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綺麗な縄は好きですか?

●蜘蛛の巣の様に
「離して! 皆、しっかりしてよ!!」
 夜闇の公園に金切り声が響いた。
 少女を拘束しているのは同じ年頃の少女達である。
 しかし、その姿は異質だった。虚ろな瞳をした無表情を貼り付け、襟や裾からは僅かに荒縄が見えている。
「やっと捕まえた、逃げるのはお得意な様で?」
 砂を踏みしめる音と共に、外灯に映し出される姿。
 制服姿の少年は薄っすらと笑みを浮かべ、少女を眺める。
「好きで逃げたわけじゃないわよ! 皆に何したの!?」
 鼻で笑う少年はつまらなさそうに視線を逸らし、後ろに手を回す。
 取り出したのは縄、それを見た瞬間、少女は小さく悲鳴を上げて身を震わせていた。
「知る必要はないよ、体で理解してもらう。その方が早いし、面倒がないからさ」
 ぱた と、縄が地面に零れ、手の中を擦りながら縄が流れる。
 適当な長さに伸ばされたそれを振り上げると、西部劇の投げ縄の様に宙に舞い続けていく。
「いただきますっと!」
「んぐっ!?」
 緩やかに絡み合った縄が少女の頭上に飛来すると、押さえ込んでいた少女達が一斉に離れる。
 その隙に逃げようと試みた少女ではあったが、降り注ぐ縄に体を捕らえられ、ぐんと体が引っ張られてしまう。
「こ、こんなものっ!」
 リベリスタである少女からすれば、縄など千切るのは容易い。
 総身の力を込めて四散させようとするのだが、思うように動けなかった。
(「ど、どうなってるのこれ!?」)
 乱雑に掛かったように思えた縄だが、実は間接の動作を制限する様に絡み付いており、両腕は曲げることすらままならない。
 何処かが動けば、何処かが締め付けられ、例えやめても締め付けは緩まず苦しめられる。
 抗うことが全て責め苦となる様な拘束に、少女の顔に焦りが浮かぶ。
「動くほど食い込むと分かってるのに、何で動くんだかね」
 ゆっくりと……目を細め、見透かすような視線が少女の顔を覗き込んだ。
 跳ね上がる心音、自分の中何かを探る様な響きが今までにない感触を覚えさせる。
「う、うるさいっ!!」
 腕を広げ、体を捩り、くねらせるても結果は変わらない。
 それなのに繰り返す自分が何をしているのかと、疑問に思い始めていた。
「誰かに束縛されるのが好きなのかな?」
「そんな馬鹿な事、あるわけないっ」
 ムキになって少年を睨む。
 しかし、その表情は徐々に勢いを失う。
(「違う、私は、私は……!」)
 振り張りたいだけ、そう信じ、再び両椀が暴れ始めると。
「んっ、ぅ……ひゃぅ……っ!?」
 零れたのは甘美な音色、波が引くと共に血の気も引いていく。
 少年の言う通り沈んでいく自分が恐ろしくて、小さく体が震える。
「予想通り」
「嘘、違う……違うの、嫌っ……ヤダ、いやぁっ……」
 くんと縄が引かれるとより一層食い込む瞬間、背筋を駆け上がる痺れが意識を白く焼いた。
 何が起きたのか理解も出来ぬ内に膝から崩れる少女は、ぼんやりと彼を見上げる。
「いいだろ? もっとあげるよ」
 再びうねる縄、避けなければ、逃げなければ。
(「何故?」)
 どうして逃げていたのだろうか、こんなのキモチイイノニ。
「ぁ」
 次に掛かる縄は少女の全てを奪った、そこにいるのは息をする彼の操り人形だけ。

●捕縄
「せんきょーよほー、するよ!」
 今日も元気いっぱいな『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)の笑顔と、兄、紳護の仏頂面がリベリスタ達を出迎える。
「今日は、このおにいちゃんをつかまえてほしいの」
 くるりと回し、彼等に見せたスケッチブックには男性らしい下手糞な絵が一つ。
 それと共に何故か簀巻きにされた女性が数名。
 クレヨンでぐしぐしと描かれた予想図は、まさに子供の落書き相違ない。
「このおにいちゃんは、ロープを使うのがお上手なんだよ? それでみんなをぎゅっとして動けなくしたり、お人形さん遊びをするの」
 しかし、簀巻きにされた絵からすれば、お人形さん遊びというのはとんと浮かばないだろう。
 一通りの予知を伝えたところで、紳護が補足に入る。
「捕縄術というものを知っているか? その昔、江戸時代に栄えた武術の一つに当たる。記憶にありそうな例で言えば、時代劇で悪党が縛られているアレがそうだ。拘束する以外にも縄自体を武器として操り、戦うことも出来るらしい」
 何となくイメージが沸いたリベリスタ達が頷くのを見ると、紳護はコンソールを叩き、スクリーンに人物像を映し出す。
「竜魅 京一、竜魅流捕縄術を継承した男だ。この竜魅という家は代々リベリスタをしてきた家系でもあるらしく、彼も同じ戦列に並ぶ筈だったんだが……」
 含みのある言い方をしつつ、渋い表情を浮かべて俯き、額に指を当てる紳護。
 頭痛でもしてきたのだろうか?
「全力で拒否されたそうだ」
 彼の父、京三郎も縄を武器として使い、数々のフィクサードを懲らしめ、エリューションを消し去ってきた。
 だが代償として体は傷だらけ、指も数本欠損してしまい、ついには限界が訪れ、引退と相成る。
 狂人の領域ともいえる世界を垣間見た幼心からすれば遠ざかりたいのも無理もない。
 そんな情報が写真の隣に並ぶも、小難しい文字を見ても分からぬノエルは首をかしげている。
「……ぁー、その、理由なんだが。それほど難しい理由ではないんだ」
 微妙に重い雰囲気が立ち込めたところで、紳護の一言がそれを否定した。
「京一曰く、そんなメンドクサイ事に関わる気はないと断言して出て行った挙句、捕縄術でフィクサードまがいな悪さを続けている」
 とんでもないドラ息子が生まれたようです。
 あんぐりとしたリベリスタ達を尻目に、紳護は続ける。
「丁度傍を通りかかり、止めに入ったリベリスタ3名が捕まっている。逃げ出した一人が仲間を連れ、再度戦いを挑んで負ける未来、それがノエルの予知の様だ」
 それに関する情報が投射され、映し出された情報には妙な点が一つ。
 捕まっているのは女性だけだ。
 それを問う声に、紳護が頷く。
「その捕縄術に使われる縄は特殊なアーティファクトになっているらしく、それを使いこなした技の一つに縛った対象を操る技があるそうだ。恐らく護衛兼観賞用というところか、女好きと聞いた」
 ドラ息子で少々ゲスな野郎らしい。
 捕まった女に手出ししているのであれば、全力で叩きのめす必要がありそうだと息巻く彼等に紳護が慌て始める。
「ま、まってくれ。彼を捕まえてくるのが今回の目標だ、ある程度痛めつける事は仕方ないが、死なせたりしないでくれ。それと……彼の父曰く、アイツは踏み切る度胸が無いからヘタレだという話がある、変な事はしてない……筈だ」
 最後の一線を踏み越えていないのはせめてもの救いか。
 溜息零れる彼等に、紳護も苦笑いを浮かべる。
「捕まえた後は適当に絞ってやって構わない、だが程ほどに頼む」
「みんな、気をつけてね?」
 紳護から差し出される資料を受け取り、ノエルの笑顔に背中を押されれば、リベリスタ達はやれやれと呆れ気味に作戦を練り始めた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常陸岐路  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月27日(日)23:02
【ご挨拶】
 始めましての方はお初にお目にかかります、再びの方にはご愛好有難う御座います。
 ストーリーテラーの常陸岐路(ひたちキロ)で御座います。
 お色気です、紛う事無くお色気です。
 今までのテイストと違いまして、直球ストレートなお色気ではなく、変化球です。
 OPの冒頭の雰囲気が今回のテーマみたいなものなので、ご参考に。
 ちなみに捕縄術はれっきとした武術なので、いかがわしいことは考えないで下さい(棒読み
 濃度の具合はプレイングに一言添えていただければと思います。
 
 
【作戦目標】
・竜魅 京一 の捕獲
〔追加失敗条件〕
・竜魅 京一 の死亡。
・捕まったリベリスタの死亡。
・竜魅 京一 の逃走。
 
 
【戦場情報】
潰れたバー:乱雑に椅子やテーブルが散らばった空間です。周囲に窓が幾つか、出入り口は北に正面入り口、南に裏口(施錠有り)があります。特に待ち伏せなどの行動はありません。
 
 
【敵情報】
・竜魅 京一×1
〔詳細情報〕
 竜魅流捕縄術を使いこなす、若きリベリスタ……? 見た目はあまり派手ではなく、さわやかな感じに纏まっているので、ドラ息子という雰囲気とは離れた印象を感じるかもしれません。実力は鍛えられた所為でそこそこあります、参加したリベリスタの平均値を少々上回るぐらいというところでしょう。武器はアーティファクトである縄を使用します。
〔攻撃手段〕
※共通情報:拘束状態は自分では簡単には解けません、別の誰かに拘束を解いてもらうか、ロープを破壊してもらう必要があります。時間は掛かるものの、自分でも解く事は可能ですが、あまり良い手ではないかと。攻撃の属性は物理、神秘を自由に入れ替えてきます。
[早縄・檻]:遠単:二の腕と胴体を纏める様に縛り、両手首を後ろで交差させて拘束します。拘束時にダメージがあり、拘束されている間毎ターン少量のダメージを受けます。また、拘束中は移動以外の行動が行えません。
 
[本縄・絶]:遠単:幾何学的な模様を思わせる縛り方を胴体に施し、両手も頭の後ろで拘束します。拘束時にダメージがあり、拘束されている間毎ターンEPを失います。また、拘束中は移動以外の行動が行えません。
 
[責縄・処]:遠単:両手両足を拘束し、背中の辺りで縄を纏め、海老反り状態で吊るし上げます。命中率は少々低めですが、拘束時にダメージがあり、拘束されている間毎ターン大ダメージを受けます。また、拘束中は一切の行動が行えません。
 
[戦縄・獲(かく)]:近複:輪のついた縄を無数に放ち、引っ掛けたところを引き倒し、ダメージを与えます。場合によってBSショックを受けます。
 
 
・捕まったリベリスタ×3
〔詳細情報〕
 竜魅 京一 が捕まえたリベリスタに特殊な縛り方を施し、意のままに操られている状態です。倒すには行動不能になるまでダメージを与えるか、彼の術を解く必要があります。
〔攻撃手段〕
格闘攻撃:物近単:手持ちの武器で戦闘を仕掛けます。攻撃力が高めなので注意が必要です。
 
羽交い絞め:物近単:相手に取り付き、羽交い絞めにして行動を阻害します。ダメージはありませんが、捕まっている間は回避力が大きく下がります。これを解くには、これを使用した敵にある程度ダメージを与える必要があります。

【アーティファクトに関して】
竜魅式捕縄・京一型:捕縄術の為に作られた縄、武器として考えた場合の特記事項は無いが、捕縄術を使った際に効力を発揮する。相手の意識に介入し、拘束から抜けづらくする効果があるのが本来の効力。しかし、京一の影響か、恍惚感を覚えてしまう事で拘束から逃れる意思を殺ぐという奇妙な縄になっている。千切れても直ぐに生える様に復活し、彼の手の中に戻る。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
スターサジタリー
エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)
クロスイージス
高町 翔子(BNE003629)
レイザータクト
水無瀬 流(BNE003780)
ダークナイト
霧積・桃華(BNE003863)
スターサジタリー
アリシア・ミスティ・リターナ(BNE004031)
プロアデプト
一条 佐里(BNE004113)
レイザータクト
杜若・瑠桐恵(BNE004127)


「アークです! 大人しくお縄につきなさい!」
 バーの正面ドアを派手に蹴破り、突入した『空泳ぐ金魚』水無瀬 流(BNE003780)がビシッと京一を指差す。
「そうそう、緊縛趣味は男からするもんじゃないのよねーん」
 『バルバロイ』霧積・桃華(BNE003863)が流の啖呵に乗じているが何処か違う。
 今度は裏口から銃声が響き、ドアを突破した3人が彼を挟み撃ちにする形で姿を表す。
「こりゃまた……獲物が多いと来た」
 京一は一先ず正面へ二人、後方へ一人を走らせ、まずは突破を防ぐ守りを取る。
「捕縄術はれっきとした武術ですよね?」
 確かめる様に呟き、『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は迅雷の如く踏み込んでは拳を振るう。
「それが?」
「それなら良かったです」
 京一には彼女の表情が良く見えなかったが、それが後の命取りでもあろう。
 衝突の如く戦う素振りは見せるが、逃げの手を考える京一。
 手近の窓には、既に『ブレイブハート』高町 翔子(BNE003629)が立ち塞がっている。
「そこ、退いてもらおうか!」
 うねる縄の動きは不規則で、目で追いかけるのも大変だろう。
 縄の塊が放たれ、サイドステップで一気に回避すれば縄は脇を通り過ぎる、が。
 ぱしんとぶつかった縄が推進力を失った瞬間、機敏な動きで縄を握る手首を返し軌道を変える。
 一瞬にして縄は彼女の頭上に降り注いだ。
「くっ……!」
 胴体を締め付ける縄は二の腕も巻き込みながら、翔子の体を絞り上げていく。
 両手は後ろ手に拘束されてしまい、ぐいぐいと引き寄せられ、そのたびに縄が軋み、食い込む。
(「これだけの腕があるなら、戦場では頼もしい味方になれるはずなのに」)
 そんな真面目な思考を焼き尽くす縄の力が彼女へと浸透していた。
 背筋を駆ける感覚は、戦いで感じる死との境界線とは違う。
(「何、これ……? これがブリーフィングにあった力?」)
 心臓を強引に躍らせる『何か』、得体の知れないものは人に恐怖をもたらす。
 だが、喜びも同じものを躍らせる。たとえ温度が真逆であろうとも。
「どうかな? 束縛される気分は」
「さ、最悪に決まってるでしょ!」
 ぐっと唇を噛み締め、堪える翔子。
「本当に?」
 ごちゃごちゃと御託は並べない。狙撃の様なまっすぐ正確な一言が、彼女の思考をかき乱す。
 息を呑み、返答が紡げない自身に何故? と戸惑う翔子に、京一はニタリと笑う。
 崩れかけた彼女の心を掌握しようと縄を引くが、飛来した弾丸がそれを阻む。
 アリシアの射撃だ、続けて『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)の放った弾丸が、流星群の如く京一と操られたリベリスタ達を打ちのめす。
 直撃は避けるが京一も手駒もじわりと消耗していく。

 攻防の最中、京一は次のターゲットを絞る。
「さっきから何狙ってたのかな!?」
 前衛にいながら攻撃を仕掛ける様子の無い流が目に留まったのだ。
 不意打ちの縄が両手を頭上に、そして体には規則正しい網目を描く縄が施され、ゆったりとした服の上から締め付ける。
 細く未発達な体付きを、縄が容赦なくラインを描いて剥き出してしまうのだ。
「くっ、本当に動けな……」
 淡く引っ張られる動きに反射的に身を捩り、一層縄が締まる。
 独特な音が体を通り抜けて鼓膜を揺さぶり、ぞわっと体に弱い電気が巡る。
(「あッ、何です、これ…!? ぼうっとして、ピリピリして、ふわふわして、こんなの初めてです」)
 翔子の時と同じく、未体験の感覚が流の心をかき乱す。
 顔に出さぬ様にしても、縄をかけ続けてきた彼からすれば些細な変化も理解するに容易い。
「だ、ダメです、何だか、こわ……」
「怖いのは最初だけだよ」
 被せられた言葉はその証拠、口の中が渇き、秒毎に乗算されるかのような鼓動。
 怖い、なのに何故振り払わない?
 振り払えば締め付けられる。
 けれど受け入れたくない、なら動くしかない。
(「逃げたいのに、逃げられないっ!?」)
 どちらに転んでも流には逃げ道は無い。
 思わず体を揺らせば股座を潜った縄がピンと張り詰める。
「んぁっ!?」
 今までに無い甲高い声、それに驚いたのは流自身だろう。
 目の前の男は相変わらず笑うだけ。
「い、やぁ……ああっ……!!」
「水無瀬さんっ!」
 悲鳴を遮るかの如く『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)がオーラの糸を束ねた槍を放ち、ロープを切り裂く。
 散らばる縄に流は安堵の息をつくが、刻まれた闇はどんな影響を及ぼすかのは分からない。
 

「受け継いだ技を悪戯に使うのは感心しないわね」
「そう? じゃあどんな技か楽しんでよ!」
 次の目標はエルフリーデだ。
 一直線に迫る縄を、エルフリーデはライフルのストックで打ち払おうと試みる。
 だが京一は手首を返し真上に跳ね上げたのだ。
 バタバタと降り注ぐ縄を引き、一瞬で彼女を縛り上げた。
 捕らえたエルフリーデに絡み付くような視線を送りながら少しずつ縄を締める。
「何を……んんっ」
 菱形を幾つも描く縄目が、彼女の胸元をより強調するかのように体の肉を絞り込む。
 隠す事すらできぬ様に頭上での手首の拘束、白いシャツから形は簡単に分かるほど双丘の輪郭が迫り出す。
 食い込む縄が布地を巻き込み、美しい腹部のラインははっきりと晒され、冷たい風が擽っていく。
「いやぁ、お姉さん綺麗だね。惚れ惚れするよ」
 足元に転がっていた鏡の破片を彼女の足元へ蹴り転がす。
 ぼやけた銀の一面には、妖艶に彩られたエルフリーデが映り込み、理解した瞬間に白い頬に朱に染まる。
「気持ちいいのかな?」
 覗き込まれるような一言が、心を揺さぶる。
 何故かその言葉が心地よく、甘い。ビクンと身震いするが、瞳はまだ死んでいない。
「こ、こんなのが気持ちいい、なんて絶対に認めるもの、ですか、ぁ……っ」
 けれど、声はボロボロだ。
 上ずった高い音は彼の気分を良くさせるだけ。
(「暴れちゃまずい、と分かってても、自分がこんな獲物みたいにされるのはやっぱり気分が悪いわ。どうにか、抜けないと……」)
 右に左に、捩るほど食い込み、揺れるたびに鼻に掛かった声が零れる。
「やぁ、食い込んで……!?」
 ギュムッと響く瞬間、背筋に鋭い電気が走りぬけ、彼女の背が大きく仰け反った。
「んんぁっ!? ……癖に、な」
 膝を突き、息絶え絶えのところへ、強引に手駒を突破した佐里が剣を構えて飛び掛る。
「そこまでです!」
「おっと」
 赤い軌跡で縄を切ろうとするが、京一は縄を投げ捨てる。
 正確には切り離したというべきだろう、縄の端が柱に突き刺さり、エルフリーデは拘束されたままだ。
「焦らなくてもやってあげるよ?」
 攻撃を避けた京一は影を残す様に編みあがった縄の塊を置き、佐里はそこに突っ込む形で絡め取られてしまう。
「んぐっ!?」
 規則正しい並びを見せる縄の結び目が体に食い込み、剣を握る手を巻きつけるように頭上で縛り上げていく。
 攻撃の慣性が消えぬまま縛られたため、正に網に掛かった獲物。
 ギチギチッと盛大に軋む音と共に、体中が一気に締め付けられる。
「やだ……っ、これ、食い込んで……!」
 反射的に体を捩れば食い込む、けれどジリジリと体が追い込まれる感触は今までに無い新たな刺激。
 ゆっくりと吐息を零しては、縄に踊る。
(「ぁ……ちょっと、気持ち、いい……。擦れて、食い込んで……はぅ」)
 恍惚感を覚える甘美な痺れに表情が崩れ始め、逃げようとしていた筈の佐里はどんどん目的から外れていく。
「んっ……は……ぁっ、んん……」
 とろんとした瞳が彼を見つめ、視線に悪戯な笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
 あと一押しとあえて縄を少し緩める。
 驚き、吐き出す小さな寂しさの悲鳴。聞き逃す事無く、今度は視線が問い返す。
 これを言っては全て終わってしまう。
 それでも、それでも――こくりと喉を鳴らしたのは、残った理性の欠片か。
 カタカタと体を震わせ、佐里は頬を紅潮させつつ視線を伏せ、言葉を搾り出す。
「これ以上じゃ、なくっちゃ……駄目ぇ。お願い、もっと、きつくして……っ!」
「よく言えましたっと」
 緩めた縄を一気に引き、緩急のついた束縛が佐里の心を完全に縛った。
 喉を軽く退け反らし、茶色の長髪が激しく揺れ動く。
「んあぁっ!! あぁ……っ、気持ち…いぃ……ずっとこうしていたい……」
 くてんと床に転がり、縄に酔いしれる佐里の姿はリベリスタ達に動揺をもたらすには十分だろう。
 

 一気に二人の動きを封じられ、流れは京一の方へ傾きつつあった。
 彩花と翔子が拘束された二人の縄を狙おうとするが、京一の手駒達が身を挺して阻む。
 盾になる事でダメージを重ねるが、数の有利を抑えられるならば仕方ない。
「それならば踊れ!」
 ならば先に盾を破壊するまでと、『ヤク中サキュバス』アリシア・ミスティ・リターナ(BNE004031)は神秘の弾丸をばら撒き、手駒達の消耗に拍車をかける。
 しかし、被せるように縄が弾丸の雨を潜る様にアリシアへと迫っていた。
「ぐっ……!」
 右に振り、それから左へと飛び退いてとフェイントを入れて回避を試みたが、的確なロープ捌きが彼女を捉えてしまう。
 二の腕と体を束ねる様にして縛り上げるのだが、脇と肘の周辺の二点で縄を揃えて縛る構成上、彼女のたわわに育った胸元がこれでもかと言わんばかりに強調されていく。
「踊らされる気分はどう?」
「誰がっ!」
 己に刻まれた思い出の傷跡は、これで臆するぐらいの闇ではない。
 それでも戦う自分に、逃げ出した男の技術が簡単に通じるはずがないと。
 だが。
「んっ」
 ほんの少し動いた程度でも食い込む縄は、今までの記憶には無かった。
 そして技と縄に宿る力が傷跡を疼かせ、過去の甘美なる感触を蘇らせ、体を震わす。
「こういうのって『お店』だと私がする事なんだけどなぁ~」
 貴方お店でなにやってるんですか。
 桃華がアリシアの縄を断ち切ろうとするが、運命の悪戯か槍の切っ先は僅かに届かない。
「そんなお嬢さんにはスペシャルメニュー」
 空振った槍ごと腕を絡め取り、引いては体勢を崩させて、反対の腕を捕らえる。
 両腕に気をとられた瞬間、気付けば遅いと両足を縄で打ち払い、浮いた両足首を輪が潜っていく。
 縄を背中の辺りで束ねる様に捩り、結び、天井の梁を通せば体を弓なりに仰け反る。
「ひぐぅっ!?」
 生々しい音が振動で伝われば、痛みだけが支配するはずなのだが、それすらも気持ちよく感じるのだ。
 更に胸元が突き出すような格好になる為、アリシア同様、胸元を大胆に開いた服装から零れ落ちんばかりに上着が乱れてしまう。
 男の視線が、夜の世界になれた桃華の心さえも恥らわせ、それが縄の力によって恍惚感へと変わり、痛みから生まれた悦楽に溶け込んでいく。
「ぅあ……ぁぁっ……」
 だらしなく口元が開き、脳を真っ白に焼き尽くす激しい信号の嵐に桃華の表情は崩れるばかり。
「ここまでの縄師、みたことない……このきつさが快感になってくるなど……!!」
「ほんとだよぉ、こんな事『お店』でもやんないよぉ♪」
 アリシアの独白に桃華が体を軋ませながら同意を示す。
 互いの体を締め付ける縄、京一はその端同士を結び合わせてしまう。
 そうすれば互いの動きで互いを締め付けあい、二人は互いを強制的に追い込ませていく。
「だめぇ! 体が絞られちゃぅ! で、出りゅぅ……♪」
「わ、私もぉ……っ、ひぁぁっ!?」
 桃華の言葉通り、体液を搾り出す様に食い込む縄が体温を上げてしまうのか、二人の太股や胸元を伝って透明な雫が滴る。
 痙攣する度に飛び散る様は常軌を逸していた。
「あらあら大きな胸がはち切れそう……そんなに悦んじゃって」
 弄ばれるアリシアと桃華を目を細めて眺め、楽しそうに呟くのは『アスター・ビーストテイマー』杜若・瑠桐恵(BNE004127)だ。
「本当に女を奏でようと思うなら、残った私達も頭数に入れないと……それが出来る?」
 ゆったりとした口調は余裕の表れ、勿論京一からすれば少々気に食わないだろう。
 挑発だけと思わせぶりに、不意打ちのフラッシュバンを振りかぶるが既に縄が手首に掛かっていた。
「危ない危ない」
 体を彩る幾何額模様の縄目、頭上では手首の動脈を重ねて交差した両手が拘束されてしまう。
「フフッその調子よ、あなたの本気を見せて御覧なさい」
 京一の意識を自分へと引き寄せ、目配せもない瑠桐恵の考えに、動ける3人は意図を理解する。
 ご期待に御答と、更に縄を重ねた。
「はひっ!?」
 縛った両手を更に後ろへと引き、足首にかけた縄を背中へと引き寄せる。
 宙吊りになる体、胴体に掛かった縄を四肢から伸びる縄に重ね、より激しい束縛を見せた。
 フォーマルな服装に隠された体つきは、布地と体が密着することで露となる。
 くびりだされる大きな双瓜、なだらかにくびれた腹部から妖艶に盛り上がる臀部が窮屈そうに縄目の中で震えていた。
 オマケと首に縄がかかり、顎を引っ張りあげて色香の漂う喉元が反り返る。
「これしゅごぃ……っ♪」
「仕上げ!」
 捩り、太縄となった無数の縄を一気に引っ張れば繋がった縄のすべてが瑠桐恵を絞る。
 裂ける音、食い込む音、砕ける音、体中の悲鳴が届くより先に瑠桐恵の脳を刺激が貫く。
 痛みでしかないはずの全てが快感とへ変換されれば、一瞬にして意識を消し飛ばそうとした。
「こんな激しいとこわれりゅ……ぅっ!!」
 欲望の渦に飲み込まれる瑠桐恵、これで残るは3人と立場が逆転するが――。
 

「さて、後は貴方だけです」
 彩花の言葉が示す現実、なんと手駒の女は全て倒されていた。
 瑠桐恵に夢中になっている間に流の絶妙なタイミングで投げ込んだフラッシュバンで動きを封じ、彩花と翔子の鉄槌で畳み掛けた結果である。
 更に束縛されていた3人を開放済み、5対1と圧倒的有利だ。
「マジかよ、って!?」
 再び京一へ壱式迅雷による連続攻撃が放たれる。
 彩花の鍛えこまれた拳と蹴撃は鋭く、縄を束ねて作った棒では受け止めきれない。
「このっ!」
 縄を解き、腕を絡め取れば全身を包む様に広がっていく。
「いやっ……!?」
 ブラウスのボタンが弾け飛びそうなほどに六角形の縄目が食い込み、四方八方で引き合う縄が互いを締めあう。
 短いスカートの中央を縄が通り抜け、裾が捲り上がり、胸元も襟元が広がって、白く深い峡谷がよく見える。
「あ……ああっ、やはぁあんっ♪ な、なにこれ……だめっ♪」
 痙攣する様に体が跳ね、その度にしっとりとした吐息が零れる。
「気持ちいいっ♪ 身体が熱いっ♪ じゅんじゅん来ちゃうっ♪ イヤなのに、身体が勝手に……ああぁもっとぉ♪」
 露骨な程突き出されるバスト、それも男が憧れる大きく綺麗な一品、強引に理性を追いやろうとする。
 頬はうっすらと上気し、先程までの凛々しい顔立ちはトロトロになっていた。
 これが本性か? 京一は激しいギャップに息を呑む。
「だめだめ、もう……もう堪忍してぇっ♪ 縄なんかじゃもどかしいのぉっ♪ 貴方のその手で、私を……彩花をめちゃくちゃにしてぇっ♪」
 それが上目遣いとなり、口の端から涎まで垂らして自分を懇願するのだ。
 お前には度胸がないと散々言われていた京一は、初めて据え膳食わぬは男の恥を理解し、両手を伸ばす。
「お楽しみのところ悪いわね」
 エルフリーデの弾丸が縄を断ち切る、その瞬間に魔法は解ける。
 表情が元に戻っていく彩花と、青ざめていく京一。
「……なんて言うと思いました? 死ね」
 勿論殺すつもりはない、だが殺さねばよいといわんばかりに京一の後頭部を掴んでコンクリートの地面に叩きつける。
 スイカを叩き潰した様な音、色を持って戦いは幕を閉じた。
 
 命の効きを感じた京一で亜春が、今は縄でグルグル巻きにされて如何にか生きている。
 仕返しと彩花が彼の縄で縛り付けたのだが、効力は発揮されずつまらなそうに地面に転がす。
「私も捕縄術を覚えれば、これを使いこなせるでしょうか……」
 京一の縄を拾い上げ、佐里が静かに呟く。
「俺と同じにはならないだろうけどね、お姉さん好きそうだからあげるよ。ちょっと縄触らせて?」
 全力で警戒される中、後ろ手に縄を触れ、半分に切れた片割れを佐里へ差し出す。
 嬉しそうに受け取る佐里だが、仲間から向けられた視線に慌てふためく。
「あ、いえ。捕縄術はれっきとした武術なので、いかがわしいことは考えないで下さい」
 
「ねぇねぇどうだった、縛られるのって楽しいでしょ?」
「……楽しくないわよ」
 桃華が嬉々として彩花に問いかける。
 むすっとした様子でそっぽを向く彩花だが、あの声は何処までが演技なのか?
 それは彼女のみぞ知る事。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 今回は長くお待ち頂き、申し訳ございません。
 如何でしたでしょうか?
 今回は間接的なお色気という事で、雰囲気や表情等で醸し出すのが目標なのですが、それが感じていただければ幸いです。
 文字数との戦いが一番難しかったですが、濃厚に纏めさせていただきました。
 個人的には露骨なほどのお色気展開よりは、今回のようなジワジワと来る様な少し道はずれな展開の方が好みだったりです。
 再び趣味満載なストーリーを出したいなと思います。
 ではでは、ご参加頂き有難うございました!