●一難去って 「くるしゅうないぞ」 リベリスタ達が会議室に入ると、喋る狐がテーブルの上を占拠していた。 変なナマモノがいる。そんなふうに思ったリベリスタ達も多いだろう。 「あぁ……、コレは今回の作戦に関わる人物……動物だから」 そういって『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、麦穂のような金色の尾を掴み引っ張り上げた。 イヴがテーブルに資料を並べ始めれば、その間に喋る狐は束縛から逃れ、彼女の頭の上へよじ登る。 「手短に言うぞ。我のために働くがよい」 えっへん。 イヴの上で精一杯背伸びしながら、毛並みの美しい尾を静かに揺らす。このナマモノはいったいなにを言っているのだろう。 誰となくリベリスタ達がそう考えていると、イヴが漸く説明をしてくれた。 「彼女はアークと友好的関係にあるアザーバイド、名を『金魂(こんこん)』……。とあるエリューションとの戦闘の後、彼女のねぐらでもある『金剛稲荷神社』をアークの手で建てなおしたの。今回はその神社へ行ってもらうわ」 リベリスタ達が資料を手に取ると、そこにはお賽銭箱が描かれていた。 「……初詣にでもいけばいいのか?」 「それ、今回のエリューション……」 エリューション・ゴーレム、フェーズ2、通称『ゴールドシャワー』。見た目通りお賽銭箱を原型としており、最大の特徴は金銭による弾幕。 高速で発射される金属は小さく軽い。しかしその量が増え波のように押し寄せれば、五円玉でも人は殺せる。 「我の住まう金剛稲荷神社には立派な賽銭箱がある。立派で立派で、立派すぎてエリューションになってしまうほどにナ。とはいえ立派すぎても、庶民には近寄りがたい。せめて我くらいに親しみのある賽銭箱でなくては困る」 「つまり、神社にあるお賽銭箱がエリューション化しちゃったから、退治してきて。という事……」 わかりやすい話だなとリベリスタ達は思いつつ、資料に目を通していく。 すると金剛稲荷神社に関する資料に目が止まった。それは金剛稲荷神社とリベリスタ達を結んだ、一つの事件に関する資料だ。 「……最近にもエリューションによる事件があったのか」 「えぇ。今回同様、フェーズ2のエリューションのね……」 「へんな話だな、こうもエリューションの革醒が同じ場所で多発するなんて」 「……『虫食い』のような目立ったほころびではないと思うけどね。なにか理由はあるのかも……」 ――虫食い、別名『世界の歪み』ディメンションホール。 世界の境界に穴が開く現象。その穴は上位チャンネルから、この世界、ボトム・チャンネルへ干渉因子を呼び込む。結果としてなんらかの超常現象を呼び起こす引き金ともなる其れは、リベリスタ達にとって無視できない現象だ。 だが虫食いがあれば、すでにアークもその存在に気づいているはず。D・ホールを閉じろと命令が来ない以上、虫食いが発生している可能性は少なそうだが。 「とにかく、お前達には我の神社で暴れる不届きな賽銭箱を討伐してもらう。使命は果たせヨ」 金魂はイヴの頭の上から精一杯リベリスタ達を見下そうと背伸びをしている。だが一人と一匹を合計しても、大半のリベリスタ達の方が背は上だ。 すると金魂はぴょんとイヴから飛び降り、部屋の隅っこから土台になりそうな箱を引きずり出してきた。イヴにその上に乗るよう言うと、改めて金魂はイヴの頭の上に駆け上がる。 ついにリベリスタ達よりも視線が高くなり、金魂は靭やかに立ち上がると言い放った。 「皆の者、頭が高いゾ」 『リベリスタ達の中で一番背の高い奴の上に登ればいいんじゃないか?』と誰となく思うが、結局それにつっこむ者はいなかった。 ●未確認 勉強机の上に招き猫が置かれている。厳密には招き猫型の貯金箱だ、中身は持ち主の貯めに貯めた小銭である。 夕食を終えた少年は部屋に戻ってくると、ポケットから小銭を取り出し貯金箱に入れた。 ちゃりんと小気味良い音がする。この貯金箱がいっぱいになる頃には、少年は中学生になる頃だ。 「この中にためたお金で、中学に入ったらギターを買うんだ。早くたまんないかなぁ」 少年は窓の外に視線を向け、沈んでいく夕日を眺めようとする。夕日にフォーカスを合わせる中、突如として窓ガラスが砕けた。 賽銭箱が回っている。ギュルギュルと風を切りながら、長方形の物体が窓の外に浮いているのだ。 「なっ、なに……?!」 少年はあまりのことに目を白黒させている。すると賽銭箱の回転が止まり、中から亀の頭が出てきた。 ぱくり。亀が招き猫を飲み込む。 再び亀は賽銭箱に頭を引っ込め、回転しギュルギュルと飛び去っていく。 わずか十数秒の出来事。割れた窓ガラスとなくなった貯金箱が、これは現実だと証明している。 「……、お、俺のギタぁー!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:コント | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月14日(月)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●もっふもふ もひもひ。 『』四条・理央(BNE000319)の耳元からくすぐったい音が聞こえてくる。 彼女が持参したいなり寿司を奉納した結果、金魂はそれを夢中になって食べ始めた。その間に黄金色に輝く毛を撫でたり触ったり、最終的には首に巻いたり。結果として金魂が食事を終えるまでの間、彼女は恍惚な暖かくすぐったい時間を過ごしていた。 「あふぅ……」 理央は思わず情けない吐息を漏らす。五秒後、突き刺さるような仲間達の視線に気づく。 ほこほこのぬくぬくに温もった息は、彼女の眼鏡を曇らせるほどであった。「そんなにいいのか」と一同は視線で問いただす。 「あっ、えっと。金魂さんが納得いく味になってるかな?」 「くるひゅうらいぞ」 ようやくいなり寿司を食べ終わったのか、金魂は頭を上げて一同を眺め見た。視線が集中しているが、彼女は回りが自分に注目するのは当然の事だと誇らしげである。実際は理央に向けられている視線である事など、気づく事もない。 『少々よろしいですか?』 「うん?」 すると金魂の脳裏に直接語りかけてくる者がいた。『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)である。 彼は本作戦で重要視される『陣地作成』の効果と重要性を丁寧に伝え金魂に伝えた。もっとも金魂は意思疎通が可能なアザーバイドであるため、ハイテレパスで語りかける必要は薄い。返事は普通に言葉で帰ってきた。 「んー、便利な術があるのはわかった。ただ金剛神社は特殊な場所故、大事をとっておびき出す方が無難であろうナ」 『特別な場所……ですか』 彼の眼鏡は妖しく冴える。 元々二つ目の作戦を予め用意していた一同。作戦は別のプランで固まった。 ●怪獣おびき出し作戦 「ホーレ、オカネダゾーツイテコイ」 「ほらほら~、お金ですよ~」 「美味しい美味しい小銭ちゃんなのですぅ~」 「ほらほら! おいでおいで~!」 「こっちのお金はあ~まいぞ~」 神社から敵を引きずり出す画期的な作戦、それは敵の好物をちらつかせ誘い出す事であった。 『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)、 『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)、 『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)、 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)、 理央の五人は、賽銭箱の前でお小遣いを揺らす。その様子は動物ふれあい広場的な場所で、精一杯にエサをちらつかせて動物の気を引こうとする様を彷彿とさせる。 賽銭箱からニョキッと生えた頭。まさしく亀そのものと表現するべき姿をした、エリューション『ゴールドシャワー』は興味をもってくれたようだ。 足を出すとのっしのっしと一歩づつこちらに近づいてくる。動きは一見遅く見えるが、大きな賽銭箱を母体とする身体は大きく、相対的に移動する速度は早い。 のっしのっし。のっしのっし。 付かず離れずの距離を維持しながら湖まで誘き出す。ここまで来れば神社への被害を気にする必要はない、一同は攻撃に転じた。 黒い尻尾をゆらゆらさせていたリュミエールも、その本性をさらけ出す。瞬神光狐の異名に相応しく、踏み出した彼女のスピードは何者をも凌駕した。 まるで筆で一の字を描くように尾が黒の残像を残す。 「小遣いクレテやるほど余裕ネーヨ!」 二対の牙が煌めく。だが芸術的な冴えを見せるアル・シャンパーニュだが、割り込んできた何かに阻まれてしまった。 飛び散る五円玉。間に割り込んできたのは。親玉を守る蛇『ゼニガタ』だ。 「魅了しようにも割って入られたらイミネーナ」 「下がってください! ここはボクが……!」 ゼニガタがいては敵の親玉まで攻撃が届かない。『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は鋼糸を引き絞る。 交差した鉄線の中に神秘の力を収束させ、次第に鉄線は押し広げられていく。赤い月は瞬く間に肥大化し、鈍く禍々しい光を放つ。 「月よ……」 鉄線の隙間から垣間見える赤黒い輝き。アンジェリカは収束した膨大なエネルギーを鉄線で引き締め。 「瞬け……!」 その力を解き放つ。波紋は周囲の物体を飲み込みながら広がり、ゼニガタを襲う。 数匹が巻き込まれ瞬く間に四散した。気がつけば辺りには大量の小銭、踏むと滑って転びそうな量だ。だがその攻撃はゴールドシャワーまでは届いていない。 ゴールドシャワーは小銭の山を貪り食うと、首を高く上げて力を貯め始めた。 「! 来ますよ皆さん……!」 イスカリオテの声に一同は身構える。ゴールドシャワーは首をまっすぐ伸ばすと、頭を一同に向け口を開く。 凶弾が一同を襲う。お金という名の金属弾は散弾のように飛び散り、その攻撃は後衛にまで届いた。最も近くにいたリュミエールはもちろんのこと、同じく前衛である黒乃も弾幕の雨に晒される。 「くっ、トップスピードで身軽になってなかったらやばかった……!」 「私はあんま大丈夫じゃネーケドナー……」 黒乃に対しリュミエールの傷はやや深い。しかし名の知れたリベリスタだけはあるのか、彼女は引くことなく矢面に立つ。 「マッ、コレクライデ倒れる私でもネーケドナ!」 ●未確認飛行物体を倒せ! 「こ、これは……っ。なんてことを……!」 アーリィは声を震わせた。辺りに散らばったのは五百円未満の小銭、彼女はぎゅっとハイ・グリモアールを握り締める。 「一プレイ百円なんだよ? 安いとこだと五十円なんだよ?! 古い機種なら2クレジット五十円でできるんだ! それなのに……っ!」 彼女は溢れる感情を押しこめながら詠唱を始めた。まるで歌声を思わせる鐘の音が辺りに響く。傷ついた一同に降り注ぐ癒しの音色。天使の歌が戦場を包み込んだ。 詠唱を終え、アーリィはゴールドシャワーを見据える。 「わたしはお前から必ずこの子(小銭)達を取り戻す。そしてこの子達と共に旅立つんだ」 人差し指をゴールドシャワーに突きつけ、彼女は宣言した。 「そう、終わることのないゲーセン巡りの旅に……!」 「なにいってるですぅ?!」 カッコよく言い切ったあたりでマリルがツッコミに入った。このお金は周辺住民から略奪した代物である、もちろん倒しても一同がもらえるわけではない。 「そうであるゾ。これは我の賽銭箱に入っていた代物、全部我の物に決まっておるだろうが」 金魂だ。マリルの頭の上に金魂がいる。 「いや、テメーのでもネーヨ」 するとリュミエールが金魂の首根っこをガブリと噛み、引きずり下ろす。『きゅう……』とかすれるような悲鳴をあげ、金魂はぐったりとしてしまった。 「固まってたら敵の攻撃の餌食になる……、ここは湖に出て散開しよう!」 理央は愛用の杖、ソーサリーヴァンガードを天高く掲げた。 空からリベリスタ達に一筋の光が降り注ぐ。背中に生えた小さな羽、翼の加護によって一同は飛翔する。 「時機チャンスがくる。その一瞬を逃さないためにも……」 一同が飛び立つ中、『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)は周囲に無数の魔法陣を展開し始めた。 神秘の力を高める魔法陣。彼女は戦いの先を読み、淡々と準備を始める。 一方ゴールドシャワーは足を引っ込め、顔を引っ込め、ギュルギュルと回転を始めた。 Eゴーレム、フェーズ2、通称『ゴールドシャワー』、高速移動形態。 ゴールドシャワーは近辺住民を襲ったという悪魔の姿、空飛ぶ賽銭箱の本性を表したのだ。 「ゴールドシャワー、なかなか豪勢な輩ですね」 「スピードによる攻撃が脅威とか書いてアッタナ。狐に勝てる亀なんてイネーヨ、絶対的速度による力の差ヲオシエテヤロウ」 再びリュミエールは動き出す。今度は黒乃も続く二段構えの攻撃だ。四本二対の刃がゴールドシャワーに迫る。 リュミエールの一対が繰り出す、至高のアル・シャンパーニュが再びゴールドシャワーを襲う。 突然の急旋回。他を純粋なスピードで圧倒するリュミエールの攻撃を、ゴールドシャワーは鋭敏な旋回性能でやり過ごした。その切っ先は獲物を捕らえるに至らない。 ギュルンと回り込み背面から賽銭箱が襲い来る。 「危ない!」 黒乃が割り込んだ。繰り出される高速の斬撃が敵の軌道を逸らす。 左手のカトラスを逆手に、攻防一体の構えで放たれるソニックエッジ。二人はなんとか敵の反撃をやり過ごした。 「さあ、ついてきなさい。鬼さんこちら!」 黒乃は敵の注意を惹きつけようと小銭を入れた袋を揺らす。彼女が注意を引きつける最中、マリルは魔力銃の銃口をゴールドシャワーに向ける。 「その可愛い顔に風穴を開けてやるですぅ!」 銃声。賽銭箱の底を直撃した。1$硬貨すら的確に撃ちぬく精密さ、意識を集中させ放たれた一撃に賽銭箱がぐらりと傾く。 ●紅蓮に舞う ゴールドシャワーの標的が変わった。マリルに向かって急速旋回、一直線に賽銭箱が飛び込んでくる。 「こっちに飛んでくるなですぅ!?」 「ここは私に任せたまえ」 イスカリオテが割り込む。彼の頭脳は演算を終え、必中の一手を弾き出していた。 「水銀から金でも生み出すならともかくも、他者の金銭を強奪するだけとは、お粗末に過ぎますねえ……!」 拳が握られ、眩い光が手の中へと集まっていく。迫るゴールドシャワーに向けて腕を突き出すと、その輝きを解放する。 眩い閃光が敵を焼き払う。次第にゴールドシャワーの動きが鈍る、着実にダメージが入っている証拠だ。 「ボクが先に仕掛ける! クリスティーナ君、締めは頼んだよ」 理央が詠唱を始めると、周囲に中型の魔法陣が展開される。エネルギーが魔法陣に収束する中、理央はソーサリーヴァンガードで魔法陣を貫いた。 圧縮された力が解き放たれ、奔流となってゴールドシャワーに襲いかかる。マジックブラスト。敵の影が神秘の渦に飲み込まれる。 墜落するゴールドシャワー。体制を立て直す中、ゼニガタがゴールドシャワーを守ろうと集まってくる。 「私の砲撃から逃げようなんて百年遅い! すべてを焼き尽くせ……」 クリスティーナの詠唱と共に、周囲に展開された魔法陣が紫電を帯びる。全てのエネルギーは巨大な二連装殲滅砲に収束され、蓄積されていく莫大な力に巨砲が唸り始めた。 「フレアバースト!!!」 咆哮。放たれた紅蓮の炎は一瞬にして辺りを焼き尽くした。天高く登る火柱、それは周囲の物体を容赦なく巻き込み、燃え盛る。 ゆらりと起き上がる影、ゴールドシャワーはまだ生きていた。 「流石は亀、まだ立ち上がるのね」 「いえ、ここで終わりにします……!」 「トックニ詰ミダッツーノ」 リュミエール、黒乃の二人は敵が起き上がるよりも早く動いた。火柱が立ち上る業火の中へ、自ら飛び込んでいく。 再び獲物を狙う四本二対の刃。決して逃しはしない、二人の呼吸が一つに重なる。 「「アル・シャンパーニュ!!!」」 交差する刃。奏でられるセッション。華麗にして瀟洒と謳われる芸術的な乱舞、完全なアル・シャンパーニュがそこにはあった。 火柱に次々と風穴を開け、同時にキラキラと通貨が飛び散る。炎を纏った二人の刃は、太陽のように紅い輝きを帯びていた。 舞いが終わり、火柱が失せる。互いに背を向けてリュミエールと黒乃は立ち、熱い息を吐きだす。 二人の間に残るのは、僅かな燃えカスと小銭の山だけであった。 ●お金を燃やすのは犯罪です 「なんて事を……、なんて事を……!」 アーリィは惨状に泣き崩れる。クリスティーナの放った最大火力のフレアバーストは、文字通り全てを焼き尽くしていた。 そう、ゴールドシャワーの中に貯めこまれていた、大量の小銭も一緒にだ。 「うわぁ、融解して大量の一円玉が融合しちゃってるのですぅ……」 「一円玉は何枚集まってもキングイチエンにはなれないんだよ……!」 「……マジごめん」 無論、こうなってしまえば返却などしようもない。そうは思いつつもマリルは、サイレントメモリーで小銭達の記憶を読んで見ることにした。 「あっ、割と普通に持ち主わかるのですぅ」 「えっ」 アンジェリカも疑いながら物の記憶を読み解く。確かにそこには持ち主と思われる人物の顔が浮かび、誰のものなのか手がかりが得られた。 「ほんとだ……、こんなになっても読めるんだ」 「とりあえずギター少年の所から返しにいってやるのですぅ。融解した分はクリスティーナの財布から出せばいいですぅ」 「……やはりそうなるのね」 神社での仕分け作業を経て、一同は奪われた小銭の返却という重労働を終えた。 小銭は貯金箱などから奪われていたため、意外と回る件数は少なくて済んだ。物としても比較的替えの効く部類という事もあり、クリスティーナのお小遣いを溶かせば返却は容易であった。 「……あれ、そういえば金魂なんにも言って来なかったね」 すっかり返却も済み、アンジェリカは金魂が何も言って来なかった事にようやく気づく。部屋の隅を見てみると、そこにはなんと理央の胸に抱かれて泣く金魂の姿があった。 「こ~んこ~~~ん……」 「よしよし……、お賽銭なくなって悲しかったねぇ」 まるで子供をあやす母親のような絵面だ。どうやらショックのあまり生き残ったお賽銭があった事にも気づいていないらしい。 一同の多くは金魂を説得する事前提でやってきていたため、なにか逆に不憫に思えてしまう。 これではリーディングで思考を読もうにも、覗けるのは深い悲しみばかりだ。金魂の思考を探ろうと考えていたイスカリオテも諦める他ない。 「えっと、金魂が泣き止むまで動けないし、例の探索はお願いできる?」 「仕方ありませんね……。ひとまずカルヴァリン嬢の透視に頼りに探してみましょう」 ●金剛稲荷神社の謎 一同が神社の探索を行う中、理央は金魂と二人きりになった。 理央の深淵ヲ覗クその瞳は、未知なる神秘を『理解しようと』する力がある。漠然と感じられるこの神社を取り巻く不思議な空気を、理央は感じることができた。 「……ねぇ金魂さん、一つ聞きたいことがあるんだけど。この神社は、いったいどんな理由で立てられたの?」 「さての。我はすんごい昔にここを任されて住んどるだけで、この神社がどんな理由で立っとるかなど知らん。なんかすごく偉いヤツに任されただけだし」 「そ、そうなんだ……」 「そうさな……、あえて言うとするなら。現にここに神社があり、其れを守護する者として我が選ばれた。守護獣たる我は人とは違い永い命を持つ。人ではなく我にこの地を守らせたのにも、なにか理由があるのだろうナ」 金魂はしゅるりと理央の腕から離れると、湖の方を眺める。 探索を始めてしばらくの事、結局一同はエリューション事件の原因となりそうな物を見つけることは出来なかった。 流石にアークの手によって改修工事が行われただけの事はあり、外装、内装、共に真新しさが目立つ。奉納物にも現時点でエリューション化しているような代物は見当たらない。 ただ一つだけ収穫もあった。地下に祭壇を見つけたのである。 幸い金魂の精神状態も持ち直している。イスカリオテは再びリーディングでなにか聞き出せないかと、話を振ることにした。 「一つ聞きたいことがあるのですが、地下の祭壇は何に使われているのですか?」 同時にリーディング、不意打ちで金魂の思考を読み取る。 「……ふっ、よくぞ気がついたナ」 『えっ、そんな物あったの?!』 リーディング成功。ただし内容的には失敗であった。思わずイスカリオテは顔を背ける、世の中うまく行かないことだらけだ。 「ん~、とりあえず今回はわかった事を報告しつつ、金剛稲荷神社についてアークの方で調べてもらうとかで」 「……そうするしかありませんか」 金剛稲荷神社を再び襲ったエリューション騒動。今回もリベリスタ達の活躍により、事態は終結を迎える。 神社に残された謎は多いが、わかったことは唯一つ。過去を紐解くのは難しいという事だけだ。 「ん~……、それにしても、泣いたら腹が減って仕方がない。なにか食べられる物は……」 金魂はいなり寿司を思い返しながら辺りを見回すと、揺れる青い耳が視界に入る。 鼠の天ぷらは狐の大好物だ。もちろん金魂も鼠の天ぷらが大好き、だから彼女を見る度に食欲を掻き立てられてしまう。 そう、可愛いネズミスーツに身を包むマリルを見ると、金魂はたまらなくかぶりつきたくなるのだ。 「その耳いただいたぁー!」 「『破滅のオランジュミスト』!」 ――後日、被害にあった少年は新たな貯金箱『ニャン太郎二世』を手に入れた。その中に戻ってきたばかりの小銭を蓄える。 彼は中学生に上がるまで、貯金箱にお金を貯め続ける事だろう。そして貯金箱を見る度に思い返す、この中に入った小銭を取り返してくれた彼らの事を。 少年がギターを買えるようになるのは、もう少し先の話だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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