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弱者の戦い

●極聖病院
 極聖病院の七階にはそこで朝を迎えた者が永遠の眠りに付く特別室が存在する。
 この特別室の正体はアーティファクトであった。以前は副院長が安楽死の手段として利用していたが、現在は院長との共同管理の形でアークの監視下にある。
 アークは赤字経営の病院側に対して特別に支援や見返りを与えていない。副院長が断ったためであり、院長からも求められることは無かった。無条件降伏は病院関係者の間に様々な憶測を呼んだ。
 そこに目を付けた医師がいた。麻酔科医の木村である。アーティファクトによる安楽死を金目当てで手伝っていた木村は安全かつ手軽な収入源が失われたことに不満を持ち、直々に副院長を問い詰めた。そこで時村家の使いが現れたことを聞き出した。
「安楽死だと。貴様ら、そんなくだらないことを」
 同席していた院長はいらだち紛れに頭をかきむしる。副院長の詫びに対しても怒鳴り声で応対した。
「貴様らの勝手な行動の結果がこのザマだ。いったいどう責任を取るつもりだ」
「まあそう怒りなさんなって。副院長のダンナは最後まで安楽死を認めなかったんだ。証拠を残すようなダセェ真似もしてないでしょう」
 木村の言葉に副院長が重々しくうなずく。
「あの部屋には異質な力が働いている。そのことは彼ら自身が証明してくれた」
「だったらもっと強気で行きましょうや。相手はあの時村財閥ですよ。十億や二十億、いや、百億貰ったってバチは当たらねぇですよ」
「時村家を敵に回すというのか」
「そんなお上品な話じゃありませんって。相手の目的は特別室でしょう。だったらそれなりの部屋代を請求してもバチは当たらない。緊急事態のようですからちょっとお高くなるかもしれませんがね」
 言葉と共に下卑た笑いを漏らす。副院長が無言で聞き流す中、院長は真面目な顔付きで熟慮していた。
「まさかとは思いますが、木村の話に乗るのですか」
「金の請求などに手を貸すつもりは無い。だが特別室の共同管理を取り止めるとの書状なら書いてやってもいい。脅しのネタが証拠の残されていない安楽死なら、こちらがオタオタする理由も無いわけだ」
「さっすが院長のダンナ! 話がわかるぜ!」
 大きく指を鳴らし、調子の良い言葉で院長を褒め称える。
「しかし相手は時村ですよ。どのような報復行動に出るか」
「馬鹿な患者が俺たちを訴えるときと同じだ。弱者には弱者の戦い方がある」
 乱暴に携帯電話を引っつかみ、極聖病院の顧問弁護士に連絡を入れた。

●ブリーフィングルーム
「法は弱者のためのもの。だけど法を扱えるのはなにも弱者に限らない。強者がより強くなるために法を使うとしたら、法はいったいだれのためのもの?」
 素朴な疑問を口にしながら『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はモニタの一つを指差す。そこには極聖病院特別室前の映像が映っているはずだったが、病院側で監視カメラを取り外され、今は灰色の画面が表示されるのみであった。
「少し前に、共同管理を取り止めると院長の名前で手紙が送られてきた。それとこっちも」
 次にイヴが見せたのは極聖病院のホームページだった。看護師の日記と題したブログには時村家の関係者が尋ねてきたことが書かれている。詳しい内容は伏せられているが、病院の存続に関わる事態になったと危機感を煽る文章が並んでいた。
「病院側は時村家の接触を一般にも認知させてるわ。それも時村家が地方の病院に対して圧力を掛けていると思わせるやり方で。ここまで守りを固めてくるのは特別室を手放したくない強い気持ちの表れね」
 平時であればほとぼりが冷めるまで病院には手を出さないのが得策である。しかしアーティファクトである特別室はまだその全貌が明らかになっていない。放置は危険を伴うため、一日でも早くアークで管理することが望まれる。
「私たちの目的はあくまでアーティファクトの管理。病院はそのまま残っててもらいたいし時村家に余計な悪評が広まることも望まない。細心の注意を払って交渉に臨んで」
 院長から送られてきた手紙を受け取り、リスベスタたちは極聖病院に向かった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:霧ヶ峰  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月25日(土)22:38
※『ただ、安らかに眠る』の継続シナリオとなります。

目的は特別室をアークの管理下に置く許可を得ることです。
病院そのものが閉鎖されてしまえば失敗となります。

接触できる病院関係者は以下の五名です。
なお、院長に接触する際には必ず弁護士が同席します。

院長/極聖病院の責任者 特別室が他の人間に管理されることを嫌っている
   時村家に嫌悪感を抱いている
副院長/安楽死を取り仕切るリーダー 現在は安楽死を中断している
    神秘の存在を認知している 時村家に警戒心を抱いている
麻酔科医/金で安楽死に協力していた
     時村家から巨額の金を引き出すことを目論んでいる
     現在のところはまだその手段を構想中
看護師男/副院長を信望している 神秘の存在を認知している
看護師女/安楽死に携わったことを認めている
     院長に命じられてブログに時村の名前を出した
     神秘の存在を認知している 時村家に恐怖心を抱いている

以上、ご参加をお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■

テテロ ミーノ(BNE000011)
ソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
プロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)

●深遠の恐怖
 利用者の疎らな午後のカフェテラスで『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)
と『原罪の羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は女性看護師の気田と向かい合っていた。
 少女が二人と年配の女性が一人。傍から見れば親子とも見間違う三人の談笑はしかし決して穏やかなものではなく、気田は二人の顔をまともに見られずに震えていた。テテロはそんな雰囲気を和ませるように満面の笑みを浮かべ、ケーキを口いっぱいに頬張った。
「看護師さんの服ってかわいいの~。ミーノも大人になったら看護師さんになろうかな~。でもちゅーしゃはこわいからやだな~。ねぇねぇ、ちゅーしゃこわくない?」
 つぶらな瞳を爛々と輝かせるテテロに対しても気田は心を許さない。酷く汗をかいており、声を掛けられる度に何度もハンカチで額を拭った。
「怯えなくていいよ。ちょっとお話したいだけ。悪いようにはしないから」
 痺れを切らしたルカルカが割って入る。気田からの返事が無いことには構わず、まずは簡単な質問から始めた。
「病院の経営状態ってどうなの。やっぱりキツイ?」
「私はその、一介の看護師ですから」
「でも働いてればなんとなくわかるよね」
 気田が言葉を詰まらせる。視線を泳がせながら、地方は何処も同じではと間接的に経営の困窮を認めた。
「看護師さんもお医者さんもたいへんなの~。いつもありがとうなの~」
「そうだね。そんな大変な思いをしてるこの病院を潰そうなんて時村家は考えてない。特別室のこと、関わってるならよくわかってるよね。あれは一般人が扱っていいものじゃないってことも」
 特別室の話を切り出した途端に気田は顔を上げた。
怯えた表情を保ったまま、おずおずと口を開く。
「あの部屋は、やはり呪われているのでしょうか」
「そう思ってくれて間違いないよ。扱い方もわからずに利用してると痛い目を見る」
「ミーノたちはみんなを守りたいの~。前に他の人がこわがらせちゃったのもあぶないことから遠ざけたかったからなの~」
「だから時村家が管理するのを邪魔されないよう、手を貸して欲しい、よ」
 気田は再び目を伏せる。ティーカップで口元を隠しながら、具体的な協力内容の説明を求めた。
「副院長の説得とか手伝ってくれたら、うれしい、っておもう」
 震える気田の手からティーカップが離れる。甲高い音を立てて割れ、テーブルの周りに薄茶色のたまりをつくった。
 驚いた声を上げたテテロが椅子を降りて気田の身を気遣う。駆けつけて来た店員が片付けを済ませるまでのあいだ、気田は全身を震わせ、焦点の定まらない目でテーブルを見つめていた。
「副院長せんせいって、こわいの?」
 テテロの素朴な疑問にも答えず両手で自分の顔を覆う。髪を振り乱しながら発せられた声から、もう手遅れですとの言葉が聞き取れた。
「副院長先生は、あの部屋の呪いに」
 もはやまともに話をする状態には無かった。ルカルカと視線を合わせたテテロは、気田が落ち着くまで何度も声を掛け続けた。

●彼方からの呼び声
「気田さん、どうしたんだろ」
 ティーカップの割れる音に反応して男性看護師の栗山が席を立つ。同じカフェテラスの端に『ぐーたらダメ教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)と『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)は居た。
「壊しちゃったみたいだね。でもほら、お店の人も居るから大丈夫だよ」
 年齢に似合わぬ幼い外見のソラはその見た目通りの幼い声を上げて栗山を制する。
 しばし様子を伺っていた栗山は店員が掛け付けて来たのを見て腰を下ろした。
「話を戻すが、時村家はこの病院の存続を願ってるんだ。有事の際には俺たちの力が役に立つこともあるだろう」
「僕にはこの病院の権限はありません。そういったお話は副院長先生にしていただかないと」
「その手助けをしてもらいたいんだ。副院長が俺たちに協力してくれるよう口添えしてもらえないか」
「おにーちゃんとっても困ってるの。看護師のおにーちゃんに手伝って欲しいなぁ」
 祈るような姿勢のソラが潤んだ瞳を向ける。栗山は困ったように頭をかいた。
「お話はしてみますが。副院長先生が僕の言葉で考えを変えるとは思えないですよ」
「そこまでしてもらえれば十分だ。ああそれと、麻酔科医の木村先生は手空きかな」
「木村さん?」
 真顔でアウラールを見返す。来客と対峙する気田をちらりと見やり、テーブルの上に身を乗り出した。
「そろそろ手術が終わる頃だと思いますが。木村さんがどうしたんですか」
「特別室の関係とだけ答えておく。じゃあ俺たちはこれで」
 アウラールが立ち上がるのに合わせてソラも席を立つ。
 その場を離れる前に、アウラールは自分の胸元を軽く叩いた。
「怪我の治療、感謝する。おかげですっかり良くなったよ」
 妹の振りをしているソラも続けて礼を述べ、共にカフェテラスを後にした。
 二人が手術室の前に来ると、ちょうど手術中のランプが消え、中から患者が運び出されて来るところだった。ぞろぞろと出てくる医師や看護師の中には副院長と木村の姿も見える。
 一同が去っていくのを見送ってから早歩きで木村の後を追う。白衣を脱ぎながら部屋に入るのに合わせて、アウラールが廊下から室内に向けて特別室の幻影を作り出した。
「なっ……んだよこれ。どうなってんだ」
 壁を叩く音が二人の耳に届く。アウラールによって隠されたドアの位置がわからないらしく、何度もわめき散らしていた。
「第一段階は成功ね。うまく自白してくれるといいんだけど」
 素に戻ったソラが壁越しに言葉を送り込む。痛い。苦しい。安楽死じゃなかったのか。様々な恨みの言葉が混乱した木村を責め立てた。
「馬鹿な。まさかホントに、こんなことが」
 室内からの音が激しくなっていく。いくら暴れても出口は見つからず、木村の声には焦りが混じってきた。
「恨みだと。呪いだと。ふざけんじゃねぇぞテメェら。テメェらは苦しかったんだろうが。死にたかったんだろうが。それを叶えてやったんじゃねぇか。俺が罪に問われるならテメェらは殺人教唆だ。罪人は地獄に落ちる。当然だろ。救われたきゃオキレーな身体になってもう一度死ねよ。こんどは安楽死じゃなくテメェで喉笛を切り裂いてな!」
 木村の言葉に決定的な一言が紛れ込む。さらにテレパシーによる責め苦を続けると、断片的にだが安楽死を認めるような言質を得ることができた。
「録音は、大丈夫そうね。できれば本人の口からみんなの前で自白してもらいたいところだけど」
 彼方からの声に対してわめき続ける木村からは恐れよりも怒りが滲み出ている。演説は罵詈雑言の連続で聴くに絶えず、二人は顔を見合わせてため息をついた。
「彼に見せられる幻影も、暖かさを思い出させるようなものなら良かったんだがな」
 二人は黙って部屋の入り口を見つめ、いかにも患者のことを省みない職業医師の主張を録音し続けた。

●誠意のカタチ
 主の居ない副院長室で『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は来客用のソファーに腰掛けていた。
 入り口のドアが開く音に反射的に立ち上がった舞姫は、相手の顔を確かめるなり丁寧に頭を下げる。副院長の江藤も返礼し、後ろ手にドアを閉めた。
「お待たせして申し訳ありません。予定より長引いてしまったもので」
「こちらこそ面会の申し出を受けていただきありがとうございます。それで、手術のほうは」
「本格的な施術は次回になります。今日のところはその下準備といったところでしょうか」
 促されてソファーに腰を下ろす。江藤もその対面の席に座った。
「それでお話というのは、特別室のことですか」
 再び立ち上がった舞姫はその場で深々と頭を下げた。
「この前は申し訳ありませんでした。江藤さんの気持ちを踏みにじるような真似をしてしまって。特別室のことで頭がいっぱいで、本当に大切なことを忘れていました」
 自分の携帯電話を取り出し、江藤に見える位置で電源を切る。
「今の私は強者ではありません。お願いに上がった単なる一般人として接していただけませんか」
 少しのあいだ考える様子を見せた江藤は自分の携帯電話をテーブルに出し、同じように電源を切って見せる。さらに本棚の隅から小型の監視カメラを取り外した。
「弁護士の指示で取り付けたのですが、一般人を相手には過ぎた玩具ですね」
 途端に室内の電話が鳴り響く。江藤はうるさそうに電話線を引き抜いた。
「今のは緊急の呼び出しでは」
「弁護士の助手からです。映像が途切れたので連絡してきたのでしょう」
「この状況が今の私たちに対する感情の表れということですね。無理もありません」
「正確には院長の、ですかね。とにかくこれで憂いは消えたことでしょう。どうぞ話をお聞かせください」
 舞姫は可能な限りの言葉で自らの思いを伝える。自分が病院の存続を望んでいること。特別室がいかに危険なものであり、その力の暴走を何よりも恐れていること。自らをさらけ出すために普段は隠している失われた右腕をも顕にした。
「あの特別室と同じ、この世ならざるものに奪われました。命を奪われた人もたくさんいます。目の前で守れなかった人も」
 悔しさを滲ませるようにうつむく。少女の小さな唇はわなわなと震えていた。
「理不尽に傷つく人を助けたいんです! もうこれ以上、同じ思いをする人が生まれないように!」
 偽りの無い舞姫の願いを江藤は黙って聞いていた。
 言葉を止めて真っ直ぐな視線を向ける舞姫に対し、お話はわかりましたと極めて冷静な言葉を返す。
「ですが貴方がたに手を貸すことはできません。私自身もすでにこの病院の一部。そのことを良く、ご理解ください」
 最後に謝罪と誠意は確かに受け取ったとの言葉を重ね、舞姫の退室を促した。

●人ならざるチカラ
「なるほどのぅ。やけにこの病院に興味を持つオナゴがいると思ったが。そういうカラクリじゃったか」
 院長室に現れた面々を見て、弁護士の佐竹が小声でぼやく。
 三人掛けのソファーで『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)と『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)に挟まれた『灰色のアプサラス』銀咲 嶺(BNE002104)は笑顔を浮かべて弁護士を見返した。
「先生、こいつらとお知り合いなのですか」
「心配するなコボウズ。お主の不利になるようなことは話しておらん」
 隣に座る院長の問い掛けに薄くなった白髪を整えながら答える。
 嶺は口元に指を当てて小さく微笑み、苦虫を噛み潰したような表情の院長を見やる。
「あくまでプライベートな関係です。佐竹先生には個人的に親しくさせていただいていますので」
「恥知らずのメス犬め! 脅迫だけでは飽き足らずこのような下劣な手段を!」
「どのような関係を想像されているかはわかりませんが、この件は今回の話とは無関係です」
「その通りだコボウズ。わしの個人的な付き合いにお主が干渉する必要は無い。」
 先代院長からの顧問弁護士にたしなめられ、院長は歯を噛み締めながら押し黙った。
「ところで佐竹先生、こちらの病院はかなり経営が苦しいとのお話でしたね」
 立ち上がりかけた院長を佐竹が片手で制する。
「調べればすぐにわかることだ。その程度のことも知らずに仕掛けてくるほど無鉄砲ではあるまい」
「ええ、もちろんです。こちらの財務状況について必要な資料は揃っています。先生にお尋ねしたのは世間話のついでに過ぎません」
 院長は威嚇するように鼻を鳴らす。嶺から目を逸らし、経営難だからどうしたと言葉を吐き捨てた。
「当方の用件はただ一つです。先日の書状を撤回していただきたい」
 時村家宛に届いた手紙を二人の前に置く。
 佐竹は中身の確認もせずにそのままイスカリオテに差し戻した。
「これはわしが指示して出したものじゃ。特別室の共同管理を求められた際、不正な手段が用いられたと聞いてのぅ」
「そのような意図はありませんでしたが、もしそう取られてしまわれたのでしたら我々の不徳のなすところです。今後は一挙一動に注意を払わなければなりませんね」
「認めた上でまだ交渉が成立すると?」
「院長先生に事情を良くお尋ねになりましたか。これはお互いにメリットのある話なのです」
「それが本当であれば」
 言葉を途中で止めた佐竹が辺りを見回す。この状況で不自然な笑顔を浮かべる三人を一瞥した後、眼鏡を外して目元を拭った。

――今、何処から声がって、思いました?

 再び届いた声に顔を上げる。視線の先には無言でほほ笑み続ける沙希の姿があった。

――あら? 先生もしかして、私に心を読まれたと感じた?

 いくら沙希を注視しても少しも唇は動いていない。隣に座る院長には同じ声が聞こえていないらしく、怪訝な目を佐竹に向けた。
 頭の中に響く声は止まらない。耳を押さえても遮断することができず、佐竹は小さく首を振った。

――先生はお疲れのようですね。お休みになられたほうが宜しいかと。

 無言になった佐竹を院長が呼び掛ける。反応が無いことにいら立って立ち上がるが、虚を突かれたような声を上げてイスカリオテを見た。
 イスカリオテは言葉では穏やかに、テレパシーでは相手を追い詰めるように語り掛ける。何かを知っている風に装う論調を院長はハッタリだと、頭に響く声を何かのトリックだと一蹴した。
「ではあの特別室がどのようなものなのか、知っている限りをお話しましょう。そのほうがより我々が協力者になりえると理解していただけるのであれば」
 話し始めようとするイスカリオテを大きな声を上げて制止する。リスベスタたちを追い詰めるために仕掛けた監視カメラが今は己の首を締め上げていた。
 そのうちに沙希がソラからの連絡を受け取り、そのまま弁護士に伝える。それは木村が安楽死を行ったことを認めたと取れる録音テープが用意できたとの知らせだった。
「まともな手段で得たわけではあるまい。そのようなものに証拠能力は無い」

――基より今回のお話は法で裁ける問題ではありません。

 佐竹は大きく息を吐き、ソファーの背もたれに身体をうずめた。
「コボウズ、悪いがこの件でわしに協力できることは無いようじゃ」
「なにを弱気なことを! このような凡愚どもに!」
「お主が相手にしているのは人ではなく鬼子のようじゃ。行政の相手はしよう。あの妙ちきりんな団体も任せておけ。だが法で裁けない者と戦う術は知らん」
 弁護士という人の身で得られる最高峰の武器を失い、院長は無言でテーブルを叩く。
 醜態を変わらぬ表情で見下ろしたイスカリオテは、穏やかに最後通告を行った。
「どうぞ、ご決断を」
 特別室の管理について、これで一先ずはアークが頭を悩ますことは無くなった。
 あくまで管理については、だが。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
ご参加ありがとうございました。
またご縁がありましたらよろしくお願いいたします。