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☆<迎春2013>プリンセスオブハゴイタ(笑)


 狭くて暗い、倉庫の隅の箱の中。
 ぽつん、と仕舞われたままのそれは、何時も何時も、指折り数えて待っていた。
 あといくつ寝ると、お正月。
 お正月は自分の出番だ。羽根を打ち合い、顔に墨を塗っては楽しげに笑い合う子供たちの声を聞く為に、自分たちは作られたのだ。
 もう少し。もう少し。
 毎年毎年。心待ちにするお正月。けれど。
 日の光を見なくなったのは、何時からだろうか。待ち望んで待ち望んで。けれどもう何年も、自分は此処から出ていない。
 今年ももうすぐ、お正月がやってくるのに。
 どうせ、今年も自分は使われない。悲しかった。寂しかった。その嘆きはとてもとても深かったのだろう。
 そう。
 本当に偶然に、運命の女神がその手を、取ってしまう位には。


「あー、……ええと。どうも、新年明けましておめでとうございます。
今年もどーぞ宜しくね、なんて新年の御挨拶もそこそこで申し訳ないんだけど、ちょっとお願いがあるの」
 黒い髪に添えた花飾り。きっちりと着つけられた、濃い紅色の着物姿で。『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は常の様に、持参した資料を差し出した。
「あんたら、羽子板って分かる? あの、あれよ。木の板と羽根でやる遊び。お正月の定番。……よく知らない、って子も居るのかしらねぇ。
 あたしも、やった事は無いんだけどさ。実際問題やる子、少なくなってるみたいで。……その恨みかどうかは知らないんだけど、とある神社に仕舞われていた羽子板が、この新年早々、革醒しちゃったのよ」
 ずっとずっと倉庫の中。恨みつらみもあったのだろうか。まぁ羽子板ではないのでその気持ちは分からないが。
 とにかく危ないらしい。どれくらい危ないかって言うと、あの板が凄まじい速度で往復ビンタしてきたり、墨かけられたり、羽根が執拗に擽ってきたりするらしい。地味にうざい。
「……ま、使ってあげれば無事にこう、普通の羽子板に戻ってくれるんだけどさ。やっぱりこう、一般人には危ないでしょ。
 だからあんたらの出番って訳。今からあたしと一緒に、件の神社に来てちょうだい。で、羽子板すんの。異論は認めない」
 因みにお正月っぽい恰好じゃないと羽子板さんは許してくれないらしい。窮屈そうに着物の襟もとを弄りながら、フォーチュナはぎこちなく立ち上がる。
「着物は無いなら、狩生サンが手配してくれるからそれ着て。……まぁ、適当に遊んで、ついでにお参りでもしましょう。じゃ、どーぞ宜しく」
 ひらひら。手を振って。玄関で待ってる、なんて言葉と共にフォーチュナはブリーフィングルームから姿を消した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月15日(火)22:30
新年あけましておめでとうございます。麻子です。
タイトルはだいたいしいなSTのせい。
神社に使ってくれてもいいよ。
一緒に遊んでくれてもいいよ。
折角の新年です、一緒に楽しみましょう!

以下詳細。

●ピンナップについて
 当シナリオは『ピンナップシナリオ(β版)』です。リプレイ返却後、その内容に沿う形で
 担当の『ヒワタリ』VCにより参加者+NPC全員の登場する大きなピンナップが作成されます。
 ピンナップの納品時期はリプレイ返却後一ヶ月程が目安になります。
 ※バストアップが無いキャラクターは描写されませんのでご注意下さい。
また服装にこだわりがある場合は必ずプレイングに明記してください。

●場所
何処かの神社及び近くの空き地。
基本的に空き地で羽子板します。休憩も空き地でしましょう。
散々楽しんだらちょっと参拝、とかもいいかもしれません。
縁結びの神社らしいです。私はまつられてません。

●えねみーでーた。
羽子板です。
最初はものすごく怒ってます。マジ怒ってます。
丁重に扱わないとビンタされます。でも、一回握って遊んであげれば大丈夫。
なんか通じ合って、こう、ミラクルな羽子板プレーとか出来るかもしれません。
一日遊んであげれば勝手に元の羽子板に戻ります。

●そのほか
午前中から、夕方ぐらいまで遊びます。
お昼は、狩生さんがお弁当を持たせてくれたらしいです。持ち込みしてくださっても大丈夫です。
メインは羽子板ですが、休憩中についても書いてあると麻子が喜びます。
服装は新年っぽいもので。着物こういうの着てる!とかは、書いてあればなんとなく描写します。あくまでなんとなくです。

●NPC
月隠・響希(nBNE000225)が同行します。
濃い紅色に、藤の花柄の着物で行くらしいです。羽子板はやったことありません。運動は苦手じゃないらしいです。
何かあればお声かけください。何もなければ空気です。

以上です。
もし、ご縁ありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
月隠・響希 (nBNE000225)
 


■メイン参加者 6人■
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
クロスイージス
ヘクス・ピヨン(BNE002689)
クリミナルスタア
宮代・久嶺(BNE002940)
ホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
マグメイガス
田中 良子(BNE003555)
ホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)



 羽子板とは、羽根つきの道具であり、羽根つきとは至って普通な、バドミントンにも似た日本特有の遊びである。武器ではない。もう一度言う。武器ではない。
 まぁその板の門でぶん殴れば中々なダメージを叩き出すかもしれないが、基本的には非常に安全で可愛らしい遊びである。
 少なくとも、羽子板と言う名の武器を握り締め互いの生死をかけ行うデスゲームではない。多分リベリスタがやってもデスゲームではない。
 まぁそんな前提は置いておくとして。未だ少しだけ寒いお昼前。件の神社前に集まったリベリスタ達は、思い思いに決戦(笑)前の時間を楽しんでいた。
「ふふ、感謝するといいぞ羽子板とやら! この黄昏の魔女であるフレイヤ様が貴様で遊んでやろうというのだ」
 咽び泣いて喜んでも良い。もしくは土下座、ってそもそも羽子板には足も頭も手も無いので土下座する方法がないのだが。
 可愛らしい薔薇模様の着物を揺らして仁王立ち。『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)はそんな事も気にせず高笑いを漏らす。でも実は羽子板って知らない。いや知る訳がない。
 だって、羽子板って、2人で遊ぶものだし。
「我はぼっちだったんだぞ2人で遊ぶもの等知っているわけがないだろういい加減にしろ!」
 首に巻いた柔らかなファーに顔を埋めて、うぐぐ、と言いたげな。そんな顔も可愛いですがちょっと悲しくなりました。そんな彼女に少し笑って。教えてあげる、と手招きしたのは『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)。
 桜の花が可憐な、自前の桜色の着物も大変お似合いな彼女は羽根突きの心得も勿論ばっちり。実家に居た頃は毎年やったなぁ、なんて懐かしさに目を細めて良子を見遣る。
「お母さんがホント上手い上に容赦なくってさ、いつも墨で真っ黒にされたんだよ」
「なに、羽子板とは互いの命を削り合うデスゲームではないのか!」
 違う違う。羽子板、って言う板で、羽根を突いて遊ぶ平和なゲームである。だから死なないよ安心してね。丁寧にルールを教える霧香の表情は何時もよりずっと少女のそれで。目を細めた『導唄』月隠・響希(nBNE000225)へと、かかる声。
「やあ月隠、明けましておめでとう」
「どーも。……袴似合うわね、宇賀神クン」
 水色の袴に、濃い目の青い着物。すっきりと整えたそれは『花縡の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の金髪に良く馴染む。有難う。笑ってから、神社を眺めた。
 如何にも新年と言うに相応しい事件予知だ。良子と霧香の羽子板講座に耳を傾けてながら面白そうに笑う。まぁ、そんな偶然がこうして肩を並べて事件を片付ける偶然を生んだのだけど。
 新鮮だな、なんて目を細めれば、仲良くしてねと笑う声。羽子板教室も終わったのだろう、とりあえずは練習だ、と仕舞い込まれたそれを覗き込んだ。
 うっすらと埃を被ったそれをそっと手に取る。待たせちゃってごめんね、と優しく霧香の手が埃を払えば、羽子板は心なしか嬉しそうにその手に馴染む。その隣でそっと、羽子板に触れたのは『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)。
「……わたくし、初めて羽子板に触れるの」
 仲良くしましょう、と。囁く声はきっと羽子板にも届いたのだろう。抵抗無く掴めたそれを、興味深げに見つめる。バドミントンの様な日本の遊びであるのなら、毎日遊ばれてもおかしくない筈なのだけれど。
 何か、遊ばれない理由でもあるのだろうか。軽く振ってみて首を捻った。結い上げた淡い銀髪が、限りなく白に近い紫の着物が、さらりと揺れる。きっとそれはやってみると分かるかもしれません。
 そんな中で、慎重に。丁寧に。お怒りの女性を扱う様に板を掴んだ遥紀は何とも言えない顔で、その手元を見つめていた。

 <遥紀さん、素敵っ……///

 とか羽子板が囁いた気がする。どきどき☆羽子ちゃんの恋心って感じだろうか。いや怖い。優しく板を手にした遥紀の顔が一瞬引き攣る。何この羽子板怖い。
 何はともあれ。今年はきっと、羽子板にとっては最高の年始になる筈なのだ。だって、今日は目一杯、一緒に遊ぶのだから。


「いくわよ、ヘクス。その眼鏡、ぶち抜いてやるわ、覚悟なさい」
「ぶち抜いてもらってもいいですが、その時は久嶺の目がぶち抜かれてますよ」
 和やかな空気の中で何だか火花が散っている、一角。テニスコートの様に引かれた線の中に立つ『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)はびし、とその板をヘクスに突きつける。
 羽子板とは仲良しらしい。心行くまで楽しんでやる、と言う男気溢れる宣言に羽子板さんも胸をときめかせたのだろうか。
 この日の為に綿密に組んだルールは簡単。コートを内を出たらアウト。失点毎に墨でいたずら書きを受ける。戦闘不能になったら敗北、フェイト使用しても敗北。
 いやいやまずそんな過激な羽子板バトルはしたらいけないと言うかどうしたらそんなバトルになるのか誰か教えてください。不穏というか明らかに死闘の気配を漂わせる第一コートで、先に羽根を打つのは『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)。
 勿論、狙うのは勝利……否、如何に最悪のタイミングで失点をさせられるか。何時も通りの無表情も、黒い振袖にはよく似合うのに、考えている事が不穏過ぎます。
 かつん、と。軽い音を立てて飛ぶ羽根。とりあえずは普通に開始されたらしい。とりあえずは、だ。
「……これは難しいわね、思った以上だわ」
 白熱する激闘を横目に。練習を開始した残りのメンバーも割と大変な事になっていた。霧香や遥紀の突いた羽根を打ち返すティアリアは、思った以上に上手く跳ねない羽根に微かに目を細めた。
 面積も小さく、着物は動きづらい。こんな条件が付けば、確かに子供に遊ばれなくなったりするのだろうか。けれど、練習がてら身体を動かすのは楽しくて。自然と表情が緩む。
「応えよ、我が忠実なる羽子板! 我に勝利を示せぇ!」
「いやいやいや危ない、危ないから、もうちょっと優しく!」
 その隣で高らかに叫ばれる、なんか壮大な詠唱(?)。ほぼ同時に振りぬかれた良子の板の勢いの良さに、横に立つフォーチュナが明らかに2、3歩後退った。幾ら武器じゃなくても流石にリベリスタの全力が当たるとか、怖いです。
 けれど、その勢いも何時まで持つのだろうか。自称もやしっ子は伊達ではない。既に疲れ始めて居る良子に微笑ましげに眼を細めた響希に、一度練習を止めた霧香が近寄り首を傾げる。
「いつも送り出して貰ってる。心配かけて……る、よね。あはは……」 
「本当よ。まぁ、頼んでるあたしが言えた事じゃないけど、自分は大事にしなさい」
 順序は守るものよ。視線が下がったのは一瞬で、すぐに薄く笑った響希は華奢な少女の背を叩いた。そろそろやってみよう、そう笑って輪の中に戻っていく。

「クロスファイアートルネードスペシャル!」
 到底取れない羽根も何て事無く。ふわり、軽やかに宙に浮いた身体が久嶺の手を届かせ羽根を打ち上げる。其処にすかさず返される、ヘクスのスマッシュ(?)。
 それも素早く打ち返して。相変わらず何て言うか此処だけ戦場? みたいなヘクス久嶺戦は熾烈を極めていた。
 リベリスタの身体能力を生かし過ぎた、なんかもう超次元羽子板。鳴りやまない羽根と板のぶつかる音。矢絣の和服が、風に舞う。ふわり、と上がったチャンス羽根。
 力一杯振りかぶって。勝利を確信した久嶺が笑みを浮かべる。
「オラァ、くたばれぇ!」
「……羽子板さん、そっちの人は今からあなたを思いっきり地面にぶつけて壊そうとしているようですがいかがしますか」 
 <えっやめてこわれちゃう!
 なんて返事か聞こえたかどうかは謎であるが。疑心暗鬼に陥ったらしい羽子板が一瞬、動きを止める。微かに崩れたフォームは、辛うじて羽根を打ち返すに留まって。
 半ば反則の気もするが、そのまま死角へと打ち返したヘクスは、墨だらけになった眼鏡と顔で満足げに笑みを浮かべた。嗚呼、至福。久嶺のこんな顔が見られただけで大変満足である。
「そ、それ反則じゃないの!」
「いいえ、ルールは守りましたよ。……さて、では失礼して」
 たっぷり墨を付けた筆をそのまま勢いよく耳へ。一気に跳ねた肩など気にせずに。こちょこちょ。只管こちょこちょ。耳を真っ黒にしながら筆を動かすヘクスの満足げな表情は、まさにサディストです本当に有難う御座います。
「悪戯書き中ですよ? ほら、ほら」
 どこか楽しげな声に籠る嗜虐心、すごいです。
 かつん、かつん。比較的平和に聞こえる羽根の音。けれどそれは、表向きだけの話である。やはり流石リベリスタ。人数が多いから、と円陣でやってみているものの。
「……ふっふっふ、あたしは子供の頃から家を出るまで毎年遊んでたからね」
 そう簡単に負けやしない。羽根を射程に収めた霧香の板が構えられる。さながら抜刀術の様に、握った板が閃いた。心なしか羽子板さんもノリノリなのだろう。ふわり、舞い散る桜色。
 そう、まるで美しく散りゆく桜の様に。儚くも人を魅了する幻影は、共に打たれた羽根が落ちた事にさえ気づかせない。――必殺、櫻散羽。格好良すぎて羽子板さんも吃驚の、霧香の奥義である。
 ふふん、と言いたげに笑った彼女が筆を取る。羽根の近くの人、遥紀の頬に描かれる猫の髭。皆で覗き込んで、似合う、と声を上げて笑った。
 再び打ち上げられた羽根。まだまだ余裕な面々に対して、既に疲れ切った顔の響希の頬には、ティアリアが描いた猫ひげが既にばっちり残っていた。
「意地悪しない、って言ったじゃない……!」
「あら、羽子板が意地悪しただけよ?」
 くすくす。楽しげに笑うティアリアももう手慣れたもので。かつん、と上がる羽根を、捉えるのは良子。じゃなくてフレイヤ様。
「黄昏奥義! ムーンサルト羽子返しぃ!」
 ぜーはー言ってるのはこの際気にしない事にしよう。とにかく、フレイヤ様の考えたさいきょうのひっさつわざが炸裂したのだ。勢いよく打ちあがったそれは、もう誰も取れない。そう、思ったのだが。
 ふわり、と舞い上がる影。白い羽根が舞い落ちる。太陽を背に、振りかぶられた遥紀の羽子板。
「唸れ、天空稲妻落し!」
 肉体派ではなくとも、高所から打ち下ろされるそれの威力は桁違い。羽根の向かう先に居た響希が辛うじてそれを避けたのは彼女の中の動物の因子のお陰だろう。
 良子以上に疲れ切った顔をした響希が、地面に少しめり込んだ気のする羽根を見つめた。なにこれ、怖い。
「今、久し振りに羽根のある種族で良かったと思った」
「は、羽根はずるいと思うのよ……嗚呼、び、びっくりした」
 満足げに笑う青年への抗議に、ならば同じ条件を、と齎される空舞う力。どうせ人避けはされているのだから、こんな楽しみ方も悪くは無いだろう。けれど、その前に。
 たっぷりと、墨を付けた筆が頬に触れる。擽ったそうに目を眇めた響希の頬に、綴られる文字は『妹分命』に『恋愛至上主義』。書いてある文字を確認して、遥紀が怒られるのはこの後の話である。


 気付けば、もうとっくにお昼は過ぎていた。楽しみ過ぎて疲れたりもしたけれど、とりあえず。食事にしよう、と、腰を落ち着ける。
 顔についた墨は確り拭って。並べられたのは、これ以上ない程豪華なお節料理だった。
 青年が持たせたらしい、無難な正月料理の数々に、遥紀の持参した海老の姿焼き、黒豆、栗きんとん、数の子。お汁粉もばっちり魔法瓶に。ティアリアも、練習中だと言いながら綺麗に整えられたお節を並べる。
 飲み物は、久嶺が用意していた。お汁粉は勿論甘酒も。振舞いながら、自分でも一杯。甘さと温かさに満足の一息。
「やっぱ運動した後の一杯は格別ね!」
 機嫌良さげに。違うコップに甘酒を注いで、響希へと差し出す。折角だから余らせるのは勿体無い。そんな言葉に、嬉しそうに受け取った女の姿を、じっくり眺めて。大きく頷いた。
「響希の着物、似合ってるわね、綺麗だわ! やっぱ日本人には和服が一番よね?」
「ありがと、遅い成人式って感じ。……久嶺チャンは着慣れてるのね、可愛い」
 微笑ましげに細められる目に、当然よ、と胸を張って見せる。そんな彼女の視線が向くのは、大人しくお汁粉を口にするヘクスの姿。黒い振袖は、自分が選んでやったもので。
 勿論似合って当然なのだけれど。少し視線を彷徨わせて、苦々しげに眉を寄せて見せる。
「ヘクスも……まぁ、似合ってるわよ」
「おや、久嶺から似合ってるなんて聞くとは思いませんでしたが……」
 当然だけどね、と念を押せば、分かっていますよ、と面白そうな声。嗚呼何処までも気に食わない、と言わんばかりにお節を手に取る。色とりどり、目移りしてしまいそうなそれを見つめる少女たちに、遥紀は優しく目を細めた。
 イケメンで料理が上手いだなんて隙が無い、とか言ってますが、遥紀自身もその枠に当てはまると思うのは恐らく皆同じだろう。現に、彼の作った黒豆は飛ぶ様に無くなっている。
「いっぱい食べるぞ! 野菜以外をな!」
「ほら、ちゃんと食べないと駄目だよ。美味しいから大丈夫」
 茄子とか、ほうれん草とか。食べられないと首を振る良子の為に。見目良く皿に料理を盛ってやれば、動き回って空になったお腹を改めて感じた。こんなに綺麗だし、美味しいかもしれない。興味深げに料理と向き合う少女に向けられる優しい眼差し。
 それを見遣って。霧香はやはり、微笑ましげに小さく笑った。その姿はまるで保護者の様で。そう言えば幼い子供がいるらしい遥紀だからこその、優しい雰囲気なのだろうか。
「ん、ティアリアさんの和食も美味しいね!」
「料理は練習中だから……そう言って貰えると嬉しいわ」
 青年のものも、遥紀のものもしっかり味わう。参考しなくちゃ、なんて箸を進める。少しだけ肌寒く、けれど柔らかな日差しが差す境内は静かで穏やかで。誰ともなくそっと、息をついた

 こっそりと。先に食事を抜け出していたヘクスは一人、静かに手を合わせていた。
 神社の神様に、願い事。誰にも聞かれたくないから、と先に出た彼女は静かに、目の前の御社を見上げる。
「……宮代家の人達と末長く一緒に居られますように」
 今日共に来た久嶺と、彼女の姉。2人だけでいいから。どうかどうか。この縁が途切れない様に、と。願う気持ちを込めて、もう一度手を合わせる。
 背後から聞こえる声に、視線を向けた。食事を終えたのだろう、お参りに訪れた面々にさりげなく、ヘクスも戻っていく。
「おみくじ……まぁ、見るまでも無く良いに決まっているだろう!」
 引いたおみくじを開けないフレイヤ様、流石です。きっと神社の神様も大吉をくれるんじゃないでしょうか。その横では、次々にお参りに立つリベリスタ達の姿。
「いつまでも宗一君と一緒にいられますように……」
 小さく。囁くのは霧香。縁結びはもう出来たから。願うのはただ、その先が繋がる事だけ。遥紀の願いも、それにどこか似ていて。そっと、手を合わせる。
 娘と、息子。友人たち。そして、大事な大事な、彼の事。健康を。幸福を。そして、ただ隣に在れる事を。願って、少しだけ笑った。
「……アークに来てから、大切な者が増えたんだな」
 出会いがあって、別れがあって。それは、人を緩やかに変えていく。手を合わせる久嶺の心を占めるのは、何時だって大好きな姉の事。いっそ結ばれちゃえば、何て願ってから。
 ちらり、と後ろを振り返った。眼鏡越しに目の合う友人に慌てて前に向き直る。
「あと、ついでに」
 ヘクスとの縁も切れない様に。言葉には出さなかった。死んでも、言ってなんかやらない。確りと祈って、勝負の続きをするわよ、とその手はヘクスの腕を掴む。
 共に持ってきた羽子板は、気付けばもう大人しくなっていた。これだけ楽しく遊んで貰えたのだ、きっと満足したのだろう。何処となく、温かいそれを撫でて。
 もう少し遊ぼう、と戻っていく仲間を見遣りながら。ティアリアは静かに、その目を伏せる。
「……今年もよい出会いがありますように」
 囁いて、満足げに微笑んだ。嗚呼、来年はあの子も連れて来よう。きっと、お正月も知らないだろう。どんな着物が似合うだろうか、ぼんやり考えながら。
 まだもう少しだけ続く、正月の風物詩の中へと、その足は戻っていった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。

和やか(?)な雰囲気で、書いている此方の心も和やかになりました。楽しかったです。超次元羽子板!
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
今年もまた、ご縁がありましたら宜しくお願い致します。

ご参加有難うございました!