●犬と 始めて出会った時、あの子は小さくて、死んでしまいそうだった。 ただただ震え続けるその子を舐めてあげたら、みぃ、と小さく鳴いたんだ。 その子に無かったのは、お日様の光。僕はこの子を守ってあげようと思った。 ―――でも。 ある日僕は怪我をした。人間の車にぶつかって、動けなくなってしまったんだ。 人間は僕を運んでくれたけど、僕はあの子を残しておけない。帰らなきゃ。 鍵を壊して、人間の手も振り解いて逃げてきたけど、もう、足が動かない。 あの子に美味しいものをあげなくちゃ。暖めてあげなくちゃ。僕が猫だったら、おかあさんになれたのかな。 嗚呼、でも、動けない。どうか―――誰か、あの子を たすけて。 ●ふたりの絆 「犬と猫は喧嘩する事が多いみたいだけど、仲良くなれるケースだって結構多い。今回はね、そんなふたりを助けて欲しい依頼だよ」 招いたリベリスタ達に、『あにまるまいすたー』ハル・U・柳木(nBNE000230)はゆっくりと言葉を紡いだ。 犬と猫。しかしリベリスタに課せられる依頼はやるせない頼み事も多い。身構えそうになるリベリスタ達に、ハルは「大丈夫」と肩を竦めた。 「今回はエリューションになってしまった犬や猫をどうにかする依頼じゃない。倒すのは、犬が生み出してしまった幻」 ハルは言う。 仲良しの犬と猫が居た。目の見えない猫を、犬はいつも助けてきた。 けれどある日怪我をして、猫を助けられなくなってしまった。 助けてくれた人間からも逃げ出して、でも身体は動かない。猫のあの子を助けたい、助けたいという想いが遂に、形を為した。 「それが今回の顛末」 モニターにはある町の地図が出された。地図に点在するポイントは各々ある程度離れている。 「今回はどう動くか、そこから君達に決めて貰いたいんだ」 見ればある道路脇の小さな細道、その先に小さな猫が震えていた。犬が倒れているのは道路に出て、真っ直ぐ東に進んだ、ずっと先。 「この猫が居るポイント。君達がどう動くのであれ、此処が幻と戦う場所になると思う。――説明に行くよ」 先ず、リベリスタ達が何も干渉しなかった場合、リベリスタ達が現場に着く時刻の少し後に西側から野良犬達がやって来る。彼らも同じく、腹を空かせた野良の生き物。猫を見つければ、当然牽制する。小さな猫は怯えてしまい、引いては人間達へも警戒心を強めてしまうだろう。 しかし猫が殺されてしまう事は無い。むしろ、野良犬達が殺されてしまう。 猫に襲い掛かる直前に幻の犬が到着して、野良犬達を喰い殺す。それから犬の幻はもう数体、望む幻を生み出して猫を護る態勢を整える。 「もし君達が野良犬を守るというのなら、恐らく幻の方に先手を取られてしまう。野良犬が殺されてしまうのを待つのなら、その時出来る隙を君達が突ける。……猫を守る為に細道に入った背後を取る事も出来るけど」 そして、もう1パターン。 ハルは猫のいる位置から東へとずっとポイントを動かしていき、止めた。 「道路のずっと東の先。……そこに犬、本体が倒れてる。犬の幻は此処から走ってきてる訳だから、此処から西へと走っていけば、もしかしたら幻に追いついて併走出来るかも知れない。幻は猫の居る位置まで決して止まらないけど、先手を取られる事も、野良犬が殺される事も無い」 大勢の人間がやってくるのを悟れば野良犬達は逃げていくだろう。しかしその前に一匹ぽっちの猫は野良犬の唸り声に晒される事となる。やはり猫に恐怖の記憶が残る。 「この条件の上で、どういう合流方法を取るかは君達に任せるよ。ただ、――これは唯、僕のお願いなんだけど」 ハルは息を吐いた。 モニターに映る、横たわる犬の姿。 餌を探して帰ろうとしたのか、ゴミ箱の隅に居る。雪に隠れてしまっているその姿は、言われなければ気付けない。 「余力があるのなら、彼を助けてあげて欲しい。今から急いで動物病院に連れて行けば助かるけど、幻を全部倒しきってから迎えに行っても、きっと犬はもう助からない」 そう、犬の命はもう僅かもない。 だからこそきっと犬は願った。その思念を実体化する程に、愛しい猫の子の事を。 助けてもエリューションの動向が変わる事はないし、一人の手を割く事になる。それでも、――出来るならば最高の結果を狙ってくれないかとハルは言って、眉を下げて笑った。 「君達が先ず為すのはこの世界の調和。だから無理にとは言わない。状況が厳しくなるかもしれない。それでも、……頼んだよ。 冬の日に消えていこうとする、犬の命と、猫の命、野良犬達の運命を」 ハルは小さくこうべを下げた。 ●、猫 おっきなあの犬は帰ってくるかな。 ううん、待ってないと、また「探したよ」って困った声でないちゃうから。 でも、そろそろ、寒いよ。おなかすいたよ。こわいよ。―――早く、ねえ、帰ってきて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:琉木 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月17日(日)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●走る、その手 リベリスタは戦う者、砕く者。 そしてその手は“誰か”を護るもの―― 「ヘヘッ、いい友情じゃねーか。事情を聞いちまったら意地でも助けたくなっちまうぜ!」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は走りながら思わず笑みを零した。 戦うとは誰かを倒す事、否定する事――だけではない。誰かを助ける事だって、出来るてのひら。 今日リベリスタが向かう先には四つの命があった。 犬と、猫と、野良犬二匹。 「わたし達が、たすける。君も、君の大事なネコちゃんも。そしてノラっ子も」 「勿論です」 『ムエタイ獣が如く滝沢 美虎(BNE003973)が零した言葉に『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は小さく頷いた。 走りながら掌を見る。 「全てを助ける。それが私の目指すリベリスタの道なのだから」 ――それに、最高の結末を望まれたのなら応じてこそ、でしょう? 犬達の命も、猫の未来もこの手で掴める。 「こういうのは久しぶりね」 『薄明』東雲 未明(BNE000340)も言う。向かってくるのは牙剥く犬。けれど幻。強い思いが起こした奇跡。その牙を止める事が出来たのなら、誰を傷つける事無く、全てが救える。 リベリスタ達が選んだのは、望んだのは、『最高のハッピーエンド』。 その為に只走る。野良犬だって、零さない。 「みんな、好きでおなかをすかせてるんじゃない。みんなみんな、助けられる。だからがんばる」 祈るような『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)の呟きに、『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)はその背に続いた。 (……自分が死にかけてるのに、他の命守りたいとか思うもんなのね。正直あたしには理解できないけど……) それでもいつも通りに斬り伏せるだけ。 自分は自分の、為すべきを。 ●野良犬、走る 遠く離れて倒れる犬を任されたのは『小さき梟』ステラ・ムゲット(BNE004112)。 切らしそうになる息の中、動物病院に電話をかける。倒れている犬が居る事、今から連れて行く事。 確かにそんな犬が居なくなったと向こうから返答が帰ると同時にステラは早々に電話を切った。走る事、助ける事を優先するなら、これ以上の会話は必要ない。 見つけた犬の姿は雪の下で、ぴくりとも動かなかった。 「頑張って、生きて」 この場に居ないリベリスタ達全員の願いを言えば、犬はひくりと耳を動かした気がする。 けれど油断は出来ない。雪を払い、少しでも暖をとカイロとコートに犬を包む。 ――あのこに ごはん、 犬がそう言った気がした。けれど、見ても動かないから気のせいかも知れない。ステラは告げる。 「子猫の事は私たちが守るから。心配しないで」 犬は応えないまま、ステラは走る。 護るのはまだ足りない。 ――誰? 知らない声が、匂いがたくさん。怖い。 (大丈夫。怖がらないで) みぃっと鳴く猫に話しかけたのはルー・ガルー(BNE003931)。その光景は端から見ればガウガウ、ニャーと言い合っているようにしか見えないものの、普段カタコトのルーの言葉は流麗に、優しく子猫に伝えられていった。 お腹が空いているだろうその猫に、そっとミルクも差し出せば、猫は怖々鼻を近づける。 「こっちの方向から来るはずだけど……」 未明が耳を澄ますものの、来るはずの野良犬の到着が遅い。代わりに息を切らして走ってきたのはヘキサの姿。 「遅くなった! 向こうにペットフード置いてきたんだ。猫にも……これ、な!」 雪の降る中、息を弾ませる人間から“何か”が猫に被された。 猫の目は光が無く、だからそれが何だか解らない。けれど、あったかいのだけは、理解出来た。 「もう安心していいぜ。それ、オレのマフラーだ。オレの体温の分あったけーだろ? お前にやるよ」 本当は撫でて警戒を解いてあげたいが、時間が無い。 ヘキサのペットフードを食べているのか、野良犬の姿はまだ見えないが、間もなく西から猫を守るべく牙が来る。 「……あ、」 ミリィが西を向いた。――強い思いが、来る。 「皆さん、そろそ……えっ?」 重なったのは西と東の足音。ペットフードに味を占めたのか、『餌をくれる人間』が居ると思ったのか、野良犬が少し遅れてやってきていた。 「へーい、待った! 悪いようにはしないから、向こう行っててよっ……て話かけてもが通じないよねー。まずは全部倒してから、かな?」 二匹の野良犬がリベリスタ達を見て足を止めたと同時、美虎が追い払う仕草をした。所で、 「――オォォォン!」 「くっ……!」 走ってきた一回り大きな犬は、相手がリベリスタだろうと、野良犬だろうと、躊躇わずに飛びかかりその牙を振り下ろす。それは深々と未明の腕に食い込まれた。 でも、このくらいの痛みは全然構わない。 「早く! 離れてください!」 ルーのように会話は出来なくても、皆それぞれに戸惑う野良犬に声をかける。ミリィが野良犬に振り仰いだ。 「ガウ!」 幻に向けてその爪を薙いだルーは、野良犬へと逆に吠え掛かっていた。その意味は、警告。 ぎらりと光るその爪を見せびらかされ、ヒャンと鳴いて尻尾を丸めるその野良犬に、ひよりは慌てて振り返る。ぱっと放られたのは犬用ジャーキー。 「後でたくさんあげるから、待って。隠れてて」 「ペットフードもたくさんやるぜ。近くで待ってろよ!」 野良犬の命だけでは無く、犬生も助けたいから。ひよりとヘキサはビクついた野良犬達に離れすぎないようにと声をかける。 やってきてしまったのは一手を許す羽目になったが、失態では無い。つられて来なかったならば、きっと、野良犬はこの先も餌を求めて二人ぽっちで彷徨う事になっていたのだろうから。 だから来てしまったのは、きっと、間違いでは無い筈。 「グルルルル……」 幻は唸っていた。 幻は幻。思考が固定され、役割を遂行する。だから考えない。 猫が居る細道の前に立ちはだかったリベリスタ達に、彼らが何をしているのか考えもせず幻の鼻面は向けられた。 伸ばした未明の腕に食い付いた熱い血潮は、現実の証。思いの強さ。 「それなら……いつも通り、やらせてもらうわよ……」 護る戦いを告げる匂いに、闇紅は小太刀を手に立ちはだかった。 ●猫のこえ あのこが震えてしまうから、暖かい毛皮を。 あのこのお腹が空かないように、よく効く鼻を。 あのこに居なかった、おかあさんを。 ぼくは、あのこをまもる きば。 「色んな事を考えたのね。その子の為に、こうだったらいいのにと」 それが結果としてリベリスタ達を呼んだのなら応えたい。未明は咬まれた腕を擦りながら見つめた。 暖かい毛皮も、おいしいご飯も、新しい家族も、用意してあげられる。 「さぁ、久しぶりに気持ちよく終われるよう頑張りましょ」 全てを護るために一手を牙に許したリベリスタ達に降りかかったのはふわふわとした甘い温もり。 包まれるような優しい感覚に、その手が鈍ってしまう。痛みでは無く温もり。そんな不思議な感覚を身に受けながら、ヘキサはくっと喉奥で笑う。 「犬ッコロ……お前のコイツを守りたい気持ち、痛ェほど伝わったぜ」 目の前でドルルルと唸る犬の幻は、躊躇いすら無い。 ヘキサはその場で砂を蹴ると高く跳ねた。うん、良い。速さも跳躍も全て順調、自分らしく。 「だからコイツは絶対ェ助ける!」 それはまるで序曲のように勇ましく、戦場を奏でられる。 「勇ましいですね。さて、野良犬さん達は逃げたでしょうか」 ミリィが両腕を広げる。その手に持つのはうたわれないもの、アンサング。その指揮棒、その旋律は今日、誰の為。 ミリィは小さく笑う。 「あの子も彼も、野良犬達も全てを助ける為に」 まるでシンバルが鳴らされるように炸裂した光のつぶて。 きらきら光る閃光に、猫の姿と鼻面の伸びた犬の姿が怯んだのが見える。一手は上々、次は影に潜むような低く支える闇紅の音。 と、っと蹴った音を立てた時にはその姿は閃光に痺れた母猫を斬り裂いていて。生き物では無い、血も出ない、悲鳴も上げない相手に牽制するだけなのはどうもなれないけれど、闇紅は小太刀を構える。 「―――」 「無理しなくっていいんだよ!」 母猫の声が詰まったのを見て美虎が自分の拳を重ねた。ぴっとその拳を突きつけて、聞こえないかぁと笑う表情に曇りは無い。 幻が猫を守る全てなら、リベリスタ達は全てを護る担い手なのだから、お互い全てがぶつかり合うだけ。 「ガウゥ!」 間髪入れず、ルーの氷化したアイスネイルが毛皮の中へと突き刺された。 暖かい毛布を殴るような感覚に、ぴきぴきと冷気を流し込む。 未明はその隙にそっと後ろを振り返った。野良犬は逃げただろうか。野良犬は―――視界範囲内に居た。けれど、近付かない。ならば、大丈夫。守れる。 「余計な混乱は招きたくないけど、……どうかしら」 向き直り様、未明のバスタードソードは母猫を強襲する。ふらふらと足をもたつかせる母猫に、ひよりの手は届かない。 ひよりの手は、敵では無く仲間達へ。 柔らかい毛皮に包まれて鈍った美虎とヘキサ、ルーを包み込む自分が口にするのは、『救いたいから、傷付いてほしい』。そういう事だと戒めながら、それでも、感謝を。癒やしを。 「みんな、がんばろう」 仲間達の力強さが、ひよりに頷かれた。 「行かなければならないんです。それまでお願いします」 ステラがそう言って置いていったのは学生証だった。誠意というのは人に伝わるもの。ステラを引き留める声はしなかった。だから時間を惜しんでステラは走って行ける。 雪は降り続けていても、コートは無くても、奔走するこの身は寒くない。 「ステラさん! 彼は無事ですか!?」 西から走り、灰色がかった翼を広げて犬達の頭上を飛び越えるステラに、ミリィは叫ぶ。AFは常に繋がるようにはしていたけれど、最低限の事柄のみ優先したステラから無かった連絡。 ひよりの隣に降り立ったステラは軽く息を整えながら、確かに頷いた。 「へへ、なら……いつものフレーズいくぜェ! 走って、跳んでェ! 蹴ッッッ飛ばすッ!!」 ヘキサの脚は空を蹴る。けれどそれは空振りでは無く、火炎を撒き散らしながら純白に輝くウサギの大牙。それが翻る度に振りまかれるのは雪をも凌ぐ白い閃光。 「ググ、グゥ……!」 犬の牙は動く事が出来ない。その精度にヘキサは「ッし!」と拳を持って両腕を振り下ろす。 「やるじゃん、ヘキサー! わたしも行くよ、とらぁ……でぃすとらくちょんっ!!」 ガガンっと降り注ぐ美虎の電撃の舞い。 動けない毛皮と共に、ギリギリと鼻面を向けるのが精一杯の犬の牙。 前線を担う美虎、ヘキサ、ルーが苦戦するならば前に出るつもりだった闇紅は溜息する。どうやらこのまま、牽制役で終わりそうだ。かといって気を抜く事は出来ないけれど―― 「こっちにくるのね」 後ろの長い鼻面が辺りを探っているのを見て、闇虎はそれに小太刀を当てた。即座に自分にその鼻先が向いたのが見える。 ひよりはもう一度後ろを確認する。 闇紅がそうして気を引いてくれるから、犬の牙は自分達へ来ない。野良犬達も傷つけない。 パン、っと、硝子が割れるような音が響いた。 見ればルーの爪が毛皮を砕く。氷らせて、凍らせて、粉雪のように毛皮が舞う。その姿は親の覚悟を持った、獣のよう。 ――再度、閃光。 度重なる光の交わりはウサギの脚とうたわない指揮棒の乱舞。 直撃を避けた鼻面がガリガリとその二人を削って返すのを見ればひよりが歌う。 もう一度、探るように鼻面を向けた牙を受け止めて、未明は呟いた。真っ二つにするのは気が引けるけれど、 「ごはんね。もう、安心していいわよ」 斬り抜けたバスタードソード。 未明には、消え行く餌を探すその姿が、不思議そうに自分を見ていた――そんな気がした。 「ガァッ!」 牙が自分を縛る不自由を振り解く。 細路地へ、一歩。 どこまでも純粋な犬の思い。牙を剥きだしたその顎を、美虎が悪魔喰らいの掌打を以て突き抜けた。 「まだまだ、とらあっぷぁー! 見たか、奮える魂の一撃……おわぁっ!」 返す顎が頭突きとなり、足を踏ん張りながらも吹き飛ばされる美虎はしっかりと未明に支えられた。 「大丈夫?」 「だいじょーぶ! あとちょっと、がんばろーね!」 ぴょんっと未明の腕を抜け出せば、美虎はぱっと戦線に駆けて、追い縋ろうと跳躍した牙を束ねたステラの気糸。 纏めて毛皮も縛り付ければ、こくりと静かに頷く事で仲間を促して、闇紅が斬る。ヘキサが蹴る。ルーが爪で薙いで、ミリィが苛烈な金の瞳で射抜けども、犬は舌も出さず立ち続ける。 いっそ清々しい程の犬の決意を見せられて、こんな場面でリベリスタ達は笑ってしまう。 「もう大丈夫なの。お友達も、みんなも」 幻では無くて、現実での君を助けるから。ひよりが思わずぽつりと零した、そんな言葉。 「打倒しましょう、助ける為に!」 ミリィの指揮に、熱く吠えるヘキサの蹴る脚が、毛布のような姿を冬の空に掻き消した。純白の機械脚甲にその光が跳ね返って、少し眩しい。 まるで、優しさの名残雪。 「へへ」 ヘキサは一人また小さく笑う。 「ガァァ!」 その声で我に返れば、牙とルーが吠え合っていた。野生の獣が叱るように、対して純粋な気持ちが声となって止められないように。 「ルー、親みたいだね!」 「ガウ! オヤコ、ナルカラ!」 首根っこを爪が掠め、顔を上げた牙の前には、虎の拳が在った。 「ワンちゃんもネコちゃんも助けずしてなんとするっ! がおがおーん!!」 「おお、スゲー!」 ヘキサが、リベリスタ達が見上げたのは、美虎にアッパーされて宙に舞った犬の姿だった。 その幻の視線は最後まで猫の路地を見つめていたのを、リベリスタ達は知っている。 きらきらひかる、犬の牙が、冬の空に消えていく――。 ●きみのこえ 「早く、早くっ!」 幻が消え去る余韻もそこそこに、美虎は真っ先に細道へと走って行く。ヘキサのマフラーに包まれて、それでも聞こえる物音に不安そうにしていた小さな猫。 びくっと身を強ばらせる子猫に触れるのは、優しい掌。 「頼まれたのよ、助けてくれって」 言葉は伝わらなくとも、温もりから伝わる気持ち。未明が視線を送ればステラが歩み出た。その胸には犬の匂い。猫が匂いを嗅いでくる。音と匂いだけの世界に住む猫は、にゃあと鳴いた。 『あいたい。このひとはどこ?』 リベリスタ達は走り出す。午後の動物病院に駆け込めば、誰より先にステラが受付へと身を乗り出した。 「先程連れてきた、あの犬は?」 犬と一緒に置いてきた学生証が示すその姿に、女性は小さく笑って案内する。 犬は布団を掛けられ、点滴を打たれながら眠り続けていた。その目は開かなくても、胸が小さく上下するのが見える。 ――生きてる。 「にゃー!」 「わっ」 小さな猫が飛び出した。 だいすきな、あのひとの におい! 床に落ちてしまいそうな小さな姿を、ミリィがぱっと抱き留める。 「こっちです。もう大丈夫ですよ」 犬の腹に潜り込んで、擦り寄って、小さな声は必死で訴える。リベリスタ達と同じ。 いきて、いきて――! 犬は、 「………、」 くふん、と小さく、確かに一度鼻を鳴らした。そのまままたすぐに眠ってしまったけれど――生きてる。 「この子達は野良かね?」 獣医の言葉に、ルーがばっと手を挙げた。 「ルー、ヒキトル! イヌ、ネコ、オヤコ、ナレル!」 ルーのその寒々しい服装に一瞬目を丸くした獣医だったが、ルーは人よりも獣のような確りとした意思を獣医に向けていた。 群、そして家族になる。大切なのは種族でもなく、血の繋がりでもなく、心の繋がり。 「ルーが引き取ってくれるなら、誰か知らない人に預けるよりずっと安心だね! あ、先生! この子の目も見てあげて!」 美虎が犬の下に潜り込んでしまった猫を指す。獣医が引っ張り出そうとするも、踏ん張っているようで、思わず美虎は笑ってしまった。 (この先、この子たちが幸せになりますように) 闇紅はその誰にも触れず、隅からそっとその様子を見ていた。 生きていようが死んでいようが、闇紅にはどうでもいい。けれど、確認だけはその目で見届ける。 生きているのは、犬も、猫も、そしてもう二匹も。 「ひよりが保護すんのか?」 ヘキサがまだ耳をしょぼくれさせている二匹の野良犬を撫でながら言った。その割りに差し出すペットフードはぺろりと平らげてしまって、げふっと満足そうに鼻を舐めている。 「うん。わたしが一度引き取って、それから里親を探すの」 そっか、とヘキサは笑った。幸せに暮らせよ、と撫でられた野良犬は、戸惑いながらヘキサに顔を近づけた。今、精一杯の恩返しは、鼻先をヘキサにくっつけた事。 後日、まんじゅうともなかという名前の案が出ていた二匹に、もう二つの案が加えられた。 この頼み事をしたフォーチュナに、ひよりが頼んだ彼らの名前は、子守歌に護られた二つの犬生を示すもの。 フォルテ、強く。 ドルチェ、甘く柔らかく。 きっと野良犬二匹にも新しい犬生が迎えられますように。 みんなみんな、幸せになれますように。 ―――リベリスタ達が望んで掴んだ、これがハッピーエンドの、一つのお話し。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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