● 覚悟は出来ていた。 その、はずだった。 「いいのか、ジェイク……私はっ」 「悪寒が止まらないんだ。一思いにやってくれ」 体の震えが止まらない。悪寒が体中を駆け巡る。後悔が脳裏を駆け抜ける。 運命の加護を全て失い、人ならざるモノへと自分が変わっていくのを実感しながら、男は最後の煙草に火をつける。 介錯を頼んだ相手は長年連れ添ってくれた相棒。友の銃口がその額に押し付けられる。 「俺達の道、間違ってなかったよな?」 ポツリ、と零れたのは今までの己の歩んできた道への疑念。 リベリスタとして、己に恥じない『道』を彼は歩んできた。 人を救うために必死で勇気をひねりだし、誰かを助けたいと思って手を伸ばし続け……そしてその果てに、己の運命を失った。 だが、果たしてその道に意味はあったのだろうか。勇気に意味はあったのだろうか。ここで潔く散って崩界を防ぐことに何の意味があるのだろうか。 「私はお前と一緒に入れて楽しかった。だから、この道は間違っていない」 引き金にかけられた友の指に力がこもる。 その時に、悟った。 自分が崩界を防ぐために尽力してきたのは、『自分が笑って相棒や友人達と一緒にすごす為』だった。 なのに、ここで……死にたくなんて、ない。 「さよならだ」 「嫌だ、俺はっ!」 引き金が引かれるその瞬間、咄嗟に拳を突き出していた。 そして、俺は生き残った。相棒を殺して。 「俺達の道って……なんだったんだろうな」 答える者はいない。 恥じることなきリベリスタとしての『道』、されどそれは自分にとって何の意味も価値もない、自分をすり減らすためのものだと思った男は、自らの人生の無意味さに笑いを零す。 友と共に過ごすために自分を殺しそうになり、それを回避するために友を殺した。あぁ、なんて馬鹿げているんだ。 勇気も、決意も、希望も、何もかも無駄。 「今日は酷く……寒いな」 体中を悪寒で震わせながら、男は歩みだす。どこへ行くかも決めないまま。 まるで世界中が彼の嘆きに共感しているかのように、大地が小さく震えた。 ● 「ここにいる皆が持ってる運命の力。けれど、それをぜんぶ失くしちゃう人も、たまに出ちゃう」 そう切り出した『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の後ろ、ブリーフィングルームのモニターに映し出されているのは、一人の青年の姿であった。 ゆっくりと人気のない港を歩むその男。しかし、不自然な事に……彼の動きに合わせて、周囲の全てが揺れて見える。 「フェイズ2のノーフェイス。個体名『シェイク』。彼は元々、野良リベリスタの一人だった」 クリミナルスタアとして道義を重んじ、決意を持って崩界を防ぐ為に数人の友と共に尽力した彼。 だが、彼はノーフェイス化した事で己の歩んできた道に絶望。仲間を殺した後、当てもなく彷徨っているのだという。 「彼には目的は一切ない。ただ、無軌道に歩いているだけ。生ける屍のようなもの。でも、放置してフェイズが増えると……酷い事になる」 周囲の大地を震わせる力を有しているシェイク。その揺れは今は一般人でも倒れずに立っていられる程度の軽いものだが、その能力はフェイズが3に進行した際に地震に近い大きな振動を引き起こす物へと変化するのだという。 そうなる前に、彼を討たねばなるまい。 「万華鏡で見た所、彼は今、ある港にいるみたい。夜に行けば、誰もいない波止場でたそがれてる彼に接近することができるよ」 説得は不可能。倒す他に彼を救う道はない。 だが、彼の戦闘能力はノーフェイスとなった事で大幅に強化されているようだとイヴは告げる。八人がかりでも、負ける可能性は十二分にあるだろう。 生来使用していたテラーテロールとギルティドライブを強化したような二種類の攻撃に加えて、独特な性質を持つ範囲攻撃も彼は身に着けているのだという。 「一つは、覚悟を砕く技。元々痛いパンチなのに、なんらかの強化付与をしている人に対してはダメージがさらに大きくなっちゃうみたい」 リベリスタだったころは仁義を切り、リベリスタとしての『道』を重んじ歩んでいた彼。彼はその道を否定するために拳を振るう。 「もう一つは、希望を壊す技。幻影を見せつけて体力を奪う技なんだけれど、強化付与をしていないとその幻影のせいで心が折れちゃうかもしれないよ」 あるいは彼は今も葛藤しているのかもしれない。『道』を否定した己を否定するかのように、彼は過去の後悔を周囲に映し出す。 「それと、シェイクは状態異常への完全な耐性を持っているよ。時折耐性が無くなる瞬間もあるみたいだけれど、気は抜かないでね」 その耐性は非常に厄介だが、その反面、彼は自分の受けた状態異常が自然に全く治癒しないのだという。 疑問に思ったリベリスタの一人がその理由を尋ねれば、全てを見通した少女は悲しそうにポツリと呟いた。 「だって、挫けてしまった彼にはもう、『意思』は残っていないから」 だから、助けてあげて。そうイヴは言う。 願いも希望もない運命に見放された哀れな男への終止符を打ってあげてほしい、と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:商館獣 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月21日(月)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夜の港。寂れたそこに佇むのは一人の男。 荒れる波間を見つめながら、男はため息を一つ零す。その背が震えるのは夜の寒さのせいだけではない。 大地が、海が、わずかに震える。この世の理から転げ落ちた男、シェイクの震えに合わせて。 「こんな寒い夜に夜の海なんて見てても寂しいだけだろうに」 寂しげなその背中を唐突に照らし出したのは、波止場に唐突に表れた一台の車のライトであった。 「っ!?」 灯りと声に振り向く男。そこへ辛辣な言葉を投げかけるのは『黒腕』付喪モノマ(BNE001658)である。 彼の隣には、7人のリベリスタ達の姿。シェイクは一目で事情を理解する。 「それとも、そんな自分に浸って居たいってかね。悲劇のヒーロー様」 「浸らせてくれるなら、いっそ、車に乗ってカッコよく登場してくれるとありがたかったんだがね」 自嘲気味に笑うシェイク。その言葉に肩を竦めるのは、その車両を取り出した『他力本願』御厨麻奈(BNE003642)だ。 「未成年やさかい、運転できんかったのは堪忍な」 下らない冗句を交わし合うノーフェイスとリベリスタ。 その間も互いの距離は縮まっていく。 ノーフェイスの顔に浮かぶのは自嘲気味な笑み。当然だ。その場に集ったリベリスタの内半数以上が名の知れたリベリスタだったのだから。 「お前もリベリスタなら、俺達が何者かなんて一目でわかっだろ?」 「俺を殺しに来た、だろう? 君は知らないが、白の拳に黒の拳、UMAと十数股、俺も有名になったもんだな」 まぁ、俺はやる気がないから知らないだろうな、と名前を憶えられていなかった『やる気のない男』上沢翔太(BNE000943)は気にした風もなく武器を構える。 既に彼我の距離は十分に近づいている。軽戦士としての彼の技量の象徴ともいえる移動後の一撃ならば狙いうる距離まで、あと僅か。 「殺されて……たまるか」 互いに一手で近づける境界線。その一線を越えるのと同時に、ノーフェイスは動こうとして。 「っ……!」 その寸前、本来ならば交戦圏外とも言うべき地点でその体を撃ち抜かれる。それは、『翡翠の燐鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)の放った弾丸。 生まれた僅かな隙。 その瞬間、リベリスタ達が境界線を越える。リベリスタの中で最も早く動いた『ガントレット』設楽悠里(BNE001610)は突出してのブロックに回る。 睨み合っている間に出来たはずの戦いの構えをあえて目の前で取るのは悠里なりの敬意の表れであろうか。 「大人しく倒れろなんて、言わない。本気で抗ってくれて構わない」 「言われなくてもするさ……お前達の行為も、全部無駄だ、こんな風に挫け、終わるんだ」 一瞬出遅れたノーフェイスはその瞳で悠里を睨み付ける。抜ける力。構えが一瞬で解け、空へと浮かび上がっていた体が地へと落ちる。 「そっかー、一度挫けたら全部無駄かー」 だが、次の瞬間その体は再び軽く浮きあがる。その原因は事前に仲間へと翼の加護をかけていた『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が再びその力を用いたから。 「どこがでしょうね」 シェイクの眼前でそう嘯くうさぎ。その次の瞬間、シェイクの身体が浮き上がる。驚きに見開かれるシェイクの瞳。 その体へと手を伸ばした者はいない。虚空へと伸ばされていたのは漆黒の腕。 「小難しい理屈なんざ『言い訳』にしかなんねぇんだよ……行くぜ」 彼我の距離は実に15メートル。距離さえも超えて相手を掴みあげるモノマ。彼は一呼吸と共に敵の身体を大地へと叩きつける。 ノーフェイスの身体が大地へと叩きつけられる。戦いの幕開けを告げるかのような激しい衝撃音が港に響き渡った。 ● 最初に戦場を支配したのは、リベリスタの側であった。 敵よりも早く動き、後衛とシェイクの間に十分な距離を確保した彼らは、シェイクの攻撃をいなす為の陣形を早々に整える。 すなわち、『叶わぬ望み』の射程内に、付与を行っていない人間が入らない陣形である。 圧倒的な数の利に任せ、リベリスタ達はシェイクの動きを封じる。 それは、前方向だけでなく後ろ方向にも。翔太と共にその退路、即ち海への道を封じるのはツインテールの女である。 「私はアークの羽柴壱也。今から貴方を……」 「くらっしゅします、か」 肉体のリミッターを解除していた『すもーる くらっしゃー』羽柴壱也(BNE002639)の言葉に、その二つ名を知っていたシェイクは唇を歪める。 紫電を纏って振り下ろされる刃、それはノーフェイスの身体へと食い込む。 「ううん、貴方を……救います!」 「言葉と行動がまるで合ってないな」 表情を歪め、痛みに耐えるシェイク。彼の指摘が無くとも、羽柴はわかっている。救うと言いつつも今自分がしているのは相手の命を奪う行為だと。それでも、彼女は助けたいのだ。 「俺達が助けたいのは心だ。アイツも腐ってもリベリスタだからな」 そう言うのは『折れぬ剣《デュランダル》』楠神風斗(BNE001434)、手にした赤く輝く刃の巻き起こすのは圧倒的なる破壊の一撃。 「オレも昔のあんたと同じような理由で戦ってる。だからこそ、今のあんたを止めてみせる!」 「もうちょい上、あんじょうよろしゅうしたってや! ラッキース……もとい、ナイスほ……やない、楠神はん!」 麻奈の的確な指示が、その刃の軌跡を僅かにずらす。麻奈の冗談交じりの声が攻撃直撃後であったことも幸いし、避けきれず綺麗に入った刃は致命的な傷を生む。 「俺と同じ理由で、か。なら、本当にわかるとでも言う気か……? 俺の心を」 人でなくなり、友を殺して。どうやって生きているかを。 風斗の耳元で、混ざり合ったような声が囁く。 『風斗ちゃんは『そういう基準』で選ぶんだよね? ね? ナイスアシストだよ、チミィ』 ゾクリと背が震える。幻聴だと分かっていても。 壱也の腕に僅かな温かみが蘇る。確かに自分が胸に抱き、助けようとしていて……救えなかった少年の、命の暖かさが。 シェイクが周囲の人間へと見せたのは心を切り刻むような幻。 「大丈夫ですか、私がついてますので気を確かに」 されど、それに屈する者は誰一人としていない。うさぎの与えた加護が、その心を支える。 ポーカーフェイスのうさぎは果たして何を幻に見たのか、どう感じたのか。それはその表情からは読み取れない。 「大丈夫だ……おい、シェイク! オレは目をそらさんぞ! 現実がどれだけ辛くても!」 「そうだよ。私も逸らさない。独りよがりかもしれないけれど……貴方の生きていた事を好みに刻んで、覚えて、絶対に『無駄』になんかしない!」 「辛いのはわかる。僕も……色々な物を犠牲してしまったから」 かつて、多くの無実の人を殺めてしまう作戦を取った男、設楽はそう呟く。後悔に潰されてしまいかけた事も決して少なくはない。 「けれど、今まで僕も君もやってきたことは無駄じゃないんだ、後悔なんて必要ない」 今までの自分の思い出を反芻しながら、男は声を絞り出す。 「僕なら……自分の大切な人に討たれたいと思う。でも、その理想を叶えるより前に怖くて逃げてしまうと思う。そんな風に考える僕だからこそ信じるよ、君は過ちを取り返せるって」 彼の根は臆病者なのだ。死ぬのは怖いし、怖ければ逃げる。ジェイクの思いは痛い程理解できる。 「じゃあ、大切じゃない人に討たれるのはどう思う?」 それに返されたのはともすれば波の音で消えてしまいそうに小さな震える男の囁き。 「どうしてこうなったんだか……」 もしノーフェイスになっても親友に殺されるなら、『仕方ねぇ』と考えていた翔太は、その言葉の真意に気づく。ジェイクは機を逸してしまったのだ。友を殺した事で自分の納得のいく死を見つけられなくなり、生きた屍のように目的無く動き、そして死に抵抗する。 それを察したうえで、彼はリベリスタとしての矜持を口にする。助けるために、という最後の言葉を呑み込んで。 「殺すぜ。リベリスタとしてお前を……」 理不尽な戦いだ。いつも以上にやる気を失ってしまいそうになる。それでも、放っておくわけにはいかない。 圧倒的な踏み込み速度で差し込まれた刃が、敵の体の反応を僅かに鈍らせたような気がした。 ● シェイクというノーフェイス、その発生も、生まれた経緯も、決して『数少ない事例』ではない。 (あの子と、私と、同じね) 後方から銃を撃ち続けるティセラ。仲間が完全に周囲を包囲している今、こちらへと攻撃が来る心配はない。 その脳裏に浮かぶのは、手にした銃の元々の持ち主だった仲間。 シェイクと同じようにしてこの世の理から外れてしまった、己の手で殺した人の姿。 「私は……無駄にしたくない。誰かのために戦った人の思いを。貴方の戦いだって、絶対に無駄じゃない!」 声が、思わず荒れそうになる。だが、果たしてその声は敵へ届いたのか。シェイクもまた、ほぼ同時に声を荒げる。 「がぁぁっ!」 「あ、やばっ」 状態異常への耐性を唐突に失い、後方からのピンポイントを放っていた麻奈へと怒りに燃える瞳を向けるシェイク。 彼が麻奈へと攻撃を届かせる場合、付与を受けている仲間を大きく傷つける技が来る可能性が高い。彼女は仲間へと防御の指示をテレパスで飛ばそうとして。 「安心して、問題ないよ……っていうか、チャージちょうだい!」 敵の身体が氷で動かなくなっている事に気づく。 それは、最初に魔氷拳を連続で叩き込んだ悠里のおかげ。雷を纏った拳を連続で叩きつけながら、彼は声を荒げる。 「おっけ、まかしとき!」 元々消耗の激しい壱式迅雷、それに加えて連続で心を揺らす瞳で睨み付けられた彼の消耗は著しい。 即座に精神を同調させる麻奈。その姿を見てシェイクは声を荒げる。 「くそ……煩わしいっ」 (でも、なんで設楽を狙うんや……威力だけなら楠神はんとかの方が上やのに) 気持ちが理解できると言ったからか、という疑問が心を掠める。 「違うな……」 テレパスに乗ったその疑問を否定するのは、己の技を磨く事に注力し続けてきた男。 「煩わしいのはどっちだか。周りのいい子ちゃんの声を聞いた上でその作戦かよ。反吐が出るほどの屑野郎だな」 モノマは目の前の男へと向けて言葉を吐き捨てる。彼は理解していた。 周りの人間が彼を許そうと、その意思を汲み取ろうとしている中で……彼はそれを無視し、勝つ為の手筋を探り続けていた事に。 魅了を狙っての最初の幻影。そして、彼に近づいて戦う中で最も消耗の激しい技を使う悠里の気力を削ぐ戦法。それはどれも、此方の攻撃の手を大きく緩めるためのものだ。消耗させやすい数人を潰す心算であったのであろう。 「理屈ばっかりこねて拗ねて閉じこもって暴れまわって、思い通りにならなきゃ無駄だの煩わしいだの全否定か。ホントいい御身分だな。お前が殺した友達とやらも浮かばれねぇ」 「せ、先輩言い過……」 そして、麻奈の能力がある以上それが通じないと分かれば……おそらく次は、『アレ』が来る。ここからが本番だ。 「言い過ぎじゃ、ないな。確かにその通りだよ。アイツは、浮かばれない……」 耐性を取り戻したノーフェイスは、壱也の言葉を遮り、表情を歪める。 「その通りだ。事実だよ。もう起こってしまった、やり直せない過去の事だ」 「で、次は駄々っ子みたいに暴れる気か? へっ、本当にどうしようもないな」 モノマの言葉の通り、ノーフェイスはその拳を大地へと叩きつける。巻き起こるのは圧倒的な振動。 周囲を取り囲んでいた者達の身体に凄まじい衝撃が走る。己の歩んできた道を否定する、決意揺らがす強烈な一撃に思わず翔太は声を零す。 「じゃあ、俺はどうすればよかったんだよ……全部無駄に決まってるんだよ……自分を鼓舞して突き進んだって、その先に道なんて」 「無いんですか?」 独白する男、その横から飛んできたのは普段と変わらぬ平坦な声。 仲間へと翼の加護をかけたその人物はガラス玉のような瞳で覗きこむ。 「友達を鼓舞して道を突き進もうとした私の先に、何も、無い」 己の道を否定した男の瞳を。 「……ッんな訳ねえだろうが、クソがっ!」 それは、うさぎを知る物のほとんどが聞いた事のないような声。 「一度挫けちまったら全部だめ何て話があるか! 間違ってるか正しいかなんてどうでもいい、お前は楽しくなかったのか!」 友達と過ごした時間が、同じ道を歩んだ時間が。 うさぎは思い出す。さっき見た幻影を。かつてアークに来る前に自分がしてきた無数の『後悔』を、罪を。 「挫けるし、失敗するし、後悔する! 失敗して駄目になったって、それでも、その先にある道は」 無価値なんかじゃない。 そう、うさぎは信じている。 そうじゃなきゃ、失敗して失敗して失敗して生きてきた自分の今と、これから先に過ごすかけがえのない時間が……全て無価値って事になる。 「う、うさ……」 「冗談ですよ、いつもの」 声をかけようとする友へ返す言葉はいつもの調子と同じ。されど。 振り下ろすのは十一の刃。車のライトを受けて煌めく光の数は十二。その中に一つだけ混じって僅かに輝くのは。 水滴。 「じゃあ、俺はどうすればよか……」 「そんなの手前が考えろ」 モノマは拳を突き上げる。再び掴まれ、宙を舞うノーフェイスの体。 「申し訳ねぇとか思ってんなら、生きたいと思ってんなら、自分のしたい事しやがれ! 友達殺しといてのんびり波止場でお散歩なんざしてんじゃねぇ!」 誰にだって失敗はある。けれど、そこで止まればそれはただの後悔となる。 だったら、そこから動き出す他にない。 怒りを込めて、モノマは拳を振り下ろす。叩きつけられたシェイクの体がコンクリートを粉砕する音が、後半戦の開始を告げる。 ● 連続で巻き起こる破壊の嵐。それはティセラの結界がなければ周囲の注意を十二分に引くほどに激しい物であった。 回避に優れる翔太や悠里は、付与を行っていなかったモノマはまだ耐えきれる範疇。 されど、それは十分な装甲を備えていようともデュランダルである二人と、純粋に体力で劣る麻奈には厳しい。 一度途切れた翼の加護を再びかけ直すうさぎ。それにノーフェイスは唇を歪める。 「そんな事をしても、傷つくだけだぞ」 「付与してもらって戦うのは危険な道だということは承知している! 怖いさ! でもな」 友に後押ししてもらえるなら、どれだけ危険でも俺は前進をやめない! そう、うさぎの友人は吠える。 「あんたの間違いはな、友達を殺した事じゃない。今までの生き方全部、暖かい物を否定した事だ!」 「ほんまにそれは無駄やったか? 救われた人はおらんかったか?」 例え無駄であっても、何かをしたい。だからリベリスタになったんと違うん、と麻奈は問う。 「一人でも過去に助けたんなら、それは無駄ちゃう! 否定すんなや!」 「そうね。過去から連なる鎖は……絶対に切っちゃいけないのよ」 それに言葉を重ねるのは、ティセラ。手にした銃は、彼女にとっての罪の象徴ともいえる一品だ。 「たまに、鎖のせいで縛られるかもしれない。後悔もする。けれど、これは途切れさせない事で必ず守りたいものとの絆になる!」 それを、少女は知っている。世界を守ると決意した少女は。 放たれた弾丸は寸分違わず、ノーフェイスの頭蓋へと突き刺さる。大きく揺れるその体。 「俺は……」 ほのかに、男の胸に宿る暖かさ。されど、身を支配する寒気は未だそれを上回る。 死にたくないから。認めたくないから。一歩を踏み出せないから。男はその手を。 「嫌だ!」 最後に僅かに残っている勝ち筋へと伸ばす。己の受けてきた傷を威力へと変える魔弾の狙いへと。 ここから勝つには、敵を順番に減らしていくほかない。最も倒しやすい相手から順に倒す事、それが彼に唯一残された道。 「……アカンっ!」 咄嗟に身構えるのは、最も体力に余裕のない麻奈。されど、他力本願の権化たる攻撃能力の低い彼女をここで倒す意味はない。その銃口は自然と『最も倒しやすく強い相手』へと向く。 「右から来るで!」 「避けろ、壱也!」 即ち、己の体力を削って放つ技を連発してきた、前衛の女へと。 指揮と彼氏の言葉に咄嗟に身をひねり、直撃は避ける。それでもその威力は圧倒的。少女の胸から紅が散る。 されど。 「なんでそこまで死にたくなかったのかな。きっと、死にたくないって思えたのは……今まで歩んできた人生に、きっと意味があったからだよ」 壱夜は立ち続けていた。彼女が真に自らの身を削って戦うスタイルならば、倒れていたに違いない。 されど、彼女は……自らの身を削る以上の再生能力を。明日へと向かう力を有していた。 「もう一度言うよ。独りよがりかもしれないけれど、私はジェイクさんを忘れない。そんな風に、死にたくないって思えるような人生を、否定なんか絶対にしない」 その言葉が、そこで耐えきったのが、分水嶺となる。 相手を無力化するはずのその技を耐えきられ、逆に膝を折る男。その体には、もう、震えは無い。 「……相棒、俺は……」 ぽつりと漏れた言葉。それに悠里が首を振る。 「取り返しのつかない過ちをしたって思ったなら、謝るといいよ」 だって、それが友達だろう? その問いに返ってきたのは暖かな涙。 「その為の道は、俺達が用意してやるよ。だから」 安らかに眠りやがれ。翔太は刃を構え、そして、振り下ろした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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