●緋袴の舞 たおやかに連なる山裾から、やっと朝日がのぞきはじめた、真冬の早朝。雪が残る山間の細道は、厳粛でさえある冷気をたたえていた。 そのただ中を、ひとりの少女が駆けていた。両頬はりんごを思わせるほど紅潮し、唇から白い息がもれるペースは小刻みで早い。それなりに長い距離を走ってきたのだろう。それでも、彼女の足取りが軽快なのは、今日が彼女にとって人生ではじめてのアルバイトだったからにほかならない。それも、若い女の子にしかつとまらない、山頂にある神社の巫女さんだ。朝が早くたって、どんなに寒くたって構わない。早くあの緋袴を着てみたくいんだ――浮き足立つ心は山頂へと向かう脚を急かし、小気味よい靴音を響かせていた。 ふと、その靴音が止まった。 はねる呼吸を整えながら、少女は思わず首をかしげる。山道を囲む針葉樹林から、ひとりの女がふらりと目の前に姿を現したのである。あまりに唐突な出会いにおどろきはしたものの、女の装束を認知するやいなや、彼女はすぐに合点した。女の衣装は、少女がこれから着るであろう、緋袴そのものだったからだ。 (きっと、先輩の巫女さんがわたしよりも早くに出勤していたんだ) 第一印象が肝心だ――そう思った彼女は、勢いよく頭をぺこりと下げた。 「はじめまして! わたし、これから神社で働かせていただく――」 それが、まずかった。 ほんの少しでも礼をするタイミングが遅ければ、緋袴の女が後ろ手に携えていた刀の存在に気がついていただろう。そうすれば、目前の何者かが尋常ではないことを察知できたに違いない。 いや、もしかすると、幸いだったのかもしれない。 頭を下げたまま挨拶をしていたことで、彼女は最期の瞬間まで、自身の首筋に迫る凶刃の存在に気づくことはなかったからだ。恐怖も絶望も知ることなく、彼女は残雪を血染めにし、逝った。 ●舞台の幕が開く前に そこまで話し終えた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、一瞬だけ眉をひそめたように見えた。しかし、改めて彼女がリベリスタたちを見渡したときに見せた表情は、普段通りの人形じみた冷静さとなんら変わるものではない。 「貴方たちは、そんな運命が、幸いだなんて言える?」 リベリスタたちは、答えない。みなの回答はひとつだ。あえて口に出す必要もない。 「――そう、それでこそ」 そっとささやくように呟いたのち、イヴは彼らへの依頼を告げる。 この山道に出現したのは、エリューション・ゴーレムと化した8振りの古刀。そのうちもっとも力が強い1体が自らを握る女の幻影を形成し、残り7体を幻影の内側に隠している。そして、自らの切れ味を試すべく夜の林中をさまよっているという。エリューションが活動をやめる直前である早朝に運悪く少女が通りかかったため、このような惨劇が発生してしまったのだ。 「皆に頼みたいのは、このエリューションの撃破。こんな出来事が起こるより先に、根本を断ち切ってきてほしい」 少女より早く凶刃の群れを迎え撃つには、まだ日が昇っていない薄暗い山道を歩むことになる。しかし、武士道精神のまねごとか、闇を利用しての不意打ちは行おうとしない。かならず一度は、獲物の正面に姿を現してくるようだ。また、幻影をもたない7体は、刀剣類を持つ相手には一対一の勝負を挑みたがる。相手の得物が刃物とわかれば、木々に隠れようともせず、真正面から向かえる者に斬りかかってくるようだ。 「でも、忘れないでほしい……緋袴の女のなかに、刀が隠れていることを」 遭遇したばかりの相手は一人のように見えても、実際には敵は8体いるのだ。戦闘の最中であっても、勝負の相手を得られなかった刀は、女の中に隠れてしまう。女は、その体内のそれを操って複数の相手にさえ攻撃を放てるのだ。 「古刀とはいえ、もとは武器として生まれたもの。威力の高い攻撃を得意とするみたい。それでも、貴方たちになら任せられる……きっと、成し遂げてくれるから」 矢のようにまっすぐなイヴの眼差しに答えるように、リベリスタたちはゆっくりとうなずいてみせた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月04日(月)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 安閑とした神地が、暗澹とした死の原へと変わる様を、誰が望むというのだろうか。 業物とは純粋であるからこそ刃にその有り様を映す鏡となるのであり、革醒によってその有り様を変えたそれは、最早誰の心も映さないのだろう。 果たして、それは一個の意思となった道具でしかなく、実際『そう』なってしまった。自ら堕した刃に、価値は無い。 「なんというか、仕事柄、見慣れたモノではありますが……」 眼前に、敵として現れるとたじろいでしまうのは『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)だからこそ、ということか。 緋袴を身につけた女性――の姿を取った刀のエリューションは、それに込められた年月と想いとをありありと示しているようにもとれた。 彼女の知る限りでは、緋袴とは宮中職の象徴でもあった時代があったという程度の知識はある。つまりは、それだけの品格を持っていた可能性すら、この刀は持ち合わせているのだ。 誇りをかけて戦うことを由とするのは、そこに由来するのだろうか……エリューションなので仕方なし、と思うのはあろうが。 「あたしゃ元巫女だかんねぃ。この仕事の酸いも甘いも知ってるさねぇ」 巫女としての過去を僅かに記憶から引き出しつつ、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)は抜き身の斬馬刀――『月龍丸』を正眼に構えた。 常に纏わり付く過去が自らを縛るとするのなら。それを断ち切る刃が己の意思であり、携えたそれではないだろうか。 或いは、写身にすら見えるかもしれない。正面から打ち合い、その真価を問うことは、宛ら自身の在り方を問うことにもなりうるのではなかろうか。 「それにしても、ハカマの女が刀を振るう? ……これもサムライなのか?」 日本語で一騎討ちとは『タイマン』であるとブリーフィングルームで理解してしまった『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)にとって、目の前の緋袴は彼の日本文化への混乱を増長する存在でしかなかった。 悲しいことに。彼の誤解を解いてくれる優しい日本人は実は少ない。あと強ちその認識は間違ってない。 加えて言うと、袴と刀剣の親和性はこと日本においては殊更に高く、目の前の女のような姿も……まあ、或いは居た可能性というのはあるだろう。 それが彼の言う『サムライ』とはかけ離れていることは、敢えて語るまでもないのだが。 「むむ、一対一に心惹かれるその心性には頷きますが……」 他の刃は一対一を望みながら、最も力を持つ一振りが無闇に人を殺す状況というのは理解できないし、何より目的のために好き勝手害を振りまいていいわけがない。技を磨くことに理解は出来ても、その技を無闇に振るうことは『娘一徹』稲葉・徹子(BNE004110)にとって殊更許せない事だろう。 ある意味では彼女の対局とも言えるその存在は、断固として打ち倒すと気を吐くのも無理からぬ話である。 ……ときに。立派な木刀である筈のそれに銀紙が貼ってある辺り、彼女の向きを真摯ととるべきか真面目だなあとほっこりするべきか凄まじく迷うわけだがそれはともかく。 「こちらで扱えるような物ならまだ回収って手もあるんだろうけど……ね」 或いはエリューションでなければ、宇佐見 深雪(BNE004073)の言葉は正しかったのだろう。だが、思念体をも産むレベルになってしまった以上、それは明確に世界の敵となった。 破壊されるに足る存在となってしまった。ならば、その意思に沿う戦いを提供することこそが彼らにとっての是であるのだろう。……悔しいことに。彼女は刃を扱わないが為に変則的な戦いを強いられることとなるのだが。 「ふっ、刀のエリューションゴーレムとはな。作り手の情念が濃厚に過ぎたのか、あるいは刀と言う物の形が持つ業なのか」 『Dreihander』――刀型の能力補助デバイスを構え、その姿の業を語る『エリミネート・デバイス』石川 ブリリアント(BNE000479)の表情にはどこか諦観にも似た空気が感じられた。 奇しくも、特に考えるでもなくその形を採っていた刀が役に立つ局面にあって現れた敵の業に触れるにつけ、喜ぶべきか否かは微妙な話であるが。 「私が持つ刀は、私も含めて所詮デバイスだが……そう言う意味ではその業から逃れられないのかもしれないな」 ふっ、と首を振って言い切った表情に混じる笑みは―― 「……きまった! カッコ良さそうな言葉を一生懸命かんがえてきた甲斐があったな!」 はい、だいたい全部彼女の前フリです。本当に有難うございました。 「タイマンかぁ……そーゆーのはちょっと好きかも」 戦いに美学を求める向きは、『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)にも理解できなくはなかった。今まで幾多の戦いを経て、相応の感情に触れて、それを理解できないなんてことは無い。 それぞれの敵に、戦いに、相応の美学が存在する。それは紛れもない事実であるのだろうと思う。 だが、でも、と彼女は思う。口にだすことは無いが、それに対して異を唱える自らの意志があることも間違いではないのだ。 「――あたしは禍を斬る剣の道、絢堂霧香。古き刀達よ……いざ、参る!」 抜き身の刀の鋒を揺らし、品定めをするように重心を後方に傾けた緋袴の幻影に対し、『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)の声が朗々と響き渡る。 戦装束。戦いを求める者として、その姿勢を叩きつけるべく。飛び出した刃を迎え撃つように、その刀『櫻嵐』は、抜き放たれた。 ● 作戦自体は、語るべくもないくらいにシンプルなものだ。 言ってしまえば各個撃破。刃に連なる得物を持つリベリスタが緋袴の女から刀を引き出し、一対一の戦いに持ち込む。 残るメンバーによって緋袴を抑え込む。余力次第で行動に幅を持たせる……基本に則った、有用性の高い戦い方である。 「くくく、我に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」 「あなたの相手はわたし達だよ!」 緋袴から都合五本の刀が飛び出したのと合わせる様に、御龍と旭が正面から打ち掛かる。既に御龍に関しては戦闘のスイッチが入っているのか、口調すら交えての豹変具合。 一対多であることに一切の意思を向けず、刃を構え舞う緋袴の動作を、旭は始点で弾き、焔腕を叩きこむ。 弾かれた位置から更に軌道を変え襲いかかる刃に、しかし御龍は避けようとはせず、敢えて受けながらも気の流れを炸裂させ、次の一撃へと意識を馳せた。 「タイマンがしたいのだろう? そら、相手になってやるからかかって来い」 鈍であっても、刀であることに変わりはない。女の身から飛び出し、勢いに任せて打ち込まれた一撃はハーケインの身を僅かに沈める程度には重かった。だが、彼の構える剣は処刑用の、遡っては斬首に特化した平刃のそれだ。 刀のような優雅さこそ無いにせよ、受け、そして反撃に持ち込むのにそれほどに適した刃など早々無いと言わんが如く、刀の魂すら奪わん勢いで下方から振り上げる。 タイマン上等――そんな言葉があると彼が知るのは後の話だろうが――言葉にするに足る程度には、彼は剣士であったのだ。 「さ、出て来てちょうだい。心行くまで相手してあげる」 鞘付きのペーパーナイフをちらつかせ、深雪は襲いかかる刃に対し構えを取った。 元より近接の殴打戦に長けた彼女の構えは、剣を持つそれとは大きく異なるのだが……刃にとっては、そんな細かい所作などどうでも良かったのだろう。 彼女のペーパーナイフ目掛け、打ち合わせることを狙いつつ当たるを幸いに滅多打ちを向ける軌道は、確かに激しいものだ。 だが、弾き、或いは生身で受け止める彼女とてされるがままになる為に対峙したわけではない。 そのペーパーナイフが自らに対するフェイクであると刀が認識するが早いか、深雪の手が刃へ触れ、白刃取りから身を捻り、地面へと叩きつけられた。 その一撃で決すことは無いとはいえ、主義を曲げてすら戦うことを刀に選択させる程度には、その一合は効果的だったのだろう……僅かに距離を取った刀は、緋袴の身体へ戻ろうとはしなかった。 「あなた方の中に、稲葉徹子と仕合いたい者は居ますか!」 銀紙を貼りつけた木刀を構え、徹子が声上げた声に応じた刀は、その質量と勢いのままに正面から叩きつけて来る。 動き自体は素直なものなのだろう。だが、持ち手が居ない刃は『挙動』がない。精々が刀身の動きを見切ることだろうが、それも言う程に簡単なものではないのだ。 正面から振り下ろされる刃は、徹子が反応を示すには速すぎる。柄元に触れたことで若干の軌道を逸らすことは出来たが、思いの外、彼女が受けた傷は深くもあった。 ……滅多打ちとなれば、当たりこそ浅いだろうがこれ以上ということか。彼女の首筋を、冷たい汗が伝った。 「今回の敵にはあわないかもしれませんが……」 前方で緋袴との戦闘を続ける面々が射線を防いでいるとは言え、自らに向かって襲い掛かる刃の脅威が全く無いとは小夜とて思っては居まい。 正面から矢で撃ち落とすか……否、そこまで難度の高い行為は出来はすまい。ならば、自分が、或いは味方が受ける痛手以上の回復を奮うことが自らの役目だ。 緋袴の女から放たれ、風を切って向かってくる刃に腹部を深く裂かれながらも、天使の歌を止めず、強かに声を上げる。 可能性を捨ててはならない。孤立してはならない。戦うのであれば、一瞬でも油断してはならない。 彼女とて、リベリスタとしての経験は十二分に積んできた類だ。気を抜くつもりなど、全くない。だからこそ――その危急の事態に、視線が向くというものか。 「貴様が戦いの申し子と言うなら私も同じ……躊躇などなーい!」 数合を経て、未だその意思を衰えさせることの無いブリリアントであったが、それでも相手は只の刀ではなく、異常なまでに研ぎ澄まされた戦意を持ったそれであったことが不利を向けることに起因していた。 振り上げた刃が芯を捉え、大きく吹き飛ばしたまでは彼女の予測通りであり、味方から距離を置かせるという点については成功している。 だが、それは同時に、自らも回復などの支援が受けられぬ領域へ足を踏み込む危険性があるということと一致する。 全力で味方から離そうとしたがためか、僅かな隙でも見せるのは重い道理がある。受け止めるには厳しい状況がある。 往くと退くとを誤れば、これ以上のダメージも否めない……ギリギリの状況下、だった。 「次、出ておいで! あたしはまだまだ戦えるよ!」 正面から打ち合い、速度で上回り、或いは渾身の打ち込みすらも容易に避け、剣士としての全力を奮うことで……驚くべきことに、霧香は彼の刀との交戦をほぼ無傷で制することに成功していた。 僅かな油断などがあれば或いは手傷を負っただろうが、速度に加え、相手に反撃の隙を与えず連撃を叩きこむことが出来たことも、その圧勝に起因する。 彼女に手傷を負わせるのであれば、『刀だけ』のそれは余りに片手落ちだったとでも言うべきレベルだったのか。 「ちっ……」 御龍が、加勢に向かおうと背を向けたタイミング。緋袴は、刃を持つ相手が背を向けるというその状況に、一切の躊躇を許さなかった。 背後から押し付ける様に、刃をその肩口へと深々と貫き徹す。 状況が拮抗しているにも関わらず背を向ければ、こうなることは予測できた筈だ。刀の意思を煽りながらその主義を破ろうとすれば、その報いは受けるだろう。 ……その状況が正しかったとは言わないまでも。彼女に緋袴が殺意を向けたことは、或いはリベリスタに有利に働いたといえよう。 刃の欠ける音が、響き渡る。劣勢だったブリリアントの前で、彼女のものではない一撃がその刀を砕いたのだ。 「野暮だって言われたって負けらんないの!」 それは、僅かな隙を縫って放たれた旭の斬風脚だった。 突きは、相手の身体を貫通する際、斬撃と異なり僅かな隙が生じるものだ。偶然とはいえ、その隙を衝くことで援護することを可能とし、結果として完全なる不意打ちとして成立させることが可能だったのだ。 経過はどうあれ、砕かれ、或いは一対一の戦いに持ち込まれた七振りの刀は女の身体から抜け出て久しい。 あとは、各人の意思と、一振りの業物との意地の張り合いと言えた。 ● 「お前と俺の剣、どちらが上か勝負だ」 刃は欠け、傷も多く、既にぼろぼろになった刃に更に負荷をかければ、待ち受けるのはどうしようもない崩壊である。 刃同士の打ち合いで傷を増やし、尽きかけたその刃の意地にハーケインが声を上げる。 最後まで戦えと、戦士としての意地を貫き通すべく。 果たして、刃同士の最後の一合は正面から、叩きつけるように砕ききり、彼に勝利をもたらした。 「武の道を行く以上、負けたら何も言えなくなる……! ここで倒れるわけには行きません!」 相応の回復を受け、相応の打ち合いに持込み、或いはその威力にたじろぎもした。だが、徹子の心を折るにはその刀は貧弱だった。 彼女の『全力』とその意思を前にして、既に斬るに足る刃を持ち得ない刀が神秘に裏打ちされた木刀の強靭さを、或いはその背景にある彼女の意思を両断するには弱すぎたのだろう。 徹子の宣言と共に放たれた一撃は、正面から振り下ろされ、確実にその刃を柄元から圧し折った。 「……無駄どころじゃなかったわね」 かなりの深手を受けはすれど、深雪の両手に挟まる様にして、両断された刃が添えられていた。 白刃取りを試行すること数度。投げの応用で未了ながら着実に痛撃を与えることに成功していたがためか、浅い振りを狙った白刃取りは遂には成功を収め、その刃を半ばから断つことを可能とした。 緋袴への援護を、と足を向けようとするが、力が抜けていることは理解できる。戦線復帰へは、僅かながらでも、時間は必要だったのかもしれない。 旭の拳に、幻影を打ち据える感触が返ってくる。 奇妙な感触ではあるが、確実に分かることは――彼女は、敵に明確にダメージを与え、力を向けているということ。 その感触を彼女は好まない。だからこそ、拳を奮うことを止めず、叩きつけ、或いは相手の一撃を受け止めることに使い続けていた。 力が正しいとは思わないし、使い方次第で暴力になるからこそ、自らのそれを正しいと断じて決定的に『間違わない』為に、その感触を敢えて受ける。 それが、彼女の決意である。 旭の拳が刀の峰を弾き、御龍の一撃が大きくその幻影を弾いたタイミングで霧香がその間合いに踏み込む。先程まで抜き身だった櫻嵐は鞘に収められ、彼女自身の手が添えられた、正しく『その構え』である。 「――片割れだけじゃ、寂しいよ」 剣閃が、桜の如き光を纏って放たれる。十重二十重に刻まれた連撃は、確実に幻影を薙ぎ払い貫き斬り裂いて、消滅させんと振り下ろされた。 ● 「はじめまして! わたし、これから神社で働かせていただく――」 「そんなに急いでぇどうしたのさぁ?」 慌てて石段を駆け上ったのであろう、少女の頬は僅かに上気していた。 目の前に居た女性は堂々たる立ち姿で、緋袴ではあろうが神々しさというよりはむしろ、強かさを感じさせもする姿だった……その口元から視線を切れば、確かに巫女らしいといえば非常にらしい。 傍らに目を向ければ、もう一人……成程、こちらは楚々として非常に堂に入った姿をしている。彼女の持つイメージ通りでもある。 「うんうん、きっと巫女服も似合と思うよぅ」 両者に視線を交互させた少女は、暫し言葉に詰まっていたが……前者の巫女服の女性、御龍がぽんと肩を叩く。 どうやらここの巫女ではなく、たまたま居合わせただけ、なのだという。 我に返ったように声を出そうとしたらそんな褒め言葉を受け取ったものだから、彼女はどうしていいか分からなかった。 自分も割合早く来たつもりではあったのだが、既に参拝客も数名見受けられる。 嗚呼、急いで支度せねば。 そんな様子の少女を尻目に、リベリスタ達は石段を降りていく。 霧香の手には、幾重にも布で包まれた刃達が眠っている。 それがリベリスタの何れかに渡ることは無いにせよ。 その意思は、その有り様は、確かに彼女と彼女らの心に刻み込まれることとなっただろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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