●マッカナ色したシホンシュギ 労働は楽しい。労働は楽しい。この世に於けるあらゆる『労働』が幸福でならない。 幸福なのは良い事だ。良い事は幸福だ。 労働を嫌う者がいるだなんて私には俄かに信じられない。こんなに素敵なのに。 労働は義務、そして義務は労働だ。 きっとこの、私が両手にした生物も幸福で仕方がないだろう。こんなに大きな音を発している。 奉公の礎となる事を喜びなさい。 労働の快楽に身を任せなさい。 家畜は家畜の任務を全うする事が幸せである。故に私はその任務全うの手伝いをする。親切な人だと我ながら思う。自惚れたっていいじゃない、XXだもの。 採集、採集、大きく開かれた口に手を突っ込んで、一気に引き裂く。そして引き裂く。何度も引き裂く。細かく細かく。天辺から真下まで途切れないように。嗚呼、この技、若い頃は上手くいかなかった。随分と上手になったと思う。 そう思うと、思い返すと、嗚呼、やっぱり、労働って素晴らしいな、って。 喜ばしい。楽しい、楽しい、幸福、降伏、口腹が満ち満ちミチミチ満ち溢れる。 いつだって犯されている。何人足りとも。 ●異界の窓からコソニチヮ 「さて、グロテスクなニュースと悪いニュース、どちらを先に訊きたいですか?」 と、事務椅子をくるんと回し皆へ振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が一同を見渡した。 どういう事か、と質問が来る前に予言師は自嘲じみた笑みを浮かべる。 「……ま、どっちも『同じ』ニュースなんですけどね。では説明に入ります」 言葉と共に卓上に置かれたのは新聞だった。『ここ』、と機械の指先が示す先。ぽつねん、と記事。奇妙な死体が発見された、と短い文字が伝えていた。 「最近、『妙な死体』が幾つも発見されているようで。この新聞が示す通りに片隅で報道されていたのですが」 さて。今、ここで、フォーチュナがそれを取り上げた、という事は。 「アザーバイドの仕業です。一連の事件は同じ世界から来た『来訪者達』によるものですな。 私が担当しますのはこれらの内一体、他のアザーバイドについては他フォーチュナ様が受け持っておられますので、そこはご安心を。 さて、『妙な死体』についてですが。それはまるでシュレッダーか何かにかけられたかの様に細かく細かく引き裂かれており、身許の確認すら困難。そして何度検査しても修復してもパーツが足りない。アザーバイドが持って帰った可能性は高く、食された可能性は零。 ……この手口、恐らく何度かボトムにやってきている世界の存在でしょう。彼らと和解はとても出来そうにありません。斃さねばなりません。絶対に、確実に」 真剣な声。そして、メルクリィは一つ頷いた。 「どうかお気を付けて。思うに、話が通じない相手ほど手に負えないモノはありませんから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月10日(木)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ジジジジジ と、枯れ果てそうな街灯が頼りなく一帯を照らしていた。コインパーキングの看板灯の色は褪せている。 「生理的嫌悪しかないですね、正直なところ」 中華服の佳人、梶原 セレナ(BNE004215)は柳眉を寄せて不快感のままに言い捨てた。 化物が単純に人を『喰う』だけならまだ理解できるが――尤もしたくないし納得も出来ないけれど――シュレッダーにかける様に細かく、となると、もう。想像もしたくない光景。彼女の顔色があまり良くないの夜の冷たい外気の所為だけではない。 「細かく細かく引き裂かれるとか、遠慮して欲しいですよう」 ぶるり、と体を震わせ『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は仲間へ翼の加護を授けつつ眼鏡の奥から周囲を用心深く見渡した。 すぐ傍に、もうすぐそこに、居る筈なのだ、怖ろしい異界人が。 「真夜中に電柱の明かりで照らし出された片手に死んだ鶏ともう片手に包丁を持った筋肉質の変質者よりも怖いですよう」 恐怖のあまり一息の一気に捲し立て、「やーん」とセレナの背中に隠れ腕を掴む。 「やはり拙者達を食用とかまぁ、多分そんな感じの捉え方なのでござろうな」 異世界の労働とはどの様なものなのだろうか、と思いつつ『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は言葉を放つ。考えてみれど想像が付かない。異世界とは常識から何までこの世界とは違うのだ――故に、不可解で、交渉の余地もなくて、怖ろしい。 「連中にとって私達は家畜って訳? ――あぁ、ホントに。……ふざけるんじゃないわよっ!」 虎鐡の言葉に苛立ちの声を漏らしたのは『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)、火炎の髪を掻き上げて舌打ちを一つ。 この炎の様な激情を心に湛える少女には、異界人の蛮行など許せる筈がないものであった。炎とは対の存在、『水』の構えをとって身構える。 一方で常通りの様子を見せるのは『見習い鍛冶職人』亞門 一戒(BNE004219)、薙刀を担いで白い息を吐く。 「私はただ、人を殺すための武具がその傷跡を残す瞬間を見れれば其れでいい。私の手でそれを残せるなら尚幸いだ」 殺生はいけないと理解していながらも。だが、相手は倒さねばならぬ存在。遠慮の類は不要だろう。 と、周囲を警戒していたイスタルテが「あ」と駐車場の一角を指差した。誰しもが、見遣る。果たしてその先に―― 「……約一年振りかね、俺がこいつら見ンのは」 一歩前へ、『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)が睨ね付けるのは極一般的なスーツを着込んだ一つの背中。 「前の奴といい仕事好きだなお前さん達。だけどもまァ奇遇だよな、俺も仕事は大好きだ」 「よう、人の皮をかぶった異界人。ずいぶん仕事熱心なようだけど、あんまり張り切ると早々に燃え尽きるぜ」 暖簾の言葉に続き、『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)も前に出つつ挑発する様な言葉を放つ。「この辺で長期に休暇をもらったらどうだ?」と――皮肉の後、それが緩やかに振り返った。 目。視線。 ……何か、何か、何だ、人とは違う、『何か』。どうしようもない違和感と不快感。 ぞわり。嫌な。この気持ちは何だ、と思い、直に理解する。したくもなかったが理解する。 嗚呼、こいつに、この化物に、『品物を見る目』で見られているのだ。 「えーっと、ハギトリーナだっけ? 聞いてハギトリーナ、ちょっと言い難いんだけど……死んでくれる?」 ふわり、見るなら見ろと空色の羽を広げて『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)はくつりと笑う。その傍で朧に揺らめくのは少女の影の従者、『とら』なのでシマシマの影。 彼女の位置は丁度、虎鐡と牙緑の間の奥だった。 「そう言えばパパさんも、牙緑くんもとらも虎だね♪ トラトラトラ? せっかくだから、トラいアングルアタックとか狙ってみる?」 「面白そうでござるな。……さて、戦闘準備は完了でござるっと」 獅子護兼久――滑らかな黒光を湛える刃を抜き放つと同時に、リミットオフ。一つの橙睨が敵を見据える。胆に気を込め踏み込んだ。先手必勝、距離が詰まる。 ――人がバラバラ死体になる。まだ、確定した未来ではないけれど。 (まぁ、防がねばならないでござろう?) 何故なら彼等はリベリスタ。それ以上の説明の必要があるだろうか。 流麗な黒を誇る刃に込めるは烈火の気合。振り抜いた一閃。凄まじい膂力を以て振り抜かれたその力は、そこいらのデュランダルが繰り出す必殺技(デッドオアアライブ)よりも破滅的に高火力。 息を飲む程に、圧倒。 得物から伝わるのは確かな手応えだった。ばっさり。切り裂かれて逆くの字に体が折れ曲がる。 倒したか――否。そんな訳はない。以下に虎鐡の攻撃力が高かろうと一撃で決するなど。 その証拠に刃を振り抜くまでハギトリーマンはその場から動かず『じっと』虎鐡を眺めていた。逃げる事もせず『じっと』。そして、ばっくりと胴を切り裂かれ逆くの字に折れ曲がった後も、今も、尚。 血も何も出なかった。切り口から臓物が零れる事もなく。平然。何も無かったかの様に、 『ずるり』 肉が戻る。元に戻る。肉も、服も、奇麗さっぱり。まるで時計の針が巻き戻ったかの様に。 「……これは。流石に全力でぶつからないとでござるな」 「オレも自己再生持ってるけど……」 比べ物にならないな、と虎鐡の声に応えた牙緑が虎的獠牙剣を鋭く振るい疾風の刃で攻撃する――最中にも密かに虎鐡の動きを視界に留めながら。 (それにしても虎鐵さんの火力は半端ないな) 同じ虎で、デュランダル。親近感ももちろんあるが、それ以上に目標であり尊敬だ。一緒に戦える機会は然程ない故、共に戦う事で何か得られれば、と。 その間にも異界人の目は、目は、『品定め』をしているのだ――全く気持ち悪いやつ。粘り強く攻撃するしかないかと若虎は再度の刃を振り上げる。 「さァ仕事を始めようか。お前さんの労働はコレで仕舞いにしちまおうぜ。 術士で無頼の機械鹿――有りっ丈の名誉を護る為に。いざ、推して参る!」 誇りを胸に見得を切った暖簾がブラックマリアの黒紫の銃指を鋭く向けた。 「お前さんに頭って概念があンのか分かンねェけども、その位置にあンなら其処を何度だって吹き飛ばしてやるよ!」 裂帛と銃声。不可視の殺意が執拗にハギトリーマンの頭部を狙い打つ。弾丸に爆ぜ、肉が飛び散る。飛び散った眼で『家畜』を見ている。元に戻った眼でも見ている。 「……本当、何とも気持ち悪い相手ですね。なまじ普通の人間と同じ外見だから尚更」 その様にセレナは思わず顔を顰めた。それは表情一つ変わらないし、物一つ喋らない。まるで言う価値もないのだと言わんばかり。同等性がない。商品に話しかける者がいるだろうか。 話が通じない相手ほど面倒、という予言師の指摘も尤もだと脳内で思う。思いつ、彼女は防御教義を皆へ授けた。 と、リベリスタ達の油断ない視線の最中。ハギトリーマンが遂に行動を見せた。 それは居たって単純で、分かり易い。即ち、腕で虎鐡と牙緑を掴み持ち上げる。 「!?」 間近で見る人間でないモノの目は何処までも深く、暗い。直後。ぐしり。嫌な音が駐車場に響く。ハギトリーマンの腕から生えた大きな腕が二人を『ちょっと強く』握ったのだ。 「が、っぐ……!」 ビクリと震えた体と、空気を求める様に開けた口から滴る鮮血。 だが彼等は直後に解放される――横合いから飛び込んで来た焔の乙女の拳が、紅蓮を纏い異形を殴り付けた事で。 「御機嫌よう。早速で悪いけど、貴方の労働は今日で終りよ。拒否権は無いわ。私が与えない」 少女の拳によって齎された炎に身を焼かれながら、それが焔を見る。彼女がそれに臆す事はない。相手がどんな存在であろうと恐れる理由はない。 ――やる事はいつも通り。前に出て只管ぶん殴り続けるのみ! 「私はあんた達の都合なんて知らないし知ろうとも思わない。何もかもが気に入らない。だから叩き潰す。理由なんて……ソレだけで十分よ!」 震脚、素早くその懐に飛び込んで再度の火炎を拳を以て叩き付けた。恋する乙女は無限大。乙女の拳には無限の可能性が宿っているのだ。 「あぁ、全く以って、損な体だ」 仲間と異形が戦う様に一戒は落胆の溜息を零す。傷をつけた端から消えていく体というものは、斯くも詰まらないものなのか。傷の走る恍惚は夢幻の様に消えてしまう。そこに永遠の美はない。 嗚呼全く以て詰まらない。闇を纏い、敵を抉る瞬間を望み、集束した暗黒の衝動を撃ち放つ。軟弱な私では成せる事など多くない、と自嘲しながら。 「うわまた生えてきた。いい加減にしろよ、気持ちわりーな!」 悪態を吐きつつ牙緑は刃を振るう。それを煩わしいとでも言う様にハギトリーマンが腕を振るう。それはただそこに在る凶器と成って前衛の三人を吹き飛ばし、地面へ強かに叩き付けた。 だがそんな彼らの傷を立ち所に癒すのはイスタルテが紡ぐ癒しの詠唱。そして回復手である彼女を護る様にとらが翼を広げて立ちはだかる。その指先に持つは、不吉を告げる道化のカード。投げ付ける。ハギトリーマンの胸に突き刺さる。それを見遣りもせず、異形はカードを握り潰す。 しかしその様子にもとらは動じず、口を開けてその中を指差して。 「ほらほら、これが欲しいんだろ? 奥さーん♪」 良く分からない存在だからアレはこっちでいう女というカテゴライズかもしれないのだ。 果たして、その『挑発』が功を成したかは分からない。ひょっとしたら順番に『品定め』をするつもりで、それが偶然とらに回ってきただけなのかもしれない。兎角、ハギトリーマンが立ち塞がる虎鐡達を押しのけて歩き始めた。ただ歩いているだけなのに妙に速い。伸ばされた手。 それを――がぶり、と。とらは何の躊躇もなく噛みついた。歯から伝わる肉の感触。噛み付いてぶら下がった少女を異形は具に眺め、そして、指先でなぞる。刹那に迸ったのは鮮血だった。 「ねこだと思った!? 残念、とらちゃんでした~っ!!☆」 強かに切り裂かれてもとらの相好が崩れる事はない。フシャーッ、と歯を剥き出して威嚇する。 「こっち狙って来るたァ、流石は『高等生命体様』だなァ? クソッタレ、ボトム舐めンじゃねェ! ブッ潰す!!」 素早くとらと異形の間に割り込んだ暖簾の、その堅い鉄拳が真っ直ぐに振り抜かれる。めり込んだ。が、直後に振るわれた腕が暖簾ととらを薙ぎ払う。単純なまでの『力』を以て。 「体を引き裂くのが楽しいんだろ? やらせてやるからこっち向けよ」 「なんでござる?その程度の攻撃でござるか? 片腹痛いでござる」 牙緑は怒りの言霊を以て、虎鐡はシンプルに挑発をして、ハギトリーマンの脚をこちらに向けようと試みる。が、その足は止まらない。力尽くで押し通る。 「確実に倒しましょう、これ以上の被害を増やさない為に」 たとえそれで犠牲者が戻ってくるわけではないとしても――戦術的視野を広げ、支援射撃をしていたセレナは鮮やかにその間合いを奪うと死角を狙う痛烈な一撃を繰り出した。移動に念頭を置いている為に精度は諦めるしかないが、倒れない事を随一に考えれば致し方ない。飛び退く。 されど振り上げられた手。 そして振り下ろされた手。 血潮。 「やれ、世間は厳しいもんだ」 セレナを庇った一戒はヤレヤレと息を吐く。酷い傷だ。酷い血だ。運命だって焼き捨てて、動ける限りは針先程の希望が実を結ぶ夢に縋り足掻く心算。それに尽きる。それまで立っていられれば――嗚呼、力無い自分の、貧相な頭が弾きだす答えもまた愚鈍。再度の自己皮肉。 「残念だな……せめて武器なら良かったのだが。知っているか、武器は傷つける瞬間こそ新の美を滾らせるのだ」 そして彼等は私よりも余程武器に美を飾れる者たちだ、と。至近距離から暗黒を放つ。 直後にその身体が異形の手に包まれて、そして――ぐしゃり。 「この野郎ぉおッ!」 牙緑の刃が深く深く異形の身体を切り裂いた。ハギトリーマンの腕が振るわれ、また鮮血。 「社蓄も家畜も同じ畜生なら、どっちかがヤラレるまでやりあうしかないってやつだね」 立て続けに倒れた仲間を護る様にとらは立ち、告死のカードを投げ付ける。 同刻に暖簾もまた、血唾を吐きながら狙いを定めた。酷く傷だらけなのは敢えて回復を断っていたからだ――ギルティドライブ、その必殺技に全てを賭けて。 「よォ、お前さんのお陰で大分暖まったぜェ。お礼に最高の悪夢を見せてやるよ。 塵も残さず消し飛びな――Sweetnightmares!!」 撃ち放つのは絶対有罪、裁きの魔弾。 唸りを上げて放たれたそれは暖簾の身体に刻まれた痛みを火力に変え、異形の身体を吹き飛ばす。飛び散る。 まだ、だが、立ち上がった。だがリベリスタは度重なる攻撃に、ハギトリーマンの再生速度が僅かに遅くなっているのを知る。そして、その化物があと少しで頽れるだろう事も知った。 「あとちょっとだよ、フェイト☆一発!」 応援すると共にとらが全身から放つ気糸がハギトリーマンを絡め捕る。何重にも。絞め付ける。 異形の動きが止まった。その隙を、虎の眼は見逃さない。 「労働が幸福。それは別に個人が思うゆえ構わないでござるけどな……おぬしの常識をこの世界に持ち込むなでござる!」 踏み込んだ虎鐡は愛刀にありったけの力を溜めこんだ。防げぬのであれば後ろに下がらせるまで。 「頼むでござるよ……獅子護!!」 護る為、虎は牙を剥く。振るう豪閃。吹き飛ばされたハギトリーマンが地面に叩き付けられる。転がる。 その胴を、踏み付けて。 「――ねぇ、その程度? だったら今度はコッチの番ね」 異形の目に映るは、靡く炎髪。焔が振り上げた火炎の拳。 少女の身体は異形に傷付けられ、彼方此方から血が滴っていた。それでも、負けない。痛みに、敵に。 痛みを怒りに変えて、激しく炎上させるは想いの炎。 「彼等の痛みをアンタも味わいなさい!!」 垂直。 叩き下ろした業炎撃。 烈火の火花が迸る。 ――硝煙。 焔が飛び下がったそこにあったのは、歪に立ち上がる異形。 ぼと。ぼと。 裂かれ切られ穿たれ爆ぜた肉は戻りきらず、蕩けた様に滴って。 どろ。どろ。 蹌踉めきながら、徐々に仰け反って。 びき。びき。 その体が、『開いた』。 ぐしゃ。ぐしゃ。 開いた異界人が『ひっくり返る』。 そして居られて畳まれて、ずるずるずるずる吸い込まれて。まるで底の無い穴に吸い込まれていくかの様に――そして――ずるずるずるずる――消えた。跡形もなく。何にも無かった。そう言われている様に。 されどソレは確かに居たのだ。 不気味で不可解な気配を以て、ここに――…… 「ったく何なンだアイツらはよ」 任務が完了した事を知った暖簾はブラックマリアを装備した手で雑く頭を掻いた。溜息。世の中何でも友好的に、という訳にはいかないらしい。前みたいに回収されるのは防ぎたかったが、致し方ない。 「ボトムの生き物使って何してやがンのかね。まァ趣味の悪ィもんにゃあ違いねェだろうけども、まァ……一体どんだけ此方荒しゃあ気ィ済むンかね」 「……幾ら訪れようとも関係ない。来る度に片っ端から叩き潰してあげるわ」 暖簾の言葉に焔が決然と応える。握り締めた拳。灼熱の瞳は今も尚、鋭く鋭くハギトリーマンが消え去った地点を見据えていた。 「その為の力が足りないと言うのなら、至ってみせる。ソレだけよ」 言い放つ言葉は、吐息の熱は、白い色となって夜の空に薄く広がる。 ふぅ、と虎鐡は息を吐いた。何はともあれ今回の戦いはリベリスタの勝利であり、予言師が告げた残酷な『未来』が訪れる事はないだろう。 「……詰らぬモノを斬ったでござる」 静かに、鞘へ収める獅子護兼久。バチン、と収まる音を皮切りに。静寂。 迅速に撤退を始める中で、イスタルテはふと――異界人の視線を思い出す。労働を幸福と愛した化物。 「幸福は義務だ、なんていうのは聞いた事はありますけど……こんな幸福は嫌ですよう」 あの視線を思い出すと不快感が背骨を舐める。ぞわっとした心地に、またセレナにしがみついて。 足音は遠退き、消える。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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