●名探偵ここにあり ゴゴゴッと外では雷鳴が鳴り響き、部屋の窓からはピカピカと雷光が差し込んでいた。 とある洋館の応接間――。 複数の警察官と刑事らしき人物に囲まれながら、輪の中心にいる青年はすやすやと眠りこけていた。 「うへ、うへへっ……」 などと、時折はにかむその口元からは、だらしなくヨダレが垂れている。 しかしそんな青年の気持ちの良さそうな表情とは正反対に、周囲の警察関係者達の表情には驚愕の色が浮かんでいた――。 刑事らしき男が、震える手で青年の肩を叩く。 「此処助さん、此処助さん!!」 青年は「うぁ……?」などと間抜けな声を上げながらも眠そうにその眼を開いた。 「此処助さん! 今回の推理は素晴らしかったですぞ!」 此処助と呼ばれた青年は、しばらくぼーっとした様子で周囲を見渡していたものの、やがて自分がどういう状況に置かれているのか気づいたらしく、肩を叩いた刑事らしき男の顔を不思議そうに見つめ、 「えっと……誰が、推理したんでしょうか?」 などと間の抜けた答えを返した。 「なにをおっしゃいますやら。兄である午後助さんに勝るとも劣らない完璧な推理でした! 犯人に対して指名手配の指示も出しましたし、逮捕も時間の問題でしょうな!」 満面の笑みを浮かべ、興奮した様子で刑事らしき人物はそう告げる。 「はぁ……そりゃどうも」 青年は、なんとも他人事のようにそう呟いた。 周囲では、警察関係者達から賞賛の拍手が鳴り響いている。 その中心で不思議そうに愛想笑いを浮かべるこの青年こそ、天才と謳われた稀代の名探偵『安民午後助(やすたみ・ごごすけ)』が弟、『安民此処助(やすたみ・ここすけ)』その人であった。 ●真実は……あれ、真実っていつもいくつだったっけ? 「残念ながら、彼の推理は間違っているんです」 映像を止めた『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はそう言うと、リベリスタ達へと向けそう切り出した。さらに続けて、 「正確には『此処助』さんではなく、彼のお兄さんの『午後助』さんの推理が、ですが」 と付け加える。 和泉からの説明によると、和泉の予知した映像に映っていた青年、安民此処助には天才と謳われた名探偵の兄がいたらしい。 兄の安民午後助は数多の難事件解決に貢献してきた人物なのだが、ある時運悪く革醒してしまい、体には年齢の退行が起こり小学生程度の外見年齢となってしまった。 そして更に運の悪いことに、地元のリベリスタ組織に見つかり命を狙われることになってしまう。 結果、午後助は弟に迷惑を掛けたくないという一心で姿をくらませてしまったのだ。 「不幸中の幸いでしょうか、午後助さんはその後の逃亡生活の中でフェイトを獲得するに至りました」 フェイトを得たことで、リベリスタから狙われるということもひとまず無くなった。それで、ずっと気がかりだった弟の様子を確かめるため戻ってきたのだが……。 兄である午後助が不在となり、跡を継いで弟の此処助が探偵事務所を引き継いだらしいのだが、かつての栄光はどこへやら、事務所はすっかり寂れてしまっていたのだという。 「残念ながら弟の此処助さんには、華麗に事件を解決するような『推理』の才能はありませんでした。彼に出来たのは、迷子の動物探しくらいで……」 その結果、探偵事務所の評判は悪化の一途を辿り、もはや廃業寸前。 肉体が変異し、神秘側の人間となってしまった以上弟の前に出ていくことは憚られる――それでもなんとか弟の役に立ちたいと思った午後助は、熟考の末にある作戦を思いつき、それを実行に移すことにしたのだ。 「これを見てもらえますか?」 そう言って和泉は、先程の映像から少々時間を遡った映像を再生する。 映像では、此処助が椅子に腰掛けている。その瞼は開いており、刑事らしき人物となにやら話し込んでいた。そして背後の柱の影にちらりと少年の姿が写り、そこから飛んできた針のようなものが此処助の首筋に刺さった瞬間、此処助は首をカクンと下にして寝息を立て始めた。 だが不思議なことに、此処助は寝息を立てながらも言葉を発し始める。 「皆さん、お待たせしました。どうやら、今回の事件の犯人が分かったようです。その犯人とは――」 ここで、和泉は映像を止める。 「午後助さんの企みとは、弟の此処助さんを眠らせ自分が代わりとなって推理をするというものでした。ですが……」 和泉は止めていた映像を再び再生した。 映像では、此処助(の声真似をする兄の午後助)の推理を警察関係者達が固唾を飲んで見守っている。 「その犯人とは、えー……第一発見者のあの男です。なぜなら、えっと……そう、顔が凶悪そうだから!」 午後助がそう言い放つと、周囲の警察関係者からはどよめきが漏れる。 「証拠とかないけど、多分そうです! あの顔は、二、三人くらいは殺っちゃっててもおかしくないと思う!」 しかし、午後助の推理とも呼べない戯言を聞いているうちに警察関係者達の瞳は虚ろになり、やがて納得したように全員が頷き始めた。 「……推理の天才と謳われた兄の午後助さんなのですが、革醒の影響なのかその神懸かり的な推理力を失ってしまったようなんです」 つまり、午後助の言葉は完全なでっち上げで、犯人は全くの別人。今の彼にはかつてのような冴えはなく、むしろ普通の人よりお馬鹿なくらいとのことらしい。 だが、なぜあんな小学生でも分かるくらいの出鱈目な推理を警察関係者は信じてしまったのか――。 「彼の持つアーティファクトの一つに周囲の人間を惑わせるものがあって、その影響で彼の出鱈目を信じてしまったようですね」 和泉の説明によると、午後助は強力なものではないが更に二つのアーティファクトを所持しているらしい。 「事件自体は一般人の手で起こされたものとはいえ、神秘の介入により無実の人が逮捕されるのを見過ごすことは出来ません。皆さんで、午後助さんの企みを阻止して下さい」 そう締めくくると、和泉はリベリスタ達を件の洋館へと送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:外河家々 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月19日(土)23:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『名探偵』参上 夜の帳と、響き渡る雨音に紛れて。 洋館の塀を軽快に跳び越え、激しい雨が降り注ぐ中庭へと小柄な影が降り立つ。雷光に照らされ浮かび上がったその姿は、かつて名探偵と謳われた男『安民午後助』だ。 彼は辺りをキョロキョロと見渡すと、その口元に笑みを浮かべてみせた。 洋館内部へ通じる扉へゆっくりと近づき、そっと手を掛ける。しかし、そのノブが回されるよりも先に……。 「ペロッ……これは間違った推理の味ですね……」 突然、背後から聞こえてくる声。 午後助が慌てた様子で振り返ると――灰色髪の細身の女性が、なんとも格好の良いポーズを決め立っていた。 午後助の作戦を阻止するために彼の侵入を待ち伏せていたリベリスタ達の一人、『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)だ。 その手には、カラフルなペロペロキャンディが握られている。どうやら、先程の「ペロッ」は、これを舐めたときの音だったらしい。実に美味しそうだ。 そしてもちろん、その場に居るのは彼女一人ではない。生佐目を含めた七人の男女が、午後助の背後に立ちはだかる。 (いや、普通にペロペロキャンディの味でしょ……) と、ポーズを決めたままの生佐目に向け、内心でツッコミを入れる『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)もその一人だ。 「よう、遅かったじゃねえか“元”名探偵」 「――御機嫌よう、安民午後助。今日は貴方に話しがあってやって来たの。少しお時間良いかしら?」 羽織ったレインコートのポケットに手を突っ込んだまま、『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)が白目がちの瞳を午後助へと向け声を掛ける。次いで焔も、フレンドリーな笑顔で話しかけた。 ――焔は、少年姿となった午後助を名前で呼んだのだ。革醒以前の彼ならば、即座に相手が神秘側の人間であるということを推測出来ただろう。だが―― 「な、なんだオマエ達? なんでボクの名を知ってるっ?」 今の午後助は、革醒時の影響でお馬鹿になってしまっている。そんな簡単な予測にすらも思い至らず、リベリスタ達へと不思議そうに顔を向けるだけだった。 「分からないのか名探偵? 俺達が何者で、何故ここに居るのか……得意の推理で当ててみせろ!」 そんな午後助へと、まずは相手の出方を探るべく『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が挑発的な言葉を放つ。返答はというと―― 「分かんないから聞いてるんだろ! 意地悪すんな!!」 そう、高らかに言い放った。 確かに正論ではあるのだが……。周囲に、なんとも言えない空気が漂うのも無理はない。 影継達はその言葉に愕然としながらも、とにかく会話をする余地はありそうだと前向きに捉えることにした。 「ごめん、意地悪する気はなかったんだ……。僕等こういう者です」 『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)がそう言って名刺を差し出す。午後助はそれを受け取ると、ふむふむと呟きながら目を通していった。 しかし視線を動かすうちに、午後助の顔に怒りの色が滲んでいく。 「あっ、オマエ等あの“リベリスタ”ってやつなんだな!? 前にボクのこと殺そうとした! ボクはもう……なんだっけ……あの、ふ、ふ……そう! ふぇえと! ふぇえとっていうのをもう持ってるはずだぞっ!」 憤りつつも、急ぎ腕時計型軽機関銃を構えようとする午後助。しかし、伊藤が慌ててそれを制した。 「僕等は争いに来たんじゃないんだ。痛いのは嫌いでしょ? 僕もそう」 伊藤はそう言って、微笑みかける。 「先ずは話そう」 という伊藤からの敵意の無い言葉に、午後助は不振感を残しながらも――構えた腕をゆっくりと下ろした。 ●交渉 「そんなに時間は取らせねえから心配すんな。それに、よっぽどでかい音でも立てない限りは、屋敷内の連中がやってくることもねえからよ」 強結界を張り巡らせたプレインフェザーが、しきりに洋館内を気にする午後助へと声を掛ける。 リベリスタ達は、自分達が以前午後助を狙った地元のリベリスタとは別組織の一員であること、彼を傷つけにきたのではないということを簡単に説明した。完全に信じたわけではないだろうが、午後助はとりあえず納得した様子だ。 という訳で、ここからが本題となる――。 「私たちは止めに来たのです。一般の事件に、神秘の干渉を許すわけにはいきませんから」 厳しい視線を午後助へと向け、『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)がそう切り出した。 「止めるってなにを? なあなあ、なにを止めるんだ? 教えてくれよっ」 しかし午後助のほうは無邪気な様子で、彩花が向ける視線の意味に気付かない。 「少しは自分で考えろよ……たく。アンタを止めにきたんだよ。今から、弟の代わりにご自慢の推理を披露するつもりなんだろ?」 「しかもその蝶ネクタイ型洗脳器を使って、間違った推理を」 仕方がないので影継が補足し、生佐目が続けて言い放つ。 「ま、間違った推理? ボクは名探偵だぞ!?」 顔を紅潮させ、怒りを示す午後助。 「あなたは、その蝶ネクタイにどんな効果があるのか知っているのですか?」 そんな彼へと、風見 七花(BNE003013)が冷静に問いかけた。 「……これは、ボクの推理を手助けしてくれる便利なものだ」 一瞬の間があって、午後助はそう答える。 「いいえ、それは違います」 七花は、午後助の顔を見据えたままではっきりと首を振った。 「これは……ボクが子供の姿になったからって馬鹿にして、推理を聞いてくれなくなったヤツ等に耳を傾けさせるためのものだぞっ?」 「それは、相手を自分の言葉通りに惑わせるという強制力を持つアーティファクトです。それを使って相手が言うことを聞くようになるのは、あなたの推理が納得出来るからではありません。相手の心をねじ曲げて、さも正しい推理をしているかのように洗脳しているからです」 リベリスタ達から突き付けられる事実を必死に否定する午後助に、彩花が核心を突き付けた。 「そ、そんなの嘘だ……! オマエ達、さてはウソツキ集団だな!?」 目を泳がせ、それでも認めないとでもいう風に午後助は叫ぶ。 「嘘ではありません。現にあなたは先程から、簡単な推測すら満足に出来ていない状態ではありませんか」 「ぐっ……う、うるさい! 今日はたまたま調子が悪いだけだっ」 彩花からの追撃に、言葉を詰まらせる午後助。 「そのアーティファクトは誤った結論に人を導く代物だ。そいつを使ってなんとも思わないなら、アンタはもう『名探偵』じゃねぇ!」 影継も、厳しい口調でそう断言した。 「それを使えば、確かに事件は解決するかも知れない。でもそれは、偽りの解決だろ? なんの罪も犯していない無実の人間に罪を被せて、犯人が野放しになっている状態で平気なのかよ?」 違う、違うっ……と下を向き肩を振るわせる午後助へと、プレインフェザーが落ち着いた口調でそう問いかける。 「結局、誰にとっても不幸な結末になってしまうわ。だから、そうなる前に貴方を止めに来たのよ」 焔も優しく、それでもきっぱりと――意志の籠もった言葉を告げた。 「ねぇ、僕等を信じて欲しいんだ。その蝶ネクタイを使わずに君が幸せになれる方法を、一緒に――」 「うるさいうるさい! もしもオマエ達の言う通りだったとしても、ボクは此処助の手助けをしないといけないんだっ!」 伊藤の親身な提案は、午後助によって遮られる。面を上げそう怒鳴ると、午後助は首もとの蝶ネクタイへと口を近づけた――。 ●『名探偵』再び 焔が咄嗟に、七花を庇うようにその前へと走る。 午後助は言葉を発しようと口を開き―― 「……くそっ!」 しかし迷った末に蝶ネクタイから口を離す。そしてキックボードに足を乗せ、リベリスタ達の間をすり抜け走り出した。 「どこかで矛盾が出て、いつかは本当の事が明るみに出る! そうなったら責任を追及されるのは此処助だぞ!」 すかさず反応した影継が、逃走を図る午後助をメガクラッシュで吹っ飛ばす。 吹き飛んだ午後助は体勢を崩し、キックボードから滑り落ちてしまった。キックボードはそのまま、中庭の木々に激突する。 更に、何時の間にやら気配を完全に遮断していた生佐目が午後助の背後へと忍び寄る。 「その蝶ネクタイ、手放して頂きましょう――」 生佐目は気配を表すと同時に、首もとの蝶ネクタイ目掛けて魔閃光を撃ち放った。 黒いオーラが弾き飛ばした蝶ネクタイが、首もとから外れ宙へ飛ぶ。しかし午後助もそれを失うわけにはいかないと、必死に飛びついた。 だが彼の手が届く直前――。 木陰から黒い鴉が飛び出し、蝶ネクタイを横から奪い去る。そして蝶ネクタイを咥えたまま、七花の肩へと降り立った。 良くやりましたねと褒めるかのように、七花は鴉の翼を優しく撫でる。午後助との接触前に七花が中庭に放った使役存在が、見事に蝶ネクタイ型洗脳器を奪取してみせたのだ。 「あーあ、キックボード壊れちまってるじゃん……便利そうだから、あわよくば貰おうと思ってたのによ」 プレインフェザーが、木にぶつかり破損したキックボードへと視線を向け、残念そうにそう呟く。 「蝶ネクタイと、キックボードを失った以上は作戦を実行することは出来ないでしょう。これ以上の抵抗は無意味です」 「認めて下さい。貴方に事件解決の力は、もはやない」 リベリスタ達に囲まれ項垂れる午後助へと、彩花、続いて生佐目がそう言い放った。 「お願いだから、もう止めよう。お互いが納得出来る、誰も傷つかない解決方法があるはずだから」 伊藤は「君と争いたくないんだ」という気持ちを込めて、必死で言葉を紡いだ。 「……薄々分かってはいたさ。蝶ネクタイが悪いアイテムだって」 顔を上げた午後助の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。 「でもしょうがないじゃないか……ボクがこんなことになったせいで弟に、かけなくてもいい苦労をかけてるんだから!」 浮かんでいた涙は溢れて、ゆっくりと零れ出す。 「ボクの評判なんかどうだっていい、弟の手助けがしたいんだ……!」 午後助は、涙ながらにそう訴えかける。焔がハンカチを取り出し「もう、泣かないのっ」と彼の顔を拭ってやった。 「別の方法で助けられるわ。伊藤さんも言ってたじゃない、私達を信じて欲しいってね!」 そして、彼女は「任せなさいよ」と笑みを向けた。 「……別の方法って? オマエ達が、代わりに犯人を捕まえるっていうのか?」 「その通り――そして犯人ならすでに、確保済みだ」 洋館二階のバルコニーから、響き渡る声。一同が顔を向けると、そこでは『通りすがりのフリーター』アシュレイ・セルマ・オールストレーム(BNE002429)が仁王立ちで中庭を見下ろしていた。 「バイトはコンビニ、負債は五十万――その名は『名探偵アシュレイ』」 イマイチ決まっていないキメ台詞のような言葉を吐くと、アシュレイは寝袋のようなものを下に投げ捨てる。仲間達が慌ててそれをキャッチした。 「すまない、遅くなった」 自身も二階から飛び降り、詫びの言葉を口にするアシュレイ。 「いや、これでもかってくらいのベストなタイミングだ」 影継はそう言って、笑顔を返す。リベリスタ達が寝袋のようなものを広げると、中から簀巻きにされた一人の男が現れた。 「コイツが犯人だ。詳しい説明は、本人がしてくれるはず」 私がやりましたすいません――と意気消沈したように呟く男。午後助は驚いたように声を上げる。 「そんな……どうやって犯人を?」 その疑問の答えは、言うまでもなくスキルを使ってだ。アシュレイは仲間達とは別行動で、リーディングと魔眼を用いて午後助が介入するはずだった事件の犯人を捜していた。怪しがられたり追いかけられたりもしたのだが、紆余曲折の末に見事犯人を突き止め、簀巻きにして確保したという訳だった。 「すごいなリベリスタは。それに比べてボクは……」 「ほらもう、落ち込まないのっ。それじゃあ、弟さんを助けに行くとしましょ、本当の意味でね! 弟の此処助に、今後の道を示してあげて。貴方が、直接言ってあげれば良いんだから」 アシュレイからの説明を聞き再度肩を落とす午後助の背中を、焔が元気付けるようにバシッと叩いた。 それでも午後助は、人とは異なる力を持ってしまった自分と一緒に居ると、いつか危険に巻き込んでしまうかも知れない。だから、弟に直接会うことは出来ない――と沈んだ表情で首を振る。 「方法なら任せて下さい。荒事を請け負うことも多い私達ですが、リベリスタに出来ることはそれだけではありませんから」 「僕等が『弟さんの居る世界を護る』ところ、そしてそれが出来る可能性が君の中にもあるっていうこと、しっかり見ておいて」 そう言って七花、伊藤、そして残りのリベリスタ達も力強く頷いてみせた。 ●真実は―― 「お待たせ致しました、皆さん」 凛とした足取りで応接間へと入ってきた彩花は、開口一番そう告げた。その一言で、その場の警察関係者達は一斉に彼女へと視線を向ける。 その威厳のある佇まいには、警察関係者を惹きつけて離さないなにかがあった。 誰だお前は……? そんな一言すら言葉にすることが憚られる、王者の風格のようなものを彩花は醸し出していた。 「安民此処助さんからの指示で事件の捜査をしていたのですが、犯人を確保しましたので報告に上がりました」 次いで応接間に入ってきたアシュレイが、簀巻きとなった犯人を放り投げる。 「あっ、さっきの怪しい奴!」 一部の者からそんな声が上がるが、彩花の威厳ある一睨みでそれも止んだ。 「さあ、自分のやったことを洗いざらい話すんだ」 アシュレイが犯人の目を見てそう言うと、犯人の瞳が虚ろになり、やがて事件の真相をぽつぽつと語り始める。 驚愕の表情でその様子を見守る警察関係者達の中、此処助だけがきょとんとした表情で突如現れた二人の顔を見つめていた。そんな彼の頭に、声が響く。 『午後助からの伝言があるから、こっちに来な』 驚きながらも視線を彷徨わせると、彩花、アシュレイの入ってきた扉付近でウェーブがかった髪の少女がこちらへと手招きしていた。 「突然呼び出しちまって悪いな」 招かれるままに廊下に出た此処助。そこには先程の少女の他に複数の男女と、どこか見覚えのある小さな少年が待っていた。 「この子が、誰の子供だか分かりますか?」 「……まさか、兄さんの……?」 七花の問いかけに、此処助は信じられないという表情でそう答えた。だがしかし、少年の顔は幼少時の兄の生き写しのように映る。 「父は訳あってここには来られないけど、伝言を預かって来てるから」 そう言って、午後助は此処助へ向けて話し始めた。 自分は元気でやってるから心配いらない――。 自分の跡を継ぐ必要もない――。 オマエは、オマエの道を歩めば良い――。 話しているうちに、堪えきれなくなったのか午後助は弟の腰にしがみつき嗚咽を上げる。そして最後に―― 「オマエのことを、兄はいつまでも……大切に、思っている、ぞ。オマエは……自慢、の、弟だ……!」 と、告げた。 此処助は、最初こそ戸惑っていたものの……やがて優しい手つきで少年の頭を撫で始めた。此処助が、午後助からの言葉になにを想ったのかは分からない。でも、確かに伝わるものはあったはずだ。 (名探偵だった頃、革醒前の午後助さんにも、お会いしてみたかったですね……) 二人の様子を見ながら、七花はそんなことを思う。 真実はいつも一つだけれど、遍く真実だけが正しいわけじゃない。時には優しい嘘も必要なんだと――伊藤も嬉しそうに笑みを浮かべた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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