●真冬の胆試し 坂の多い閑静な高級住宅街に、その館はあった。 朽ちた石塀に囲まれた細い坂道を上っていくと、鬱蒼とした雑木林を背に、古い洋館が現れる。人の手が入らなくなって久しいその壁には蔦が這い、飾り格子の嵌め込まれた窓は、黒く汚れて中が見えない。 近隣に住む少年少女たちから“心霊スポット”と囁かれる荒れ果てた洋館の庭に、3人の子供の姿があった。 「おにいちゃん、よそのおうちのおにわに入っちゃだめって、おかあさんがゆってたよ! もう帰ろうよお」 「じゃあお前は付いてこなければいいだろ。やっちゃん、行こうぜ」 「おう」 重厚な木の扉に鍵はかかっておらず、侵入は容易だった。玄関ホールは、日が傾きかけたばかりの時刻でも仄暗い。纏いつく幼い妹を振りきるように、少年は足早に屋敷の中へと歩みを進める。 「まって、まってよお! おにいちゃん!」 「ゆうた、ひなちゃん置いていっていいのかよ?」 「いいよ、ほっとけばそのうち帰るから」 懐中電灯を片手にふざけ合いながら歩き回り――どれくらい経っただろうか。 「きゃああああああああああああああああああ!!!」 ふいに遠くから響いた少女の金切り声。 「――ひな?」 「おいゆうた……なんか、やばくね?」 少年たちは何かに弾かれたかのように走り出す。玄関ホール、廊下、食堂、サンルーム、居間……どこにも幼い少女の姿はない。 「ひな! ひなーー!」 そのとき、ごとり。と、何かが床に落ちる音がした。 見ればそこには、色褪せた絨毯に散らばる黒い髪。小さな、人間の頭部のようなもの。 乱れた髪の間から覗くのは、無表情の真白い顔。 「な、なんだよ、人形かよ、びっくりさせるなって……」 顔を引き攣らせながら少年が友人のほうを振り向くと――――目の前には友人の足が、だらりと、宙に浮かんでいた。 「……っぐ……がっ……」 床に転がる日本人形の首から、長い、長い黒髪が伸び、友人の首を締めながら、居間のシャンデリアへと吊り上げていく。 「うわあああああ! やっちゃん! やっちゃん!」 友人に駆け寄ろうとした少年は、しかし勢いの付いたまま、床に倒れこむ。恐る恐る、自分の足下に視線を落とすと、そこにも人形の黒髪が、びっしりと絡みついていた。 ●館へのいざない 「エリューションゴーレム、だよ」 アーク本部、ブリーフィングルーム。集まったリベリスタたちに、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が静かに語る。 「フェーズは2。髪を自在に操る、強い力で首を折られたような日本人形の頭部と……それとは別に、首のない体だけのE・ゴーレムも居るみたい」 無意識にか、うさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、イヴはリベリスタたちに色の異なる双眸を向けた。 「厄介なのが、人形が知性と、意思のようなものを持っていること。大勢で一緒にいると、不利を悟って、出てこないの。何人かに分かれての行動が必要になる、かも」 一部のリベリスタの背を汗がつたう。それは要するに、自分たちも強制的に胆試し状態に置かれるということではないだろうか。 だが、放っておけば、男の子たちは縊死、女の子は連れて行かれた隠し部屋で衰弱死してしまうと告げられれば、リベリスタたちの為すべきことは決まっていた。 「今から行けば、子供たちが胆試しに来る、前日の夜に到着できる。……これから胆試しに訪れる、不特定多数の人たちの被害を防ぐためにも、E・ゴーレムを全て破壊してほしい」 ――お願い。イヴはそう言うと、リベリスタたちにぴょこりと頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:鳥栖 京子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月21日(月)23:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●23時40分 地下室・厨房 しん、と静まりかえる古びた洋館の内部。淀んだ冷たい空気に、饐えた埃のにおい。高い天井に、足音も吸い込まれていくようだ。そこここにわだかまる濃い闇を、懐中電灯の光の筋が照らした。 「あー寒い……こんな時期に胆試しなんて、酔狂としか思えねーですよ」 「ガウ?」 赤いシスター服に羽織った外套の襟をかき合わせる『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)を、獣のように四つ足で歩きながら床の強度を調べていたルー・ガルー(BNE003931)がきょとんと見上げる。 この夜、最初に館に足を踏み入れた4人の少女は、この館に巣くうE・ゴーレムを倒すべく集ったリベリスタたちの探索班だった。敵の現れない安全な人数で、先に館中の下見とマッピングをしておこうという意図である。 端から見れば、10代の少女4人組。不気味な夜の洋館で、通例ならば“女3人寄れば姦しい”のさらに上をいくところだろうが――彼女たちは冷静・平然・ナニソレ?状態。眉一つ動かさず、淡々と、着実に作業を進めていく。その作業の速さをもってしても、使用人も置いていたほどの屋敷の中は広大かつ入り組んでおり、マッピングにはかなりの時間を要した。 ひとつの部屋が複数の部屋や廊下とつながり、闇の中で視界は想像以上に悪い。地図がなければ、班分けした仲間同士が合流することは困難を極めただろう。作業を始めてほどなく、彼女たちは下見という判断が正しかったことを確信している。 「ガゥガゥ、ココ、ヨワイ」 ルーがたしたしと示す床の腐食した部分に、『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)がチョークで印を書き込む。風情を損なわぬように、子供の遊びは怪我の無いように。後から来る仲間と子供たちへの優しい配慮。 「それにしても、幽霊の正体がE・ゴーレムだなんて……興醒めもいいところね」 背筋をすっと伸ばして優雅に立ち上がると、淑子は別の部屋――使用人の私室のようだった――との位置関係と、おおよその広さを簡易地図に書き込んでいく。 「今、地下室も全て回り終えたところだ。これから戻る」 外にいる仲間と連絡を取りながら、『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は、辺りの様子にうんざりした表情を禁じえなかった。 暗視能力を持つ彼女には、全てを覆い隠す闇も意味を成さない。E・ゴーレムが現れる前にここを訪れた一般人の仕業であろう、煤けた漆喰の壁にはスプレーの落書き、硝子の割れた食器棚、調理台の隅には酒の空瓶。この屋敷はどれほどの間、放置され続けてきたのか。 ●24時05分 洋館前・庭 探索班が持ちかえった情報と、梶原 セレナ(BNE004215)が屋敷の外周を回って調べた情報を併せ、リベリスタたちは簡易地図を完成させた。不自然な空白部分から隠し部屋にアタリをつけようと試みたが、正確な測量をした訳ではないため、該当箇所は複数に登る。 セレナは明敏さを発揮し、各部屋の名称と、先行班の歩くルートもあらかじめ決めることにした。これで仲間との合流は、ますます容易になるはずである。 淑子は用意した方眼ノートで手早く写しを作成し、仲間に手渡していく。 「連絡を円滑にするために、部屋の名称とルートだけでも各自暗記してしまいましょう」 「え゛」 「ルー、ムズカシイノ、ワカンナイ」 淑子の言葉に一部の仲間が抗議の表情を浮かべたが、彼女は薔薇色の瞳を細め、花のつぼみが綻ぶようにふわりと微笑む。 「5分でいいかしら?」 有無を言わさぬ可憐な笑顔だった。 それと同じ頃、シェリーのAFにアークからの連絡が入っている。この屋敷の見取り図を手に入れるようアークに要請していたのだが、回答は以下の通りだった。 《遡ることが可能な限り、この土地はずっと蜂夜(みつや)家という個人の所有であり、過去に不動産が売りに出た記録もない。よって、見取り図の手配は不可能であった》 「全く……使えんな」 「こんな一等地を遊ばせているなんて、お金持ちもいるんですね」 この辺りの地価から、だいたい評価額はこれくらい……セレナはたわむれに頭の中で固定資産税を計算してみて、溜息をつきたくなる。 女性陣から少し離れた風下で煙草を吸っていた『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が、腕時計をちらと見て告げた。5分、経ったようだ。 「――では、そろそろ行くとしようか」 ●24時35分 地下室・廊下 「私は殴れるおばけなら怖くないのよ! ほんとにぜんっぜん、怖くないんだから!」 「でもこの雰囲気、いかにも出そうですよね~……ひゃあっ!?」 「キャーー!!?」 「……あ、自分の影でした」 「お、おどかさないでよ!!」 『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)・セレナ・零二からなる先行班は、先に決めていたルートに沿って屋敷1Fを巡り終え、地下室の廊下を歩いているところである。 焔に暗視能力もあり、AFで常に仲間と連絡を取り合っているとはいえ……先ほどの4人班と違い、いつ敵の急襲に合うとも知れない。緊張感が増すのも、無理からぬことだろう。 廊下の行き止まりに達し、折り返そうとした、そのとき。最初に “異変”に気付いたのは、やや挙動不審に辺りを見回し続けていた焔だった。 ――――ぎ。ぎぃ。ぎぃ。ぎ。 気をつけていなければ聞き逃すほどの、小さな音。不規則な、小さな足音が、近付いてくる。 闇の中を手探りするかのように、さしのべられた白い両手。ぎこちなく体を揺らしながら歩いてくるのは、からくり仕掛けのような日本人形。その体には、首が、ない。 「キャーーー!! でたーーーー!!!」 「……オレはキミにいつか殴られそうなことのほうが余程怖いが」 焔が条件反射で繰り出した拳を、すんでのところで受け止めた(本日4回目)零二のコメントである。 セレナは素早くディフェンサードクトリンを発動させると、AF通信で仲間全員に告げる。 「こちら先行班、『体』と遭遇しました! 位置は地下室、私室B前の廊下です!」 ●24時35分(同時刻) 1F・使用人用階段前 その頃、仲間たちのいる場所からひとり離れ、小さなフライエンジェの少女が歩いていた。囮役を担う『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)である。 前方の暗闇を、焔に借りたハンズフリーライトで照らしながらとてとて歩く。敵を誘い出す意味もあり、無警戒を装う彼女は、気付いていなかった。 ――背後に続くはずの、通ってきた道を示すための小麦粉の跡が……いつのまにか拭いとられ、消えていくことに。 「人形さんは意思をもっておられるそうですが……なぜ女性がひとりでいると、どこかに連れ去ろうとなさるのでしょう?」 とてとてとて。角を曲がろうとした、刹那。 突如闇の中から飛び出した黒い何かが、心の顔に絡みつき口を塞いだ。 「(むぐーーっ!?)」 ひやりと冷たく、もぞもぞ蠢く感触。引きはがそうと抵抗しながら、目線でその黒いものの出所を追うと…………高い天井に、蜘蛛の巣のようにびっしりと張り巡らされた、黒い髪。 長い、長い、その黒髪のまんなかに、白い無表情の首がぽかりと浮かび、心のことをじっと見ていた。――――目が、合った。そう思った瞬間、蜘蛛が糸を伝うかのように、その白い顔がするすると、心に向かって降りてくる。 「(もぎゃーーーーー!!?)」 ポッケにいれたAFから仲間の声がする。連絡をせねばと思うが声が出ない。いつの間にか腕にも、足にも、黒髪が絡みついている。 重い鎧を身につけた少女を、『人形』は髪で幾重にもくるみ、軽々と運び去った。やさしく丁重に。とても大切なものを、そっと、運ぶかのように。 ●24時40分 1F~地下室・主人用階段 地下へと続く暗い階段を駆け下りる、4つの影。セレナからの通信を受け、現場へと急行する探索班の少女たちだった。 「(お父様、お母様。どうかわたしを護って)」 最短ルートも頭に入っており、腰に電灯を下げた淑子の足どりに迷いはない。 「いたぞ、彼処だ!」 先頭を行くシェリーの示す先に、戦闘中の先行班の姿があった。 近づく複数の足音と光に、『体』は逃げようと向きを変えるが、そこを焔がすかさずブロックする。挟み込むよう反対側へ回る零二。どう足掻いても逃げられそうにないことを悟ると……人形はその小さな体からは想像もつかない強い力で、ぎりぎりぎり、と焔の足にしがみついた。 「い、いやーーーっ!!」 振り下ろされる渾身の一撃。殴り飛ばされ、横様に吹っ飛ぶ『体』に、たたみかけるように魔氷を宿す拳が見舞われる。 「グルルルッ、オイツメル!」 「ルーさん! ――ここからが本番、ですね」 仲間の合流を機に、防御に徹していた先行班も攻撃に転じた。セレナの射た矢と海依音の魔法の矢が続けざまに人形を貫き、それを零二のナイフの一閃が切り裂く。軌道を変えながら迫る魔力弾が直撃し、傾いだ『体』を淑子の斧が床に叩き伏せた。 「ふん、他愛もない」 動かなくなった人形を見下ろすシェリー。 まずは、一体。リベリスタたちがほっとしたのもつかの間――AFに心からの通信が入っていることに、海依音が気付く。 「姫宮君? なにかあったですか!?」 《それがその、どうやら“隠し部屋”に連れてこられてしまったようなのデス……》 「どこにいるの、心!?」 《目隠しをされていたもので、よくわからないのですが……ってふぎゃーーーーー!!!?》 AFからと同時に、館内のどこかから心の絶叫が響いた。 「コエ、キコエタ、ウエ!」 「すぐ行くわ、それまで持ち堪えて!」 声のした方を目指し、リベリスタたちは全速力で駆け出す。 ●24時45分 1F~2F・主人用階段 背筋の凍る思いをしながら階段を駆け上がるリベリスタたちに、AFから通信が入った。 《びっくりした……びっくりしましたのデス!!》 仲間の無事に、胸をなで下ろす一同。 「姫宮君、今行きますから、大声を出してくださいですよ!」 《わーー!! きゃーー!! ここなのデスーー!!》 心の声は、子供部屋のほうから聞こえる。下見のときにひととおりの確認はしていたが、特に怪しいところは発見できなかった場所である。 扉を開けると、花模様の壁紙、やや黄ばんだ白い家具。部屋のそちこちに散らばる壊れた玩具、腕のちぎれたぬいぐるみ、首と胴の離れた何体もの人形……。これをしたのは胆試しに来た一般人か『人形』か、あるいは――ここに暮らしていた子供か。 小麦粉の跡は拭いとられていたが、暗視をもつ焔とシェリーの目は誤魔化しきれない。絨毯の上のわずかな痕跡が、壁の豪奢な装飾をされた大鏡に続いている。 「こういう七面倒くさいのは、とりあえず殴っとけばいいのよ!」 焔の乙女の拳が鏡の装飾部分を仕掛けごと破壊すると、鏡と壁に隙間が生じた。隠し扉を開け、仲間たちは秘密の部屋へと突入する。 ●24時47分 2F・隠し部屋 そこそこの広さをもつ隠し部屋の中には、どんよりと重い闇が垂れ込めている。中央に、天蓋付きの大きなベッド。そこに、黒い髪に縛り付けられた心がいた。 「姫宮! 無事か!」 シェリーが心に駆け寄りながら周囲を見渡すが、E・ゴーレムはもはやここにはいないようだ。淑子が斧を振り下ろし、少女を拘束する黒髪を断ち切る。 「ご心配おかけして申し訳ありません、危害は全く加えられていませんのデス。ちょっと、びっくりはしましたけど……」 「……っ!」 心の視線を追った焔は、息を呑んだ。自分たちを取り囲み、無言のまま見つめる、いくつもの眼球。窓や家具のない部分の壁すべてに、ぎっしりと並べられた首、首、首、首首首首首―――― それはE・ゴーレム同様、首を折られた人形たちだった。何かに強く打ち付けられたのか、顔の一部が陥没したもの。黒く焼け焦げたもの。刃物で切りつけられた跡を持つものもある。 「……クソみたいな悪趣味をしてやがりますね」 言い捨てる海依音。セレナも思わず、手で口許を覆う。とても、怖いと思う。異様な光景もさることながら……愛玩されることを目的に、人に似せて作られたものたちを、こんなふうに痛めつける人物の心が、怖い。 「――ともかく、姫宮さんが無事でよかったわ。この部屋のことも気になるけれど、詳しい調査はE・ゴーレムを全て倒してからにしましょう」 淑子に促された一同が鏡の隠し扉を抜け、子供部屋から出ようと出入り口へ向かうと……一足早く隠し部屋を離れた零二が、廊下への扉を塞ぐように立っている。 「皆に言っておきたいことがあるんだが」 尋常ではないほど捨て目が利く男が、静かに告げた。 「……先ほどオレたちがこの部屋に入ってきた時と比べて、人形が一体、増えている」 その言葉の意味するところを瞬時に察し、陣形をとって武器を構えるリベリスタたち。 「あいつだ」 零二が指さした先、作業灯の光に照らす床の上に、何体かの人形が折り重なって積まれている。無機質な沈黙を続ける人形、その内の首の一つが、突然カタ、カタカタカタと動き出した。 ●24時50分 2F・子供部屋 おかっぱ頭だった人形の髪は見る間に波打ちながら伸び、部屋中に黒い水が溢れるかのごとく広がっていく。 「人形が人を人形のように扱うなど。破壊してくれる」 シェリーの足下に複数の魔方陣が浮かび上がり、解放された魔力がうねりとなって空気を振るわせる。 『首』から縋るように伸ばされた黒髪を、心は盾で受け止め凌いだ。メンバー中随一の防御力を誇る心に、ダメージは全く与えられない。 「こんどは私が皆さんを守る番なのデス!」 「ナンデノビル?フシギ!」 おもしろがるような表情を浮かべたルーは、驚異的なバランス感覚で部屋に張り巡らされた髪の上を走って近接すると、冷気を纏う拳で人形をしたたかに殴りつけた。 セレナの戦闘支援の下、零二の淀みない連続攻撃と焔の炎をはらむ一撃が『首』を追い詰め、そこに淑子が斧を叩きつける。 「セカイを壊すE・ゴーレムは昇天しやがれですよ!」 海依音が放った聖なる光で、部屋から一瞬闇が拭いとられた。間髪を入れず、荒れ狂う雷の白光が『首』を貫く。圧倒的な破壊力を持つシェリーの攻撃に、人形は長い髪を振り乱しながら何度かのたうった。 8人に取り囲まれては、もはや不意打ちを得意とする『首』に勝ち目はない。それでも抵抗をやめずに海依音に向かって鞭のようにふるった黒髪の一撃も、心が間に入り受け止める。その後もたゆまなく続く、リベリスタたちの連携攻撃。 「此処にはもう、誰も帰ってこないから……だから、おやすみ」 「これで終わりよ!」 焔の業炎を帯びた腕が人形を薙ぎ払うと、部屋中で蠢いていた黒い髪は徐々に力を失い、床にだらりと散らばる。E・ゴーレムは、ただの人形に還ったのだった。 ●01時00分 2F・隠し部屋 E・ゴーレムの脅威が去り、館は凝ったような闇の中で、眠ったように静まりかえる。 「これは家紋……いえ、紋章かしら」 「ガル??」 隠し部屋を探索していた淑子が、蜂が2匹並ぶ紋章の入った陶器の破片を拾い上げた。セレナも同じ紋章を暖炉の意匠に見つけている。 闇を見通すシェリーの目線の先には、この部屋唯一の小さな窓。蜂の巣を連想させる、六角形を連ねたステンドグラス。 「蜂夜という名前……憶えておいてやろう」 焔と零二は、壁を埋め尽くす人形の首を調べていた。 「なんだかこの子たち、悲しそうね」 零二は当初、人形が持ち主を恋しがって少女を攫うのではないかと考えていたのだが、それは半分正解で、半分は誤りかもしれなかった。ベッドに残る、何かを何度も打ち付けた痕を見るに……持ち主は、あまり人形たちに優しい主人ではなかったようだ。彼はこの隠し部屋を子供部屋もろとも、誰も立ち入れないように封鎖してしまう予定でいる。 「今となってはわかりませんけど……人形さん、誰かに可愛がってもらいたかったのかもしれませんね」 心は、海依音が“アフターサービス”と称して修理した日本人形の髪を、そっと撫でる。 ものに心があるのかどうかは、神秘の力を操るリベリスタにもわからないけれど。願わくは『彼女たち』に平穏を。どうか、安らかに。 ――――夜に抱かれる洋館に、海依音の鎮魂の歌が響く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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