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Type : The Hero

●Last Chance
 対峙するのは銀と白。
 無骨な盾を携えた騎士。擦り切れた外套を羽織った英雄。
 片や全てを護る為紡がれた魂。片や人々を救う為捧げられた命。

 時と場合さえ異なったならば、彼らは共に同じ戦場を駆ける事も出来たろう。
 両者は在り方からして近しい。思想も、目指す頂の先も。けれど、近しいからこそ。
 抜かれた剣は白と銀。純白の諸刃と傷だらけの片刃。
 片や全てを護るが為に魂を賭し、世界を殺せし『理想』の騎士。
 片や人々を救うが為に命を繋ぎ、祝福を失いし『無貌』の英雄。
 その邂逅は偶然だろうか。きっと、そうではなくて。
 その両手は誰が為に。その能力は何の故に。その想いを、例え世界が認めなくとも。
 その矜持は ――けれど唯の一分の澱みも無く。
 例え不可能であろうとも。ただ全てを『守る』為に、『救う』為に。

 重なる言葉とともに、交差するは銀と白。守護の盾と救済の剣。
 それはまるで運命であるかの如く。それはまるで悲劇であるかの如く。
 この場、この瞬間こそが最後である事を両者は互いに理解していた。
 残された時間はいずれにももう、然程ない。最初であり最後。剣戟が鳴り響く。

 そしてもうひとつ、理解していた。
 納得するには理不尽で、それでも覆る事は無い、そんな。そんな、悲しい事実だった。
 そう、例えこの場で生き残る事があろうとも、それは決して。
 決して ――――幸いをもたらすことなど、無いであろう事も。

●Judgment Day
「今回の仕事は、2体のエリューションの討伐」
 集められた面々へと視線を流し、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が頷く。
 アーク本部内、ブリーフィングルーム。
 何時もの場所に集められたリベリスタの眼前では、モニターが既に起動している。
 剣を打ち合う2体のエリューション。そのどちらもアークの報告書内に名前が有る。
「E・フォース、識別名『守護騎士』。ノーフェイス、識別名『彼』」
 両者はまるで関わりのない任務に於いて、アークが取り逃した難敵だ。
 かつての事件よりの時間経過に従い、その危険度は以前より更に上がっている……
 その、筈だった。

「カレイドシステムの予測演算。この両名は今日の夕方遭遇し戦闘へ雪崩れ込む」
 発生したエリューション同士が争う事は、多くはないがまるでない程ではない。
 だが、遭遇戦となると話は別だ。余程の偶然でもなければ――
「偶然じゃない」
 けれど、イヴはその可能性すらも否定しモニターを指差す。
「『彼』は世界を壊す者を滅ぼす為に。『騎士』は強者も弱者も全てを護る為に」
 戦い続けていた。戦い続けて来た。絶え間なく、ずっと。ずっと。
 然程広くもないこの国だ。遠からず、相見えるは必然。
 そしてこれは吉報だ。アークは漁夫の利を狙う事で労せず2つの脅威を滅ぼせる。
 そうである筈なのに、イヴはそっと頭を振る。

「でもこのままだと、本当に誰も救われない」

 2人はどちらも限界だ。フェーズ進行が間近に迫っている。
 強固極まる意思で以って自我を保ち続けようと、祝福されざる命はいずれ必ず狂う。
 猶予はない。両者の決着を待っているだけの時間は――ない。
「だから割り込む」
 2体、強力なエリューションの戦いに。
 例えそれが運命の、因縁の邂逅であるのだとしても、
 アークはアークの摂理で以って秩序を敷く義務が有るのだ。
 世界を維持し、支えるが故の箱舟だ。万華鏡の姫はこの運命に終わりを告げる。
 それを傲慢と、誰に罵られようとも。
「2チームを編成した。つけよう」
 決着を。

●The Hero
 生まれた国はどこだったろう。愛するひとの名前はなんだったろう。自分の名前、それすらも。嗚呼。
 日に日に剥がれて落ちていく記憶。喪われていく自我。ずぐんと痛む頭を抑える。
 けれども。たったひとつだけ、残っていたものがあった。忘れられない、大切なものだった。

 対峙した純銀は、傷付き、罅割れ、けれど悲しい程に仄明かく光る魂だった。
 嗚呼。わたしが今までしてきたことは、なんて傲慢なのだろう。
 ぐわんと締め付ける様な痛みが体を襲う。せかいが、ぐにゃりと歪んだ。
 手放しそうになった意識をぐっと繋ぎ止める。純銀の騎士へ、手を伸ばした。
 この剣は届くだろうか、まだ救えるだろうか。いや、救ってみせるのだ。そう、迷うものか。
 そうして生きてきたんだ、最後までそうして生きてやる。笑いたければ、笑えばいい。
 どこか嘲笑めいた、皮肉めいた笑みを『彼』は浮かべて、純白の剣を握り直す。

 さあ、せかいをすくおう。
 うつくしいせかいを、やさしいせかいを、いとおしいせかいを、すくおう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:あまのいろは  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月24日(木)23:45
 さあ、決着をつけましょう。
 あまのです。以下、詳細となります。

●注意
 本シナリオは、弓月 蒼STの『Type : The Guardian』と連動依頼です。
 本シナリオに参加する場合『Type : The Guardian』の参加は出来ませんので、ご注意ください。

●成功条件
 ノーフェイス『彼』の討伐

●ノーフェイス『彼』
 関連シナリオ:ヒーローになれない朝が来る
 ヒーローであろうとした異国の男。器用貧乏のお人よし。難しい日本語は喋れない。
 ヒーローであろうとした故にノーフェイスと化したが、それでもヒーローであろうとする男。

 ・痛み無く:P / 毎ターンHP中回復
 ・驕り無く:P / WP、ドラマ値大上昇
 ・迷い無く:P / HP30%以下で命中・回避・DAが大上昇
 ・躊躇無く:(A/物近複/BS:致命)中命中、中ダメージ。特別に全力移動後に使用可能
 ・欺瞞無く:(A/物遠全/BS:怒り) 高命中、小ダメージ
 ・後悔無く:(A/物遠範/BS:無力/崩壊/虚脱) 特高命中、大ダメージ
 ・祝福無く(EX):P / 戦闘中1回だけどんなダメージからもHPを1残します。この回数は『彼』がドラマ判定に成功する度1増加します。

●戦場補足
 郊外の平野。周囲は森。足場は安定しており空は日暮れが近いです。
 距離的に50mは離れて居ない地点にE・フォース『守護騎士』が存在しています。

 情報は以上となります。どなた様もどうぞ、ご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
御剣・カーラ・慧美(BNE001056)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
ダークナイト
鋼・剛毅(BNE003594)
レイザータクト
伊呂波 壱和(BNE003773)
レイザータクト
★MVP
朱鴉・詩人(BNE003814)
プロアデプト
ヤマ・ヤガ(BNE003943)
デュランダル
羽々希・輝(BNE004157)


 お兄ちゃんはほんとうにバカだねえ。しなくていい喧嘩ばっかりして。
 別にそれが悪いなんて思っていないけど、ほら。もっと自分も大切にしなくちゃ駄目なんだよ。
 そんな。
 そんな昔の話を思い出した。確かその時は、悪いと適当に謝って宥めたような気がする。
 不満そうに拗ねた顔した彼女が、言葉の奥に隠したもっともっと優しい言葉に気付いたのは。


 守護騎士へと距離を詰める『彼』の視界を、何かが遮った。視界に広がる、一面の赤。
「真の正義とは! 私たちのことです! スーパーサトミだだ今参上!」
 その正体は、真っ赤なマント。『スーパーサトミ』御剣・カーラ・慧美(BNE001056)のものだった。
 眼だけを動かして辺りを見回せば、見覚えのある顔がいち、にい、さん。
 『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594) 、『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773) 、『Sword Maiden』羽々希・輝(BNE004157) の顔を見た彼は、納得したように力無く笑う。
 嗚呼、やはり逃してはくれないのか。深呼吸をひとつしてから、彼はすらりと剣を抜いた。
 怯まず、逃げることもせず、リベリスタたちに立ち向かう彼を見て。
「何処までもヒーローであろうとした漢。カッケーよねぇ」
 どこか茶化すような口ぶりで、へらり笑いながら『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)が言う。
「そう在ろうとしたが故に、このザマなんて皮肉だよなぁ」
 だけど。報われない、なんて言わない。きっと彼に救われた人もいるさ。そんな言葉は声にせず。
 同じように、だけど詩人のそれより綺麗な白衣をはためかせて。『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330) が、リベリスタたちへと翼の加護を施す。
「英雄だったのか、勇士だったのか。ただ大切な人のために戦ってきたのでしょう。
 想像しかできませんが、それも失われる前に終わりに致しましょう」
「いかなる者の成れの果てと言えど、ノーフェイスはノーフェイス。ヤマの仕事には違いない。
 ………違いないがの。……かか、後は殺し合いで語るとしよか」
 極限にまで集中させた『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943) の黒いひとみが、彼を見据える。
「蜂須賀弐現流、蜂須賀 冴。参ります」
 言うが早いか、刀をすらりと抜いた『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536) が、彼へと斬りかかる。
 だが、彼もその時動いていた。刀と剣が切り結ぶおと。その向こうでぶつかる、黒と青のひとみ。
「人を救うために戦い続け、遂に運命を失った彼は成る程、英雄と呼ぶにふさわしい。
 しかし、世界は平等に理不尽です。そして世界を守るのが私の正義」
 きりきりきり、刀と剣の刃が擦れるおと。
「故に英雄。私は迷わず貴様を斬る」
 冴が手にする武器はひとつだけでは無い。もう片手に握る葬刀魔喰を冴が振るう。
 彼は反応したものの、防ぎ切れない。剣を振るってその場から飛び退いた彼の腹は、血で濡れていた。
 勿論冴も、前衛として近くに居たリベリスタたちも、完全に無傷と言う訳にはいかなかったのだが。
 切れた頬から形のいい顎を伝って、血が滴り落ちて行く。
 冴は顔色ひとつ変えず。正義を為すためには、些細な傷でしか無かった。
「また、お会いしましたね。あの時は、貴方のお名前は聞けずじまいでした」
 今度は、お聞かせ願いますね。貴方が、無くなってしまう前に。輝が剣を振るう。
 【Freeze Maiden】が作りだした真空刃が、彼を刻んでいく。輝を見て彼はやっぱり、困ったように笑った。
「……なのるほどの、なまえなんて。それより、わたしは。もう」
 自分の名前すらも、思い出せないんです。呟くような小さなこえ。その言葉が輝に届いたかどうかは、分からないけれど。彼の表情を見つめた輝は悲しそうに眉を下げて。
 でも、だからこそ。自分の信じるままに。今度こそ彼を救いたいと、そう思うこころを信じるしかない。
「またまた現れたか。先日は思いの強さに後れを取ったが、今度こそは決着を付けようぞ」
 闇の力を解放し、彼と向き直った剛毅のひとみが、鎧の向こうで楽しそうに光る。

 既に傷つき、汚れはて、ぼろぼろの外套を纏った彼は、物語のヒーローとは程遠い姿。
 それでも。彼が何者であっても、尊敬すべき英雄で目指したい姿だと壱和は思っていた。
 ヒーローであろうとした彼は、英雄になれたのだろうか。それを決めるのは、彼なのか、自分たちなのか。
「止めましょう。絶対に」
 彼を見るその目には、怖がりで泣き虫な壱和の姿は見えない。
 そう、覚悟を決めたひとが強いように。迷いを捨てたひともまた、強いのだから。
 ひとはひとと触れあい、ぶつかりあい、そこから成長していくものなのだから。
 彼を見る目を戦場すべてに広げて。壱和が準備を終えるまで、もうすこし。
「スーパーサトミデモンズシュートイレイザー!」
 鉄槌が、振り下ろされる。彼は、慧美の攻撃を凌ぐと、慧美へと向き直って。剣を横薙ぎに振り払う。慧美と、その周囲を巻き込むように展開されたその一撃は、とてつもなく重い。
 自分を巻き込まぬように攻撃を放った為か、その攻撃を食らったのは慧美だけだったけれど。
 回復を担う凛子は、既に自身の魔力を強化した後。慧美の回復が出来る訳がなかった。慧美が膝を着く。
「……確かに成敗したい悪は世の中に蔓延っています。でも行き過ぎた正義はもはや正義とは言えません」
 慧美だって、このままでは終われない。自身の運命を熱く熱く燃やして。
「目を覚まさせてあげます!」
 傷ついた体を奮い立たせ、立ちあがる。本物のヒーローが、こんな所で倒れる訳にはいかない。
「人殺しがヒーローに成れぬとは言わぬ。ま、ヤマにゃ無理だが」
 ひとつ攻撃を凌いでも、雨嵐のように続く攻撃。
 言葉と共に伸びてきた気糸が寸分狂わず、彼の片目を貫いた。
 口から洩れる呻き声。苦しそうに片目を抑えて、それでも。剣は地に付けず、膝は折らず。彼を立たせるそれは、意地なのか、執念なのか。それとも、信念だろうか。
「ヒーローちうのは人を助ける者の事だ。その手段として殺しをやる人間を、ヤガも知っとる」
 ヌシにも、好いた娘子の一人も居ればまた話は違うたろうにの。からからと、ヤマが笑う。
「疾風怒濤フルメタルセイヴァー……参る!!」
 すこし前にも、同じ言葉を聞いた。剛毅が魔力剣を振り被る。振り下ろされたそれを、彼は受け止めて。
 けれど。傷ついた彼の体は、剛毅の持つパワーを堪え続けることは出来なかった。剛毅に力一杯斬り倒され、その場に転がった。
「いいぜ、ここでお前を救ってやる」
 俺の語り方はこれしか無いと、剛毅はその手にぎゅうと魔力剣を握り直した。
 彼はすぐに飛び退くと、剣を握る手に力を入れ直し、呼吸を整える。彼の潰された目が癒えていく。
 確かに当たったのにの。傷が癒えていく彼の姿を見て、ヤマがまた、からからと笑った。
 一呼吸。ぱちり、彼はひとみを開いて。リベリスタたちへと、駆ける。


 死にたくない、見逃してくれ。頼む、大事な恋人がいるんだ。お前も知ってるだろう。
 勿論、知っていた。それはそれは仲睦まじく、ふたりともとても、幸せそうだった。
 ごめんな、何度も謝った。それでも、彼は生きることを諦めきれなくて。
 当り前だ。彼には大切なものがたくさんあったのだから。
 私は、色々と忘れてしまってばかりだけれど、そう、確かに。今の私だって、あの時の彼とおなじ。
 あの時の彼は今もやっぱり、私のことを恨んでいるのだろうか。


 すとん。身体に突き刺さるメス。投擲したのは、一番離れた場所に居る詩人。
 自身の身を傷つける攻撃よりも、よくあんな離れたところから、と感心するこころが勝った。
「此処が終点。終わらせようぜヒーロー。貴方が貴方で在れる内に、終わらせる」
 詩人は、真意の読み溶けない笑みをぺったりと顔に貼り付けたまま。
 今にも倒れそうだった慧美は凛とした瞳で彼に向き直った。清らかで優しい風が吹き抜けて、慧美の身体を包み込んでいく。凛子の唱える詠唱の効果は絶大である。
 彼は、もう、分かっていた。これが最後であることなんか。この先なんて、無いことなんか。
 だけど彼が逃げぬのは。退かぬのは。こうしてリベリスタたちへと、立ち向かうのは。
「……貴方の名前はプラックではなかったですか?」
 不意に掛けられた言葉に、彼が戸惑う。凛子の言う言葉を復唱して、首を傾げた。
 Pluck そして Plus luck ―――― 勇気、そして もう少し運があれば……
 思い出せない、と彼が首を振る。それすらも分からない、と。彼は、苦悩の表情を浮かべる。
 無いものを示せと言われても、示すことは出来ないのだから。彼とて、忘れたくて忘れた訳ではないのだから。今の彼にとって、名前を思い出すという行為は、自信が化け物であることを認めているような、そんな絶望でしか無かった。苦しいと、やめてくれと。彼は痛む頭を抑えて。
「これではエスプリの効いた皮肉ではないですか……」
 もし、誰か大切なひとの為に彼が『勇気』を出した結果が、これだと言うのならば。
 ヒーローであった男の、痛々しい姿に、凛子は端正な顔をすこしだけ、歪めて。
 大切なひとへの想いも失う前に終わりにしようと、強く決意しなおした。
 剛毅と彼の剣がぶつかり合う。彼らはその剣で何を語るのだろう。二人はどこか楽しそうで、もう少し早く出会えたら、結果は違っただろうか。その時、はっと冴が気付いた。
 彼の纏う雰囲気が、先ほどまでと違うことに。それは明らかに迷い無くが発動した、と言うことだ。
 だが、それはチャンスでもある。彼が傷ついている、と言うことでもあるのだから。
「問いましょう英雄。貴様が為したいのは何ですか?」
 為したいのは何、か。彼はすぐには答えられない。それは、戦っている最中だから、だろうか。
「『人を救う事』ですか。それとも『自分の手で人を救う事』ですか」
 冴の言葉は続く。
 それは厳しくも真実で、彼がノーフェイスとなった以上どうしようもないことだ。だけど。
「貴様に想いを託した者のように、私達にその想いを託す事は出来ないのか」
 彼は思うのだ。
 たくさんのひとから想いを託されてきた。自身にもその順番が巡ってきただけのことだろう。だけど。
 今まで想いを託してきてくれたひとたちは、諦めただろうか。あの時の彼も、彼女も、あの子も。
「今貴様が救えるのは、貴様が堕ちた後に害す人々だけだ」
 ノーフェイスである彼が生き延びれば、これから先、救った以上の命を危険に晒し、奪うことになるのだろう。分かっている。だけど、違うのだ。
「その犠牲すら良しとしてまで人を救いたいと願うならば、既にして貴様は英雄ではない」
 違う、違う、違うのだ! 
 私が関わってきた彼らは、最後のとき、諦めて命を捨てただろうか。もし、彼がこの場で諦めたら。剣を捨てることを選んだら。最後まで戦ってそうして託されたその想いは、どうなるのだ! だから!
「ちがい ます!」
 お人好しで不器用な、そんな彼は。こうして想いを託す以外の方法を、知らなかったのだ。

 想いが弾けるように、彼の力があちらこちらで弾けた。
 それは、あるものを運命を燃やさせるに至り、それはあるもののこころに怒りを沸き立たせた。
「私は、弱い。力も心も。それでも、此処で倒れる訳にはいきません!!」
 だが、すかさず慧美がブレイクフィアーを放ち、乱されたこころを正常へと引き戻していく。
「ヒーローとは! 自分も守るものです! でなければ人は守れません! いざ、尋常に勝負ッ!」
「……一人で居たのはいかんな、ヒーローよ。孤高の英雄は美しく死ぬが、残されるものは涙のみよ」
「そうです。ボクは一人では戦えません。一人じゃないから戦える」
 ヤマが、壱和が、彼へと攻撃を放つ。彼は攻撃を凌ごうと剣を振るうが、それらすべてを凌ぎ切ることは出来なかった。受けた傷によろめいて、地に膝を着く。
「わたしが死んで、悲しむひとがいるでしょうか」
 もう、何もないというのに。力無く、彼は独り言のように呟いた。それから、ゆっくりと立ち上がる。
「アンタの生き様はさ、それこそ本当にヒーローだったんだろうさ。
 けどさぁ、無い無い尽くしじゃんか。そりゃ確かに無くてもいいものばかりだけど、
 詰まんねぇし、寂しいではないか。何も無いなんて」
 遠く離れた場所から、確かに届く詩人のこえ。そのこえは、完璧に理解できるおとで、彼の耳に届く。
「あるだろう。他の何を忘れても、絶対忘れたくないモノ。
 思いだせ。剥がれ落ち、失っていく記憶の中でそれでも輝く何かを。きっと、それがあるからアンタはここにいる」
 忘れたくないモノ? それでも輝く何か? わたしがここにいる、理由?
「……私に魅せてくれよ」
 汚れた白衣を纏った男が、わらう。
 それは例えば。あの日した約束だとか。あの日死んだあの子への想いだとか。そんな大層なものばっかりでも、無かった気がする。母親がうたう子守唄だとか、妹の笑顔だとか。おやつがアップル・パイだったとか。そんな、そんなどこにでもあるようなことだった。なんてことのない、できごとだった。
「何が無い、じゃない。何が在るかで自分を語ろうぜ。
 存在理由は他人じゃない。己が決めて、語るものだろうよ!」
 ―――――嗚呼、そうだ。わたしは、わたしには。
 大切なモノがたくさんあって、それを、守りたかった。だから、こうして、戦って戦って戦い抜いて―――
「そうこなくっちゃ」
 すとんすとん、と。詩人の放ったメスが彼の身体に突き刺さる。既に満身創痍。次があるかなんて分からない。それでも彼は、笑っていた。
 輝がぱちくりと瞬く。笑いながら剣を振るうその姿に驚きはしたものの、どうやら気が触れた訳では無さそうだと言うことは、彼の表情から見てとれる。
「貴方を独りのまま終わらせはしません。どうか独りのまま逝かないで」
 胸が苦しい。彼を救う為の手段は、ひとつしか残っていないのだ。凍て付く乙女は静かに、その時を待つ。
「貴方が自分の名も、心も無くしてしまったとしても、私は、私はいつまでも覚えていますから
 貴方と言うヒーローがいた事を、忘れませんから!」
 輝が、駆けた。これで最後だと、そして彼を救うのだと、強い意思を込めて。剣を振るう。
「今度こそ、貴方を……救いたいんです!」
 とすん。
 深く深く、彼の心臓へと突き刺さる。彼の血を浴びてなお、冷たい蒼氷色の輝きは鈍らない。


 まるで夢のような力だ。そう思った。きっとこの力を使えば、みんなみんな笑顔になれるよ。
 ぼくは傷つくかもしれないけれど、きっと、それでも。最後にはみんな笑顔になってくれるよね。
 ただの『少年』が、『ヒーロー』になると誓った日のはなし。


「ヌシが欲しかったのは笑顔であろうに。もうちと、適当でも良かったのだよ、英雄狂いめ」
 かか、死神の語る話ではないか。ヤマが動きを止めた、彼の側に歩み寄る。
「……辺土で今しばらく待っておれ。いずれヤガもそちらに行こうほどに」
 開いたままのひとみを閉じようと、ヤマが手を翳した。けれど。彼はゆっくり手を持ち上げて、ヤマの手を制止する。
 彼の表情は、苦しそうには見えない。満ち足りていて満足そうな。そんな表情をしていた。
 壱和が彼へ駆けより、手を取った。すぐに訪れる死を待つだけの彼は、壱和を見て微笑む。
「……貴方が何者でも、ボクにとっては尊敬すべき英雄で、目指したい姿です。
 貴方の生き方を笑う事は誰にも許しません。その魂、ボクに預からせて下さい。一緒に行きましょう」
 壱和の手を握り直す力は、彼にはもう残されていなかった。
 ありがとう、やさしい子だね。僅かに動いた唇が、そう告げる。
「………託していいかい。未来のヒーロー」
「……ええ。貴方は一人じゃない」
 よかった、と。彼が幸せそうに微笑んだ。もう一度、最後にと。詩人が彼に問う。彼の証を。彼の名を。
「……貴方の名前を、教えてください」
「…………、 ……」
 微かに動いた唇が、何かを告げる。その言葉は掠れてこえにならない。けれど、それは、きっと。
「……最後に名前を思い出せたのですね」
 納得したように、凛子が柔らかく笑んだ。答えは、彼のなかにだけあればいいことだ。
 彼の手から、するり、力が抜けていく。輝が彼の前に膝を着き、きゅうとつよく両手を結んだ。
 驕らず、迷わず、躊躇わず、欺かず、悔やまず、
 痛みも、祝福も無くそうとも、世界を救わんとした、ひとりのヒーローの話が、幕を下ろした。
「同じ正義の味方としてなんというか複雑な依頼でした。ヒーローのあり方を考えさせられますね……」
 それでもリベリスタたちは歩みを止めない。今日、またひとつ、新たな想いを託されたのだから。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 このような結果となりましたが、如何でしたでしょうか。
 リベンジ成功でございます。お疲れ様でした。

 MVPはとてもとても迷ったのですが!
 無いものでなく、有るものについて語りかけて下さった詩人様に。

 熱いプレイングばかりで素晴らしかったです。
 ご参加ありがとうございました。