヤーの皆様は出来る限りの行動はとられたのではと思います。
その結果は、リプレイの通りです。
ミッションに成功したのは、間違いなく皆様の力です。

初のHARD依頼という事で中々四苦八苦した面もありますが、楽しんで戴けたなら幸いです。
それでは、クラゲって食べられるんだ!? と驚いたみちびきいなりでした。