●やあやあわれこそは 「フゥーハハハハハーッ! 恐れおののけ市民たちよ! 我こそは怪人ブラックマント! この街を恐怖におとしいれる者の名だ!」 ……とか言いながら、南藻内(なんもない)商店街のぼろっちいアーケードを端から端へと飛んでいく黒マントのオッサンがいた。 タキシードにシルクハット。紅いバタフライマスクとステッキを備えた男である。 だが飛ぶと言っても、予め張って置いたワイヤーにフックをかけて、背中の吊り具と組み合わせてロープウェーよろしくシャーッと移動していくだけである。 店番をしていた八百屋さんも顔を上げ、ハゲた頭を撫で繰りまわす。 「おー、今日もやってるなあ黒風呂敷ぃ」 黒風呂敷……もといブラックマントさんは商店街の端につくと、がしゃこんという音と共に停止。両手両足をぴんと伸ばした『今俺飛んでるんだぜ的ポーズ』のままぶらぶらと揺れた。 商店街の端っこにある薬局からヨボヨボのお爺さんが出てきて彼を見上げる。 「おぉ、黒風呂敷さん。今日もご苦労さんじゃのう」 キッとおじいさんを睨むブラックマントさん。 「吾輩はブラックマントである! 名を誤るなど無礼千万。その首をねじ切ってくれようか!」 「今日も降ろしてやろうかい?」 「……あ、はい。お願いします。すいません」 お店の人以外誰も通らない商店街の端っこで、ブラックマントさんはぺこぺこと頭を垂らすのだった。 その夜、商店街脇の立ち飲み屋さんにて。 「チクショー! 今日も誰も見てくれなかったじゃないかよぉーぅ!」 ブラックマントさんは(例の衣装のまま)焼酎片手に号泣していた。 その両肩を叩く八百屋さんと肉屋さん。 「まあそう言うなって。俺達もちゃんと見てるからよお」 「今日の飛び方なんてこう、ピシッとしてて上手だったぜ?」 「それじゃダメなんだよぉーぅ!」 がつーんとグラスを台に叩き付け……ようとして寸止めし、台やグラスが傷つかないようにそっと置くブラックマントさん。 「商店街がガラガラになってもう三年だよ!? このままじゃ各地の商店街みたいにシャッター街になっちゃうよ!?」 「でもなあ、この街も過疎化が進んで老人ばっかりになっちまったし。大型ショッピングセンターのジェラスができてから客足もめっきりだ。品揃えも値段も全然いい。俺らが叶うわけねえさ。ここまで生き残ったのが幸運ってもんだろう」 「でもでもぉ!」 身をぷるぷるさせるブラックマントさん。 立ち飲み屋と薬屋を兼業しているおじいさんが軟骨揚げを差し出して言った。 「お前さんが話題を呼ぼうと頑張ってくれとるのは分かっとる。しかし、これは運命なんじゃ。古いモンは老いて逝く。世の定めじゃ」 「グ、グスッ……」 ブラックマントさんは軟骨揚げをもぐもぐしてから焼酎をぐいっと煽った。 「でも僕ぁ、この商店街が大好きなんだよぅ。子供の頃にたくさん食べたコロッケも、好きな子に告白した八百屋さんも、病気で死にそうな時に夜遅くでも薬を届けてくれた薬屋さんも、全部覚えてるんだよぉ。それが無くなっちゃうなんて、悲しいじゃないかよ……」 コトン、とグラスを優しく台に置く。 初めてお酒の味を知ったのも、想えばこの立ち飲み屋だった。 二十歳になりたてのころ、成人祝いにといいお酒を振る舞ってくれた。あの時背筋がぴんとしていたあの人も今や腰が曲がって、ビールケースを台にして立ち飲み屋をしている。屋台のテーブルだって今にも崩れ落ちそうだ。 「ぐすっ……ジェラスさえなくなれば……もしかしたら……」 ブラックマントさん(32歳)は、しょぼしょぼとした顔でそんな台詞を零したのだった。 ●しょーがないものはしょーがない。でもさあ。 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はモノクロの写真を机に並べていきながら、語り部のように言った。 「昔、この南藻内商店街には活気があったそうだ。地元に密着して、もちつもたれつの毎日さ。誰もがそんな日が続くと思っていたし、そんな未来の為にお店を切り盛りしてきたらしい……」 写真はやがてポラロイドのカラー写真になり、そしてデジカメプリントへと移ろいで行く。形だけは変わらなかった商店街は、色付くにつれ、写る人の数が減って行った。 大きな商店街だが、その半分はシャッターを閉じ、今は閑散とした風景ばかりが広がっているという。 「そんな状況を打破しようと一人で奮起しているのが彼……フィクサードの『怪人ブラックマントさん』だ」 並べられた写真の端っこ。 カメラに向かってピースサインをしてるんだけどちょっと目ぇ瞑っちゃってるブラックマントさんの写真があった。 「彼は『怪人の現れる商店街!』としてメディアをひき付けようと頑張ったらしいが、地元のローカルテレビさえ相手にしない有様だ。まあ、相手にされたらされたで困るんだがな……」 一応、リベリスタたちとしては神秘を秘匿しておいてほしいので。 仮に人目につくとしても手品師や軽業師のショーくらいに留めておいてほしいので。 「まあ、彼自身たいして強くないこともあって今までずっとくすぶっていたんだが……どうやらくすぶり過ぎたんだろうなあ。このまま終わるくらいならと、ライバル関係(誇張表現)にある大型ショッピングセンターで派手な破壊活動を行おうと考えてるようだ。そうなると、もう町おこしのレベルでは解決できん。フィクサードの『怪人ブラックマントさん』は、止めなければならない対象になったんだ」 少し悲しげな顔で、NOBUは呟いた。 「やり方はみんなに任せる。悲劇を、回避してくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月23日(水)22:18 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●君のあいした小さなせかい 「フゥーハハハハハーッ! 恐れおののけ市民たちよ! 我こそは怪人ブラックマント! この街を恐怖におとしいれる者の名だ!」 南藻内商店街に毎朝恒例の台詞とともに黒いマントのオッサンがシャーってなるやつを使って商店街を端から端まで滑走していく。彼の名は怪人ブラックマント。 この『商店街の天井をシャーってやるやつ』は商店街ではおなじみの光景だった……のだが。 「……これも、今日で終わりかもしれないな」 まるで余韻をかみしめるかのように端っこでぶらぶら揺れるブラックマント。 「吾輩も神秘能力者。この力を使えば人を殺しちゃうことだってできる。ジェラスに行って店長さんや偉い人をやっつければ、潰れないまでもしばらく営業停止くらいにはなるはずだ……」 そろそろ降りようかとステッキをアーチに引っかけたところで、ふと知らない人たちと目が合った。 くいっと眼鏡を上げる『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)。 「話は聞かせてもらったわ」 お肉屋さんのコロッケをおいしそうにもぐもぐする『エリミネート・デバイス』石川 ブリリアント(BNE000479)。 「もぐもぐ、ごくん。貴様の悪行はお見通しだ怪人ブラックマントー!」 形容不明なポーズをとる『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)。 「このスーパーアイドル教師ソラ先生ウィズ愉快なリベリスタたちに任せなさい!」 「……ちょっと待って」 「そのチーム名は納得いかないぞ!?」 はいじゃあもう一回チーム名会議しまーすとか言って円陣を組み始める三人。 その横で、『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)がくいっと親指で商店街のお店をさした。 「それじゃ、ちょっとそこのサテンでしばこうゼッ」 「はわ、レモンスカッシュすっぱい!」 普通にレモン果汁からいれるレスカにびっくりする『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)。 ここは商店街の喫茶店。 同じテーブルには喫茶店には、『黒腕』付喪 モノマ(BNE001658)と『不屈の刃』鉄 結衣(BNE003707)が座っていた。 カランとベルが鳴り、ブラックマントたちが入ってくる。 興味深げににらみ合うモノマとブラックマント。 「おお、今日はお客が多いと思ったら知り合いかい? いつものコーヒーでいいよね? 」 「よかろう」 ブラックマントはものモノマの向かいに座ると、出てきたコーヒーに軽く口をつけた。 「話は聞いたぜ。お前がやろうとしてることはただのテロだ。そんなことしたら親御さんだけじゃなく商店街の奴らも悲しむぞ。お前がやることは協力して商店街を盛り上げることなんじゃないのか? 一人じゃたかが知れてるぜ」 「そんなことは分かっているし、やっている」 顔でうつむくブラックマント。 「だがそれも限界に来たのだ。このまま衰退の目を見るくらいならば、たった一人の犠牲で商店街に客足を取り戻せるならばその方がずっと……」 「えいっ!」 身を乗り出した結衣がブラックマントのほほをひっぱたいた。 「悲しいことを言って諦めないで。一緒に商店街を蘇らせましょう。そして私をブラックマントさんの弟子にしてください!」 「えっ?」 「ブラックマントは、商店街を愛しているのね。家族だって、ドラマが詰まった場所だって、そんなの聞いたらあひるも頑張らなきゃって思えてきちゃったの」 「協力、してくれるのか……?」 ほんわりとした空気を出すあひるに、ブラックマントは息をのんだ。 「ええ、不本意ながら」 入店ベルの音と共に、『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハ(BNE000948)が店内へと入ってきた。 「フィクサードはみな死ぬべきとは思っていますが、あなたのような小物を殺しても恥ですしね」 「いや、俺はそこまで思ってないが……」 同じく入店してくる『まごころ宅急便』安西 郷(BNE002360)と『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)。 スマートフォンをいじっていたゐろはが顔を上げる。 「アタシ? アタシはまあ……仕方ないって諦めて、やれることやらないのはキライだから?」 「形はどうあれ、みなこの商店街に協力的だ。俺たちは、今後の再発防止も含めて復興に努めるつもりだ。まずは二週間、もらうぜ」 野球帽をかぶり直す郷。 その姿に、ブラックマントは黙って頷いたのだった。 ●人の手に勝る魔法はない 技術も多彩で力もあるリベリスタ十名がブラックマントを止めるために行なったこと。 それは洗脳でも物理交渉でもなく、どこまでも人間的な『営業回り』だった。 「ご苦労様です。私の方でできることがあればなんでも言ってください」 「感謝します。それでは……」 大きな屋敷の前まで見送りに出た老人が、深く頭を下げていた。 彼に挨拶をして、車に乗り込むモノマ。 「町長さん、以外と普通の人だったな」 「小さな町だからな。家柄があっても驕りはしないんだろう」 動き出す車。郷はハンドルを握り、隣の家の前へと停車した。 ダッシュボードに突っ込んだリストをちらりと見る。 「この後は役所と学校か……二週間とはいえ強行軍だな」 「俺たちはよそ者だからな。一番に動かねえと肝心の商店街がやる気をなくす」 「だな……よし、次は俺の番だ」 車から降りた郷は、古い佇まいの家により、呼び出しチャイムを押したのだった 「こんちわ、まごころ宅急便でーす。あ、お時間いいですか? 実は商店街で御用聞き始めたんですよ。必要なものを代わりに買ってくるんで、はい、ここの番号にかけてくだされば……」 営業回りをしているのは何も郷たちばかりではない。 「よろしくお願いします……」 ベルベットは人通りの多い場所に立って地道にチラシを配っていた。 チラシには職業体験開催や御用聞き屋開業のお知らせが並び、どこかポップで雑多なイメージになっていた。 中でも目を引かせたのは『美男美女が商店街活性のために立ち上がる!』というドキュメント番組のようなあおり文句である。 その下にはピースサインのブリリアントが映り込み、『番組制作中』とあおりが書かれていた。 一方そのブリリアントはというと。 「結構ガタのきてるところが多いんだな……」 商店街にあるお店を回って、人手不足や老朽化の進んだ部分をメモに書き記していた。 「駄菓子屋とか入れてもいいんじゃないの? あと古着とかさ」 ゐろはは店の外観や陳列の様子をカメラに納めつつ、商店街の会長にちょこちょこと提案をかける。 本来なら煙たがられるような行為なのだが、なぜこうも協力的になっているのか。 それは。 「お掃除終わったよ! この窓辺、お花飾ってもいいかな」 ジャージをホコリだらけにした結衣がお店の裏から出てきた。 彼女はなんと、それぞれのお店を回っては押しかけ妻のごとく店を掃除しまくり、自分たちの態度を行動でもって示したのだ。 元々外の人間には警戒しがちな老人たちが彼女に心を開くようになるまで、そう時間はかからなかったという。 「古いお皿や棚を新調できないかな? それだけでもずっと華やかになるよ」 「そうだねえ、いっそ起死回生のつもりで予算を割ってみるのもいいかもしれないな……」 自分の顎をさする会長さん。 向かいの空き店舗へ行ってみると、そこには沢山のパネルが展示されていた。 「懐かしの商店街をもう一度、写真展作戦だ」 一通りパネルを飾り終えた明奈が汗をぬぐってそう言った。 これは何も空き店舗を埋めるための間に合わせなどではない。 町自体が高齢化したことに着目した彼女は、彼ら共通の懐かしさと望郷感を武器にしたのだ。ブラックマントが商店街の思い出を大事にしていたように、町の人々もまたこの商店街に少なからず思い入れがあるもの。高齢者となればその感覚は一層強いものになるだろう。 「下手に斬新なことはせずに、元々ここにあるものを押し出していかないとね。今日明日だけの復興じゃ、意味がないもの」 「その通りだ。君たちのおかげで踏ん切りがついたよ」 会長さんはそう言うと、古いカセットテープを差し出した。 「昔、お祭りで使っていたものだ。若い頃は歌手になりたくてね、私が自分で歌っていたものなんだが……こんなものでいいのかい?」 「最高だわ。人はみな拠り所を求めているの。ずっと昔に聞いた音や声が流れてくるだけで、人は安心できる……それと、太鼓を借りても?」 「いいとも!」 冷たい風だけが通り過ぎていた南藻内商店街は、少しずつ変わっていった。 閉じていたシャッターが次々に開かれ、ホコリだらけだった店は輝きを取り戻し、華やかでそれでいて落ち着きのある飾り付けが並び始める。 通勤や通学をする人々もそんな変化にはさすがに気づいたようで、ベルベットのチラシ配りやモノマたちの営業回りのおかげで二週間たつ頃には相当な話題性が生まれていたのだった。 「……うん、よし」 準備の様子をドキュメント形式で撮影していたあひるは、ハンディカムを下ろして熱いため息をついた。 「とってもいい絵がとれた。あとは編集して流すだけね」 ブラックマントは腕組みをして商店街の真ん中に立つと、目頭をそっと押さえた。 「この商店街のシャッターが全部開いている……こんな日が、また来るなんて」 「そうね。熱い心を持った人がみんなを引っ張っていけば、もっとすてきな商店街になるよ。明日は、頑張ろう」 「うむ」 こくりと頷くブラックマント。 ソラは彼の肘を小突いて言った。 「ところでどうして怪人なの? ヒーローに転向した方がいいんじゃないかしら。ハンサムな相棒を雇ったりして」 「それは難しいな。この怪人フォルムだって、昔吾輩の父が使っていたものなのだ。早くに死んでしまったから、どんな活動をしていたかは詳しく知らないが、父のやっていた『怪人』をやめるわけにはいかない」 「ふうん。ま、いいけど」 ソラはこきりと首をならすと、新たに開設したショースペースへと歩いて行った。 明日はいよいよ、町おこしイベントの開催日だ。 ●思い出は消えない財産 力強い太鼓の音につられ、子供が走って行く。 走る先には大きなアーチ。『おいでませ南藻内商店街』と書かれた垂れ幕をくぐると、鉄パイプで組まれた櫓の上でひたすら太鼓を叩き続ける少女を見ることができる。 金髪碧眼で眼鏡をかけた、ハッピやバチがミスマッチな少女……アンナである。 「珍しい子が叩いとるのう」 「なんでもウチのお祭りをやりたがったんだそうだ」 「なんでもないお祭りなんじゃがのう」 などと語る老人たちの顔はちょっぴり朗らかだった。 商店街の会長がもう歌わなくなったという『南藻内ブルース』にじんとひたる老人たち。 そのすぐそばではソラが貸店舗を開いていた。 いわゆるレンタルボックス店舗の拡大版で、売りたい商品を代わりに売ってくれるお店という位置づけである。 今日までの宣伝効果がよかったからか、『そらせん①~②』をはじめとする沢山の商品がブースに並んでいる。 隣では壁やら棚やらを取っ払ったパネル展示ブースが開かれている。 商店街が古い頃の看板や、当時のモノクロ写真が引き延ばして飾られ、老人たちが細い目をして眺めていた。 腰に手を当てる明奈。 「昔のお祭りが再現できたのはよかったなあ。若い人たちが結構来てる」 「これでアイドルライブとかあったら賑わったんだけど、二週間じゃ都合つけてもらえなかったのよね」 「ということは……」 「そうなるわね……」 顔を合わせるソラと明奈。 どこに控えていたものか、郷とモノマが全身タイツを手にぬっと現われた。 「アイドルショーの、始まりだぜ」 で、どうなったかというと。 「フハハハハハ! この商店街は俺たちが占領してやるぞ!」 「端から端まで全部自販機置き場にしてくれるわ!」 アイドル衣装を着た明奈を中心に全身タイツの郷とモノマがマイムマイムしていた。 「まてぇぇい!」 「この声は!?」 そこへ現われるブラックマント。 天井をシャーってやるやつで登場しつつ途中で釣り具をパージ。この日のために習得した落下制御ですちゃっと着地すると、ステッキの一振りで郷たちを追い払った。 「この商店街を襲っていいのは吾輩のみ。悪の手からは守ってみせるぞ、さらばだ!」 明奈を抱えてステージを飛び出していくブラックマント。 子供たちが群がり、即席の写真撮影会が始まっていた。 その様子を物陰から眺めつつ、郷とモノマはヘルメットを外す。 「盛況だな」 「小学校に提案を持って行ったのが効いたようだ。新しくできた駄菓子屋のこともあって、かなり客足が戻ってる」 「事前の宣伝に力を入れましたからね。この二週間のうちにも、多少は人が戻っていたようですよ」 チラシの束を抱えたベルベットが休憩用のベンチ(これも空きスペースに作られたものだ)へと戻ってきた。 「ジェラスはいいのか?」 「ここまでハマっていたら防衛の必要性はありませんからね。結界を張ることも考えましたが、もともと建物が広いのでカバーしきれませんでした。もうやることはありませんね」 などとは言うが、彼女が地道にチラシを配り続けたおかげで今日これだけの客入りが見込めたというのは事実だった。 ふと見ると、特別に設置された大型のディスプレイ(電気屋さんに展示していた型落ち品である)にムービーが流れ始めた。 商店街が再興していく様を追ったドキュメンタリー型の映像と、商店街そのものを宣伝するためのPR映像の二種類。作ったのはあひるだ。 少し後ろのほうから映像と、それを見つめる町の人たちを眺める。 「ど、どうかな……」 「良いんじゃないかな、とても楽しそうだよ」 うんうんと頷く会長さん。 「みんなの楽しそうな表情が、賑やかさを取り戻す鍵になるよ。あひるも、この商店街は好き。みんな暖かくて、また遊びに来ようって思うの」 映像の中では、ブリリアントや結衣がお店の接客を教えてもらう様子が流れていた。 カメラに向かってピースするブリリアント。 『みんなもやってみよう! こんな私でも懇切丁寧に教えてくれるんだから、安心だな!』 で、もって。 「『即席看板娘作戦』はうまくいったみたいだな!」 喫茶店のカウンターでぱたぱた足を振りつつ、ブリリアントはにっこりと笑った。 店内には花が飾られ、雰囲気のよい音楽ときれいな食器が並んでいる。 壁とテーブルは表面のクロスだけを新しくしたのだが、それだけでも充分店の空気は新鮮なものになっていた。 今は中学生が喫茶店のマスターからコーヒーの淹れ方を教わっている。 チェーン店や大型店舗ではおいそれとできない、柔軟で親しみのある運営方式である。そのうちコーヒーに興味を持ち出す子供も現われるかもしれない。 一緒になってお店の手伝いをしていた結衣が、休憩がてらテーブルへと戻ってくる。 この期に及んでメイド服じみたものを着るのは、時代の流れというものかもしれないが。 「今日はお客さん、沢山着てくれてるんですね」 「ああ、君たちのおかげだ」 入店ベルを鳴らして入ってくるブラックマント。 四人がけの席へ座ると、向かいでノートパソコンをいじっていたゐろはが反転して画面を見せてきた。 「ほいこれ。商店街のホームページ。時間が結構あったから、割と作り込めたかも」 ホームページの様式はいささか若年層向きではあったが、商店街の雑多さや特殊さをよく表わしたデザインに仕上がっている。 「今日からはオッサンが管理するんだからね。あとはい、ブログとツイッターのアカウントもね」 「ほう……これを毎日書くのか?」 「毎日シャーってやるのと比べたら楽じゃん」 「ふむ……」 関知に必要な内容を買いたメモを手渡すゐろは。 「あとは道掃除しながら挨拶運動とかかな。いいじゃん、商店街のために頑張る変なオッサン。地元じゃウケるよ」 「…………」 ブラックマントが黙っていると、ハッシュタグ検索で表示されたソラのツイートが流れてきた。 コロッケを携帯撮影した写真と共に『テラウマス』とか書かれている。 頷くブラックマント。 「ありがとう……背中を押してくれて。これからは、吾輩たちが商店街をもり立てていくよ」 「はい! 私はこの思いを胸に、世界を守りにいきます。ブラックマントさんは、商店街を守ってくださいね!」 びしっと敬礼する結衣に、ブラックマントは照れくさそうに微笑んだのだった。 後日談、ではない。 南藻内商店街はこの日のリニューアルを切っ掛けに、大型量販店とは別ベクトルのショッピングモールとして運営を始めた。 商店街は確かに、地元の愛情で回っていたという。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|