●鯢は悲しんだ。 -The salamander was lamented.- 潰す、抉る、持ち帰る、寝る 起きる、潰す、抉る、持ち帰る。 潰す、抉る、持ち帰る、寝る 起きる、潰す、抉る、持ち帰る。 潰す、抉る、持ち帰る、寝る 起きる、潰す、抉る、持ち帰る。 潰す、抉る、持ち帰る、寝る 起きる、潰す、抉る、持ち帰る。 潰す、抉る、持ち帰る、寝る 起きる、潰す、抉る、持ち帰る。 無機質な毎日が繰り返される。 ある日、鯢は、まるで、岩戸の中に閉じ込められた様だと考え始めた。 責任という岩戸の中で、無心に仕事をこなす日が始まるのである。今日も明日も明後日も。 三軒両隣には、いつも仕事を辞めたいだ愚痴愚痴とのたまっている奴がいる。 気持ちはわからないでもないと彼らを尻目にみて、むしろ、同じ胸中である非建設的でない自分に嫌悪するようになった。 「今日は、別の場所行くぞ」 鯢は、唐突に出てきた代表の言葉に、まるで岩戸に差し込む僅かな光を感じた。 大きな仕事に水を得た魚のように、胸裏が高揚する。 三軒両隣を見る。 見れば、しかし変わった所へと出張とあいなったのに、彼らは死んだ魚のような目をして、疲労感をでろでろ吐き出しながら徘徊していくのである。 鯢は、ああ、あいつはいつもネガティブで困る、と考えてこっちまで陰鬱な気分になってしまうと考えて、仕事道具を持って現場へ向かった。この心境の変化は何とも大きい。 鯢は、浮世小路には感じられない心地よい闇が、全身に染み渡る感じが好きになった。 住みにくき岩戸、その住みにくきところを束の間にでも住みよくしてくれるから、ここは尊いというのに。それすらも気が付かないで。彼らは本当に不憫だと胸裏に響かせる。 「さて、そろそろ仕事するかぁ。ヤル気がでてきたぞぉ」 鯢は手近にいた、二匹に手を伸ばし、仕事を始めた。オスとメスの番である。 「こんな文明レベルも何から何まで、下等生物なのに。あーあー、内臓取られた位で、汚物撒き散らしちゃってさあ。無様だねぇ」 鯢は考えた。 こういう仕事柄、こういう有様を見慣れている。 最初にコレを食べた者は、どういう胸裏であったのかが興味をくすぐった。 「おや、子持ちとはまた縁起がいい。持って行こう」 彼らはどういう訳か、美味いのである。心臓辺りが特に、上の連中に好まれるのである。 「一丁上がり。さて次だ。残りは綺麗に平らにしておこう! ああ、王が為ッ!」 ●鯢は激怒した。 -The salamander was enraged.- 「アザーバイド、識別名『鯢(さんしょううお)』を撃破する」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、フォーチュナから預かった資料を手渡した。 資料によれば、昨今、得体のしれない状態の死体が発見される事件が多発していたのだという。 詳細に目を通す。 身元の確認が困難なほど、アスファルトの染みというレベルまで圧し潰され、検査の結果において、何故か心臓部分が見当たらない。要約すれば、そう記述されており、持ち去られたのか何なのか、リベリスタの思索を促す。 尤も、デス子は開口一番にアザーバイドといった。 異界人。つまりそういうことなのだろう。 外から来たナニカが、行為に及んでいるのである。 「多分何度かやりあった世界の相手と推測される。やはり手口などから、嫌な予感しかしない。決して、招いてはいけない相手だろう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月21日(月)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●形容しがたい -Unknown- 鯢は、手近にいた警察官に手を伸ばしながら、こう考えた。 下賤な我らが収穫したものが高貴な方々の口に入る喜びが胸の内。 豊かな心持ちは更に絶頂へと達して、手に震えが走るようである。嗚呼嗚呼。 警察官の袖を引っ張って。 引っ張っると同時に、まるで幸福を自ら引き寄せるかのような感覚に包まれる。嗚呼、この感覚は尊い。 収穫とは実に尊きものなんだ。 全身に染み渡る闇の空気に包まれて、豊かな心持ちは更に絶頂の深淵へ嗚呼嗚呼嗚呼! 尊き尊い闇が染み渡って行く! 嗚呼、我が王の為! サラリとしたストレートの短髪で、サラリーマン風の背広姿の。 美男に含まれる整った顔立ちであるのに、まるで印象に残らないような顔をした何かから『袖を掴まれた』。 喜怒哀楽という、感情の楽だとか喜びを表す形ではあるのに、どこかかけ離れた、作り物の様な印象をばら撒いていた。 目を閉じても、どんな顔だったかすら瞼の裏に描くこともできない。空気の様な"ソレ"がそこにいた。 袖を掴まれた『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は、首をぐるりと捻って無貌の面を、無貌の面に近づけた。 「くっくっくっ……また来たんですな」 九十九は、旧友に挨拶するような調子で、鯢の虹色の瞳を間三寸隔てた位置から、下から覗き込むような形で凝視した。掴まれた袖。袖を掴んでいる腕を握り返しながら言葉を続け。 「相変わらず狩りに精を出しているようですのう。物騒な事です」 撒き餌や囮という訳では無かったが、人払いの為に警官に扮していたリベリスタ達にとって、僥倖な状況であった。 九十九が片手を大きく上へ伸ばす。 いち早く『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が茂みから駆け出して、アクセスファンタズムでもって仲間へ知らせる。愛刀をすらりと抜く。立ち止まらず、光を帯びた切っ先を鯢に向ける。 「許せない」 平和に暮らしていた人達の命を奪う。ここはアザーバイドの狩場ではない。と意志と気魄を固めて初手を放つ。 ガラスの様に煌めく霧を生じさせて、霧は氷の刃を生み、鯢に解き放つ。 切り刻んだのに。切り刻まれたはずなのに。 嗚呼、鯢の表情に変化はない。 無傷の様な佇まい。そして虹色の瞳がセラフィーナを凝視する。 仲間達が駆けつける音がした。雑踏が八方から聞こえだせば、次に鯢の首から上がぎゅるりと捻転した。右へ左へ、左後ろへ右後ろへ真後ろへセラフィーナをもう一度見て、そして九十九へ戻る。 「~?oyu...sam――ihso rokkub――」 この世のあらゆる言語とは異なる言葉で、およそ人間で言えば口と呼ばれる部位から発される不協和音の次。明瞭に――ぞぎり。と音が鳴る。 鯢の手が、九十九の胴にめり込み、切り裂き、半ばまでを引き裂いて攫われる。 攫われた肉は――何処かへ掻き消えた。 「!!!!~―iii~iii iio tuot!aa~~」 『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)と『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が、茂みから駆けて。セラフィーナからの連絡ポイントまで走り、そして足を止めた。 冬の寒い空っ風。血味噌がぶちまけられて九十九が膝をついて、氷に覆われている。 鯢の虹色の瞳がセラフィーナを見て、捻転して、マリルと彩歌を見据える。 「話が通じないんでしょうね。何を考えてるかとか分かりたくもないけど」 彩歌は呟きながら不味いと考えて、気糸を放出する。回復無き状況であるから。短期決戦しかない。そして九十九の様子を見れば、その威力はまるで計り知れない。短期決戦しかない、と胸裏に反芻して。糸を解き放つ。 マリルは、片手に短剣を抜いてくるりと回す。もう片手に銃を握りくるりと回す。 「『鯢』とか読めないのですぅ。さかなへんの漢字は難しいから苦手なのですぅ」 マリルは忌避感が大きく働いていた。それは事件の背景に加え嫌悪を催す内容に加え、そもそもの見た目であった。黒いウーパールーパーかと思えば、どうにもそうは見えない。人の形をした得体の知れない何かである。握りを改める。速射する。 人類の関節可動域を無視して、こちらを凝視するならば、中身はまるで違う構造をしている。狙いは額の中央。 突き刺す糸。突き刺す弾丸。 彩歌は、刺した手応えを糸から感じる。引き抜けば、しかし穿った箇所の穴が消えている。効いていないのか? 無貌を崩さない虹色の目は粛々と見据え続ける。不気味な焦燥感に煽られる。 煽られた刹那に、シュンッと風斬り音が鳴り、鯢の頭を串刺しにする。串刺されてぷらぷらと首を揺らし、しかし首をぐちゃぐちゃに曲げながら、放った対象を見る。 「アザーバイド! 人のシマを我が物顔で食い散らかすエイリアンが!!」 『親不知』秋月・仁身(BNE004092)が次手の槍を構える。 「お前が死ぬか! 僕が死ぬか! 生存競争だ!!」 仁義も倫理も通じぬなら、ただ暴力をもって駆逐するのみである。 仁身の胸の隅。もし母ならば"これ"と言葉が通じていただろうと考えて、次に殺意で塗り固める。少年は盾を携えた左手を掲げ、向こう側から走ってくる、仁義を携えた男に向けて合図を出す。今であると。 「ぅるおあああああ! クタバレェェェェヤアアアアア!!!」 人で言えば後頭部に位置するところへ、『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)の拳が突き刺さった。 鯢の後頭部が拉げる。仁身がたった今打ち込んだ槍の感触が、ごりりと拳に伝わる程にめりこんで。そのまま後頭部から面へと突き抜けてしまえ! と全霊を注ぐ。 「ちぃ……気に食わねぇな……!」 拉げた頭は元に戻り、更に捻転して隆明を見る。とうに360°以上回って首がゴムのようで。 笑顔のままの無貌が、まるでニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている様に見えた。 「……舐めていやがる――黎子!」 隆明の声に、闇より濃い、影の様な闇が揺らぐ。 「出会いたくなかったですねえこの類のものには」 『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)が、死神の大鎌を振り上げて、明朗に振り下ろす。 肉を引き裂く手応えがあって、血肉が飛び散るかと、次に思えば。 「ふうん」 何もない。これまでの攻撃同様、切り裂いた手応えはあっても。負傷らしい負傷がアザーバイドには見えない。 「ま、言葉通じてるのかわかりませんが、わかりやすく言いますよ」 効いてるか効いていないのか。 効果が見えないならば、どうするかなど、答えは明白だった。 「やめなさい。死んでください」 死ぬまで斬り殺すのみである。 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は、悠然と歩いてきた。 「やる気のあるアザーバイドとは面倒なものだな」 シビリズは首を後ろを掻きながら、当然のように得物を振り上げる。 「しかし――」 重厚なヘビーランス。当たり前の様に振り下ろせば、上から下にかけて肉を潰す感覚が手に伝わる。 「私としては闘争を楽しむ事が出来れば敵が誰であろうと関係ない。負傷が見えんのは実に、至極。――『良い点』だ」 胸中は存分戦えるではないか。という一点。 存分と存分、存分に! 朽ち果てるまで! 布陣の完成。 鯢を円の中心に据える形で構えるリベリスタに対して、鯢はゴムのようにくたびれた首を一度元に戻し、一方向を見た。 次にその方向へ走らんとすると、鯢は突如袖を引かれた。 「……くっくっくっ」 ぐるりと首を捻った頭と赤い眼孔が、鯢の間三寸隔てた位置に生じた。 鯢はたった今、肉を攫った何かから『袖を掴まれた』のである。 ●鯢は、解しかねた -Unknown- 嗚呼、やるきが一気に無くなっていくじゃないか。 こんな気分にさせてくるなんて、何て罪深い生き物達だろう。 ああどうでもよくなってきた。帰ろう。今日は帰ろう。やる気が失せた。帰り道はあっちだったっけな。 なんだってこの下等生物は、分からない不協和音ばかり垂れ流してくるんだ、次々に。 嗚呼、不愉快だ。嗚呼、不愉快だ。実に不愉快だ! サンハイサンハイ。あいつは。レポートがあったっけなあ。きっと褒められるんだろうな。実に尊い。 退職届をいつも持っているあいつは、またどこかでげろげろと疲労感を吐き出しているんだろう。だが達成感を感じてくれれば芽はあるんだ。実に尊い事だ。 あいつは、――うんまあいいや。 あいつは面倒臭い。面倒くさい事は尊くない。 ああ、そんなことはどうだっていいんだ。 うん? この下等生物達は、抵抗してくるなんて、鮮度があるってことなんじゃないか? ああ、そうか。そういうことか。 よおっし、いい気分が蘇ってきたぞ。いい気分が蘇ってきたぞ。 尊い気持ちが染み渡ってきたぞぉ! ここはとても尊いものだ。とても尊いものがあるんだ。 頑張れ! 嗚呼、嗚呼、頑張れ! よおっし、いい気分が蘇ってきたぞ。いい気分が蘇ってきたぞ。 「嗚呼、我が王のため!」 ●嗚呼、我が王のため! -Unknown- 人類が最も恐れるものは未知である、と云ったのは誰であったか。 たとえ言葉が通じなくとも、好敵手として認め合う間柄は"かつて存在した"。 しかし嗚呼、明らかにその類ではない事を感じるには十分過ぎる程に、まるで煩わしいものを見るような目をしているのだ。 能面の様な"ソレ"の顔には虹色の瞳。 次に、収穫に喜びながら粛々と作業をする農夫のような輝きを帯びはじめる。 どうも、大半が水分で構成されている人類には、想像もつかない程の密度があるらしい。中身がまるで異なるとはそういう事であろうか。 証左。 ただ腕を一振りするだけで、リベリスタであっても肉を大きく攫われてしまうならば、軽く指がかすっただけでも持っていかれるに違いないのだ。常人であれば一瞬で血味噌になってしまう事も想像に難くない。 ――ぱんっ! と、突然だった。 まるで革袋が破裂するような甲高い音が響き渡った。 モーションも予備動作もない。ただ、音がした。 小気味良く集中攻撃を続けていたリベリスタの、彩歌、マリルが、激痛を覚えて視線を自身の身体に向ければ、そこには大きく穿たれた正方形の傷が生じていた。まるで見えない、何を出したのか。何も見えない攻撃であった。 「か、回復がいない……ですから。致命を受けてもへっちゃらですぅ!」 途端に、自身の血を見たマリルがふらつきながら、付きそうになった右膝を立て直す。円陣の作戦をとった事は正解だったと考える。 ただの出血ではない。塞がり難きよう歪に抉れ、服の上からも容易に致命である事を判断できる何か。 そして蝕む、毒の液。 「熱……?」 彩歌が口角より垂れた液体を拭いながら、熱感知で反応があった傷を注意深く見る。 見れば、まるで焦げ跡の様なもの生じている。摩擦で発火したのか。 「本格的に、心臓狙いの一撃に注意――が、必要ね」 毒の液。心臓付近に受けたら、それこそ命取りになる。 ――ぱんっ! と、立て続けに生じる音。 次はセラフィーナと仁身が、胸部に激痛を覚える。 「やはり、抉り取る攻撃……」 速度に長けたセラフィーナが辛うじて構えた剣。剣を伝い、吸い寄せられる感覚があった。 思索。穿たれたのではない。凄まじき速度で『引き剥がされた』のだと。 「ええ、良いでしょう――人類を狩ろうというのですから……貴方が狩られる事になっても、仕方ないですよね!」 セラフィーナが、煌めく剣を握り直す。 刹那に、地を蹴ってを光の軌跡を描きながら、袈裟に逆袈裟、横薙ぎ、そして正中線を下から上へ光の軌跡を跳ね上げる。 返す刀で、上から下へ、横薙ぎ逆袈裟、袈裟へと逆再生の様に斬り捨てる。 敵に斬傷は見えない。見えないが―― 「お願いします」 セラフィーナが後方に視線を運び、跳び、離脱する。離脱した直後に、セラフィーナの居た位置に、血塗れた槍が飛ぶ。 「この痛みは! お前が与えた痛みだ! 存分に味わえ!!」 仁身が放った槍が、弾丸となって鯢の口中を穿つ。 仁身の身体を蝕む毒も、仁身にとってはただ痛いだけである。何も効果を及ぼさない。 そも得体の知れないナニカ――といえば、最近遭遇したドリルを撃ってくる奴のほうがまだ痛かった。 「喰えるものなら喰ってみろ! それ以上の毒を喰らわせてやる!」 次の槍をくるりと構える。これしきの痛みで、手が止まる筈がないのだ。 九十九は銃口を、鯢の目に突き刺す。 「唯でさえしぶといのに、回復までされては溜まりません。その効果、破壊させて頂きますな?」 貫通性能を高めた散弾が飛び出して、鯢の後頭部を吹き飛ばす。手応えはあった。付与を消し飛ばした事は間違いない。 動画のフレーム切れの様に元に戻っているのは、『相変わらず』くっくっくと笑ってしまいたくもなるが、このいきものがどういう姿で最期を遂げるかを九十九は知っていた。 「あなた方がしたように、綺麗に押し潰してさしあげるのも吝かではありません。綺麗に、綺麗に」 「ああ怖い……本当に怖い。だからこそ私は格好つけるのです」 恐怖に打ち勝つということは、己に克つという事と同じ事。 黎子はカードをばらまく。知らしめてやらねばならない。 鯢が現れた時点で、ボトムチャンネルの不運。ではあるが、ならば残り全てのジョーカーは誰が持つべきかを。 「かつてなれなかった理想のように! 美しく瀟洒に華麗に!」 全てに死神とも道化ともつかない絵柄施された札が舞う。空っ風を切り裂いて、鯢の首にタイに様に突き刺さる。刺さったまま引き抜かせない。 当然のような顔で、当然の様にボトムの人を狩るならば、当然のような顔で、当然の様に敵を倒すべきなのだ。 ぞぎり――と鎌を引く。 口中に槍を生えさせながらも、張り付いた笑顔を浮かべていた鯢の顔がぴくりと動く。 笑顔は変わらず、しかし『目が笑っていない』という面で。表現するならば不愉快で喧しい。といった面へと変じる。 リベリスタの多き攻撃、その攻撃の多くを身に受けて、身動ぎもせずにいた鯢の僅かな変化。 蜜柑の皮を携えて、血を滴らせながらもマリルが走る。 「あたしのウルトラ超必殺技! 『破滅のオランジュミスト』なのですぅ!」 虹色の瞳に汁が入るや、しかし鯢に手首を掴まれる。 「にゅ!?」 マリルに注意が行った刹那に、隆明は鯢の髪を掴む。肘を大きく引いた姿勢で。 「後悔しろ、俺の拳は痛ぇぞ? 存分に苦しんで――」 引いた肘を真っ直ぐに伸ばす。先端に作った握りこぶしに捻りを加え、真っ直ぐに突き出す。恐怖は怒りでもって塗りつぶす。心得ているのである。隆明は長年と恐怖と向い合って来たのだから。 「――逝けッッ!!」 ずむり、と。くぐもった大きな音が響き渡る。韻を広げる様に、すっと音が鳴る。 彩歌が放った気糸の束が、鯢の腹部を貫いて、鯢の全身を駆け巡り、あちこちから噴き出した。 「回復できないでしょう。これなら……!」 プロアデプトとして思索した最良手。切った刹那に、穿った刹那に、平然としているのならば、その時を縫い付けてしまえばいい。 黎子との二段構えの致命の付与。 「我が槍よ輝け。敵を貫き、至高を見せろ」 シビリズが、その巨大な槍を構え、大きく引いた。左爪先を鯢に向け、右足を大きく後ろへ引いた姿勢で。 「貴様自身の汚物を撒き散らすが良い――」 全霊を叩きこむ心算だが、これでダメならばまた得体のしれない攻撃が飛んでくる。 4人に施された正方形の傷。治り難い。難いが、そもそも回復がないのだから知った事ではない。 「鯢よ」 右足の下にあった地面が爆ぜて。光輝く槍でもって鯢の胸部を貫く。引き抜けば、また回復されるだろうか。 ――ぱんっ! と音がする。 ――ぱんっ! と音がする。 シビリズは胸部に熱い痛みを覚える。 上から月光を遮って、跳躍する影があった。 シビリズは、槍をあえて抜き去って、後方に離脱する。 「やれ、セラフィーナ」 「侵略者の好きにはさせません! この世界には私達、リベリスタがいるのですから!」 光の軌跡が上から下へ降りてきた。 また、 ――ぱんっ! と音が鳴った。 ●鯢は息絶えた -Unknown- 鯢は、何も残さず破裂するような音を出して消えた。 ボトムチャンネルの常識が通用しないということは、神秘世界にはよくある話である。 幸いにして、どういう終わり方をするのかを九十九は知っていたから、これで終わりであると皆に告げて解散の運びとなる。報告へ向うもの、疲れて帰路につくもの。 呆気無いというべきか、本当にこれで終わりであるのか。一同、全員の胸裏に不安の種がただただ残った。 彼らが通ってきた虫食い穴が残っていた。 仁身とシビリズは、穴を覗きこむ。 向こう側には、鯢の様な生物が蠢いているのだろう。 鬼魅が悪いほどに黒き穴は、滔々としていて。どこか生臭さが鼻孔を擽る。 やるべきことは単純だ。 粛々、ブレイクゲートでもって、破壊する。 破壊する。 破壊する。 破壊する。 破壊する。 破壊する。 破壊する。 破壊する。 破壊する。 気がつけば、見慣れた天井が眼前にあった。 ――ブレイクゲートを施した直後の記憶が、どうにも曖昧で、要領を得なかった。 後日、気になる事といえば、正方形の傷を受けた者が口をそろえてじくじくと痛むという。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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